オーバーロード~遥かなる頂を目指して~   作:作倉延世

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 今回、最終話ということでいつもより多めです。


第2章最終話 私の想い

 

 漆黒の剣と二刀の男の戦いは漆黒が押していた。それもそのはず、ペテルは男の底が見えないと評したが、実際のところ剣をぶつけてみて愕然とするような思いであった。その男はいわば、武器を振り回しているだけであり、これまで、死闘をこなしてきたペテルやダインにとっては、特に脅威ではなかった。しかし、楽にいくという訳ではなかった。振り下ろされた相手の剣を盾で殴りかかるように防ぐ。

 

 !!!!!

 

 金属音が鳴り響き、衝撃と共に左腕に痛みが走るが、別に動きに支障はない。反撃として、相手の喉めがけて、刺突を繰り出す。それを相手の男は、剣ごとバク転する形で回避する。どこか人形めいた動きに頬を汗が伝う。

 (なんて動きだ)

 これが男とペテルたちの経験値の差を埋めていた。まるで、曲芸士のような男の動きには、重心移動というものがなかったのだ。そして型のない剣裁きがかえって、軌道を読みにくくしていた。もしかしたら、男が持つタレントなのかもしれない。あるいは、独特の武技なのかもしれない。この世界で、未知の戦法、未知の動きを持つ相手を前にして、初めに疑うのはいつだってそれだ。だけど、ゆっくり時間をかけている余裕もない。自分たちの後ろに控えている。ンフィーレア達3人にも周囲からゾンビたちが集まってきている。その数10、一体どこから出てきたというのか。ナーベも、あの女に捕まってしまっている。間違いなく自分たちが足を引っ張っている。彼女はこちらにも気を付けてくれている。そして相手の女が厄介だ。彼女のそういったところを見抜くや否や、こちらへと攻撃を仕掛けようとするのだから。そして彼女もその対応に追われて、全力を出せていないようであった。

 (勝負に出るしかない)

 この男一人にいつまでも4人が捕まっている訳にはいかない。例え、刺し違えても状況を変えるべきだ。先ほどは全員で生還すると決めたのに、仲間たちに申し訳なく思ってしまう。

 (ルクルット)

 いつも見境なく、女性に声をかけているようで、引くときはしっかりしているのは知っている。やれば、できるのだから。私がいなくてもしっかり、やれよ。

 (ダイン)

 その朗らかさと、豊富な知識にはいつも助けられてきた。ダインの作ってくれた薬がチームの危機を救ってくれたこともあったな。これからも支えていってほしい。

 (ニニャ)

 その高い魔法適正がこのチームの中核だったと思う。いつかお姉さんと再会できるといいな。あと、君は隠していたつもりのようだが、もっとうまくやらないと、多分気づいていないのはルクルット位だろう。あいつは女性にしか目がいかないからな。

 (ありがとう)

 みんなでできた冒険、とても楽しいものだった。

 

 一気に間合いを詰めるため、走り出す。後ろから仲間たちの叫び声が聞こえるが無視して突っ込む。相手も驚いているようだ、すぐに先ほどと同じように後ろに回避しようとするが、

 (逃がすか!)

 そこで、上体を前に倒して、一気に加速。そして、その首狙い、これまでのすべてを出し切るように剣を振るう。利き手に加わるのは、まるで、斧を木に叩きつけたような感覚。反動で、腕が飛びそうになるし、できることなら、はやく楽になりたい。しかし、絶好の機会であることも確か、

 (うおおおお!!)

 戦士、ペテル・モーク渾身の一撃がその不気味な男の首を斬り飛ばす。それは、間違いなく快挙であるものの、疑問も残る。男は無抵抗で死んだのか?否、そんな訳がない。何故なら、その両手には既にブロンズソードはないのだから。

 

 そして、

 

 「ナーベさん!」

 

 ナーベラルとて、油断していた訳ではない。では、何故気づかなかったというと、いくつかの要素があった。まず正面で相手をしている。彼女からしても狂っていると評価せざるをえない女の対処で視野が狭まり。周囲の喧騒、爆発音、そして、悲鳴に、肉を食いちぎる音などに聴力をどうしても割いてしまい。ペテルたちやンフィーレア達にもいくつか気を割いて。そして、何より大きかったのは、その男が()()で投げたということが大きい。男は別に女を援護するつもりも、まして、一行を攻撃する意図も、いや、それさえ特段考えることもせずに、無造作に、ゴミ箱に向かって空き缶を投げて、そして、その行方すら確認せずに歩き出してしまう無責任な人間のように剣を放り捨てただけに過ぎなかった。それが、偶然にも彼女に襲い掛かったという訳だ。

 

 (!!!!)

 

 そして、誰も気づかない。迫りくるゾンビたちの内1匹が、他の個体より、ややその動きが速いということに。

 

 

 

 

 

 

 モモンはリイジ―の案内に従い、バレアレ宅へと急いでいた。途中、可能な限りで、ゾンビの首も斬って行く。それにしても数がすごく多い。ここまで来るのに、軽く300は超えていた。一体これだけの量をどうやって、用意したかということだ。使われている魔法は第3位階魔法〈不死者創造〉(クリエイト・アンデッド)であることは間違いない。だとしたら、

 (いや)

 この世界の人間は第3位階を使えれば、それだけで優秀な部類に入るという話を思い出して、今回の騒動の犯人達も現地人かと、落胆しようとしたところで、思い直す。それを知っている上で、罠として用いている可能性も考慮しなくてはならない。もしもプレイヤーが関わっていれば、

 (殺シテヤル)

 殺意が溢れてくるのを自覚していた。プレイヤーがこの世界で簡単に神のような存在となれるのは、既に話を聞いている。しかし、だからといって。欲望に任せて人を、世界を傷つけるというのであれば、それを止めるのは自分の責任とも言える。

