オーバーロード~遥かなる頂を目指して~   作:作倉延世

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 予定ですと、今回戦争準備

       次回戦争

       最終回

       という流れです。


第4話 整えられし盤上

 

 そして約束の日が来た。

 

 ナザリックが指定した1番目の村、鋭き尻尾(レイザ―・テール)の元へと向かうのは第5階層守護者である武人の右腕たる彼であった。

 

 歩く速度を緩めることなく、確実に目的地へと向かいながらも彼は考えていた。彼らがどんな答えを返して来るのかを。

 

 彼にとってはこれからやることは偉大なる支配者であるあの方のご意向もあるが、何より自身が仕えている方がその存在意義を証明する為の催しでもあるのだ。どのような答えであっても事前の打ち合わせ通りに進めるだけだ。

 

 (ヤツラハ――ドウスルノカ)

 

 まず浮かべるのはこちらの勧告を受けいれてきた場合。その場合であれば、直ちに彼らの統治が自身が仕えし守護者の手によって行われる予定である。もしもそうなってくれれば、多少は手間を省くことが出来るというもの。しかし、これまで訓練を積んでいた軍隊の成果を見る事ができないのも確かであり、正直悩ましい限りだ。

 

 今回の件でナザリック側が得る利点の一つが正にそれなのだから。

 

 経験

 

 それに勝るものはないというのが、至高のまとめ役であり、絶対の支配者たるあの方の言葉だ。この機会に200人単位の戦闘を試みるのが狙いの一つである。

 

 (イヤ――アルイハ)

 

 もしも彼らが逃げるという選択肢を取った場合でも少々形は違うがその運用訓練はできるのだ。逃げた相手の探知、からの追撃、捕縛とその手のことも腐るほどやってきたし、叩き込んできた。あのメイドの少女の働きは大きく、兵たるスケルトン達の一部はすっかり彼女に怯えてしまっている。

 

 (~~♪~~)

 

 苦笑していた。そんな恐れられている彼女であるが、主に対しては外見相応の態度だったりするのがまた可愛らしく、微笑ましく感じてしまうのであった。

 

 そう思ってしまうのは彼の設定にそう定められた訳ではなく、彼の創造主が《リアル》では子供を溺愛する家庭の持ち主だったことが強く影響していたのかもしれない。

 

 さて、そんな彼女であるが、不満げに言ってきたのだ。愚痴を吐けるというのは主が望まれていることでもあるので聞いたのだが。その内容は彼女の()が姉の1人と共に主と時間を過ごされたというものであり、その事をすごく羨んでいる様子で。

 

 仕事の愚痴と言うより、親に構ってもらえない不満げな子供の駄々みたいなものであったのだ。

 

 この一件がうまく収まれば、優しき主のことだ。何か褒賞を述べるよう伝えてくるのは分かりきっている。ならば彼女にもそういった機会を与えてくれるよう自分は進言するとしよう。

 

 『アノこに、キデモあるの?』

 

 そんな声が耳に聞こえた。いや、空耳なのは分かっているし、それは長年の付き合いから導き出される確信めいた予感であるのだろう。そして自分は答えることだろう。違うと。

 

 彼女に感謝しているというのは本当だ。訓練の教官役に、時折作ってくれたお茶菓子は素晴らしくおいしいものであった。一度だけ、友人であるあの人物に睨まれた理由は結局分からないままであるが。

 

 それらのことも踏まえた上での行動であり。決して他意や下心などはない。

 

 『お前の望みは、何かないのか?』

 

 またも聞こえる。聞いたはずがないのに再生される台詞。それはそれだけ、かの方が寛大であるということだ。何かあるたびに主は自分たちにそう聞くのだ。こうやって主の為に尽くすことが最大の褒美だというのに。

 

 (ワタシノ――ノゾミカ)

 

 そこで腰に添えられている刀の柄頭を指で軽く小突いてみせる正直、自分には主へと仕えているという事実とこの得物を振るう機会がもらえているだけで満足なのだ。いや、

 

 (モシモダ――ユルサレルノデアレバ)

 

 先に彼らに見せたように像を作るというのは彼の趣味であるのだ。彼はある事情から刀しか扱うことができないが、それを悔やんだことはない。日々鍛錬に力を入れ、一つの技を作り上げ。その技を用いて敵を屠る。それだけのことが彼にとっては既に満たされた人生であるのもまた事実である。が、それを用いて何の変哲もないものを形あるもの、それも精工なものに仕上げるのも楽しいと思ってしまうのだから。

 

 アインズにはしては喜べる事でもある。彼らNPCが仕事(彼らにしてみれば、至高の褒美)以外に私的な趣味をもってくれるのは嬉しい事なのだ。

 

 そして彼が望みたいと思うのは主自身の彫像を製作したいというもの。彼らにとって主の為に何かなすというのは本能レベルで刷り込まれたことであり、そこだけはそう簡単に捻じ曲がることはない。本人にしてみればたまった物ではないだろうけど。それだけ彼らにとって主に抱いている恩義が大きいという事である。

 

 そうなるとどうしても考えてしまう。

 

 一体、どういった素材で作るのがいいのかと。

 

 (アルジ二――フサワシキモノヲ)

 

