響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次 作:水代
五章二話を期待した方、申し訳ありません。
書いてるのは書いてるのですが、今ちょっと煮詰まっててなかなか難航してる途中です。
そしてそんな最中、ふと仕事中に妄想が降りてきて、思わず勢いでこうやって全く関係ないもの書いてしまいました。
テーマは、響二次を今一話から設定も変えて書き直すならきっとこんな感じ、です。
くるくると手の中でペンを回しながら弄ぶ。
執務室の椅子に背をもたれながら退屈な時間を持て余す。
ぶっちゃけて言えば…………やることが無い。
「あー…………暇だ」
椅子にもたれかかりながら呟く。執務室の窓から見える景色は日々変わることなく、毎日毎日同じ海ばかり見ていい加減これで退屈を紛らわすのも限界だった。
と、そんなことを呟いていると、すぐ傍でぱん、と本を閉じる音がする。
「やれやれ…………さっきから独り言が多いね」
呆れたような表情でこちらを見てくる銀髪の少女。その真っ直ぐこちらを射抜くアイスブルーの瞳に、思わずたじろぎ、視線を反らす。
そんな自身の様子を見て、少女がくすくすと笑う。
「相変わらず見られることになれてないね…………だからいつまで経っても童貞坊やなんだよ」
「うっせえよ…………その口閉じてろ」
口を突いて出る憎まれ口に、けれど少女がくすくすと笑って軽く流す。
と、少女が閉じて膝の上に置いた本を机の上に置き、立ち上がってこちらにやってくる。
思わず身構える自身をあざ笑うかのように、その小さな体躯で自身の膝の上に乗る。
人一人が乗っているなんて思えないほど軽いその体に、僅かに驚きながらその手が自身の頬に伸ばされていくのをただ呆然と見ているばかりで。
「全く…………私ならいつでも相手になってあげるのに」
耳元で囁かれる言葉に、瞬間頭が沸騰しそうなほどに熱くなり…………。
「さっさとどけろこのロリババア!!!」
恥ずかしさを誤魔化すように、部屋中に怒声が鳴り響いた。
* * *
「相変わらず可愛いね」
くすくすと笑いながら鎮守府の廊下を歩くのは、先ほどの銀髪の少女一人。
さすがに少々からかい過ぎたか、と対して反省はしていないが男の怒りが沈静化するまではどこかに行ってようと部屋を出たもののさして用事があるわけでもなく、目的も無くぶらぶらと歩いているのが現状だ。
さて、どこに向おうかと考えている最中、ふととある部屋が目につく。
「ここでいいか」
そうと決めたら早速、とんとん、と扉をノックする。
するとすぐに中からはーい、と声が返ってくる。
「入るよ」
言うと同時にドアノブを回し、扉を開く。
「ん…………あら、いらっしゃい」
中はこじんまりとした部屋となっていた。ベッドが一つ、クローゼットが一つ、机と椅子が一つ。本当にそれだけの部屋に住人は一人となっている。
ただ部屋中に散らばった本のせいであまり広いとは言えない。足の踏み場も無い、と言うほどでも無いが、本棚が無いせいか、そこかしこに本が積み上げられており、一部崩れているものもあって雑多な印象を受ける。
足元に転がった本を一冊拾い上げ、すぐ傍の積み上げられた本の山に置くと、ベッドの上で転がって焼き菓子を咥えながら漫画に目を通す黒い髪の少女を見て、やれやれ、と息を吐いた。
「また散らかってるね」
「んー…………そう?」
少女の言葉に、漫画から視線を外し、部屋を見渡す。
「…………あー、そうね。次の休日に片付けましょうか。もうすぐ本棚も届くし」
「いつから読んでるんだい?」
少女の言葉に、首を傾げ、指を折りながら数えるその姿に、またか、と内心で呟く。
「キミはちゃんと片付けるからあまり言わないけど、それでもあまり散らかすのは良くないよ、暁」
