オーバーロード~遥かなる頂を目指して~   作:作倉延世

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 今回の話もご都合主義全開です。では、どうぞ。


後編 遭遇する絶望と飛沫なりし希望

 ブレインは通路を歩きながら、ある異常に気付いた。血の匂いがしないのだ。しかし、傭兵団が倒されているのも事実、ここで先ほどの男の話を思い出す。入ってきた2人は手に持った武器でこちらの得物を破壊して、その上で、無力化しているという。一体何をされているのか想像はつかないが、ある程度の予想を立てることもできる。

 (奴らは結局のところ武器で武器を砕いている)

 そう、それなら彼女たちからその手段を奪う、同じように壊してやってもいいし、腕を斬り飛ばしてやってもいい。

 (いや)

 その必要もない。自分には長年鍛えた必殺の剣があるのだから、それで、相手の首をはねてやれば済む話だ。

 

 

 やがて、その2人と遭遇して成程と思う、確かに纏っている雰囲気がこれまであって来たもの達と違うのだ。そしてその姿を見て、ある程度の予測もたてられた。まずは男の方、確かに身に着けている服には見覚えがない。しかし、それは仕方のないこと、男が着ているのはカジュアルスーツと呼ばれる。文字通り、異世界の産物。それでもそれが非常に機能的なものであることはブレインもこれまでの経験込みの勘で分かった。そして、その得物はカットラス、斬る事を重視した湾曲していて、短い刀身を持つ武器。

 (なるほどな)

 この男に対する興味は既に失せた。動きやすさを重視した格好に、狭い所で振るうことを想定した剣、おそらくこの男は不意打ちなどを得意とする暗殺者といったところか、僅かな隙をついて喉元に食らいつこうということだろうが、自分の武技をもってすれば、敵ではない。しかし、それでは得られるものもない。だとすれば、もう一人の女、深紅の鎧に装備はどこにでもありそうな剣、しかし女の足元をまるで蛇のように蠢く縄が目につき、彼女らがここまでどうやって、無血制圧をやってきたのか彼女の正体と共に想像がついた。

 (魔法戦士)

 あのアダマンタイト級冒険者チームのリーダーたる彼女と似た系統なのだろう。いや、多分魔法に比重を置いたタイプ。そうなれば、先ほどから感じていた異常の説明もつく。睡眠系の魔法で眠らせてあの自立している縄で縛ってきたということだろう。

 (期待はずれだな)

 結局は魔法詠唱者、自分が求めたのは純粋なる戦士なのだ。どうせ、剣だって、ただの保険かなにかだろう。はっきり言って、彼女たちとやって得られるものはない。しかし、それでも放置という選択肢はない。ブレイン・アングラウスという男が格下相手に背中を向けるなんてこれまで育ててきた己のプライドが許さない。

 (早く終わらせるか)

 

 「なあ、あんたらが侵入者か?」

 

 その言葉を受け、相手もその歩みを止め、縄たちも動きを止める。しかしそこから気をそらすわけにはいかない。それこそ、突然襲い掛かって来る可能性だってある訳だ。

 「ほかにありますか?」

 妙に耳に響く、変わった声音であるが、それは女性のものであった。見たところ、冒険者といったところだろう。

 「あんたらの目的は?あの女たちか?」

 「まあ、そんなところですね」

 それも簡単に予想できることであった。このアジトには団員の性欲処理用として、十数人程の女性たちがいる。娼館から雇ったとかではない。文字通り、ただの道具である。

 「なあ?悪いことは言わねえ。おとなしく帰っちゃくれねえか?」

 まずは、警告、ここで引き返すのであれば、命は助けてやると。しかし、女も男もまるで無関心な様子であった。これから起きることはすべて他人事、そう言った様子だ。

 「それでは、ここまで来た意味がありません。あなたこそ、通してはくれませんか?」

 (面倒だな)

 そう思いながら、ブレインは腰の刀に手をやり、さらに続ける。

 「こっちに来るってんなら命はもらうぜ」

 「そうですか」

 本当に自分たちの現状が分かっていないらしい。これは相当だと内心、嘲笑する。せめて名前は憶えておいてやろうと、問いかけていた。

 「あんた、名前は?」

 それで、女はまだ名乗っていないことを思い出したのか。右手の握り拳を左手のひらにやさしく叩きつける動作をする。「忘れていた」と表現してみせるのであった。

 「これは私としたことが、カーミラと言います。後ろにいるのはベルゼブブ」

 男が頭を下げる。女が主人ということか、とたいして今後必要ない情報を頭で整理する。そして一応こちらも名乗る。どうせ、彼女たちはここで死ぬのだから。

 「俺の名はブレイン・アングラウス、あんたらを殺す男の名だ」

 女はここで少し驚いたようなそぶりをみせる。自分で言うのもあれであるが、そこそこ名は広まっているように思える。

 「あなたがね、それで?どうするのでしょうか?」

 実はこの女、話を聞いていないのではないか、いや、自分にも原因はあるが、まったく先に進めない事に少しずつではあるが、苛立ちが募っていく感触がある。

 「死にたくなければ、帰れと言っている、警告はここまでだ。もしもこっちに来るのなら、斬る」

 そうして構えをとる。決めるのなら一瞬だ。

 「そう、それでは通してもらいましょうか」

 女はまるで、ブレインの存在をそこらの雑草と変わらない様子で歩いてい来る。そこには一切の恐れも恐怖もない。

 (ふざけているな、余裕というのか)

 それも次の瞬間には消し飛んでいるだろうと、武技の発動準備に入る。

 

 〈領域〉 半径3メートル以内の空気、音、気配。そのすべてが認識できる。極限まで高めた命中率と回避率。

 

 〈神閃〉 ただ、一点を狙った。一撃必殺の知覚不可の一振り。

 

