オーバーロード~遥かなる頂を目指して~   作:作倉延世

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 新章入ります。

 また今回の話は、書籍版よりもアニメ版を意識した作りになっています。

 また、ちょくちょく設定が変わっているところがあります。矛盾が起こらないように注意していますが、変だと思えば遠慮なく言ってください。

 


第4章 迫りくるは絶望の軍勢
第1話 ある雄の物語


 

 風が吹いている。それはとても乾いたものであった。水分を含まない空気の波は浴びる者に喉の渇きを与え、嫌でも体の水分が減っていると警鐘を鳴らせる。

 

 それは、一度はアンデッドになり、身体機能をなくしたアインズにも分かることであった。しかし、それは問題にならない、むしろ新鮮な気持ちを抱かさせてくれる。

 

 何故なら、元の世界の空気はそういったものを通り越して瘴気を孕んだ空気であったのだから。それは吸うだけで肺を蝕んでいき、緩やかにしかし確実に死へと導くものであったのだから。それを踏まえてみると、この世界に転移してきてよかったと思えることでもある。

 

 やがて地響きが周囲に響き渡り、傍で控えていた女性の1人が声を上げる。

 「アインズ様(モモンさん)

 今は主と従者ではなく、対等な冒険者ということになっているナーベラル・ガンマの声である。

 「来たか」

 「そのようで、ハムスケも頑張ってくれているみたいです」

 

 現在彼らが立っているのは、大地が削られる過程で偶然できたであろう、断崖の上だ。地上との距離は約30メートルといったところか、そこから目前の光景見下ろしてみる。まず、目につくのは、こちらに向かって疾走する巨大な蜥蜴、そしてそれを追っているのは、可愛らしいジャンガリアンハムスター。

 

 ギガント・バジリスク

 

 それが、今回モモンとして受けた依頼の討伐対象であった。なんでも城塞都市の近郊の荒野に現れ、一応、エ・ランテルに来ることを警戒してのことである。

 

 石化の視線を持ち、その体液は浴びれば即死亡の猛毒であり、その存在1匹で街を滅ぼせる存在と聞き、久しぶりにそれっぽい仕事であると。決して表に出さずにここに来た訳であるが。

 

 (またハズレだ)

 

 まさか、ハムスケに追い立てられる程の強さしかもっていなかったとは、自分よりだいぶ小柄な相手に追い回されるその光景は、まるで、チワワに吠えられ、逃げる獅子に見えてしまい、アインズのバジリスクに対する夢とロマンを打ち砕くようであった。

 それだけ、あの珍獣が持つレベルがこの世界では高いという事の証明でもあるのだろうけど。

 

 (異名はともかく、強さは本物だったらしいな)

 

 ともかく、受けた仕事はこなさくてはならない。しかし、その前に試しておきたいことがあった。もう一人の女性、ナーベと同じような格好をしているが、大きな違いとしてその頭に被り物をしている者へと声を掛ける。

 「レヴィア、視線いけるか?」

 「問題はないかと」

 そう、一応あのモンスターがハムスケに対して、どんな感情を抱いているのか気になったのだ。彼女のスキルでそれも分かるというのであれば、何とか知りたいと思ってしまう。

 

 少々、耳に手を当てる動作をして。彼女はまるで、先ほどから吹いている風から、なんとか音を拾い、それを楽譜に落とすべくすましているように、ギガント・バジリスクの感情を読み取る。やがて覆面越しでも驚いたのが分かるような声音であった。

 「ただ、純粋な恐怖でございます」

 「台詞の再生」

 途端、彼女は素っ頓狂な声を上げる。

 「『うわあああん!怖いよおおおお!!助けてええええ!!お母ああああさああああんんん!!』かと?」

 

 一瞬、前に転びそうになるのを何とか堪える。そんな姿、とても支配者としても英雄としても相応しいものではないから。何とか、彼女へと再び問いかける。間違いであって欲しいと僅かながらの希求と共に、

 「今のはマジなのか?」

 「マジでございます」

 「……そうなのか……」

 聞くのではなかったと今更ながら後悔している部分があるのは確かであった。次に浮かぶのは疑問。何故、街のみんなもあのモンスターもハムスケをそこまで恐れるのか?どうみても可愛らしいものであるというのに。

 

 先日、ナーベラルへの褒賞としてやったあるイベントで、あの自動人形(オートマトン)メイドが珍獣に対して放った言葉も合わせてやっぱり気になってしまう。

 

 (感性のズレという奴かな)

 時間がたてば、気にならないと思っていたが、自分は意外と神経質だったらしい。どうしても気になってしまう。しかし、

 

 「殿おおお!!某が獲物をそちらへ追い詰めるでござるうううう!!」

 そんな非生産的なことを考えていても時とは進むものだ。獲物を追い込む一応、ペットである珍獣の声が聞こえる。

 

 その姿は言葉を喋れるという点を除いても、フリスビーをを追いかける犬のものに見えてしまう。しかし、両隣の彼女たちはそうは思わないようで。

 

 「流石、知能はともかく、力強い瞳を持つだけのことはありますねアインズ様(モモンさん)

 「ある程度とは言え、アウラ様から逃げ切った脚力もそこそこにあるかと」

 

