響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次 作:水代
ど、土日は忙しかったから(震え声)
「……………………愛って何さ?」
「決まってるじゃない、ためらわないことよ!」
自信満々に答える雷に、思わず言葉を失う。
「……………………」
「……………………」
ニコニコと笑う雷に、思わず閉口し、そう、とだけ言葉を残し、部屋を去る。
「…………怒ってた、かな?」
朝早くから悪いとは思ったが、けれど雷以外に相談できそうな人物がいないのだから仕方ない。
いや、そもそもどうしてあんな質問になったのだろうか?
もっと最初は別のことだったと思うのだが。
そう考えてみて…………。
「愛って何だろう?」
その疑問に行き着くのだ。
* * *
ことの発端は、まあ言ってしまえばバレンタインと言う西洋の風習の一つだ。
こと日本においては、女性から男性へチョコレートを送ると言う風習で、そう言った知識を本土から取り寄せた雑誌で手に入れた暁がまあ例のごとく触発されて姉妹四人でチョコレートを作ることになったのだが。
「…………………………ふむ」
チョコレートには色々種類があるらしい、それは別にブラックチョコだ、アーモンドチョコだ、ホワイトチョコだなど言う区分ではなく、送る相手に対してどんな意味を込めるか、と言う区分だ。
基本的に好きな相手に贈る愛の告白の意味を持つような本命チョコ。
お世話になった人たちに付き合いや挨拶的な意味で贈る義理チョコ。
友人などに対して友愛を込めて贈る友チョコ、など形は様々である。
なんでも家族に対して贈る家族チョコなるものがあるらしいので、姉妹全員で作ってお互いに交換し合うと言う良く分からないイベントを経験し。
「そう言えば司令官にも贈らないといけないわね」
そんな暁の一言が今回の懊悩の原因とも言える。
一口にチョコを贈る、と言ってもそれぞれが司令官に対して抱いている感情などバラバラであり、だったら全員それぞれ自分で作って贈ればいいじゃないか、と言う話になった。
で、問題は。
「…………これは、何チョコって言うんだろう?」
正直言って、司令官への感情と言うのはあまりにも色々ありすぎて、複雑極まりない。
家族、と言っても自身は頷ける。戦友、と言っても頷けるし、上司と部下、でも正しい。
じゃあ、恋愛感情は?
以前司令官に伝えたことがある。司令官への気持ちを一言で言い表すならば。
「大好きだよ」
それだけは事実だ、絶対だ、司令官にならキスだってできる。
けれど、それが恋愛感情なのか、そう言われると。
「…………分からない」
答えは出ない。
そうして結局、行き着く疑問は。
「愛って何だろう?」
それになるのだ。
* * *
「…………なんで俺に聞くんだ?」
「雷がダメな以上、他に聞く人がいないからね」
朝。執務室へやってきたヴェル。
開口一番の台詞が。
司令官、愛ってなんだい?
である。一体何事かと思いつつ、まあマジメに考えてみる。
「そうだな…………こういうのは自分で、と言いたいところなんだが」
きっとこいつの場合、本気で考え続けて、けれど答えなど出ないのだろう。
「あーそうだな…………一般論というよりは、俺の持論でいいか?」
こくり、とヴェルが頷くのを確認してから続きを語りだす。
「愛ってのは、与えたいと言う感情だと思う」
「与えたい?」
「無性の愛、なんて言葉あるだろ、見返りを求めず、ただ好きな人に自分の持っているものを与えてあげたい、と言う感情。それが愛だと思ってる」
「なんだか、随分と即物的な感情だね」
「与えるものが物質的なものとは限らないだろ…………ちょっと来い」
手招きするとヴェルが素直にやってくる、そうしてやってきたヴェルの頭にそっと手を置き、ゆっくりと撫でていく。
「どうだ?」
「えっと…………何が、だい?」
「こう言う肉体的な接触ってのは、相手への好き嫌いってのが良く現れる、お前、これが嫌か?」
そう問うと、ヴェルが数秒考えて、頭を下げ。
「いや…………嫌じゃない、かな? むしろ安心する……かな……?」
「親がさ、こうやって子供の頭を撫でてやるだろ? 物質的に何か与えてるわけじゃない、けど子供からすれば、親の愛情を確かに感じられる」
「私は子供かい?」
「半ば家族みたいなもんだろ、言葉の綾だよ、許せ」
少しばかり不満そうなヴェルに、悪い悪いと笑いかけながら話を続ける。
「他人の気持ちなんて分からない、けどだからこそ、持てるものは全て与えたい、その中の一つでも相手が喜んでくれたら嬉しい…………愛ってそう言うもんだと俺は思っている」
