オーバーロード~遥かなる頂を目指して~   作:作倉延世

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 今回から新章入ります。といっても今回の話はいわゆるプロローグみたいなものです。


第5章 王国の落日~前編~偽りの姫君
第0話 来客


 澄み切った青空、天には太陽が光と共にすべての命へとその日生きる為の活力を与える様に輝いている。それは間違いなく晴れ、それも雲もほとんどない清々しいものである。

 

 その中を飛行する全身鎧がいる。別に妙にデザインが凝った風船という訳でもなければ、フライングヒューマノイドというものでもない。この世界には魔法というものが存在している訳であるのだから。

 

 さて、その全身鎧、片手に羊皮紙をもって周囲を見回す。その様子は何かを探しているようであった。

 

 (この辺りだって聞いたんだけどな)

 

 これが単なる遊覧飛行であれば別に何も問題はない。だが、この鎧には明確な目的地があるのである。未知の場所に向かう時、最低でもその位置を知っていないと話にならないし、まさか北に50歩東に200歩進めば着くことができると馬鹿げたことをいう訳にもいかない。ある程度の情報は必要になるし、その精度で無事に目的地に辿りつけるか重要なところだ。勿論本人のセンスも問われる。それに関して言えば、この人物は大丈夫といえる自信があった。なんせ大陸中を駆け巡る経験をしたからだ。

 

 (方向感覚くらいはね)

 

 それくらいは抑えておかないとこの世界で生きるのは困難であろう。だからこそ、動物だったり魔物だったりは生まれた時にまずは我が子の能力の、その辺りを見るものもいるとか、いないとか。

 

 (ひどい人もたまにいるけどね)

 

 その人物ことツアーは長い時を生きている。といってもそれは他の種族から見た感想であり、彼自身や当の種族にしてみれば特に変なことはない。そして生きていれば、様々な人物に出会う訳であるし、その中には壊滅的にセンスがない者もいた訳である。

 

 彼は自国ではそれなりの立場であり、当然外出と言えば、そういった仕事の話も多い訳である。もう何時になるか思い出すのも苦労するが……

 

 (……はあ)

 

 こう言った所をぼけて来たのだとあの友人にも言われてしまっているのだ。少しばかり記憶力を上げる訓練をした方が良いかもしれない。

 

 (脳トレって言ったかな?)

 

 それはこれから会う予定の彼ではなく、昔の話、また別の人物、比較的話ができる者から聞いた単語である。しかし、その内容は詳しく聞けていない。それもこれから聞くのもいいかもしれない。

 

 (と、いけないね)

 

 思考がそれてしまっている。その人物には一度自国に来てもらうことになったが、1週間たっても来ることがなく、何かあったと思えば、何と竜王国に行っていたという。その人物と話をしたのは王国領内での話だ。そこから自国は北西の方向であり、間違ったというその国は南東の方角、正反対の方向であったのだ。

 

 (僕も気を付けないとね)

 

 自分はああはなるまいと改めて彼は周囲を見回す。目的地に行くためにはある村を見つけるのが良いらしい。可能であれば、そこまでは何とか自分の力だけで。

 

 (あ)

 

 気配に気づく、同時に時間切れであると残念な気持ちになる。できる事なら自分で見つけて驚かせてやりたかったのだ。かと言ってこれを無下に断るのも心遣いに対してあまりにも失礼である。観念するように彼は振り向く。その先にいたのは、メイド服を身に纏った女性であった。黒髪を後ろでまとめ、その両手には棘が付いた禍々しい籠手のようなものをつけている。その人物が口を開く。

 

 「後ろから突然失礼します。ツァインドルクス=ヴァイシオン様でよろしいでしょうか?」

 「はい、あなたは」

 「私はアインズ様からの使者として参りました。ユリ・アルファと言います」

 

 彼女はそう言って軽く微笑む。軽くだ。それでも彼が見てきた様々な笑顔でもかなりの水準を誇ると断言できるものであった。下手に自尊心が高い者であれば、それだけで彼女が自分に気があるんだと愚かな勘違いをおこし、下手に独占欲が高いものであれば、何としても手に入れたいと無理を承知で挑もうと覚悟を決めさせてしまう程の価値がある笑顔であり、そして彼女はそれだけの美貌の持ち主であった。

 

 (彼女も、従属神という事か)

 

 かつてそう呼ばれる存在とも戦った記憶がある。彼女たちは自らの創造主であるプレイヤーこそ絶対であり、意図して反意を持つようにしなければ、その忠誠は絶対であるという事。しかし、それだって完璧な存在ではない事を自分は身をもって知っているではないか、尽くすべき存在の喪失。それによって、暴走した者達を見ている。

 

 (彼女たちも?)