 「はは」

 「モモンさん?」

 思わず笑みがこぼれる。レヴィアが心配そうに見てくるので、手をかざしてやる。おかしいと思ったのは、自分の精神性の異常さだ。自分は決して正義感が強い人間ではない。なのに、先ほどの思考に陥った理由を探ってみる。そして、すぐに答えがでた。やはり、アインズ・ウール・ゴウンの信念はそういうことか、と。

 そう、自分はただ、彼女たち(NPC)の故郷たるYGGDRASIL(ユグドラシル)の名を汚したくないのだ。その世界からこの世界に数多のプレイヤーが、NPC達が、アイテムが、拠点が流れたのだ。そしてそれを用いてこんな悲劇しか生まないのであれば、それはあの世界がこんなものかと思われる行為だ。それは自分にとっては最大限に不愉快に感じることであった。あそこは自分にとって、大事な思い出の地であり、彼らの生まれたところであるから。

 そして同時に安堵する。自分はそうではないと、確かに楽園を作りたいと言った。それは最初はあれ程の力を持ったものとしての責任感から出た言葉であった。元の世界では失敗した。だからと、だが、今は違う。あの時、ナーベラルと共にカルネ村を、そして、笑ってくれているあの姉妹や、何より、宝たるNPC達を見ているうちに見えたのだ。かつてのギルドの姿を、そう、自分は本当にそう望んでいるという事を。変な義務感に駆られた英雄ではなく、ただ、穏やかな世界を求める死の支配者(オーバーロード)なのだ。そして、その世界を実現するためにも、あの薬師少年に漆黒の剣、あの若き貴族、たくさんの人たちの手が必要なのだ。

 「もうすぐ、家じゃ」

 聞こえるのは、その少年の祖母の声、気づけば、無意識にゾンビを屠っていた。だいぶ考え込んでしまったようだ。

 

 現地についてみてみると、ゾンビの群れにローブを纏った男と戦っている漆黒の剣たちに、そして、胸元を抑えているトーケルとそれに寄り添うアンドレ、そして、刺突武器をふりまわしている女と戦っているナーベラルの姿があった。しかし、その場に

 「ンフィーレア?」

 リイジーの悲痛な声が響く、アインズは飛びだしていた。そのままグレートソードを引き抜き、大地に叩きつける。周囲の視線が集中する。特にナーベラルの顔は泣いているように見えた。

 

 「あらあら、お姉さんの恋人さん?アハハ!でもいいや~」

 女は昼寝に飽きた猫のようにその場を離脱した。もちろん逃がすつもりはないが、

 「いいのかなあ?ほっといたら~みんな死んじゃうよ?」

 そう、ゾンビの数が多いのも確かであり、そして、ペテルたちが相手をしている男も捕らえなけばならない。これを放置するわけにはいかない。

 「もう時間稼ぎもおしま~い。ねえねえ、お兄さんさぁ、あの子を助けたいなら、墓地に来なよ~二人仲良くあの世に送ってやるからさ」

 女はそれだけ言うと、闇に消えてしまった。しかし、それをすぐに追いかけるという訳にもいかなかった。

 「まずはここの制圧だな」

 

 

 

 

 ナーベラルは何度目になるか、自らの不甲斐なさを痛感していた。結局ンフィーレアは攫われてしまい、トーケルに怪我を負わせてしまったのだ。一体何度目の失敗だろうか?優しきこの御方に自分は迷惑しかかけていないのではないのだろうか?

 「ナーベ、話を聞かせてもらってもいいか?」

 主はそんな自分を気遣って、こんな時でも優しき言葉をかけてくれる。

 「畏まりました」

 

 

 アインズもまた先ほどあったことを思い出しながら、彼女の話を聞いていた。

 (んな阿保な方法を考えてくるとは)

 最初に襲ってきたのは2人、その内の1人に興味が湧く、()()()()()()があるにもかかわらず。ナーベラルと互角にやり合えるのは強者であることには違いないだろう。しかし、結局は現地人ということか、もしもプレイヤーであれば、彼女は殺されていたことであろう。安堵すると同時に自分の判断を誤ったと思う。これなら、レヴィアノールもつけてやればよかったと、そして自分がいないところでのナーベラルの振る舞いを細かく決めていなかったのもこの状況を生んでしまった原因であろう。今はナザリックはまだ表に出るべきではない。よって、現地人の、それもこんな街中で彼女が全力で活動するためには、現場責任者である自分に確認を取るべきであるのは確かであった。結局は自分の責任だ。それがアインズの見解。

 話は続く、もう一人の男はペテルが決死の突撃を行い、倒したという。しかし、その時に男が投げた剣をナーベを庇ったトーケルがうけ、その事に全員の意識が向いたときに、今度はゾンビの内1匹が突然爆走を始め、ンフィーレアをさらったという。そのゾンビの動きはとても死者のものではなかったという。つまり、

 (ゾンビに成りすます。武技、あるいはタレントか)

 仮死状態を自在に操れるものか、あるいは、生気を消すものか、まあ後者なのだろう。そして、そのタイミングで別の男、最初にアインズが見たローブの男も現れ戦闘になったという。それから数分後自分たちが到着したわけだ。それからあの女が離脱した後、その男を拘束しようとして、更に驚かされた。その男は腹を爆発させて、自殺したのだ。それも調べてすぐ分かった。あらかじめ、〈火球〉(ファイヤーボール)を仕込んだスクロールを懐に隠し持ち、それを躊躇いなく、発動させたということである。おそらく、今もあちこちで鳴り響いている爆発も同様の物を用いて行っているということだろう。つまり、

 (この騒動は計画されていた)

 ンフィーレアをどうするか、いや、彼のあのタレントを考えれば、きっとそうなのだろう。それにしても、先ほどの男。デミウルゴスが遭遇した奴といい、この世界では自決、自爆が常識なのだろうか?少年は自分の勘が正しければ殺されるということはないはず、何にしても救出にいかなければならない。が、

 