そうだな――――――――
つまるところ。
「相手に尽くしたい、と言う感情かな?」
それはつまり、俺がずっともらってきた感情。
普通なら出来ないようなこと、けど好きだから、大好きだからできる。
つまりそう言うことだろう。
「だったら」
そんな俺の答えに、納得したのか、できないのか、わからないが、ヴェルが首を傾げ、再度尋ねる。
「恋ってなんだい?」
けれどその答えは、残念ながら持っていなかった。
* * *
「恋、ねえ…………」
ようやく機嫌を直したらしい雷が、少しだけマジメな表情で考える。
「そうね…………たった一人、そう決めた特別、かしら?」
「たった一人の、特別?」
少しだけ困ったように、雷が首を傾げ。
「そうね、恋って言い方が悪いのかしら、良く言うじゃない、恋愛感情なんてただの錯覚って」
きっとあれは本当だと思うの、雷はそう言う。
けれどそれは、今の自身には少なからず影響を及ぼす言葉であり、簡単には鵜呑みに出来ない言葉だ。
「と言っても悪い意味じゃないのよ? ただ恋も愛…………もっと言えば嫌悪だって同じ、特定の人を特別と区別するものでしょ? 嫌よ嫌よも好きのうち、なんて言うけどそれってつまり、本質的には好きも嫌いも同じ、相手を特別視する感情でしょ?」
まあ私は同じだとは思わないけどね、と苦笑して告げる雷に、結局何が言いたいのか、それが分からず首を傾げる。
「そうね、ちょっと回りくどかったけど、要するにね、恋って言うのは、たった一人に定めた特別な人へ向ける愛情だと思ってるわ」
なるほど、と頷く自身に、けれど雷がけどね、と続ける。
「これだと多分、普通の人が言う恋とは違うのよ。だって極論を言えば、私の言い方じゃ家族にだって恋できることになるもの、でもそれって普通の人の言う恋じゃないわよね。その差ってね、単なる勘違いだと思うの」
「勘違い?」
「恋と言う言葉に定着してしまったイメージって言うのかしら? 本来の恋ってもっと自由な感情だと思うのよ」
だから、雷はそう言う。
「だからね、響。あなたにとっての恋を間違えないようにね」
そう言った雷の言葉を、けれど今の自身には理解することはできなかった。
* * *
『それで、私かい?』
電話越しに女、火野江火々は苦笑した。
『そうだね、響には多分、辞書に載っているような言葉じゃ意味がないんだろうね、けどそうするとね、愛とか恋って百人いれば百通りの解釈があるんだ、だからこれから言うのだってその一つだ。キミの解釈はキミが自分で導き出さないといけないから』
だからこれは、その手助けに過ぎない。そう電話の先の彼女は呟き。
『私もね、二人の意見には賛同できるんだ。愛とは与える感情、そうだね、私もその通りだと思う』
そして。
『その上で言うなら、恋とは求める感情だと思う』
与える感情と求める感情、それでは愛と恋とは真逆のものではないのだろうか。
『そうだね、でもね、雷ちゃんが言ってたでしょ? 愛も恋も同じだって、私も同意するよ』
それでは、先ほどの言葉の矛盾は?
『愛とは恋の延長。恋とは愛の前提。これが真逆に見えるのはね、響が一つ忘れてるからさ』
忘れていること?
『恋愛って言うのはね、一人じゃ出来ないんだよ。恋とは求める感情。二人が互いに求め会う、そう言う関係を恋人って言うし、二人がお互いに与え合う…………つまりお互いを分かち合う関係、それを夫婦って言うんだよ。ほら、何も矛盾しちゃいない。矛盾しているようでちゃんと繋がっているのさ』
…………なるほど。
『その上でキミに聞いてみようか。ねえ、響』
なんだい?
『キミは彼を愛しているのかい? それとも恋しているのかい?』
……………………。
……………………………………。
……………………………………………………。
* * *
「司令官」
「…………ん、ああ、お前か。どうした?」
「これ、渡しておくよ」
「…………チョコレート? ああ、バレンタインか。変な質問してくるなとは思ったが、そう言うことか」
「まあそういうことだね」
「それで、色々考えてみたみたいだが、結局これは何チョコになるんだ?」
「…………ふふ、秘密、だよ」
それはつまり、まだこの感情は私の胸の中にしまっておくべきだと思ったからであり。
「ねえ、司令官」
「ん? なんだ?」
それでもいつか、彼に伝えることができればいいと思う。
「大好きだよ」
彼に、届けばいいと思うのだ。
水代・ザ・フィロソフィー。
あくまで水代の考える愛と恋です。
あまり深く考えないでください(