 そう、そこらのただの木材では支配者たるあの方の御威光を再現することはできないだろう。できることなら、もっと材質にこだわりたいところであるが。

 

 (………)

 

 正直、思いつかない。いや、一つだけ心当たりがないわけでもないが、そう簡単な話でもない為。諦めるように思考を切り替える。気づけば目的地はもうすぐである。何にしても先の話、まずは彼らの返答を聞かなければならない。

 

 

 

 

 

 ザリュースもまたその存在を確認していた。周りには一応、何人かのリザードマン達もいる。兄を始めとした連合の責任者たちには、村の中で待機してもらっている。ないと思うが、相手がいきなり攻撃を仕掛けてくる可能性も捨てきれないから。

 

 それからクルシュや他の族長たちからの言葉で使者として来たのが、ローブを纏った骸骨だけではないと目前の存在を確認することで知ったが。

 

 (まずいな)

 

 自分が見た相手であれば、まだ何とか勝算はあったのだが、今目の前に見えるこの相手は少々まずい、自分一人では間違いなく殺される。ゼンベルに兄、それとほかの部族から選抜して、10人、それ位が揃ってようやく戦えるといったところか。

 

 次に考えるのは、この先の戦いにこの蟻とも蟷螂とも呼べないような者が出てくるかということ、その見た目は威圧感に溢れていた。その顔には3本の角が額の2か所と顎の辺りから伸びており、彼が知る事はないがその様相は鬼の面のようであった。

 

 その腰に軽く布を用いて巻きつける形で収まっている4本の剣らしき物、いや

 

 (あれが、刀)

 

 旅の途上、その話を耳にする機会があったのだ。南方から伝わるという武器――それは凄まじい切れ味を誇ると言われており、その話をしてくれた者の話によれば、自分が持つ至宝の剣など比較にもならないとか。

 

 当然、その使い手も相当な手練れのはずだ。最近該当する者が年端もいかない少女(見た目)に泣かされるという事件があったが、それは彼の知らないことだ。

 

 「?――キデンハ?」

 

 まだ距離にして30メートル、しかし相手にしてみれば十分会話の為の距離はあるようで声と判別するのが怪しい音が聞こえて来る。

 

 「すまない、俺の名はザリュース・シャシャ。緑爪(グリーン・クロー)の元旅人だ」

 「ソノナハ――ソウカ」

 

 自分が一言答えただけで、相手は何か理解したようである。名前よりも部族名に反応したようである。次いで、発せられるは明確な殺気、そして周囲の気温が上がっていくのが、肌を通して感じられる。吸い込む空気は熱く喉が痛みを訴える、水分が足りないと。

 

 「ツマリダ――コウフクカンコクヲ」

 「そうだ。俺たちはお前たちの下につくつもりはさらさらない」

 「アラガウ――トイウコトカ」

 「そうだ」

 「ドウナルカ――ワカッテイルノカ?」

 「ああ、後悔はない」

 「ソウカ」

 

 確認と了承が交互に交わされ少々の沈黙が過ぎる。相手はやや面食らっていたようだが、やがてその無機質な瞳をザリュース達に向ける。その視線に数人の者達が体を震わせ、自分自身もその場を逃げ出したい気持ちに駆られるが、それは絶対にしてはいけないし、何よりあの雌に合わせる顔がたたない。

 

 「オマエタチノイシハ――ワカッタ」

 

 そこで、彼は手を出そうとして引っ込める動作をした。まるで何かをやろうとしてその直前になって、致命的なことに気付いたという風である。

 

 「ヨッカダ――ココニセメイルトシヨウ」

 「わざわざ教えてくれるとはな」

 

 勿論騙し討ちをする可能性もあるが、それを考えるのはまた後でいいだろう。このやり取りから少しでも相手方の情報を得なくてはならない。

 

 「ソレトワタシダガ――コタビノタタカイニハ――サンカシナイ」

 (!!!)

 

 その言葉が本当であれば、ありがたいと思ってしまい、情けない気持ちが襲ってくる。

 

 「ああ、そうなのか」

 

 彼は言うことは言ったと踵を返し再び、森の奥へと向かって歩いていた。後一歩でまた森の闇に消えるというところでこちらを振り返り。

 

 「ソノセンタクヲ――コウカイスルナヨ――トカゲタチヨ」

 

 警告とも忠告とも受け取れる言葉を残して行った。

 

 

 期限は4日、ここにリザードマン5部族連合とナザリック地下大墳墓の戦争までの明確なカウントダウンが始まるのであった。

 

 

 

 

 

 1日目(同日)

 

 

 「ソウカ」

 

 部下の報告を受けた武人が発したのは特に驚きも落胆もない淡白な一言であった。いや、そうなることも彼らが話し合いの上で見越していたということでもある。

 

 「デハ、改メテ。策ヲ講ジルトシヨウカ」

 

 当初は主より授かった軍勢を5つに分けていた。対応もそれぞれ違ってくることであるからそれでよかったのだが、相手は団結して1つの勢力となった。ならばこちらも総力を結集するのもまた必然と言える。

 

 彼らもまた話し合う。まず話題に挙がるのは彼らの戦い方とぶつけるこちらの兵士たちの特徴。

 