 「申、し訳ございませんアインズ様」

 目前の彼女は設定を忘れる程取り乱している。おそらくは自分の責任だと思っているのだろう。そんな訳ないのに、

 (部下のケアも上司の役目)

 一度、ここを離れることにしよう。

 「すみません。ペテルさん、5、いえ3分程時間をもらえませんか?」

 

 アインズの申し出をペテルは快く引き受けてくれた。代わりにレヴィアノール、ハムスケに残ってもらい、唯一の手掛かりである最初に倒れた男の死体を調べてもらうのと、トーケルの治療をしてもらう。

 

 

 路地裏に行き、その先で見つけた廃墟にナーベラルを連れ込んでやる。傍から見たら発情したカップルだなあと、場違いに思ってしまい、急いで取り消す。彼女たちをそういう目で見ることは許されない。

 

 「今だけは許そう、ナーベラル。落ち着いたか?」

 彼女は何とか頭を振っているが、とてもそうは見えなかった。少し待たせてやって伝言(メッセージ)を行う。二グレドにしてもアルベドにしても開口一番自分への謝罪であった。アインズとしては今回のことは完全に自分のミスだと思っている。このような形で襲撃を受けることもあるのだ。今回はたまたま、現地の人間だったからよかったものの、そうじゃなかったらと思うと、恐ろしくなる。それに、自分は明確に指示をだしたわけではない。これで彼女たちを叱るようであれば、それは勝手に期待を押し付けて、失敗したら裏切ったとわめく最悪の上司の部類だ。しかし、それを伝えたところで目前の彼女は納得しまい。まずは彼女を優しく抱きしめてやる。その行為に彼女は驚くものの、抵抗はしない。

 「ナーベラル。二つほど聞かせてくれ」

 「何でしょうか?」

 「お前はあの場の全員を護ろうとしてくれたんだな?」

 「……………はい」

 「それも、私が課した力の範囲内で」

 「……………はい」

 それで、さらに彼女は涙をながす。叱られるとでも思っているのか?腕に力をいれ、その頭に手を置いてやる、彼女にたいしてはもう一種の癖になってしまっているような気がする。

 

 「ナーベラル・ガンマ、お前のその優しさに感謝と敬意を」

 彼女は何を言われたかと分からないといった様子であった。だからこそ、続ける。

 「ンフィーレア・バレアレが攫われた時、残ったのも、あの女がいたからだろう。そして、お前はその場の者たちをそれ以上傷つけなかった。よくやった。十分すぎる結果だ」

 「しかし、私は」

 「完勝とは言えないが、お前の勝ちだ。そして、ありがとう。そんなお前、ナーベラル・ガンマこそ私の最大限の誇りだ」

 「あ、アイ、アインズ、様」

 

 ナーベラルもまた、主の慈悲深さに感謝すると同時にこんな時だというのに、幸福を感じている自分がいることを、できることなら、このまま身を任せてしまいそのまま時間が止まってしまってくれればと願っている自分がいることをどうしようもなく、感じていた。

 そのまま少しの間、漆黒の鎧をまといし支配者は黒髪の従者をだきしめていた。

 

 1分後、

 

 

 「お待たせいたしました」

 「いえ、気になさらずに、それと」

 ペテルの声はやや不安げであった。確かに、人目のつかない所に身内だけとなればその危惧がうまれるのも当然か。

 「安心してください。別に叱っていたわけではないので」

 アインズのその言葉と、ナーベラルの表情をみて、ようやく漆黒の剣たちも安心したらしい。彼らもまた自分たちのせいだと思っているのだ。その事が無性に喜ばしい。トーケルの治療もおえたらしい。

 「ペテルさん、男の正体は分かりましたか?」

 「はい、『ヘッドギア』の構成員かと」

 「ヘッドギア?」

 「こちらを」

 ペテルが示したのは首なし死体の肩甲骨のあたりであった。そこにあったのは刺繍、笑う頭蓋骨、その頭に歯車が食い込んでいるものであった。それがある者たちの名が先ほどのものだという。そして、彼らは、

 

 

 (勘弁してくれ)

 ヘッドギアの実態を聞いて、アインズが最初に抱いた正直な気持ちだ。何の目的もなく、破壊活動を続ける一団だとか、何だその頭のおかしい集団は、文字通り歯車が刺さって、壊れたのか?それとも、

 (何かあるのか)

 現在エ・ランテルで暴れているのはその連中で間違いないだろう。そして、少年の救出もしなくてはならない。墓地はうまくやれば、人目につかない。

 (名声とか、言っている場合じゃない)

 自分なりに方針が定まった瞬間、そうと決まればまずは

 「ンフィーレア」

 力なく、孫の名を呼び続ける老婆へと向き直る。彼女とは身長差があるため、視線を合わせるため、膝をつく

 「リイジーさん、これから私はあなたの孫を助けに行きます」

 「本当か?!」

 突然なりだす目覚まし時計を思わせるようにこちらへと向いてくる

 「ええ、ですが、私も慈善事業はするつもりがありません。代わりといっては何ですが、お孫さんを救出した暁には一つ頼みを聞いてもらえますか?」

 「当り前じゃ!一つといわずに、いくらでも!だから頼む!ンフィーレアを」

 そこまでいうのであれば、問題はない、それにそれだけ、この老婆にとってあの薬師少年が大切ということなのであろう。将来悪い詐欺に引っかからないか心配になってくる。

 「分かりました。では、行きます。ペテルさんたちは可能な限りで構いませんので、この町の人たちの救助をお願いします。ナーベ、レヴィア、ハムスケはその補佐を頼む」

 言っていて思い出す。今の自分は新米たる銅級、それが銀級であるかれらにまるで命令をするようでまずくはないかと、

 「モモンさん、御一人で行かれるつもりですか?」

 怒るわけでもなく、心配してくれている彼らの人徳がありがたい。

 

 「ご心配なく、協力者にあてがありますので」

 最後に彼女の顔を見ておく、その顔は、あの日躊躇いなく、自分の為死ぬといっていた顔ではあるが、あの時とは違うものも感じる。

 「ナーベ、ここは頼むぞ」

 「お任せを、アインズ様(モモンさん)

