オーバーロード~遥かなる頂を目指して~   作:作倉延世

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 まず、一つ説明をエントマの口調ですが、コキュートスに対してもあの間延びした口調ですが、(コミック版参照)今作では完全に姉妹間での私語という事にしています。


第6話 激闘の果てに

 

 その光景は衝撃的であり、誰もが驚きの声を上げる。

 

 「何だあれは!?」

 

 リザードマン達の指揮官であるシャースーリューは思わずそう叫んでしまう。それは何を指してのものだろうか。爆発した物体に対して?それともそれをやった奴らの動きに対してだろうかとザリュースは考えてみる。

 

 (いかんいかん)

 

 注目すべきはそこではないし、ゆっくりと考察をしている時間もないのだから。

 

 「スーキュさん!!」

 「ええ、まずは私と」

 「ようやく俺の出番だぜ!!」

 

 右翼の部隊が受けた攻撃が辛うじて炎によるものだというのは分かっている。ここで温存戦力の投入と未だに混乱している前線部隊に指示を出すため、2人の族長が飛び出していく。

 

 「皆さん!落ち着いて行動をして下さい!」

 

 スーキュは得意のスリングショットでゾンビの頭2、3吹き飛ばしながら撤退の指示を出す。それでようやく落ち着きを取り戻し始めた数匹が中心に後退を始める。今相手にしているのは単なるゾンビではなく、道具を扱う、厄介な相手であると。現在進行形で爆発する何かを投げ込まれ、数を減らされているのもあるが。

 

 (まずいですね)

 

 その顔には戦争前の勢いだとか覚悟がすっかりなくなってしまい、恐怖に染まっている者が増えていた。残念ながら彼女達はもう戦うことができないだろう。

 

 もしも、これが魔法だとかあるいは単なるアンデッドに対する恐怖であれば、クルシュ等が使える。〈獅子ごとき心〉(ライオンズ・ハート)等でなんとかなるのであるが、今彼女たちが抱いているのはいわゆる未知に対する恐怖。そして心に植え付けられたのは目の前で同族が無残に飛散する光景。たとえ魔法をかけてもそのおぞましい記憶を追い出すのは困難なことであろう。それは何も直接攻撃を受けた者だけの話ではなく、

 

 (おい、……)

 (勝てるのか、俺たち)

 

 左翼で戦っている者たちで比較的中央寄りの者たちや後方でスリングを構えているリザードマン達までがその光景に戸惑いが胸に広がっているようである。このままでは、そう彼自身も確かに恐怖している訳であるが。

 

 (何とかしないと)

 

 一度起きた負の感情の波と言うのは止まることを知らずにやがて蜥蜴たちを飲み込むはずであった。

 

 「行くぜえ!!」

 

 何事にも、いかなる種族でも例外というものが存在する。こんな時だというのに嬉々としてゾンビたちに突っ込む一匹の雄がいた。その名はゼンベル・ググー、最も武を重んじる部族の族長を務める生まれながらの戦闘狂(バーサーカー)である。

 

 その雄にゾンビたちも多少であるが、驚きを感じていた。この策はいわば、今回の最大の切り札であったのだ。何発かぶち込んでやって、それで蜥蜴たちが戦意を喪失してくれればそれでよかったのだが、この雄の存在がそれを台無しにしそうである。その指揮を執るゾンビの判断は速かった。

 

 (者共、あの者を集中攻撃だ)

 (((委細承知)))

 

 自分たちだってかの方に恩を返したいのだ。その為に彼らは左右非対称の姿を持つ蜥蜴へとその武器を投げ込む。その数は5、しかし。

 

 「アイアン・スキン!アイアン・ナチュラル・ウェポン!レジスタンス・マッシブ!!」

 

 爆発が、爆炎が間違いなくその雄を飲み込んだというのに、その雄は何もないと言わんがばかりに突撃を慣行している。

 

 「俺には効かねえぜ!!」

 

 その言葉と共に彼はゾンビの群れへと襲い掛かる。こうなると彼らが今度は不利である。先ほどから仕掛けていた攻撃では間違いなく同士討ちを起こしてしまうし。何よりそうした攻撃というのは、とても褒められたものではない。プライドの話ではない。純粋な戦術での話だ。

 

 (何だ?この雄は?)

 

 その姿に徐々にであるが、彼の部族から参加している者を始め、再び奮起し始める。それでもなお押しているのはゾンビ軍団であったが。

 

 さて、先の発言にてゼンベルは己は無敵だと言ってのけたが、しっかりとした理由はきちんとある。まずは彼が使用したアイアンの名を冠するスキル。それは己の体を文字通り鋼鉄の如き強度を上げるものである。ウェポンと呼ばれた方は、本来であれば、肉体でも武器に使う部分、牙だとか腕にしか作用しないが、それを使ったのは彼の野生とも戦士ともあるいはそれまでの経験が呼び起こした勘からであった。出し惜しみをできる相手ではないと。

 

 次に抵抗する屈強な肉体(レジスタンス・マッシブ)について、それは彼の職業、モンクが持つ技の一つである。一瞬だけ気を全身から放射することで、魔法に対してある程度、損傷を減らすというものであった。つまり彼はこの攻撃は魔法によるものであると、見抜いて、いや勘付いていたと言うべきか。

 

 最後に彼の精神性と普段から鍛えられていたその肉体を持って、先の攻撃に耐えたのであり、何も無傷という訳ではない。現に彼自身はその体が悲鳴を上げているのを直接聞いているのであるから。それでも彼は止まらない。ここで倒れればリザードマンの敗北が濃厚になるから?まさか、そこまで彼は思慮深くはない。ただ、

 

 (暴れ足りねえ)

 

 そう、彼は本能のままにその拳を振るうのである。しかし、それは彼の部族では最も重要視されることである。

 

