オーバーロード~遥かなる頂を目指して~   作:作倉延世

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今回、まずは謝罪させてください。第4章にて原作キャラの名前を間違えるという。創作以前に人としてアウトな事をしまして、しかも、指摘されるまで気づかないという愚行をしました。不愉快に思われた読者の皆様、本当にごめんなさい。
 
 最初期から読んでくださっている方々は覚えているかもしれませんが、作者は序章でもやらかしています。

 誤字、脱字やそういった原作情報等の間違いはないよう注意と確認はしていますが、それでも出た時はご指摘お願いします。本当は出さないのが一番なんですが、本当、商業で書いている人たちの凄さがよく分かります。

 では最新話どうぞ。

 それと、今作のザリュースとゼンベルはかつて、この世界のあちこちに行ったということになっています。

 


第3話 (いくさ)への兆し

 ザリュースとゼンベルはロロロにのって、最後の目的地である朱の瞳(レッド・アイ)の村を目指していた。その途中はやる事がなく風にあたりながら寛ぐ、というのは彼の性格上できる事ではない。彼は考えていた。もしも戦争になるとすれば、どうすればいいのかを。

 

 (勝てるのか?)

 

 まずは敵の戦力が未知数だ。兵の数、武装、使用する可能性のある魔法など、何より、彼らの本拠地が分かっていないというのが痛い。それが分かっていないと攻撃の仕様がないし、必然的に「1番目」の村を拠点にした防衛戦をしいられることであろう。

 

 それはとてもまずい事態になる。旅の途中、彼はアベリオン丘陵にも赴いたことがあり、そこで亜人たちの紛争地域を駆け抜けた経験もある。運悪く食料がなくなり、不慮の事故にあい、友と共に死ぬことを覚悟した時にある亜人の部族に拾われたのだ。兵として戦うことを条件に。

 

 彼らにしても自分と友を利用するだけのつもりであったのは、目に見えていた。だからこそ、友好的――必死に下手に出て、彼らをおだてて、隙を見ては、戦術というものを盗んでいき、拾われて10日目にまだ残りたいと駄々をこねる友をなだめ、脱走したのだ。

 

 その時の経験と得た知識だと、一方的な守るだけの戦いは非常にまずい。こちらの()()()()()が分かっているというのが問題なのだ。

 

 単なる消耗戦となれば、物資の量や、兵員の人数差がそのまま戦況に響いてくることだろう。せめて、相手陣営の戦力。それを調べることが出来れば、いいが、果たしてその機会(チャンス)は来るだろうか。

 

 ほかにも問題は数えきれない程あるが、一番の問題はどうやって戦士たちの士気を維持するかだ。これに関しては自分自身も怪しいものだ。確かに一族存亡の危機とあれば、皆奮い立つだろうが、それも永遠にという訳にはいかない。

 

 (どうにか)

 

 なんとか、短期決戦に持ち込む方法を考えなくてはならない。が、まずは目の前の問題からだ。

 

 それはすなわちどれだけの戦力を敵にぶつけることが出来るかだ。すでに自分の所と合わせて、4部族が集まっている。その連合が初めに戦うことになるのが、今から向かう部族である可能性もある。それで貴重な戦力を削るのはできる限り避けたいが、かといって彼らだけを好き勝手に動いてもらう訳にもいかない。

 

 (やはり一番は連合に組み込む事か)

 

 たとえ、それがどれだけ困難なことでも成し遂げなければならない。隣で寝ている友人は――本人には申し訳ないがあまり役に立たないだろう。自分がどうにかするしかないのである。

 

 (もうそろそろだな)

 

 見れば、自分が得た知識通りの湿地帯にその部族の村が見えてきたのだ。

 

 

 

 「俺は緑爪(グリーン・クロー)族の使いとして来たザリュース・シャシャ、こっちは」

 

 まだ眠そうにしているその背に軽く尻尾をぶつけ、挨拶を促してやる。そうでもしないと、この暴れる事しか頭にない友は動きそうにないのだから。

 

 それで、ようやく眠気が覚めたのか、ゼンベルもまた面倒そうに挨拶を始める。

 

 「竜牙(ドラゴン・タスク)を代表してきた~――ゼンベルだ」

 

 まるで、昨日食した夕食の献立を聞かれ、しばし考え今この瞬間に思い出したというような名のりであった。もしもある骸骨の支配者がその様を見れば、常識がなっていないと、嘆いたことであろう。

 

ザリュースもまた頭を抱えたくなるが、今回に限ってはむしろこっちの方がいいかもしれない。自分達は決して友好的な使者ではないのだから。間違っても侮られる訳にはいかないのだ。

 

 「……そうか」

 

 自分たちを迎えたのは、その装いからこの部族の祭司頭のようであった。返されたその言葉も歓迎するものではなく、その視線も鬱陶しい気なものであり、それがそのまま彼らの認識なのであろう。面倒なのが来たと。

 

 「よく来たとは言えんが、ついてこい、族長の代わりが貴様たちに会うそうだ」

 (代わり?) 

