オーバーロード~遥かなる頂を目指して~   作:作倉延世

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第2話 舞い降りる剣

 

 郊外、草が風に揺られる平原をモモン達は歩いていた。その間、トーケルはずっとナーベラルに話しかけ続けていた。何とか、受け答えはしているものの、そのこめかみには青筋が走っている。

 

 「すいません。坊ちゃんが」

 

 謝って来るのは彼の従者であるアンドレ、さしずめ若社長の秘書といったところか、

 

 「いえいえ、それを言ったら、ナーベも無愛想なもので」

 

 ここは、可能な限り穏便に返す。ナーベラルもよくやってくれている。

 

 (何か、褒賞を考えないとな)

 

 本当に彼女の成長、いや、変化が喜ばしく感じる。それに比べれば、

 

 「そう、トーケルさ…………んは」

 多少、おかしな丁寧語も気にはならない。

 

 「ベイロンさん、この辺りでよろしいでしょうか?」

 

 ある程度歩いたところで、詩人である彼に確認をとる。

 

 「ええ、この辺で、そうですね。少し待っていて下さい」

 

 応えるなり、肩から下げたポーチから何やら取り出す。それは、まるで、泥を無理やり玉の形に仕上げたものであった。また、不思議なことに見た目こそ、下手をすれば、糞に見えなくもないのに、それは無臭であった。この世界にはまだ自分が知らないことだらけだ。いや、以前の世界もそのすべてを理解していた訳ではないが、

 

 「それは何ですか?」

 「これ?ああ、そうですね、一種の媚薬とでも思ってくれれば」

 

 その言葉に真っ先に反応したのは当然というべきか、トーケルであった。

 

 「何!?、それがあれば、……いや駄目だ!それでは意味がない」

 

何やら葛藤しているらしく、そして一行の視線は従者のアンドレに向けられる。苦労しているんだな、と。そしてまだそんなに知り合って間もないのに、すっかり、そういった印象なんだと自分と主人の評価を知ったようなきがして、アンドレはため息をつく。 

 

 主人とその実家は貴族には珍しく、領民を思いやれる人物だというのに、色恋とは厄介なものだ。

 

 「いえ、お気になさらず。本当は優しい方なんですよお坊ちゃんは」

 アインズもまたそうなのではないかと、思う所があった。一つはアンドレの存在、ここまでの彼の振る舞いがひどい主人に振り回されているのでなく、真に主を案じてのものであるのは見て分っていた。それはアインズ自身思い当たるふしがある。大切なもの達が頭をよぎる。

 「それはあなたを見ていれば分かりますよ。アンドレさん」

 「そういっていただけると、助かります。ベイロンさんもすいません話を止めてしまって」

 「いえ、構いませんよ、それにお坊ちゃんは小鬼に興味があるんですか?」

 唐突な話題、これまでの会話でそうなる流れはなかったはずである。ということは、

 「亜人専用のモノということですか、」

 そういうことになる。そして彼の、自分たちの目的を考えれば、その用途は見えて来る。

 「そのとおりです。モモンさん、要は、一種のハニートラップという奴です」

 いやそれはどうだろうか、もしもそれであるならば、実際に騙し役として女性がいる訳であるが、今回に限っては、その対象もいないのだけど。

 「まあ、百聞は一見に如かずと言いますしね。まずはこれを」

 これまた突然手にもった球を地面に叩きつける吟遊詩人、瞬時に砕ける球とそこから草木が生い茂る泥を思わせる色合いの煙がでてくる。その匂いは、また強烈であった。その場の全員が顔をしかめ、鼻をおさえる。この時ばかりはアインズもまた。人間の身であったことを後悔した。しかし、だからといって、指輪を解除するわけにもいかない。そして、気づく、ナーベラルとレヴィアノールがそれぞれの得物に手をかけているのを、

 (あ、やば)

 「2人ともこれは、攻撃じゃない!」

 反射的に声をあげる。初依頼でその相手を殺害しては冒険者としての地位を築くのが難しくなる。即座に反応する二人に何とか胸を撫で下ろす。

 

 「すいません、急に大声をだしてしまって」

 とりあえずは、突発的な自分の行動を説明するのと、その謝罪だ。おかしな奴と思われるのもよくない。

 「いや、こちらこそ、いきなりしてしまって。ひとまずはここを離れましょう」

 本人としては少し驚かすつもりであったらしいが、それにしても強烈すぎた。そのまま彼の誘導に従い、10メートルほど離れる。そこから、煙を眺める。煙は広がり、ドーム状になっていた。

 「あれは、?」

 「はい、あの匂いに引き付けられ来るんですよ。小鬼がね」

 それはつまり、先ほど味わったあれが彼らにとって魅力的な雌のにおいということなのか?そして、それを分かっているように目前の男も微笑を浮かべる。

 「ええ、その通りなんですよ。といっても、いろいろな香水をそれっぽく混ぜたものなんですけどね」

 それでも十分すごい方なのではないかと思う。それと同時に疑問も

 「何故、吟遊詩人のあなたがそんなモノの?」

 作り方をしっているのか?と聞こうとしたところで、野伏であるアンドレが声をあげた。

 「来ましたぜ!数は、10といったところでしょうか?」

 まだ、1分ほどしかたっていないというのに、すごい効き目だ。しかし、やった当の本人は首を傾げている。何か問題でもあったのか?