 

 その様を見せられてクルシュも多少は彼の評価を変える、なんてことはなく。

 

 「ねえ、ザリュース」

 「何だ。クルシュ?」

 「彼っていつもああなの?」

 

 何度もした質問であるが、彼は苦笑交じりに答える。

 

 「頼りになる奴だろう」

 「ええ、それは分かったわ――それと一つ疑問が解けたわ」

 

 彼の左手は指が2本欠けており、どうしてかと疑問に思っていたが、流石にそれを真正面から聞くなんてことはたとえ、粗暴な相手でもできない為、分からずじまいであったが。あの姿を見ればその理由も簡単に察することが出来るというものだ。

 

 「本当に戦闘狂なのね」

 「それを言うとあいつは喜ぶぞ」

 「呆れるばかりね」

 

 しかし、それでも-200の印象が何とか-185まで上がりはしたのである。

 

 

 

 

 

 

 その光景は身をもってその威力を味わった蜥蜴たちだけではなく、それを見ていたもの達をも吃驚させていた。それは彼らが見せた動きでもなく、その扱った道具に関してでもない。彼らを襲ったのは強烈とも言える。既視感。

 

 「…………ヘッドギア」

 

 彼らと直接交戦したシズが一同を代表するように声を上げる。そう、ゾンビにスクロールを使用した簡易爆弾とそのやり方は先日の件で城塞都市を破壊しつくしたテロリストたちのやり方に非常に酷似していた。そういった言い方をするにも理由はある。件の奴らは単にその両方の要素を別々にそれでいて、同時に使用していたが、今自分たちが見ているのはその複合系とも言える光景。ゾンビ自身がそれをやっているのだ。

 

 「ねえ、これって」

 

 アウラが不満げな声を上げたのは無理もないことである。敵の戦法を真似るというのは、いかがなものかと。それも主の心を壊しかねないことをした連中のものである。その怒りはそれをするよう指示した武人に向けられているとも言えるし、それを許容した自分にも向けられているものとも言えよう。周囲には彼女に同調するように義憤の視線を送って来る者たちがいるが、デミウルゴスはそれを気にする事はなかった。

 

 その感情自体は主を思ってのものであるし、理解できる部分もあると知っているから。だからこそ、その説明を行うのが、自分の役割だとも言える。ちなみにこのことを事前に知っていたのは他には統括補佐である彼であったり、先ほど言葉を交わした管理者である彼、後は。

 

 (パンドラズ・アクターも把握していたはずですよね)

 

 アルベドには伝わってこそいなかったものの、そこは彼女のこと、すべてを理解しているようであった。それは自分ではなく、主に対する信頼であろう。

 

 (お熱いことで)

 

 彼が企んでいる事の一つに、非常に不敬であるが、それを承知したうえで行っていることがある。それは友人に言った事もあるが、自分自身かの方のお世継ぎを見たいという気持ちもあったかもしれない。

 

 「問題はないさ、その説明もこれからするよ」

 

 思考を切り替えるようにその言葉を口にして、彼は続ける。

 

 「確かに皆さんが思っているように、感情的には褒められたものではないでしょう。しかし、それを差し引いてもこの策が今回の戦争で有効なものであることも事実。アインズ様も認められましたからね」

 「でもさ、……」

 「そうですね、確かに耐え難いものでしょう。かといってすべてを感情に任せるのもまた危険だという事は貴方も分かるでしょう」

 「うん、分かったよ。アインズ様が良いっていうならさ」

 

 もしもこれで、後から間違いだと分かれば自分の命はないでしょうねと内心笑いながら話を続ける。プライドを優先して物事を進めれば必ずどこかで躓いてしまうと、この機会に墳墓に所属する者たちに認識させると同時に。

 

 「アインズ様は今回の戦争に限りこの策を使用することをコキュートスに認めました。その理由を、そうですね」

 

 そこで指を3本立てる動作をする。

 

 「3つ、考えてみましょうか」

 

 実際はもっとある訳だけど、細かいことであったりする為。絶対に理解して欲しい所を考えてもらうため、悪魔はそう告げる。

 

 「あの」

 

 最初に手を上げたのはマーレであった。どんな回答をするか楽しみである。

 

 「マーレ、では君の考えを聞きましょうか?」

 

 そして指名された少年はやや肩を震わせながらも口を動かす。

 

 「もしかしてですけど、その、あれをアインズ様のせいだと思われない為ですか?」

 「正解です。そして、君はやはり優しい子だ」

 「い、いえ」

 

 嬉しく思うのは当然だ。なんせ、あの武人も最初にそれを懸念事項としてあげたのだから。その時に聞いた主の優しき声はしばらく耳から離れることはないだろう。

 

 『そうか、それが初めにくるか、……ありがとうコキュートス、私を思ってくれて』

 

 「そういう事でありんすか」

 「え?人間てそんなに馬鹿なの?」

 

 その姉と吸血鬼、それに他の者たちもマーレの回答の意味を理解してきたらしい。間違いなく、良い傾向である。例えば、以前のシャルティアであればこの時点でも首を傾げてクエスチョンマークを頭に浮かべていたに違いないのだから。

 

 「デミウルゴス、何か失礼な事を考えていんせん?」

 「いや、何でもないさ」

 

 あまり賢くなりすぎるのも考えものであるかもしれない。

 

 話を進める。要は、テロリストとナザリックが同一の組織であると思われることを防ぐ為に、今回の件、もっと言えば、そう言った事情に詳しくないリザードマン相手だからこそ、認められたとも言える。

 

 「確かにそう勘違いする愚か者もいるかもしれませんが、同時に狡猾な人間がいることも注意しなくてはいけませんからね」

 「一番は法国かしら」

 「でしょうね」

 