 

 気になる言い方であったが、それを問い詰めている時間もない。彼の案内に従い、その人物が待つ小屋へと案内され、

 

 そして

 

 (な……)

 

 ザリュースはある衝撃に襲われていた。彼と暴れん坊の友を迎えたのは1人の雌のリザードマンであったが、それは彼が今まで見たこともない雌であった。蜥蜴人とは黒、茶、緑といずれも暗い色合いの鱗をもつ種族であるが、その雌の鱗は真っ白であったのだ。それは彼自身見たことがない雪に酷似した色合い。そして自分たちに向けられたであろうその瞳は赤く、それも彼がこれまで出会ったことのない雌の、否蜥蜴人の特徴であった。

 

 (……んて綺麗な雌だ)

 

 もしも、彼の兄であるシャースーリューがこの事実を知ったら、嘆き悲しむだろう。今まで自分が振って、見事に断り続けた見合いは何であるかと、お前は唯、好みにうるさいだけではなかっと。

 

 次に彼の視線が捉えるのはその雌の体に描かれた赤と黒の紋様。それを書く為にその肢体にふれたであろうどこかの蜥蜴人に軽く嫉妬と殺意を覚えながらも。その意味合いを読み取り、更なる衝撃に襲われていた。

 

 その意味は成人、多種の魔法の習熟、未婚という3つだが、彼は確かにそのすべての意味を読み取れたが、最後の1つにすっかり集中力を奪われていた。

 

 (未婚?これだけ美しい雌が?)

 

 それは彼にとってはありえないことであるが、しかし、彼女の事情を知っている者たちにすれば、当然のことであった。肉体機能が数段劣る雌なんかに自らの子を望むものはいまい。それだけ彼女の体質は忌み嫌われるものであった。しかし、その体質がかなり珍しいことも確かであり、その為、いくら旅人として広い知識と様々な視点を持つ彼でもその事情を知らないのは、いや、故郷を離れている期間があったからこそ、仕方のないことかもしれない。

 

 そんな複雑な事情を知らず、ただ、他の雌より少し違う彼女の特徴なのだといや、むしろ魅力であると半ば無意識的に、気に入った雌を自分の者にしたいという本能的とも理性的とも言える雄の性に従い結論付ける。

 

 次に抱くのは危機感、これだけの魅力を持った雌がこの瞬間まで未婚なのは一種の奇跡なのではないかと。今は、そう今日は独身であるが、明日には、番になってしまっているのではないかという危惧。そうして焦る彼の心に本来の目的はすっかり消えてしまっていた。

 

 「話とは何でしょうか?」

 

 その雌が自分に語りかけてくる。自分の耳に澄んだ音が響いたようだ。それは、惚れた者特有の過大解釈、もとい過剰評価であるものの今、この場で言葉を交わしているのは2人だけ、熱暴走ともいえるザリュースの沸騰し続ける心を止められるものはその隣で器用に胡坐を掻きながら船をこいで、あとほんの一押しで自分より強い者に会うという夢に旅立ちそうな友を含めていなかった。

 

 結果、彼は決意する。場違いだとも、状況が分かっていない阿呆だともこの先言われることは気にしていない。

 

 (最大の戦いだ)

 

 それは先の私闘でソーリスにも見せなかった彼の覚悟、それは彼に対して相当失礼なことであるが、それだけの実力差があったということであるし、それだけザリュースが目前の人物に惚れこんだとも言える。なんとしてもこの雌と生きるんだという決意と共にその言葉を口にする。

 

 「結婚してくれ」

 

 それを受けた目前の雌は一瞬、呆けたと思うと次には絶叫を上げていた。

 

 「――はぁあああ!?」

 

 自分は何か段取りを間違えたのだろうかと、間違いしかないその行動を顧みることもしないザリュースに冷静さを取り戻させたのは、友からの軽い一撃だった。

 

 「おい」

 

 ゼンベルもまた、今の状況を彼の筋肉でできているであろう脳で何とか理解しようとしていた。自分たちは部族間の連合にこの部族にも参加してもらうため、ここに来たはずである。正直、自分では役に立たないと早々に見切りをつけ、せめて、相手方がなめた態度をとるのであれば、それを諌める汚れ役位は引き受けようと思ってこの場に来ていたのだが、

 

 (どうなってんだよ、これ?)

 

 今彼の目に映っているのはなぜか全身を真っ赤にさせて、尻尾を振りまくっている相手のリザードマン。そして、自分がはたいたことで、ある程度落ち着いた様子の友と彼のキャパシティを遥かに超える事態が繰り広げられていた。

 

 (おい、ザリュース、何だこれはよお)

 

 未だ、慌てふためている目前の雌は一旦無視して、隣の友に小声で話しかける。

 

 (あ、いや、すまん)

 

 それはそこそこの付き合いになる自分でも初めて見る姿であった。それは、意外だと思うと同時に祝福したいという気持ちも自然と溢れてくる。彼もまた狂戦士と呼ばれながらも友思いの雄に違いはないのだから。

 

 (惚れたのか)

 (ああ、一目惚れというやつだな)

 (そうか)

 

 これであいつも安心するだろうとゼンベルはそこで、まだ頭を抱えている雌へと向き直り、言うのであった。

 

 「そういう事らしい。白いの、ダチを頼むぜ」

 

 そこで頭を下げる、友人を幸せにしてくれと懇願するものであり、もしもこの場がしっかりとそれらしい雰囲気であれば、その姿に涙をながす者がでるかもしれない程の姿。しかし、

 

 「ちょっと待ちなさいよ!」

 

 クルシュにとってはそれどころではない。何だ、この雄たちは?いきなりの求愛に、それを受けて自分に向けられる願い、まるでこの見合いもどきがうまくいくのかと思っているのか?だとしたら、この雄共は相当な愚か者共であり無礼者だ。

 

 「失礼、まだ自己紹介が済んでいないではないですか」

 

 そう、まず第一に互いの名すら知らないのだ。彼らを案内してきた祭司頭は自分に対していい感情は抱いていないで、教えてもくれなかったのだ。それを受けて、ようやく彼らは名乗りだす。

 

 「こちらこそ、失礼した。俺はザリュース・シャシャ」

 

 (ふ~ん、結構かっこいい名前じゃない――て、私は何を考えているのかしら?!)