 「おかしいですね。いつもだったら、もう少し時間をとるんですけどね、それに数も多い気がします」

 「今回はたまたま、小鬼が近くまで来ていたという事ではないですか?」

 あまり、深く考えても仕方ない気がする。そういうのは、あいつだけで勘弁してほしい。ともあれ、数は10、そして例の《成人の儀》とは、討伐することに意味があり、その数に特に縛りがないというのなら。

 「私たち3人で3匹づつ相手をしますので、ビョルケンハイムさんは1匹、お願いします。アンドレさんはその補助を」

 おそらくではあるが、この布陣が最も効率的で最適であると思う。しかし、トーケルとしては面白くない。小鬼ごとき軽やかに倒してみせると、この日の為に用意していた。まったく汚れのない剣を握りしめモモンに抗議する。

 「モモン殿!私も剣の指南を受け、鍛錬も人並み以上にこなしてきた身、多少の経験不足はなんとか気合で補ってみせます!」

 「坊ちゃん!」

 はやる気持ちが分からなくもない、彼の視線はひたむきにナーベラルへと向けられている。何とか振り向いてもらおうと必死のようだ。しかし、

 「ビョルケンハイムさん、実戦と、命の保証がされている訓練はまったく違います。彼らも、それこそ、生きる為に死に物狂いで襲ってくることでしょう」

 説得をしながらも、アインズの胸には痛みが広がっていた。本来であれば、自分も目前の彼と、いや、それ以下だというのに。こうしてたまに、なんともいえない罪悪感のようなものが溢れて来るのだ。人間だった頃を思い出してか、特に優れたものがない社会人であった時か、あるいは、単に遊びでやっていたゲ―ムで得た力で人を殺してのものかそれは分からない。不意に左腕をつかまれる。そちらを向けば、ナーベラルが微笑みを向けていた。その瞳は静かに安らかに、それでいて実直に訴えていた。

 『アインズ様は至高の御方、それは変わりません』

 レヴィアノールも同意するように首を縦に振っている。

 (本当、俺は幸せ者だよな)

 彼女たち(NPC)には感謝しなくては、そして叶うのなら、各々の望みも叶えてやらないといけないなと思うと同時に覚悟を決める。今の自分は戦士『モモン』であると、

 

 「そうですよ、モモンさんの言う通りです坊ちゃん。自分もいますんで、まずは1匹、確実に仕留めましょう」

 「くぅ、分かりました」

 従者である彼の助け船もあり、なんとか話はまとまる。

 

 

 小鬼たちは憤りを覚えていた。魅力的な雌のにおいに惹きつけられ、来てみれば何だ。何もないじゃないか。彼らの怒りはこちらへと呑気に歩いてくる3人の人間に向けられる。小鬼(ゴブリン)はあまり人間に対する認識が高くない。雌雄の区別すらついていないのではないのだろうか?それでもこの状況を仕掛けたのが、彼らであること位は理解した。

 

 「ブッコロシッテヤル!」

 1匹がそう叫び、そして彼らは相手を蹂躙してやると突撃を開始する。

 

 (来たか)

 さて、戦士としての実戦だ。なにもここまで遊んでいたわけではない。モモンは相手の動きに集中する。すべてを見るなんてできない。まずは先頭の1匹からだ。ありがたいことに、何とか今の動体視力でおえる程である。そして、相手が自身にとびかかり、手にもった棍棒を振り上げ、勢いよく振り下ろしたところで、その軌道を正確に読み取り、体を右に傾ける動作で交わす。相手は右利きであった。

 

 (!!!)

 叫んだゴブリンは驚愕していた。突然、でかい奴の雰囲気が変わったのだ。これはまずい相手ではないのか?と思ったところでもう遅い、自身の胸元に鉄塊を思わせる巨大な剣が叩き込まれ、横に真っ二つになり散る。

 

 (流石ですアインズ様)

 ナーベラルもまた自身の仕事に取り掛かる。主のみせた一撃を見て、止まったその一瞬を狙い、近くの1匹に目をつけ、即座にその首をはねてやる。あまりにも軽い、続けざまに体を回転させながら跳躍、そのまま2匹斬り伏せて着地。一連の動作はそれだけで、芸術品といえそうな優雅なものであった。そして仕事を終えた彼女の視線は主と今斬られた2匹目の小鬼に向けられる。もしかしたら、主の雄姿を1秒でも長く見ていたかったのかもしれない。

 

 (アインズ様は問題なし、ナーベラル、少し飛ばし過ぎじゃないの?)