 アルベドの言葉に同意しながらもデミウルゴスは話を続ける。情報操作などの危険性について、そしてそれをやる可能性がある国々や組織について、無論スレイン法国もその一つである。

 

 なんせ、戦士長1人を殺す為に平気でえげつない行為に手を出すような国である。かの国が聞けば、「お前たちだって変わらんだろう!」と抗議の声を上げることであるが、今の自分たちは可能な限りそういったことはやらないし、限界まで救えるものは救うと決めているのだ。

 

 (すべては我らが主の為)

 

 「じゃあ、イブ達が出ているのって」

 「そうですよ」

 「兄さん達には周囲の警戒をお願いしているの」

 「ウィリニタスにイブ・リムスだったら安心だね」

 「そうだね。お姉ちゃん」

 

 万が一にもこの戦争を覗こうなんて考え、動く者達には死んでもらうつもりである。これに関しては主も好きにしていいと仰って下さった。向こうもそのつもりで来ているのだとこっちは認識している。魔法による盗聴に盗み見に対しても対策は出来ている。そこで頭に響く声が聞こえる。

 

 『デミウルゴス、ちょっといいかい?』

 

 一応、皆に断りを入れて、その伝言(メッセージ)に答える。

 

 「イブ・リムス様、いかがしましたか?」

 『こっちなんだけどね、今はウィリニタスとの共闘で2人程始末している』

 

 2人で行動しているのは、万が一にもプレイヤーを警戒してのことであろう。相手がそうであった場合何とか彼女であれば、1発攻撃を当てられると言った所だからだ。

 

 (それよりも、問題は) 

 

 本当に隙がない者たちだ。一体どこからの差し金であるか、それは今回追求しないことになっている。メインは悪魔で友がやっている戦争だ。

 

 『それで、1人放置をすることになったことを報告しとこうと思ってね』

 「そうですか、彼ですね?」

 『ああ。そうだよ』

 「分かりました。引き続きよろしくお願いいたします」

 『任された。じゃ、あの馬鹿を頼むよ』

 「はい、お任せください」 

 

 

 

 

 

 

 伝言(メッセージ)を終了して、彼女は近くの木の枝にとまっているフクロウへと声をかける。

 

 「報告は終わった。次にいくよ」

 『ええ、分かっていますとも』

 

 民族衣装を身に纏った女性とフクロウはその場を立ち去る。その場には真っ赤な血だまりだけが残されていた。それもやがて乾くものであり、間もなくそこには誰もいなかったような地面があるだけとなった。

 

 

 

 

 

 (来ていたとは)

 

 これは尚更、友の働きに掛かっているとも言える。しかし、それを気にしても仕方ないので次に話を進める。

 

 「では、1つ目はナザリックとヘッドギアが同一視されることを防ぐ為でした。2つ目が分かる人はいるかな?何もアウラたちだけではありません。気づけば誰でも発言をしてください」

 

 「…………」

 

 無言で挙手したのは戦闘メイド姉妹の一人であった。これも主が望まれている光景に近づいているとまたも喜ばしく思うも、それは表に出さず、その人物を指名する。

 

 「では、シズ」

 「…………この作戦はそんなに沢山の回数、使えるものではないという事です」

 「正解です。よくやりましたね、シズ・デルタ」

 「…………お褒めに頂きありがとうございます」

 

 傍にいたユリがその頭を撫でてやり、彼女は無表情ながらも付き合いが長い者であれば、得意気になっていると分る顔をみせる。

 

 デミウルゴスは純粋に驚いていた。まさか、こんなに早くそれに気づいてくれるとは。この事に関してはいつまでもYGGDRASIL(ユグドラシル)時代の考え方のままではこの答えが出ることはなかったのだから。

 

 それはデミウルゴスの優秀さから導き出されたある一つの考え方だ。彼は職務の間を縫ってはこの世界のことを調べて回り、自分たちが生まれた世界との違いに気付きつつあったのだ。それも当然と言えば、当然のことと言える。遊ぶ為だけに創られた世界と生き物が生きて歴史を歩んだこの世界では違う所だらけなのだ。よって、変わっているところも彼はその検証に努めていた。勿論戦闘に関しても意識改革が必要なところがあったのだ。

 

 以前の世界であれば、魔法や職種、それにスキルの組み合わせやぶつけ方のみ追求すればよかったのだ。それはあの世界の魔力や資源がある意味無限大であったから。そうなると彼はどうしても気になってしまう。確かに主の言う通りあの世界は一種の理想であったのだ。しかしそれでも失敗して消滅することとなったその理由がどうしても気になる。が、

 

 (私が気にする事ではないですね)

 

 思考がそれてしまったが、要はそれありきで組み立てられていた以前の世界と明確に資源や魔力に残量があるこの世界ではもっとうまくやる方法を考えなくてはならない。それは戦闘においても同様である。以前の世界というのは、ある程度の法則があり、生物はみなそれに従っていたが、この世界では文字通り、それぞれの生物に意思や思考があるというのを理解しないといけない。

 

 それは結局の所、システムによってある程度の行動しかできないゲーム上のキャラクターと現実に生きる生物との違いであるが、彼はそこまで見抜くことはできなかった。例えば、地球が球状であるという話にしたって、初めにそれを実証してみせた者がいて、それを共有して初めて常識という名の認識になった。一から世界のすべてを理解するいう事が無理な話なのだ。少なくともアインズが話すまではいくら墳墓一の頭脳を持つ悪魔でもそれを知ることはないだろう。

 

 「今のシズの意見だが、どういう意味か分かるかな?」

 「デミウルゴス様、よろしいでしょうか?」

 「では、頼みましょうかソリュシャン」

 「ありがとうございます。では」

 

