オーバーロード~遥かなる頂を目指して~   作:作倉延世

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 新年あけましておめでとうございます。

 今年もこの作品をよろしくお願いいたします。

 では最新話どうぞ。


第5話 策と意地のぶつけあい

 4日目(開戦当日)

 

 

 その日の朝はやけに周囲が静まりかえっていたように思える。いつもの癖でつい養殖場の様子を確認しようとしてここにそんなものはないと気づき、苦笑してしまう。彼は4日と言った、その日を合わせてのものかどうかは確認していないが、少なくとも今日か明日攻めて来るはずである。

 

 戦の準備は出来ている。罠も可能な限り設置したしその時間帯にも注意した。戦士達もゼンベルを含めて体調をしっかり整えている。義姉を始めとした雌リザードマン達の働きが大きい。もしも決戦の日に腹痛で寝込むなんてあれば、勝敗の前に名誉が終わる。そうならず万全の状態で戦争に臨める事を彼女たちに感謝しなくてならない。

 

 「~~~」

 

 不意に鳴き声が聞こえる。そちらに目を向ければ、こちらを見ているのは4つの頭に8つの瞳。

 

 「ああ、おはようロロロ」

 「~~~」

 

 甘えるように寄せられる頭を撫でてやる。その度に可愛げに鳴き声を上げるのだからやっているこっちも何だか幸せな気分になってくる。

 

 「おはよう。ザリュース」

 「クルシュか、おはよう」

 

 朝日がその白い肌に反射して彼女がより美しく見えてしまい、死ぬかもしれない戦いを控えた前だという時なのに見とれてしまう。

 

 「???、どうしたの、私の顔に何かついているからしら?」

 

 そう声をかけられるまで自分は彼女の事を見ていたらしい。恥ずかしいだとか、みっともないという感情は微塵もなかった。本来であれば、多少の照れはあってもいいと思うのだけど。それがないということはそれだけ彼が成熟した大人の雄ということか。はたまたそれ程までに彼女に惚れこみ、駄目になってしまったかのどちらかだろう。素直にその雄は雌へと愛の言葉を紡ぐ。

 

 「いや、……本当に綺麗だと思ってな」

 「!!!、――~~~」

 

 世辞ではなく、打算もなく、純粋な思いから生まれたその言葉はクルシュを赤面させるには十二分すぎる程の威力があったらしく、彼女は顔を抑えて痙攣する。恥ずかしくて仕方がないと言った様子である。

 

 それを見たザリュースはなおの事、彼女への想いを確かな物だと認識を改めていた。全身を赤くして彼女自身はみっともないと思っているその顔を必死に隠そうとするその動作は自分の贔屓目だと自覚した上で言うのであれば愛らしく、とても可愛いと思ってしまうから。

 

 「あなたね、雌なら誰にでもそんな事を言っているのかしら?」

 「まさか、クルシュだけだ」

 「~~~……分かったわよ。そういう事にしてあげるわ」

 

 クルシュが彼に抱く疑念としては極めて自然なことであった。手慣れているのだ、雌の口説き方が、まさかほかの蜥蜴にも同じように普段から接しているのではないかと――それは彼を軽薄な雄だと怒りを感じてからか、あるいはそうであった場合ほんの少し寂しいと思ってしまうのかは分からない。――けれど、だからこそ。どうしても疑ってしまう。いや、気になったのだろう。

 

 そして彼女がその話をしたのは彼の義姉であった。この村について2日目の晩だったと思う。こういった話は同性の方が相談しやすいというのは、ある程度の知能を持った生物であれば、人間であろうと亜人であろうとあるいはそれ以外の者達でも変わらないかもしれない。――無性や両性はどうか知らないけど。

 

 そして彼女の話でも彼が以前は全くそういった素振りはなく、むしろ淡白すぎる程であったという。それがああなったのは部族間連合の話を持ち掛ける為にあの粗暴な雄や自分の所へと交渉の旅へと赴き、そして帰って来てからだという。

 

 そしてその時に教えてもらった。彼が実は結構雌のリザードマン達から人気があるという事を、それも当然と言えば、そうかもしれない。至宝の持ち主、剣の腕前、元旅人として持つ豊富な知識に合わせてあの実直な性格だ。彼に言い寄られて嫌がる未婚の雌は確かにいなさそうである。不意に思い出す。

 

 『クルシュちゃんさえ良ければ、義弟に貰われて頂戴。あの人はホント役立たずでね』

 

 その時に言われた彼女の台詞だ。彼女なりに彼を心配しているらしい。ここで言うあの人とは彼の兄であるシャースーリューのことである。そしてこの一言で夫婦の力関係が理解できてしまう。そして更に羞恥が襲い掛かるが、何とか抑えて。先ほどの彼の返答等も合わせて彼が軽率な雄ではないと納得するのであった。

 

 「ねえ、来るかしら?」

 「どうだろうな」

 

 簡潔に略したとも言うべきか何がとは互いに分かっているから。

 

 「勝てるかしら?」

 「やるしかないさ」

 「そうね」

 