 

 

 

 

 

 彼らと別れ、一人、目的地へ向かう途中、ナザリックへと連絡をいれる。二グレドたちの働きで連中が墓地で何かやっているのは確かなようで、そしてアンデッドの軍勢もいるという。次につなげるのは、

 「私だ。アルベド」

 『アインズ様、兵の派遣でございますね』

 相変わらず話が早くて助かる。

 「ああ、そうだ、念のため、エ・ランテルのほうには、シズ・デルタと、シャドウ・デーモン、エイトエッジアサシンを数体派遣してくれ、こっちは人目につかないことを心がけるよう頼む」

 『畏まりました。その人選で間違いないかと』

 「あとは墓地のほうに、少しばかし軍隊を派遣するよう頼む」

 『はい、人選は?』

 「そちらに任せる。担当はコキュートスだったか?」

 『ええ、彼も喜ぶと思います』

 思えば、いつか表に出た時のための軍のデビュー戦になるということか。

 「さて、行動を起こすとしようか」

 

 

 

 「おいおいマジかよ」

 衛兵の一人が呟く、見えるのは千ともいえるアンデッドの群れ、そしてそれを一人でなぎ倒していく鎧の男、男が右腕を振ればアンデッドが吹き飛ばされる。左腕を振れば、アンデッド達が数体まとめて両断される。そして一度止まったと思ったら。足を交差するように踏み込み、同時に左右のグレートソードを振って進路上のアンデッド達を斬り飛ばしながら突進する。その様はまるで大地に雷が走るようであった。

 

 「すごい、本当にすごいぞ、漆黒の戦士、いや、英雄だ。俺たちは、伝説を見ているんだ」

 この場で最も立場が上の衛兵の言葉であった。そして誰もが頷いていた。

 

 

 アインズにとっては都合のいい事であった。現在、彼は人間だ。そしてアンデッド達は生に激しく反応する。それは自分を囮に使えるということである。町のほうではまだヘッドギアが暴れていることであろう。これ以上、面倒ごとを持ち込むつもりはない。門からだいぶ離れたところで、止まる。周りをみれば、まだ数百ばかりのアンデッドたち。すべてを相手にしている時間はない。不意に後ろの空間が歪む。

 「オマタセいたしました。アインズさま」

 「ああ、お前かヘラクレス」

 現れたのは硫黄色な昆虫であった。そのほかにもスケルトン系統の者たちが40人程来ていた。彼は目前の群れをみると、薙刀を取り出した。

 「ウゾウムゾウごときが、ワレラがあるじのミチヲはばむか」

 そして振り下ろされ、叩きつけられた大地を激風が吹きすさぶ。モーゼを思わせるように、アンデッドたちがいない道が開けられる。

 「アインズさま」

 「ああ、後は頼む」

 後は彼らに頼めば問題ないだろう。その道が再び塞がれる前に走破する。

 

 スケルトン達も剣を構える。この日の為に研鑽を積んできたのだ。そして、コキュートスの選抜の結果、この場に立つことを許されたもの達だ。その腕に力が入る。

 

 (我ら、偉大なるアインズ・ウール・ゴウン様の剣たる誇り高きアンデッド。そこらの野良デッドとは違う所を見せてやれ!!)

 (((うおおお!!!)))

 

 こうして、戦力差にして、10倍以上。41対推定600近くの戦闘が始まるわけだが、アインズが心配をすることはなかった。

 

 

 

 クレマンティーヌは待っていた。後ろではカジットとその弟子たちが何やら儀式を行っていた。本来であれば、この時点で自分の仕事は終わり、あとは好きにすればいい訳だが、彼女はそれをせずにいた。

 「まったく、余計なことをしおって」

 後ろの方から苦言が聞こえて来るが、彼女は気にしない。先ほどは時間稼ぎのため、翻弄するような動きをとるように心掛けたが、今度はその必要はない。ンフィーレア・バレアレの価値を考えれば、あいつらは必ずくる。あの気にいらない瞳の女とそのつがいであろう全身鎧の男、2人とも血祭りにあげてやる。

 「安心してよ、カジッちゃん。たとえ誰がきても私が守るからさぁ~」

 カジットは白々しいと思いながらも、儀式に集中する。盟主からの紹介で雇うことになった。連中の助けもあり、あの町は確実に、濃厚な死の空気が広がりつつあることだろう。そして幸先いい事にあのイカレた戦士のおかげで当初の予定通りに進んでいる。あの至宝は一旦、盟主に届けるということで、例の下部組織の一員だという男に預けることになった。顔は思い出せない。それ程に特徴のない顔であった。

 (もうすぐよ)

 そう、これが、〈死の螺旋〉が成功すれば、自分の望みが、もう一度母に会えると、

 (これは?)

 聞こえたのは小石を踏みしめる音、目だけを動かして、見てみれば、やって来たのは法衣服をまとった。男であった。その顔には包帯がまかれており見えなかった。しかし、服には見覚えがあった。自分もその国の出身であったのだから。もう来たか、と内心舌打ちをして、

 「お主の出番ではないのか?」

 声をかけてみる。しかし、

 「ええ、知らなあ~い。カジッちゃんたちだけで頑張って~」

 半分は予想できていた言葉であった。この女はおそらく、次の獲物を決めていて、それはこの男ではないということか、

 (まったく)

 

 その男は目の前で儀式を行っている者たちを見て、結論を出す。これはたくさんの死者を出すものだと、そしてそれを真の神たるあの御方が許されるはずがない。と、手をかざし、宣言する。

 「我がタレントはあの方のために、行け!天使たちよ!」

 カジットとその弟子たちを炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)たちが襲い掛かる。

 

 

 

