ナザリック地下大墳墓とリザードマンたち5部族連合の戦争は墳墓側の勝利で幕を閉じた。一見すると本来の世界線と変わらないように感じるが、明確な違いも生まれてきている。
一つは彼らの待遇であろう。戦後、デミウルゴスとザリュースの共同で、大規模な養殖場の建設が行われた。それはリザードマン達の集落は勿論であるが、計画の中心であるあの地もそうなのである。
「ザリュースさん、調子はどうでしょうか?」
カルネ村、新しく作られたその施設にて、少女はその蜥蜴へと声をかける。簡単に見えて、常人では絶対できない事でもある。理由は簡単、少女が元々所属していた国……おっと、失礼まだ所属であり別に独立したわけでも捨てられた訳でもない。いやその言い方でも少女は苦い顔をすることであろう。あの出来事から特に国から何か連絡がある訳ではなかったからだ。
賠償金だとか、見舞金が欲しいのではない。ただ、大丈夫だったかと言葉をかけて貰えればそれでだいぶ救われるというのに。それすらないとは、いよいよ自分たちはあの国にとって特に興味もないのだと、少女は無自覚に思い始めて、自分で気づかずに人間不信になりつつあった。だが、その対象は専ら貴族であり、自分と同じ村人であったり、他所の国からの難民を受け入れる器はある。無論、それは少女の強さでもあるのだろうけど養父を中心とした人たちに囲まれているのもある。
と、話がそれてしまった。王国では亜人というものは、如何様なものでも薄汚い、あるいは野蛮で恐ろしい存在という認識である。その事を踏まえれば、やはり少女はというよりこの村が既に異常であるが、それも今更というものだろう。
「あ、いえ、はいエンリさん」
声をかけられた蜥蜴人の雄が言い直したのにも理由がある。それは少女の隣に控えていた仮面をつけた女性(最近知った)の存在だ。その表情は見えないはずなのに自分の少女に対する接し方を監視しているように感じたのだ。
(この女性は何者なんだ?)
クレマンティーヌにしてみれば、今や仕えるべき主人である少女があまり舐められないようにと、心掛けていた次第である。
(意外と馬鹿って多いからね~)
少女は自分の事を大した存在ではないというし、別に整った言葉を使う必要はないと言ってくれる。それ自体は少女の優しさであり、美徳だし彼女だって誇りに思っていることだ。
(変なの)
誇りに思っている?以前の自分であれば、絶対に思う事もなかったのに。それ程までに自分は壊れてしまったというのだろうか?
(ま、いいや)
深く考えても仕方あるまい。しかしながら、世の中には少女の謙虚さを自分の偉大さだと勘違いするやからというものは存在する訳であるし、そうでなくともこの少女が下に見られるというのは我慢ならない。
(私って優しいよね~)
そう、これは相手の為でもあるのだ。間違ってもこの少女を下に見て、舐めた態度をとったり、どうにかしようとすれば、地獄なんて生温いと言えるほどの体験をすることになるのだから。それは経験者としてはあまりお勧めできないのだから。
(エンリちゃん、美人になってきたからさ~)
それは、あの神の如きプレイヤーが進めている計画の恩恵で食生活がだいぶ改善されたのもあるが、身に纏う雰囲気が変わってきているのだ。それも当然かもしれない。エンリは日々、アインズへと恩を返す為に知識を蓄え、村に住む人々、新しく移り住む人々すべてとこうしてやり取りをしているのだ。彼女もまた上に立つ者の器を磨きつつあるのだ。クレマンティーヌの見立てでも断言できる。例えば、城塞都市などに行けば、間違いなくナンパの類に会うだろうと。
(頑張んなよ~少年~)
この村でもエンリのことはある程度話題になっているが、それでも誰も行動に出ようとしないのは、薬師少年のことがあるからであろうからだ。何と暖かい村だろうか、たった一人の少年の恋をそこまで応援してくれるなんて……なんて、残念ながらそれは精々2割程と言った所、では残りの8割は何であるか、それは間違いなく、彼女の養父という存在の壁である。
(中途半端な奴は認めなさそうだし~)
仮にあのプレイヤーがこの少女の恋人だと認めてくれそうなのは、何気にあの少年が一番近いようでもある。
さて、仮面の女性がそんな事を考えているとは想像もつかないザリュースはエンリへと聞かれたことの返答をする。
「はい、とっても良く、すくすく育っています」
「そうですか、それでしたら」
「十分食べれるものになるのも時間の問題かと」
「よろしくお願いします」
それは自然的に言えば、あり得ない程の成長速度であるが、なんせ関わっているのが彼だ。疑問を持っても仕方がないかもしれない。それを聞いた少女は蜥蜴へと頭を下げる。魚というのは、食肉とはまた違った栄養素をもっており、未だ元気がない者を中心にとってもらえればきっと元気になるだろうし、いい商品にもなりえるだろうと。
(あれ?)
まるで、商売を前提にものを考えているようで、自分が少し嫌になりかけて、声をかけられる。
「別にそれくらいいいんじゃないの~?」
「ヤルダバオトさん」
それは別に間違いではないだろうとクレマンティーヌは言う。最近、赤毛のメイド事ルプスレギナから教えて貰ったのだが、楽園計画とはどうやらいくつかの分岐点があるらしく、とりあえず自分が抑えておけと言われたのは2つだ。
1つ、楽園を中心とした世界作り(もう、世界征服って素直に言えばいいのでは?)
2つ、楽園はあくまで一つの拠点として国家間の連携を強めるものである(でも、その中心に立つというのでは1と大して変わらないのでは?)