 不安を感じるなと言うほうが無理がある。種族の繁栄を護るための戦い。負ければ、最悪死、よくても隷属化だ。そんな震える彼女とまたそんな雌を何とか支えたいが、肉体的接触はまだ早いと変に紳士ぶりを発揮している主人を見て、ロロロはただ。

 

 「~~~」

 「何だロロロ」

 「くすぐったいわ」

 

 甘えるように彼らに頭を擦り付ける。その生物にとってザリュースは勿論、その主人が何とか想いを遂げようとしている雌は勝手かもしれないが両親のようなものなのだ。ロロロには親がいない、いやある事情から捨てられてのだ。幼い体でこの世界を生きるということは難しく。生まれたばかりのその生物は餌も碌に取れず衰弱していき、やがて本人も眠るようにそこで息絶えるはずであった。

 

 それを救ったのは旅の途中であったザリュースである。彼は弱った足手まといにしかならないロロロを拾ってくれたのだ。それから彼の旅に同行、連れていってもらいそしてそのまま今に至る訳である。余談であるが、何故かこの生物はあまりゼンベルには懐かない。一度彼が力比べだと手加減なしに投げ飛ばしたのが原因かもしれない。

 

 そんなロロロにとって彼は恩人、いや親という認識である。そしてその生物はまだ精神的にはまだまだ子供の部類だ。正直、ザリュースやクルシュが何を深刻そうな顔をしているのかよく分からないけれど、彼らの為にできる事があれば全力でやるのだ。

 

 「ザリュース!!」

 

 ロロロは身を震わせながらも彼らの話に耳を傾ける。やはりこの雄は苦手だ。どうしてもあの痛い思いでが体に刻まれているようである。

 

 その時、ロロロは静かにだが泣き叫び、ザリュースも彼にしては珍しく本気でゼンベルに怒り、流石の戦闘狂も悪かったと反省して、以降ロロロには気を(彼なりに)使って接してくるのであるが、それでも怖いものは怖い。

 

 「来たのか」

 「ああ、またあいつだ」

 

 その会話の意味はロロロには理解できないが、それでもこれから何か大変なことが始まるというのは何となく察することができた。

 

 そう、わざわざというか、ご丁寧に彼が来たのである。いつ攻めるのかと正確な時刻を伝えに。

 

 

 

 

 

 

 

 「シズ、メモとペンは持ったわね」

 「…………うん」

 

 ユリは妹を連れ、第9階層の通路を玉座の間へと向かっていた。今回の戦争、その観戦とデミウルゴス、アルベドの講義を受ける為である。

 

 「いい?分からない所があれば、しっかり聞くのよ」

 「…………分かってる」

 

 その言葉を受けて、自分もまた少しであるが、興奮状態であり冷静さを欠いていると気づく。それだけ今回のことが大きいのもあるが、自分自身緊張していたのだろう。

 

 「そうね、その手の話であればあなたの方が詳しいものね」

 

 この妹は墳墓中の罠や仕掛けに関する知識をすべて持っており、もしも意図的な侵入者などがあれば、真っ先に彼女に伝わるようになっているのだ。

 

 戦とは群と群の戦いだ。全体を見る必要がある訳で、普段から墳墓全体を監視しているようなものであるシズ、シーゼット二イチ二ハチはそれに対してある程度のアドバンテージがある訳であり、それに彼女は銃兵である。ただむやみやたらに前に突っ込む事しかできない自分と違い、彼女は後方支援を引き受けることが多く。状況を見る目であれば、やはり自分より上手だ。何より大きいのは彼女を創造した博士の趣味であるのか、何かとミリタリー知識を持っているのと言うのもある。最も今回の戦争で戦車だとか、彼女が使うような銃が出ることはないだろうが。

 

 「もしかしたら、私があなたに色々聞くかもしれないわね」

 「…………沢山、答える」

 

 質素であるが、姉である自分には彼女が嬉しそうにその言葉を口にしているのが伝わってくる。彼女にしてみても普段の扱いからか一時であっても立場が逆転するのは気分が良いのかもしれない。ふとそんな彼女が口を開く。

 

 「…………ソリュシャン」

 

 その言葉で自分もその人物に気付く。距離にして1000メートルと常識的な建物であればありえない距離、しかし、ここはそんな既存の概念を糞だと笑い飛ばす者たちが作った所であるのだ。そして、そんな距離で彼女が姉に気付いたのも先ほどの自分の考えが正しいものであると証明するようである。向こうもこちらに気付いたらしく、軽く手を振りながら歩いてくる。

 

 「戻ってきていたのね」

 「ええ、セバス様の計らいで」

 「…………予想通り」

 「そうなのね」

 

 それもまたある程度は想像できることであった。この妹は上位者たる執事の彼と共に王都に居たはずだ。それがここにいる理由であるが、彼曰く今回の件は勉強になる事は間違いないのだからと妹に戻るよう指示を出したという。では彼自身はどうするかというと、流石に王都に誰もいないというのはまずいということで残る事にしたとのこと。確かに妹たちがやっている事を考えれば無人と言うのはまずい事態になりかねない。