 初対面時の印象で語るナーベラルと過去の出来事で判断するレヴィアノールと評価の仕方は分かれるが、どちらも社会人であったアインズにも何とか理解できるものであった。

 

 第一印象

 

 これが、意外と重要なのだ。もしも初対面で少しでもマイナスのイメージを持たれてしまうと、その後いくら交流をしても中々挽回は難しい。だからこそ、礼儀だとかマナーにうるさい世界であった訳であるのだから。

 

 そして過去の出来事もとい、その人物がやって来たことを顧みることも大事なのである。

 

 まあ、こっちもいい事ばかりではなく、例えば、過去に炎上案件を経験しているというものであれば、限りなく社会的な死に近づく、すなわち、信頼を得られず、仕事も獲得出来ずに、収入がなく、家賃が支払えずに住居を無くす。

 

 やがて突きつけられるのは、餓死するか犯罪者に身を落とすかの2者択一だ。

 

 (いかんな)

 

 いい加減、思考を切り替えるべきだ。どのみち、英雄モモンという人物像を作り上げる為にもしっかりと依頼をこなす。今はあのハムスターから逃げ惑う巨大トカゲを狩らなければならない。

 

 「いい機会だ」

 そう、人生とは一瞬一瞬が二度と訪れることのない貴重な出来事の連続だ。だからこそ、この機会を最大限に未来につなげる行動を考えていかないといけない。そう考えながら、アインズは左腕にはめた時計へ意識を集中する。長針と短針が自然に違和感なく、動き出す。

 

 やがて示す時刻は、

 

 21:04

 

 アインズの両手に収まるように銃が現れる。それを見て、第3者が見ても微笑んだと分かる程の喜色を顔に浮かべるナーベラル。先ほど、ハムスケのことで思い浮かべたあのメイドの武装だ。

 

 (いろいろと、やっておきたいしな)

 

 アインズは戦争に行ったことも、兎狩りに行ったことも、ましてサバイバルゲームの経験もないけど、なんとか日々の学習で身につけた知識を元に構えをとり、意識を集中させる。

 

 次の瞬間、アインズの周りの世界の時間が遅くなり、逆に彼の意識は加速した。単に集中力を上げた結果。彼の常識外れの能力値がそれを可能にするのだ。といってもこの状態を維持できるのは、彼の主観で100秒、現実における10秒程だ。

 

 だから集中する。無駄な情報も削っていくべきだ。狙うは、その足取りがスローモーションで再生されている2匹の魔物、その前を走っている方の左右に揺られている頭にある2つの眼球。

 

 弾丸の速度、目標の移動速度、空気の流れ、対象の動きの癖、それらをすべて瞬時に計算。と言っても無意識的に行い。銃の引き金を引く、

 

 乾いた音が響いた。

 

 すぐに射線をずらして、二射目を放つ。

 

 放たれた2つの弾丸は軌道にそって飛び、やがてその射線上にまるで当たりに来たように相手の目が来て、

 

 爆ぜた。血と眼球の破片が飛び散る。

 

 「シャアアア!!」

 モンスターは突然の痛みと失われた視界に驚いているようであったが、止まることはしない。もしも止まったら後ろから迫る珍獣の餌食になるのを本能的に際しているのだ。そして、何より彼はこの状況でも諦めていないのだろう。生きることを。だからこそ、討伐しないといけないのだが。

 

 「さて、私たちには問題はないだろうが、一応あいつの目は潰したから、これで石化を恐れる必要はなくなったわけだ」

 「流石でございます。アインズ様(モモンさん)

 「お見事の一言でございます」

 対等という立場を忘れ、敬語で感激したように手をあわせ、称賛してくる黒髪の従者に、感服したと静かに告げる被り物の従者。そこまで褒められるとは思っていなかってので、アインズ自身嬉しくもなるが、まだ仕事の途中。

 

 アインズは長針、短針、共に24のところに戻し、時計の効果を終了させて。次に腰に備えた予備の剣をもってその場を飛び降りる。

 

 降りたすぐ目の前には、暴れ狂うトカゲが迫っている。その首の下を狙い、構えをとり、

 

 「武技、『飛翔烈破……」

 

 振り放たれたアインズの剣から3本の斬撃が飛び、ギガント・バジリスクの胸をアスタリスクを描くように切り裂く、それはまるで3匹の猟犬が襲い掛かったようである。再び悲鳴を上げるバジリスク。

 

             「……3頭魔犬(ケルベロス)』」

 

 日々の鍛錬の成果がまた出てくれたと、満足すると同時に、次を見据えていく、いつかあの人物に追いつく為に。

 (いつかは、そこに)

 遅れて飛び降りて来た女性達を伴い、アインズは歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事、依頼を終え、一度ナザリックに帰還したアインズが向かうのは自分用の執務室である。エ・ランテルが攻撃されたあの一件から実に18日が経過した日であった。

 

 本日の世話係である一般メイド、デクリメントが扉を開き、中へと進んだ彼が聞いた言葉は。

 

 「お帰りなさいませ、あ な た」

  まるで愛する男性をずっと待ちわびたという表情、しかしそれは言葉に出さず、温かく迎える見慣れたドレス姿で黒髪、腰から羽を生やした自分の秘書を兼任してくる統括たる女性に、

 