 

 つい、そう思ってしまう。もしも彼に何かあれば、この目の前の女性を含めた者達もかつて見た者になる可能性を考えてすぐにやめる。そうであれば、そうならないように自分が尽くせばいいのだし、何より。

 

 (彼には生きて欲しい)

 

 まだ1回会っただけでそう言った感情が生まれるのは少しおかしいかもしれないが、偽りなき自分の気持ちでもあるし、もしかしたら無意識的にあの出来事を繰り返したくないと思っているのかもしれない。

 

 「わざわざありがとうございます。墳墓までの案内、お願いできますか?」

 「元より、そう命じられておりますので」

 「分かりました。では、お願いしますね」

 「畏まりました。私の後について来てください」

 

 彼女はそう言うなり、自分に背を向けて進みだす。どうやらこちらが不意を打つ可能性は一切考慮していないようで、それは同時に彼からの信頼の丈というものだろう。勿論それを裏切るつもりはさらさらないのだけど、少し進んだと思うと彼女はこちらを振り返る。

 

 「いかがしましたか?お体の調子が優れないのでしょうか?」

 

 これはいけない。自分が馬鹿な事を考えたが為の時間浪費、その時間を彼女はこちらに問題がないかと心配をかけてしまったらしい。同時に感心する。こちらを見ていなかったのに位置関係を把握していた彼女に、そして苦笑もする。

 

 「すいません。しかし、この体は遠隔操作しているだけですので、何の問題もありませんよ」

 

 しかし、それを聞いても彼女は何の動揺も見せず。不思議に思ってしまう。できれば、驚く反応が見たかったのだけど、すると彼女もまた少し苦笑して、返してくる。

 

 「ええ、存じ上げています。ですから、()()の具合を尋ねたのですが」

 「へ?」

 

 間抜けにもそんな声を上げてしまう。それでは、自分の方が思考がずれていたという事になる。彼女のこの対応は自分に恥をかかせたと怒る者もいるかもしれないが、彼はそれに該当しない方であり、むしろ自らの落ち度と考える癖がある。それは美徳と言えるだろう。ただし、相手が善人であったり常識人である場合に限るが、少なくともこの女性であれば問題もなさそうだ。

 

 (やっぱり)

 

 何とか、先ほどの訓練方法も聞いておいた方が良いかもしれないと彼は考え、彼女へと大丈夫だと伝える。改めて空を2人の影がある所を目指して進みだす。

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓第10階層玉座にて、この墳墓の支配者はその時を待ちわびていた。蜥蜴人達との戦争から既に1月は経っている。本来であれば、直ぐに行動を起こしていないといけないのに、そうしていないのには理由がある。彼から出来れば、改めて話をしたいと連絡があり。それならと、ここへと招待する事にしたのだ。出来る事ならそのまま協力者になって欲しいという打算もあれば、個人的に長い付き合いをしていきたいという純粋な願いもあった。そういう事で、この場を設ける事にしたのだが。

 

 「なあ、アルベドよ」

 「何でしょうか?アインズ様」

 

 支配者ことアインズはいつもの様に傍らに控えている守護者統括である女性へと問いかける。

 

 「どうしてもこの形でないといけないか?」

 「どうしてもです」

 

 この女性、もといアルベドにしては珍しく彼へと反論する。普段、自分たちの支配者であり、最後まで自分たちを見捨てなかった恩人にして、そして最愛たるアインズに対する少しばかしの悪戯であったり、からかいであったり時には度を超してやり過ぎて怒られてしまう事もあるが、基本的に彼女は主の意思を優先するのが、本当に珍しく意見を譲らないのだ。

 

 「これは、友人を迎えるには不適切ではないだろうか?」

 

 実際そう思っているのが、本心だ。このまま玉座に座ったままこれから来る相手に対応するにはあまりにも礼儀知らずではないか。例えば、友人が来たのにいつまでも居間から出てこない人間はどうであろうか、それでも気にしない間柄であったり、あるいは元からそういった付き合いである可能性もあるが、アインズはと言うよりこれは鈴木悟の名残であると言えよう。

 

 彼は日本という国の出身だ。いや、この言い方では誤解を招く。別に彼はそこからどこか別の国に渡った訳ではないのだから。そこは他の国と比べて異様に礼儀作法に五月蠅い国であった為、そう思ってしまい、考えてしまう訳だ。

 

 (モモンガ様のそういった所も愛おしく思います)

 

 アルベドはそんな主への自分の想いを深めると同時に言葉を返す。

 

 「お言葉ですが、アインズ様。御身自ら赴かれるというのは、私どもの立場がありませんので」

 「う」

 

 彼女の言葉も最もである。もしも今回の彼の来訪が、モモンガ個人を訪ねてというものであれば、何も問題はないであろう。しかし、今回は個人ではなく、支配者アインズとして迎える為、それは同時に自分が率いているこの墳墓の品格も彼に見られるというものである。

 

 (確かに俺だけ出るというのは、彼女たちを信頼していないという事になるし)

 

 同時に自分が率いている組織に自信がないのかと問われる行為でもあろう。それはあってはならない。

 

 「分かった、理解しよう。だが…」

 

 まだ、どこか納得できていない様子の主に彼女はとっておきの言葉を使う。

 

 「例えば、アインズ様が反対の立場であった際に、このような対応をされて不快に思いますか?」

 「まさか、相手方にも事情があるのだろう?」

 「そういう事でございます。もっと言えば、ヴァイシオン様がこの事で気分を害される方でございましょうか?」

 

 少し、考えてみる。あの夜出会った彼は、決して高圧的にならず、自分の言葉も大事にしてくれたし、何より。

 

 (俺の願いを理解してくれていた)

 

 思い違いなんかではない。兜という。自分とはまた違った形で無表情な彼であったが、自分たちの計画に興味を持っていてくれた人物である。

 