 

 その判断は合理的であるし、最適解とも言える。しかし、それだけではなく、

 

 「本当に久しぶりね、セバス様にご迷惑は?無理はしていない?」

 「姉さん、その質問を同時にするのね」

 「…………矛盾してる?」

 

 自分が何か粗相をしていないかと疑う発言と共に心配もする姉の姿がどこかおかしくて、でも嬉しくて、ソリュシャンは改めて老執事に感謝をする。こうして姉妹と会う機会もできたのだから。そして気になった。

 

 「ナーベラルとエントマは仕方ないとして、ルプーは?」

 「あの子なら、お嬢様達の所よ」

 

 話を聞けば、あまり大事でもない限りあの村を離れることはできないということで、観戦自体は例のマジックアイテムで何とかなる為、せめてそこで見る事になっているという。先の上司にしてもそうなったはずだ。

 

 (余程気に入ったのね、姉さん)

 

 少々、寂しく思ってしまう所は何気に自分もあの人の妹なのだと思い知ってしまうようであり、もう1人の姉にもそれを見透かされたらしく、この人にしては珍しく意地悪な顔を見せる。

 

 「あら、お姉ちゃんを取られて寂しいのかしら?」

 「まさか、シズだってそうは思わないでしょう?」

 「…………むしろ、静かで有難い」

 

 この妹であれば、本当にそう思っていそうだ。まあ、それも普段の行いが原因であるのは明らかであるし、仕方ないと済ませるしかないだろうし、何よりあの人はそんなことをいちいち気にしたりしない。それと、聞いておきたいこともある。

 

 「そういえば、どうだったのあれは」

 

 姉妹間であれば、それで通じるらしく彼女は頬を緩め、答える。

 

 「…………楽しかった」

 

 それは姉妹では一番親しい間柄である彼女に主と共に過ごした時を思い出しての表情であり、基本的に無口無表情である彼女にしては外見相応のものであり、それが無性に腹立たしく感じてしまう。自分でもどうしてそう思ってしまうかは理解している。だからその頬を左右に引っ張ってやりながら、文句を言ってやる。

 

 「羨ましい事ね、それでいて。とても憎たらしい顔をするわね」

 「…………楽しかった」

 

 顔が歪んでいると言うのに、変わらない声音でそう返されてしまうのが、更に癪にさわる。

 

 「まったく、あなたも頼んでみたら良いじゃない」

 

 呆れたように提案をしてくる姉に少しばかしの驚きが湧き上がる。真面目を文字通り普段の姿勢で表現したようなこの人物からその手の話がでるとは思っていなかったのだ。

 

 「あら、良いの?ユリ姉さん」

 「あなたとセバス様の働きは知っているし、シャルティア様も喜んでいたわよ」

 「そうなの」

 

 自分達は王都に着いたのち、用意していた資金でそこそこの屋敷を借り、そこで設定に倣って、情報収集に努めた。執事とメイドだけであれだけの物件を借りるのは疑われもしたが、金さえ渡せばそれも引っ込むことだ。一応、主かその娘が遅れて来るという事にしてあるので、ある程度の時間は稼げるはずである。

 

 さて、そうした土台を作った上で表向きは王都で扱われている魔法を調べるという事で様々な情報を墳墓に流している。冒険者、貴族、王族、買える情報は勿論、些細な噂であっても余す事なく連絡をしている。それらを見た上で吸血鬼は何か思いついたらしく、この件が終われば、それに従って動くことになるだろう。それを正当な働きだと、主にそう願うのは決して不敬ではないと姉が言ってくれたようで、思わず口にしてしまう。

 

 「そうね、私もアインズ様にそう頼んでみましょうか」

 「ええ、そうするといいわ――それと一つ頼まれてくれない?」

 

 姉のことはよく知っているし、次に彼女が何を口にするかも既に分かっている。

 

 「エントマも一緒に誘うわよ」

 「あなたは本当に優秀ね」

 「姉さんの妹ですから」

 

 その件でその妹が少々拗ねていることも解っているからこそ、ソリュシャンはそう返すのであった。

 

 

 

 デミウルゴスは玉座の間にて、その時を待ちながら、準備を進めていた。一昔前に流行った映画館で使われていたような大型スクリーンを思わせるような一見タダの紙であるが、それが彼が以前主がカルネ村を発見した際に使用した鏡を改良したものである。

 

 「楽 しそ うだ ね デミ ウル ゴス 君」

 「これは、プラネリア様」

 

 一度頭を下げるのは当然のことであった。それだけの相手であるのだから、例えレベルが自分より低かろうと関係ない。

 

 そんな彼の前にいるのは一言で言えば、かかしを思わせる格好をした人物である。畑仕事にいそしむ農民が着ているような服を身に付け、その頭にはこれまた穴だらけに綻びだらけの麦わら帽子を被っている。そして服から出ている手足を見る限り彼もまた人間ではないという事がよく分かる。靴など履いていない素足は植物のそれも樹木の根であり、同じように両手にはまるでタコのように触手を連想させるように10本の指が垂れ下がっており、それらもすべて木の根のようである。