 アインズもまた、ようやくその場に到着した。何やら奥が騒がしいようだが、どうしたのだろう?やたら、見覚えがある天使たちもいるし。それより目の前の女に集中しなくてはならない。見間違えるはずがない、ナーベラルと互角にやりあった者だ。ハンデ込みだが、

 「あれぇ、お兄さんだけ?あのお姉さんは?」

 そう返しながらもクレマンティーヌなりに結論を出していた。おそらくはあの女を死地に連れてこないというこの男なりの思いやり、そんなもの、蟲の気概ほどしかないというのに、ますます腹が立ってくる。ならばこの男を殺してやって、次にあの女を殺すだけだ。

 「お前たちが騒動を起こしてくれたから、私しか来れなかった。それだけだ」

 アインズもまた、事実を淡々と紡ぐ、実際、ヘッドギアさえいなければ、ナーベラル達も連れてきたかったのが本音に決まっている。しかし、それ以上にエ・ランテルが攻撃を受けているのもまた事実。後ろにも気を使わないといけいないのは、結構神経が擦り切れる。女はその言葉を聞いていないように続ける。

 「ええ、でもさあ、優しいよねえ、あのお姉さんじゃ私に勝てないもんねえ?そんなに大事なんだあ?」

 その言葉をうけ、大事な臣下を馬鹿にするようなことを吐いたというのに、

 「ははははは」

 笑っていた。と、それを見せられて、初めて女の顔に困惑の顔が浮かぶが、すぐにいつもの表情に戻る。

 「何笑っているの?」

 その喋り方が先ほどと違うものであること、少しはこの女の調子が崩れたとわかり、アインズは続ける。

 「お前は本当に勝っていたといえるのか?」

 「あん?」

 アインズは頭に指を向け、数度、叩くことで挑発する。お前の頭は大丈夫か?と、そして続ける。

 「あれだけの襲撃をかけていながら、成果は少年一人拉致るのと、貴族1人を傷つけるのが精々だったのが?」

 事実そうであろう。ンフィーレアをさらったのは事実だが、結局できたのはそれだけだ。と言い放ってやる。それで完全に理性は飛んだらしく女はスティレットを取り出す。

 「へえ~そうなんだ~………死ね」

 言葉と共に突撃してくるアインズとて、早くすむのであれば、それが好都合である。

 

 (ふざけてんの?)

 全身鎧の男と戦ってすぐにその力量はわかった。大口叩くだけあり、ある程度動けるようだが、そんなもの所詮は訓練をある程度、おそらくは10年ほど、積んだものでしかない。英雄の力を持つ自分には遠く及ばない。それなのに、

 「やはり、本職の戦士というものは違うな」

 訳の分からないことばかり言っている。今、拮抗しているのだって、自分が手を抜いてやっているからだというのに。二人はそれぞれの武器で激しく火花を散らし、一度距離をとる。

 「お兄さんさあ、そんな腕で私とやるつもりだったの?確かにあのお姉さんより強いのは分かるけど~」

 確かにカタログ通りであった。しかし、期待以上ではなかったと、通信販売にクレームをつけるように文句をつける。そして、いい加減飽きてもきた。次で決めて、その死体をもって、あの女のところへいってやろうと。

 「ああ、そうだなそろそろ終わりにしようか」

 立場を弁えていないその言葉に苛立ちを募らせながらも、必殺の構えをとる。そして、可能な限りの武技を発動させる《疾風走破》《超回避》《能力向上》《能力超向上》

 そして、一気に体重をすべてかけて男へと接近する。少し驚いているようだが、もう遅い。その兜の隙間に刺突を浴びせてやる。頭を貫く、心地い音が響き、そしてあらかじめ仕込んでいた魔法を発動する。

 〈雷撃〉(ライトニング)

 周囲に漏れる程の雷が広がる。

 (まだ終わらないよ)

 続けてもう片方の手も同じように相手の残った目にさしてやり発動。

 〈火球〉(ファイヤーボール)

 今度は男を炎が包む。こうしてクレマンティーヌは勝利を確信した。

 

 

 

 

 

 カジットは焦りを覚えていた。襲いかかってきた男が思いのほか強かったのだ。天使たちによって、弟子たちはすでに無力化されていた。

 (やむをえまい)

 自らの切り札をきることにする。上空から舞い降りる巨大な影、それは骨組みで造られたような存在であった。

 骨の竜(スケリトル・ドラゴン)

 魔法に耐性をもつ最強の存在だ。これで勝負はきまった。相手は大方、いや、どの系統の魔法詠唱者でも関係ない。これを前にすれば、すべてが無力だ。

 「ふははは、言葉もでんか、法国の者よ」

 事実、ドラゴンは男の召喚した天使たちを一蹴した。勝負ありだ。

 

 「一つ間違いがある」

 「何じゃ、命乞いか?」

 

 もしそうであっても許すつもりは毛頭ない。これだけのことをしてくれたのだ。男は指をたて天に向ける。

 「今の私は法国の神官ではない、洗礼名もすでに捨てた」

 自分と似たような経歴を持つ男かと、特に興味も湧かないが、男は言葉を続ける。

 「今の私はただの罪人だ。あの御方の許しをいただくためにも、善行を、貴様を止めさせてもらうぞ」

 やっていることが、人道から外れているのは百も承知だ。それでもやめるなんて選択肢はない。

 「ふん、それがどうしたという」

 男は手を再び空にかざす。何をするつもりというのか?

 「いでよ!偉大なる大天使、慈悲深き、神の使者たる者よ!〈威光の主天使〉(ドミニオン・オーソリティ)!!」

 それはまさしく奇跡の光景、本来あり得ないことをその男はしてみせた。それはカジットも感じたもののそれでも怖れを抱くという事はなかった。確かに想定外の天使の出現、しかし、ドラゴンには魔法耐性という絶対の盾がある。

 「貴様は馬鹿だな、そんなものわが竜の前では無力よ」

 ドラゴンは天使と男に向かって、その体を食いちぎってやろうと、顎を開く、男はただ、静かに、回復した病人が動き出すようにゆっくりと手を向ける。

 「放て!奇跡の一撃、〈善なる極撃〉(ホーリースマイト)!」

 召喚された天使はその言葉に従い、自身に向かってくるドラゴンを狙い、光を放つ、カジットは相手を哀れに感じた。次の瞬間には、男と天使は食い殺されることだと、しかし、期待は裏切られる。ドラゴンは光に包まれて消滅した。

 「馬鹿な!!」

 何故だ!魔法耐性はどうした?