 「お帰りなさい、パパ!!」

 その女性に酷似した容姿を持つ少女、年はネムと同じくらい、彼女が着ているのは女性が身に付けているドレスが純白なのに対して、金雀枝を思わせる黄色のドレス、その胸につけてあるブローチにはアングレサイトという宝石がはめられている。

 

 それは本来、かなり脆く壊れやすいもので、加工には苦労するはずだが、ゲームという名のチートの産物であるそれには関係がない話だ。

 

 ほかにも違いはある。女性は黒髪、少女のは、銀糸のような色合いである。瞳は金色に対して、アインズがかつてあの世界で見る機会があった映像資料で確認した汚染前の空を思い出させる青色。

 

 女性と同じように腰から羽が生えているが、少女のものはまるで悪魔とは思えない天使だと言っても間違いではないような白。

 

 そしてそのこめかみの辺りに羽飾りがつけてあった。カナリアの羽を3枚程使った簡単なものであるが、少女の銀髪にはよくあっていた。

 

 やや、パーツごとに色違いであったり、少女には角はないが、それは最初に自分に声を掛けた女性、ナザリック地下大墳墓守護者統括アルベドに非常に似ており、彼女の娘と第3者、あるいは初対面の者に紹介しても信じてもらえるだろう。

 

 そして、その瞳は自分に向けられている。それは父の帰りを待ちわびた娘そのものであった。

 

 「何をしている?」

 状況を理解しても、すぐにそれを認めたくないということはよくある。よってまずは質問を投げかけるのだ。アルベドとその少女は不思議そうな顔をしていた。まるで、自分が間違っていると言わんばかりに。

 

 「ペットを連れ、海外出張をしていた夫を迎える妻でございますが?」

 「そして父の帰りを待ちわびた娘です?」

 

 そうやって、浮かべた顔もそっくりであった。アルベドがしているのは、愛する男を待ちわびた顔、少女は無邪気に父親に甘えたいという顔であった。アインズは呆れたように声音を変える。

 

 「お遊びはここまでにしないか?統括殿?」

 少し怒った雰囲気に他人行儀な呼び方が効いたのか、途端に顔を崩し、それも一瞬でいつもの顔に戻るアルベド、しかし完全に立ち直ったという訳ではないようで、しょんぼりとした顔を浮かべ、言う。

 

 「家族ごっこはお気にめしませんでしたか」

 (また変なことを)

 

 先日のネムの件といい、彼女は子供が欲しいのだろうか?だったら、結婚をすればいい、別にそこまでは束縛はしないのだから。自分は社員の人生に口出しする社長ではない。

 (…………)

 同時に自己嫌悪に駆られる。それを激しく拒絶している自分がいるのも分かっているからだ。

 

 (俺も大概) 

 酷い、人間だと思ってしまう。彼女の想いに応えることはできないのに、彼女が自分から離れることは許せないとは、どこまで身勝手な人間なのだろうか?それから逃げたいという思いもあり、そばの少女にもきつめに言葉を放つ。

 

 「キトリ二タスも()()の馬鹿な遊びに付き合う必要はないぞ?」

 その言葉を受けた少女もまた表情を変えていた。先ほどまでの無邪気な顔はなく、静謐なものであった。その顔は仕事時に見せるアルベドのものと同様のものである。少女は改めて、アインズに向き合い、先ほどとは違った声を上げる。

 

 「気になさらないでください。私も姉様と遊ぶのは楽しいですから」

 

 そう少女は、キトリ二タスは返した。

 

 キトリ二タス。

 

 それが、今、アインズの目の前にいる少女の名だ。当然のごとく、NCPであるが、彼女には特殊な事情があった。

 

 (ダブラ・スマラグディナ!!)

 そう、あの男だ。アルベドに世界級アイテムを持たせていた事と言い、問題を起こし過ぎではないだろうか?彼女は彼がギルドに内緒で勝手に秘密裏に製作していた存在だ。その設定として、彼女はあの夫婦、ウィリニタスと二グレドの娘ということになっている。というか本当に親子らしく、3人が揃った瞬間を1度だけ見たが、微笑ましいものであったのだ。

 

 さて、そんな彼女だが、あの男、作るだけ作って、起動せずにYGGDRASIL(ユグドラシル)を引退しやがったのだ。それもその事を誰にも伝えずに、ゆえに彼女の存在を知っていた者は、かつてのギルメンたち、そして現在のNPC達あわせてほとんどいなかった。

 

 まず、ギルメンではその男以外に彼女を知る者はなく、NPC達で知っていたのはその少女の両親である2人だけだったのだ。事の始まりは、エ・ランテルの件から、2日がたった頃、統括補佐である彼から言われたのだ。

 

 『恐れながら、申し上げたいことがございます』

 

 彼の普段の働きは知っているので、望みがあるのであればと聞き、キトリ二タスの事を知ったのだ。そして巨大な罪悪感に襲われた後、彼にその場所、なんと第8階層の一画にそれはあった。

 

 揺り篭に眠るように待機していた彼女をみて、再度身を悶えさせて、何とかYGGDRASIL(ユグドラシル)時代と同じように起動を試みて、成功して今に至る。

 

 「そうか?しかし、お前にはしっかりと母がいるのだろう?離れて寂しくはないのか?」

 

 彼女は現在、統括補佐見習いという立場で働いてもらっている。それを決めたのは、ほかならぬアルベドを始めとしたNPCたちだ。しかし、アインズはそれでいいのかとどうしても思ってしまう。