 「確かにな、ツアーはこんなことで怒る奴ではないと思う」

 「そうでございましょう。もっと言えば、私たちがその辺の適当な対応をするとでも?」

 「それこそ、まさかだな。その辺がどの辺を指しているのかは敢えて聞かないが」

 「はい、お任せください」

 

 これは彼女にとって、譲れない一線でもある。主と件の竜王の2人はこの先、世界の中心に立つ可能性が多いにある以上、墳墓が誇る水準で歓迎をしなくてはならない。それは生物として、いや知性を持つ種族としての性かもしれない。普段泥だらけの獣に誰が敬意を払うであろうか。

 

 (“おもてなし„って、言ったかしら)

 

 最近、目を通した資料にのっていた言葉だ。主がいた国の過去に一時期流行った言葉であるらしい。主には任せるよう言ってしまったが、自分も立場上この場に控えていないといけないし、それは他の階層守護者達にしても同様であり、王都で待機中の彼を除いた100レベルの者達は全員玉座の左右に控えている。その全員が直立不動である。

 

 (そうなると)

 

 必然的にメイド長である彼女にすべて託す形になってしまう。義兄に前任者達に七罪と言った者達には念のため周囲の警戒に当たって貰っている。仮にも大切な人物の来訪を何者かに襲撃されるようなことがあれば、墳墓の威信に関わるし、何より主が悲しまれるだろうから。それはとても許容できるものではない。それでも不安は感じなかった。それは、彼女たちに対する信頼からであろう。

 

 

 

 

 同時刻、玉座の間へと続く道に彼女たちも控えていた。そう、メイド長以下41人の一般メイド達である。その言葉で一括りにされている彼女たちであるが、当然その様子にも個人個人で違うものである。明らかに体を振るわせているもの。何とか緊張を抑えようと、かえって固まってしまっている者。緊張を和らげる為に笑おうとするも、おかしな表情になっている者とその空気は正直良くないと彼女も思っていた。

 

 (しかし)

 

 こればかりは仕方がないかもしれない。思えば、この墳墓に主の友人が訪ねて来て、その対応をするのは初めての事であるのだから。確かに過去にも至高の方々の内1人、親友である彼女の創造主である方の身内が来た事もあるが、それは至高の方々自らが対応したため、自分たちは客人を迎えるという経験をしたことがない。だからといって、適当にしていい訳がない。しかし、ここで下手な事を言うのはかえって逆効果であることをそれまでの積み重ねから彼女は確信していた。

 

 彼女はその場で手を2回程叩いてみせる。その音はこれからやる事の重大さに押しつぶされそうであった、無音である空間に響き。自然とメイドたちの視線が自分へと集中する。全員が自分を見ていることを確認して、彼女は喋り始める。

 

 「気を張るな。とは言いませんが、あまり張り過ぎるのも問題ですわん」

 

 その言葉で多少肩の力が抜ける者が出て来るが、とても十分とは言えない。そこで、彼女は次の方法に移る。

 

 「もっと自信を持ちなさい。貴方達は栄えあるナザリック地下大墳墓第の従者なのですからわん」

 「し、しかしながら、私たちは満足にこなせるのでしょうか?」

 

 そう口にするのは、シクススであった。彼女の不安も理解できる。かつて自分たちは最後まで残ってくれた主の御心を理解できずにあの方を追い詰めてしまったのだから。それから自分たちに出来る事をやってきているけれど、それでも恐怖というものは中々消えないものである。それでも彼女は続ける。大丈夫だと。

 

 「シクスス、あなたは最近、アルベド様から裁縫を習っているそうですね、わん」

 「それは」

 

 見れば、彼女と同様らしき者たちも気恥ずかしい様子を見せている。彼女は次に先の彼女に比べて髪とスカート丈が短いメイドの名を呼ぶ。

 

 「フォアイル」

 「は、はい!」

 

 活発そうな見た目に似合う元気な返事声が響く。

 

 「あなたは料理を、それもパンに集中して習得に励んでいるそうですね、わん」

 「どうして、それを?」

 

 確かに彼女からその話は聞いていない。しかしながら、自分には関係ないことだ。彼女は鼻を指し示しながら答える。

 

 「手を見れば分かります。それに私も鼻は効くほうですわん」

 

 周囲を見れば、やはり先ほどと同じように動揺しているメイドが数名いる。彼女同様に独自に料理を習っている者たちであろう。

 

 (彼らには感謝しなくてはいけませんね……わん)

 

 元々この墳墓で料理ができる者たちは限られている。そうなれば、彼女たちが教えを乞う相手も決まってくるのだ。下手をすれば、自分たちの仕事を取られるかもしれない。と、思うはずなのに。その手の苦情を聞かないのはそれが答えだ。彼女は次に眼鏡をかけたこれまでの2人に比べて物静かな雰囲気を纏ったメイドに声をかける。

 

 「リュミエール」

 「はい」

 

 突然の事にも動じないであろう声音であった。しかし、そんな彼女も次にメイド長である彼女の言葉には分かっていても肩の震えを止めることができなかった。

 

 「あなたはよく最古図書館(アッシュールバニパル)に赴いて主に領地運営等について勉強しているようですね。わん」

 「……はい」

 