 その二つを組み合わせた絶対の技、虎落笛、狙うは女の頸部。やがて、女の右足が領域に踏み込まれる。放たれる神速の斬撃、秒もいらない。女の首は飛んでいるだろう。

 (もらった!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルネ村、薬草調達の為、訪れてた薬師少年とその護衛である冒険者チームをそれぞれの借り宿に案内したとゴブリンの1人であるウンライから連絡を受けたエンリは自室にて書物を読み漁っていた。天井には生活魔法の一種、永続光(コンティニュアル・ライト)が付与されたランタンが吊るされていて、暗くならないように、かといって、明るくなり過ぎないように室内を照らしている。そして彼女の顔には眼鏡がかけられていた。ルプスレギナは少し席をはずしており、妹は昼間来た一向、特にモモンという全身鎧の冒険者の来訪に大喜びをして、いつも以上に動き回り、疲れて眠ってしまっている。普段、ちゃんと自分の手伝いをしてくれているのは知っているので、叱ろうなんて思いもしない。

 「…………すごい、冒険者すごい」

 寝息だろう。なんだか笑ってしまう。

 「…………ゴウン様」

 寂しげに発せられてのは、現在養父たる人物の名であった。まだ知り合って、1月程だというのに、それどころか会ったのが、まだ1度だけだというのに、すごいなつきようだ。父が見たら泣いてしまうかもしれない。健やかに寝息を立てる妹を微笑ましく見たあと、再び書物に目を通す。その文字は彼女の知るものではない。しかし、レンズごしであれば、読むこともできるのだ。これらは当然、ゴウンから借りているものであった。脳裏で再生される鮮明な声。

 

 『お嬢様、こちら、頼まれていた品でございます』

 

 持ってきてくれたのは、デミウルゴスであった。彼はこれらが複製品であることからあまり丁寧に扱う必要はないと言ってくれたけど、できる訳ない。

 

 それと、その際に彼の腰から生えた尻尾を見て、彼が人間ではないこと、そしてあの時見た、アルベドの角が飾りではなく、本物であると知ったが、不思議と恐怖はなかった。なんせゴウンが人間ではなく、アンデッドであったのだ。それこそ、今更な話だ。それに、同じ人間であっても、襲撃してきた人たちがいる訳であるし、あまりそう言ったことに対するこだわりだとかはなくなってしまっているかもしれない。

 

 しかし悲しくはない。恩人たるゴウンに報いる為には、その方が都合が良いことが確かである。

 (ゴウン様)

 ときおり、あの時のことが思い出されて恐怖に駆られそうになるが、それであの方を頼るわけにいかない。自分はあの方にもらい過ぎている。少しでも返していかなくてはと、書物に目を通す。

 

 それは農業に関することであった。先日頂いた「にわとり」なるものの飼育方法であったり、また、この村で新しく栽培を始める予定の作物であったりした。人手に関しては、いくつかあてがあるということと、最悪、ゴーレムを増やすということであった。

 

 それでは意味がないと、言ったが、彼は笑って答えた。その分、生産量を上げれば、きっとゴウンの助けとなると、そう言われてしまえば、自分はもう何も言えない。

 (じゃがいも?らいむぎ?)

 それは当然ながら、自分が知らなものばかりではあるが、綺麗に描かれている挿絵などもあって、なんとか理解していく、というかここで諦めるという発想が彼女にとってありえないことなのである。

 

 30分後、ある程度、読み進めたところで、一旦、休憩にすることにした。頭が沸騰しそうである。気分転換にと渡された小説に目を通す。タイトルは「レ・ミゼラブル」かつて、罪を犯しながらも懸命に善行を行っていく男に、その人物に引き取られる少女の話と、なんだか今の自分たちの境遇に似ていると感じた。ゴウンが罪を犯したなんて、思いもしないが、それから考えてしまう。気になっているのは、先ほど大切な友人と一緒に迎えた冒険者たち、モモンという銅級の者達のことであった。特に気になったのが仲間であるナーベの美貌だ。それはどこか、ルプスレギナを思わせるようなものであり既視感を覚えた。それだけではない。一瞬、モモンを前にしたとき、感じたのだ。まるでゴウンを前にした時と似ていると、少し考えてしまう。ゴウンはやる事があり、その為、代わりにルプスレギナが来た訳だけど、ではゴウンの用事とはなんだろうか?そして、モモンという人物は銅級、エンリにもある程度の冒険者に関する知識はあった。銅とは新米たる証であり、つい最近冒険者になったばかりの者だという証でもある。つい最近知り合った、魔法詠唱者に、最近冒険者となった戦士とその一行。

 (まさか、ね)

 よもや同一人物の訳ではないだろうが、どうしてもその懸念が頭を離れない。しばらく考えて、答えを出すことができなかったエンリは、やれることをやろうと、再び書物に目を通し始める。やがて、戻ってきたルプスレギナが従者言葉で休むよう促すのは必然の流れなのかもしれない。

 

 

 

 

 「死を撒く剣団」、そのアジトと思しき洞窟の入口、2人程の見張りがついている。その手前の茂みの中に彼女たちは居た。

 「では、酒呑童子、この者達の監視、お願いしますよ」

 「お任せください。カーミラ様」

 さきに捉えた男たちはこのまま彼に任せることにして、シャルティアはもう一人の男をともなって、侵攻を開始する。

 「では行きましょうか、ベルゼブブ」

 「畏まりました」

 

 

 「何だてめえら!」

 以前から学習していた通りの愚か者像にあいすぎて、笑いたくなってなってしまうが、ここは真面目に取り組むべきところである。野盗の一人が剣を振り下げる。

 (なっていない)

 間違いなく、コキュートスの方がよほど的確な一撃を出せるとその攻撃を剣で受けとめる。驚くほど、軽い。そして瞬間的に力を入れ、へし折ってやる。男が悲鳴を上げる。正直、主や武人と比べると、本当に力任せのしょうもない技であるが、活用できるのも確かだ。そのタイミングであらかじめ用意していた指輪を起動、男は力なく倒れる。次に別の指輪に力をいれる。先ほどから追従していた縄の一本が男にまとわりつき、縛り上げると、まるで男を引きずるように、入口へと戻っていく。後は待機中の彼に任さればいい話だ。そう、後のブレインの考察、それはこの部分に関して言えば、正解だったのである。シャルティアが使用しているのは、こういった時の為にデミウルゴスに発注して作ってもらった。2つのマジックアイテム。睡眠を促すのと縄を無制限に操れるという大したものではないが、要は使い方に組み合わせだ。こうして、彼女達はゴミを拾う感覚、しかし集中はそらさず、アジトの奥を目指していく。彼女達は決して手を抜かないし、油断もしない。しかし、野盗たちはあまりにも弱すぎた。道を歩くとき、そこにいる無数の虫を気に掛ける者はどれ位いるだろうか?