 

 思わず自分の考えに自分で突っ込むという非生産的なことをしてしまい。取り乱しそうになるのをなんとか抑える。どうにも胸の高鳴りがまだ収まっていなかったらしい。

 

 「俺はゼンベル・ググーだ」

 「そうですか」

 

 二人目の雄の名のりでなんとか頭を切り替えることに成功した。彼には粗暴さしか感じないからかもしれない。ここで改めて、自分も名乗る。

 

 「私はこの朱の瞳(レッド・アイ)族、族長代理をしています。クルシュ・ルールーと言います」

 「綺麗な名前だな」

 「な!」

 

 そう言われてしまい、再び自分の心が揺れているのを感じていた。

 

 (何をいっているの~!この雄!!)

 

 「そうか?変じゃねえか?」

 

 (あなたは黙っていなさい――違うでしょ!本当に私はどうしたの?!)

 

 何とか抑えているが、戸惑いは増すばかり、今の思考はなんなのか、ゼンベルと名乗ったリザードマンの言葉がうっとおしく感じたのだ。どうして?ザリュースと名乗る雄の言葉を否定するような事を言ったから?

 

 自分は彼から言われた言葉を護りたかった?

 

 どうして?

 

 (う~)

 

 それ以上考えるのは危険だと判断して目前の雄たちを睨みつける。彼女もまた、忌み嫌われながらも族長代理を勤めてきたのだ。いつまでも心臓が鳴らす警鐘、――何に対するかは一切分からないけど。――に振り回されている訳ではないのである。

 

 (よし)

 

 彼女は誰に言うことなく、身を固めるように冷静さを取り戻し。目前の雄たちに話しかける。

 

 「改めて、話とは?」

 「求愛に来た、それだけだ」

 「~!!!」

 「そういう事らしいぜ」

 

 本当に何だ?この雄たちは?

 

 (まさか、本当に私なんかに求愛?)

 

 直球で言われたからこそ、心に響くものがあるのだろう。彼女は彼女自身は無意識であるが、その雄の言葉に従ってもいいのではないかと思い始めていた。

 

 「違うでしょ!!」

 

 そこで、尻尾を後ろの床に叩きつける。2、3度ほど、彼らも驚いたように目を丸くする。それは彼女自身の為の行動であるといえるし、すっかり状況を見落としている雄たちに対する警告でもあった。

 

 「あなたがたが来たのは、――使者に関する事ですよね?」

 

 彼女にしてみれば、必死に作り上げた声音であったが、それはザリュースにとっては愛おしい雌があげるソプラノの歌声にしか聞こえていない。しかし、後半の言葉でようやく自分たちの本来の目的を思い出したのも確かなのであり、間抜けな声を上げていた。

 

 「「あ」」

 

 2人揃って。

 

 

 それからようやく話の本題に進むことができた。彼女の種族は彼らから逃げるという選択肢、避難をするつもりだという事をザリュース達に伝えた。それは確かに堅実な選択であろうが、彼はそれを許すわけにいかない。すでに自分の策が動いているのだ。そこには一片の慈悲もあってはならない。

 

 「もしそうするなら、俺たちはあなた達に戦いを挑むことになるだろう」

 

 ザリュースの言葉にクルシュはもまた彼らの考えを理解した。要は、戦争をすることにより、リザードマンの人口そのものを減らすのが、彼らの、彼の狙いであるのであろう。

 

 住処の問題もそうだが、食料の問題もあるのだ。とても現状の人数を賄うことは確かに難しいものである。何故なら、自分たちは狩猟、漁猟等、自然にあるものをとってくるという姿勢だったのだから。その狩場を変えると口では簡単に言えるが、それは獲物のよく通る道であったり、罠の的確な設置場所だったりする。

  

 そういったそれまでに積み上げてきた経験すべてを破棄する行為だ。改めて、それらを組み立てるまで、何人が餓死することか。

 

 それを踏まえると彼の策と言うのは理にかなっているのだ。たとえ、いくらかの犠牲をだしても種を先へとつなげるその行為自体は、決してだれも絶賛なんてしない。むしろ罵倒を投げ掛けられることだろう。それでもこの雄は成し遂げると初対面であるはずなのに、なぜか確信している自分がいた。それだけの覚悟をこの雄が背負っているということなのだろう。

 

 (すごい、雄なのね)

 

 いきなりの求愛行動はともかく、それなりの人物であったらしい。そう、たとえ、非道な方法でも彼は目指す先へと向かうことだろう。

 

 「私たちは――かつて仲間を食らって生き残りました」

 

 気づけば、口を開いていたのだ。突然の言葉に当然のように要領を得ない雄たち。

 

 「すいません、突然こんな話をしてしまって」

 「かつての食料難か」

 

 彼は本当に頭が回る。その言葉でようやく得心した様子を見せる隣の雄とは大違いだ。

 

 「話したくないのなら、これ以上聞かない。でも」

 

 その先は言われなくても分かった。自分の好きにすればいいということであるが、決して問い詰める訳ではなく、かといって、まったく興味がないという訳でもなく。あくまでこちらに話の流れを委ねてくれているのだと胸が震える。そして、どうして自分があんなことを言ったのかも納得した。

 

 (――聞いて欲しかったのかもしれない……私の罪を)

 

 かつて自分たちがやったことも相当なことだ。それこそ、これから彼らがやろうとしていることと同じくらいに。それでもこの雄であれば、きっと嫌悪することなく、聞いてくれると期待していた自分がどこか心にいたかもしれない。

 

 そしてその通りであった。

 

 「ありがとうございます。では、聞いてください。ある一族の過去を」

 

 その言葉とともに彼女は語る。

 

 かつての食糧難、それは、戦争に突入した旧5部族だけではなく、彼女たち朱の瞳(レッド・アイ)も向かえたものであった。

 

 ではその時彼女たちはどうやってそれを乗り越えたのか?