正直、違いがよく分からないが、なんにしても言えることは、今この村で生産している品を何らかの形で広めることは間違いないのであり、エンリがそう考えるのは間違いではないはずだ。間違っても無償で配るなんて考えてはいけない。
人とは堕落する生き物だ。もしも何もしないで、生命が保証されるなんて分かれば、それこそ漬け込んでくるものは居るだろうし、ならばすべてよこせと恥ずかしげもなく言うものもいることであろう。だから売るという認識でいいのだ。
「エンリちゃんが優しいのは私も保証するからさ~」
どこまでも呑気な彼女の言葉に少女は一度両目を閉じて、しばし何かを熟考したと思うともう一度目を開け、お礼を言う。気遣ってくれてと。
「……ありがとうございます」
「どういたしまして~」
そのやり取りはこの2人の信頼関係が垣間見えるものであり、ザリュースもしばし和やかな気分を味わい、やがて思い出したように話を切り出す。考えてみれば、こうして少女と会話をする機会は中々ない。伝えておきたいことだっていくつかあるのだ。感謝だったり、新しいことの報告であったりと。彼は、生け簀の中に入ると、手際よく一匹の淡水魚?を掴み取る。それは、まるで、黒い蛇のような姿をもった魚だ。
「これ、こちらなんて特に美味しいと村の人たちからも聞いています」
「これは、確か〈うなぎ〉でしたっけ?」
「はい、そうです」
それを聞いてエンリも思い出す。それもあの人物が新たに開発した品物の一つらしい。なんていうかあの人には出来ない事がないのではないかと思ってしまう。それにしても、
(………)
一見蠢いていて、気持ち悪いと思ってしまうはずなのに、無性に食欲をそそられ、そして空腹感を感じてしまう。はたと気づき、急いで(けど、周りに気付かれずに慎重にゆっくりと)口元に指をあてる形で確認する。唾液が垂れていないだろうかと、不安になったのだ。
「エンリさん?」
「エンリちゃん?」
「何でもないです。すみません」
どうやら、心配は杞憂であったようだが、2人には変わった行動だと思われてしまったらしい。羞恥に顔を赤くしながら、そう伝えながら思う。本当に何なんだろう?あの魚は?それだけの魅力を持った品という事であろうか?少女自身はそんな事ないと否定するだろうが、彼女に恋をする少年の言う通りというべきかエンリは意外と食いしん坊だったりするという事である。
「そういえば、ルプスレギナさんは?」
蜥蜴の彼は素直に気になったことを聞いた。普段であれば、仮面の女性と一緒に赤毛の女性がこの少女についていることが多いと言うのに。
「ルプスレギナさんでしたら、他に仕事があるという事みたいでして」
「その間は私が任される事になっているんだよ~」
「そうなんですか」
それは同時にクレマンティーヌの墳墓内での評価が上がっているとも言える。それもあのメイドのお陰であるのだろう、彼女は少し前に言われたことを思い出す。それは信頼と警告が混ざったものであった。
『エンちゃん達の事は頼むっす!――何かあれば殺すから、くれぐれもよろしくお願いね』
(言われなくとも分かっていますよ~)
自分にとってもこの少女とその妹は大切な人たちだ。それこそ、自分の命なんて惜しくないくらい。
(そういや~)
この件である神官がすごい勢いで頼み込んできたのだ。土下座の形で、変わってくれと、確かにあの男にとっても姉妹は特別な御方であるらしいが、
(気持ち悪い)
つい、そんな風に思ってしまい。無視して来たのだ。本人は必死だったのだろうが、年ごろの娘とその幼い妹に何かしたいと欲求を抱えた変質者のそれに見えてしまったらしい。もう気にしても仕方がない事だ。
「お姉ちゃ~ん!ヤルダバオトさ~ん!ザリュースさ~ん!」
「~~~」
元気でいて、間違いなく自分には天使と同等以上の価値があるといえる声が耳に届き、そちらを向けば、頭が少ない
その光景を見て、エンリはため息をつくとザリュースへと軽く謝罪をする。
「すみません、妹が勝手に」
「いえ、ロロロもネムさんを気に入ったみたいですので」
この村に来た初日の事を思い出す。目前の少女が言ってくれたように、この村の人々は自分たちの事を歓迎してくれたのだ。隷属というのは、何のことだろうか思うくらいの待遇であった。
例えば、自分たちが元々水場を生活の拠点としていたのを考慮してか、この村にはまるでクモの巣を連想させるように人一人分の幅の水路が張ってあったのだ。それ自体は以前までなかったものであるのは、真新しい様子から間違いはないだろうし、現在、ロロロの背に乗っている少女を始めとした子供たちには良い遊び場になっているらしい。水源などはどうしているのかと疑問はなんだか気にしない方が良いような気がして聞かずにいる。
そして、ロロロというのは子供にとっては未知の存在であるらしいが、同時に非常に興味深いものでもあったらしく、初日から人気であった。流石にその日はまだ病み上がりという事で遠慮しもらったが、次の日からはこうして仕事の合間に暇ができた子たちがロロロに乗っているのだ。もしも嫌であれば、しっかりと主張することは分かっているし、時折、少女の頬を舌で撫で、そして笑いながら頭を撫で返されている様子を見ても仲良しになったのは間違いないだろう。同時に内心ため息をつく。
(……ゼンベル)
友である彼は対照的に徹底的に子供たちから避けられているのだ。今、はしゃいでいる少女にしたって、どうにも体を震わせて友へと接すのだ。幼さゆえの本能が訴えているかもしれない。こいつは危険だと、しかし実際まだ小さかった頃のロロロにやったことの前科もある故、どうしようもないと思っている。
代わりといっては何だがこの村にはゴブリン達も住んでいるらしく、彼らと飲み仲間となっているため、問題はなさそうであるし自分ももう気にするのはやめにした。
「クルシュさんは元気でしょうか?」
少女の優しさというのは、ザリュースにも伝わっていた。現在同棲中(流石に友も空気をよみ、別の住居をもらっている)の彼女の体質を伝えたところ、彼女用にとある品を用意してくれたのだ。それは人で言うローブのようなもので以前の草を使ったものとは大違いであり、とてもゆったりとして、機能性に優れたものであり、それを着た彼女は更に魅力が上がったように感じる品だ。少女自身は仲介してその品を貰っただけだと言うけれど、それでも感謝せずにいられない。
「はい、とても」
「それはよかったです」
そう言って、笑う少女の顔はやはり眩しくて、実は村娘というのは仮の姿で、慈愛の女神が化けたものではないかと思いそうになる。が、それは決して違うと戦士としての勘が告げる。でも、不思議な気分だ。それを知ると、なおの事、少女への尊敬が高まるのであるから。
(俺たちは元気にやれている)
名目上、自分たちはリザードマン達が裏切らない為の人質――の割には間違った人選ではないかと思わないでもないけど――であるのでこの村から出るには正規の手続きとやらを通して――これって、人質の扱いであってるのか?――許可を貰う必要があるのである。故に兄たちがどうしているのかは、手紙のやり取り――やはり人質としてはどこかおかしい気がする――でしかお互いの事を知る術がないのだ。それでも兄ならどこか大丈夫だと思ってしまう彼であった。
お気づきかと思われるが、本来の世界線であれば、この3人が出会うという事自体ありえないのである。
エンリ・エモット、クレマンティーヌ、ザリュース・シャシャ。
本来であれば、この3人全員がアインズと邂逅するもその結末はまったく違ったものであり、このやり取りこそ物語が変わりつつあるという前兆である。