 僅かばかり、返答に遅れた事が彼女も動揺している事を証明していた。ここでも彼女同様に挙動不審になっているメイドが複数人いる。そして、先ほどからの反応を合わせて、全員が自分の言葉に何かしら反応を示したことを確認した彼女は問いかける。

 

 「では、聞きましょう。それは命じられてやっていたことですか?わん」

 「ち、違います」

 

 答えたのはシクススであったが、全員、速度やふり幅に回数など違うが、首を振っている。

 

 「では、どうしてそれをしていたのですか?貴重な休憩時間を使ってまで、わん」

 

 これには、一般メイドたちも少しばかし沈黙してしまう。そして、自分たちは失敗をしてしまったのかと思ってしまう。つまり、主が下さった大切な時間に何をしていたのかとこのメイド長は咎めているのだと。

 

 (それでも)

 「少しでもお役に立てる手段を、アインズ様に恩を返す方法が欲しかったのです」

 

 そう、口にしていたのはやっぱりというかシクススであった。彼女の言葉にほかのメイドたちも首を縦に振っている。彼女たちは無意識かもしれないが以前、守護者統括に主の世話係の話を持って行った事も含めて何かと彼女がその中心であるのだろう。

 

 彼女たち待つ。どのようなお叱りでも受けねばならないと、しかし返ってきたのは。

 

 「そう、あなた方は任された事だけをするのではなく、それぞれに出来る事をやり、そして実際形にもなっているのでしょう」

 

 優しい声であった。

 

 メイド長は見ているのだ。最近、第9階層の装飾が変わっているのを。――無論、統括を通して主に許しを貰っての上でだろう――料理のレパートリーが増え、それもこの墳墓で働いているほかの者達、それも飲食ができる者たちに弁当を届けているのを。階層守護者である彼にも教えを乞い、その知識を確かにしていることも最後のものに関してはまだしっかりとした形になる事はないが、そう遠くない未来、主が望まれる世界になった時にその手の知識を蓄えた者が必要になるはずである。

 

 「改めて言いましょう、自信を持ちなさい。貴方達の頑張りは私が知っていますし、そして保証します。必ず成功すると。わん」

 「メイド長様――分かりました」

 

 その言葉と共にメイドたちの顔から緊張の色が消えているのを確認して、彼女は何とかなりそうだと安心する。

 

 (こちらは大丈夫です。どうかお任せを、アルベド様。わん)

 

 

 

 

 (あれが)

 

 その墳墓の入り口であろう。神殿ともあるいは遺跡とも文字通り王家の墓にも見える立派な建物であり、それは彼がいわゆる拠点ごとこの世界に来た方であるという事でもある。

 

 (本当……)

 

 何なんだろうかと思ってしまう。100年周期でこの世界に来る者達、そして彼らの出身は決まって同じ世界である。その答えもいつか分かる時が来るのであろうか?

 

 眼鏡をかけたメイドに付いて行く形で飛行をしていた彼を出迎えたのは、5人の女性であった。その装いや髪色にその型こそ違えど、前を行く彼女に似た雰囲気を感じる。

 

 「アルファさん、あの人達は?」

 「私の妹たちになります」

 (やっぱりそうなんだね)

 

 そしてその周りを警護するように並んでいるのは、デス・ナイトを始めとしたアンデッドの騎士に戦士達である。それが、自分を襲うためではなく、万が一にも何かあればというものであるのは、その視線や彼らの周囲への警戒の姿勢が物語っている。

 

 (少し)

 

 大袈裟ではないかと同時に内心苦笑する。彼も苦労していそうだと。これから会うのはこの世界では中々見れない美貌、そして圧倒的な強さを持つ軍勢、その全ての頂点に立つ者である。

 

 (それにしても……死の騎士(デス・ナイト)か)

 

 それはこの世界では相当な強敵という認識である。確か、カッツェ平野に発生するという話を聞くくらいである。アンデッドには非常に面白い(というのは不謹慎であるが)生態がこの世界にある。曰く、アンデッドはアンデッドを引き付けるというもの。低位の個体を集めていると、そこに高位の個体が生まれ、更に高位の個体が集まっていれば、更に高位の個体が生まれるというものである。彼ら相手に生まれる表現は間違っているかもしれないが、モンスターである以上、一応生物として捉えるべきであろう。

 

 この事実を呑気に捉えることが出来るのは彼が比類なき強者、ドラゴンだからだ。人間にしてみればとんでもない特性であり、だからこそ定期的に平野にスケルトン討伐の冒険者チームが行ったり、墓地にしても発生した場合は低位の内に間引くのが習慣となっている。確か、あの城塞都市もそうだったはず。

 

 (そう考えると)

 

 これまで転移して来たもの達はまだ良かった方かもしれないのだ。いや、良くはないのだが。彼らは純粋な欲求、それも物欲に性欲とそれこそ、人であればありきたりなもので動いていたのだから。これが知的好奇心を満たしたいとかいうものであれば、もっと恐ろしいことを考えたかもしれないし、少なくともそういった輩にとっては、アンデッドのその習性は非常に面白みがあるかもしれない。

 

 (今回の周期で飛んで来たのが彼らで本当に良かったかもしれない)

 

 彼ら以外に来た者がいないことを願い、出来る事なら100年以内に彼の言う楽園を建設しなくてはいけないと彼は考える。

 