 

 彼女は語る。当時の族長であった彼が用意したという。それも決まって、部族の決まりをやぶり追放者が出た時に、新鮮な肉をだ。ザリュースとさすがにゼンベルもそれの出所を察するが、悲痛に染まった様子でそれを語るクルシュを見れば、特にそれが酷いことではないと考えていた。

 

 彼女は続ける。

 

 2人のように自分たちもその出所が分かっていたが、それでも口にしたという。生きる為に。それでも部族内に不満は溜まっていき、自分を筆頭に反乱を起こしたことを。その際に族長とその周囲の者たちを殺して、そして皮肉にもそのおかげで人口が減り、食料不足が解消されたこと。自分がこの立場になったのはそれからだと伝えて、話を終えるつもりであった。

 

 「笑っていたんです」

 

 頬をしずくが伝うのを直に感じていた。今日、初めて会った者たちの前だというのに、自分はそれだけ、彼を信じているというのだろうか?いや、そんなはずはないはずだと、クルシュは感情を抑えながらも、流れる涙は止められずに語っていた。

 

 「あの時の、あの人の顔を見ると、私たちが反乱を起こすことまで見越して、あんな事をしたのではないかと思うんです!族長は最後まで一族を見捨てなかった!その場の感情と衝動で動いた私たちよりもずっと!!……」

 

 「……正しかったのではないかと」

 

 そこで話は終わった。項垂れる彼女を見て、ザリュースはただ。

 

 「それが、正しいかどうかは分からない」

 

 自分の考えを彼女に伝えるだけだ。

 

 クルシュは一瞬、体が震えるのを感じたが、それでもこの雄の言葉は聞かないとという思いでなんとか踏みとどめる。先程は自分の身の上話を聞いてもらったのだ。今度は、自分が聞く番だと。

 

 「それでも、俺たちは歩いていくしかない――たとえ、どれだけ辛い道であろうとな」

 

 その言葉は決して、自分を宥めるものではなかったけど、かといって咎めるものでもなく、ただその時のクルシュ達の行動もまた生きる為の必死の決断であったと認めてくれるものであった。

 

 そしてザリュースもまたそんな彼女の姿に感銘を受けていた。先ほどの話で聞かされた内容には彼女のある体質についてもあった。何らかの才を発揮する――彼女の場合は祭司に関する才能であったと――しかし、肉体的には他のリザードマンに劣るというものであるという、それで理解できた。ここに案内した者の気になる言葉の意味が。

 

 (敬遠されていると、いう事か)

 

 いや、もっと酷いものであるかもしれない。しかし、自分には関係ない。弱い事の証であってもその雪のように白い肌は美しいと思えるものであるのだから。

 

 そして、改めて思う。何としてもこの雌とこの先の未来を生きて行きたいと。その為にも。

 

 (なんとしても勝たんとな)

 

 まだ、この部族との交渉が終わった訳ではないが、どうしてもその事を見越してしまい、焦っているのだと自覚させられる。

 

 「失礼しました。では話を続けましょうか」

 

 彼女の声で何とかはやる気持ちを抑えて、ザリュースもまた話に臨む。結局のところ、彼女たちがどういう方針で行くかは決まっていないのだから。

 

 「私たちの部族は……」

 

 先ほどのような即決ではないが、やはり迷っている様子であった。彼女達にしてみれば、どちらを選択しても襲われることに変わりはないのだから。ただ、その相手が違うだけということである。

 

 しかし、ザリュースにとっては、できる事ならいや必ず、同盟に加わって欲しいと思っている。もしも謎の軍勢と戦う前に4部族と朱の瞳(レッド・アイ)で争うことになれば、ただでさえ低いであろう勝率が更に下がるのだから。

 

 彼女が何に躊躇いを感じているのか考えなければならない。

 

 答えなんて一つしかないだろう。

 

 自分がやろうとしていることに対する躊躇だ。

 

 「あの、その――どれくらいを考えていますか?」

 

 何のことかと聞き返すのは酷を通り越して鬼畜の所業であろう。

 

 「口減らしか」

 「はい」

 

 そう、この先の戦いを乗り越えたとして生き残るリザードマン達のことを聞いてきたのだ。それを受けたザリュースは考える。仮定として、新しく移り住む土地に食料となるものがどれくらいあるのか、それを取れるようになるまでの時間、それまでに必要な非常食にそれを運べる人手と賄える人数。

 

 それらすべてを計算にいれて、やがて答える。

 

 「各部族ごとに戦士階級10、狩猟20、祭司3、雄70、雌100、子供若干名を予定している」

 「……それ以外は?」

 「――場合によっては死んでもらう」

 「そうですか」

 

 彼女は考えこむように視線を下に落としてしまう。それも無理のないこと、その選択次第でこの部族が消滅する可能性すらあるのだから。

 

 (俺は)

 

 勝手な願いだと分かっている。リザードマンという種族にとって最大の危機であるとも、そんな時にこんな事を考えるのは酷く自分勝手であり、これから向かえる展開次第では、自分は罪人にさえなりえる。そんな者と一緒になれと言うのもあんまりであるし、彼女の自由を奪う行為だ。

 

 それでも、

 

 (彼女と生きたい)

 

 そう強く願っているのだ。その為にも、この先の戦に勝つことを考えなくてはいけない。その第一歩はこの交渉を成功させることだ。そして必要なのは自分勝手な言葉ではなく、未来への希望だ。

 

 「一つだけ言いたい。俺たちは死ぬためではない。生きる為に戦うのだ。」

 

 そう、口減らしにしたって何も一族の未来を悲観したものではない。もしも、この戦争に勝つことが出来ればすべては笑い話になるだけだと、伝える。

 

