響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次 作:水代
そして、だからこそ、彼女は気づかなかったのだ。
自身の隣に、そして後ろにいる彼女たちに。
「………………本当に良いんだな? 雷」
そんな自身の問いに、雷が頷く。
「ええ、お願いするわ、司令官」
正直、自身で言っておいて、本当にこれで良いのか俺自身よく分からない。
ただこのままでは良くない、と言うのは思っているし。
けれど同時に、このままにしておいたほうが良い、とも思っている。
結局、どっちが良いかなんてこと、分かったものではないのだ。
結果は推して知るべし、なんて言うが、結果なんてそう簡単に推測できるならば誰も苦労はしない。
やってみるまで分からない、なんて言うが、そんな無責任な行動はできるような安易な案件でも無い。
それでも、今の雷が良いと言うならば、自分自身でそう言ったのならば。
「俺はお前の意思を尊重しよう」
少なくとも、この件に関しては、苦言を呈することはあっても勝手な真似だけはしまい、と決めているのだから。
だからこそ、雷が自分から言い出したことは意外だった。
「なら…………送るぞ? 中将殿に」
そんな自身の問いに雷は、はっきりと頷いた。
* * *
コンコン、と部屋の扉をノックされる。
時刻はすでに深夜十一時を回っているくらいの時刻。
暁か、雷か、それとも電か。
さて、誰が来たのだろうか、そう考えつつ、どうぞ、と入室を促し…………。
「入るぞ」
その声に響の動きが止まる。
姉妹たちの誰のものでも無い、男性の声。
それは即ち、司令官の声以外にあり得なかった。
「司令……官……?」
「なんだ、たった一週間で俺の顔を見忘れたか?」
冗談めかし、司令官がそんなことを言うが、そんなはずが無い。
例えどれだけ時間が経っても自分が司令官の顔を忘れるはずが無い。
一週間ぶりに見たその姿は、けれど自身の記憶の中にあるその姿と何も変わらない。
そのことに、懐かしさを覚え、同時にどこか安堵している自分がいることに気づく。
とくん、と心臓が鼓動を打つ。
その意味すらまだ分からないままに。
「……………………えっと…………久しぶり、かな?」
「ああ、一週間ぶりだな」
どうしてだろう。
久しぶりの司令官との会話なのに。
どうしてなのだろう。
こんなにも緊張してしまうのは。
最後に会った時のやり取りのせいだろうか、そうも思ったが。
けれど、どこか違う気がする。
それが一体何なのかも分からないけれど。
「…………ああ、うん。やっぱり…………久しぶりに話せて嬉しいよ、司令官」
「そうだな…………俺はまあ…………いや、俺もだよ」
司令官と向き合っていると、自然とそれを嬉しく感じる自分がいる。
そして司令官もそうだと言ってくれたことを歓喜する自分がいる。
「……………………」
けれど同時に、緊張の色が強くなる。
どうしてだろう、何を話せばいいのか分からなくなる。
司令官との会話は自身にとっての日常だったからこそ、今更こうして意識してしまうと何を話せばいいのか分からなくなる。
そしてそんな自身の戸惑いを他所に、司令官が口を開く。
「謹慎から一週間だ…………何か答えは出たか?」
その言葉に意識が裂かれると、自然と緊張は解けたが、今度は別の意味で緊張してしまう。
“分からないか? もしこのままずっと分からないのなら――――――――”
「
そんな自身の言葉に、司令官がふっと笑って続ける。
「そうか、なら一つだけ質問だ」
響、ずっと昔からの自身の名を呼んで。
「“お前は一体何を守りたいんだ?”」
そんな、司令官の言葉に、一瞬だけ考えてみて。
答えは一つだけだった。
「私は――――――――」
姉妹を守りたかった。
ずっと過去の後悔の記憶を抱えたまま生まれた
その思いが強すぎて、ずっと忘れていたことがある。
ある意味、自分だって電のことをとやかく言えない。
ずっとずっと夢を見ながら生きてきたようなものだ、生まれたその時から、
夢から覚めたのはいつのことだっただろうか。
“家族を助けることができるくらい強くなりたい”
きっと暁のその一言が切欠だった。
自身と同じような言葉、同じような思い、同じような決意だと思っていた。
けれどどこか違和感を覚える。どちらに、そう言われれば。
自分自身の決意に。
比較してみて、初めて自分の言葉の違和感に気づいた。
けれど何が違うのか、何がおかしいのか、どこに違和感を感じているのかが分からない。
考えて、考えて、考えて……………………そこに雷がやってきた。
“恨むわけ無いじゃない。許さないわけ無いじゃない、だって”
ずっと欲しかった言葉。
”家族じゃない“
そこに答えはあった。