 

 この現象を説明するのはいたって簡単だ。カジットは骨の竜(スケリトル・ドラゴン)のその能力に絶対の信頼を置いていたらしいが、あくまで、防げるのは第6位階以下の魔法までである。対して、天使が放ったのは、第7位階魔法、結果は明白なのであった。

 

 

 同じころ、クレマンティーヌはおそらく生涯初の恐怖を感じていた。両目を貫き、炎に包まれた。なのに、

 (どうして死なない!?)

 鎧の男は立ち続けたままであった。そのまま死んだ、いや、彼女の戦士としての勘が告げる目前の男は死んでいない、それどころか、おそらくは痛みも感じていない。しばらく、直立不動で立っていたと思うと、

 「はっはっはっはっは!!!!」

 「ひいぃ!」

 男は壊れたように笑いだしたのだ。彼女はこれも生涯初となる。思いのほか可愛らしい悲鳴をあげる。

 「そうか、そうだったのかぁ!!」

 何を喜んでいるのかわからず、腰が抜けてしまい、動けなくなるばかりであった。

 

 アインズは歓喜していた。「人化の指輪」自分はその特性を、まだ見落としていたと、そして、そのさらなる効果を知ったのだ。確かに眼球はつぶれ、一瞬痛みも感じたし、いまもその辺りに違和感があるのは確かだ。しかしそれだけである。問題なく見えている。最初は人に化けられるものであると思った。しかし、違う、実態は

 (人の皮を被ったアンデッドということか)

 そしてそれを自覚するたび、狂喜が止まらない。今の自分は恐ろしいアンデッド、ピッタリではないかアインズ・ウール・ゴウン。お前は既に人ではなくなり、戻ることは叶わないと、しかしかえって欣喜する。今の自分は子供の我儘のようなことをやろうとしているのだ。好都合だと、

 

 そして、正面の女を見据える。今回の件、引き渡すのは奥で謎の神官と戦っている老人だけでいいだろう。この女は利用する価値がありそうだ。

 

 「君には感謝しよう。お礼に面白いものを見せてやろう」

 アインズは兜だけ、器用に、魔法で取り外す。

 「!!!!」

 クレマンティーヌは絶叫した。兜の下からでたのは、刺突武器が両目に刺さり、醜く歪んだ顔、雷や炎に焼かれてただれ、血も大量にながれている、間違いなく絶命しなくてはいけないのに、笑っているのだ。そして、ことここに至ってようやくその可能性が頭をよぎる

 「人間じゃない」

 「ほう、よく分かったな」

 もしもハムスケであれば、この状態でも人間とはそういうものかと結論を出すに違いない。なら、もうこの姿も無意味、アインズは人化の指輪を解除、支配者としての姿に戻る。

 「死者の大魔法使い(エルダーリッチ)!!」

 「まあ、その辺りだろうな。さて、まだやるか?」

 女は完全に動けず、首を横に振るばかり、そこに、先ほどまでの狂戦士としての姿は見られない。

 「そうか、では、しばらくそこにいろ。逃げられると思うなよ?」

 アインズはそういって、ゆっくりと、王が玉座への絨毯を踏みしめるように歩き出す。もはや、クレマンティーヌは、彼女は彼女ではなかった。そこいるのは、恐怖に顔を青ざめる。少々、露出が激しい、女性でしかなかった。

 

 「お二方、少しばかし話をしませんか?」

 奥へと歩みを進みおえて、そこで対面していた2人に声をかける。おそらく片方は味方、とみてもいいか、いいや、油断はしてはいけない。第3勢力の可能性も考えないといけないと思考するアインズを驚かせる光景があった。

 「アインズ・ウール・ゴウン様あああ!!」

 なんと天使を召喚した方の男が突然、走って寄って来たかと思うと、顔の包帯をほどく、現れるのはひどくやつれた顔、そして躊躇いなく、土下座をしたのだ。これには、アインズも度肝を抜かれそうになるが、

 「お前、………誰だ?」

 間抜けにもそう言葉にするしかなかった。本当に覚えがない。男はめげることなく、言葉を続ける

 「私でございます。ニグンでございます」

 「はあぁ!お前がニグン・グリッド・ルーインだというのか?」

 さすがにそれを忘れる程、アインズも落ちぶれていない、しかし、目の前にいる男は以前の面影がまったくない。それ程までに変わり果てていたのだ。肌の色合いや、肉付きなどから、おそらく、何も食べていないのだろう。

 「今はただのニグンでございます。お許しくださいアインズ・ウール・ゴウン様」

 アインズはただただ困惑する。何を許せばいいというのか?そして

 (もしかして)

 あの時の演技込みの脅しが原因かと思って、猛烈な罪悪感に襲われる。自分としてはしっかり、使者としての役割を果たしてくれれば、それでよかったのだ。それなのに、ここまで変わってしまった彼をみて、

 (うわぁ、どうしよう)

 という思いが強くなっていた。そして思い出す。デミウルゴスとのやり取り、「必要があれば神を名乗る」その為には宗教団体が必要になるかもしれないし、

 (アルベド次第だな)

 この男の行為に自分以上に怒りを抱いていた。彼女を思い出すが、彼は今回、自分の手伝いをしてくれた。許してくれる可能性は十分にある。

 「ニグンよ、今回のお前の働き、感謝しよう。お前の処遇はおいおい決めるとしよう」

 「ありがとうございます。慈悲深き、神よ」

 ああ、すっかり、その方向なのか。この男はそれでよし、次は

 

 カジットもまた絶望を味わっていた。切り札たる竜が倒され、そして、その天使を召喚した神官とその主である神が立ちふさがったのだ。

 (あの姿、もしやスルシャーナ様?)