 彼女は説明を始める。今回の作戦がうまくいったのは、一種の不意打ちであったからだと言う。彼女は一度周囲の者達に意見を求める。

 

 「そもそも、ゾンビってどういったモンスターでしょうか?」

 

 「鈍い」

 「とろい」

 「噛みつくし、引っ掻く」

 

 ある程度の意見を貰ったところで彼女は話を進める。

 

 「はい、そしてそれは彼らと相対していたリザードマン達も知っていたことでございます。そしてコキュートス様はそこをついたのではないかと」

 「いいですよ、続けてください」

 「ありがとうございます。そして実際に使う所をリザードマン達にも見られてしまっているため、再びあれ程の成果を上げるのは難しいと思います。ですので、アインズ様は今回限りとしたのかと思います」

 「ありがとうございますソリュシャン、十分すぎる説明です」

 

 ゾンビとは本来、動きが鈍いモンスターだ。だからこそ、彼らは近づく必要があり、そこをあの簡易爆弾で攻撃したという訳であり、それが成功した結果が先の光景だ。

 

 「流石に2度も同じ手に引っ掛かる訳ないもんね」

 「そう、アウラの言う通りだよ。では、これに関してはもう説明はいいかな?」

 

 首を傾げる者もいなければ、クエスチョンマークを浮かべている者もいないようである。もしも理解できていないのに、言い出せないなんてあれば、後で個人授業でもやろうかと思っていたが、その心配もなさそうである。

 

 「では、最後の理由だが」

 「私から良いでしょうか?」

 

 挙手したのは親友の一人であったが、

 

 「ヴェルフガノン、君が答えてはあまり意味がありませんからね、よって却下だ」

 「酷いな」

 「信頼の証ですよ」

 

 彼であれば、既に分かっているであろうからここは控えてもらわないといけない。あのパンドラズ・アクターでさえ、自重して何もしていないというのに、明らかに答えたくて仕方がないという雰囲気であるけど。

 

 「それでしたら、自分が答えたいです!!」

 

 次に手を挙げたのは燕尾服を着た奇抜な髪色の少年であった。この子供であれば、自分の中での条件は満たしていると言える。

 

 「では、頼もうかなエドワード」

 「純粋に物資の残量を気にかけてかと」

 「詳しく説明を求めても?」

 「あのスクロールの使い方は間違っているし、本来の魔法の性能を引き出すものではありません!!よって物資の無駄遣いです!違いますでしょうか?」

 「いや、十分だ」

 

 これに関しては説明は不要そうであった。しっかりと魔法として使用するのであれば、火球(ファイヤーボール)はもっと射程が長いはずである。それをどうして彼らはああいう使い方をしていたのかは自分でも少々理解に苦しむことがあるが、今回に関しては、

 

 「ねえ、ちょっと待ってよ」

 

 疑問の声を上げたのはアウラであった。

 

 「どうしたのかな?」

 「思ったんだけど、これってスケルトン達が相手にしているリザードマン達にぶつけた方が良かったんじゃないの?」

 「確かにそれが理想的な構図であるのは私も認めるさ、しかし、先ほどソリュシャンが説明したようにこれはゾンビに対する印象を利用したものであるから多少のズレはしかたないさ」

 「じゃあ、次の質問、何で貴重なスクロールをあんな使い方をするのさ、ゾンビたちがああ動けるんだったらちゃんとした使い方の方が、もっといいんじゃないのかな?」

 「それに関しては恐らくコキュートス自身が設けた保険といった所かな?」

 「保険?」

 「しばらくは戦況を見てみるとしよう」

 

 戦場の状況と言えば、以前墳墓側が優勢と言った様子であった。変則的なスケルトン達のファランクス陣形、そしてゾンビたちが放つ簡易爆弾にリザードマン達は後退しながらの戦うことを余儀なくされるのであった。

 

 その様を後方から静かに見ている一体のスケルトンが居た。今回の作戦において戦場での指揮をコキュートスより任されたスケルトンであった。

 

 (コキュートス様の指示通りに事は進んでいる。ここで畳みかけるとしよう)

 

 彼は自分の後方に待機していた部隊に進軍するよう指示を出す。やがて、彼の足元を無数の獣、それも死体が無理やり動いているような者たちが駆け抜ける。

 

 

 「ソウカ、順調カ」

 

 コキュートスはロッジハウスにて、その様子と部下からもらった報告書を手にそう呟いていた。一応、これで攻めきれなかった時に用意している保険の方も出来上がりつつあるという。すべては彼らの働きの賜物である。

 

 「感謝シナクテハ」

 「お言葉ですが、コキュートス様の尽力あってこそかと」

 

 テーブルに作りたての菓子が盛られた皿を置きながらエントマはそう返す。

 

 「私ハ特二大シタ事ハシテイナイ」

 「過剰な謙遜はあまり良くはありませんよ」

 「謙遜ナド」

 「少なくとも私では今回の様な計略を練るという事はできませんでした」

 「ソウカ?御前デアレバソレ位出来ソウナ物ダト思ウガ?」

 「お褒めの言葉ありがとうございます」

 

 どこまでも下手に出るその少女に武人は今更ながらに支えられていたのだと思い知る。開戦の時にかけられた言葉もそうであるが、時間を忘れて会議に没頭していた時などは適度に休憩を勧めてくれ、差し入れてくれた品の数々に、こちらが望めばどのような飲み物も用意してくれた。

 

 それだけではない、このハウスが常に新築のように綺麗なのは、すべて彼女が掃除をしているからだ。それもこちらに僅かの負担をかけない為に、静かに、それでいて綺麗に素早くこなす仕事は見事である。彼女は大したことはしていないと言うかもしれないが、そういった細かい気配りが自分たちが万全の状態でこの戦に臨める要因であることは会議に参加したものであれば、誰もが肯定するだろう。

 

 (コレガ女性ノ(ちから)ト言ウモノカ)

 

 主がこの世界にとどまる事を決めた時のこともそうであるが、女性というものは時に信じられない力を発揮するようである。それは単純に目に見えるものではないが、それでも自分はそれを垣間見た気がする。

 

 「本当二有難ウ、エントマヨ」

 

 まだその途中だというのに、それでもそれだけは口にしておきたかった。

 

 「私はコキュートス様の部下です故、当然の事でございます」

 

 その言葉に少しではあるが、まるでアイスピックを心臓に刺したような痛みが走る。どうしてだろうか?