 

 そんな主の心配を察して、キトリ二タスは笑顔で答えた。それはとても幼い少女がする顔ではなく、成熟した女性のものでその見た目とは大きな隔たりを感じさせる。

 

 「父も、母も、アインズ様の為に働くことはナザリックの誉れと褒めてくれますから」

 「そうなのか?それならいいのだが」

  少女は大人の笑みを浮かべながら続ける。それはうっかり漏らしたというより、先の展開を期待しての言い方であった。

 「姉様と遊ぶのが楽しいのも本当ですよ。今日は料理も作りましたし」

 「料理?」

 それで、初めて気づいた。部屋に漂う香りに、見れば、それはとてもこの部屋には不釣り合いな光景、ちゃぶ台が置かれている。

 

 その上にはほのかな湯気を出している料理、お椀に盛られた白米。見た限りでは、揚げ豆腐や斬った玉ねぎが具材の味噌汁。茹でられてたうえで、サイコロのように整えられた人参にジャガイモ、後はまるで木のミニチュアみたいなブロッコリーが添えられ、程よく焼かれたその身に、これまた、香ばしい匂いがするソースがかけられたハンバーグという組み合わせだ。

 

 「まさか」

 その問いに、キトリ二タスは再び、顔を大人のものから無邪気な子供のものにして満面の笑顔で返して来る。当然だと言わんばかりに。

 「はい、家族の食卓でございます――パパの為に、ママと一緒に作りました!!」

 

 遊びの延長でこんなものまで作るとは呆れるばかりである。が、

 (せっかく用意してくれたんだしな)

 「はあ、資源を無駄にするのも気が引ける。頂くとしようか、勿論一緒に」

  その言葉に少女は当たり前のこと、黙って成り行きを見守っていたアルベドもまた声を上げる。

 

 「はい!!」

 「喜んで、ご一緒させていただきます」

  アインズは左手人差し指にはめた、指輪を起動させて、人間に擬態する。そして、敷かれた座布団に胡坐をかく形で座る。2人も正座を崩した形で着席する。

 

 食事が始まる。その料理は確かにアインズを思って作られたもので、料理長が用意したものに比べれば、味はどうしても劣ってしまう。それでもその味はどこか、心に沁みるものがあるのも確かであった。

 

 (これが、家庭の味)

 長らく、味わうことのなかったもの、それを噛みしめながら、彼は疑問に思ったことをアルベドへと問いかける。

 「何で、これを選んだ?」

 彼女であれば、もっと難易度の高い料理も作れたろうに、どうしてそれにしたかという純粋な疑問であった。彼女は得意げに、可愛、訂正、輝かん顔で答える。

 

 「家族の食卓にハンバーグ定食はお約束でございます」

 そういうものか?という思いは置いといて、その情報源について尋ねる。

 「どこで、それを知った?」

 「頂いた資料からでございます」

 

 ある程度は予想できた言葉でもあった。例の変質した一室から出てきた物の一つだろう。そんなものまであるとは思わなかったが、

 

 (機会を見て、また整理しないとな)

 

 あの部屋に今でも溢れるように出て来る品々は計画の為の参考書だったり、褒賞に出来たりと色々助かるが、たまに、成人向けのものがでたりするので、そういったものは彼に燃やしてもらっている。階層守護者であるあの双子を始め、まだまだ情操教育が必要な子がたくさんいるのだ。不適切なものは焼却処分に決まっている。

 

 やがて、食事は終わり、キトリ二タスはどこから持ってきたのか、ワゴンを用意したと思うと、それに食器を並べ、ちゃぶ台の足をたたみ、座布団も重ね、それらを器用にまとめたと思うと、紐を用いて、自分の背中に固定した。その姿は甲羅を背負ったように見える。

 

 少女の身には重いように見えるが、そこは大墳墓に所属する者、まるで買い物袋を持つような感覚で動いてみせ、アインズへと向き直る。

 

 「片づけは私の方で行います。この後、第3階層に行く予定もありますし」

 

 話を聞けば、警備関係で見直しがあるとのことであった。それも仕方ない事だと言える。現在、計画を形にするために多くの者たちが動いているのだ。無論、職場の移動というものもしょっちゅう発生していることだろう。少女は頭を一度、下げると、ワゴンを引いて部屋を後にした。

 

 その様子を見届けたアルベドがまたも雰囲気を変えて、話しかける。先ほどとは非にならないくらいの喜色であった。

 

 「2()()()()()()()()()()()()()()()()()

 「仕事を始めるぞ」

 「勿論でございます」

 そこは分かっているらしく、アインズはモモンとして活動していた時に手に入れたものを彼女へと渡すと同時に考えてしまう。

 (早まったかな)

 先日、彼女への褒賞として、特定の条件下で自分を昔の名で呼ぶことを許した訳なのだが、もう少し熟考するべきであったのではないか?と、それでも。

 

 (…………)

 

 彼女が喜んでいるのも確かであり、難しい問題であった。

 

 (いかんな、仕事だ)

 

 問題を先送りにして目前の問題へとアインズは思考を切り替える。彼女に渡したのは、冒険者組合にて、組合長に頼み込んで手に入れたこの世界の地図であるが、彼女の顔は曇っている。それも当然と言える。

 