 それを受けて、クルシュもまた決意をする。逃げるという選択肢をとれば、彼らと、使者が言っていた謎の軍勢、その2つを相手にするのだから。ならば、リスクを少しでも減らすという族長代理としての合理的な判断でもあったし、

 

 (族長)

 

 かつて自分たちの為に笑って死んでいった彼に対しての罪滅ぼしでもあったかもしれないし、そこで一瞬、視線を目の前の雄へと向ける。

 

 (………)

 

 彼のその真っ直ぐなところに信じてもいいのではないかと、族長代理ではなく、一人のクルシュに思う所があったのかもしれない。

 

 (私ったら、何を)

 

 「分かりました。私たちもあなた方に協力しましょう。今は未曽有の危機であることも事実、一人でも多くのリザードマンが生き残れる道を共に模索しましょう」

 

 深々と頭を下げる彼女をみて、ザリュースは安堵していた。できる事なら彼女と戦うという未来を向かえることはしたくなかったのだ。

 

 「了解した。こちらも礼を言う」

 

 隣で再び、船をこぎ始めていた友の頭を抑えるように降ろさせて礼をする。そして、

 

 「それとすまない……」

 「何でしょうか?」

 

 彼女は何でもないというように返して来る。それは少なからず、彼の心に裂傷を与える。一世一代の求婚を何とも思われていないというのは、こちらに非があったとしても悲しいものである。

 

 「先ほどの答えを聞かせて欲しい」

 

 それでも愚かな雄はそう聞いてしまう。

 

 (なあぁ!!)

 

 クルシュは必死に平静を保っていた。始めは不意打ちということもあり取り乱してしまったが、彼女はその境遇と生い立ちから自分の人生というものに達観していたのだ。誰とも深く関わることなく、生きていくのだと。だからこそ、弱みを見せないように、握られないように彼女は静かな雌を演じることに徹していた。

 

 それが、この雄の言葉で少しずつであるが、その心が変わりつつあるのも確かであった。彼女自身は無意識であるけど。何とか言葉を返すのでいっぱいであった。

 

 「今はそれどころではないでしょう――もしも、この先の戦いに生き残ることが出来れば、考えますから」

 「そうか、それで十分だ」

 

 肩を落としたように沈鬱するが、それも一瞬のことで、すぐに立ち直す彼を見て、彼女は確実に好感を上げ始めていた。

 

 (勝たないといけないわね)

 

 

 こうして、彼らの歴史において初の全部族連合が出来上がるのであった。

 

 彼らは抗う決意をする。その為に過去の遺恨を乗り越えて。それは、かの支配者が望んだことか、はたまた予想外であったかは、彼らは知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 エンリはその日の仕事をそこそこに切り上げて、その人物を迎えていた。自分の記憶が正しければ、彼女の姉妹に会うのは、これで3()()()のはずだ。妹がなついた先の2人とはまた違った雰囲気を持っている人物であった。

 

 (やっぱりというか)

 

 あの人の周りは美人揃いだ。これでその誰にも手を出すという事はしていないのだから、その高潔さが伝わってくる。そういったところが彼女を始め、想いを寄せられる理由の一つではないだろうか?

 

 (ゴウン様って大概)

 

 普段、陽気に振る舞い、今は隣で妹とともに居る。赤毛のメイドである彼女が言っていたのだ。妹たちの内2人がかの主に想いを寄せていると、できる事なら妾でもいいから何とかしたいと。愚痴を吐くように口にしていたのを偶然とも事故とも言えるような状況で聞いてしまった。自分はその事に関しては特に養父たるあの人を責めようとは思っていない。それだけの人物なのだ。それどころか、妹なんかは

 

 『それじゃあ、お母さんいっぱいできるの?』

 

 なんて無邪気に聞いてきたのだから。その辺りの複雑さもいつかは教えてやらないといけないが、今はまだいいだろう。その2()()()()()()()()()()があまりその手の事情に触れるのはよくない。一つだけ言えるのは、自分たちに遠慮をする必要はなく、たとえその想いすべてに何らかの形で答えても嫌悪なんて微塵もないことだ。

 

 (もしかして)

 

 将来、義弟や義妹ができる事があるかもしれない。そう考えて、期待と不安がない交ぜになりそうになって改めて、目前の人物へと思考がいく。

 

 いつも傍にいてくれる彼女が暖かな日光を思わせる人物であるならば、目前の人物はどこか夜のとばりを思わせる静かな印象を感じた。

 

 (この人は)

 

 知っているのだろか?彼女が言っていた事を、いや、愚問だ。恐らくは彼女も把握しているのだろう。

 

 (ルプスレギナさんとはまた違うけど)

 

 その美しさには目を見張る者がある。ここまでくると、いつか彼女の姉妹全員と会ってみたいと好奇心が溢れていた。

 

 彼女の姉妹に関しても聞いている。まず彼女自身は次女、その上に長女がいて、すぐ下に3女が2人、双子だろうか?その下にこれまた4女が2人、連続しているのもまた驚きである。そして末妹にあたる人が最後に続いて、7姉妹だという。

 

 妹が『おねえちゃん』となついたのは下の双子であり、彼女たちはルプスレギナ曰く違うということである。それなら、必然的に残りの3人の内2人が養父に想いを寄せているという事になる。できる事があれば、協力をしなくてはならない。

 

 それは、純粋に女性としての想いを成就させて欲しいと彼女の優しからくる考えであった。

 

 「初めましてお嬢様方、ルプスレギナの姉、ユリ・アルファと申します」

 

 頭を下げるメイドに慌てて、それまでの考えを切り捨て、自分も頭を下げる。

 

 「こちらこそ、いつもお世話になっています。私はエンリ…」

 「存じ上げております。エンリ様、ネム様」

 

 それも当然のことであった。もうあの人の養父となって少し経つのだ。自分たちの名前くらいは周知されていることであろう。そして、この先の会話をどうつなげばいいのか少し戸惑ってしまい、彼女が陽気な声を上げる。

 

 「エンちゃんもユリ姉も固いっすよ。もっと肩の力を抜くっす!」

 

 その言葉はエンリにとってはありがたいものであったが、目前の人物は違ったらしい。その整った顔に掛けられた眼鏡が一瞬光ったと思うと。

 

 彼女は消えていた。

 

 (へ?)