 

 (今ハ気二スル事デハアルマイ)

 

 調べるにしたって、相談するにしたって、これが済めばいつでもできることであると彼は再び戦場へと意識を集中させる。

 

 

 そう、ナザリックから派遣された軍隊は蜥蜴たちの息の根を止める為に更に攻勢に出る。次に出るのはアンデッド・ビーストの軍勢である。

 

 (我ら、獣隊!!彼らの首を掻いてやろうぞ!!)

 (((おお!!)))

 

 彼らの動きは正に疾風迅雷という言葉が似合うものであった。唯でさえ、スケルトンとゾンビたちによって疲労している蜥蜴たちはその動きに翻弄される。一匹の狼型が一人のリザードマンの右太ももを引き裂く、足に力が入らなくなり膝をついたその頭を熊型が叩き潰した。彼らも日々研鑽していたのである。

 

 そして彼らはそのまま村に攻め込もうと深く相手陣営へと踏み込む。村を占拠してやれば、今回の戦争は自分たちの勝利だと、ようやくあの御方に恩が返せると気持ちがはやったのかもしれない。

 

 突然地面から何かを叩きつけられ、この部隊のまとめ役であった狼型の体は真っ二つになった。

 

 (隊長!!)

 (俺に構わず進めえ!!)

 

 現れたのは、円錐形をした泥の形の塊が2つ、リザードマン達の切り札の一つである湿地の精霊(スワンプ・エレメンタル)達であった。しかし、アンデッド・ビーストたちとて引き下がる事は出来ない。何とか連携で抑えようとする。

 

 (隊長の仇!!)

 

 しかし、次の瞬間にはそう勇んでいた蛇型の頭は消えていた。その光景とそして新たに現れたのは2匹のリザードマン。片方はまるでトカゲの骸骨のようであり、二人とも身の丈位の得物を構えていた。やがて口を開く。

 

 「シャースーリュー・シャシャ」

 「きゅくー・ずーずー」

 「ここからは我らが相手をしよう」

 

 

 

 「兄者め、勝手に押し付けやがって」

 

 リザードマン達が追い詰められているのは事実であった。徐々に各戦線が崩壊しているのだ。そして中央突破を図ってきた。獣の死体たちの機動力は放置すれば、この村が占拠されるのも時間の問題であると告げていた。よって、こちらも出し惜しみができなくなり、精霊に族長が2人出ることになったのだ。

 

 「ザリュース……」

 

 その言葉に何とか我を取り戻す。惚れた雌にこんな声を出させるとは何たることであろうかと情けなくなってしまう。ここで自分が立ち止まることは許されない。うずくまる事もだ。彼にはこの戦がすでに負け戦になってきているとどうしても察してしまうのであった。敵の本拠地を叩くどころか、その第1陣でさえ、この有様だ。だが、

 

 (俺が辞めるなんて言ってはならない)

 

 少なくとも自分が戦場に踊り出るまでは決して停戦なんて考えてはいけない。でないと、先に死んだ者たちに顔向けができないのだから。

 

 「兄は強い、それにキュクーさんだって相当な使い手だ」

 「ええ、そうね」

 

 今は、信じるしかない。兄と友と族長達を。

 

 そしてザリュースが信じたように4人の族長たちが加わったリザードマン達は少しずつであるが、巻き返しを図っていた。シャースーリューを中心とした3人が前衛を担当して、スケルトン達を吹き飛ばしていた。

 

 「相変わらずだな、シャースーリュー」

 「お前もなゼンベル」

 「そのきずで、うごけるの。しょうじき、おどろき」

 

 キュクーが言う通りである。ゼンベルの体にはあちこち火傷の跡があるし、切り傷も酷いものだ。彼はあれから、右翼と左翼、その両方のフォローに走ったのだから当然と言えば、当然と言えるが。

 

 (できることなら下がってもらいたいが)

 

 しかし、状況がそれを許さない。現在、何とか動ける者たちを中心に精霊を盾にする形で防衛線を張っているのだ。

 

 (蜥蜴たちの長とみた!その首頂こう!!)

 

 自分を狙って突撃を図ってきた一体のスケルトンが放った横なぎをシャースーリューは身を屈めるだけで交わし、次に尻尾を振りまわして、ぶつけてやる。即座に崩れるスケルトン。

 

 (もらったあ!!)