 「スケルトンハ…」

 「ナグラレルことによわい」

 

 アトラスの言葉を引き継ぐ形でヘラクレスが告げる。そう、今回の戦争にて主戦力として運用することになるスケルトン達、彼らは刺突や斬撃といった刃物の攻撃には、ある程度耐えることができるが如何せん打撃に弱い。そして調査の結果、リザードマンが主に武器として使うのは石と木を用いてメイスを再現したような武器なのだ。馬鹿正直に集団同士をぶつける戦法をとれば間違いなくこちらが不利だ。

 

 「コキューとすさま」

 「嗚呼、ヤハリ」

 

 前もって話をしていたあの戦法を使うべきだろう。それでいくらかのリザードマン達を削ることができればある程度の主導権をとることができるだろう。その方法は決して褒められるものではないかもしれないが。

 

 「デハ、仕込ヲスルトシヨウ」

 

 

 

 

 「そうか、そうなったか」

 

 もはや、別宅の気分が出てきてしまい。返って自分が恐ろしくなる部屋、「黄金の輝き亭」にて借りている一室でアインズはその事を伝えてくれた者に礼を言い、伝言(メッセージ)を終了する。

 

 「どうなるかな」

 

 それは臣下たる武人に期待すると同時に敵方にいるであろう、蜥蜴の勇者を警戒してのものであった。今回、余程のことがない限り彼に一任することが決まっており、もしも不安だとか、迷うようなことがあれば、自分とデミウルゴスが対応することになっている。

 

 「コキュートス様」

 

 静かに、それは言葉にするつもりはなく、思わず口に出ていたという感じだ。

 

 「お前も気になるか?ナーベ」

 「すみません!……ですが、はい。そうです」

 

 彼女とかの武人は創造主同士の関係もあってか、個人的に親しい間柄だと言う。別に社内恋愛であれば、自分は咎めるつもりはないが、そういった関係ではなくどちらかと言うと兄妹みたいなものであるらしい。

 

 (あの2人も)

 

 それを思い出すと嫌でも頬が緩んでしまう。それは過去を思ってのものであるが、以前と違い、悲しくなるものではないのだから。

 

 

 (アインズ様)

 

 ナーベラルもまた、そうして微笑む主の姿に安心感と共に自分の心が満たされているのを感じていた。主が心穏やかにいてくれるのは自分の願いだ。そして次に兄とも言える上位者たる守護者である武人のことを考える。あの方であれば、主の期待通りの働きをしてくれることだろう。妹の1人も一緒に動いているはずであるからきっと助けになってくれると確信して。

 

 「上手くやってくれるかな?」

 「コキュートス様でしたら、間違いないかと」

 「随分、信頼しているな」

 「アインズ様(モモンさん)もご存知かと」

 「そうだな」

 

 そう、彼がやっていることも確かに確認している。まさか、

 

 (元はただのPOPアンデッド達なのにな)

 

 システムに作り出されるだけの存在であるはずなのに、彼らにも意思があり、個性があるのだ。訓練等見せてもらうと、本当に誤差の範囲であるがその結果に差異があるのだ。そして下の者たちは自分に対して詫びてくるが、別に気にすることはないと思っている。むしろ、それが分かったことが大きいのだ。

 

 仮に彼らが完璧な存在だと自負して何の対策も講じずにリザードマン達と戦えば、恐らく負けることだろう。

 

 しかし、今の彼らであればその心配も減るというもの。それでも彼を完全に信用することはアインズ個人としても墳墓の支配者としても何より組織の長としての責任感が許さなかった。

 

 (頼むぞ、コキュートス)

 

 できることなら、彼にナザリックの全戦力の指揮権を任せたいのだ。それは別に責任の転嫁だとかと重責から逃れたいというものではなく、組織にとって必要なことであるからだ。

 

 そもそもそういった意思決定権が一か所に集中しているのもよくないのだ。例えば、その地位に固執していたり、部下を信頼できていない者。文字通り一人で組織を率いて言うものなどはその選択を愚かと思うだろうが。

 

 アインズにしてみれば、それこそ恐ろしいものであると思っている。結局それは自分が何ともなく、やっていくことが前提となる。だからこそ、上記の者たちは自分の身の安全を最優先とするのだろう。

 

 しかしというか、やっぱりというか、アインズにはその選択をすること自体ができないのだ。それは彼女たちを盾にする行為でもあるからだ。大切な者たちを危険に晒すくらいであれば、自分が死地に向かうほうがずっといいに決まっている。彼がそう考えることができるのは、一度死ぬ覚悟を決めた事も大きいのだろう。

 

 (アルベド)

 

 次に考えるのは彼女を始めとした今の自分の立ちどころを決めた者たちのことだ。自分のこんな勝手な思いを汲んでこの配置にしたのかと、改めて彼女たちの優秀さを思い知らされたような気分に、

 

 (そんな訳ないか)

 

 なることはなかった。それも考えればすぐ分かることである。彼女たちは自分にはただ、玉座に座っているだけでもいいと言うのであるだろう。そして冒険者モモンとしてこの世界に繰り出して来て、かつての事を思い出してどうして自分がこの配置になったのか解ったのだから。

 

 (まったく)

 