ある神官の災難
「おのれ、ゴブリンどもがぁ」
そうやって、思わず握りこぶしを作り、歯ぎしりしながら呟くのは当然と言うべきかニグンであった。彼が抱いている不満、それは唯一つ、奴らの存在だ。自分より力があるのは認めよう。悔しい事に力勝負で勝てたことがないのだ。魔法を使えば、まだやれるかもしれないが、低能な小鬼風情にあの御方の英知の結晶たるものを使うのは無礼であるし、何より彼の神官としてのプライドが許さない。そう言って、毎度負けてしまう事が今やエンリの従者コンビとして定着している女性2人が呆れる要因であるのだけど、彼は気付かない。
では、何故そこまで彼らのことを彼は気に入らないのだろうか?いや、それは実際しょうもないものであろう。何となくではあるが、被っている気がするのだ。何がって?それは彼自身上手く説明できないけど、それでも不満は不満だ。
(どうすれば、よいものか)
それでも彼は自分が優しい方だと思っている。別に奴らを殺したいとかではなく、単に自分たちの立場を弁えて欲しいというのが自分の考えであるからだ。
(やはり)
地味……とこれはあの方に失礼だ。素晴らしき活動を続けていくしかあるまい、現在彼の率いる教団は各地で住むところを失くした者たちをこの村へと連れてきている。それはあの方の願いであるというし、それに合わせた村の工事も同時進行で進み、噂ではもうすぐエ・ランテルの30/1と同じ規模になるとか、ならないとか。
自分たちの役割は新たな住民を連れて帰ることであるが、その者たちの教育はどうしているかというと。彼はそこで、両手を握り何かを祈るように神への信仰を再認識していた。
(ああ、素晴らしき神よ、従属神たちよ)
思い浮かべてるのは、犬の頭を持つ女性だ。この村の村長と共に新しく移り住む者たちの指導を行っているとのこと、他にもあの赤毛のメイドの姉や爬虫類を思わせる瞳を持つ女性も参加しているらしい。そういった者たちも含めて彼にとっては崇拝すべき神に等しい存在だ。
そしてそんな風に狂信的な姿を見せるニグンであるが、意外にもNPC達からの評価は高い。働きもあるであろうが、一番は正にその崇拝の姿勢だ。彼らだって完璧な存在ではない。いくら主が望まれていると、そう分かっていてもどうしても思わずにいられないことがある。それは、主こそ全ての頂点に立って欲しいというものである。
だが、当の本人が望んでいるのは穏やかな世界の建設であり、それ自体は望まれている事ではない。それは分かっているのだ。だからこそ、こうして主を神だと信仰を掲げるニグンの姿は彼らにとっては心地いいものであり、見ているだけで溜飲が下がるというもの。その点に関してはルプスレギナも結構評価していたりする。
「お、あんたか?ニグンと言うのは?」
突然、後ろから声をかけられて振り向けば、居たのは生物としては非常に珍しく左右非対称の姿を持つ人物であった。
(確か)
最近、この村に来たリザードマン、それもあのゴブリンたちに通じるものをどこか感じる粗暴な奴だ。間違っても巫女たるあの方に馴れ馴れしく近づいて欲しくはない存在だ。
「ああ、そうだ。あなたはゼンベルさんでしたっけ?」
「おう、そうだ!」
何の用事だろうか?出来る事ならあまり関わり合いになりたくない、話をするだけでこちらの知能指数まで下がりそうだと、クレマンティーヌが聞けば「そんな大差ないよね?」と言いそうなことを考えながら、かといって無下にする訳でもなくそれを表に出さずに会話に応じる。最も明らかに嫌そうな顔を見せたとしてもこの蜥蜴は気にするどころか、気づくかどうかも怪しいものであるが。
「一体何でしょうか?」
「いやよぉ、聞いたんだけどよ。おめえさん、強いっちゅう話だってな」
「ほう」
誰であっても自分の事を高く見られるのは心地いいものであり、それはニグンだって例外ではない。その言葉に気を良くして聞いてやろうかと表に出さずにお高くとまりながらもそうしようと思う彼である。
「一体それは誰から?」
「ライマツにノブラって奴からだ」
「何?」
憎きゴブリンどもではないか、奴らが自分を貶めるような事を言う事はともかく能力面を評価するとは意外である。が、
(ふふん、良い所もあるではないか)
あっさりとその事を受け入れ、顔に出さずとも上機嫌になるニグンである。
「それでよぉ、ちょいと教えて欲しいことがあるんだよ」
「何でも聞くがいい」
すっかり調子に乗り喋り方にそれが出た彼が次の瞬間感じたのは顔面を思いっきり殴られる痛み、次いで浮遊感であった。自分が突然あの蜥蜴に殴られたのは明らかである。
(なにいいい!?)
一体どうしてと思えば、直ぐにその答えが分かった。聞こえてくるのは不満げな声とそれに応じる声。
「おい、話が違うじゃねえか。不意打ちも避けれるって」
「悪い悪い、そりゃヤルダバオトの姐さんの話だったぜ」
「何だよ、それを早く言えよ」
(あいつらああ!!)
確信したわざと間違えたのだと、そんなに気に入らないのであれば徹底的にやってやろうと、彼は薄れゆく意識の中、決意を新たにしていた。
気を失い倒れたニグンを放置して残ったゼンベル達はどこかへ行ってしまい。やがて、彼を発見した教団の者達が絶叫、誰の仕業か瞬時に判断し、あまりにも低次元な争いを始めるのは間もなくであった。
新たなる方針
ナザリック地下大墳墓第9階層執務室にて、支配者がこれからについての話をしていた。
「では、これからの世界での立ち振る舞いであるが……」
彼が語るのは、以前、城塞都市で後手に回ってしまった話である。といってもそれを警戒しても仕方ないので肝心なのはそれからどうするかというものであるが、アインズだって全てを見通せるわけではない。たらればを考えて何もできなくなる方がずっと愚かしいと思っている。しかし、それだけではこれまでと変わらないのも確かなのだ。
「そうだな、まずはこれを渡そう」
そう言って、彼がこの部屋に集まった者達に配ったのは水晶であり、受け取った者達はそれを大切そうに胸に抱き、その光景にアインズは少々戸惑う。仕事用の備品を渡しただけでどうしてそうも嬉しそうにするのだと。それに集まった3人の内、1人が答える。
「たとえ、どのような物でもアインズ様から賜りしは大切な品という事でありんす」
「そ、そうか?ほかの2人もそうなのか?」
階層守護者である彼女からの答えに確認を取るため、戦闘メイドである2人にも同じように問いかける支配者。吸血鬼と同様に微笑んで返答をする彼女たちの姿がある。
「勿論でございます」
「私もソリュシャンと同じく」
「そう言うものか……いや、それよりだ。ここに集まった面々の意味合いは分かるな?ナーベラル」
「はい、皆、この世界にて偽りの身分を持つ者でございます」
「そうだ、そうなんだが……」
「アインズ様?」
彼が気になったのはそうであれば、ここに居なくてはならないのにいない者たちがいることである。いや、それに関してはその班長であるシャルティアが来ているのでさほど、問題はないしむしろ良い傾向と言えよう。
(少し寂しくも思うけど)
わざわざ全員が集まる必要が皆無なのだ。だったら、次の仕事に向けて英気を養う事も大切であると言える。
一方、彼女たちの方でもアインズに聞こえない程に話をしていた。
(ベルとエドワードは)
(空気を読んでくれたみたいです)
(以外ね、ベルはともかくエドワードがこういった気を回せるなんて)
(彼が引きずって連れていくのを私、見かけました)
(ああ、やっぱりそうなの)