 そう考えながら、彼は先を行くメイドについていきその地へと足をつけた。その瞬間を逃さず、頭を下げる5人のメイドたち。その挙動は一糸乱れることなく見事に揃っていた。

 

 「「「「「ようこそおいで下さいました。ツァインドルクス=ヴァイシオン様」」」」」

 

 それに合わせる形で、膝をつく死の騎士にその他の戦士達。よく精錬された動きだと彼には判断できるものであった。

 

 その後は、あまり時間をかける訳にもいかないという事で転移門で第9階層まで進むことになり、引き続き彼女の先導で進むことになり、彼は次に余りにも煌びやかな光景を目にする。

 

 (成程ね)

 

 やはり、プレイヤーの力、あるいはその財力というものは大きいらしく。竜王である自分ですら滅多にお目に掛からない調度品が道すがらでも目にする程あるのだ。そして、次に出迎えてくれたのは犬の頭を持つ人物と一見人間に見えないこともない先ほどとはまた違い、大分一般的な装いのメイドたちであった。

 

 「「「ようこそおいで下さいました。ツァインドルクス=ヴァイシオン様」」」

 

 その動きも自分がそれまで見てきた中では最も高い水準であると言えそうであり、そして気付く。彼女たちも人間ではないと。生憎自分の知識に該当しそうな種族がいない為、出来る事ならそれも彼から聞けることを期待しよう。

 

 「初めまして。私はメイド長であります、ペストーニャ・S・ワンコと申します。ここからは私が彼女に代わりましてご案内いたします」

 

 彼女の振る舞いに墳墓の者達は気付いているが、誰もそれを咎めようとはしない。至高の御方にそうあれとされてはいるが、やはり一般的に初対面の者に、それも外部の重要な人物相手に使うにはいささか失礼になりそうであると判断したのだ。

 

 (お許しください。餡ころもっちもち様……わん)

 

 かつていらっしゃったであろう。その方に謝罪の言葉を述べながら、彼女は続ける。確かに大変不敬であるが、このやり取りでいらっしゃった目前の人物を不快にさせる訳にいかないのだ。その為に多少の事は大目に見て欲しいと。

 

 「この先、玉座の間でございます。アインズ様はそこでヴァイシオン様をお待ちになっています」

 「分かりました。でも、その前に良いでしょうか?少し気になった事がありまして」

 「何でしょうか?」

 

 質問をすることを許してくれた目前の犬の頭を持つ女性に、彼は一応ここまで案内をしてくれたもう一人のメイドにも断りをいれて、口を開く。どうしても気になることであった。

 

 「今、ここにいますメイドの皆様と、この墳墓の入り口で私を迎えてくれた。アルファさんを含めたメイド方は何か違いがあるのでしょうか?身に付けているものが少々違うようですが」

 

 それは彼であるからこそ出た疑問であろう。もしも他の者であれば、彼女たちの美貌に目が行き、まったく気にする事がなかったであろうから。それだけではない。ドラゴンとは本来、宝に目ざとい所がある。決して光り物を好むあの黒い鳥とは違うけれど。断じて違うけれど。それでもその嗅覚がその違いを捉えたのだ。

 

 「畏まりました。では、お答えします。私とここにいる者たちは一般メイドと呼ばれる者たちであり。そしてヴァイシオン様が地上でお見かけした数人とそこのアルファは戦闘メイドと呼ばれる者たちでございます」

 

 一般?戦闘?その違いは何であろうか?そもそもメイドとは主人の身の回りの世話をする者たちであり、そういった事は別に元冒険者であったり、専属的な騎士を雇うものである。それくらいは自分も抑えている事だ。

 

 「疑問に思われる事も当然かと。詳しい説明を致します」

 

 顔には、というか表情には出ないはずであるが、その思考を読んだように彼女は説明を続ける。彼女がそれだけ優秀なのか、あるいは普段から仕えている主もまた一般的にそれがない人物からなのかは彼には判断の仕様がなかった。

 

 (間違っても僕が衰えている、という事でないことを祈ろう)

 

 彼女の言葉に耳を傾ける。

 

 「一般メイドとは、ヴァイシオン様が思い浮かべた通り一般的な仕事をこなすメイドでございます。これに関しては外の世界の認識とあまり変わりません」

 「そうですか。では、戦闘メイドとは?」

 「その疑問には私がお答えします」

 

 もう一人の女性がそこで説明を変わる。

 

 「私どもは文字通り戦闘を主にしたメイドでありまして、主人の警護であったり、時には要人の暗殺なども請け負います。勿論、副として一般的なメイドの仕事もこなせますので、普段は彼女たちとそんなに大きな違いはありません」

 「そうなんですね。分かりました、ありがとうございます」

 (戦闘特化ね)

 

 主の身の回りの世話とその護衛、その両方をこなすということは並大抵のことではない。そこで思い当たる。説明をしてくれた彼女もそうであるが、地上(ここは地下の空間であるらしい)で会った彼女たちも武装めいた格好であったと。

 

 (従属神だからこそかな)

 

 もしもこれを真似ようとしたら。メイドとしての技術に戦闘技術、その両方がきっと中途半端になってしまうことであろう。少なくともそんな事をするよりはメイドと護衛用に別の人間、雇う者の趣向も反映されそうだが、そうした方が生産的に決まっている。