 レヴィアノールもまた動き出していた。自身の筋力であれば可能だと1匹目は大雑把に殴り飛ばしてやる。片側の眼球が飛び出し、絶命する。そのまま走り抜け、恐れおののいている2匹目のその両目に躊躇なく、自身の左手人差し指、中指を差し込む。卵が砕けるような音がわずかに響く。

 「グギャアアアアアア!!」

 たまらず叫ぶ声を煩わしく思いながら、右手でもった鉈でその首を叩き斬る。ゴブリンの首を持った狂戦士の構図の完成だ。それをみて、逃げ出した3匹目を狙い無造作に鉈を投げる。後頭部に深く食い込みその命を奪った。

 

 アインズもまた、3匹目の頭蓋を砕き、おわるところであった。

 (ふう、なんとかなったな、コキュートスやアトラスに感謝しないとな)

 自身の訓練に付き合ってくれたものたちの顔が浮かぶ。

 「二人ともおつかれさん」

 今は対等な関係ということになっている。だからこそ、軽めの労いをかける。

 「いえ、当然のことです」

 「モモンさんも見事な剣さばきでございました」

 「ああ、ありがとう」

 

 トーケルもまた、何とか目の前のゴブリンを討伐しようと、全力を尽くしていた。しかし、必死なのは相手も同じ、気づけば仲間たちは全滅、残っているのは自分1匹という状況なのだ。ここで死ぬのは種の生存本能が許さない。睨み合う両者、先に動いたのは、トーケルであった。手にもった剣の間合いを取るため、全速力で走り出す。距離が3メートル程になった時、ゴブリンもまたアクションを起こした。次の瞬間、彼を襲ったのは痛みと僅かばかしの闇。

 (くっ!)

 「坊ちゃん?!」

 ゴブリンがやったのは、単純に土をかけるというものであったのだが、そんなもの想定も、予想すらできていないトーケルは顔を覆って止まってしまう。戦場でのそれは命とりとなるのに。そしてそれを狙ったかのよのようにゴブリンも攻撃に転じようとするが、その行動を牽制するように短剣が投げ込まれる。

 (!!!)

 投擲したのは当然、彼の従者たるアンドレであった。黙って主人がやられるところを見ているわけにはいかない。そしてそのおかげで体制を整える時間を手に入れ、

 「うおおおおおお!ナーベさあぁぁぁぁん!」

 生涯初、渾身の兜わりを決め、トーケルはゴブリンを討伐するのであった。

 

 数分後、

 

 「いやあ、ありがとうございました。何とか成人の儀も終了でございます」

 やや、微妙な笑みを浮かべながらも、アンドレはモモン達に感謝するのであった。その間も主人はナーベに言い寄ってるものだから。本来であれば、命を絶つという行為を和らげるという意味合いをもつ儀式をこんなに軽く終えてしまったことに対する。後ろめたさかもしれない。

 「いえいえ、こちらも依頼を達成できたようで、ベイロンさんも」

 「はい、今のでかなりいいのができそうですよ。欲を言えば、人喰い鬼(オーガ)を討伐するところも見たかったところですが」

 オーガはゴブリンを従えて群れをつくっていることもあるので、確かに遭遇する機会はあったかもしれない。それでも依頼は終了だ。とそこで、頭に声が響く、伝言(メッセージ)だ。アインズは2人に、ハンドサインを送り、(意味:相手の対応を頼む)ゴブリンの持ち物を調べると適当にその場を少し離れる。

 『アインズ様、私です只今よろしいでしょうか?』

 相手はあの統括の姉であった。

 「二グレドか?どうしたんだ?」

 彼女からの連絡ということはまず、一番に考えられるのはカルネ村に何かあったということだろうか?それとも、他の部隊に何かあった?考えたくはないが、アルベドが過労で倒れたという可能性もある。不吉な考えが頭をよぎり、次に聞こえたのは、予想外であり、しかしながらアインズが望むことでもあった。

 『付近に、人喰い鬼(オーガ)小鬼(ゴブリン)に襲われている人間の一団がおります』

 「ふむ?しかし、人のほうもそれなりに戦える一団なのであろう?」

 そもそもここは、そういう世界、自殺志願者でもない限り、冒険者なり、兵士なりが護衛についているはずだが、

 『はい、しかし、数がいささか多いようでして、オーガが15、ゴブリンが40、と言ったところでしょうか?』

 「なに!」

 計55、軽く、2レイド分と言ったところか。一体何故、それだけの相手が出てきているのか?

 (そういえば)

 リーダスが言っていた。いつもより、薬の効果が出るのが早いと、それと関係しているかもしれないが、今のところ考えても仕方がない。では、襲われているという人間たちはどうするか?