 

 その頭も異形であり、木製の球が乗っているようなその顔面には二つの穴が空いており、その中から蛍が放つような弱弱しい光が彼の眼光である事を主張しているようであった。

 

 「コ キュー トス 君 なら 大丈 夫 だと 思う よ ?」

 「勿論ですとも」

 

 彼らは共にかの武人から相談を受けていたのだ、勿論現在ではなく、この事が決まる前だ。その時に力になれることはしたし、参考になる資料も教えてある。そして予めデミウルゴスが主と共に確認したその内容は彼がただ武器を振るう武人ではなく、確実に兵を束ねる武将へと変わりつつあることの証明であり、彼はその事がたまらなく嬉しく感じていた。主の役に立つということは勿論、近い将来彼が然るべき立場に立ってくれることであろうと、まるで今日もまた日が沈むのだと認識しているかのようにそう光景が見えているかのようであった。

 

 

 

 

 「本当に来たぜ」

 

 それはゼンベルの言葉であった。そう、先に来た彼の言葉通り、アンデッドの軍勢が動き出したのだ。自分たちから見て、左にスケルトンの群れが、そして右には遅れる形でゾンビたちが動き出している。そのどちらもが湿地帯を抜けて、この村に押し寄せるようであった。そしてそれをそのまま放置することはできない。

 

 「聞け、すべてのリザードマン達よ」

 

 兄の声が聞こえる。振り返れば、この決戦の為に揃った全部族のリザードマンがいる。雄も雌も戦士も老人も戦える者たちはすべてがその瞳に覚悟を背負っている。

 

 「くそう」

 

 友の不満そうな声は当然のことであるだろう。結局自分たちは可能な限り戦況を見極めた上で参戦することとなった。それが最適な答えだと信じて。

 

 「確かに敵は多い、しかし我らには5部族すべての祖霊の加護がある。――」

 

 そして次にクルシュが話を始める。これは予め決めていた取り決めの通りであった。彼女が簡単な儀式を行い。再び、兄が言葉を紡ぎ、そしてそれに答えるように雄たけびを上げるリザードマン達。

 

 「我らに敗北は?」

 「「「ある訳がない!」」」

 

 「では、行くとしよう。祖霊に勝利を捧げよう――出陣!」

 「うおおぉ!!」

 

 リザードマン達は駆けだす。戦いに勝つために。

 

 

 その約600秒前

 

 例のロッジハウスにてコキュートスもまたその時を迎えていた。先ほど、彼が帰還して、そして約束の時が来たのだ。できるだけの事はすべてやったし、後は成り行きを見守るだけだ。今回の指揮は基本的にスケルトンの1体がとる事となっており、後は問題があると判断した時にこちらから指示を出すだけだ。

 

 (………)

 

 正直不安を感じるなという方が無理に決まっている。主に友は今回の策を褒めてくれたが、それでも怖れを除くことはできなかった。

 

 (私ハ)

 

 きっとまだ怖いのだろう。また敗戦を喫して、それで主に落胆されてしまうのが、自分の誇りが、自分の存在意義がなくなってしまうのではないかと。気づけば利き手が震えている。

 

 (何ト)

 

 臆病なことであろうか、そして情けない。かつてであれば、このような気持ちは微塵も感じなかったはずである。自分はこれほどまでに小さい存在であったかとその外見に似つかわしくないことを考えてしまい、僅か、本当に僅かであるが次の行動に移る事を躊躇う彼の耳に聞こえるのは。

 

 「コキュートス様」

 

 メイドである少女の声であった。そちらを向けば、普段の彼女と自分とではかなりの体格差がある為、自然と見下ろす形となってしまう。その瞳は擬態で作られた偽りのものであるけれど、それでもそこにあるのは女性特有の包み込むような優しさを感じられるものであった。

 

 「アインズ様に、デミウルゴス様、それに――私も保証致しますから。例え敗北しても貴方様だけの責任には決して致しません」

 「エントマ――ソウダナ」

 

 その言葉に救われると同時に覚悟を決める。後は動き出したこの流れに任せるしかない。テーブルに積まれたスクロールの山、その頂上の一枚を手にして空中に放り投げ、伝言(メッセージ)を起動する。瞬時に炎に包まれて灰となる紙と共に彼はただ、その言葉を口にする。

 

 「総員、進軍セヨ」

 

 

 

 今、ここに戦争は始まった。

 

 

 

 

 湿地を駆ける両軍、空からその様子を見下ろしてみれば、その構成が非常に似ていると分かる。どちらの陣営も軍を二つに分け、前へと進んでいる。リザードマン側から見て、左、そこを走るのは、戦士階級に雄のリザードマン達である。彼らの狙いはただ一つ、前方に迫っているスケルトンの群れである。

 

 ソーリスもまたその中にいた。その手には彼の得物である槍が握られている。彼はザリュースへとリベンジをする為にもここで多くのスケルトンを屠るつもりでいた。要はサンドバックだ。多くの経験を得る為に。自分の腕前であれば、負ける要素はない。いつも通り槍を振るうだけだ。

 

 前方のスケルトン達に見れば、その動きは骨特有のぎこちないものであり、自分たちが体当たりを仕掛ければ、簡単に崩すことができるだろう。まもなくだ。

 

 5 

 

 4

 

 3

 

 会敵まで、

 

 2

 

 1

 

 そして激突、彼は自慢の槍をその首に向けて突き出すが、次に聞こえるのは鈍い打撃音。

 

 (何!?)