 「すまないな、そんな大雑把ものしか手に入れられなくて」

 「とんでもございません!モモンガ様の不備ではないと承知しております」

 

 何度目になるか分からない認識、人間はこの世界では本当に弱い存在らしく、彼らがつくれる地図ではこの辺りが限界とも言えるのだろう。しかし、それでも得られた情報はある。まずは、彼女へと自分が知ったことを主観込みの見解で語っていく。

 

 「王国、帝国、法国の3つに関しては未だ調査中ということで、一旦おいておこう」

 「畏まりました」

 

 「まずは帝国の北東、ここには幾多の都市国家があり、それらが連合を作っている。亜人たちの都市もあるみたいだ」

 可能であれば、いつか交渉の相手としたい。楽園計画の為には人間だけでは駄目なのだから。

 

 「次に、帝国の南西、ここに竜王国が、とこれはアルベドも知っていることであったな」

 「はい、ニグン達の報告から聞いております」

 

 魔導神教団

 

 彼らの働きも大きいものであった。あの男、さらに新たな才能を開花させたのか、教団所属の者達にはナーベクラスの〈雷撃〉(ライトニング)が使える者が出てきているらしい。そんな彼らには、現在、不可知可状態のデス・ナイトが2体ついている。ネムがヤルダバオトのことをいたく気に入ったらしいのが、理由の一つだが、ほかにも、

 

 (俺も大概だな)

 最初は捨て駒だと見ていた彼らが死ぬのがどうにも嫌になってしまったらしい。どこまでも勝手な人間だと思う。

 

 思考を戻す。竜王国は現在、戦争中であり、その援助を法国が行っているらしいことを確認する。

 「何とか話はできないものか」

 

 思わず呟いていた。

 

 「モモンガ様のお気持ちは理解しますが、やはり法国は厳しいのでは?」

 「そうかもな」

 

 彼らにも理念があるのは理解する。それでも、その考えは今のナザリックが、アインズが目指しているものと違うのも確かなのだ。

 

 (宗教国家)

 

 「だとすれば、同じような理由で、聖王国も難しいかもしれないな」

 「はい、そうかと」

 

 法国の西、様々な亜人たちが勢力を争っているアベリオン丘陵を挟んであるローブル聖王国もまたアンデッドを嫌う宗教色の強い国だと言う。アルベドからの報告で、亜人やドラゴンたちと取引をしたという事実もあるので、法国程、難しくはないかもしれないが。

 

 (ま、先の話だな)

 

 今は王国が先である。

 

 「それとモモンガ様」

 

 アルベドから法国関連で気になる報告があったという。それはグリム・ローズの班からであるということ。

 

 「戦争中?エルフの国と?」

 「はい、そのようで」

 

 詳しい原因は現在、彼らが調べているとのことであった。それでも朗報と言える。余程の愚者、あるいは強者でもない限り、戦線を2つ同時に持とうなんて考えないだろう。そして、六大神の存在があるとは言え、法国が先のどちらでもないというのは、デミウルゴスを始めとした墳墓の知恵者達からの意見でも間違いはないようである。

 

 よって、彼らと戦うことになるのも大分先になりそうだ。無論、交渉で済めばそれが一番であるが。

 

 話を続ける。かつてこの地に降り立ったというプレイヤーたちの影が色濃く残る地へと。

 

 「海上都市に浮遊都市ですか」

 「ああ、そうだ」

 

 13英雄のリーダーが関連していると思わしき場所に、八欲王たちがつくり上げたと言われている首都である。

 

 「計画上、かなり準備を進めた上で行くことになりそうだが」

 

 もしもまだ彼らがいるのであれば、戦闘になることも視野に入れないといけない。信頼と無謀は別物なのだから。それもまだまだ先の話になることに変わりないけど。

 

 そして、アインズの本命を語る。

 

 アーグランド評議国

 

 あの夜出会ったツアーが評議委員をしている複数の亜人種で構成される国である。その括りに人間がいないことが残念であるけど、その一点を除けば、楽園の同盟国、相互協力を狙える国でもある。

 

 (ツアーか)

 

 あの時会った姿は単に鎧を遠隔操作しているものであるとはその時教えてもらっている。只者ではないと思っていたが、その正体がドラゴンだというのが驚きであった。

 

 「いつか、挨拶に行きたいものだ」

 「その時は私も御供いたします。――可能であれば妻として」

 

 いつもであれば、咎める軽口であったが、その時のアインズはだいぶ機嫌が良かったらしい。それ程までに彼との出会いが嬉しいものであったのかもしれない。

 

 「それもいいかもな」

 

 肯定していた。途端に顔を赤くさせる統括たる女性。まるで、破裂しそうな風船を抑えるように両手で顔を覆ってしまい、自分が言いだしたことなのに、必死に否定をする。

 

 「モモンガ様冗談です!今のは統括ジョークです!!」

 「分かっているさ」

 

 そして骨の身であっても、穏やかな気持ちだと分かる微笑を浮かべているだろう主を前にしてアルベドもまた赤面に思考の熱暴走を起こしながらも喜んでいる自分がいることを自覚していた。

 

 この世界に飛ばされた当初は本当に消えいりそうなものだったのが、ここ最近は、調子を取り戻しつつあるように思う。それこそ、自分は見る事しか叶わかった、あの頃のような。いい傾向だと思う。少々、寂しさと嫉妬に駆られそうになるが、この世界で新たな友を作ってくれるのは嬉しく思う。