 「ベルゼブブ」

 必然、無駄話というものをしたくなってしまうものだ。

 「何でしょう?」

 「あなたの作品を味わえないのは残念ね」

 「急に何です?」

 シャルティアが持ち出したのは彼の趣向である創作のことだ。あれは本当に素晴らしいものであり、自分好みのものも彼は作ってくれたのだ。しかし、

 「あの方の御心を思えば、仕方ないことです」

 「そうなのよね」

 そう、何をおいても主が優先される。それと同時に彼がしっかり設定を覚えているようで安心もした。この姿の時は決して、ナザリックの者たちを名で呼ぶことは許されない。

 「それを言ったら、カーミラ様こそ、悪い遊びをやめたじゃないですか」

 「ああ、そうね」

 自分は以前、創造主に創られたことを守り、それこそ溢れる性欲のままに好みの者を男女関係なく抱いていた訳だけど、

 「あの方の好みは一途な乙女という噂がありますし、できることなら綺麗な身で御寵愛を賜りたいのよ」

 「それは、…………もう手遅れなのでは?」

 「何か言いましたか?」

 「いえ、何も」

 大丈夫、自分は純潔なる身だと言い訳がましく内心言い募る。その点でいえば、あの女に負けていると言えるが、有利な点もある。自分の方が、その手の知識や経験、技巧は上だと断言できる。もしもベッドに誘っていただけるのなら、

 (至上の快楽へと誘ってみせましょう、愛しの君よ)

 その為にも、やれることはやらなければならない。

 「あなたは私の味方と見て、いいのですね」

 「ええ、自分はカーミラ様を推している立場だと思っていただければ」

 「あと、あの娘もね」

 「よく、受け入れましたね」

 無論、ソリュシャンのことだ。彼女が主に恋慕を抱いていると気づいたシャルティアは一足早く行動に出ていた。交渉を持ち掛けたのだ。もしも、正妃の座に自分が就く強力をするのであれば、愛人として認めると、

 「ええ、当然です。本来、あの方が望むのであれば」

 しかしそれは、建前に過ぎない。なんとなく予感があるのだ。主に恋慕を抱くもう一人、ナーベラル・ガンマ、彼女は早いうちにアルベドが協力者として取り込むだろうと、そういった大きな差を作らないための、勧誘であり正妻の座さえ、取れれば、主がどれだけほかの女を抱いても気にはならないだろう。いや、それにも限りは、そう、ナザリックの者に限ると思うが、もしも主が望むのであれば、墳墓の女たちは躊躇いなく股を開くべきだ。主のモノを受け入れる為に。

 「カーミラ様、その考えは正直引きます」

 言葉には出していないはずなのだが、

 「あなたも()()持っていたかしら?」

 「あいつじゃなくても、分かりますって」

 そんなに自分は分かりやすい性格なのか、これは注意しないとあとあと大失態を招くかもしれない。そうして、地味なそれでいて、野盗にしてみれば恐怖の侵攻劇はある男との邂逅で終わりを迎える。

 (ふむ)

 現れたのは、青い髪をもち、無精ひげを生やした男であった。シャルティアがまず興味を惹かれたのは、その腰の獲物、間違いない

 (刀)

 自分がよく知る階層守護者やその副官を務めているシモベが愛用している武器だ。そして、本当に僅かであるもののこれまでは違うと何かを感じ取った。

 (もしかして)

 何はともあれ、まずは動かないと始まらない訳だ。

 

 

 

 

 アジト内を激しい音が駆け巡る、最高速度で放たれた物体が、同等以上の硬度を持つ物体に激突した音であった。それはシャルティアにしてみれば、初めて得られた感触、しかし

 

 「馬鹿な」

 思わず口にしていた。いつもと奏でる音が違うだけで、すぐに違和感に気付いた。いつもこの技を放ったあと、聞くのは相手の首から血が噴き出す音なのだ。それが、こんな何かにぶつかったような音を出すなんて、それだけじゃない。いつもなら振り切っているはずの利き手がいまだ。動作の途上で止まっているのだ。これから導き出せる答えは、

 (そんな)

 自分が放った一撃は女が片手で止めていたのだ。それも手のひらなどではなく、人差し指と中指の二本を刀身にひっかける形で止めていた。それはつまり知覚不可の剣が見えていたということ。

 

 (確かに)

 シャルティアにしても驚きであった。まずいきなり男の雰囲気が変わったのだ。ついで、放たれた一撃は正確に自分の首を狙ってきた。それまでのように剣で受けるというのが、難しく、とっさに剣を捨てて受ける程であったのだ。

 「なるほど、これがあなたの武技というものですか」

 それは彼女にしては本当に珍しく、外部の人間を褒め称えるものであった。しかし、ブレインにとってはそれどころではない。必殺を止められ、言葉にしていないというのに武技という事を看破されたことを。ブラフだとかそういったものだと考える余地は既にない。

 「大方、知覚能力を上げるもの、それに《居合切り》というのかしら?それを元にした一撃特化の斬撃、その組み合わせといったところですか?」

 その解説がさらにブレインの自尊心を削りだす。一度受けただけで、自分が長年かけて編み出した技の構造を見破られるなんて、と彼の心には亀裂が入り始める。そしてシャルティアとて、これまで無駄話をしていただけではない。最初からすべて魔法で済ませばいいのに、それをせずに、相手の攻撃を受けてきたのは、経験を得るためだ。現地の人間の動きというものを、そして得られた記憶を参考にしても目前の男が只者ではないと知り、顔に出さずに歓喜する。もし、この男を連れ帰ることが成功すれば、主に自分の有用性を示せると。

 「ふふふ、あなたがかのストロノーフ戦士長と肩を並べる強者だというのは分かりました」

 そう言って、女は何を考えたのか、左手の籠手だけ取り外す。中から出て来るのは、白を通り越した真っ白な手、何をするというのか?