この場に集まった女性3人にはもう1つの共通点があり、それが大いに関係している訳であるけど、それにアインズは気付かない。いい加減、話を進めるべく彼は再び話を始める。これは自分が率いている〈冒険者組〉とシャルティア率いる〈王都班〉にとって重要なことである為、最悪自分と彼女の2人でも出来る話であるからだ。
「今配ったものであるが、これは以前私が陽光聖典と戦った時に手に入れたものを参考に複製したものになる」
この言い方は少し間違っているなと思う。あの時、自分がしたのは一回の攻撃だけで、後は戦士長の部隊がやってくれたことであるというのに。今は気にすることではあるまい。
「それと城塞都市の一件、その前にすまないなナーベラル」
「いえ、私に気を遣う必要はございません」
本当に優しい方だと彼女は思う。それは既に済んでいるというのに、主は何かとその話をするたび、自分に謝ってくれるのだ。
そして主は続ける。以前、自分が今は墳墓の兵隊たる彼女相手に本気を出さなかったばかりに遅れをとってしまった事を。今回渡された水晶はその対策といったものらしい。
「これから、更に私たちの計画は大変なものになると思う。だからこそだ、これから必要を感じればお前たちの判断で本気で事に対処しろ、それも出来る限りない事を祈るが」
実際、これは難しい問題であろう。この世界にプレイヤーがいて、自分たちを見ている可能性を考えればこちらの素性がばれる危険性を犯すのは本当に限界の所を見極めないといけないからだ。
「まあ、もしもそれで失敗しても特に咎めるつもりはないが……」
それは心の声がうっかり漏れたといった感じであった。現に彼はその言葉に自分で気づいていない様子であるからだ。そして彼女たちはその想いを深める。どこまでも優しく、どこまでも気高く、そして最高に輝いている最愛のお方だと。
「と、話が止まってしまったな。もしも本気を出した際にその力は何処からかと問われれば、その品を渡してやれ、適当に第9位階魔法を封じてある」
「成程、それでしたら、全てをその魔法のせいだと言えるという事でありんすね」
「そうだ、かなり苦しい言い訳になりそうだが……」
「そんな事はありんせん」
それはシャルティアの私見でも間違いないことであり、この世界の魔法水準は驚くほど低く、無知というのは結構利用できる物だ。伝説級の魔法であればそれだけで現地の者達は納得しそうではある。
「そしてこの水晶の出所であるが」
「アウラ様たちが建設した」
「そうだ、話が早くて助かる」
これは単に彼女たちのスペックが上がっているとも言えるが、それ以上に信頼関係がなせる技であろう。その事に満足しながらもアインズは続ける。
「トブの大森林内にある遺跡、《ラビュリントス》から手に入れたという事にする」
「承知いたしんした」
「「畏まりました」」
それが、墳墓の新たなる方針の一つであった。
悪魔はご満悦
第9階層の一室を管理している者はその光景に非常に満足していた。自分が求めているのはこういった光景であると、それは一人の悪魔の姿、その部屋はいわば酒を提供するバーであり、その悪魔、もとい男はカウンター席に座り、静かにグラスを傾けながら、時折口をつけ、少しずつ飲んでゆく。それは正に静かな酒の似合う男であり、仕事のやりがいを感じ取ることが出来るというもの。
「デミウルゴス様、何か嬉しいことでもありましたか?」
聞くのは、客の気分を害する時もあるが、どうしても聞きたいという欲求を抑えることが出来なかった事とそれをしてもこの人物であれば機嫌を損ねることはないという確信からだ。そしてそれが正しい認識であるというかのように悪魔は穏やかに答える。それはクレマンティーヌが見ればそれだけで卒倒しそうなほど普段の彼が主へと敵対した者に見せる顔と隔たりがあった。
「そうだね、多すぎてとても一言では言い表せないよ」
「それでしたら、お一つずつ聞かせて貰っても?」
「聞いてくれるのかいピッキー?」
「勿論ですとも」
そして、彼は上機嫌に、それでいてハメを外し過ぎるという事もなく、話を始める。
「まずは、コキュートスかな」
「先の戦の件ですか?」
「そうだね」
自分も玉座の間にて観戦をしたのだから、その時の高揚は少しすれば、直ぐに再燃しそうだ。まさか墳墓でも下に入る部類、いや、非戦闘員の自分がそう言うのは失礼に当たる。そんな彼らがあれ程の戦いを見せてくれるとは思いもしなかったからだ。
悪魔は語る。かの武人であれば、ナザリック地下大墳墓に所属するすべての軍勢を有効に運用し、主の計画に貢献してくれると、そこで気になった。軍備を勧めるという事は?
「どこか、人間の国と戦うおつもりですか?」
「必要があればね、出来る事ならそうせずに事を進めるのがアインズ様の為であるのだけど」
多くの意思を、一つの決定に従わせる為には明確な目に見える結果が必要な時もある。国王を暗殺して国を乗っ取る。これであれば、あまり血を流さずに済みそうだが、それでも褒められた手段ではあるまいし、もしもプレイヤーがその点をついて墳墓は悪であるという情報を発信される可能性はあると思っていないといけないし、何より心優しき主がそのようなそしりを受けるのは我慢ならないことである。
「話がそれてしまったね、後はシャルティアもかな」
「それは、確かに私も分かります」
彼女の成長も素晴らしいものであるという。以前であれば、自分を絶対の存在だと信じて疑わずに尊大な態度であったのがかなり軟化しているらしくて、彼女のシモベであるヴァンパイア・ブライド達も以前に比べてだいぶ明るい顔をするようになったという。
それも当然かもしれない。以前であれば、少しでも機嫌を損ねればよくて折檻、悪くて殺される訳であったのだから。少しの間違いも許されない。それは精神にかなりの負担となっていたはずである。それだけではない。
彼女はその性癖から時折、彼女たちと肉体的な交わりをする時もあったそうであるが、それだって仕事の一環でしかなく、とても愛情だとかはない本当に欲求を満たすための行為でしかなかった。それも最近の彼女はやらなくなり、むしろ彼女たちに一度頭を下げたと言う。驚きであるが、事実だ。
以上のことから明確に彼女が変わっていることであると悪魔は嬉し気に語る。ついでと言っては何だが、それまで恐る恐るシャルティアに接していたヴァンパイア・ブライドたちであるが、今や彼女たちも心から彼女に尽くし、中には自ら再び抱かれる事を望むもの達が出てきているが、当の本人がそれをよしとしないのは何とも皮肉な話である。
「あのシャルティア様がですか」
「本当に驚きだろう?あのシャルティアがだよ」
そこで部屋の外から話声が聞こえてくる。どうやらここに向かっているらしい。
『何をするんですかヴェルフガノン!アインズ様からのお呼びだって言うのに!!』
『読めよ、空気。だからお前は馬鹿なんだよ』
『な!――やっぱり自分、ヴェルフガノンは嫌いです!』
『はいはい、好きに言いなよ』
やがて扉が開き、入ってきたのは、白髪にスーツの青年と奇抜な髪色に燕尾服を纏った少年だ。
「ベル、それにエドワードも一緒か、珍しいことだ」
「ああ、デミ。ま、ちょっとな」
そう返す男に襟首を捕まれていた少年は軽く暴れるように逃れ、そこで一度姿勢を正した。それまでの自分の姿をなかったように悪魔へと挨拶をする。
「これはデミウルゴス様、見苦しい所をお見せしました!ピッキー様も御勤めご苦労様です!」
「君はいつも元気だね、エドワード」
「それは勿論でございます!」