 怒りはなかった。そして今では感謝さえしている。確かにゲームみたいなという訳にいかないが、この世界にもまた未知はあり、それを知るのが楽しいと思っているのだから。

 

 そしてもう1つ

 

 (デミウルゴスの見立て通りだな)

 

 思いのほか、この世界というのは厄介ごとが溢れているらしい。あの世界であれば、そうなる事さえ、彼らの思惑通りなのだろうが。そうなると、今の戦士としての身分は存分に利用できる。

 

 単純なトラブルであればモモンとして、裏の複雑な事情であればアインズとして介入すればいいことだと結論付けて、彼は体を休めようと鎧を外す。そこで気になったことをナーベラルへと問いかける。

 

 「レヴィアは」

 「ハムスケの所かと」

 「またか」

 「余程、あの毛並みが気にいったのかと」

 「まあ、構わないが」

 

 一室に男1人と、女1人と2人ではどっちが世間体に響くだろうか。いやこの世界であればあまり気にする必要はないかもしれない。それよりも以外に感じるのが。

 

 (レヴィアノールは動物好きか)

 

 彼女たちの意外なところが知れるのはいい事だと。やけに顔が紅い従者とそれぞれのベッドに潜り込み就寝するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 2日目(開戦まで残り2日)

 

 

 「その情報は確かなのか」

 

 彼らが攻めてくるであろう。「1番目」の村、その集会所で開かれた対策会議におけるシャースーリューの一言であった。

 

 「間違いないですね」

 

 答えるのは、元狩猟斑である経験を生かして、使者が消えた森へと偵察を行っていた。小さき牙(スモールファング)の族長であるスーキュであった。

 

 「敵は5千弱でしたね」

 「その中に使者としてここに来た者たちは」

 「見る限りでは確認できませんでしたね」

 「なんだよ、白けるぜ」

 「ぜんべる、ことば、つつしむ」

 

 相変わらずの戦闘狂発言をキュクーが諌めて、話を続ける。曰く、その構成はアンデッドの軍勢であるという。骸骨(スケルトン)動死体(ゾンビ)の群れだという。その武装も確認してあり、剣に盾といった単純なものであるという。

 

 「だったらよ、こっちから攻撃を仕掛けようじゃねえか」

 

 その提案をするのはやはり彼であった。

 

 「ちまちまじゃなくてよ、一気にやっちまえばいい話だろ?数にしたって、1人あたり3~4匹倒しゃあ、いいんだろ?ならすぐに決戦はできるぜ?」

 

 その言葉を受けたクルシュが自分の方へと呆れたと言わんばかりの視線を投げかけてくる。

 

 「彼っていつもこうなの?」

 「すまん、決して悪い奴ではないんだが」

 「それって、いい奴という意味にならないわよ?」

 「……そうだな」

 

 そう返すことしかできなくなり、思考を切り替える意味でも相手の軍に関する情報とそれらが嘘である可能性を話し合っていく。

 

 「そうですよね、素直に私たちに手の内を晒す理由がない」

 「あれじゃねえか?そんなことしなくても俺たちに勝てるっていう余裕ってやつじゃあねえか?」

 「確かにな――だが、弟よ」

 「ああ、侮られている方が、俺たちにとっては都合がいい」

 

 そうだ、もしも彼らが自分たちを警戒しているのであれば、昨日来た者を始めとした者たちも参戦してくるはずなのだ。

 

 「そういえば、クルシュ達の所には」

 「ええ、服を着た少女が来たわ」

 

 彼女がそう表現するのは、単に、リザードマン達とそしてナザリック地下大墳墓という存在を作った者たちもとい人間達の認識の差か、文化の差なのかは定かではない。

 

 「その者は」

 「私からは何ともいえない。でも昨日あなたが相対した者と同じかそれ以上の強者であることは確かよ」

 「そうか、情けない事だが。ありがたいとも思ってしまうな」

 

 それだけの力量差が相手に油断を生んでいるのだとしたら、そこにしか勝機はないのだから。

 

 「兄者、キュクーさん」

 「分かっている」

 「へんせい」

 

 兄はもちろんだが、至宝の呪いによって、知能が低下しているはずの彼も話が早い、現状分かっている敵の軍勢は2種類だ。こちらもそれに合わせていくしかない。

 

 「若い雄を中心とした主力部隊と老人、雌で構成する予備隊と言ったところか」

 「スケルトンには主力をぶつけ、ゾンビには予備隊が相手をする」

 「それが、いちばん」

 「まどろっこしいな~。それに面倒だぜ」

 「あなたは黙っていたらどうかしら?」

 「ゼンベル。お前だってこの編成の意味が分かっているだろう?」

 「そりゃ、そうだけどよ」

 

 スケルトンとゾンビではどちらが俊敏な動きができるかは、一種の常識でもある。そしてこちらが用意する2つの部隊の運動能力を考えれば自然とそうなる。

 

 数での潰し合い、冷酷でもあるかもしれないが、そこに戦士達1人1人を気に掛ける余裕はない。いかに敵の軍勢とその戦力の削りあいを繰り広げるか。自分が考えるのはそこだ。

 

 「スーキュさん、敵の本拠地は」

 「すいません、そこまでは」

 「いえ、十分です。兄者」

 「やむを得まいか」

 「ザリュース?あなた何を考えているの?」

 