 「では、もっと見せてください。あなたの力というものを」

 この女は何を言っている?先ほど放ったのが、全身全霊自分の全力だ。それでも、

 (なめるな!!)

 まだ残っていたプライドに身を任せて、女に斬りかかる。様々な方向からの連撃、しかし女はそれをあろうことか、左手の小指、その爪先だけで受け切ってみせたのだ。

 (くそ!)

 ブレイン・アングラウスのすべてが無駄だと言われているようであった。そして、

 (ふむ、悪くないわ、あれを)

 先ほど、ヴェルフガノンから提案された方法を使うときであろう。

 「もっと本気をだしてください。戦士長とは大違いですよ」

 そう、煽ってやるのだ。彼らの過去もすでに彼が調べていたのだから。しかし、

 (な)

 そう、ブレインは衝撃を受けていた。ずっと彼に追いつく為に努力してきた。しかし、この女はなんと言った?

 (ガゼフの足元にも及ばない?)

 そこまでシャルティアは言っていないが、精神的に追い詰められたブレインにそれを判別する力はない。さらに女は続ける。

 「人とは、誰かの為に戦って力を発揮するといいます。愛する者、友との約束、護りたいと願う子など、あなたにはいませんか?そういった人は」

 シャルティアにしてはなんとかこの男の力を引き出したいというものであったが、それこそブレインのなけなしの自尊心にとどめをさした。彼は力を得る為にすべてを置いてきた男だ。そう、そのすべてを今、完全否定された。正確にはガゼフともう一度剣を交えるという約束があるが、それすら失くしてしまった。

 「うわあああああああ!!!」

 「!?!?」

 ブレインは絶叫をあげながらその場を逃げ出した。大粒の涙を流しながら、その様はあまりにも絵面が酷く、シャルティア、ヴェルフガノンは驚きのあまり、その場をしばらく動けなかった。

 

 そして、やがて、静寂が残された2人を包む。

 「ベルゼブブ」

 「申し訳ございません、それしか言葉にできません」

 「いえ、もういいです」

 シャルティアも疲れてしまったかもしれない。大の大人が大泣きしながら逃げる様はそれほどに酷い構図であるのだ。

 

 その後、残りの者達を制圧、女性たちは最低限の治癒を施したうえ、縄を編んで、魔法の絨毯のように整えてそこに乗ってもらい。エドワードと、合流。そのまま冒険者チームに引き渡して現在に至る。あの男にはどうやら逃げられてしまったようだが、特に気にすることはない。デミウルゴスにも確認をとった。

 『素顔を見られた訳ではないのでしょう?』

 顔はおろか、姿も、名前も、声も、あとは戦い方もすべて偽りである。もしも懸念材料をあげるとすれば、自分の左手を見せてしまったことだけど、それくらいは誤差の範囲内であるらしいということであった。

 そしてこれからの行動方針を決めようとしたときに、伝言(メッセージ)があったのだ。相手はあの女の姉であった。それによると、カルネ村に正体不明の数人が迫っているという。一応、グリム・ローズの班が向かっているが、念のため自分達にも向かってほしいというものであった。

 カルネ村、それは主が楽園計画の本拠地と決めたいわば聖地、それに

 (エンリ・エモットにネム・エモット)

 主が後見人を務めることにした姉妹がいる。愛しの主が娘と定めたのであれば、それは自分にとっても同様だ。行かない理由がない。

 (それにしても)

 アルベドは油断ならない。その姉妹と交流を得て、外壁を埋めようとしているのだから。あの姉妹に母と呼ばれるのは、 

 (私、シャルティア・ブラッドフォールンよ)

 こうして、カーミラとそのシモベから再び、吸血鬼一行へと姿を変え、現地に向かうのであった。

 

 

 

 さほど時間はかからなかった。そしてシャルティアたちを出迎えたのは、木に背中を預け眠る一人の少女であった。その体はつぎはぎだらけで、至る所に包帯がまかれ、背中から生えた可愛らしい悪魔の羽もボロボロであった。少女が身に着けているのは、ワンピースに頭には薄汚れたウエディングベールのようなものを被っている。そして少女の傍らには身の丈以上の大鎌が立てかけてあった。

 「フェリ、来たぞ」

 声をかけるのは、こちらの中で最も彼女と接点の多い、ヴェルフガノン。その声に反応するように少女の瞳が開けられる。そして立ち上がり、得物を肩に担ぎ、頭を下げる。

 「これは、シャルティア様、それにヴェルフガノンとエドワードか」

 その言葉を聞いて、隣の男が安堵するのが伝わってくる。彼女ほど、仕事時のオンオフが激しい人物はそうそういないであろう。

 「ええ、フェリアネス、ここにいるのはあなただけかえ?」

 「はい、今、リーダーとガデレッサが先行して様子を見てきています」

 まあ、その配置が合理的と言えば、合理的だ。やがて、周囲の木々が揺れだす。何か巨大な動物が歩いて来るようだが、彼女たちが怯えるということはない。やがて現れたのは、死体を担いだ巨漢であった。

 「ガデ、戻ったか。リーダーは?」

 彼はヴェルフガノンにそう問われると、担いでいた死体を地面に横たえる。

 「ああ、そう言うこと」

 それだけで、全員が理解した。グリム・ローズはいつもは本体が、人間の死体に寄生する形であの姿をとっているのだ。そしてその死体がここにあり、彼の象徴である。茨が見られないということは、

 「リーダー、こりゃ本気ですね」

 「そうね」

 それは、今回の相手がそれだけ驚異的な相手であるということだ。

 「分かりました。ひとまずは私が見てきんす。ぬしたちは念の為、迎撃の用意を」

 「「「畏まりました」」」

 「!!!!!!」

 