外見相応なやり取りであると結論づけ、ヴェルフガノンはピッキーへと注文をする。ここはそういうところだ。何も喋りに来た訳ではないのだから。
「ピッキー、注文良いか?」
「勿論ですとも」
「俺はブラッディ・マリー、あいつには……オレンジジュースを頼む」
「畏まりました」
酒以外の飲料を提供するのは正直思う所もあるが、彼の判断も正しい。燕尾服を着た少年もまた成長途中の体に違いなく、アルコールの類を飲ませる訳にいかないのだから。
彼は棚からウォッカとトマトジュース、それにオレンジジュースが入った瓶を取り出し、先に柑橘類のものをグラスに注ぎ、ストローをさしてやって、少年へと提供する。それを受け取った少年はやや不満げな顔をみせていた。
「自分だって、もう大人なんですから」
「そう言っている内はまだ子供ってことだ」
「そうだね、ベルの言う通りだ。それにアインズ様が悲しまれるよ」
「……分かりました」
主のというより父親の名は強いらしく、少年はせめてものの抵抗としてストローを介さずに直接グラスを口に運ぶ形で飲み始める。それを大人のやり方だと思っているのなら残念ながら関係がない事である。大人だってストローを使って飲む時はあるのだ。
それを微笑ましく思いながら、次にカクテルの用意をする。ロック・グラスを食器棚から取り出して氷を3個程入れてやる。次にウォッカをグラスの6/1程注いでやり、トマトジュースをグラスの余白が5/1程残るように入れてやる後者の方が量が多いため、必然的にその飲み物は真っ赤になる。最後にそれをバースプーンで軽くかき混ぜてやり、白髪の青年へと提供する。
「どうぞ」
「ありがとう」
グラスを受け取った彼もまた、デミウルゴスと同じように静かに飲み始める。酒の楽しみ方を解っている男だ。
(そう、俺が見たいのはこういう光景なんだよ)
満足気な彼は話の続きだったことを思い出し、デミウルゴスへと話の先をあくまでそれとなく促す。それを受けた彼もまた何か思い出しかたのように、新しく来た男へと問いかける。
「そういえば、ベル、シャルティアのあのアイデアだけど君の入れ知恵かい?」
それを聞かれた男は肩をすくめてみせた。まるで自分が関わっていなくて残念だと言わんばかりに。
「まさか、俺はシャルティア様に穴がないか確認を頼まれただけで、間違いなくあの方が御自分で考えになった事だ」
「そうですか、良い事です」
「嬉しそうだな、デミ」
「当たり前ですよ」
今はまだ半ば休暇のようなものであるが、直に《王都班》は行動に出ることであろう。その活動方針と言うべきか目標として彼女が主へと提案したある策は様々な利点を生み出せるものであり、主は勿論、この親友たる悪魔も喜んでいたはずだ。
「ですけど、同時に危険が沢山あることも確かです。シャルティアを補佐してくれるかな?ベル」
「もっちもっち、分かっているって」
「エドワードも頼みましたよ」
「お任せください、デミウルゴス様!」
そこで悪魔は一度グラスに残った酒をすべて飲み終え、それをテーブルに置くと感慨深げな顔をしてみせる。すぐに次の分を頼む訳ではなく、今しがた飲んだ分の味をかみしめているのだろう。それもピッキーが求める光景だ。
「嬉しいことだらけさ……しかし、一番はやはりアインズ様の事かな」
「アインズ様ですか!?」
その話題に真っ先に反応するのは精神年齢が一番低く、なおかつ主を親だと時に本気で勘違いしていそうな少年であった。それを受けて薄く笑い、悪魔は続ける。
「かの方が望まれる楽園もそうですけど、これまでの采配を見てもあの御方は慈悲に溢れた方であると改めて認識させられるよ、それとベル」
「何だ?」
「例のアレはどうかな?」
「まったく進んでいない訳ではないけど、それ以上に進捗が遅いのも確かだな。正にカタツムリの歩みが如くって所か」
「構いませんよ、それこそ気長にやるとしましょう。時間はいくらでもある訳ですし」
「お二方、何の話をされているんですか?」
その会話の意味を理解できていない少年をよそに彼らは怪しげに続ける。
悪魔達の企みは目下進行中である。
竜王の微笑み
アインズが同盟国(まだ自分の国がある訳ではないけど)として最も期待をかけているともあるいは目をつけているとも言えるある国、その国は複数の選ばれた者たちの話あいで管理をしてるいわゆる議会制というものがとられており、その評議員である人物が普段どこに住んでいるかなんて国民でも知っている者は、ほとんどいないと言った所。
そんなどこにあるかも定かではないその人物の自室は一言で言うなら、神殿の内部を思わせる作りと言っても過言ではあるまい。
天井には満点の星空が広がる空、しかしそれは精巧に描かれた絵であることを理解するのに10秒はかかりそうな出来であり、その空間を支える為に配置された柱の数々、そのどれもが劣化なんて言葉は被害妄想の一種だと言わんばかりに白く輝いていて、それは床にしても同様で、魔法なのか、人力なのかは定かではないけれどいずれも一流の仕事であると言えることは確かである。
何より目を引くのはその人物が体を預けている品であろう。それはまるで口を開いた貝殻を思わせるものであり、貝殻の部分にはあちらこちらに宝石が埋め込まれており、それだけで美術館を名乗っても良さそうな程の豊富な種類がある。
そしてその人物が実際に身を休めている貝で言えば内臓の部分、それはマットレスと言うのには余りにも乖離した品であり、その人物が体重の掛け具合に合わせて特に力が入る部分は沈むと何とも機能的な品である。
これは生物全般の話になるが、どうしても体の使い方、もっと言えば負荷もまた別々であり、それを考慮せずに雑魚寝なんてすれば、問題はないんだろうが、徐々にその体は歪んでしまうもの。つまりその点を考慮したこの品はその健康を末永く見据えたものであり、この人物がそれ程重要な立場であることを示す極上の一品であるという事である。
それ程の神聖さを感じさせるものであるこの部屋。それはつまりこの人物の趣味なのか、あるいは国を纏める立場の者の威厳を守るためなのかそれは分からない。
そんな絢爛豪華とも言うべき部屋でくつろぐ人物、正確には竜である人物ツァインドルクス=ヴァイシオンは静かにであるが、見てきたものへと記憶の糸を手繰り寄せる。
「なんて言うか凄い光景だったな」
それは別に誰に対して言った言葉ではなく、読んだ小説の感想を一言で表現してみたといった感じであった。実際彼が見たのはそれだけの光景であったのだ。
「スケルトンにゾンビがああいった事が出来るとは」
純粋な驚きだ。自分のそれまでの認識であれば、あの魔物たちが自分が見た動きが出来ること自体驚きであるのだ。それだけではない。
「アンデッドのする目じゃない」
目と言っても、スケルトン達はいわば眼窩という名の空洞であったり、ゾンビ達にしたって、生気を全く感じさせないものであるが、それでも彼は感じたのだ。彼らの瞳。
「あれは、戦士の目だ」
それだけの忠誠を捧げるだけの何かがあの夜出会った。彼にあるのということだろうか?それだけではない、後半に見たあの火球攻撃。それは被害を減らすものであった。やり方としては間違っていないと思う。圧倒的な力を見せつけて敵の戦意をそぐやり方。では、初めからそうすれば良かったのではないかというと彼だって違うと断言できる。
「話あいですべてが済むのであれば、僕たちだってね……」
「僕たち?何だい辛気臭い事を口にして」
突然の来訪者、それに気づかない程、自分は思考にふけっていたということだろうか?いや、それだけではない。自分の独り言を聞かれていたのではないか?
