響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次 作:水代
撃ち出されたゴム弾を半身を捻り避ける、と同時に右足を大きく開きその距離を縮める。
右足に体を引き寄せると同時に右腕を下から弧を描くように伸ばしその腕を掴む。
「っあ」
「取った」
掴んだ腕を引く、と同時に体勢を低くしその懐へと潜り込む。
伸ばした左腕をその華奢な腰に添えて…………。
「よっと」
「う、わぁぁ」
ヴェルを軽々と投げる、その体が空中で回転し、背から地面に叩きつけられる直前に掴んだままの腕を引き、その威力を大幅に殺す。
「まだまだ甘いな」
「あいたた…………なんで艤装をつけた
あまり他の鎮守府では行われていないことではあるが。
うちの鎮守府では艦娘の訓練と言うのをやっている。演習ではなく、訓練である。
まあ他の鎮守府では実践こそが最大の訓練、みたいな感じでやってる、と言うか訓練をしているほどの暇が無い、というのが実態なのかもしれないが、うちの鎮守府は滅多に出撃など無い上に、駆逐艦が一人しかいないと言う有様である。必然的にそのたった一人であるヴェールヌイが出撃することになるので、実践で覚えろ、なんて無茶は言えない。何せヴェールヌイしか戦えないのだから。どうやっても慎重になってしまうのも無理は無いだろう。
だからこそ、時折こうして訓練の時間を設ける。射撃訓練や機動訓練ならヴェールヌイ一人でもできるが、戦闘訓練となると相手が必要になる。
演習相手にすら事欠く離島の鎮守府である、当然ならまともな相手がいるはずもなく、苦肉の策で始めたのが提督である俺とヴェールヌイの格闘中心の模擬戦闘である。
最低限の装備だけ持って艦娘としての力を持たせ、さすがに連装砲を使われると死ぬのでゴム弾を装填した拳銃を代わりに持たせた実践形式の訓練だ。
艦隊決戦、などと言っても海上で戦っているのは人型なのだ、体の動かし方、咄嗟の状況での動き方などを教えるこの訓練は意外と役に立つとはヴェールヌイの言だった。
「まあ動きが素人だからな、いくら身体能力が劣ってるからって、体術だけなら負けねえよ」
「
数秒考える、そして考え出した答えは。
「
そんな俺の答えに、ヴェルが少しだけ表情を変える。
「提督の…………父親? 初めて聞いたけれど、どんな人だったんだい?」
「ふむ…………あのクソ親父のことか。どんな人か、って言われたら」
無茶苦茶な人だった。
親父を知る人知る人全員がそう言った。
海軍南方総司令、二十年ほど前にできたばかりのやっつけ職ではあるが、この国の南の海域全域を守る提督たちの頂点、それが俺の親父の役職だった。今の俺の上司である中将殿も、昔は俺の親父の部下…………それも側近だったらしい。
霧中の決戦。親父のやった業績の一つにそれがある。三十九と言う異常な数の深海棲艦を配下の提督三人を引き連れ計二十四の連合艦隊で打ち破った。十五も数で上回られた戦力差でありながらも勝利を拾うだけでなく、一隻も轟沈させなかったその最大の理由は、霧の中で戦ったことにあるとされる。
自ら率いる駆逐艦群で霧の中で敵へと砲撃、敵を霧の中へとおびき寄せ、霧の外から配下に半包囲させた戦艦群で敵を殲滅する。
無茶苦茶だ。作戦とも呼べない、こんなもの、ただの特攻だ。
だが事前の海域調査、空母群による当日の綿密な下見、そして最新鋭の電探を用いた正確無比な砲撃により、それを成したとされる。
生きた伝説。なるほど、業績だけ聞けばたしかにそう呼ばれるだけのことはある。
俺の覚えている親父の姿と言えば、テトラポッドで釣り糸を垂らす昼行灯な背中だった。
『いいか、坊主』
自分の息子の名前すらほとんど呼ばない。
『海はこんなにもでっけえのに』
父親らしいことなんて、ほとんどされたことも無い。
『俺たち人間はこんなにも小せえよ』
最後の最後まで母さんに心配かけっぱなしで。
『だからさ、お前は』
死んじまった。
『この海に負けないくらいでっかい男になれよ?』
ただの、クソ親父だ。
「どんな人か、って言われたら…………ただのロクデナシだな」
「ロクデナシ…………かい?」
「ああ、ろくでもない、本当に…………ろくでもないやつだったよ」