 

 彼が驚くのも無理のないことであった。同様に周囲からも蜥蜴たちの戸惑いの声が聞こえてくるようであった。みれば、どこもかしこも似たような光景。リザードマン達が振るったその打撃武器を驚くことにスケルトン達は防いで見せたのであった。

 

 (たかが)

 

 初撃を逃しただけだと彼は槍を振るうが、その攻撃もすべて相手のスケルトンは盾や奇怪な身のこなしで交わしていく。

 

 (どうなっている!!)

 

 不意に首に痛みが走り、焼かれたように激痛が来て、異物感で脳が揺れそうになる。さわってみれば、それは矢であった。

 

 (???)

 

 そして上を見上げれば、降り注ぐ大量の矢、流石に表現が大げさすぎる精々100本と言ったところだろう。それでもこの乱戦の状況で降り注ぐのは非常にまずい状態であることに違いない。

 

 (味方ごと?)

 

 それが更に彼の判断を遅らせた。腹部に首と同様の、いやそれ以上の熱が溢れてくる。見れば、槍が刺さって、それも相当深く入ったのか、血も滝のように流れている。そしてその槍の出所を探ろうと朦朧とする意識の中、視線を彷徨わせてようやくそれを見つけ、彼は衝撃と共に崩れ落ちた。

 

 

 

 

 「ねえ、あれってありなの!!」

 

 同時刻、玉座の間にてその様子を観戦していたアウラの発した言葉である。

 

 「確かに、少し小細工に見えんすね」

 

 シャルティアもまた普段は喧嘩ばかりしている彼女に同意していた。それ程にまでに驚いているとも言える。

 

 「別に問題はないさ。でしょう、アルベド」

 「そうね、スケルトンの特性を生かしているとも言えるし、彼らがあそこまで動けるのも驚きね」

 「そこも彼の働きでしょう」

 

 デミウルゴスとアルベドはその戦術に及第点を与え、そして彼は解説を始める。それが主から受けた命令であるからだ。

 

 その光景は確かに奇抜であった。スケルトン達の隊列、その配置と彼らの装備が微妙に異なるのだ。まずは最前列の者たち、ソーリス達とぶつかった者たちだ。彼らの装備は両手に普通のものよりも小さいサイズの盾が握られており、ひたすら目前の蜥蜴たちの攻撃を防いでいた。ボクシングという競技において、スパーリング練習における的役だと言えば伝わるだろうか。次にその後ろの者たち、彼らが装備しているのは、単なる槍であったが、その使い方だ。前で盾を務めている仲間の体の間を縫うように、リザードマン達へと攻撃を仕掛けていたのだ。

 

 スケルトンまたは骸骨

 

 彼らの身体的特徴を上げるとしたら、骨だけであるが故に体面積が生きている人間に比べてかなり狭いということだ。ではこれを利用してできる手は何があるか、武人の答えがこれだ。

 

 「要は前方のスケルトンが敵の攻撃を防ぎ、後方のスケルトン達がその隙間から槍で相手を貫く。と言った所かな」

 「そ――そうか、そうなんですね」

 

 弟は何か分かったらしい。というか、悔しい。自分もようやくその答えにたどり着いたのだから。できる事なら、もっと早く気づきたかった。例えば、人間で同じことをしようとしても上手くいかないだろう。もしも今の彼らと同じ間隔でその手段を実行すれば、間違いなく前の味方を貫くことになるのだから。彼らの戦法は肋骨と骨盤、生きている者であればそこに腹や内蔵があるところ、その空白の部分を利用して行っているのだから。

 

 「成程ねえ、それにスケルトンであれば、間違って刺しても」

 「同士討ちの危険性もほとんどない――くふふ、シャルティアも賢くなってきたじゃない」

 「直に追い抜いてみせんすよ」

 

 吸血鬼と統括のやり取りも最もである。スケルトン達は刺突に対してある程度の耐性がある。流石に背骨を砕くような攻撃をしてしまえば、その限りではないが。それでも有効な手段に変わりはない。

 

 「あのさ、この戦法をとったのって、やっぱり」

 「ああアウラ、そうですよ。彼らが相手だからさ」

 「やっぱり?」

 「ええ」

 

 そう、打撃武器を主体とするリザードマンが相手であるからこそ、それを防ぎつつ反撃できるこの形になったのだろう。そしてそれを後押しするのが、弓兵たちが放つ攻撃だ。味方にあたる事は心配せずに矢を放つことが出来るというのも戦術的な意味では大きいと言える。

 

 「これで、最初の軍配はコキュートスに上がったと言えるね」

 