「いつからそこに?」
「なんていうか――という所じゃな」
「始めからじゃないか……それなら声をかけてくれても良かったんじゃないかな」
「気づかないお前さんがボケたんじゃないのかい?」
それは痛い所を突かれてしまったと、ツアーは思う。彼は
「そうかもしれない」
「あっさり認めるんじゃな」
呆れたように息をはくのは人間の老婆であった。が、ここに居る時点で彼女が彼と同様この世界ではかなりの水準を誇る人物であることは言うまでもない。
彼女の名前はリグリット・ベルスー・カウラウ
この世界におけるおとぎ話13英雄の一人にして、正に生ける伝説であるのだ。そんな彼女はしようとすれば、自分の知覚能力をかいくぐって近づくこともできるというもの。
「言っとくが、わしは何もしとらんよ」
「それは痛い、とてもね」
それはそれだけ自分が呆けていたという事であり、疲れて来ているのかもしれないと思ってしまう。
(やっぱり、彼らかな)
湧き上がるのは怒り、憎悪、自分たちドラゴンの黄金時代が終わる事になった出来事。八人の余りにも強く、それでいて身勝手な者たちを思い出してだ。彼らとの闘いで自分の仲間は殆んどが殺されてしまった。別にこれが種族同士の生存競争の結果だとすれば、まだ自分は受け入れることが出来たかもしれない。
強いものが弱いものを淘汰する。それは自然界では当然のことであり、知性の有無はあまり関係がないかもしれない事だ。そんな中で自分たちと交渉する形で最弱たる種族の繁栄を護った文字通り神と称される者達もいた。しかし、彼らは違った。
(愚かしいとは彼らにこそ、相応しい言葉かもしれないね)
最後まで自分たちの信念に基づいて死んだであろう者たちと違い、彼らは自分たちとの戦争の後、よりにもよって同士討ちという形で滅んだという。理由もその名称に相応しいもので、「互いの物を欲して」だ。彼らは本当に好き勝手に暴れて回り、この世界を
本当に勝手な者たちであると思う。だからこそ、彼が輝いて見えるかもしれない。
(アインズ)
「何だいにやけて、気持ち悪いね」
その表情を見られたのか、目前の老婆は嘆息していた。自分の顔というのは、中々変わる事がないというのに、それだけ自分の感情が動いていたのか、あるいはそれだけの付き合いが彼女とあるという事か。
「良い事があってね、聞いてくれるかな?」
「聞こうじゃないか。友人の話ならのぉ」
「ありがとう」
そして、竜王は語る。ある夜出会った存在について、それは100年越しの繰り返しであるものの、同時に彼にはそれまでの者達と違った何かを感じたという事を。
「それは……リーダーと同じ側であったと?」
「そうだね、その可能性は凄く高いと思うよ。彼はこの世界を破壊しようなんて望んではいない。むしろこの世界を新たな方向に導く……上手い言葉が思いつかないよ」
そこまで言葉にして、彼は自分の心が落ち着いていることを自覚した。
「それにね、彼はリーダーとも違うと言った感じかな?」
「それは、どう言った意味じゃい?」
そういう老婆の目は少しだけであるが、敵意を含んでいるようであった。それも仕方ない。先ほどから話に上げている人物はかつて共に大陸を旅した仲間であり、既にこの世に居ないといっても大切な友に違いないのだから。そんな相手よりも知り合ったばかりの彼の方が良いなんて思っていなくても思われる言動をした自分が悪い。
「そんな目で見ないでくれよ、そうだね……リーダーは正に英雄たらん人物だった」
「そんなもん、私ら全員の見解だよ。何を賢人ぶってんのかねぇ」
いちいち自分の発言に彼女が噛みつくのにも心当たりがある。それは自分が腰かけている家具の淵においてある鎧、それは彼と初めて会った際にも身に付けて……という言い方は正しくない。遠隔操作をしていたものだ。
それはこの老婆達と共に旅をする際にも使用していたのだが、当時彼女たちに一つの嘘をついた。自分の正体を隠して、さも鎧をまとった人物であるように振舞ったのだ。だからこそ、それが分かった時には彼女たちはものすごく憤慨したもので、今でもこうして時折話のタネとして突かれるのだ。
(そろそろ許してくれないかな)
「それに対して、アインズは何と言うか……神に等しき王と言った感じかな?」
「何を詩人ぶってんだい、このドラゴンは」
返ってくるのは辛辣な感想であったが、それが彼が素直に感じたことである。遠い昔に共に旅をした彼とは違うけれど、彼にもそれだけのものが見えたような気がするのだ。
「少なくとも彼が目指す世界であれば、彼女も笑っていられるかもしれないね」
「ああ、あの泣き虫かい」
次に話題に挙がるのは、ある少女の話であった。この老婆は確かに長い時間を生きているが、それは彼女自身の意思もあってのことである。しかし、その少女は違った。望みもしないのに、その力を発現させてしまい孤独になり、当時の姿のまま現代まで彷徨っている。そんな悲しき少女であった。それでも現在は仲間と呼べる者達がいたはずである。
「確かに、すべての種族を統一するとなればのぉ」
「だろう?夢はあるだろう?」
「お前さんはどうするつもりじゃ」
「出来る事をやるだけさ」
かつての敗北が、彼に自分たちこそ至上であるという認識をなくしていた。そして彼はかの支配者が掲げる計画に惹かれつつあり、そして以前に比べてずっと生気を取り戻しているように老婆は感じるのであった。
飽くなき膨らむは冒険への夢
王都の首都、国名と同名のその都市は広く、道を行き交うのも商人、冒険者あるいはワーカー、それに比較的生活が何とかなっている市民と人種は様々である。
そんな中、周囲の視線を集める一人の女性が歩いていた。たなびく金色の髪を縦ロールと呼ばれる髪型にして、その頭には青いバラが髪飾りのようについている。エメラルドグリーンに輝く瞳とまだ、20前後であろう若さが放つ美しさはその手の技術がない人間でも思ってしまう。
太陽のようだと。
確かに美人であろうが、彼女が注目を集める理由はそれだけではない。その背に背負われている彼女の身の丈と変わらない大きさの剣、それは知る人であれば、知る一品。ある事情で生存した彼らが追い求める剣の一振りであり、それを持つという事はそれだけの実力、あるいは実績、それとも財力?を持つだけの人物であり、何よりその首元に光るプレートの輝きがその身分を証明していた。
アダマンタイト級。
それは、この世界では数える程しかいない。この国であれば、――2……最近3番目のチームが生まれた――正に3本指の存在であり、彼女はその1つのチームのリーダーである。それだけではない。何と驚くべきことに彼女は同時に貴族でもあるのだ。
お嬢様であり、有数の実力者、言うなれば規格外の存在が彼女だ。そんな彼女は名を、
「ふふふ、そこまでかラキュース・アルベイン・デイル・アインドラよ」
突然、彼女は右手で自分の顔を覆うとそう喋る、心なしかその体は震えているようであった。
「や、やめなさい!闇のラキュース」
今度は最初に上げた静かな声とうって変わって叫び声であった。まるで1人の体に2人の人間が入っているのではないかと思うやり取りを彼女は続ける。
「言ったであろう。私はいつでもお前を見ていると」
「見ている?」
「そうだ、そして隙さえあれば……」
「私の体を奪うつもりなのね」
「ほう、察しが良いな、では貰うとしよう。お前は消えろ!光のラキュース!」
「そうはさせない!あなたを抑える事が出来るのは私だけ、負けない!闇のラキュース!」
「ど、どうなってんだ?」
その光景を見た、通りすがりの男性が発した一言である。無理もない。その女性は体を揺らしながら必死に何かに耐えているようであった。
「私、聞いたことがあります!」
それは同じく、その場に居合わせた若い女性であった。彼女は話始める。そしてその場の誰もがその話に耳を傾ける。何でも、彼女が持つ剣、それは呪われており、それにより、彼女の精神は2つに分かれてしまったという。それは普段自分たちが、見ている優しき勇敢な彼女ともう片方は悪魔の眷属であり、もしも後者がその体を乗っとることがあれば、間違いなく、世界に災いを振りまくであろうことを。
「「「な、何だって!!」」」
「本当らしいです。そして」
彼女は続ける。では、その剣を手放せばいいのではないかと?しかし、その武器が持つ力が大きいのも確かであり、彼女は友である王女の為にも更なる高みを目指しており、上記のことであれば彼女自身が負けなければいいというのだ。
それを聞いた者たちは揃って涙を流していた。なんて気高い人物であろうかと、そんな彼女の為に自分たちは何が出来るであろうかと、決まっている。そんなもの。
「頑張れ!ラキュースさん!」
「ラキュース様!」
腹の底から声を出す。声援、自分たちにはそれしかできない。けれど、それでも何もせずにはいられないのだ。
その言葉を受けて、しばらく痙攣していた彼女であるが、やがてそれも収まり、高らかに拳を掲げてみせるのであった。
「「「うおおおお!!!」」」
彼女はその場に居た者達に軽く礼を言うと、その場を後にする。その足取りは少々早く、皆察する。自分たちを危険な目にあわせない為であると。何とどこまでも英雄たらん人物であろうか、とそれぞれに思うのであった。
(またやってしまったああ!!)