今でもそう思っている、ろくでもない親父だった、と。
それと同時に、尊敬もしている。
「ああ、でも」
そう、今の自分ではひっくり返ったって真似できない。
「とんでも無いやつだったよ」
とんでも無いやつだった、と。
* * *
午後からは久しぶりに埠頭に座って、釣り糸を垂らしていた。
親父の話をしたせいだろうか、無性に釣りがしたかった。
「で、なんでお前までいるんだ?」
「いけないかな?」
隣に座るヴェールヌイを見てそう呟くと、膝に開いた本から視線を移すことも無くそう答える。
「はあ…………勝手にすればいい」
「じゃあ勝手にさせてもらうよ」
服と同じ真っ白な帽子をしっかりと被り直し、ヴェルがそう言って本のページを捲る。
「………………………………」
「………………………………」
そうして生まれたのは沈黙。俺は黙々と釣り竿をくい、くい、と動かし、ヴェルは黙々と本に書かれた文字を視線で追いページを捲る。
一体どれだけの時間そうしていたのだろうか、五分か十分か、それとも一時間か。
静寂を破ったのは俺でもヴェルでも無かった。
くい、くい…………と竿を引っ張る力。
かかった、そう気づいた瞬間、竿を引き上げる。
リールなんて便利なものはついていないので、完全に自力である。
ばしゃばしゃと海面を叩く水の音。
糸が切れないように時に力を抜き、時に引き、それを繰り返して徐々に魚を追い詰めていく。
そして。
「…………
バケツに釣った魚を入れるとそれを見ていたヴェルがそう呟く。
本から視線を外し、興味深そうにバケツの中で泳ぐ魚を見る。
「珍しいか?」
そう尋ねると、一つ頷く。
「潜水艦ならともかく、水上艦は基本的に海の中なんて見ることは無いからね。生きた魚を間近で見たのは初めてだよ」
まあいつも鎮守府にいるし、海に出てもそれは出撃の時なので優雅に海を眺めている余裕も無いだろう。
街に出るわけでもなければ、水族館などの娯楽施設など行ったことも無いだろう。
そう考えれば確かに珍しいのかもしれない、こう言ったものは。
「ヴェルもやってみるか? 釣り」
そう提案したのは、ほんの気まぐれであった。
恐らくやったことは無いだろうし、偶にはそう言う体験をしてみるのも悪くないのでは、そんな風に思っただけ。
けれど、俺のそんな言葉にヴェルが目をまん丸にして。
「………………そうだね、やってみたい、かな?」
そう言ってはにかんだ。
* * *
駆逐艦ヴェールヌイ。
それが自身を示す名前、標識だった。
深海棲艦を倒すために建造された艦娘…………兵器。
それは自身の役割…………
同時に守り抜くこと、仲間を、居場所を、今度こそ守り抜くこと。
それが自身が自身に課した
けれども、今の自分は迷っている。
自分自身を兵器だと認識していたからこそ。
兵器としての自身よりも、人としての自身を必要とするこの鎮守府に就いて。
守る仲間もいない、居場所だってそう簡単に無くなったりしない。
だからこそ、揺らいでいる。
このまま兵器でいる必要があるのか。
そう思ってしまうのは結局。
兵器である自分が嫌だから、なのだろう。
鎮守府に来て本ばかり読んでいるのは、戦う以外の意味を自身に見出すためでもあると、司令官は知らないのだろう。
とんだ欠陥兵器である。戦うことを放棄したいと願っているのだから。
だからこそ、意味を見出したかった。
私たちが戦うこと以外に存在する意味。
存在しても良い理由。
見つけて、言ってやりたかった。
私たちが生きているのは、戦うためだけではない、と。
だから、少しだけ嬉しかった。
「ヴェルもやってみるか? 釣り」
こうして、出撃以外で司令官と共に過ごすことが。
戦わなくても、自分の居場所がちゃんとここにある、そんな風に思えて。
少しだけ…………嬉しかったのだ。
「ねえ司令官」
「なんだ?」
司令官の持ってきた竿を海に向け、垂れた糸の先を見ながら隣に座る司令官に言う。
「ここは良い鎮守府だね」
そんな自身の言葉に、司令官が数秒沈黙し、やがて苦笑いしながら答える。
「
因みに毎日ヴェールヌイと一緒に過ごしてるので、提督も聞きかじり程度にはロシア語呟ける、と言う設定。
久々に艦これ書いたせいで、今一キャラがつかめてない気がする。