* * *
「私は――――――――家族を、ううん、仲間を守りたい、いや、守ると決めたんだ」
響が…………否、ヴェールヌイが、ぽつりとそう呟いた。
「私はずっと過去を見ていた」
生まれた時から、ずっとずっと。覚めることの無い
“もし生まれ直せるのなら、今度こそ――――”
それは、俺と初めてあった時からずっと抱いていた願い。
けれどそれを、俺はずっと雷を守れなかった後悔、つまり過去の延長だと思っていた。
けれども、それが違うことに気づいた、気づいてしまった。
ヴェルは、今いる姉妹を見ていない。
ただ、暁と言う艦娘に、雷と言う艦娘に、電と言う艦娘に
守れなかったかつての姉妹艦を重ねているだけだったのだ。
「目の前にいる家族のことさえ、見ていなかったんだ」
その弊害と言うべきなのだろう、艦隊行動に置いて…………否、戦う兵士として致命的な問題が見つかった。
それこそが俺がヴェルに戦うな、と言った理由であり、謹慎までさせた理由である。
つまるところ。
「お前は、同じ艦隊の仲間を見ていない、だからこそ、そこに信頼も無い」
同じ艦隊の仲間をまるで信じていないのだ。
旗艦ともなれば、その仲間を纏め、生かして返すのが役割のはずなのに、仲間をまるで信じず、全て自分でやろうとする。
「そんなやつ、戦列に加えれるわけ無いだろ」
ヴェルなら分かっていたはずだ、駆逐艦二隻程度ならば暁と電の練度があれば十分勝てると。
ヴェルなら分かっていたはずだ、今自分が無理をする場面では無いと。
ヴェルなら分かっていたはずだ、ここでまた出撃すれば今度こそ撃沈する可能性だってあるのだと。
ヴェルなら分かっていたはずだ、そんなことになればこの鎮守府の戦力が一気に落ちることを。
分かっていて、それでも尚、出撃しようとする。
それはつまり、暁のことも、電のことも信じていないからだ。
「仲間のことすら信じられないやつが
元の意味が違っていようと、それでも響はこの場所で、この鎮守府で、確かに誓ったのだ。
今度こそ守ってみせると、その信頼の名に誓って。
「あの日の誓いは思い出せたか?」
そんな自身に問いに、ヴェルが苦笑して。
「
そう告げる。その眼は確かな決意があり、だからこそ、俺も苦笑する。
「そうか、なら出撃の準備をしろ。またこの前の敵の残党がやってきたらしいぞ」
そんな自身の言葉に、一瞬だけ眼をぱちくりと瞬かせ…………。
「
珍しく笑みを浮かべた。
* * *
一週間ぶりの外。冬に差し掛かっているからか、夜の冷たい空気に背筋を振るわせる。
かつてもっと寒い国に行ったことのある記憶だってあるが、それにしたって寒いものは寒いのだから仕方が無い。
けれど、そんな寒さも正直言えばそれほど気になっていない。
むしろ、外気の冷たさと反比例するかのように、気分は高揚していた。
久々に背負う艤装の重さがどこか心地よい。
「それじゃあ行ってくるよ、司令官」
出撃準備完了と、後ろの司令官にそう声をかける、と。
「ああ、ヴェルちょっといいか」
何か用か、と司令官のほうを振り向いて。
「ほれ、寒いだろ、これ着けてけ」
そう言って首元に巻きつけられたのは…………。
「マフラーかい?」
「ああ、暁が寒い寒い言ってたからな、試しに四人分取り寄せてみた、どうだ?」
そう言ってマフラーを巻いてくれる司令官、ただマフラーを巻けるくらいの距離だからか、その顔がすぐ目の前にあることに、僅かに頬が暑くなる。
「うん、暖かいよ、司令官、
不思議と暑くなる頬に手を当てつつ、冷えたのだろうか、なんて考えて。
ぎゅっと、体を締め付けられる圧力に、眼を見開く。
「司令……官……?」
司令官が自身を抱きしめているのだと気づくのに、数秒かかる。
そうして、気づくと同時に、動けなくなる。
どうしてだろう、分からないけれど。
何故か体が強張る。
怖がっている? 否、そんなことは無い。
だって相手は司令官なのに、どうして怖がる必要がある。
だったら、どうして自身は…………。
「なあ、ヴェル」
そんな自身の葛藤を他所に、司令官がそっと呟く。
「頼むから、もう二度と自分の身を投げ捨てるような真似はしないでくれ」
耳元で囁かれる言葉に、体が萎縮する…………けれども、それもすぐに無くなった。
「死ぬかもしれない場所にお前たちを送り込んでる俺が言う言葉じゃないかもしれない」
だって、その言葉は、その声は。
「司令官である以上、お前たちを戦わせてる以上、いつかは起きることと覚悟するべきなのかもしれない」
震えていて。
「それでも、俺は」
悲しげで。
「――――――――お前がいなくなるなんて、絶対に嫌なんだよ」
今にも、泣きそうだったから。
「だから、なあ…………ヴェル、頼むから」