路地裏に入り、周囲を見回して無人であることを確認して彼女は頭を抱えていた。時折やりたくなってしまい、気づいた時にはこれである。
(やっぱり)
見られたのが不味かったのだろうか?確か自分が把握しているだけでも戦士である彼女と魔法詠唱者である彼女に見られてしまっている。先ほど、女性が話していた話は元を辿れば、その行為を誤魔化す為に彼女たちに話した適当な作り話である。
(なんて)
今更言える訳がない。いつの間にか広くその話が広まっているというのに。たぶん戦士である彼女だ。彼女はその外見から多くの者達、特に男性から恐れられているが、根っからの仲間思いであるのだ。では、自分がこの悪癖をやめるべきであるが、できない。その理由も分かっている。自分は不満を抱えているのだ。
(冒険がしたい)
そう、それは子供が世界の広さを夢見るような純粋な願いであった。彼女が冒険者になったのは、同じく冒険者である叔父の冒険譚を聞いて憧れてなったからだ。しかしながら、
(冒険者って、思ったより)
夢がない職業であった。そのほとんどがモンスター退治、これなら傭兵とその名前を変えた方が良いのではないかと思ってしまう。それでも、辞めないのは、仲間たちがいるし、友の力になれるし、何より楽しいのだ。この時間が、唯、それでも思わずにいられない。
(心躍る冒険がやりたいわ)
そう願う彼女の望みは間もなく叶う時が来るのであった。
ある貴族の決意
その男は自室の机にて書類と睨めっこをしていた。そして盛大に舌打ちをする。余りにもこの国の現状が良くないのだ。王派閥に貴族派閥、そして新勢力にその他の有象無象、そのどれもが、興味を持つのは自分の権力を上げる事。その為に平気でとんでもない事をやる連中である。
「八本指に、ヘッドギアか」
現在、王国で活動をしている組織である。そのやり方は違うものであるが、彼らを支援している貴族もいるらしいので、その暴走に歯止めが聞かない。誰が奴らに手を貸しているのか、自分のお抱えの者達を使って調査しているが、中々その足取りはつかめない。
そしてそんな時に大変な行事が決定してしまった。奴らの事だ絶対何か仕掛けて来るに違いない。何とか自分もそれに同行する事に決まったが、同時に不味い事にもなっている。
「馬鹿どもが!!」
思わず握りこぶしを机に叩きつけてしまう。王国内の事だからと、決まってしまったそれは、彼にとって余りにも愚かしいものであった。
「このままでは」
貴族共の中には自分でも王になれるのでは?と行動を起こしている者もいるとか、いないとか、このままでは確実にこの国は終わる。しかし、自分の信頼のおける者たちは他の事に手を取られてしまい。新たに戦力を手に入れる為には雇うしかないが、中々希望の人材というものはいないのである。
(1組目は彼らで決まりとして……後は、都市国家連合の冒険者チームか、あるいは帝国のワーカーか)
ワーカーと聞けば、汚い職種であるという見方もあるが、男はそう思わない。彼らにも信頼できる者と、どうしようもない屑野郎はいるのだ。そして自分であれば、有能な人材を見つけ出せるはずである。
そこで扉を叩く音が聞こえる。それは余りにも小さく弱弱しい音であり、それは訪れた人物が幼い子供であると自分に伝えてくるようであった。
「入りなさい」
その相手が分かっていれば、もう少し柔らかい対応をしたいものであるが、子供の未来を考えれば出来る限りやらない方が良いのも確かである。
入って来たのは、年端もいかない少年、いや、彼の息子である。
「り~た~ん!……ゴホン!どうしたのかな?我が息子よ」
彼は咳払いをすると改めて息子の来訪の理由を尋ねる。少年は胸に分厚い本や筆記用具を握りしめていた。
「ぱぱにべんきょうをおそわりにきました」
「何と!いや、まだりーたんがするには早いのでは……」
実際息子はまだ5つであり、出来る事なら子供らしく過ごして欲しいと我が子を思う親心とできるならもうしばらく我が子と戯れていたいという父親の欲求からくるものであった。そんな父である男の心配そうな声に少年は決意を固めるように声を振り絞る。
「ぼくもぱぱみたいな、りっぱなとうしゅになるんです!」
「おお!!素晴らしいぞ!我が息子よ!お前は我が誇りだ!りーたん!」
何ていい子であろうか、こんな幼い時から父の背中を追いかけようと必死なのである。これは何としても力になってやらないといけない。同時に決意を固める。
(何が何でもこの国を守らなくは)
それが愛する息子の未来を護る事に繋がるであろうから。
回りだすは歪なる歯車達
その部屋には年代ものであろう四角形のテーブルがおいてあり、それを囲むように設置してあるソファーには4人の人物達が座っており、いや、正確には1人はその場に立って、先ほどから自分の前に座る人物に何事かと叫んでいるようであった。
「だからよぉ!何で男を攫わなくちゃならねえんだよぉ!」
そう叫ぶ男の肌は人が持つ普通の色合いではなく、まるで死者を思わせる灰色である。その髪もまた生気を失くしたように真っ白であり、何より深い目のくまがさらに男を生者ではないと言っているようである。その腰には左右に2振りづつのナイフが取り付けてあり、彼が何かしらの戦闘要員であることは明らかであった。
「いつまで言っているのですか?パルマ」
うんざりしたように言葉を返すのは頭にフードを被り、さらにぺストマスク――口元のみを覆う型だ――をつけているため、その表情は目を除き、伺うことができない男だ。背中には弓に矢筒、そして腰に手のひら大の壺をくくりつけている。
その男は心底うんざりしていた。そして同時に思う。彼は寝ている時と起きている時でその振舞に落差があり過ぎると。
「もう済んだ話でしょう?終わった話でもありますし」
「納得いかねえんだよ!!攫うならよお、男より女だろ?な?」
「ンフィーレア・バレアレ君は整った顔立ちをしている」
「ああ?!」
彼は続ける。それは、目前の男の性欲の強さを指摘したものであった。
「別に男でも女でも
「ビゴス……てめえ!!」
「うるさいぞ、お前ら」
流石に煩わしく思ったのか新しく声をかけたのは、左目に眼帯をつけた男である。その人物はどうやら隻腕のようであり、左腕の部分はなく、服の袖が垂れ下がっているようであった。その為というか分からないが男は右手に杖を常に持ち歩いているようで、傍らにそれらしき木製の品がある。