 

 ツァインドルクス=ヴァイシオン

 

 彼には感謝をしなくてはならない。ドラゴンであるというのであれば、この先ずっと主と共にあってくれるだろうから、だからこそ、楽園計画は上手く進めていかないといけない。今は彼もまた、それを見極める立場をとっているのだから。

 

 その為にも、この後に控えていることも上手くやらないといけないが、彼の働きに掛かっていることも確かだ。

 

 「モモンガ様、最後によろしいでしょうか?」

 「どうした、改まって?」

 「蜥蜴人(リザードマン)の件、本当によろしかったのでしょうか?」

 「その事であれば、私は同意した。問題はない」

 

 彼女には本当に感謝をしなくてはならない。自分の凡人並みの脆い精神を心配してのものだから。だから穏やかに返すだけだ。信じていると。

 

 彼らに対して、ナザリックがとる方針としては彼らが抱えている問題、それを力のままに無条件に楽園に組み込んでも後々、綻びになる可能性。

 

 そして、この機会にやっておく事で、将来的に墳墓に得られる様々な利点を顧みての決断であった。何より、

 

 (時にはぶつかりあいも必要)

 

 それで得られるものもあると信じて。彼らは力を重視する傾向にあるというのも聞いたんだから。それを受けて、彼女も安心したのか、一礼をして部屋を後にしようとする。報告会は終了しているのだから当たり前だ。だけどこれだけは言っておきたい。

 

 「アルベド」

 「何でしょうか?」

 

 振り向いたその顔は慈しみにあふれたもの、もしも自分が崩れそうであれば、受け止めてくれるもの。彼女はいつもその表情で自分と接してくれている。その事にも感謝しながら告げる。

 

 「お前が作ってくれた味噌汁、おいしかったよ。またいつか頼む」

 

 彼女は笑顔で返してくれた。

 

 「はい、喜んで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トブの大森林、その湖の南側に彼ら、蜥蜴人(リザードマン)の集落がある。

 

 その集落の一つ、緑爪(グリーン・クロー)の村では、ある話題が上がっていた。少し前にこの地を訪れた雌のトードマンの事であった。

 

 彼女はこの辺りの歴史を調べる為に訪れた、因縁深い、あのトードマンたちとはまた別の出身であるという。彼女にいろいろとこの辺りの話や部族が分かれているということを話したのだ。どうしてそうしたかと言われれば、それだけに彼女が美人であったからだ、例え、違う種族であっても、それは人が時に人以外の物、芸術品等の美しさに心を奪われる感覚に近い。

 

 彼女は去ってしまったが、その話題は特に若い雄のリザードマン達の間で中々消えることはなく、その都度、同じく若い雌のリザードマンが冷たい視線を送っていた。

 

 そんな喧噪に加わることなく、1人のリザードマンが目的地の湖の一角を目指して、歩みを進めていた。

 

 彼の名は、ザリュース・シャシャ、2年ほど村の外へと旅に出て、その途上で部族の垣根をこえた友を得て、更に新たな知識を身に付けて帰還した、元旅人のリザードマンである。彼は愛用であり、一種のネームプレートのような存在でもあるマジックアイテム。凍牙の苦痛(フロスト・ペイン)を腰に添えて、旅の成果の一つ、その過程を確認する為に歩いているのだ。

 

 その途中、小屋によっていく。格子状の窓の中から顔を出したのは、いずれも蛇である4つの首であった。その瞳はいずれも彼にたいして、非常に友好的な、いや、家族、それも親に向けられたものであった。その様子から、元気そうだと判断して、彼はここまで持ってきた魚を与えてやる。

 

 「仲良く食べてくれよ?」

 与えた魚は2匹、それを4つの頭は器用に2頭ずつで、分けあって食べていた。

 

 (本当に器用だな)

 そして向けられる視線は、何か訴えているようであった。こんなにも上手に仲良く食べられるのだから、と言っているようである。

 (頑張らないとな)

  できることなら、魚を頭数そろえたいのが、彼の本心でもあるが、まだそこまでの領域には達していないのだ。

 

 美味しそうに魚を頬張るペットは一旦置いといて、彼は再び目的地へと向かう。

 

 

 その場所には、先客がいた。湖の一画を見下ろすのは、自分と似た体色を持つリザードマン、見覚えがあるどころを通り越した人物。というか身内である。

 

 「兄者」

 

 「お前か」

 そこは棒と網を用いて彼が製作した生け簀であり、その中を元気に魚が泳ぎまわっている。それこそ、彼が先の旅で手に入れたもの、養殖の技術である。手に入れた知識を元になんとか形にしたものだ。

 簡単な道のりではなかった。何度失敗したことだろうか?いろいろな餌を試した。魔物に荒らされたこともある。それでも挑戦を続けて、ようやくここまで仕上げたのだ。

 

 そして今では、稚魚から大ぶりなものまでに育てることがでるようになってきたのだ。

 

 さて、では、兄は何故ここに来ているのだろうか?純粋に遊び来たなんて思う訳がない。この人物は現在の部族をまとめる立場にあるのだ。

 そして、自分はあまり部族内での立場が高い訳ではない。別にそれを不満に思ったことはないが、その事を兄や義姉が気にしていることに関しては罰が悪いと感じてしまうものだ。