 

 その隙をついて、飛び掛かった2匹の狼型のアンデッド・ビーストをかれは振り返ることなく、剣を振る。切り裂かれる狼たち、彼が放った攻撃は正確にその首を狩り飛ばしていた。

 

 「未熟者共が」

 

 一連の流れが彼の実力の高さを証明するようであった。

 

 「皆さん、無事ですか?!」

 「すーきゅ」

 「おう、おめえも生きていたか」

 「勝手に殺さないでください」

 

 スーキュは元狩猟斑としての経験を生かして、得意の投石と各部族の狩猟班で構成されるスリング隊を指揮しながら、撤退戦に努めていた。

 

 そして、彼は観察眼にも優れている。危険な土地を歩くうえで最も必要とされるのは視力とそれに合わせて危機に対する察知能力であったのだから。そんな彼が見る限りではいくらあのゾンビたちでもどこまでもあの不可思議な攻撃をするということは出来ないと見抜く。要は、腕力で投げているか、道具を用いて石を飛ばしているかの違いだ。上手く立ち回ればあの攻撃をかわすことができる。

 

 「ゾンビたちは決して近づけないように!!またあれをもらったら、今度こそ戦線は崩壊しますよ!」

 「「「おう!!」」」

 

 「せんしかいきゅうは、かならず、さんにんでまとまって。こうどうする」

 「「「分かったぜ!!」」」

 

 キュクーもまた優れた族長である。彼は本来であれば、その至宝の力、いや呪いによって知能が低下しているはずなのに、彼もまた相手の戦術というもの理解していたのだ。先ほど、シャースーリューに斬りかかった1体は恐らくはぐれてしまったのだろう。こういった戦場であれば、よくある話だ。彼もまた、先の旧5部族の戦争において、常に前線に立ち続けた雄なのである為、慣れっこだ。

 

 彼自身の目でみるならばスケルトン達の戦い方と言うのは、決してその隊列を崩さずに、こちらを1人ずつ確実にその陣形に引き込み、殺しているのである。そうであるならば、可能な限りこちらも固まるしか防ぐ手段はない訳である。

 

 そしてなにより。

 

 「おらああ!!バケモンどもお!俺はまだピンピンしているぜ!!」

 

 その一言がリザードマン達に戦う気概を抱かさせる。

 

 危機というものはピンチではあるが、同時にチャンスであるのだ。本来であれば、個体個体で暴れることしかできなかった蜥蜴たちが明確に戦略というものを身に付け始めたのだ。

 

 これも一種の戦争による効果というものであろう。互いに死力を尽くしているからこそ、互いに成長しているというものであろう。文字通り命を削って。

 

 やがて、リザードマン達は精霊を盾にスリング部隊がその外周を囲み、そしてその内側に戦士階級に雄、雌、老人の括り関係なく、固まった陣形を見せていた。そして近づくスケルトンとゾンビたちにはスリングによる投石を浴びせ。飛んでくる矢には雄たちが必死にその身を盾にして、素早く行動するアンデッド・ビーストや生き残りのスケルトン・ライダーには戦士階級達が必死に食らいつき、その間に雌たちが負傷したリザードマン達を治療すると必死に戦線を回していた。それは奇しくもくさび形陣形に非常に酷似していた。

 

 当初開戦したときは村と激突地点の距離は500メートル程だったのが、この時点で100メートルまでおされている事実。そして残存兵力にしたって、正確な数はもう数える余裕はないが、戦えているのは700人ほど、つまり半数近くの者達が死ぬなり大けがするなりで戦線離脱を余儀なくされてしまっているのだ。対して相手の方はまだ3000近い兵隊がいるようであった。あの爆撃が大きく響いたらしい。それらの情報がリザードマン達が追い詰められている事の証明であった。

 

 それでも彼らは諦めない。負けを認めない。

 

 (まだ、俺たちは戦える!!)

 

 土壇場で編み出したこの陣形で少しづつでも敵を削り取ってやると戦意を燃やしていた。あの謎の攻撃もその間隔は分かっており、そこまで近づくことを狩猟斑が許さない。

 

 (まだ行ける!!)

 

 そう、そう思う事もかの武人は想定していたと言える。

 

 

 

 その光景を見ていた。コキュートスはスクロールを一つとり、伝言(メッセージ)を発動させる。

 

 「ゾンビ達二魔法ヲ正シク使用サセヨ」

 

 そして、追加の命令を出す。これで、この戦争を終わりにすると。

 

 「予備部隊ノ投入ヲ命ジル」

 

 

 

 (畏まりました。コキュートス様)

 

 さて、今回の戦争でその指揮を任される事になったこのスケルトンは一体何者であろうか?それはシンプルな答え。要は訓練において、1位の成績をとったいわば骨の中の骨と言える存在でそして、彼が率いるのは訓練において上位200の成績を修めた者達で構成される精鋭部隊である。

 

 彼らの役割は村の占拠、あるいは戦線で戦っている蜥蜴たちを抑え、そして改めて降伏を迫る事が武人から命じられていることである。

 

 (直に決着はつく)

 

 

 同じく、連絡を受けたゾンビたちもまたスクロールを正しく使用する。やる事は簡単だ。単にそれを放り投げて命じるだけでいいのだから。

 

 (((火球(ファイヤーボール))))

 

 スクロールから蜥蜴たちに向かって、無数の火球が襲い掛かるそれは精霊を1つ消滅させて、陣形の右翼寄りだった者たちを吹き飛ばした。彼らの動揺は激しいものであったが、何より大きいのは。遂に白眼をむき、気絶したある雄の存在であった。

 

 「ゼンベル!!」

 

 クルシュは一瞬身を震わせる。驚いたのだ、初めてかもしれない。彼がここまで悲痛な叫び声をあげるのを聞いたのは、そして倒れたその雄へと視線を送る。

 

 (死ぬんじゃないわよ戦闘狂)

 

 彼自身はどうでもいいと思ってしまう部分がどうしても少しあるが、それで隣の雄が悲しむのは見てられない。

 

 ゾンビたちは正確に火球を打ち込んでいた。何も蜥蜴たちを殺す必要はないのだ。その直前、それもかなり際どい辺りに。生み出される激風が蜥蜴たちの陣形をまるで童話の狼が子豚たちの家を壊すかのように吹き飛ばしていく。

 

 (ここまでなのか)

 