 双方の兵の消耗は蜥蜴たちの方が速いようであった。このままぶつかり合うのであれば、直に決着はつくことだろう。無論、彼らがこのまま終わるとも楽観視はできないが。

 

 「それにしても、あのスケルトン達…すごいね」

 

 思わず口に出た言葉であった。特に最前列の者たち、その攻撃の受け流しっぷりは玄人の者である。それを聞いた戦闘メイドの一人が彼に質問を投げかける。

 

 「デミウルゴス様、彼らの」

 「ええユリ、鍛えたのはエントマだそうですよ」

 「そうですか」

 

 その言葉を受けて、個人的に親しい彼女が喜んでいるのがよく分かる。妹の働きがこの結果を生み出す要因の1つとなっているのが余程嬉しいのだろう。

 

 

 盾役のスケルトン達は必死に相手の攻撃に耐えて、防いでいた。一撃でも貰えば自分たちの体は簡単に崩れてしまうからだ。

 

 (へ!!こんなちんけな攻撃、エントマ様のしごきに比べりゃ、どうってことないぜ!!)

 

 

 「くそ!!」

 

 そう叫んだのは兄であった。

 

 「スーキュさん、これは」

 「やられましね、見事に」

 

 今繰り広げられているこの光景に彼もまた自分が騙されたと知ったのである。以前の偵察の時と今、彼らの装備が異なるのだ。彼らが剣と盾という簡素な装備であったから、真正面から突っ込む事にしたのだが、というか、即興で戦術を叩き込めるほど、リザードマンは優秀な部族ではないのだ。だからこそ、シンプルに突撃を選んだ訳であるが、むしろそうなる事を。そう考える事を敵に誘導されていたとも言える。

 

 (敵は俺たちを侮ってはいない)

 

 それは、ぶつかりあっている敵方のスケルトン達を見てもそう言えることであった。彼がただのスケルトンではないと今になって思い知ったのだから。そのただの眼窩でしかない空洞に自分たちと同じ覚悟があるように感じたのだから。

 

 

 

 初めは墳墓側の優勢であった。そしてそれをさらに確かなものにする為、馬に乗ったスケルトン達が駆ける。当然、その馬も骨。骸骨騎兵(スケルトン・ライダー)達だ。彼らは、大きく戦場を迂回する形で、今正に削られている戦士階級を中心としたリザードマン達を包囲するつもりであった。

 

 その先頭を行くこの部隊の隊長は疾風を連想させる速さで進みながらもその大地に注意をしていた。

 

 (罠の可能性)

 

 武人の左腕である人物から言われているのだ。《観測班》の報告でも彼らがこの湿地に何か仕掛けたらしいことは把握している。

 

 本来であれば、詳しく調べたいところであったが、あまり下手に動いて相手にそれを知られては本末転倒であり、このような形となってしまった。

 

 正直この形は後手に回っているようで非常に不安を感じるが、上からも命令も最もと言えば最もと言える判断である為。それに従い、自分たちは動くしかないのだ。

 

 そして前方30メートルの地点に、木箱を埋めたようなものの密集地を見つけた。それはさながら、月面のクレーターのようである。

 

 (あれか)

 

 恐らくは馬の足があれに嵌り転倒することを狙っているのだろう。そしてその地帯は上手く馬を走らせれば、回避できるものでもあった。

 

 (総員、俺に続け!罠をよけつつ蜥蜴どもを狩る!)

 (((了解!!)))

 

 そして、瞬時に判断したその抜け道を、ミシンが正確に布に糸を縫い付けるように駆け抜ける。それ自体が誘われていることだと気づかずに。

 

 (!!!)

 

 馬が転倒した。自分の体も投げ出された。それだけのことなのに、疑問が湧いてしまう。どうして?と。次いで聞こえる騒音を聞けば自分の後に続いた者たちが同様の目にあっているのが容易に想像できる。これは非常にまずいと急いで体勢を整えようと起きあがったところで彼の意識は耳の内側から膨らむように炸裂した破砕音と共に途絶えた。

 

 

 「ヤハリ」

 

 そう簡単にいかないかとコキュートスはその光景を見ていた。そして次に考えるのは哀悼の意であった。彼らはよくやってくれている。もしもこれを不備だと言うのであれば、責任は自分にあるのだ。

 

 「ニジュウのわな……デゴザいますか」

 「ソノヨウダナ」

 

 部下の言葉を受けて改めてあったことを冷静に分析する。彼らがかかったのは、これまた単純な罠であった。木箱の間を張るように糸が張られていたのだ。そして馬たちはそれに足を引っかけてしまったと言える。それなりの高速で動いている者がわずかでもその体勢を崩してしまえば、後は引っ張られるように転倒してしまうのは仕方ないことだと言える。そしてその隙をつかれ、蜥蜴たちのスリングを用いた投石を浴びて頭を砕かれ、湿地に沈んだのだから。

 

 では何故彼らは気づかなかった?もっと言えば自分たちはその存在に気付けなかった?