 

 よって、簡単にここに来れる訳はないのだ。だとしたら、

 

 (義姉者(あねじゃ)も言っていたし)

 

 

 「つまみ食いか」

 兄は尻尾を右に5㎝ずらす動作をした。それを確認して、少々の落胆を抱く、幼い時から一緒に育ってきたのだ。その癖は知っている。本人は自覚していないが、それは図星を突かれたものであったのだ。

 

 「そんな訳あるか。俺は族長として、ここの進捗状況を見に来たのだ」

 

 確かにその言い分も成り立つものではある。兄の協力あってのこの成果なのだから。

 

 しかし、口ではそう言っているが、先ほどから彼の尻尾は慌ただしく動いていた。食い気はやや高い方であったのだから。やがて、向こうもこちらの心情を察したのかややきつめの言葉が飛んできた。

 

 「兄をそんな目で見るとはどういうことだ」

 

 呆れながらもできるだけ表に出さないように言葉を続ける。

 

 「分かった。そういうことにしておこう。よく育っていれば貰ってもらおうと思ったのだが」

 「何?!」

 

 声を上げた途端に、自身の態度を自分に見せるのがまずいとすぐに姿勢を正すが、ザリュースにとってはもう威厳がある族長ではなく、昔からよく知っている兄のものであった。

 

 「さて、馬鹿なことばかり言っても仕方ない。今日来たのはいくつか用件があるからだ。いや、2つだな」

 「聞こう、族長シャースーリュー・シャシャ」

 「そう、畏まるな。これは族長としてではない、お前の兄としての提案だ。見合いを受ける気はないか?」

 

 またその話かと、うんざりする。しかしそのつもりはない。というか自分の場合は、それ以前の問題だ。

 

 「何度も話しているだろう兄者、俺は結婚なぞできんさ」

 

 言葉にしながら、旅人の証たる胸の焼印をなでる。それは自分の立場ではそれは叶うことはないという弟の意思表示であった。それを見たシャースルーは下らないと考えながら、諦めずに話を続ける。

 

 「それが何だという?お前に言い寄られて嫌がる雌などおらんよ」

 「話はそれだけか?なら、もう終わりだな」

 

 本当に、その気はないらしい。しかし妻からもしつこく言われていることである為、粘れる所まで粘ろうと話を続ける。

 

 「結婚はいいぞ。家に帰れば、優しい笑顔の家内に暖かい食事つきだ」

 「最近、義姉者(あねじゃ)が話を聞いてくれないと愚痴を聞いたばかりだが?」

 「むぅ」

 

 それは確かに弟に愚痴ったばかりのことでもあった。最近、特に覚えがないのだが、妻が必要以上に口を開いてくれないし、自分の言葉も入っていないようであった。

 

 (雌とは時に面倒な生き物だ)

 

 それは生物における永遠の問題の一つと言えるだろう。雌雄間の事というのは、どのような生き物であれ、どのような時代であれ、まして世界など関係なく起こりえる問題だとも言える。

 

 弟からの反論ですっかりその気が萎えてしまい、早々に次の話題に移ることにした。たぶん、いや確実に今夜妻に文句を言われてしまうだろうが、それは知ったことではなかった。

 

 「分かった、もういい――それと改めて感謝をしたいと思ってな」

 「何の事だ?」

 「この生け簀、もっと言えば、養殖場のことだな」

 「それは、兄者のおかげだろう」

 弟はそう言うが、自分がやったことなど、族長として、部族の者たちに命じただけだ。ただ、彼のやる事を黙って見届けるようにと、ここまでの成果をだしたのはその弟本人だ。

 

 さらに弟はその詳細な内容を部族のもの達へと伝えることもしてくれる。彼を煙たがるリザードマンがいるのは確かだ。しかし、それ以上に彼に一目置いているリザードマンがいることも揺るぎない事実なのだ。

 

 かつて、蜥蜴人(リザードマン)が歩んだ悲劇としか言えない、生きるための闘争劇を思えば、弟がやったことは正に偉業である。これまで、漁でとってくるしかなかった魚を自分たちで作るということができるのは、それまで、獲物を取り合うことしかできず、その為に、生きる為にほかの部族を争う必要がなくなり、もっとほかのことに力を入れられるという事でもある。これからの部族の繁栄に彼の働きが不可欠なものとなったのだ。身分など関係なく、褒めたたえたいと思うのが、兄貴というものだろう。

 

 (まったく兄者は大げさだ)

 

 ザリュースもまた、そんな兄に感謝していた。だからこそ、この養殖場をより完成度の高いものにして、部族の為に、何より、旅に出ることを許してくれた兄に報いると決めたところで、

 

 

 「族長!!」

 

 来たのは、比較的若いリザードマンであった。彼は自分も見ている。先ほど、旅のトードマンの事を話していた雄達の一匹だ。ひどく慌てているようだが、何があったというのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃

 

 

 

 大森林の湖付近には彼ら緑爪(グリーン・クロー)以外にも多数の蜥蜴人(リザードマン)の部族がいるのだ。

 

 その内の一つ、比較的彼らと仲がいい、鋭き尻尾(レイザ―・テール)

 

 その族長、キュクー・ズーズー。

 

 彼は身に付けている鎧の影響で、著しく知力を低下させているけれどそれでいてなお回る頭で、目前の光景について考えていた。

 

 (なにが、ねらい?)