 こうしてシャルティアは1人、向かう。

 

 そして、見たのは、奇怪な一団であった。統一されていない。服装に、バラバラの武装。それは以前の世界でよく見られた光景でもある。

 

 「グリム・ローズ、いるんでありんしょう?」

 「korehasyaruthiasama(これはシャルティア様)」

 地面から茨が飛び出してきて、律義にお辞儀をする。そして彼らの存在に対して性急に結論を出すため、情報を聞かせてもらう。気になるのは、彼らの中に七罪真徒たちより強い者がいるのだ。一瞬、迷った。しかしながら不安を感じるのはそれだけでもないということもあり、彼女は。

 「撤退しんす。アインズ様に話をしましょう」

 悔しさのあまり歯噛みしてしまう。もしもこれで主に失望されてしまってら自分はどうなるというのか、こうして吸血鬼は冷静に状況を見て、墳墓へと帰還、このことをアルベドを始めとしたほかの者たちに報告、一応、集まれるものが集まり、協議をしたが、それでも答えはでず。主にも帰還してもらうことになったのだ。やがて、支配者がこの地を踏む。

 

 

 

 「成程、そういうことがあったのか」

 玉座の間、パンドラズ・アクターと入れ替わる形で帰還したアインズがシャルティアから報告を受けた第一声であった。今、この場にはセバスを除いた100レベルNPCが全員揃っている。そして彼女はその中でも戦闘能力で言えば、守護者最強、その彼女が感じた嫌な物とは、

 (まずは確認だな)

 すでに確認の為の魔法は様々な対策を講じたうえで、用意できてるという。これはいい傾向だと、その映像を見せてもらう。目についたのは13人の男女、そしてシャルティアが七罪よりも強いと評した人物にある老婆へと視線が移り、目を疑った。どうしてあれがここにある。そして見えたのはある意味、最悪の未来。

 

 「シャルティアよ来てくれるか?」

 震えそうな主の声を聴いて、彼女は内心、気が気でなかった。やはり、自分でなんとかすべきだったのだろうか?と。しかし彼女を迎えたのは主の優しき抱擁であった。

 「え」

 「よく、戻ってきてくれた。最悪、私はお前と戦わなくてはならない所であった」

 主が何か危惧しているのは分かるが、彼女にとってはそれどころではない。優しく、しかし、体が骨である為、いくらかは固いものがぶつかり、その部分すべてが熱を帯びる。もしも、もっと早く、性欲を抑える処置をしていなかったら下着を濡らしていたところであった。

 

 「アインズ様、説明を求めてもよろしいでしょうか?」

 アルベドは何とか嫉妬と殺意を抑えながら、主に問いかける。こんな時だというのに、顔が溶けている吸血鬼がひどく、妬ましく、恨めしい。

 

 「ああ、そうだな」

 こうして、アインズは自身の記憶から彼らが、正確にはその中心にいる老婆が身に着けている衣服について語る。

 その名は傾城傾国、本来耐性を持つ者でも魅了、洗脳してしまう恐ろしい世界級アイテムであると、それを聞いて、守護者たちもまた恐怖する。主に斬られるのはまだいい、それよりも恐ろしいのは、主への忠誠さえ塗り替えられてしまうという所であった。そして、アインズもまた考える。それだけのアイテム、見る限り、そのほかの者達の武装も、ある程度の練度があるものであった。そして、何故彼らがカルネ村へと向かっているのかという点。思い当たる節があるとすれば、

 (彼らが)

 法国からの使者達ということになる。

 (俺が行くしかないか)

 さて、対話か、戦闘かどっちだろうか?このまま彼らを放置していれば、確実にカルネ村に向かうだろう。そこで彼らがどうするかは分からないが、あの村には、見守ると決めた姉妹に、協力者になりえそうなもの達、自分を驚かしてくれた少年がいる。放置はできない。

 「分かった、今回は私が彼らの対応をするとしよう」

 「「アインズ様!!」」

 声を上げるのはアルベドに、シャルティア、彼女たちだけではない。ほかの階層守護者たちも自分を見つめている。それも不安げに、確かにそうだ。下手をすれば、自分がその洗脳を受けてしまうのだから。対策がない訳ではないが、もしも変質してしまっていたら。

 (いや)

 その懸念を表にだしてはいけない。そうすれば、彼女たちは間違いなく自分が行くと言うだろう。しかし、それはアインズの許せるところではないし、仮に自分が洗脳状態になった時は、

 (すまんな)

 きっと彼女たちは自分の望みである楽園を作るため、尽力するだろうし、その時自分が障害になるのであれば、きっと殺してくれると信じて。

 

 「厳命だ、今回は私が出る」

 「申し訳ございません、その言葉には頷きかねます」

 こんな時だというのに、笑いたくなる。彼女の瞳は何が何でもいう事を聞かないというものであったのだから。だからこそ、続ける。

 「何も策がない訳ではないし、何なら、この後、教えてやる。まずは承諾してはもらえないだろうか」

 彼女は少し考え込んだ様子を見せて、

 「それでしたら、せめて、現地にグリム・ローズを派遣することをお許しください」

 「ああ、あれを期待してか、分かった。それぐらいは許そう」

 「ありがとうございます」

 

 それから、アインズは一旦、自室に戻り、彼らとの開戦準備。もうそうなることが分かっているようである。アルベドが簡単な監視も兼ねて、傍にいる。アインズが取り出したのは、今日まで調整していた規格外のマジックアイテム。

 「アインズ様?それが」

 「ああ、今回の秘策だ」

 それはよくある腕時計であったが、アインズが取り出したのは文字盤が少し異常であった。本来、時計の文字盤というものは円形を12分割したうえで、1から12の数字を割り振るのだが、アインズが取り出したのはそれがさらに2分割されており、1から24まで刻まれていた。これはすなわち、2周することで、24時間を示す腕時計がこれの場合は1周で済むという訳である。それとは別に〈次元の移動〉(ディメンション・ムーブ)を仕込んだ指輪を用意する。それと念の為、パンドラズ・アクターに頼んだ物も装備して準備が終了した。