 

 それは先に騎兵部隊の隊長が考えていたことでもあるが、これに関しては蜥蜴たちの執念勝ちと言えるだろう。

 

 自分たちが見られているという可能性に気付いたのは当然とも言うべきかザリュースであった。彼はその事を蜥蜴たちのまとめ役となった兄に進言、それを考慮した上で、これらの罠はなんと現実でいう深夜0時から2時の辺りに設置されたのだ。なんの明かりもなく、自分達の身体能力と目だけを頼りにだ。

 

 一見、馬鹿馬鹿しく、非効率にも程がある工事であったが。彼らは成し遂げたのだ。そして《観測班》が使っている道具に現地の明かりまではどうすることもできず。それ以前にその時間帯は可能な限り休むように主から言われていたことも大きい。よって、彼らの観察が疎かになってしまっていたのも仕方のないことであり、アインズだってそれを責めようとは微塵も思わない。

 

 では次の問題。

 

 

 「どうして、彼らはこの罠に気付けなかったのか。分かる者はいるかね?」

 

 デミウルゴスはこの状況も利用する。少しでも墳墓を強くする為に。その言葉を受けて、集まっていたもの達は考えたり、近くの者達と話あったりもしているそれでも発言となると中々難しいらしい。

 

 大勢の者たちが注目する場での失敗や失言を恐れるのは人間と大差ないかもしれない。正直腹立たしく感じもするが、だからと言って、認めないというのはまたそれはそれで危険である。

 

 「単に糸が見えなかったのではありんせん?」

 

 こういった時に真っ先に発言をしてくれる者はありがたい。以前であれば、彼女は思うがままにそう振舞っているのであろうが、今は彼女なりに考えての発言であることだろう。話を先に進める為の言葉とも言える。

 

 「そうだね、それも一つの要因であったのは確かだろうね、だけど」

 「まだあるの?~~え~~と」

 

 アウラもまた考える。糸は細くて確かに目視での発見は難しい、自分だったら絶対気づくという自信はあるが、かといってそれだけではないことは目前の彼を見ても明らかである。では何でであるかと、彼女なりに考えてみる。

 

 (まずはおさらい)

 

 これは以前行われた食事会の前に弟と同僚の3人でやった話あいの時と同様、初めから事の成り行きを思い出す。

 

 騎兵隊はリザードマン達を背後あるいはその横っ腹から急襲する為に進軍していた。そして、その途上にある罠の密集地に気付く。

 

 (ん?)

 

 そもそもどうして彼らは、いや正確にはそれらを束ねる隊長はその事に気付いた?答えはすぐに出る。

 

 (だって、あんな雑な仕掛け方だよ?)

 

 単純に木箱を湿地に埋める。それは自分もモニター越しであるが確認した。特に葉っぱなどで覆う訳でもなく、剥き出しの状態であるのだ。見ただけですぐに分ってしまう代物だ。

 

 (あたしだったら)

 

 もっと上手い方法で埋めてやると思うと同時に一つの事に気付いた。

 

 (もしかすると)

 

 そう、それだけ簡単に見つけることができる罠だからこそ、彼はそれを避けていくことを考えた。そうすれば、最速で相手の後ろに回る事が出来るから。そうすれば、更に戦況を有利に進めることが出来るというもの。そう、そう考えるのは自然なことであり、間違ったことではないのだ。

 

 (つまり?)

 

 そんな目立つ罠の存在そのものが罠であったという事だろうか?木箱を避けて通る道に掛かるように糸が設置してあったというのであれば、その考えに説得力が出てくるというもの。

 

 (よし!)

 

 横目で弟を見れば、まだ考えているようだ。ここ最近は弟に出し抜かれてばかりであった。主に対する事でもそれ以外でも。この考えが間違っている可能性も多いにあるし、恥は掻くだろうし、何より。

 

 (シャルティア)

 

 確信がある。彼女は指を指して大笑いすると、絶対それで揉める事になるだろうけど。ここで引き下がる訳にはいかない。

 

 「デミウルゴス!!」

 「何か分かったようだね、ではアウラ。説明したまえ」

 

 元気よく手をあげる外見年齢7、8歳の少女とそれに笑顔で指名する眼鏡にスーツの男性と完全にその光景は小学校の授業風景であった。

 

 アウラは彼女なりにまとめた事を彼と周囲の者達に話す。すべてを話し終え、その瞳がやや不安げにデミウルゴスを見つめる。

 

 「……という訳だと思うんだけど。どうかな?」

 

 一時の沈黙、それは彼女の精神を圧迫するには十分であった。そして彼は微笑み。

 

 「正解です。頑張りましたねアウラ」

 

 とだけまずは言葉にする。それは彼なりの教育方針。褒めて伸ばす。もしも不備であったり、修正が必要な所があれば、後でそれを指摘して次につなげればいいのだ。

 

 「チビにしては頭を使いんしたね」

 「うっさい、あんただけには言われたくない」

 「お姉ちゃん。すごいよ」

 「ありがとうマーレ」

 

 吸血鬼の軽口に言い返して、弟からの称賛に思わず飛び跳ねそうになって彼女は喜ぶ。

 