 

 (プレイヤーならではの文化といった所だね)

 

 その2つを同時に行う事ができる存在は確かに貴重であるし、効率的と言えるだろう。最もそれは単にこの墳墓を創った者達の〈メイド〉に対する一種の入れ込みであるのだが、彼がそれを知ることはない。

 

 「それでは、改めてアインズ様の元へとご案内致します」

 「はい、時間を設けてくださり、ありがとうございます」

 「いえ、お客様の要望に応えるのがメイドですから」

 

 そう答え、頭を下げる2人の女性。眼鏡をかけた女性はそこで犬頭の女性へと向き直り、言葉をかける。それは業務上のやり取りであり、淀みなく紡がれる言葉が時間を無駄にしまいという彼女たちの心意気を感じることができるものであった。

 

 「ではワンコ、後はお願いしますね」

 「はい、アルファもここまでありがとうございました」

 

 それから彼は改めてユリにお礼を言い、そしてペストーニャについて行く形で奥へと進む。その間、左右に立ち並んだメイドたちは微動だにしなかった。

 

 

 

 

 玉座の間、そこを前にして彼は何度目になるか分からない驚きを感じていた。その扉もそうであるが、左右に配置されて悪魔と女神を模した彫刻と、思わず彼に頼み込んで持ち帰る事が出来ればと思ってしまう程に。

 

 (いけないね)

 

 こういった物品も彼にとってはかつての友達との思い出の品に違いない。それを自分の衝動的に発生した気持ちでどうにかしていいはずがない。

 

 「では、私はここまでとなります。ヴァイシオン様、お手数でございますが、この先へとお進みくださいませ」

 「ありがとうございました。ワンコさん」

 「いえ」

 

 ここまで案内してくれた彼女にお礼を言い、彼は先へと進む。扉まである程度歩いたと思うと。一人でに開きだす。遅くはあるが、それはその見た目、重厚さに相応しい速度だと思う程であり、待たされるのは気にならなかった。

 

 やがて、奥へと案内され彼はあの夜出会ったプレイヤーと再会した。

 

 

 

 「よく来てくれた、ツアー。私だけこのような所から座ったままで申し訳ない」

 

 それが、彼の一言めであった。別に気にする事ではないし、むしろこの対応は正しい。人間もそうであるらしいが、自分たちドラゴンだってある程度、威厳を保つというのは大事であるし。もしも自分の経験則を言うのであれば、堅苦しいのは最初だけのはずだ。

 

 「気にする事ないよ、アインズ。いや、アインズ・ウール・ゴウン殿と呼ぶべきかな?」

 「やめてくれ。そんな事をする為に来たのではないのだろう」

 「そうだね。と、これは失礼しました。ツァインドルクス=ヴァイシオン、本日はお招きに頂き、誠に光栄でございます」

 

 そう言うなり、彼は軽く紳士風に挨拶をしてみせる。本来であれば、帽子が動作の一部になっているが生憎彼は鎧のみであり、まさか頭替わりの兜を外す訳にもいかず。両手が空の状態にで行う。それが正しいやり方かどうかはアインズには判断の仕様がない為、その行為をしてくれたという点で感謝するしかない。

 

 (礼儀作法って、複雑だからな。ん?)

 

 ここで少し不思議に思う。彼は竜であり、人間とは取引もしたこともあるが、同時に争いもした人物でもあるのだ。果たして今みせてくれた作法を誰に教わったのだろうか?

 

 (また別のプレイヤー?いや、あるいは又聞きの可能性もあるか)

 

 左右に控えている守護者たちを見れば、顔をしかめている訳でも、無理に殺意を押し殺して結果的に固い表情になっている訳でもなさそうなので、特に問題はなさそうであるので、今は気にする事ではあるまい。彼はその挨拶を受けて、次の行動に移る。彼女の要望であれば、既に果たしているはずである。

 

 「堅苦しいのはここまでにして、場所を移そうか。構わないな、アルベド」

 「勿論でございます」

 

 彼女の笑顔を見れば、支配者アインズとしての責務はここまでで良いらしい。ならば、ここからは個人的な話をしたい。そうでなくてもあまり玉座の間で自分だけ座っているというのは、どうにも我慢が出来ない。

 

 (俺も小市民だな)

 

 大勢の者達が立っている中、一人だけ堂々と座る度胸はこの先、どうしても手に入らないであろう。それでもいいやと思ってしまうのは問題か、それともいいのかは分からないけど。

 

 

 

 

 その後、一度その場は解散。各自、仕事に戻ってもらい。アインズはツアーと共に執務室へと向かう。その扉を開けるのは、ここまで付き添ってくれたアルベドだ。普段であれば、一般メイドの仕事であるが、今日は本当に大切な日だという事でNPCを代表する形だそうな。

 

 (やっぱり、大袈裟なんだよな)

 

 唯、友人が来ただけであり、別に評議国と同盟を結ぶ訳ではないというのに。もしもツアーがその国の王であり、王制であれば直ぐにでも話はまとまるであろうが、残念なことに代表達が話し合いでそれを決める国だ。勝手に話を決めるなんてできないし、今回の事で迷惑をかける訳にもいかないのだ。

 