 

 「アインズ様、それは」

 そういえば、まだ名前を言っていなかったなと、アインズは告げる。調整していたその名は。

 「記憶巡りし時計(メモリアル・ダイアリー)といったところだな」

 

 

 

 

 

 カルネ村を目指して北上していたのは、アインズの見立て通り、法国の者達であった。彼らの名は漆黒聖典、その目的はアインズ・ウール・ゴウンを法国の秘宝である。傾城傾城(ケイ・セケ・コゥク)を用いて支配下に置くことであった。それは法国の最高執行機関の話し合いの末での決定であった。アインズ・ウール・ゴウンはプレイヤーの可能性がある。しかし、彼が自分たちの信じる神と同じとは限らない。闇の神官長はしつこく反対していたが、その存在が厄災を招く可能性がある以上、多少強引な手段に出ることとなったのである。そしてひとまずはカルネ村を目指し、彼との接触を図ることになったのであるが、

 

 「みなさん、初めまして。私はアインズ・ウール・ゴウンと言います」

 目標の方から来てくれたのである。隊長の判断は早かった。

 「使え」

 すぐさま、その秘宝の使い手であるカイレは発動の構えをとる。そのチャイナドレスに描かれた竜が生きているように脈打ち始め、そして光と共にそのみすぼらしいローブをまとったアンデッドへと襲い掛かる。やがて、

 

 

 アインズにしたって、賭けであったのは確かであった。もしも、話し合いで済めばと思ったが、攻撃を仕掛けて来た。包まれた光の中をアインズは思考していた。いや思い出していた。自分の願いを、NPC達と穏やかに暮らすため、もう一度、あの光景を見るため、楽園を目指す。その思いがすり減ることはなかった。

 (この賭けは俺の勝ちだな)

 もしも、これで洗脳状態になれば、彼が自分を拘束して、そのまま墳墓へと連れ帰るつもりだったに違いないが、その必要もなさそうだ。そして腕時計をさする。これができたのは、世界樹から採れるデータクリスタルもだが、彼の力が大きい。

 (ありがとう、ヘロヘロさん)

 さて、あいつらは喜んでくれるかなとアインズは戦闘状態に入ろうと、その時計のダイアルをいじる。まずは、

 

 01:23

 

 勿論、手動ではなく、思念形式であるものだ。ここまでくると最早何でもありに聞こえてしまう。

 

 やがて、光がおさまり、自分の状態を見た彼らが驚愕に満ちた顔を見せたことで、アインズは言葉を紡ぐ。

 「私は話をしに来たのですが?やはりアンデッドというのは、信頼できませんか?」

 彼らはそれどころではなさそうであり、先ほどと同じ声が聞こえた。

 「もう一度だ」

 (駄目か)

 アインズはもう一つの指輪を起動させて、一気に老婆の眼前へと移動する。よりいっそう困惑する聖典たち。

 「セドラン!!」

 「分かっている!」

 巨盾万壁と呼ばれる第8席次が老婆を護らんとその前に立ちふさがり、盾を構えるが、アインズはそれに構わず、先ほどだした武装で、その男を老婆ごと貫く。

 「カイレ様!」

 

 「あれは!」

 支配者のいない玉座の間、そこではアルベドたちがアインズの戦いを見守っていた。声を上げたのは、撤退を決めたシャルティアであった。その気持ちも分かる。なんせ主が彼らを貫く為に使った武器は。

 「スポイト・ランス」

 そう、彼女に与えられた武器なのだ。どうして主がそれを?アルベドだけがその可能性に辿り付きそうになるももうしばらく、見ておくという選択を行った。

 (モモンガ様)

 

 (よし、シャルティア、やったぞ)

 アインズはその事に満足しながらも次の時刻に合わせる。

 

 05:15

 

 聖典の第2席次、時間乱流とよばれる者はアインズに斬りかかろうと飛び出すが、次の瞬間には消えていた。またかと思ったところで、下からたたき上げられる感触を味わい、気づけば、

 (は?)

 宙に舞っているのは、自分の体を離れている下半身であった。

 

 「オオ」

 次いで声をあげるはコキュートス、それもそのはず、アインズがすくい上げるように、相手に叩きつけたのは、白銀に輝くハルバート、まさしく。

 「断頭牙」

 

 (コキュートス、いい切れ味であった)

 アインズは手慣れたように、ダイアルをいじる。次は、

 

 18:00

 

 「クアイエッセ!!」

 「分かっていますよ!!」

 第3席次の呼びかけに苛立ちながら言葉を返すのは第5席次、「1人師団」彼は自慢の軍団を召喚しようとするが、不意に体の自由が効かなくなる。

 (何!)

 みれば、自分のほかにも第3、6、11席次の者達も動けないようであり、全員の体を植物がまとわりついていた。

 

 「ああ!」

 マーレは感激していた。主が手に持っているのは間違いなく、今、自分が持っている物と同じ物。

 「シャドウ・オブ・ユグドラシル」

 

 (マーレありがとう。次はアウラ、行こうか)

 ダイアルを合わせる。

 

 06:00

 

 アインズの手に、弓が現れる。

 

 「アインズ様!!」

 

 アウラは歓喜した。そして気付けば主と一緒に叫んでいた。

 

 「「天河の一射!!」」

 

 レイン・アローから放たれた、その一撃はクアイエッセを始めとした4人を飲み込み爆発した。それ程の衝撃があったのだ。

 

 (次はデミウルゴス、頼むぞ)

 ダイアルが示すは、

 

 07:07

 

 第4席次、神聖呪歌と呼ばれる彼女はここに来て、判断を誤ったと認識していた。法国でも指折りである部隊、しかし、既にその半数が死んでしまっている。だけど、それでも、

 (アンデッドを、認める訳にいかない)

 自分たちだって、生半可な覚悟でここにいない、自分の戦いをしようとしたところで、

 「すまない、もう少し減ってもらおう」

 一瞬であった。道具を出そうとした腕が、両方とも消えていた。

 