 そして溢れるのは怒り、なんで今なんだと?どうして、あの時来てくれなかったと、手元にあるのは、死の宝珠、その負のエネルギーは沢山あるが、既に意味はない。そして今、彼が望むはすべての死、

 (すべて、すべての者に死を)

 アインズがニグンとのやり取りに要した僅かな時間、それを用いて、召喚する。骨の竜(スケリトル・ドラゴン)集合する死体の巨人(ネクロスオーム・ジャイアント)

 「行け!すべてを殺し尽くせ!!」

 2体のモンスターたちは、まるで誘われるように、ドラゴンが巨人を抱える形で都市へと飛んで行く。

 

 

 (まだ暴れるつもりか)

 アインズはその光景をみて、まずいと感じる巨人はともかく、ドラゴンは少々厄介だ。それにこれは自分のミス、自分が取り戻すべきだ。まずは、急いで伝言(メッセージ)をつなげる。

 「アルベド、すまない。治癒能力に長けた者、ルプスレギナがいいな、来るよう伝えてくれ」

 『かしこまりました。それと、そこにいる不愉快な女ですが』

 「ああ、今回はこの老人を突き出す。あれは利用できそうだ。詳しいことはあとで伝える。ひとまずは逃げないよう監視だけ頼む」

 『でしたら、姉にそう伝えます。アインズ様はこれから?』

 「決まっているだろう?」

 アインズはこれからの振る舞いを必死に頭の中で作っていき、再びその姿を戦士へと変えながら答える。

 「ドラゴン退治だ」

 

 

 エ・ランテルでは、冒険者たち、そしてアインズの命を受けた姿なき者たちがゾンビ、テロリストたちを相手に戦っていた。ヘッドギアは本当に異常な集団であった。相打ち上等の自爆戦法をとってくるのだ。それでも被害者が少ないのはナザリックから来たもの達の助けが大きいからだ。誰も気づきはしないが。しかし、ここで新たな脅威が迫る。

 

 空から突然巨人が降ってきたのだ。

 

 「くそ、俺はここで死ぬわけには、…………ぐわああああ!!!」

 それが、ミスリル級冒険者チーム「クラルグラ」のリーダーにして、最後の生き残りであった。イグヴァルジの最後の言葉であった。彼は巨人に踏み潰されたのだ。そして、彼らもここいた。

 

 「ペテル、流石にあれはまずいぜ!」

 漆黒の剣、そしてモモン一行からの協力者たちとトーケル、アンドレ、リイジ―達も運悪く、その場にいあわさてしまった。しかし、ここは逃げる訳に行かない。

 (守ってみせる)

 決意と共にナーベラルは剣を手にかけ、誰かに捕まれるのを感じた。しかし、何の不安も、不快さもなかった。

 「アインズ様(モモンさん)

 いつの間にか、隣に立っていたのだ。そして周囲の者たちもそれに気づき、声をあげる。

 「「「モモンさん!!」」」

 「孫は!」

 「大丈夫ですよ」

 そういうなり、モモンは傍らにいた少年を指し示す。その顔は少々困惑していた。目覚めてみれば、ここにいたのだ。当然といえる。しかし、それでも元気な姿に変わりない。

 「ンフィーレア!!」

 「おばあちゃん?」

 抱き合う孫と祖母をみて、アインズはよかったと思うと同時に気を引き締めていく。

 

 「すいません、あれはもらえますか?」

 グレートソードを高々と掲げ、巨人と飛び回るドラゴンへと向ける。

 「まさか、できるというのですか?」

 トーケルが信じられない者を見る目で見て来る。アインズはただ首を縦に振るのみ。臣下たちは当たり前という顔をしている。そして、誰もそれに答えることはできなかった。それを肯定と判断して、歩き出す。4歩程進んだところで走り出す。巨人は踏み潰すべく、片足をあげるが、アインズもその瞬間を狙っていた。上体を後ろに下げながら、ブレーキをかけ、投擲の形をとり、一気に右腕でグレートソードを投げる。それは巨人の額に突き刺さる。巨人はまるで自分以上の質量をぶつけられたように後ろにのけぞる。やがて倒れた巨人に素早く飛び乗り、その首をもう片方のグレートソードで両断する。

 「すごい」

 それは誰が発したか分からない。見ているのはモモンの関係者だけでなく、冒険者、衛兵、そしてエ・ランテルに住む無数の住人たちもいた。

 

 次に襲い掛かったのは、ドラゴンだ。急降下する形でアインズを踏み潰そうとするが、それをかわして、その巨体をまるで壁を走るように。その頭を目指す。そして先に戦った女が見せたように、その頭に二本のグレートソードを突き立て、

 (さて、どうだ)

 同じようにあらかじめ()()()()を使い仕込んだ魔法を発動させる。

 (借りるぞ、ナーベラル)

 

 〈二重最強化(ツインマキシマイズマジック)連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)

 

 輝かしい雷が散り、砕け散るドラゴン、そして、ゆっくりと、まるでパラシュートを使っているように降下する、モモンに誰もが見とれた。まさに英雄の降臨だ。

 

 そしてそれを見ていたナーベラル・ガンマもまた、というかようやく認めることができた。自分の気持ちというものを。そして、彼女は1つの決意をする。

 (アルベド様に申し上げなければ)

 その結果、殺されてしまっても仕方ない。すべては自分が悪いのだから。

 

 

 こうして、エ・ランテルの騒乱は収束していくのであった。

 

 

 

 

 

 その日の夜、アルベドは最早定位置とも言える。執務室にいた。城塞都市の件は一旦、保留ということで、関わったもの達も、そのほとんどが帰還していた。無論愛する主も。

 