 (行くか)

 ここで行かない選択肢はない。おそらく彼女もそれが自分の望みだからと、伝えてきたのだろう。少しでも多くの人間を救済する。そして、うまくいけば、冒険者の名前に箔をつけることができる。彼女に礼をいい、その座標を詳しく聞く。そして当初の予定通り、ゴブリンたちの持ち物を調べ、ついでに討伐の証拠たる部位のそぎ落とし作業も行っておく。

 

 「すみません。みなさん時間をとらせてしまいましたね、帰りのルート何ですが」

 少し遠回りをするルートを提示する。理由としては、もしもうまくいくのであれば、更にモンスターを討伐したいと考えていると、それは可能であれば、依頼主たるトーケルにさらなる経験を積んでもらう狙いがあると、建前上そう説明する。そして、ナーベラルと少しでも長く共にいたい、トーケルもまた即決するのであった。アンドレと、だしにした彼女には内心、謝罪する。そして歩くこと、数分。その現場に出くわした。いや、正確には見下ろす形となった。自分たちが現在いるのが、やや高めの丘だったからだ。

 「あれは?モンスターの群れ?」

 誰が呟いたのかは気にならなかった。それだけ、見えた景色が凄まじいものであったから。見れば、モンスターの一団もかなりの痛手を負わされていた。すでにオーガが6匹、ゴブリンが15匹、倒れていたのだから。しかし、それでもまだ半分近く、いる。

 

 「いいから!早く!」

 「逃げるのである!」

 「姉貴と再開するまで、お前死ねないだろ!」

 

 見れば、戦士らしき男を中心に、3人がしんがりを務め、残りの2人が何とか包囲網を突破しようと走り出すが、すぐに回り込まれてしまったらしい振り上げられた斧が髪で目元が隠れた少年に襲い掛かる。逡巡している暇はない。

 「レヴィア!お前は残って皆の護衛を!ナーベ!後ろは任せた」

 いうなり、駆け出した。そのまま脚力、ふくらはぎの辺りに力をいれる。跳躍、空中で回転しながら、剣を抜き、今まさに、少年たちに襲い掛からんとしているオーガを両断して同時に着地する。

 

 「大丈夫かな?助けにきた」 

 まずは自分が味方だと伝え、そして振りぬいたもう一方の剣を反対にモンスターたちへ向ける。

 「さあ、次は私が相手だ。死にたい奴からかかってこい」

 途端、聞こえるのは嘲笑、何をしに来たんだこいつはと、それも無理もない。今のはたまたま、不意打ちがうまくいっただけだ。囲んでやればこいつも問題なく、追い詰められると、そしてそれを感じ取ったアインズは笑う。それも周りによく声が聞こえるように。握りこぶしに親指をたて、それで背後にいるであろう一団を指さしながら。

 「はははは、お前たちは勘違いをしているようだ。その程度であれば、私はもちろん、後ろの彼らにも勝てはしないさ、」

 事実、モンスター側が21匹も犠牲をだしたというのに、人のほうは、被害ゼロ、それだけ、彼らが優秀なチームということなのだろう。

 (協力者、候補だな)

 場違いにもそんなことを考えてしまう。これでは、一般人を装い、日常に溶け込み、有能な人材を探す。一企業の社長だなとさらに笑いが響く、それは戦士の余裕に見え、敵味方の区別なく、視線を集める。

 

 「フザケンナ!!!」

 「コロセ!コロセ!」

 

 殺意はすべてこちらに向けられていた。それでも不思議と恐怖を感じないのは、きっとこれまでやってきたことの結果を知っているのもあるが、

 

 「モモンさん、これからいかがいたしましょうか?」

 

 自分の背中を守るべく、同じく跳躍してきたであろう彼女がいるからだろう。

 

 「ナーベ、遠慮なく焼き殺せ、無論、()のお前の火力でな」

 「畏まりました」

 

 方針が定まったところで背中合わせの状態から一気に動き出す。

 

 アインズは目前の目標を見定める。数はオーガ3、ゴブリン8、あまり優美な型にこだわっている暇はないと走る足に力を入れる。

 

 相手はまだ動けていない。

 

 突然の速度変化に追いついていないようだ。そのまま右手のグレートソードを大きく振り回す。瞬時にとぶのはゴブリンの頭が3っつ。その勢いを殺さないまま、回転をするようにもう片方のグレートソードでさらに前に切り込む。オーガの上半身があらぬ方向に飛んでいく。丁度一回転、そこで一旦静止するがまだ止まる訳にいかない。

 

 倒れるように踏み込む足に加速をつけ、今度は走りながら、走路上にいたゴブリンを蹴り飛ばす。内臓が出たので問題ないはず。

 

 引きずるようにグレートソードを引いて、一気に振り上げる。更に2匹、ゴブリンをまるで蹴鞠を蹴りあげるように斬り飛ばす。最後に上げたそれを振り下ろす。はじめと同じように縦に両断されるオーガ、残りは3匹、その目にはすでに戦意はなく、目の前の存在を恐れている目であった。

 

 (試してみるか)

 アインズはグレートソードを2本、大地に突き立て、腰に備えた予備の剣へと手を伸ばし、反復練習と同じ構えをとる。狙いを定め、腰をおとす。そして、一気に振り放つ。

 

 「武技、『飛翔烈破』!!」

 

 放たれた斬撃が一瞬、景色そのものを斬ったように見えた。その境界線にいた2匹のゴブリンは4つの肉塊に成り果て、さらにオーガの腹に裂傷をあたえた。

 「グオオオオ!!」

 痛みに耐えきれず吠えるオーガ。

 (両断には至らずか)