だから、そう、それはほとんど無意識だった。
「お願いだから………………」
その先の言葉を司令官が紡ぐよりも先に。
「っ!?」
「……………………」
自身の唇を重ねて黙らせた。
たっぷりと、十秒近く経ってから、司令官から離れる。
幸い今の衝撃で、腕の力は緩んでいたので簡単だった。
そうして、今尚軽く放心状態の司令官に向かって告げる。
「約束しよう司令官」
昔のように。
「私は必ず司令官のところへ帰ってくる」
かつてあなたが私にしてくれたみたいに。
「何があろうとも」
今度は、私から。
「絶対に、だ」
そうして身を翻し。
「それじゃあ、行ってくるよ」
暗い夜の海へと飛び出した。
* * *
「提督、提督宛に連絡が来てるわよ」
朝から元気な目の前の少女から渡されたファックス用紙。
机の上に積まれた書類を一部どかしてスペースを作ると、用紙に目を通し、さらにそこに赤ペンで書き込んでいく。
一通り目を通し、赤ペンを入れたところで再度目の前の少女、島風へと用紙を渡す。
「番号間違えないようにね」
「わかってまーす」
ファックスを操作している島風から視線を手元に戻し、再度書類に目を通していく。
「…………ん? 彼のところか」
最近建造をしたばかりの彼のところの報告書。
建造結果には驚かされはした、だがそれでも。
「別の子…………なんだよねえ」
駆逐艦雷。かつての自分の秘書艦と同じ艦を建造したと言うのは奇妙な縁だと思う。
否、それともあそこには響、暁、電の三人がいる。存外それは必然だったのかもしれない。
そこに思うところが無いわけでもない。
だがそれでも、彼のところにいる彼女は、自分の知る彼女とは別人なのだと分かっているから。
と、その時。
「提督」
ふと呼ばれたので、視線を上げると、机の前に島風が立っていた。
「送ってくれた?」
そんな自身の言葉にも答えることなく、ただ一枚のファックス用紙をこちらに渡して。
「ちょっと出てくるから」
そういい残して、部屋を飛び出していく。
「え…………え? 一体何さ?」
わけが分からず事態についていけない自身だったが、取り合えず島風の渡してきたファックス用紙を目をやって。
「…………………………え?」
言葉を失くした。
そこに書いてあった言葉の意味を、一瞬頭が理解を拒否した。
だってそうではないか、まだ性質の悪い悪戯だと言われたほうが納得できる。
けれど、彼がそんな無意味なことをするだろうか?
とてもそうは思えない。
だとすればこれが事実だと言うのか?
“某月某日 フタヒトマルマル時 我ガ最後ノ場所ニテ待ツ”
言うなればそれは、招待状だ。
差出人は…………駆逐艦雷。
「……………………冗談、でしょ」
呟いた言葉は、けれど執務室の沈黙の中に消え去っていった。
ずっきゅーん、って効果音が欲しいところ。
と言うわけで三十九話目投稿完了。
あと一話にて本編完結となります(多分)。
来週試験だから、今週中に投稿したいところ。まあ今日は実技テストあるので、書くとしたら夜だけど。
そして今更な話なんですけど、中将殿の名前は火野江火々と言いまして、作者の書いてる別の作品、オリ主スレッドの第二回スレ主…………の転生云々の設定を抜いたキャラです。
雷ちゃん元秘書だったり、現秘書島風だったりとかはその辺から来た設定ですね。
少しだけ解説すると、元々は主人公に難題を吹っかけてほのぼのしたまま島から動かない主人公たちを動かす、つまり物語の歯車的存在でした。
第五話あたりまではまだこの物語二種類のルートがあって、ほのぼのルートとシリアスルートの二つに分岐し、そのどちらでも中将殿の設定は変わりました。
ほのぼのルートだと悪役続行で、ほのぼのしてる二人を適度にかき回す狂言回し役。
シリアスルートだと「実は全部主人公を成長させるためのフラグだったんだよ」「ナ、ナンダッテー」と言うありがた迷惑なやつ。
で、実際に一章終わってみると、これどっちのルートもちょいちょい統合して第三ルート開拓してやれとなって、で、その時に「タイトルこれだけど、一時的に響がいなくなるなら、次どうしよう? あ、なら暁連れてこよう」みたいな感じで、第二章暁ちゃんメインが決定。そこから芋づる式で「なら三章は電、雷は死んでるから四章で追悼編みたいなにするか」みたいな感じで全四部構成が決定。まあ途中途中でちょいちょい予定を変えながら今までやってきました。
さて、じゃあここまでのルートの中将殿の役割を言うと、“終わった物語の主人公”です。
つまり、元とは言え中将殿も主人公格なわけですよ。
そしてここまで書いといて何が言いたいのかというと。
次回、中将&雷メインです(長い
主人公? えっと、誰でしたっけ? 今回ちゅーされてたリア充? 呪われればいいと思うよ(