 「アルベド様、ナーベラル・ガンマでございます。只今、よろしいでしょうか?」

 今回、主に付き添い、よく働いてくれたメイドの声だ。少し震えているようだが、

 (もしかして)

 「ええ、許可します」

 入ってきた彼女はやはり、どこかおかしい。その様子にアルベドは確信をもって、言葉を投げかける。

 

 「アインズ様の事ね?」

 途端、彼女は顔を真っ赤にさせて、うつむいてしまう。分かりやすい、本当に。

 「あの、何と申し上げれば」

 確実に自分に対して、罪悪感を感じていることだろう。だからこそ続ける。

 「別にいいわよ」 

 その言葉だけで済む話だ。彼女は困惑していた。当たり前だろう。 

 「好きになるのは、恋は、理屈じゃないでしょう?」

 「しかし、私は従者の身」

 「正直言うとね、私は嬉しいのよナーベラル」

 「????」

 そして、アルベドはナーベラルへと伝える。愛する主、アインズを一人で支える自信がないのだと。主は文字通り、すべてを背負ってしまうだろう。その御心を自分一人で支えるのは難しいかもしれない。だからこそ、本気で主を心から想ってくれる者が増えてくれることを、そしてそれを聞いていたナーベラルはその間、ひたすら涙を流していた。もしかしたら、彼女は泣き虫になってしまったかもしれないとアルベドは考える。といっても咎める気も毛頭ないのだが、そして最後に確認をとる。

 「ナーベラル、一つだけ言っておかないといけないわ、私はあの方の正妻の座、それだけは誰にも譲るつもりはない。あなたはそれでいいの?」

 そう、それだけはどうしても曲げられない。あの方の隣だけは、なんとしても。彼女は泣きながら、答えてくれた。

 「も、勿論でございます。ありがとうございます。優しき、アルベド様」

 「くふふ、それはあなたもよナーベラル」

 「とんでもございません!!」

 

 女たちは結束する。愛する男の為に、一方。

 

 

 

 

 「パンドラズ・アクター!!お前だろ!さっきからスペードを止めているのは!?」

 「はて?何のことでございましょうか、我が創造主?」

 「とぼけるな!!」

 「コキュートス様、クラブを出してくれますでしょうか?」

 「ソノ手二ハ乗ランゾエントマヨ、ダイアダ」

 「はい、上りでございます」

 「何!?」

 

 臣下たちと7並べに興じる支配者がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 「俺たち、昇格したな」

 始まりはルクルットの言葉、そう、あの騒動の功績で漆黒の剣は銀からミスリルへと昇格したのだ。それも当然かもしれない。あの騒動で「クラルグラ」を始め、多くの冒険者が死んだのだ。この昇格はその不足分を補うためかもしれない。

 「しかし、モモン殿達には敵わないである」

 ダインが続ける。そう、彼らは一晩の騒動で、銅から最高位のアダマンタイトへと昇格したのだ。これは住民たちからの嘆願が大きい、あの戦いぶりを見せられれば、仕方ないといえる。

 「でも、やっぱりすごいですよ」

 ニニャの称賛、彼、いや彼女は既にモモン達のファンなのだろう。

 「そうですね、おや、噂をすれば」

 

 見れば、その一行の片割れ、漆黒の戦士モモンと、その仲間ナーベがこちらへと歩いて来ていた。

 

 「みなさん、お元気そうで」

 「ええ、おかげさまで」

 

 あの騒動は確かに収束したが、結局とらえることができたのは、ンフィーレアをさらったもの達を数人程、あとの者たちはまるで煙のように消えてしまった。結局何だったのだろか?しかし、被害は実際にあるわけで、

 

 「モモンさんたちはこれから?」

 「ええ、依頼を探しに行くところですよ」

 

 といっても彼らがこなせない仕事はないだろう。ふと、そこでモモンの様子が変わる。

 

 「すいません少し用事を思い出しましたので、何かあれば、私達が泊っている宿へと」

 「ええ?わかりました」

 

 そして、二人は歩き出してしまう。その時、ふと聞こえた気がした。

 

 

 

 

 「そうか、コキュートスがやってくれたか」

 

 

 聞き覚えのない単語であるものの、その声は弾んでいた。そして、反対側の道にいた吟遊詩人が歌いだす。その歌は、おそらく彼がつくったはずなのに、歌っているのはまた別の人物であった。

 

 

 「これより()()()()()()()()()()()()()。とくと御拝聴あれ」

 

 

 

 第2章 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あの、アインズ様(モモンさん)?」

 「どうしたナーベ?」

 以前の件でどうしても分からないことがあり、それを聞くことにした。

 「何故バレアレ家を、カルネ村に?」

 そう、これだ。ポーションなどの消費アイテムであれば、例の世界樹を利用すれば済む話なのに、どうして新たに研究を始めるのか?単に、あの一家を気に入ったのであれば、それはそれでいいのだが、主は笑っていた。

 「馬鹿をいうな、私とて、そこまで私情で動かん」

 「失礼しました!!」

 「構わん、………私はな、危惧しているんだよ」

 「危惧、でございますか?」

 そして主は語る。確かに世界樹が持つ魔力は相当なものであるが、果たして、それは本当に永遠に続くものであるのかと、こうして、資源が豊富な内に様々な手段を獲得するためだという。それを聞いて思う。やはりこの御方は偉大な人物なんだと。

 「流石です」

 「いや、ただの臆病者の思考だ」

 「そんなことはありません」

 「そうか、ありがとう」

 

 そして、ナーベラルは自身の胸に手をあてる。

 (私の想い)

 とても暖かい。

 (私は…………アインズ様が…………好き)

 さらに胸が熱くなるが、恐れはなにもなかった。そして、思う。手放したくない、と。

 自分は恵まれた存在だ。それを意識して、彼女はよりいっそう、主を支えていこうと決意する。

 

 

 




 ようやく、原作2巻分終了しました。またいろいろ挟みます。今回は幕間のほか、いつもより短めの外伝2本立てやる予定です。
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