 

 そして、次の瞬間には彼女は自分の妹の腹にその拳を叩きつけていた。

 

 「ええええ!?」

 

 思わず叫んでいた。殴られた彼女は、エンリの目算でも30メートルは吹き飛んでいたのだから無理もないことだろう。妹は突然右手の温もりが消えたことに戸惑っているようであった。そして殴った彼女は自分たちに向き直ると、頭を下げてきた。

 

 「申し訳ございません。お嬢様方、愚妹がとんだ無礼をおかけしました」

 

 彼女が何を謝っているのか何とか考えて、ようやく思い至る。

 

 「あの、言葉遣いのことでしたら、私がそうするようお願いしたんです」

 

 そう、そのことであれば、自分が頼んだことで彼女には何の非もない。吹き飛んだ彼女を見れば、ようやくその姿を見つけた妹が親鳥へと殺到する雛鳥のように飛んで行っている。それならば、未だ腹部を抑えている彼女のことは任せてもいいかもしれない。それを確認して改めて、向き直るが、目前の彼女は納得していない様子で答える。

 

 「例え、そうであっても従者として認められるものではありません」

 「ですから、私はそういった扱いを受けるような者ではありませんから」

 

 それはどこまでいっても変わることも、曲げるつもりもない少女の認識だ。彼女にとって、今の立場は自分たちの後見人となることを決めたあの人の好意を受けているだけなのだから。

 

 「お嬢様、ご自身を貶めるような発言はおやめください」

 

 それはユリの個人的になるが、譲れない思いでもあった。彼女の存在が主の心の支えになっているのもまた確かであるし、悲しいことであるが、自分たちでは主に従い、尽くす事しかできないが、彼女とその妹はまた違った角度から主へと寄り添うことが出来ているのもまた事実。

 

 彼女たち姉妹は、自分にとっては単なる主の養子ではなく、仕えるべき者たちであり恩義がある人物なのだ。だからこそ、許せない部分がある。

 

 (ルプスレギナ…!!)

 

 妹がここまで愚かしい存在であったと落胆を通り越して陰鬱な気分である。元よりそんなに期待もしていなかったが、よもや大切な恩人にもまでこのような口を聞くとは何たることか。

 

 「ですけど」

 「いえ、お嬢様方は私どもにとっても大切な方々でございますし」

 「でも、私は」

 

 養子たる少女と眼鏡をかけた鉄拳メイドの謙遜とも譲り合いとも言える奇妙なやり取りは、吹き飛ばされた赤毛の従者と少女の妹が戻ってくるまで、続けられた。

 

 「さっきから何漫才をしてんすか?エンちゃん、ユリ姉」

 

 再び、ユリの眼鏡が光りそうになったが、それより先にルプスレギナは少女の後ろにピッタリとくっつくように寄り添う。もしも、感情のまま動けば、戦士として熟練の彼女でも主君たる少女を巻き込みかねないとその拳を納めるが、その目は妹を睨みつけていた。

 

 その視線を受けたルプスレギナは涙ながらに少女にすがりついていたが、それが演技であることはエンリには一目瞭然であった。

 

 「うう、こんなバイオレンスな姉をもって私は不幸者っすよ~エンちゃん~」 

 

 その言葉に顔を赤らめながらも反論する姉メイド、しかし、その視線には確かに殺意が混じっているのをエンリは感じていた。

 

 「あなたね、少しは自分の行動を顧みることはできないのかしら?」

 「だって、エンちゃんがいいって、言ってんすよ。ユリ姉こそ少し古すぎじゃないっすかね~」

 

 その言葉に思い当たるふしがあるのか半歩後ずさるように彼女は後ろへと下がる。

 

 「そうじゃないすか~。そうやって、距離を置くのはすでに古いメイド像なんすよ。時代はフレンドリーなメイドっすよ!!」

 

 そう言って、後ろから仕えている少女を抱きしめるメイドの姿は怒りを覚える所であるというのに、どこかそれを羨ましくも感じている自分がいるのも確かであり、彼女は何も言えなくなってしまい。その姿が更に次女を調子に乗らせていた。

 

 「ルプスレギナさん」

 

 そんな彼女の頭に軽く手刀を下ろす形でその行動を諌めつつ。少女は目前のメイドへと憐憫の表情を向ける。それは慈悲に溢れたものであり、ユリの心に安心感を与えるものであった。

 

 「その、苦労されているんですね」

 

 それはエンリにとっても確信できることであった。普段の彼女を嫌というほど、見せられているからこそ、その姉である彼女がいかに大変な目にあっているかということを想像できてしまったのだ。

 

 それはともすれば、憐れむ目でもあるのだが、ユリには関係のないこと、むしろ彼女にとって、少女が見せた笑顔は文字通り天使のものであった。気づけば、膝をついて顔を覆って涙を流していたのだから。

 

 「お嬢様!!……そうなんです!ルプスたっらいつもいつも!!」

 「ちょっとユリ姉!?エンちゃんも何すかその顔は?!」

 