 内心、やや肩を落としながらも、アインズは最後の1匹へと歩を進める。

 

 「…………すげえ」

 それは正に英雄の物語、ここまで、彼が相手を仕留めるため、振るうのはただの1回、完勝なんて言葉が陳腐に思えてくるほどの偉業。それは漆黒の剣から見ても驚くべき事実、自分たちは、まず馬車をすてて5人一組で動き、何とか4人がかりで1匹ずつオーガを討伐していったというのに、あの戦士は一撃でゴブリンと大差ないと言わんばかりに吹き飛ばしたのだ。驚愕するしかない。

 

 (ほう、こりゃあ、モノホンだな)

 

 リーダスもまた、古い書物で知った言葉を用いながら、目前の光景を少しでも言葉として紙に落とし込むため、扱いにくい左手でメモ用紙を持ち、利き手たる右手でペンを走らせる。

 

 瞬く間に10匹の亜人が斬り伏せられた。しかし、それだけではない。

 

 「グギャアア!!」

 そう、狩られるべき立場である彼らが呆けている暇はない。青い雷光が3匹のゴブリンを貫いた。〈雷 撃〉(ライトニング)、それが彼女、()()()が誇る最高の魔法である。彼女はそのまま、冷静に魔法を放ち続ける。右手をかざすオーガが2匹、続けて左手を反対の方向に向ける。ゴブリン4匹がその犠牲になり黒焦げになる。

 「ウ、ウウ」

 残った戦力が一気に半減したという事実が彼らの判断をさらに鈍らせる。そして、その機を逃さない者がもう一人、

 

 「ダイン!さっきのをまた頼む!」

 襲われていた一団のリーダーらしき戦士が叫び、目前のオーガへと突撃する。正直言えば、すでに体はボロボロだが、このチャンスを逃すわけにもいかなと、体に鞭をうつ。

 「任せるのである!」

 返事をしたのは、一行の中でもっとも体格がでかい男であった。その装いから森司祭(ドルイド)らしき人物は指示に従い、魔法を発動させる。すぐさま、地面から植物が生え、蛇ともミミズともとれるようにのたうち回り、4匹のゴブリンと2匹のオーガ達に巻き付く。〈植物の絡みつき〉(トワイン・プラント)

 そして拘束されたゴブリンの首を戦士は的確にはねていく。

 「テメエ!!」

 それを見て、これ以上仲間が減るのはまずいと本能的に察して、もはや手遅れにも近い状態である中、3匹のゴブリンが戦士に群がるが、その喉元の矢がささる。しんがりを務めた最後の人物が放ったものだ。彼はアンドレと同じく野伏(レンジャー)なのであろう。

 「女神に巡り会えたんだ。ここで死ねるかっての」

 その視線はナーベラルへと向けられていた。いまだ身動きをとれないオーガ達を追撃するように輝く魔法の矢が襲い掛かる。

 〈魔法の矢〉(マジック・アロー)

 今回の護衛対象と共に離脱予定であった、少年が戻ってきていたのだ。攻撃方法から魔法詠唱者(マジックキャスター)だと思われる。そして、動きが止まったオーガの心臓辺りを正確に、的確に戦士の剣が貫く。残りはオーガが1に、ゴブリン3と、勝負はついた。

 「さて、どうする?まだやる気か?」

 再び、剣を突きつけ、問いかける。これは慈悲だ。ここで立ち去るのなら追いはしないという最終警告を受け、残った亜人たちは何も言わず逃げ出した。

 

 

 

 

 

 「改めて、お礼を言わせてください。皆さんがいなければ、私たちは死んでいたところです」

 その後、レヴィアノールが護衛していた一団も合流して、ひとまず部位はがしを行い……こういったところは現実世界なんだよなあ、としみじみ思う。聞けば、まだ銃ではなく、刀や剣で戦争をしていた時代には、殺した相手の首を証拠として、持ち帰ったというしそういうものかもしれない。それから馬車の回収、今回の狙いは完全に彼らであったらしく。ほとんど荒らされていなかった。すべての作業が終了したのちの相手からの第一声であった。先ほど共に戦った戦士のものである。

 「いえいえ、お気になさらずに、()として当然のことをしただけですから」

 その言葉に自身でも苦笑したくなるのを何とか抑えながら返す。

 「いや、本当に助かりました!すごいです!そんな言葉しか出ませんよ!」

 興奮したように魔法詠唱者の少年が先ほどのアインズの戦いぶりを称賛する。

 「そうだよなぁ、それに俺は今日、女神に出会ったんだしな」

 おそらくは渾身の笑顔を決めて、ナーベラルへと熱い視線をおくる野伏、それに対して、

 「アインズ様(モモンさん)が相手の注意をひきつけてくれたおかげです」

 あくまで主をたてる彼女と、

 「貴様!ナーベさんにやらしい目を向けるんじゃない!」

 少々、きつめに噛みつく若き次期伯爵。

 「いえ、本当に助かりました。僕からもお礼を言わせてください」

 やや、火花を散らす、かませ犬2匹(byレヴィア)はおいとくことにしたらしく、前髪で目元が隠れた少年が頭を下げる。始めに助けた少年でもあった。やや汚れた服、そのシミは何かの薬品のがかかったあとのように見える。つまり、

 (錬金術師か、何かしらの研究者ということか)

 そういった役職もどの世界にもいるものか、まあ、いつだって、技術革新というものはそういったもの達がおこしてきたものだ。自分はただ、そうやって出来上がったものに乗っかっていたにすぎない。彼もまた、計画に協力してもらう選択肢があるという事をアインズは認識する。我ながら、強欲だと思うが、しかしながら、協力者が多いにこしたこともない。

 (さて、どうしたものかな?)

