オーバーロード~遥かなる頂を目指して~   作:作倉延世

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序章
第1話 ある世界が終わる日に


 

 DMMO-RPGという言葉がある。

 

 要は、体感型ゲームの一種で、機械、頭にかぶる近未来のヘルメットを思わせるそれに、それまた専門的なコードをつなげることで、仮想空間にまるで現実にいるかのように遊ぶことができるものであった。

 

 

 

 YGGDRASIL(ユグドラシル)

 

 

 

 その世界に住んでいる者であれば、知らないはずがないものである。700を超える種族数と2000を超える職業、豊富な外装にささえられた自由度。9つの世界と様々なクエストが待ち受ける広大なフィールドが娯楽に飢えたユーザーの心をつかみ一時期はDMMO-RPGの代名詞とまでいわれたゲームであるが、それも一昔前の話である。

 

 

 ナザリック地下大墳墓。

 

 元々は6階層からなるダンジョンの一つでしかなかったが、とあるギルドのホームとなった後は彼らの手により10階層と様変わりしており、新しく作られた階層はここが墓場であったという事実を勘違いではないかと錯覚させるほど作りこめられており、とくに第6階層のジャングルの夜空は天文学者が大喜びして観測を始めてしまいそうになるくらいのリアリティがあった。現実世界のある事情も手伝い、ここで見ることができるものは所見者の心をつかむ程壮大なものである。それはつまりそれだけここをホームとしていたプレイヤー達の入れ込みであり、思い入れの丈を垣間見るようなもの。

 彼らが力を入れたのは何もこれだけではない第9階層、第10階層はロイヤルスイート、玉座という、いわゆる生活圏を意識した作りとなっている。少し見回してみれば中世の王城を思わせるように使用人としてメイドが、警護人として騎士が所々にたっている。そして彼らはプレイヤーでなければ、初めから運営が用意していた機能というわけではない、

否、正確にはその1つを彼らが利用する形だったのだが。そう彼らが自ら製作したNPCなのである。外見は現実世界でイラストレーターをやっているものが、行動AIはブラック企業勤めだというプログラマーが「疲れているんですけどねえ」と愚痴をこぼしながら作ってくれ、お辞儀、追従、首をかしげるといった簡単な動作であれば運営にもまけないキャラクターを作りあげた。ただ残念なことがあるとすれば、これだけ作りこまれた存在なのにここまで攻め込むことができたギルドも、かといって遊びに来た同盟ギルドもいなかったため、ほとんどの者がその姿を見ることがなかったということだろうか。

 

 ここまでする彼らの名は『アインズ・ウール・ゴウン』僅か41名のギルドでありながら、トップ10ギルドに数年名を刻み、このゲームに200しかない世界級(ワールド)アイテムを唯一2桁である11個保有していたという事実からも彼らが、このYGGDRASIL(ユグドラシル)の世界においてトップクラスの存在であることを物語っていた。とある理由によりほかのプレイヤー達からは羨望でなく憎悪の視線を向けられることが多かったもののそれを差し引いても彼らはこの世界を楽しみ、その時を共有していた。それでも、

 

 サービス終了。

 

 

 という運営の事情はどうしようもなかった。

 

 

 空席だらけの円卓には2人の、2体というべきだろうか?モンスターが席についていた。1人は死者の大魔法使い(エルダーリッチ)というモンスターが魔法職極めた姿である死の支配者(オーバーロード)

 1人は最強に近いスライム種の1つ古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)

 

 そうこれが彼らなのだ、いわゆる異形種(モンスター)で構成されたギルドであり、「どうせなら悪役をやりきろうぜ!!」という一部のメンバーの悪乗りもあり、『英雄の集い』というよりは『魔王の軍勢』というイメージが定着した悪役軍団、それが『アインズ・ウール・ゴウン』である。

 

「今日は来てくれてありがとうございます。本当にうれしいです。ヘロヘロさん」

 

 死の支配者(オーバーロード)が口を開く、といっても本当に開いたわけではなく。会話中を示すアイコンが表示されるだけなのだが、

 

「いえいえ、お礼を言うのは僕のほうですよ。正直、まだここが残っているなんて思いもしませんでしたよ。モモンガさん」

 

 ヘロヘロとよばれた古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)が答える。

 

 一見ふざけた名前なのはオンラインゲーム上における日常茶飯事といえる

 

 

「最近仕事のほうはどうですか?確か転職されたって話ですよね」

 

「そうなんですよ。もう毎日が忙しくて忙しくて、モモンガさんからのメールがなければ正直、今日の日付も怪しいくらいで」

 

「うわー」

 

 本来であればオンラインゲームでも忌避とされる『現実』の話ができるのも彼らの特色であった。というのもギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の加入条件は判明しているので2つ。

 

 社会人であること。

 

 異業種であること。

 

 彼らに言わせればもうひとつあるらしいのだが、それが掲示板にのることはなかった。

 

 ふいにヘロヘロは時計を確認して改まってモモンガに向き直る

「すいません、そろそろ」

「ああ、明日も早いんでしたね」

「はい、じゃあ落ちますね、またどこか(別のゲーム)で会えるといいですね」

 