 アインズ・ウール・ゴウンの養子であるエンリ・エモット、そして同じ人物に仕えし戦闘メイド達の長女たるユリ・アルファ、一見、共通項目が見つからないこの2人であるがもしもあるとすれば、この1点だろう。

 

 2人ともいわゆる始めっ子、姉妹と呼べる存在が下にいない者同士通じ合うものがあるのだろう。

 

 「ちょっと~何で2人ともそんな目で見てくるんすか~」

 

 向けられる視線に抗議を上げるルプスレギナと、

 

 (もしかして)

 

 そう、ネム・エモットだけがその可能性にたどり着いていた。彼女にとって赤毛のメイドというのは憧れの対象だ。美人で、明るくて、仕事ができる人、それでいてにこやかに笑っている時もあれば、身に纏う雰囲気が変わり時々、見かける姿も凛々しくて大好きだ。

 

 そんな彼女が大好きだからこそくっついていた訳だし、見てきた訳だ。だからこそ気づいてしまうのだ。彼女が姉を前にした時の姿はそれまで自分が見てきたどれでもないような気がするのだ。それは同じく大好きで彼女の妹にあたるあの『おねえちゃん』達や、そんな彼女よりも上位の立場にある墳墓の者たちを前にしたもの等とはまた違ったものである。

 

 彼女は7人姉妹の次女、それは人数的にも姉と呼ばれる位置であるのだろうが、同時に妹であることも確か。

 

 妹であれば、姉に甘えたいのも一つの必然だ。

 

 一見ふざけているようで、それが彼女にとっての姉に甘えるという行為なのだろう。自分だってまだ、時々姉に抱き着いて寝ているのだから。それを思うとなんだかおかしくなってしまうネムである。

 

 

 (できる人なのに)

 

 そしてエンリは彼女でこの2人の関係性というのもある程度把握していた。いや、正確にはユリがルプスレギナに抱いている感情であろうか、自分から見ても普段の彼女はできる人物なのだ。ただ、その言動に問題があるのは否めないけど、そして目前の姉であるこの人物がその事を解っていないはずがないのだ。

 

 つまり理解してるからこそ、普段からしっかりしてほしいというものであるのだろう。それ自体は自分の勘であるけれど、今日始めて会うこの人物が姉妹に向ける感情としてはかなり強い信頼ありきのものの気がしているのだ。これも予想に過ぎないけど、ほかの姉妹であれば、信頼と同時に多少心配している部分があるはずなのだ。それが次女である彼女には、不安はあるが、かといって彼女自身に対してのものではない。

 

 彼女が何かやらかすことは危惧しているが、彼女自身が何かに巻き込まれるという危機感は抱いてすらいないというもの。

 

 例えばこれがほかの姉妹であれば、不安はないけどそれとは別に本人を心配する気持ちが混ざっているものであるのだろうと予想ではあるというのにどこか結論付けている自分がいるのも確かだ。

 

 一つ言えるのは、彼女たち姉妹は自分たちなんかよりもずっと仲が、いや、そこはやっぱり自分たち姉妹の方が仲がいいと言い切りたいと思っている部分がある。

 

 いつまでも馬鹿なことばかりしている訳にいかず。エンリはユリへと目配せをする。話を先に進めようと。彼女もその意味を理解してくれたみたいですぐに姿勢を始めに見せたあの完璧な挨拶をした時のもののように整える。

 

 「では、お嬢様。今日私が来た用件でございますが」

 

 (たぶん)

 

 この人も自分に対して、その固い言葉遣いを改めることはないのだろうなと諦めが既にその胸によぎっていた。

 

 その後、4人で自宅に戻り、いつもの部屋で話を聞くことになったのだが、

 

 

 (やっぱりルプスレギナさんのお姉さんなんだ)

 

 初めに抱いた感想がそれだ。理由は単純、彼女は今日、我が家に来たばかりだというのに、一言断りをいれたのち、まるで食材や食器の場所をあらかじめ把握しているかのように、簡単な食事と飲み物を用意してくれたのだ。その味も絶品で、妹なんか静かに、けど、必死に彼女が用意してくれたものを口に運んでいるのだから。

 

 「料理とかって、やっぱりユリさんがルプスレギナさん達に?」

 

 ふと湧いた疑問だ。彼女たち姉妹にも親はいるのだろうが、何となくであるが、自分たちと似た何かを感じたかもしれない。それを自覚して、自己嫌悪に駆られる。その考えは相手方に非常に失礼だ。

 

 「そうっすよ~ユリ姉がいろいろ私たちに仕込んでくれたんすよ~メイドとしての立ち振る舞いとかもすね~」

 

 呑気そうに普段通りの様子で答えるルプスレギナにユリはすぐさま反応していたが、その言葉を否定するものであった。

 

 「何を言っているの?ルプスレギナ、私たちは…」

 

 そこで彼女は姉の肩を叩いてみせた。それは誰の目から見ても仲が良い姉妹のやり取りであった。

 

 (何なのかしら?ルプス?)