 彼女の視線が突き刺さる。

 

 「念のためだ。避難の計画も立てる」

 「それは、――私に話したあれなのね」

 「そうだ」

 

 戦況次第では途中で逃げることも視野に入れなくてはならない。現状の勝利条件はその軍勢を打ち破ることであるが、その先はどうなるか分からない。なら、初めから逃げの一択をとればよかったではないかと言うものがいるかもしれないが、今の5部族すべての人口がほかの生活圏に移るのはやはり無理がある。ここで文字通り囮として死ぬ者と、逃げて生き延びる者を決めなくてはならない。勿論秘密裏に。

 

 「1つ聞かせて頂戴」

 「何だ?」

 「その避難民の中に、あなたはいる予定なの?」

 

 ザリュースというリザードマンは生き残るべきか否か、それをほかの者たちに投げかければ。間違いなく生き残るべきというリザードマンが多数を占めることであるだろう。至宝を持つ強者に対する敬意からか。養殖を始めとした旅で得た知識を期待してのものか。渋い顔をするのは一部の老人だけであろう。

 

 それだけ、すべてのリザードマン達が今の状況を理解している訳だし。彼がこの種族にとって必要な存在であると認識しているのだけど。

 

 しかし、彼には、それを選ぶということはできない。自分はいわば戦争の引き金を引いたものだ。逃げるという選択肢にしたって、自分が悲観的になっているだけで動いてみればうまくいく可能性だってあるかもしれないのだ。降伏するのだって同じだ。そういった分岐する時間軸において、自分は抗うと決め、そしてそれに全部族のリザードマンを巻き込んでいるのだ。自分は殿として残るべきだ。

 

 それを己の中で覚悟として固めて彼女へと答える。

 

 「俺は残るつもりだ」

 「そう」

 

 ほんの少しであるが、寂しげに発せられたその声に喜んでいる自分がいる。惚れた雌に心配されて喜ばない雄はいないだろう。彼女は次いで目を細めて睨んできた。それは間違いなく軽蔑するものである。

 

 「あなたって、本当。最低ね」

 「すまない」

 

 彼女の怒りは最もである。それを理解しているからこそ、自分もまた何も言い返せないでいた。

 

 (何なのかしら?この胸のざわつきは)

 

 クルシュもまたザリュースのその返答に自身が憤っているのを感じて、そして困惑していた。怒りの矛先は彼であることは間違いない。勝手な雄であると思う。無責任に求愛してきたと思ったら。今度は自分は死ぬつもりであると告げて来る。すべては、この先次第であるけれど、それでも体温が上がるのを抑えることはできそうにない。

 

 (まったく、そこは最悪2人だけでとか)

 

 その考えはすぐに捨て去る。それは1人のリザードマンとして許されるものだ。今の自分たちは生憎私情よりも全体の事を優先しないといけない立場である。そして次に湧くのは羞恥心であった。自分は天涯孤独に生きるのだとどこか達観していたはずなのに。

 

 (よっぽど嬉しかったのねクルシュ。そうよね、あなたを綺麗だなんて言ったのは彼が初めてだもの)

 

 あれから何かあるたびに彼は自分へのアプローチも欠かさない。軟弱の証でしかないこの体を比喩表現まで使って褒めてくれたり。彼の兄と義姉に紹介もされた。まだ肯定的な返事をしていないというのに、なんと気の早い雄であろうかと愚かしく思うと同時に、それを強く拒絶できない自分もいた。

 

 彼らにしたって、自分の体の事を特に聞くわけでも、嫌悪の目で見る事もしなかった。義姉に至ってはすっかり自分の姉気どりであり、食事も一緒に取ることになってしまっている。何度も確認するが、自分と彼はまだそんな仲ではない。ここまで迫られるのにも驚きを感じている。

 

 そこまでされてしまい、自分の心はどうやら変質してしまっているらしい。彼と出会ってまだ片手で数える程しか日はたっていないというのに。

 

 「私たち、族長やザリュースはどうしましょうか?」

 

 傷心している自分を誤魔化すように――それをする必要がいる相手もいないというのに――次の話に進める。ここまで決まったのは当日の陣形に、戦場に仕掛ける予定の罠に、この村の周りの防衛に関することであった。幸いにも自分の村の技術がそのまま使えそうなので、それを利用することになっている。

 

 そして自分たちはどう動くかということであった。自惚れではない。ここにいる者たちは相当な手練れが揃っているのだ。

 

 「決まってんだろ!俺も戦線に加わるんだよ!」

 

 真っ先に声を上げるのはやはり彼であった。その言葉通りに大暴れしている様が目に浮かぶようであった。

 

 「待て、ゼンベル。お前という奴は」

 

 諌めるのはシャースーリューであった。彼もまたこの暴れん坊の扱いには慣れてしまっているようであった。

 

 「しかし、貴重な戦力を遊ばせる余裕なんてありませんよ」

 

 暴れん坊の意見に全面的ではないもののある程度の肯定をみせる狩猟斑上がりの族長に。

 

 「むずかしい。ざりゅーすはどうおもう?」

 