 この後の展開を考えながら、アインズは効率的かつ、できることなら、自慢話にできそうな劇場公演を思わせる程位かっこいいスカウト方法を思案する。

 

 ンフィーレアもまた、目の前の人物たちが、自分の本命である者たちであったことを理解していた。なんとか、この人物たちを今回の依頼に同行してもらえないか、考えていた。それだけの稼ぎはあるわけだし、先ほどの件で分かった。やはりというべきか、最近、魔物たちの活発化が進んでいるらしいと、もしそうであるならば、あの辺境の村は危険だ。なんとしても、彼らにもついてきてほしい。そして何より、あのポーションの秘密を、その一端でも知ることができないだろうか?どうにか、視線を動かして、目についたのは、先ほどからルクルットと睨みあっている貴族らしき人物。その傍には従者らしき男も控えていた。もしかしたら、ここに事態の活路があるのではないか?

 

 「失礼ですが、そちらの方は、貴族?の方ですよね」

 その言葉にニニャが一瞬反応するが、すぐにいつもの調子にもどる。しまった、と思う。彼は貴族に思う所があるのを知っていたのに、少々配慮が欠けていたと、しかしここで話をとめる訳にはいかない。

 「はい、トーケル・カラン・デイル・ビョルケンヘイムと申します」

 やはり、貴族というのは長い名前が多いのだろうか、そして、彼らが、その家の変わったしきたりにしたがい、簡単なモンスター討伐へと来ていたこと。漆黒の戦士モモン一行はその護衛についていたこと。そして、最後の一人は単に同行していただけだという。そこで、彼は思いつく。賭けではあるが、決して悪くはないはず。

 「それでしたら」

 

 (この少年は何を考えているんだ?)

 アインズは少年の提案を受けるか、考えあぐねていた。要は、このまま自分たちに同行してはくれないかというもの、そしてそのまま薬草調達を手伝ってほしいというものであった。無論報酬は支払ってくれるらしいが、なんせ現在仕事を受けているのは、トーケルらの依頼だ。こういうときは、どれだけ、魅力的な話でも先に受けた依頼とその依頼主を優先しなくてはならない。それが、信頼を得るということなのだから。

 「ビョルケンハイムさん、私どもはあなたに従います」

 「モモンさん、それは」

 「今の私たちはあなたの護衛です。あなたの意思を優先させていただきます」

 トーケルもまた考える。この目の前の少年の誘いに乗るべきか否か、そして気付いた。目前の少年がかの有名な彼ではないかと、そして、まだ名前を聞いていない。

 「失礼ですが、あなたのお名前は?」

 

 それをいわれて、ンフィーレアもまた失敗をしたと、慌てて名のる。

 

 「すいません。僕はンフィーレア・バレアレ。エ・ランテルで薬師をやっています」

 

 (やはり、あのバレアレ氏か!)

 

 (ふむ、薬師だったか)

 

 トーケルは歓喜していた。バレアレといえば、王国でも屈指の薬師の一家だ。今回の件でつながりをもっておくのは悪くないかもしれない。と、

 

 アインズは自身の予想が外れて少しばかし肩を落としていたが、それでも協力者になってもらうという意思は変わらない。それから、時折ナザリックから送られてきてるアルベドからの報告書にその名はなかったはずと、記憶を掘り起こす。それも当然といえば、当然か、そもそも、エ・ランテルの担当者が自分たちだというのに、初日はレヴィアノールの実験や、あちこち見て回っただけで、聞きこみなどはしなかった。これなら、もっと力を入れるべきであったなと、軽く後悔する。ともあれ、トーケルの意思次第なのは変わらない。

 

 「分かりましたバレアレさん、その旅に同行させていただきます」

 「坊ちゃん!!」

 「心配するな、アンドレ、考えはある」

 トーケルは今回の旅でより多くのことを自分は経験すべきと主張し、アンドレもまた。それに従うのであった。

 

 改めて、互いに自己紹介を行い。その際に、生まれながらの異能(タレント)の存在を教えてもらい。まだまだこの世界には知らないことだらけだと思い知った。

 

 