 (いいじゃないっすか~そういうことにしておけば)

 

 それは次女なりに長女を立てた行動であった。本来であれば、彼女たち戦闘メイド姉妹はそれぞれの創造主に創られた通りのスペックを始めから持っており、それに従ってこれまで動いて来たのだ。もしも例外を上げるとしたら。今、目前で主の養子姉妹が口にしている料理であるがそれだって、姉妹全員で取り組んだことであり、ユリがほかの姉妹に教えて回るなんてことはなかった。殴ったことはあるかもしれないが。

 

 しかし、それを説明するとしたら話は長くなるし、彼女の心では受け止めきれず破裂してしまうかもしれない。そうなってしまうのは自分たちの本意ではないし、何より主が嘆き悲しむことは分かりきっているではないか。そういう訳である程度は新たな設定を追加しているのだけど。ユリとしては今の話は特に必要ないような気もするのだ。

 

 結局それ以外の案が浮かばず彼女は妹の突発的な提案を受け入れる。それを見た彼女の顔は確かに微笑んでいた。普段どれどけ殴られてたり、時には銀を使って焼かれることがあっても。――但し本人の自業自得である――姉のことは大事であるし、そんな姉にいろいろ教わっているというのも案外間違いではないのだから。

 

 軽く軽食がおわり。彼女が来た用件を伝えられる。それは、この先、墳墓が戦争をすることになるかもしれないという話であった。

 

 「それは、楽園というものの為ですか?」

 「はい」

 「そうですか」

 

 それを聞いて、支配者たるアンデッドの養子たる少女は考える。それは正しい事なのだろかと。

 

 (いや)

 

 すぐに受け入れることも納得することも感情的には難しいかもしれない。それでも自分がそれに口をだしていいはずがない。きっとあの人なりの考えがあってのことであるだろうし、優しい方でもあるのだ。間違ってもそれで破った相手を奴隷になどはしないだろう。

 

 思えば、初めてあの人と出会った襲撃の件が既にそれではないか。あの時攻め込んできた時の者たちにしたって、狙いがあったのだ。それこそ、自分たちの命なんて大したものではないと。国としての方針であったのだというのだから。

 

 それは王国にしたってそうだ。あの時の戦士長の何か辛そうな顔。その意味を知ったのは、養父が信頼している人物の授業で知って、そして恥ずかしさで顔が熱くなった。自分の持っている世界観がどれだけ狭いか思い知らされたのだから。

 

 国家

 

 人がそれこそ100万単位で集まって作る一種の生命体。その末端である人1人の命なんて軽いものであることだろう。だからこそ、自分たちは他の国に狙われ、故国からは半ば見捨てられたようなものなのだから。そう考えれば、

 

 「分かりました。元より私たちは一度死んだも同然の身でございます。恩人かつ養父たるあの方がそうするというのであれば、私は()としてそれに従うまでです。もしもどなたかいらっしゃるのであれば、受け入れていきます」

 

 それが少女の出した答えだ。自分はあの人に恩を返さないといけないのだ。もしもそれが原因で故国から剣を突き付けられようとも後悔はない。

 

 そしてその光景を見せられたユリもまた感銘を受けていた。彼女自身は別に優れたところはなく、むしろ平凡な方であろう。しかし、その時の彼女が見せた姿は不敬ながら主と重なってしまい、そして内心涙を流していたのだから。

 

 (本当に立派でございます。エンリお嬢様)

 

 「畏まりました。アインズ様にはそのようにお伝えします」

 「はい、お願いします。ユリさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 用事を終えた戦闘メイドは墳墓への道すがら、見送りに来てくれた妹に声をかける、この場には自分たちしかいない。少女が気をまわしてくれたのだ。本当に優しい御方だと忠誠に力が入る。

 

 「ルプスレギナ、分かっていると思うけど」

 「何かしら?ユリ姉さん」

 

 言葉遣いや態度に関しては本人もいいと寛大にもおっしゃてくれているので一応納得はするが、これだけは言っておかないといけない。

 

 「必ずお嬢様達をお守りしなさい。あの方々の命はあなたや、そう僕たちよりも重いものとして考えておきなさい」

 

 動き出したナザリックには敵が多すぎる。主の方針にて仮想敵として認定されたのは、犯罪者。特に『ヘッドギア』を中心とした。破壊や殺戮、あるいは弱いものから搾取する事しかできない者たちが第1位だ。

 

 次に警戒をするという意味でスレイン法国、そしてその影響を強く受けているであろうということでローブル聖王国と続く。

 

 そしてそれらの一種の目に見えている敵よりももっと警戒をしなくてはならない者たちとしてプレイヤー達の存在もあるのだ。そんな彼らが主への交渉の札としてあの姉妹を狙う可能性も十分あり得る。今はまだその気配はないというのが、二グレド率いる《観測斑》の意見。いや、一つだけ前例があった。

 

 (傾城傾国)

 

 主自身が対処した彼らのことだ。その時用いていた世界級アイテムも問題だ。やはり、この村の人員を増やした方がいいのではないだろうか?と目前の妹を見るまでは思っていた。

 

 「安心してよ、ユリ姉さん」

 

 一瞬、全身が震えた。それは姉の自分でも中々見る事がない冷酷な彼女の一面。本来、ルプスレギナとは弱者は弄んで殺したいという。墳墓の中では悪質な部類に入る者だ。その彼女がこんな顔をするのは、それだけのことだとも言える。

 

 「私にとっても大切な方々に変わりないし、お嬢様方は勿論、村の人々に危害を加えようなんてする者達は……」

 

 彼女はそこで一度瞳を閉じて、再び開ける。映るのは獲物を狩る猟犬の眼そのもの。浮かべた笑みは犬歯が怪しい光を放っていた。

 

 「……みんな私が殺すわ。それこそ私のすべてを使って」

 

 その様を見せられてユリも先ほどの考えをすべて放棄する。この妹であれば、相手がプレイヤーでない限り、遅れをとることはないだろうと。確かに普段は叱責ばかりしているが、エンリの予想通りとも言うべきか。長女が最も信頼しているのは何気に次女だったりするのだ。本人は無意識的かつ絶対認めないだろうけど。

 

 「分かったわ。あなたがそう言うのであれば、私はそれを信じましょう。お嬢様達をお願いね」

 「ええ、任せて頂戴。姉さん」

 

 その言葉を受けてユリは墳墓へと帰還するのであった。

 

 

 確実にではあるが、その時は近づいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




 

 
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