その言葉に、暁、と呼ばれた黒髪の少女は苦笑するようにはにかむ。
「あはは、そうね。気をつけるわ…………と言っても、さすがに暇が多いのよね、ここ」
ここ、つまりこの鎮守府。まあ確かに余暇は多い。出撃など一月に一度あるかどうか、と言うレベルであるし。
すでに練度は極まってしまっているので、本当にやることが無い。
「そう思うでしょ? 響」
暁のその言葉に、銀髪の少女、響が苦笑した。
* * *
響が部屋を出て行ってからしばらく。
まだ熱を帯びた頬に手を当て、ため息を吐く。
「あーくそ…………冗談だって分かってるのに」
分かっているのに何度も騙されてしまう自分が情けない。
いや、原因は分かっているのだ。分かりきっているのだ。分かり易すぎるくらいに理解できている。
初恋で、なおかつ現在進行形で好きな相手からあんなこと言われて、舞い上がらないわけが無かった。
生まれた時からずっと傍にいて。
ずっと共に生きてきて。
気づけば彼女が好きになっていた。
自分でも馬鹿だとは思う。だって彼女は人間ではない、艦娘だ。
それでも、好きになってしまった。
ずっと傍に居てくれて。
嬉しい時は共に喜んで祝ってくれた。
悲しい時は共に悲しんで慰めてくれた。
辛い時は励ましてくれた。
怒った時は冷静に諭してくれた。
生きてきた時間の半分以上を彼女と過ごしてきて。
そうして気づけば自身は彼女に恋をしていた。
「…………難儀だよなあ」
自分でもそう思う。他人が知ればきっとそう言う。
だからずっと押し込めていた。押し込めてきた。
表に出さないように。所詮彼女にとっては自身は家族でしかないのだから。
だからあんな冗談言えるのだろうから。
そんなことを考え、また頭を悩ましていると。
ピリリリリリリ
ふと、電子音が響いた。
* * *
「で、また司令官のこと口説いてたの?」
問われた瞬間、頬が紅潮するのが自身でも自覚できた。
そんな自身の分かりやすい反応に、暁が苦笑する。
「どうして分かったんだい?」
「だってここまで司令官の声が響いてきたもの。だから前から言ってるでしょ? あんな言い方じゃ本気にされないわよ、って」
「それは分かってるけど…………」
「はいはい、恥ずかしいのよね。難儀よね、好きになった相手がよりにもよって子供の時からずっと面倒見てきた子だなんて」
彼が時折自身をロリババアなどと言うが、あれは決して間違いとは言えない。
例え自身の見た目は十代前半の少女だろうと。
艦としての歴史と、そして艦娘として建造されからの歴史、合わせればとっくにそう呼ばれてもおかしくない程度には生きている。艦としての続きとしての自身と言う自覚を持っている以上、思った以上にそのことに対して違和感は無かった。
「まあでも、少なくとも中将は反対してないんでしょ? 気長に行くしかないわね、どうせまだまだ時間なんていくらでもあるんだから」
「…………そう、だね」
時間などいくらでもある、そんな言葉を暁から聞いたのが、どうしてかとても違和感があって。
「響」
そんな自身の心情に気づいてか、暁が何時に無く優しい表情をしてそっと自身の頭に手を乗せる。
「大丈夫よ」
前置きも無く、付け加える言葉も無いそんな一言に。
けれどどうしてか心が穏やかになっていく。
「随分と長いこと生きてると思うけど…………それでも、やっぱり暁には勝てる気がしないや」
そんな自身の言葉に、暁がにかっ、と笑って答える。
「当たり前でしょ、だって暁はお姉ちゃんだもの」
本当に、自身はこの姉には敵わないのだ。
* * *
電話の音に、受話機を取る。
「もしもし?」
『ああ、朝早くから済まないね、私だ』
「おやこれはこれは中将殿。こんな朝から何か御用でも?」
電話の主は自身の上官に当たる人物からだった。