 こうして、ンフィーレア・バレアレと「漆黒の剣」4名、トーケルとその従者アンドレにモモン一行3名、そしてその付き添いのリーダスと、合計11人と大所帯となって、カルネ村へと向かうのであった。その道中、アインズは今回はあくまでモモンとして訪れることに決めた。エモット姉妹はルプスレギナに任せて大丈夫だろう。カルネ村まではかなりの距離があるらしく、適当なところで、野営の準備に入ることになった。アインズ自身、その経験はないにも関わらず戸惑うことなく、作業を進めることができたのは、きっと彼のおかげなのだろうと心で感謝する。

 (ブルー・プラネットさん)

 

 すべての用意ができて焚火を囲んで食事にはいる。ルクルットとトーケルは何とかナーベラルの隣を陣取ろうとするも、彼女自身は主の隣に座るの望み、アインズも断る理由もなく、受け入れる。もう片方はなぜか見えないはずなのに鬼の形相をうかべているのだと分る。レヴィアノールが固いガードを敷いていた。とまあ、すこし騒がしくもようやく夕食に入るのであった。当然アインズも兜をとるわけだが、

 

 「その若さであの腕ですか」

 「く、ナーベちゃんに劣らずの美形かよ」

 「きっと、すごいタレント持ちなんでしょう」

 「黒髪、黒目ですか」

 

 (う~ん、昨日の登録の件もそうだが、この世界の人間はみんな眼科に行った方がいいんじゃないのか)

 ふと、臣下の二人を見てみれば、さも当然という態度だし、一体全体、この世界の顔面偏差値はどうなっているのやら。ちなみにレヴィアノールは少し被り物をいじったと思うと鳥の口の部分が開き、彼女の口元がかろうじて見えるようになる。

 「レヴィアちゃんはとらないの?」

 ルクルットが軽い調子で聞いてくる。ナーベ、モモンと美形続きなため、彼女の顔も気になったのだろう。

 「ごめんなさい。私、顔に傷がありまして、できれば」

 それ以上続ける必要はなかった。ペテルの放った拳がルクルットの顔面に突き刺さる。彼女はそういう設定だったはずだ。

 ともあれ、食事だ。しかし、

 (ま、まずい)

 どうしてもナザリックで食べていたものと比べてしまう。これは食にかんしては全力で彼らに頼ることになりそうだ。

 

 「ところで気になっていたんだけど、ナーベちゃんとモモンさんて、どんな関係、恋人だったりするの?」

 またもルクルットが突然話を切り出す。アインズは笑いながら、ナーベラルは多少動揺しながらも否定する。

 「ははは、違いますよ」

 「ち、違います!!」

 「そうですよ」

 ん?誰だ!肯定した奴。

 「レヴィア!」

 やや怒気を含めて叫んだというのに、彼女は本当に分らないという風に首をかしげている。

 「違いましたか?」

 本当に何を言っているんだこいつは?そんな設定はなかったはずだ。しかし、自分以上に取り乱したナーベラルはそれどころではないらしく。

 「な、何をいっているの!アルベド様という方が!」

 たまらず叫ぶ彼女の頭に手をおく、

 「な、アインズ様(モモンさん)?」

 「落ち着け、ナーベ、ルクルットさんもあまり詮索はやめていただきたい」

 「申し訳ございませんモモンさん、ルクルットもいい加減にしろ!」

 「レヴィア、お前も後で話がある」

 なんとか、その場はそれで納める。誤って情報が漏れてしまったが、まだ誤差の範囲内だ。今回の件は完全にレヴィアノールとの打ち合わせ不足だろう。後で詰めておかなければ、にしても

 (恋人、か)

 元の世界ではそんなものいなかったし、それはこの先も変わらないだろう。守るべき者達がいるのだ。先ほど、ナーベラルはアルベドの名をあげた。確かに彼女には感謝している部分もあるし、今の自分が最も近くに感じる相手ではあるのだろう。それでも、そういう関係になるつもりはない。アルベドには悪いが、彼女もまた自分が守るべき者の一人でしかない。

 

 (モモンさんには決まった相手がいるのか)

 トーケルは、それを聞いて、まだ自分の想いに望みがあるのだと、レヴィアノール曰く、悪あがきの決意をする。

 

 「それにしても皆さんの連携は見事でした。それに、冒険者とはこんなにも仲がいいものなんですか?」

 なんとか話題を変えようとアインズが切り出したのは、彼ら自身のことであった。ペテルもそれを汲んでくれたのか、話を続ける。

 「命を預けあっていますからね、普段から互いが何を考えているのか、分らないと危険ですからね。それで、いつのまにか、そうなっていますね」

 それをニニャが引き継ぐ、

 「それにチームの目標も、まあ、しっかりしたものがあるからじゃないでしょうか?」

 それはアインズにも思い当たるふしがあった。

 「…………そうでしょうね。皆の意思が一つの方向を向いていると全然違いますよね」

 「あれ?モモンさんもチームを組んでいたんですか?」

 

 「…………冒険者ではないですけどね」

 それから、アインズは語る。かつて自身を救ってくれた純白の騎士の存在を、そして、彼に案内され、4人の仲間に出会い、それから、更に3人加わり、様々な冒険をしたということを、ナーベラル達も聞き入っていた。まぎれもなく、ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」始まりの9人の物語であるのだから。すべてを話終えて、ニニャがなだめるように言う。