寂しさと僅かばかりの希望を混ぜたヘロヘロの最後の言葉にモモンガは言いかけた言葉を飲み込むしかなかった

 

「ふざけるな!」

 

きっちり120秒たったころに爆発した感情がモモンガに突発的な動作をさせた。

「なんで簡単に捨てられるんだよ! みんなでつくったナザリック地下大墳墓を!!」

 

しばらく握りこぶしをテーブルにたたきつけていたが、やがて落ち着き自己嫌悪だけが彼の胸中に残った。

 

「わかっているんだ、みんながここを簡単に捨てたって訳じゃないこと、リアルとゲームを2択を迫られてやむなくやめていったことくらい」

 

 そう彼らはある意味もう終わっていたのだ。41人いたギルドメンバーは37人が辞めていき、それでもサービス終了日である今日であれば来てくれるかもしれないと今日の集まりを伝えたのにきたのは先ほどのヘロヘロあわせて3人だけ、モモンガは時計を確認する。

 

 サービス終了まで15分もない。

 

「もう、…………誰もいないよな」

 

 おそらくもう誰もこないだろう。

 

(せめて、最後の仕事はしないとな)

 

 ギルドマスターとしての仕事である現実ではさえない会社員である彼だが、それでもここではギルドマスターで死の支配者(オーバーロード)なのだ。いつまでも誰もいない円卓で終えていいはずがない。モモンガはギルドの象徴でもあった装備、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手にしてその場を後にする。

 

 

 かつてのギルドの栄光、仲間たちとの思いでを懐かしみながらもモモンガは玉座に足を踏み入れる。その後ろには≪命令≫によってついてきたNPC7人の姿があった。

 

プレアデス

 

 一般のメイドとは異なり戦闘を想定して作られた改造メイド服を身にまとう絶世の美女6人に、老人でありながら素人目にみてもよくわかる強靭な肉体、鋭く光る眼光を持つ執事セバスである。一般メイドとはまた違う拠点防衛という役割をもつもの達だ。

 

「ここまででいい」

 

 彼らを連れてきたのもモモンガなりの気遣いであった。戦闘用に作られながら結局ここまで攻め込んだプレイヤーがいなかったので、彼らが行った仕事というのは今回モモンガが発した「付き従え」という命令に従ったのが最初で最後であったのだ。しかしそれもモモンガの主観でしかなく、もしかしたらかつての仲間が連れて回ったりはしたかもしれないが、そこまでは彼は知らない。

 

 玉座にてナザリックの支配者を出迎えるのはプレアデスに劣らない美女であった、ただ彼女の額から伸びた悪魔の角と腰のあたりから伸びた黒い翼が彼女もまた異形のものであると示していた。

 

「確か、アルベドだったか」

 

 ナザリックの守護者統括という地位を与えられたいわばNPC達のまとめ役であり拠点防衛時の指揮も任されている。どういう訳かその手には世界級(ワールド)アイテムを持っていたが、今日で最後だし、別にいいかとモモンガも気にしなかった。それよりも驚いたのは興味本位で覗いた膨大な設定の量である。その文章は出しえる限りの高速スクロールをもってしても最後に着くまで90秒かかった。そして最後に目についた言葉

 

『ちなみにビッチである』

 

(………………え?)

 

 これにはモモンガも絶句してしまう。確か彼女を作った人物はいわゆる『ギャップ萌え』を愛する男であったが、いくらなんでもこれはひどいのではないだろうか?と彼は思ってしまう。

 

(最後だしな)

 

 コンソールを開き手際よく彼女の設定を書き換える。

 

 『ビッチ』から『真面目』へと。考えてみれば、彼女の種族は『サキュバス』性的なイメージが強い。そしてモモンガにとっては性的なことは真面目と反対に位置するのではないだろうかと思った。これでも十分にギャップ萌えは楽しめるはずだ。特に仲の良かったメンバーが聞けば「エロと真面目は両立できる」と宣言してくるだろうが、モモンガはここを譲るつもりはない。

 

(よしこれでいいだろう、もう彼とも会うことはないだろうしなあ)

 

 時間を確認すればもうサービス終了まで1分もない状態であった。

(本当、楽しかったよなあ)

 

 思い出すのはひたすらに楽しかった毎日とあっという間に過ぎ去る時間、それを分かち合うことができる仲間たち、現実では仕事が忙しくてそれでも稼ぎがあるというわけではなく友達も恋人もつくれず親も他界した身である自分にはここは本当にもう一つの『現実』であったのだ。生きているだけで死んでいるのと何ら変わらないあの世界を思えば、こここそが自分の世界であったと言えるのだから。

 

(ああ、そうか)

 

 なんで自分がこんなに悲しいのか、どうしてかつての仲間たち以上にナザリック地下大墳墓(ここ)にこだわっていたのか。

 

(俺、ここしかなかったんだな)

 

 居場所が、作れたところが。

 

 

 時間は進み、終了まであと10秒。

 

(ああ、明日は4時起きだったなあ)

 

 彼の頬を一筋の涙が走った。

 

 そして、視界を閉じる。この世界への別れを惜しんで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 おかしな点があれば指摘お願いします。原作のこのキャラ生かしてという要望も受け付けています。
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