 「!!!!!!!!」

 

 吹き出す血と共に彼女は沈んでいく。

 

 「我らが主よ」

 デミウルゴスも珍しく、涙をながしていた。主の両手は変化しており、骨ではなく、青黒く光っていた。

 「悪魔の諸相:鋭利な断爪」

 

 残ったのは5人、

 「2人で突っ込むぞ!」

 「おう!!」

 第10席次、人間最強と第12席次、天上天下はアインズへと突っ込む。しかしまたも彼は消え、

 

 「行くぞ、セバス」

 ダイアルは既に設定されていた。

 

 09:19

 

 彼の両腕がまたも変わる。それは人間の腕に見えたが「人化の指輪」を使用した結果ではない。もしも、執事が見ていれば、彼も波を流しただろう。アインズはその右こぶしを遠慮なく、天下天下へとぶち込む。彼は、人間最強を巻き込む形で吹き飛び、断崖へと叩きつけられた。おそらく2人とも、もう立つことはない。

 

 漆黒聖典隊長は先ほどからアインズが見せていた動きに翻弄されながらも諦めることはなかった。しかし、この時点で、残っているのは自分を合わせて、3人だ。それに第7席次の少女に関しては既に戦意を失ってしまっている。それでもこの化け物を、人類の敵を見過ごすわけにいかないのだ。

 

 アインズもまたダイアルを回す。思い浮かべるのは自分に向けられた笑顔。

 (やろうか、アルベド)

 

 10:41

 

 またも彼の武装が変わる。その手に握られているのは、

 

 (モモンガ様、私は共にあります)

 

 アルベドが愛用しているバルディッシュであった。

 

 記憶巡りし時計(メモリアル・ダイアリー)

 

 それは、アインズが独自に作成した。ギルドマスター専用の装備、長針と短針の組み合わせで、自ギルド所属のNPCの装備や能力を一部、再現できるといったものである。が、無論そんな都合のいい設定ばかりでは存在が成り立たない。当然ながら、デメリットもある。このアイテムの使用中はアインズ本来の魔法やスキルは一切使用できない。様々な無効化スキルも使えなくなるので、もしも使いどころを間違えれば、危険な物でもある。しかし、アインズは何としてもこのアイテムを完成させたかった。これは、いわば彼の覚悟、彼女たち(NPC)と共にあり続けるという証であるのであった。

 

 法国で有数の槍使いたる隊長と、墳墓をまとめる今は斧使いの支配者がぶつかる。激しい打ち合いであったが、武器の相性、元の膂力、何より、思いの差がやがて、アインズの振るう斧が隊長の槍に傷をつけていく。

 (このままでは)

 (押し切るぞ)

 決着はすぐについた。隊長の槍が折られたのだ。彼は両膝をつき、しばらく動けないようであった。時間にして150秒程の戦いであったが、それは彼が今まで経験したどの戦よりも苛烈なものであったのだ。

 

 「これ程、力の差があるとは、これが、プレイヤー」

 その言葉にアインズはすぐにでも問いただしたい気持ちに駆られるが、早くこの場を納めたくもあった。これ以上、余計な客が来る前に。

 

 「仏の顔も3度まで」

 その言葉に生き残った者たちは唖然としていた。

 「カルネ村の件は、こちらにも非があるので無効としよう。あと2回、私は君たちと対談の機会を設けたいと考えている。次は紳士的に頼みたいものだ」

 その言葉を受け、最早壊滅状態であった、漆黒聖典には撤退するしか選択肢はないのであった。

 

 

 彼らが去り、アインズはそこで茂みの方向に視線を向ける。

 

 「いるのでしょう?出てきてはくれませんか」

 「ainnzusama(アインズ様)」

 地中で待機してくれている彼が、動こうか聞いてくるが、手をかざして否定する。多分相手は出てきてくれることだろう。

 

 「気づかれていたなんてね」

 現れたのは、白銀の鎧であった。その姿はまるでかつての友を思い出させるようである。

 「単刀直入に聞く。あなたは何者だ?」

 「君はプレイヤーなのかい?」

 質問を質問で返されてしまった。しかし、アインズは別に気にならなかった。先ほどの者たちに対する感情が強いのかもしれない。

 「ああ、そうだ。私はプレイヤーだ」

 「そうか、そうなんだね」

 その様子にこの人物は今まであって来たもの達と違うと感じて、対応に力を入れる。できるだけ、この世界のことを知る為に、

 「あなたは何者なんですか?私の事情に詳しい様ですが」

 その紳士的な態度に竜王たる男もある程度は態度を軟化させる。本来彼も穏やかな性格なのだ。

 「失礼、僕はツァインドルクス=ヴァイシオンと言います。すべてを話すことはできませんが」

 アインズとてそこまで高望みはしない。とりあえずは知りたいと思っていることを聞ければいいのだ。

 「大丈夫です。私はアインズ・ウール・ゴウンといいます、聞かせてくれますか?この世界と」

 「YGGDRASIL(ユグドラシル)との関係だろう?」

 その単語も知っているのかと、アインズは驚愕と共に期待を抱く、彼からの話であれば、信憑性はありそうだと。そこから聞いた話は驚くべきことであった。何と、100年周期でこの世界にプレイヤーやその関連が流れて来るという。有名なのは六大神、八欲王など、そしてこの世界には元々YGGDRASIL(ユグドラシル)の魔法はなかったが、それを八欲王たちが歪めてしまったということ、おそらく、そのプレイヤーのほとんどが既に死亡しているということなど、聞いて、アインズが初めにとった行動はツアー(親しい間柄での愛称)を驚かせた。

 「ヴァイシオン殿、申し訳ございません。俺の世界の人間が」

 頭を下げたのだ。それはツアーにとっては衝撃を通り越して、未知ともいうべき光景、

 「いえ、もう済んだことですので、でも、どうして?」

 何故頭を下げたのか聞いてみる。もしかして、先ほど話したプレイヤー達の中に友人でもいたのだろうか?