 「いつの日か、 またその方々に匹敵する仲間ができますよ」

 その言葉に一瞬、苛立ちを募るもの。共にある彼女たちを思い出して、

 「そんな日は来ませんよ。…………でも、後悔もありません」

 言葉をつづけながら、ナーベラルの頭に手を置く、できることなら、レヴィアノールの頭にも手を置きたいところだが、位置的に難しい。

 「確かに、彼らに並ぶとは言えませんけど、それでも、自分には勿体ないくらいの者たちですよ」

 その顔は穏やかなものであり、もしもアルベドが見ていれば、涙をながす光景。こうして一行はそのまま一夜を和やかに過ごすのであった。

 

 

 

 

 

 

 『ということでして、今回はモモンとその一行として、対応をしてほしいとのことです』

 「畏まりました。デミウルゴス様」

 伝言(メッセージ)を終了して、ルプスレギナは現在自身が仕えている姉妹の元へともどる。ベッドでは二人仲良く寝息を立てている。その微笑ましい光景に思わず頬がゆるむ。と、ネムの顔が苦痛にゆがみ始める。もしや、悪い夢でも見ているのかもしれない。彼女は優しく、その額に手を置いてやる。

 「安心してお眠りください。危険などありえませんから」

 表情が和らいだの確認して、一度外へと出る。外は星明かりでまったくの暗闇ということではなかった。彼女は一度両腕を広げるように伸びをした。本来であれば、その必要はないのだけれどなんとなく、というべきか、時折やりたくなるのだ。

 

 「久しぶりにナーちゃん、レイちゃんに会えるっすね」

 まだそんなに経っていない気もするが、それでも妹や同僚と再開できるのは喜ばしい。まあ、表向きは他人ということになるが、その事を姉妹にも秘密というのが少々心苦しく感じるものの。主が決めたのであれば、それに倣うまで。ナザリックからの出向者として、かの方の従者として、そしてあの姉妹の使用人として完璧なもてなしをしなくてはならない。例の実験も少しづつではあるが、進んでいる。さて、自分も寝るかと、エンリが自由に使ってくれと用意してくれたベッドに入り込む。おそらくは親の遺品だろうに、本当に優しい少女だ。もしも襲撃があれば、すぐに跳ね起きると認識を確認したところで彼女も眠りにつくのであった。

 

 

 

 男はひたすらに歩いていた。おぼつかない足取りでなんとかというところを、自分は許しをもらわなければならない。それまでの信仰心なんて捨ててやる。私は生きたいんだ!男はただ、歩き続ける。目的地があるように見えて、たださまよっているようにも見える旅路を進む。

 

 

 

 

 

 同時刻、エ・ランテルの裏通り、その一角で二人の男女がむかいあっていた。

 

 どうしてと思う。確かに依頼通り情報を持ってきたというのに、何なんだこの仕打ちは、目前には仲間たちの死体が転がっている。

 「んふふふー。後はお兄さんだけだねー」

 化け物、そう、こいつは人の皮を被った獣と変わらないと確信すると同時に恐怖から逃れたいと口を開く、何とか、

 「どうして、こんな事をするんだ?俺たちはちゃんと情報を売ったぞ?」

 彼女が欲したのはあの高名な薬師少年の行方であった。そしてこの時期であれば、辺境の村へと向かっているはずだと、望み通り、高すぎず、かといって舐められない金額で渡したというのに。女は薄く笑いながら続けた。

 「別に意味はないよ?そう、しいて言うのなら、八つ当たり?」

 この瞬間ばかりは例の少年に同情してしまう。こんな奴に目をつけられたのだから。

 

 「ん~これは待つしかありませんな~」

 先ほど男を刺殺した得物を手元でもてあそびながらこの女には珍しい発言をする。

 「すこ~しいい~やりすぎ~かな~」

 声をかけてきたのは今回、目的の為に手を組むことになったやつだ。正直そのしゃべり方はうっとおしく感じるものの殺そうとしたら、こちらもそれなりの犠牲を覚悟しなくてはならないと直感が告げて来る。

 (カジッちゃんに言われているからさ~)

 ここはしばらくおとなしくしているしかないとやや不満ながらも待つことにする、そして、その少年が手中に落ちた時を思い笑みがこぼれる。それを見せられたほとんどの者が恐怖するであろうその狂気に満ちてるともいえる笑顔を見せられた男は。

 (よく笑う娘だなああ)

 と、感想を抱くだけであった。

 

 

 城塞都市に静かにしかし確実に危機が迫っている。

 

 

 

 




 次回、噂ばかりが先行しすぎた彼女がでます。

 それと、話の都合上、原作よりも城塞都市からカルネ村への距離があるという事になっています。

 11/23誤字報告確認しました。ありがとうございます。

 11/24補足説明を追加します。トーケルとアンドレというのは原作ドラマCD「漆黒の英雄譚」に登場するキャラクターで、よろしければ、YouTubeなどで聞いてみてください。「オーバーロードドラマCD」で検索すると出てきます。
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