 彼へとその疑問を投げかけるは骨でできた鎧を身に包む族長。

 

 「そうだな」

 

 そう考えこむ彼を気にかけながら、クルシュもまた考えるが、中々難しい問題であった。

 

 「温存か投入か」

 

 彼にとっては彼自身、今回の戦争に勝つための駒でしかないのだろう。それを考えるたびに怒りと悲しみが混じったような感情が胸を締め付けているようであった。

 

 (本当にかってな雄)

 

 

 

 

 

 

 

 アウラとマーレの二人は第6階層にていつもの自室でテーブルの上に置かれた盤上を睨んでいた。それは丁度、今回の主戦場となるであろう。湿地帯の地形を簡単に書いたものであり、そしてその上に転がっているのは、骸骨やゾンビ、そしリザードマン達を模した木製の人形、それもかなり小さいものであり、ちょうどチェスの駒と言う言葉がしっくりくる品であった。

 

 今回の勉強の為にと今はデータクリスタルの管理者をしてくれている元階層守護者が用意してくれたものであるが、いまいち使い方が分らずにいた。

 

 「えっと、マーレ、これどうするの?」

 「僕もよく分かんないや」

 

 この2人の現在の仕事は一言で言えば、建設工事というおよそその見た目に似つかわしくないものであった。トブの大森林に関してはハムスケがいた南部でひと段落として、ナザリック地下大墳墓の隠蔽工作、そして偽の墳墓作りも終わり、主が次に二人に命じたのは迷宮の製作であった。大森林に1つとあと何か所か予定しているらしいが、その詳細な目的については聞かされていない。しかし、単に自分たちに仕事を与えるという単調な理由でないことは分かる。 

 

 だけどそれも今は一時中断、主から見届けるよう言われている以上。あの武人の仕事ぶりを見届けると同時に自分たちもその技を学ぶのだ。その為に道具を用意したわけであるけど。

 

 「悩んでも仕方ないよ。こういったことは」

 「デミウルゴスさん?」

 「そういう事」

 

 分からないことを延々と考え続けるのはよくない。何でもすぐに聞くのもよくないと言われていたが、今回自分たちは、この道具の使い方を考えて30分この場から動かなかったのだ。それで分からないのだから、もうこれはどうしようもないと、姉は弟を連れてその場を出るのであった。

 

 

 15分後

 

 

 そこには彼から使い方を教わり、今度は別のことで頭を悩ませている双子がいた。

 

 「今度コキュートスがやる事になる戦いだっけ?こっちの主な戦力がこれで」

 「二グレドさん達の調査で分かっているリザードマンの皆さんの戦力がこれだけという話だよね。お姉ちゃん」

 

 観測班が得た彼らの情報はナザリックの者であれば、正規の手続きをした上で閲覧ができるし、印刷もできる。ただ、その扱いに関してはしっかりと注意するとのことであった。外部への流出は勿論、同じ墳墓の者でも他言は禁止である。

 

 アウラはこれから弟と将棋の対局をするのかと思われる程に並べられたその駒たちを見て一言。

 

 「確かにさ、こうやってみると今回の戦いが大きいものだってあたしでも分かるよ?でもさ……」

 「どうしてコキュートスさん達が出ることが駄目なのかな?」

 

 さすが、弟。自分の疑問を引き継いでくれた。

 

 「そうなんだよね~」

 

 今回、ナザリック側から出るのは、動死体(ゾンビ)2200 骸骨(スケルトン)2200 獣の動死体(アンデッド・ビースト)300 骸骨弓兵(スケルトン・アーチャー)150 骸骨騎兵(スケルトン・ライダー)100

 

 総戦力4950

 

 それが、今回主が彼に許した兵の数である。もらった資料を読む限り甘めに見積もっても相手との戦力差は3倍、しかしそれは数の話であって、質はどうかと言うと。

 

 「~~!!~~?駄目だ。どうやってもこれで蜥蜴達に勝つ構図が見えない」

 

 少々頭を悩ましての結果がこれだ。

 

 「マ~レ~、あんた分かる?」

 「えっと、スケルトンさん達に相手の進軍を防いでもらってそれから……」

 

 やっぱり普段から本を読んでいると頭の働きが変わるのか握り拳を作り、その人差し指第2関節を口元にあててなにやら考えこんでいるようである。

 

 (あたしも負けてられない)

 

 姉としてのプライドや主への忠誠でなんとか再び考えてみる。もしもこの軍勢を闇雲にぶつけることをしても蜥蜴の軍勢には敗れる気がするのだ。それ自体はなんの根拠もない勘みたいなものであるけど。

 

 (だって~さ~、骸骨だよ?)

 

 彼らの主へ対する忠誠は知っているしこの世界であればそこそこのレベルであることも確か。しかしながらそれでも打たれ弱いことは確かであり、よりによって今回の相手が主に使う武器が打撃武器であるという。これが、斬撃を放つ剣であったり、あるい槍などであれば、少しは戦えそうなものであるが。

 

 (なら弓を中心にした陣形?)