 執務室に入った2人を満足げに見たアルベドは再び笑顔を作り、それは普段アインズが見ているものと違い、いわゆる外対応の為のものであった。それでも恐らく10人の男が向けられれば、間違いなくその全員が惚れるか、自分に気があると勘違いするか、そうでなくとも心臓が激しく鼓動するであろうことは容易に想像できる顔である。

 

 「ではお二方、ごゆっくりどうぞ。なにかあれば、遠慮なくお呼び下さいませ。私だけに限らず墳墓の者であれば、いつでも参上致しますし、お力添えいたしますので」

 

 閉められる扉を見送って、鎧の来客者は今は個人である支配者へ問いかける。先ほどもそうであるが、この人物は不思議に感じたことや、疑問を生んでしまうとすぐにそれを解決したい癖があるかもしれない。

 

 「アインズ。彼女は君の奥さんだったりするのかい?」

 (な!?)

 

 その言葉にないはずの心臓が高鳴り、取り乱しそうになるのを何とか抑えて表に出さないようにして、少し怒気を高めて言葉を返す。「親しき中にも礼儀あり」と言いたげに。

 

 「ツアー、どうしてそう思ったのかな?例え、友人でも言っていい冗談と悪い冗談があると俺は思うけど」

 「いや、悪かったよ。そういう事なんだね」

 「そうだ。彼女もかつての友から預かった存在だ。子供のようなものでもあるし、断じてそんな関係ではない」

 (そうなんだね、でも……)

 

 そう見えたし、何より2人にはそれこそ、自分が今まで見てきた恋人だとか、おしどり夫婦達と負けず劣らずの信頼関係が見えたような気がしたのだ。まあ、本人がそう言うのであれば、そこまでであるが。

 

 「さて、せっかくだ。いろいろ話をしたい」

 「そうだね。何から話をしようか」

 

 それから彼らはこれまでの事と、これからの事を改めて話しあう。その過程でアインズはある言葉を持ち出す。

 

 「ツアー、4大至宝というものは聞いた事があるか?」

 「至宝?」

 

 どうやら、本当にかの六大神が法国にのみ伝えた内容であるらしい。これから先の事を考えるのであれば、情報は共有しておきたいし、それにこれも一種の戦略だ。大切な、それも秘匿性の高いものを渡すことで、「あなたは自分にとってそれだけ大切な存在です」と訴える訳だ。中にはそれでも平気で裏切る奴もいるが、この人物に関しては大丈夫だという確信があり、むしろ有効な手段とも言える。

 

 「成程ね、世界級アイテム。それもYGGDRASIL(ユグドラシル)の」

 「そうだ。デミウルゴスの話を聞く限りではあと2つこの世界のどこかに転移してきているはずなんだ」

 「1つはアインズ達が手に入れて、そのまま使っているという話だったね。もう一つは」

 「恐らく、法国が手に入れたと見て間違いないと思う」

 「それは……あまり歓迎はできないかな」

 「そうなんだよな」

 

 至宝もといあの世界のアイテムってだけで、強力なのは自分たちが手に入れた世界樹で十分に証明されている。これはいわゆる生産系統のものであるが、もしかしたら破壊兵器のようなものであったり、所有者に無限の権限を許すなんておかしなものがあってもおかしくはない。

 

 (あの運営だぞ)

 

 確かにゲームを作って、運営していたことに感謝はしよう。しかし、これとそれは別だ。そして世界樹自体が非公式世界級アイテムであったことも大きい。そうであれば、他の至宝たちもあの簡単にゲームバランスを崩したであろう運営が管理用に作った存在である可能性がある。

 

 「後は、魔法とは何なんだろうな?」

 「唐突だね、どうしたのさ?」

 

 確かに何の脈絡もない話である。が、アインズとしてはどうしてもこの機会にやっておきたいことがある。

 

 「すまない。場所を変えないか?少しツアーに見てもらいたいものもあるし」

 「分かったよ」

 

 それから、移動して彼らは第6階層に移動していた。

 

 その場にはテーブルが置いてあり、その上には4本のポーション瓶が置いてある。

 

 「アインズ?これから何をするつもりだい?」

 「ちょっとした実験だ。何、直ぐに終わるさ」

 

 そう言うなり、彼は瓶を一つとると、その中身を躊躇いなく左腕にかける。

 

 「アインズ!何を!」

 

 ツアーが声を上げるのも無理はない。液体がかかったところから煙があがり、焦げる臭いが立ち込めてくるのだから。この世界ではアンデッドは生に関するものであれば問答無用で拒絶されてしまう。現に回復薬であるはずのそれは彼の体を蝕んでいた。しかし、アインズは何処までも冷静であった。

 

 (これもアンデッドとしての特性かな)

 

 確かに左腕に痛みはある。そしてゆっくりと焼かれるような熱も感じる。しかし、そこまで痛むものではなく、耐えるどころか気にかける必要性も感じない。これこそ死者の特性。

 

 (生きることそのものに執着がないと言うべきか)

 

 何にしても今は考えるべきことではない。そもそも薬にしたって、そこまで量はないのであるし煙もやがて収まり少し欠けた腕がそこに残った。

 

 「アンデッドはポーションでダメージを負う」

 「アインズ、あまりそういった事はよくないよ」

 