上官と言うだけあり、差し当たりの無い言葉を選んだつもりだったが、けれど電話口から聞こえる声には不満の念があった。
『まあそうなんだけれど…………どうせ他に聞いてる人間もいないし、プライベート用のほうでも良いんだよ?』
「いえ、仕事の話となればこちらで、公私は分けたいので」
そう、と納得したような声ではあったが、不満の念は隠しきれていなかった。
「それで、用件は?」
『…………まあいいか、出撃命令だよ。当該海域に深海棲艦が侵入したのでこれの殲滅を頼むよ』
「敵の数は?」
『軽巡三、駆逐三だね』
敵戦力の確認と共に、自身の戦力を数える…………が、足りない。
「それだと少々厳しいものが」
『分かっている。彼女たちが共に向ってくれているから合流してくれ』
彼女たち、と言う言葉でそれが誰のことかすぐにピンと来る。と、同時に足りなかった戦力が埋まっていくのが理解できた。
「了解しました。ただちに出動させます」
『うむ、頼むよ……………………ところで仕事の話は終わったけど』
用件が終わったのに電話も切らずに、未練たらたらでそう言ってくる中将に、さすがに苦笑する。
「分かりました…………分かったよ、久しぶり、母さん」
『うんうん、久しぶりだね、灯夜。元気だった?』
「ああ…………まあな」
『響とは仲良くやれてる?』
「………………あーうん、まあ?」
曖昧に答える自身の言葉に電話の向こうで苦笑する声が聞こえる。
『…………ふふ(隠してるつもりなんだろうけど、響のこと好きなの知ってる身としては見ていて面白いことこの上ないねえ)』
「…………?」
意味深に笑う電話の向こうの主の意図が読めず、思わず首を傾げる。
『大事にするんだよ? 響のこと(何気に両思いなの知ってるんだけど…………まあ自分で気づかないと意味が無いよねえ、こう言うのって)』
その後少しだけ他愛無い会話をして電話を切る。
最後まであの意味深な笑いをしていたが…………。
「何だったんだ?」
けれど今の自身には分からないことだった。
* * *
「やあ、童貞坊やのご機嫌は治ったかな?」
くすくすと笑いながら戻ってきた響の姿に、一瞬ドキン、と鼓動が弾けたがそれを無視してうっせえよ、と返す。
「それより響、出撃だ」
告げた瞬間、響の目が細まる。先ほどまでと違う、鋭い目つき。
戦いこそが本領の彼女たちだ。いざ戦闘になれば気構えから一気に変わる。
「敵は軽巡三、駆逐三の水雷戦隊。中将殿のところから彼女たちも来ているから暁と合流して四人で行って来てくれ」
「ダー、響出るよ」
かしこまって敬礼する響。そんな姿に凛々しいなあ、などと考えていると、響がすっと近寄ってきて。
「じゃあ、行ってくるよ、司令官」
耳元で囁かれた声、と同時に頬に僅かに感じた感触。
それが何か、理解するよりも早く、響が部屋を出て行く。
「………………………………っ!!!」
自身が何をされたのか、気づいた瞬間、全身が沸騰したように熱を帯びた。
* * *
「暁、出撃だよ」
彼女の部屋でそう告げると、咥えていた御菓子を口の中に含み、すぐに身支度を整える。と言っても、帽子を被って制服の皺を軽く伸ばすくらいだが。
ものの数秒で支度を整え、暁が行けるわ、と返してくる。
じゃあ、行こうか。そう告げようとしたその声を、けれど暁が遮ってくる。
「響、何か顔赤くない?」
「…………気のせいじゃないかな」
「…………………………ふうん、そう」
どこか意味深な表情でこちらを伺ってくる暁の視線をかわし、背を向けて部屋を出て行く。
「……………………やってしまった」
なんて後悔を呟きつつ。とにかくこの赤くなった顔を彼女たちと合流する前になんとかしなくては、そんなことを思いながら。
「…………行ってくるよ、灯夜」
誰にも聞かれないように、そっと呟いた。
あれ? これ作者の当初予定してたほのぼのじゃね?