 

 それもあまり良くないだろう。今回の編成においてその兵種が配備されている数は少ない。いくら戦力差が大きいといえ、千を超える相手を150体が放つ矢だけで全滅させるのは厳しいものがある。

 

 (騎兵とアニマルゾンビで)

 

 最初にゾンビとスケルトン達をぶつけてその脇から突っ込ませて相手を攪乱、そのまま乱戦に持ち込む。

 

 (微妙)

 

 上手くいくかもしれないが、結局そうなったところで骨がまき散らかされる未来しか見えない。彼女は考える。どうして主がこれだけの()()で戦う事を武人に命じたのか。

 

 (アインズ様のことだもん)

 

 そこには何らかの意図があり、そして先ほど話を聞きに行った悪魔に守護者統括、何より命じられた本人さえ分かっているようなのだ。

 

 弟と2人、頭を悩ませるアウラであった。

 

 

 

 3日目(開戦前日)

 

 この日アインズは最近にしては珍しく墳墓へと帰還していた。最近は時間の流れが速く感じられる。気づけば、明日開戦だというのだから。

 

 (不謹慎だな)

 

 手に持ったカードの絵柄を見ながらそんな事を考えていた。

 

 戦争、それは常人であれば、嫌悪するものであり忌避するもの。そして無関心であるものだ。例えば、遠いどこかの国がそういった事になっていても関心を寄せる外国の者はどれ位いるだろうか?

 

 彼らもまた日々生活を送るための費用を稼いでいるのだから。それがあると知っても何かしようと思う者はほとんどいないかもしれない。精々、

 

 「自分たちの国に飛び火することがありませんように」

 

 と、祈るくらいだろう。それを責めることができる者はすべてを投げうって行動できる者だけであり、ほとんどそれを悪い意見と言うことはないだろうし、言うものもいないであろう。

 

 だが、当事者にしてみればたまったものではないこともまた確かなのである。自分自身にそう言った経験はないが、戦いに巻き込まれた者達がどういった顔をするかは養子であるあの姉妹などから想像がついてしまうのだ。

 

 これから自分が主導でそういった事をやろうとしているのに、あるのは武人に対する期待感であったのだから。

 

 (これも支配者としての重責か)

 

 もしもこのことが原因でナザリックが責められることになれば、自分は必ず矢面に立たなければならない。逃げることは許されるものではない。それとそんな勝手な事に付き合ってくれている彼女たちや姉妹に対して感謝を忘れることがないようにと自分自身を戒める。

 

 「アインズ様?いかがしましたか」

 「何でもないさ。では勝負と行こうか」

 「望むところでございます」

 

 現実に引き戻されるように、向かいあって正面の椅子に座っていたデミウルゴスに言葉を返したのち、互いの手札をテーブルに広げる。

 

 「私はスリーカードだな」

 「私はワンペア……お見事でございます」

 「ああ、ありがとう」

 

 そう、その日の墳墓での仕事、武人との最終確認は既に終わっており、たまには息抜きも必要かといつものようにトランプをやろうと思い、その相手は丁度その場に居た彼に頼む事にしたのだ。

 

 今、2人がやっているのは簡単なポーカーであった。賭け事は一切なしのシンプルな運ゲーとしてだ。そして現在アインズの4連勝であるのだが、

 

 (何かおかしい)

 

 どこか違和感を感じるのであった。

 

 次いで5連戦目。互いに札が配られ――札を混ぜているのは自分自身であり、決して意図的な何かを仕組んでいる訳ではない――改めて自分の札を確認する。

 

 ハートの1 2 3 4と続き、5枚目はスペードの1であった。現状はワンペアだ。札の交換は一度だけ認められている。

 

 (勝負に出るか)

 

 「デミウルゴス、お前はどうする?」

 「では2枚だけ捨てさせて頂きます」

 

 彼は言葉通りに手札をテーブルに置き、同数枚山札から引く。その顔は何の変化もなく、感情があるのかさえ怪しく感じさせるものであった。

 

 「アインズ様」 

 

 その言葉を受けて、自分も札を一枚捨てる。捨てたのはスペードの1、もしこれで狙いの札がこなければよくてワンペア、最悪ノーペアだ。出たのは、

 

 (よし)

 

 ハートの5。これは余程ツキがあるのだろう。

 

 「では勝負だ。私はストレートフラッシュだ」

 「私はノーペアでございます」

 

 これで5連勝。なのだが、

 

 (何か符に落ちん)

 

 こんなにも自分は運があったほうだろうかと疑ってしまう。

 

 「デミウルゴス」

 「アインズ様、このような児戯でも圧倒的な強さを持つとは流石でございます」

 (こいつ)

 

 確信した。彼はイカサマをしている。それも非常に珍しい人を勝たせるものだ。口で咎めるのは簡単であるが、こうなってくると何とか別の方法で彼の鼻をあかしたくなる。

 

 (やってやろうじゃないかデミウルゴス)

 

 こうなったら何が何でも負けてやる。そうと決まれば、

 

 「もうひと勝負と行こうか」

 「お付き合い致しますとも」

 

 6戦目、アインズは無造作に3枚の札を交換した。何故かフォーカードが出来上がっていた。デミウルゴスはスリーカードである。

 

 「流石でございます」

 「次だ」

 

 7戦目、アインズは考えに考えてそのまま出すことにした。デミウルゴスにも勝手な真似はさせていない。自分の札は、ワンペア。できることならノーペアが良かったが、これなら。

 

 「どうだ。私はワンペアだ」

 「ノーペアでございます」

 

 (何故だ嗚呼!!)