 きっと先ほど自分たちを部屋に送ってくれた彼女も悲しむであろうと咎める。友人であっても言うべきことは言わないといけない。しかし、彼はそれに意を返さない様子で続ける。

 

 「すまない。だが、聞いてほしい。次はこれだ」

 

 アインズはそう言って、指輪を起動させる。その光景に一瞬我が目を疑う。先程まで骸骨であった人物が急にその雰囲気を変えたのだ。それはどう見ても彼もよく知る人間の姿。

 

 「君は、アインズなのかい?」

 「そうだ。これもこの世界で手にいれたものでね」

 

 彼は続いて、どこからかナイフを取り出すと先程薬をかけた辺り、脈へとその刃物を振り下ろす。切れた所から血が噴水のように吹き出し、それが彼の身に纏うローブや周囲の土へと降り注ぐ。

 

 「アインズ!!」

 

 流石に怒鳴り声になっていた。彼は何を考えているというのか、流石にその行動は問題があると思う。だというのに、彼はどこまでも冷静に言ってみせる。

 

 「大丈夫だ。少し見て欲しい」

 

 彼は2本目のポーション瓶をとると、それを自ら切り裂いた部分にかける。瞬時に傷が塞がり、その場には何事もない人間の腕があった。

 

 「これなんだよ。俺が気になっているのは」

 「何がしたいんだい?アインズ」

 「まあ、聞いてくれ」

 

 彼は語る。今使用した指輪は、あくまで人間の体、肉体や臓器をアンデッドの体に纏っただけであり、自分は死者であるはずなのに、と。

 

 「そうか、ならポーションが効くのは」

 「おかしいはずなんだがな」

 

 では、今の彼は人間という事なのだろうか?いや、そもそも。

 

 「そのアイテムはどうしたんだい?こっちの世界で手にいれたって話だけど」

 「そうだな……」

 

 それも彼は説明してくれた。なんでも至宝を手に入れる際についでという形で手に入ったらしい。元の持ち主はその際のトラブルで自殺したという。ならば。

 

 「僕の知り合いに蘇生が出来る人がいるし、僕もその手のアイテムは持っているかもしれない。今すぐ、その死体を回収するべきだ」

 「そうなんだが……」

 「???」

 

 何でも城塞都市の一件から、その必要性を感じた彼は部下へと命じたらしい。だが。

 

 「消えていた?」

 「そうなんだ。消滅したとか、何か魔物に食われたという訳ではなく。誰かが持ち去ったらしい」

 

 では、そのアイテムは一体どこから出たというのか?少なくとも自分はそう言ったアイテムの存在は知らない。彼はこの事に関してはこれ以上考えるつもりはなさそうで、次の行動に出ていた。

 

 「分からないことを考えても時間の無駄だからな。次はこれだ」

 

 彼は呼び鈴のような物をならす。予め、決まっていたことなのだろう。まるで巨大なアンゴラウサギを思わせる魔獣がその場に来た。

 

 「スピアニードルと言ってな。すまない、少し痛むぞ」

 

 彼はそう言うなり、その獣の腹にナイフを差し込む。鳴き声を必死に抑える獣に斬り跡からは血が流れている。彼は何がしたいのか?とここまでくれば、流石に自分も次の展開が読めた。彼は3本目のポーションをその獣にかけてやる。先ほどと同様に傷は塞がっている。

 

 「このように魔物。というか、生物それも動物等であればそれも効くらしい。次に」

 

 彼は最後のポーションをその辺りに生えている雑草とも言うべきものにかける。液体がふれたところから枯れていくようであった。

 

 「一方で、植物に分類されるものは拒絶反応、いやそれを通りこして害になっているらしいな」

 

 確かにそれは不思議な話ではあるかもしれないが。そもそも回復薬はそれぞれの種族が独自に作っているので、細かい所で違うのかもしれない。

 

 「アインズ、君は本当に何がしたんだい?」

 「知りたいんだよ」

 「知りたい?」

 「そう、この世界のすべてを、な。いくらあっても足りないくらいだ」

 「それは、君が目指す楽園というものの為かい?」

 「そうだ」

 

 確かに世界の在り方を変える為には、知っておかないといけないこともあるし何とかそのカラクリを鮮明に解き明かす必要があるかもしれない。言われてみれば、自分たちも魔法というものを正しく認識していないかもしれない。

 

 「分かったよ。協力はするから、そういった事は控えてほしい。彼女が泣くよ?」

 

 その言葉に彼は少し罰が悪いという顔をする。次から彼が馬鹿げた事をしようとする時には彼女の名を出すのが良いかもしれない。その一連の行動が自分をこの姿勢にする為の演技であるかは分からないが、出来ることは協力するつもりである。

 

 (それに……至宝か)

 

 その存在の捜索も信頼できる者に頼む必要があるかもしれないと彼は思うのであった。

 

 「すまなかったな。お詫びという訳ではないが、部下たちが君の為に催しをしてくれるらしい。見てはいかないか?」

 「そうさせてもらうよ」

 

 それから彼はこの世界において墳墓初の来客としてのもてなしを存分に受けるのであった。

 

 

 




 ここまで読んでくださりありがとうございます。1/23 20:00前後に活動報告にて、part1及び、外伝1本目の予告を載せる予定であります。
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