 

 彼と彼がまとめる部族の前に広がるのは、木で作られた人形、木像の群れであった。それはすべてリザードマンの姿を模しており、それを驚くべきことに4本の刃物だけで作ってみせているのだ。その存在は、

 

 それは、2足歩行の昆虫のような姿をしていた。腕は4本あり、その手には似た創りの武器が握られている。その者は、尻尾を器用に動かし、一本の木を宙に投げ上げた。

 

 「ミテルガ、イイ」

 

 それだけ言うと、奴は落下してきた木を刃物で切り裂き始めた。瞬時に削られる木材、やがてその形はそこらに転がっているものと同じように2足歩行の蜥蜴人になっていく。

 それが地面に落ちる頃にはとても元が木とは思えない程、精巧な木像がそこにあった。その光景に部族の者たちは見とれていた。

 「コンナ、モノカ」

 その存在が放つ声は音であるかどうかも怪しいものであるが、一応、意味合いは聞き取れていた。そしてその存在が何をしたいのかというのも理解できてきた。分かりやすく自分の技量を見せつけるのが狙いだろう。

 そして彼の頭はその存在が次に何を言うのかも理解できていた。

 

 「ワタシノナハ、アトラス。――フンボカラノ、シシャダ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 小さき牙(スモール・ファング)、その部族もまた先の2部族とは友好的な関係を築いている。

 

 その族長、スーキュ・ジュジュもまたその人物と対面していた。

 

 「それで、何の御用でしょうか?」

 彼もまたどちらかというと穏やかなほうであり、可能であれば、無益な戦いはしたくないのだ。

 「キマッテいますとも」

  それは先の村に現れたのと同じように2足歩行の昆虫であった。その背には、薙刀や弓が背負われている。スーキュもまた飛び道具を武器にする身であったので、その武装にやや興味をひかれながらも直前の相手から意識を手放すことはしなかった。少しでも気を抜けば、背中の刃が自分の首を撥ねていると分かっているからだ。

 

 その者は冷たく言い放った。

 

 「コウフクカンこくですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 朱の瞳(レッド・アイ)

 

 蜥蜴人(リザードマン)達が迎えた困難をおぞましい方法で乗り越えた部族、族長代理を務めながらも、その評価は著しく低い、雌のリザードマン。

 

 クルシュ・ルール―

 

 彼女はある体質で日光に弱く、その身を護る為に雑草を短冊状にした服を身に付けていた。そんな彼女に可愛らしくも、凛とした声が響く。

 

 「初めまして、私はエントマ・ヴァシリッサ・ゼータと言います」

 その姿は確かに、同性から見ても愛らしいといえるものであった、しかし、

 (???)

 彼女の一種の勘が告げるのだ。彼女は何か恐ろしい一面を隠していいるのだと。これから告げられるのは恐ろしいことであると。少女は愛らしい言葉で続ける。

 

 「今日は皆さんに提案があって来ました」

 

 

 

 

 

 

 

 ウルピウス

 

 普段は第10階層にある図書館で司書として働いているオーバーロードである。そんな彼は今回、ナザリックからの使者として彼は竜牙(ドラゴン・タスク)の村に訪れていたのだが、

 

 (何やら様子が変ですね)

 

 まるで、誰かを待ちわびているようにその場のもの達は、蜥蜴たちは騒がしいのだ。武器を構えるもの、忙しくその場を走り回る者、等、それは様々であった。考えられることはあるが、ひとまずは

 

 「どうしましたか?」

 仕方なく、疑問を投げかければ、彼らは自分の姿に恐る恐るながら答えてくれた。

 「族長が眠っているみたいでして」

 これ程の騒ぎに起きないとはどんな人物だろうかと彼は場違いに考えていしまう。物凄く呑気な人物かあるいは、相当な馬鹿か、しかし彼らの生態は把握しており、その長がどのように決められるかも調査済みだ。決して、侮っていい相手ではない。

 (出てきますかね?) 

 

 ひとまずはその人物のことを考えみる。それでも仕事を忘れることはないが。

 

 

 

 

 

 

  

 そして、ザリュースもまたその人物にあっていた。それはローブを纏った骸骨であった。

 

 「みなさん初めまして、私はナザリック地下大墳墓からやって来ました。アウレリウスと言います」

 兄や、ほかのもの達がその言葉に耳を傾けていた。自分もだ。

 「突然でありますが、あなた方に降伏を勧めに来ました。我らが偉大なる主はあなた方を欲しています。――そうですね。3日後にまた来ます。返事をいただくのは『2番目』ということになりますが、なにとぞいいお返事をいただけることを期待しています」

 

 (降伏、それにナザリック地下大墳墓?)

  聞きなれない単語であったものの、それは蜥蜴人(リザードマン)が迎えた新たな危機であることは確かであった。

 

 

 それは、ある雄の物語。

 

 これより語られるのは、ザリュース・シャシャの10日足らずの、しかし一生分の濃密さを孕んだ人生の転換点である。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

 彼らだけの話だけではなく、ナザリックの話であったり、カルネ村の話であったり、エ・ランテルの話なども間に書ければと思っています。

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