 シャースーリューがそう思うのも無理はない。このタイミングでまた新しい敵が出現したのだ。それはスケルトンの群れであったが、先ほどまで戦っていたもの達と明らかに身に纏う雰囲気が異なり、綺麗な横陣形と丸盾に投げ槍、背中に背負っている弓に矢筒、そして腰には必ず2本の剣とその装備も豊富であり、それはつまりそれだけ彼らが信頼されているという事でもある。

 

 彼自身の心も折れかけていた。

 

 

 

 そしてコキュートスはその様子を確認して、何とか主からの期待に応えられる事と、

 (………)

 傍らで補佐を務めてくれた少女の言葉に報いることが出来るとどこかで安堵していた。そう、油断した。

 

 

 

 

 動き出したのは獣であった。4つの足を持ち、4つの頭を持つ、捨てられる原因となった奇形である姿を持つ多頭水蛇(ヒュドラ)である。ロロロであった。

 「ロロロ、お前何をしている!?」

 そう、ザリュースが命じた訳ではなかったし。

 

 

 

 「ココデ、アレガ動クカ」

 コキュートスもまた驚きを感じていた。ここまでの調査ではあの生物は単なるペットいう話であったはずである。それが自分の意思で出てきたのである。

 

 

 自分たちに迫る獣に精鋭部隊とその指揮官のスケルトンも気づいていた。

 (ただの愛玩獣という話では?)

 そして理解する。あの獣なりに主人を護ろうと必死なのだと、

 (健気なことだ)

 しかし、だからと言って、引き下がる訳にはいかないのである。自分たちだって恩を返さないといけない支配者がいるのだ。

 

 (譲れないのだよ)

 彼はすぐに判断するこの部隊であれば、投げ槍であの獣を止めることが出来ると。

 

 (総員、あの獣に向けて槍を投射準備)

 (((了解)))

 

 彼らは慌てるでもなく、その手に持った得物を構える。それはオリンピック選手が参考にしたいという事は容易に想像できるくらいに整った体勢であった。そして15秒後、彼は全員がその用意が出来ていると確信をもって、言葉にしていた。

 

 (投射)

 

 放たれるのは200の槍、それが雨のようにロロロへと襲い掛かる。体に突き刺さり、血が噴き出す。そしてその頭もすべて貫かれることであろうと、思っていた。

 

 (な)

 

 ロロロは外側の2つの首を内側の首を覆うように動かして護ったのだ。無論その首たちは両目を失い、力なく垂れ下がり、生きていたしても死んだ方がマシだと思ってしまう位には重症である。そして残された目には未だ闘志が燃えているようである。

 

 (んだこの獣は?)

 

 その光景はそれ程に異常だと感じてしまう行為であった。人であれば、躊躇いなく片手を切り落とすものに等しい。

 

 そしてロロロは吠え、倒れかかるように精鋭部隊へと突っ込んだ。その勢いは凄まじく、70体ほどのスケルトン達が吹き飛ばされた。

 

 「~~~!!」

 

 判断が遅れてしまったが、まだ取り返しは効くはずだと。彼は指示を出そうとするが、それより先に耳に響く声があった。

 

 「――氷結爆散(アイシー・バースト)!!」

 

 (これは、コキュートス様の?)

 

 一瞬そう、勘違いしてしまうほどの冷気が視界を覆った。

 

 

 

 ザリュースは後悔していた。ここに来てだ。それは勝手な思いであるとも自覚しているし、間違ってもそれで誰かに当たることは許されない。それでも涙を流さずにはいられなかった。

 

 (無茶をして)

 

 ロロロがその身に大量の槍を受けたことを、それでいて、なおの事、ロロロが走り続けていることを。

 

 それだけではない。目を向ければ、黒焦げになりながらも戦い続け、そして遂に倒れた生涯の友。

 

 すべては自分が不甲斐なさが生んだ結果だ。相手は自分たちを侮っているとどこかで思っていたのかもしれない。いや、実際そうだと思い、それに倣い今回の作戦を立てたのだから。しかし、違ったのだ。

 

 (俺だったのか)

 

 そう、侮っていたのは他でもない自分自身だったとことここに至ってようやく思い知ったのである。しかし、だからと言って、自分がここでただうずくまることは許されない。

 

 (いや)

 

 自分はただ、その責務から逃げ出したいのかとも思ってしまい、自傷の笑みを浮かべる。それはかつてある人物が浮かべた表情に非常に酷似していた。

 

 「ザリュース!!」

 

 呼び止める彼女の声が聞こえていないように、彼は走り出す。それは何もその場から逃げようと思ってのものではない。今はただ、駆けるしかないのだ。

 

 「ロロロ!!」

 

 彼は間違いなく、過去最速の走りを見せ、未だもみくちゃにになっているロロロとスケルトン達へと到達した。

 

 そして至宝であるその剣を振るう。

 

 「――氷結爆散(アイシー・バースト)!!」

 

 

 

 (何を考えている?)

 

 そんな時でも司令官たるスケルトンは冷静に思考をしていた。本来であれば、自分たちには冷気というものは効かないのである。しかし、それでも視界が悪い事に違いはない。

 

 (あの蜥蜴)

 (自滅したぜ)

 

 後方からは部下たちのそんな話し声が聞こえてくる。確かにそう考えるのが自然だ。彼の狙いは自分たちを巻き込んだ相打ち狙いの攻撃、それは彼を見ても、そう結論づけることが出来るというもの。彼自信は冷気ダメージを防ぐ何かしらの対策をしているようにはみえなかったし、調査の結果でもこの世界のリザードマン、少なくとも今、自分たちが相手をしている者たちに関してはそういった耐性はなかったはずである。

 

 それでも油断はできないと指示を出そうとしたところで視界が急に晴れた。やや悪い天気、うす暗い雲が空を覆っているのを確認した。そして気付く、自分の首だけがここに来ていると。

 

 つまり頭を斬り飛ばされたという事である。

 

 (へっ?)