 「そうではありません」

 アインズはその言葉を否定して、語る。好き勝手やって、この世界を滅茶苦茶にした八欲王たちのことはどうでもよかった。しかし、それでYGGDRASIL(ユグドラシル)がくだらない世界だと思ってほしくないと訴えた。これにはツアーも思う所がある。要は、故郷を護りたいというごく当たり前の気持ち、

 「分かったよ、君の居た世界を憎むことはしない」

 「ありがとう。ヴァイシオン殿」

 「ツアー」

 「はい?」

 「長いからね、そう呼んでよ。僕と親しい人はみんなそう呼ぶ」

 「分かったよツアー。では私のことも気軽にアインズと呼んで欲しい」

 「そうさせてもらうよアインズ」

 そしてツアーはアインズへと問いかける。目的は何なのかと、もしもこれまでのプレイヤー同様、力のままに世界を蹂躙するのであれば、対策を講じる必要があるが、何故かその心配が杞憂であるとも感じているのも確かだ。そして、アインズもまた、この人物が短絡的ではなく、長い目で物事を判断できる人物だと信頼を抱き、計画のことを話す。

 (それは、初めてかもしれない)

 楽園計画を聞いたツアーの印象だ。すべての種族を統一して、悠久なる世界を作る。それは今まで誰も、どのプレイヤーも考えなかったことだ。最も近いところにいるのは、六大神であるが、結局彼らは、人類守護を掲げ、人類第一主義に走ってしまったことも確かである。

 「アインズ、僕は今すぐ君の協力者にはなれないし、その楽園の形によっては君を殺さないといけないかもしれない」

 「別にそこまで、望んじゃいないさ、今は私と彼女たち(NPC)を見ていてはくれないか?」

 「分かった。そうしよう」

 無意識にツアーは手を差し出していて、アインズもその手を握り返す。握手を交わしながら、アインズは考えていた。六大神とは何とか対話をしたいが、このままでは戦争になりそうだ。と、ツアーは既に全員死んだと言っているけど、蘇生だってある世界のようだし、そう簡単にくたばるとは思えないのだ。

 

 「最後に聞かせてほしい、アインズ」

 「何ですか?」

 「どうして君はそこまで高潔でいられる?」

 そう、あの世界から来たプレイヤーということは、ツアーはそこまで理解は深くなかったけど的確に核心をつく、そう元はネットゲームのトッププレイヤーたち、しかしそれは現実では反対に冷遇される立場であったり、居場所を作れなかった者たちなのでもある。そんな彼らが常識を逸脱した力を得て、この世界に飛ばされたとなれば、それまでの負の感情が爆発して、欲望のままに生きてもおかしくはないのだ。そして、それを聞いたアインズも考える。もしも、ナザリックごとではなく、自分1人だけ飛ばされたとしたら。いや、いくら考えても結局は空想の域を出ないものだ。そして答える。

 「彼らが私の中で生きている。それに彼女たち(NPC)がいますから」

 かつての友達たちの思い出、今ある臣下たちとの確かな絆、そして

 (俺も男だな)

 ただ、自分を愛しているといってくれた彼女にかっこいいところを見せたいだけという思いがあるのも確かであるのだ。無論、本人には絶対言わないけど。

 「分かった。それとごめん、もうひとつ聞かせてほしい。君は協力者としてプレイヤーを探すつもりかい?」

 「???、ええ、そのつもりですけど」

 プレイヤーであれば、力はもちろん、財力だったり、向こうの世界から持ってきた。物品の数々、計画の為にはいくらあっても足りないのだ。

 「1つだけ忠告をさせてほしい。君は稀な存在だ。それを決して忘れてはいけない」

 

 こうして、死の支配者と白銀の竜王の初めての邂逅は果たされた。アインズは僅かばかりであるが、希望もつかめたと感じていた。

 

 

 

 

 

 スレイン法国最高執行機関は荒れていた。切り札として送った漆黒聖典は壊滅、死んだ者たちにの中には蘇生が効かないものもおり、秘宝が返ってきたのが、不幸中の幸いであった。

 「これで証明されただろう?アインズ・ウール・ゴウンは、人類の敵だ」

 ドミニクは分かっていたことだと吐き捨てる。

 「違う!無礼を働いたのは我々だろう!!」

 叫ぶのは先の採決に最後まで反対の立場をとっていたマクシミリアンであった。

 「だから言っただろう!!初めから対話をしに行けばよかったと!」

 「黙れ!!そもそも王国の味方をする時点でただ、力を持った愚か者だということで決まっただろう」

 苛立たしげに彼を罵倒するのはレイモン、そうそれが彼らの出した結論でもあった。アインズ・ウール・ゴウンは、落ち目の王国を乗っ取るつもりであると。

 「違う!もしもかの方がそうであるならば、我々は既に死んでいるはずだ!」

 「しつこいぞマクシミリアン!!」

 

 (まずいね)

 その様を見ながら、ベレニスは思う。あれから、そう今は失踪したニグンが帰って来てから、ずっとこうだ。マクシミリアンが既にこの機関から孤立し始め、レイモンにドミニクも冷静さを欠いてしまっている。以前のような団結は見る影もない。すべては奴が原因だ。

 (アインズ・ウール・ゴウン)

 彼女は考える。何とかその存在を抹消して、そして再び、法国を一つにしなくてはと。

 (あの子らに頼むとしようか)

 そう、何も腕利きは彼らだけではない。正攻法がうまくいかないのであれば、搦め手でかかるだけだ。

 

 

 

 

 

 シャルティアは、エドワード、ヴェルフガノンを伴って、王都へと歩みを進めていた。その足取りは軽く、顔はいつになく輝いていた。今回の件で主に褒められ、そして抱きしめてもらったのだ。

 (まだまだこれからでありんすよアルベド)

 恋敵へと宣戦布告を叩きつけ、彼女は上機嫌に行く。

 

 彼女たちが歩むのは()()()()()()()()進むのは、()()()()()()()()()である。

 

 

 第3章 完

 




 ようやく、出せました、とんでもアイテム。ある程度の伏線は前の章からあったと思いますが、どうでしょうか?
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