 その様子を満足げに眺めながらデミウルゴスは改めて説明を行う。要は、最初の罠を見破ることが前提の文字通り2重の罠であるということ、これの優れた点として、相手が木箱に気付かなくてもそのままそれが罠として機能をはたすという事。仮に糸のことに感づいて迂回したとしてもそれだけの時間が稼げる訳であり、何よりそれに気づいてしまったからこそ、心に疑念を抱いてしまうこと。

 

 『もしかしたら、ここにも何かあるかもしれない』

 

 と、一瞬でも思わせることができる非常に有効的な物であると説明をする。たとえ一瞬の躊躇いでも戦場ではそれが命とりになりかねないのだ。そしてそれを考えたであろう相手に警戒と同時に尊敬の念を抱き、改めて彼らを楽園計画に組み込みたいと誰にも見せることなく、彼の精神内で怪しく微笑むのであった。

 

 (今はナザリック側がやや有利、頼みましたよ友よ)

 

 

 そう、デミウルゴスの言う通り。現在のナザリック側の戦死者(?)はスケルトンに騎兵を合わせて300体ほど、対してリザードマン側の戦死者は200を超えている。単純にその数で比較するのであれば、蜥蜴達が勝っていると言える。

 

 しかし、元々の戦力差を考慮するのであれば、総戦力約5000と1400。それを踏まえると100の差なんて何でもないと言えてしまうし、実際にその割合で答えるのであれば、6%減った墳墓に14.3%程倒れた蜥蜴たちとその優位性がどちらにあるのか明確に答えをだしている。

 

 何より戦争はまだ始まったばかりである。これらのことはまだ開始から10分も立たずに行われて攻防であるのだから。それ程までに戦場で回る時計というのは濃密であり、またゆっくりしているとも言える。

 

 現在激闘が続くのは、蜥蜴たちから見て、戦場の左側、そして今もう片方の戦いも始まろうとしていた。そう、ゾンビの群れにそれに対抗する雌と老リザードマンの部隊である。

 

 その中にはある雌のリザードマンもいた。彼女は緑爪(グリーン・クロー)の所属であり、あのシャシャ兄弟と幼少の頃より付き合っていた知り合いであり、親しい間柄であり、そして未婚であった。

 

 彼女の方が2つほどシャースーリューより高かった為、姉貴分として彼らと付き合ってきた訳であるし、また彼の妻である友人からもザリュースとの結婚を何気に進められていた。彼女自身にとってのザリュース・シャシャとは弟分であり、確かに大切な存在である訳だし、もしも彼がこのまま独身を貫くようであればいっそ、自分がもらってやるのもいいかもしれないと思いもした。

 

 そんな時にこんなことがあり、そして彼は自身の惚れたという雌を連れてきたのだ。正直妬けてしまう気持ちがまったくない訳ではないが。それでも彼がようやく自分の幸せに目を向けてくれたのは嬉しく思う訳であり、この戦争が終わればちゃんとした祝言を上げるつもりである。

 

 (本当に変わった奴だよアンタは)

 

 その為にもこの戦、生き残らなくてはならない。

 

 

 そして、ある年老いたリザードマンにしてもそれは同様の思いであった。彼もまた幼い頃からのその兄弟を見守ってきた者であり、その兄が族長の座についた時などには大いに祝ってやったものだ。彼もまたザリュースの事を気にかけており、何とかできないかと頭を悩まさせていた。

 

 だからこそ、クルシュ・ルールーには感謝しているのだ。彼女の体質が一般的に忌避されるものだろうが、関係ない。彼女のおかげであの雄はさらに己の殻を破ったように思えるのだ。

 

 (ようやく、あの腕白小僧も家庭を持つか)

 

 その子供を見るまでは死ねないと彼もまた駆ける。生き残る為に。

 

 

 そんな彼女たちが相手にするのはゾンビ、スケルトンに比べれば遅く、立ち回り方さえ間違いなければ、決して手強くはない相手だ。左翼の方では戦士階級に雄たちが苦戦をしているらしい。ならば、できるだけ早くあいつらを倒して、その加勢に加わる必要がある。

 

 左翼での激突から遅れて約1分、彼女たちも目前の敵とぶつかる寸前まで来る。そこで彼女は前方の敵を見据える。

 

 (???)

 

 不思議に感じたのは一部のゾンビたちが大きく腕を振りかぶっていたからだ。まさか、投石だろうか?死体モドキたちが投げたのは一見、ただの棒のようなものであった。

 

 (あれは?)

 

 そしてそれが自分たちの足元に着地――ここは湿地であるため、正確には着水と言うのだろうか――するや否や爆ぜる。その爆発に巻き込まれて、多くのリザードマン達が肉片となり吹き飛んだ。

 

 確かに彼女たちにも意地や覚悟はあったかもしれない。しかし、それはナザリック地下大墳墓に所属するものであっても同様であるという事を忘れてはいけない。

 

 まだまだ、戦争は始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 




 思ったより長くなってしまいました。もしかしたら、後1話伸びるかもしれません。そうなったらすいませんが、お付き合いお願いします。
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