 (うわあ!!)

 

 次いで聞こえてくるのは間抜けにもそんなことを口走ってしまっている部下たちの声であった。

 

 彼はひたすらに駆けた。それができるのは至宝の力あってこそであった。

 

 フロスト・ペイン

 

 その効果の1つに装備をする者に冷気に対する守りの力を与えることである。

 

 そしてかつてソーリスが目を輝かせて見ていた光景を生み出す技。

 

 氷結爆散(アイシー・バースト)

 

 一日3回しか使用できないが、その威力は絶大。そして現在彼が見せたようにこういった使い方もできるのだ。

 

 (冷気を煙幕として利用した?)

 

 ようやくその答えに行き着くと同時に湿地へと落下して、司令官であったスケルトンはその意識を溺れる感覚と共に手放した。

 

 ザリュースはひたすらに駆ける。

 

 その得物を振るい、瞬く間にスケルトン達の首を狩り飛ばしていき、時には体当たりで、また時にはその尻尾を用いて、文字通り全力でスケルトン達を屠って行く。彼らだってやられてばかりではないけれど、何せ状況が悪い。

 

 (おい!!俺だ!)

 (やべえ、味方の頭を砕いちまったよ)

 

 「氷結爆散(アイシー・バースト)!」

 

 冷気に覆われたその暗い視界の中、闇雲に武器を振るえば、同士討ちになるのは必然の流れ、指揮官が先にやられたのも間違いなく、大きな要因だ。やがて、その場には一人の雄が立つだけとなった。彼は倒れて動かない獣へとその手を当てていた。そして、その姿に魅せられた者たちがいた。

 

 「まだ俺たちはやれる!!」

 

 蜥蜴たちは再び闘志を燃やす。自分たちも倒れるまで戦い続けると。

 

 

 

 そしてここにもその雄の戦いに魅せられた者がいた。

 

 

 「見事ダ」

 

 精鋭部隊をたった一人で全滅させた雄に敬意を払うと同時にこれ以上の戦闘継続は危険だと判断する。

 

 「私ハ」

 

 結局攻め切ることができなかったと、主や友への罪悪感が溢れてくる。それは彼らだけではなく、

 

 「エントマヨ、スマナイ」

 

 その謝罪と共に彼女の頭に手を置く、体格差がそうさせたかもしれない。

 

 「コキュートス様が全力を尽くしていたのは私も分かっていますから」

 

 少女はその手を両手でとると、優しく抱き締めるように握ってくれた。その温もりが武人に安心感とその胸に暖かな何かを生んでいた。

 

 「マズハ、撤退ノ指示ヲ出ス」

 

 

 

 

 「あいつら帰っていくぞ?」

 

 それはリザードマンの一人が発した言葉であった。数では勝っているはずなのに何故か相手が退いていくのだ。

 

 「勝ったのか?」

 

 それはそう思いたいという願望から出たのであろう。しかし、そうではないと理解している者たちもいた。

 

 「見逃されたと、言った所か」

 「彼らの狙いを考えれば」

 「とうぜん、かもしれない」

 

 どうにか最後まで立つことができた3人の族長たちはそれぞれの意見を交わす。自分たちは決して勝利した訳ではないと、その考えが正しいものであると証明するように。声が響く。

 

 (今日はここまでとしましょうか。明日、改めて攻め入るとしましょう)

 

 どこからか聞こえたその声が再びリザードマン達を憂鬱な気分にさせる。多くの者が死に、怪我を覆い、そして、

 

 「族長!やっぱり」

 「人数があわないんだな」

 「はい」

 

 どうやら200近い同族がどこかへと消えてしまったらしい。

 

 「くそ!!」

 

 彼のその叫びは何に憤っているものであるかは誰にも分からない。見れば、アルビノである彼女は弟の所へと向かっているようだ。

 

 (弟よ、すまない。そして、ありがとう)

 

 間違いなく、弟が後から来たもの達を全滅させたことが相手にそう判断させる材料であったのだろう。そしてその考えは次へと移る。

 

 (ロロロ、ゼンベル)

 

 彼らの働きがなければ、自分たちはとっくに敗北していたのである。それを何とか痛み分けに近い状態に持ってこれた。しかし、

 

 (明日か)

 

 相手は恐らく、今日と同じ兵力を難なく用意することであろう。だが、こちらは。

 

 (降伏すべきか)

 

 そう思ってしまう程にリザードマン達の戦力は減っていると言えた。

 

 

 

 

 「ちょっと!!」

 「あの、これは?」

 「ふむ、負けていた訳ではないでありんしょうし」

 

 文句を上げるのは当然と言うべきかアウラであり、マーレやシャルティアにしても疑問の声を上げながらも友の選択に不満があるようであった。しかし、

 

 「これでいいんですよ。コキュートスの判断は正しいと言えますね」

 「そうね、私たちは何も彼らを絶滅させたい訳ではないのですから」

 「………あ」

 「そうか」

 「成程」

 

 本当に嬉しく思う。アルベドと思わず目線を合わせて笑ってしまる。今のやり取りだけでその意味合いを理解したのであれば、十分な成長と言えるだろう。このまま不毛な潰し合いをしたのでは、彼らの旨味がなくなってしまうのだから。友もそこを理解した上で指示を出したのだろう。

 

 そして彼の攻撃を後一歩の所で壊したであろう張本人である獣と魔法の武器を持っていた雄のリザードマンへと興味が湧く。

 

 (間違いなく、アインズ様が欲する人材でしょうね)

 

 熾烈な戦争の果てに笑みを浮かべる悪魔であった。

 

 

 




 お付き合いありがとうございました。

 次回、今度こそ最終話です。
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