 

 「もう一回だ」

 「勿論でございます。いくらでも」

 

 アインズは次で勝負を決めるつもりであった。いや、7勝している者が思うこととしてはかなり滑稽であるが、彼もまた本気であった。

 

 (こいつで勝負だ)

 

 彼はすべての札を交換することにした。それは非常に愚かな選択であるが、今の彼はむしろその極みを目指しているとも言える。

 

 (どうだ)

 

 狙うのは絵柄も数字もバラバラな割と出そうで、何気に中々出ることがないその組み合わせを年末に行われる宝くじの当たりを必死に願う者のように懇願していた。彼がここまで何かに縋るということも悲しい事にこれが初めてだったりする。

 

 (こい)

 

 引いた札を裏返し確認する。

 

 「これはすごいな」

 (おかしいだろおおおお!!!)

 

 出たのは1 10 11 12 13 それもすべてスペードの札。

 

 ロイヤルストレートフラッシュ、それも最高の形で現れたそれにはデミウルゴスも流石に驚いたのか僅かにその頬に汗が走ったように見えた。

 

 「私の負けだ。デミウルゴス」

 「勝っているのはアインズ様では?」

 「いや、お前はすごいよ」

 「???」

 

 これらのことがかの悪魔の狙い通りであるのか、それとも単にマイナス思考に陥りやすい支配者の急上昇した運がなせるものかは、誰にも分からないことである。

 

 「ところでデミウルゴス」

 「はい、アインズ様」

 「コキュートスはどう思う?」

 「我が友でしたら問題はないかと」

 「そうか」

 

 確かに彼が提示した戦術には驚くものもあったし、それをできるようにしたのがまたすごいと素直に感心してしまう。何より嬉しかったのは彼が過去の出来事からそれを思いついたことであるだろう。

 

 (できることなら)

 

 それを見届けたいが、生憎明日も復興工事に参加しなくてはならない。そうでなくても可能な限り冒険者組合にはいかなくてはならない。

 

 (まいったな)

 

 どうにも組合の一部の人たちからの話が長いのだ。このまま城塞都市に住んでみないかというものであったり、見合いの話を勧められたり、それも相手はあの街を拠点にしている有力な家であったり商人の家の娘であったりするのだ。

 

 (何が何でも)

 

 モモンをあそこに縛りつけたいらしい。それはこれからの事を思えば非常に避けたい自体である。そう考えれば、

 

 (……ベイロンさん)

 

 彼が作った個人情報保護法をガン無視した(うた)の内容に助けられる部分もある。何故かアルベドがモモンの婚約者ということになっているのだ。つまりその手の話にはすべてそれで断りをいれることが出来るということであるが、素直に喜ぶこともできない。

 

 (やっぱり)

 

 あの時のやり取りがまずかったのかと頭を抱えてしまう。悔やんでもしかたのないことであるが、これからは情報の取扱いに関しても注意を促していかないといけない。

 

 「とにかく、明日は私の方も別に動かないといけないからな――改めて頼むぞデミウルゴス」

 「勿論でございます――しかしよろしいのですか?」

 

 彼が何を危惧、いや自分に遠慮していることであろうことは既に指の動かし方と同じ位の認識である。だから答える。

 

 「玉座の間であれば気にする必要はない。あそこならば色々と都合がつくだろう」

 「申し訳ございません。私があれを完成させていれば」

 「気にする必要はないさ、それだってのんびりで構わないからな」

 「寛大な言葉、ありがとうございます」

 

 明日行われることは非常に貴重なものである。大墳墓に居るもので、手をあけることができる者たちは皆、あそこに来るよう命令している。そこで彼らの戦いを鑑賞させる予定であるのだ。その際の双方の戦術――間違っても単なる殴り合いで終わることがないだろう――の解説役をデミウルゴスに頼んでいる。これを機会に集団戦闘の心得を少しでも身に付けて欲しいものだ。

 

 不参加が決まっているのは自分が率いている《冒険者組》にグリム・ローズ班、万が一にも明日の戦いを第3者に見せることがないよう警戒にあたる《観測班》にその手伝いをすることになっている元階層守護者2人と当事者である《軍事班》達だ。それ以外の者達は全員ここに来ることであろう。普段であれば入ることが許されないも者達も来るため、かなりの大所帯となる事は容易に想像できる。

 

 (状況が許せば)

 

 もっと違う形で墳墓の者達が集まる場を設けたいと願う支配者であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 4日目(開戦当日)

 

 その雄は自分の認識が甘いものであることを。旅人として得た知識がまだまだ浅いものだということを身をもって知らされた。

 

 こちらだってできる限りのことはしたし、まったく無駄ではなかったそれでも。

 

 相手がこちらを侮ってくれていると思っていたが、それは間違いであった。自分たちこそが相手を侮っていたのだと思い知った。

 

 そのせいで大切な者に一生ものの傷を負わせてしまった。今は悔やむよりも走らなくてならない。

 

 「―――!」

 

 彼の声が硝煙広がる戦場にこだまする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回、いよいよ開戦です。
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