「私は被害者なのですが……」
「アキーニさんよぉ、あんたはどう考えているんだ?」
首を力なく下げるマスクの男に、話を振って来るくまの男に隻腕の彼は言い放つ。
「おめえが、男好きか女好きかはどうでもいいんだよ」
「よかねえよ!!おい!フェイからも何か言ってくれや!」
そう言って、残りの一人に声をかけるが、
「…………」
言葉が返ってくることはなかった。それを見た隻腕の男性は呆れたように説明する。
「フェイジョンがお前のくだらねえ話に付き合うはずがないだろ」
そう呼ばれた男、いや、その体格やまだ幼さが残った顔からまだ少年、年は16から18位か?であろうその人物は右ほおにまるで薔薇を意識したであろう絵が描かれている。それは刺繍の類ではないことは、僅かに塗料が薄くなっている箇所からも明らかであり、この少年自身が定期的に自分で描きこんでいるのか、あるいはそれをしてくれる者がいるのかは定かではない。
少年は先ほどから植木鉢を手に持っており、その視線はそこに向いている。その先にあるのは、育ちかけの何かしらの植物の芽であった。少年がその体勢であるのは、この騒ぎが始まる前からであったので、余程のことだ。まるでこれ以外には全く興味がないと言わんばかりに。
「け、つまらねえ!とにかくよぉ!攫うならよぉ女!それも瑞々しい少女が良いんだよぉ!15、16が食べ盛りって言うんだよぉ!」
「本当に五月蠅い人ですね」
そこで扉、この部屋には一つしかないそれが開かれ、新たな人物達が入ってくる。その人数は2人。
「騒がしいな、何やってんだ?」
「何だ?何か壊れたか?」
先に声をかけた男は常に苛立ちを抱えた表情をしており、首にはネックレスをいくつか……3つほどかけている。両手の指には余すことなく指輪がはめられていて、さながら成金のような印象を抱く男であった。
後から声をかけた男はまるで防火コートのようなものを身に纏っていたが、それに防火性があるかと言えば、無いだろう。なんせ男の顔は上半分を覆うような火傷跡があるのであるから、更にその両手も何度も火に包まれたのか、包帯を巻きつけてある。
先に声をかけてたのは隻腕の男性であった。
「お前らか、先の仕事は」
「いつも通り殺しただけだ。跡形もなく、唯の肉塊にな……」
金属品の男はくだらないと言いたげに返した。彼のタレントと魔法にそのアイテムの数々であれば、そんなに難しいものではないはずだ。それに対して、火傷跡の男は喜ぶように言ってみせる。
「こっちもいつも通りだ。壊して、燃やしてやったぜ!」
「そうか」
それを受けた男性は改めて思う。自分たちは既に壊れた存在であると。
「とりあえずご苦労、リブロ、フランベ」
「で、何の話をしてたんだよ?」
話に加わるつもりはないらしく、金属品の男はすぐに空いた席に座り、対照的に火傷跡の男は問いを投げ掛ける。答えたのはマスクの男であった。
「パルマは少年趣味の変態野郎という話です」
「おい!!」
「あっはっはっは!!終わってんな!もうとことん終わってるぜ」
「何だったらよぉ、てめえを掘ってやってもいいんだぜ?フランベ!」
「お、やるかい?次の瞬間テメエは消し飛んでいるだろうがな!」
そう言って、互いにナイフを手を広げるように構える両者を止めたのは新たなる人物であった。
「揃っているな」
静かな声であった、無機質でありその声はとても人がはっするものではなかった。小競り合いを起こすことにした二人に。やはりというか声をかけたのは隻腕の男性であった。
「ムール」
そう呼ばれた男は目に異常を抱えているのか、常に充血を起こしているように真っ赤な瞳を持つ人物であり、何より目を引くのは、その両手の指であった。リブロと呼ばれた人物とまた違った異質さ、というより違和感を感じるものであり、それはこの男の指がつくりものであると主張していた。
その男性はその場に集まった者たちを一通り見まわして、思いだしたように呟く。
「ガレットとラプールは、死んだんだったな」
「何であいつら死んだんだっけ?」
「さあ」
「どうでも良いですね」
いなくなった奴の事を気にしても仕方ないと彼もまた思考を次へと切り替える。何も会食をする為に集まったという訳ではないのだから。
「国王が城塞都市に向かう事が決まった。復興に勤しむ連中の陣中見舞と言った所か。第3王女も一緒らしい」
「「「「「「!!!!」」」」」」
それまで、男の言葉に耳を傾ける事もしなかった金属品の男に植木鉢の少年までがその言葉に反応する。
「マジか、マジなんだな隊長」
「ああ」
「エ・ランテルをぶっ壊したかいがあるぜ!!」
興奮気味なのは、火傷跡の男である。彼は先の城塞都市の件にも参加していたはずである。マスクの男が思いだしたように問いかける。
「確か、最初の爆撃だけやって撤退したって話でしたっけ?」
「ああ、そう言う手筈だったろ?残った連中は何を考えていたんだ?」
「分かりませんね」
「……死にたかった」
答えたのはそれまで無言を貫いていた植木鉢の少年であった。
「みんな死にたかった。だから残った」
「かもしれねえな」
隻腕の男性もまたそれに答えながら、前の大規模作戦での事を思い出す。ズーラーノーンのあの男は己の願いの為に自分達が動いていたと思っていたらしいが、それは勘違いだ。こちらにも狙いはある。普段、警戒が強い王城を離れてくれるというのはありがたいを通りこして感謝さえしてしまう。
「それでムール隊長、護衛の方は?」
その言葉にほかの5人も赤目の男性に注目する。彼らは自分達の実力を嫌というほど、分かっている。例えば戦士長なんて出て来るのであれば、もうどうしようもない。
「それであれば、問題はない。戦士長はつかないという事だ」
「馬鹿だ!マジで馬鹿だぜ!あいつら!」
喜ぶように声を上げるのはくまの男であった。そうであれば、十分にそれを成し遂げられる可能性はあるのである。改めて隊長と呼ばれた男性は続ける。
「今、この国は揺れている。そんな時に国王、そして庶民から人気がある第3王女の両名が死ねばどうなると思う?」
その問いかけに対して答えるものはいなかった。その顔も狂喜に染まるもの、一切変化がないもの、憎悪を燃やすものと様々であったが、共通する望みは唯一つ。
王国に崩壊を。
今、歯車が回りだす。
確実にその物語は変わりつつある。
ありがとうございました。
良ければ同時投稿の人物紹介もどうぞ。