オーバーロード~遥かなる頂を目指して~   作:作倉延世

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今回からpart1始まります。


 part1 吸血鬼編
第1話 王都にて


 リ・エスティーゼ王国、国名と同じ名を冠するこの首都は文字通り国家の中心であり、総人口90万人と言われる国の中心であれば、その規模は広大である。しかしながら、その道は碌に舗装されておらず、左右に広がる建物も古めかしいものである。それは古いものを大切にするという精神なのか、あるいはその整備もまともにできない程財政難であるのか、どう見るかは人によるだろう。

 

 それでもその都市が広いのは確かであり、道を行き交う人々に馬車。あちらこちらから聞こえる客引きの声と、賑わいはあるようであった。その目的も多種多様であり、仕事の為、私的な付き合い、観光等。仕事にしても、商品、あるいは代金等の引き渡しだったりする。

 

 時間帯は昼過ぎ、丁度昼食時なのか食堂であったり居酒屋などは特に客引きに力を入れているし、焼きたてのパンが底から7割程に詰まっているバケット片手に売り歩いている少女もいる。当然、その歩いている者たちは食事を摂りたいと、あるいは空腹を感じて来た者たちであろう。

 

 だからこそ、その男は浮いていたともいえる。表情は暗く、目も虚ろ気味で弱弱しい足取りで時折周囲を見回して、まるで何かに怯えているようであり、その挙動をとるたび、周囲の視線が険しくなることは特に気にならないようである。

 

 確かに、その人物は気にしていない、というより余裕がないと言った様子である。そしてその都度、腰にある剣らしき武器に手をかけるものだから、大衆としてはたまったものではない。いつこの人物が暴れだすか、それは獰猛な獣、それも空腹のものがいる檻の中にいるようなもので、気が滅入ってしまって仕方ない。という者達もいるようで、とても危険な状態であるとその場の誰もが考えていた。

 

 「おい、誰か衛兵を呼んでこいよ」

 

 それは、そんな大衆の中、その空気に耐えきれず出た言葉のようであった。言った本人にしても恐怖と警戒が出てしまったのだが、次の瞬間には後悔することになる。周囲の視線が自分へと向けられている。その目は揃って主張していた。なら、お前が行けよと。

 

 人とは基本的に安定していたい生き物である。よって、それが崩れる恐れがあるものには決して近づかないものである。その癖、完全に無視する事もできずに事の成り行きは気になるのか、野次馬を続けているのも何とも人らしく浅ましい光景であった。

 

 諦めた男が声をかけようとして、その前に動いた者たちがいた。

 

 「すみません。よろしいでしょうか?」

 

 声をかけたのは4人組の人間たちで、街中だといのに武装をしているようであった。しかし人々に不安はなくむしろ安心感を生んだ。彼らの首元から見える金属製のプレート、間違いようがない。ミスリル級の冒険者チームであると、それは決して英雄と呼ぶには不十分である。けれど、それでも上位の存在に違いはなく、この場は彼らに任せても大丈夫だとようやくその場を離れる者達が1人2人と出始める。

 

 声をかけたのは、年若い人物であった。金髪碧眼であり、それ自体はこの国ではよく見かけるものである。顔は若干整っているようで、その武装は腰に納めたブロードソードにラージシールドに身に纏っているのはバンデッド・アーマーであり、その職業は戦士であろうとそこまでその手の知識が無いもの。下手をすると、子供でさえ容易に想像できるものであった。

 

 その人物たちもといミスリル級冒険者チーム「漆黒の剣」。そして、そのリーダー、ペテル・モークが挙動不審なその男に声をかけたのは、別に人々の願いを汲んだからではない。いや、4割程はそれがあるのだろう。残りは何かと言うと、純粋にその男が心配であったのと、用事があるのと、何より一部の界隈で有名な人であったからだ。

 

 彼の後ろでは念のためほかの3人がいつでも戦闘ができるように静かにそれぞれの得物に指をかけていた。この男であれば、これくらいは気付くことであろう。しかし、男は少し彼の顔を見たと思うとすぐにその場を立ち去ろうとしてしまう。彼は声を上げてそれを止める。それは、ある危機感からであった。この人をほっておくのはよくない。それは周囲の人々ではなく、何よりその人自身の為にだ。

 

 「アングラウスさん! ……ですよね。あの有名な」

 

 その言葉にようやく男は反応を示す。しかしその顔は決して喜んでおらず、むしろ恥を更に晒してしまったという顔であった。それでもその足を止めることが出来たのは良かったとも言える。そこで男はようやく口を開く、その動きはぎこちなく、生気を感じることが出来ないものであった。

 

 「俺……に、何の用だ」

 

 その顔を見たペテルは衝撃を受けていた。いや、受けない方が無理があるだろう。今、目前にいる人物がかの戦士長とかつて激闘を繰り広げた者と同一人物であると誰が気づけようか、自分だって見つけたのはかなり危なげであった。彼が腰に差している南方由来と言われる武器の存在がなんとかその可能性に自分を導いてくれたのだ。

 

 「少し、お尋ねしたいことがありまして」

 「…………何だ?」

 

 そう、この男が心配なのもあったが、今の自分たちの目的の為にもこの人物には話を聞いておきたいことがある。その内容はとても立ち話では済みそうにない。だからこそ、次の行動に移る。

 

 「場所を変えませんか? 丁度、私たちもお昼にする予定でしたので」

 

 その言葉に男はしばし黙ったと思うとようやく返答する。15秒ほどの時間が重苦しく感じる。それだけ、目の前の人物が悲壮な顔をしているのだ。

 

 「分かった……最後に……飯を食うのもいいかもしれない」

 

 最後?彼は何を言っているのだろう。それでも何とか話の場を設けることができてよかったと思えるペテルであった。自分の後ろに控えている者達。特に性別を偽っている魔法詠唱者である彼女を思えば、尚更に。

 

 

 

 時間が時間である為、彼らが入った居酒屋も人でごったがえしており、何とか5人分の席を確保できたのは奇跡に近いであろう。現在彼らは円形の台に一本の足がついた型、要はよく見かける丸テーブルを囲む形で樽――木で作られた器に金属製の輪っか、箍がついている品――に腰を掛けていた。

 

 何でも最近客が暴れたと言う。その際に椅子を武器に冒険者相手に戦いを挑んだらしくいくつか破損。新しいものが届くにはまだ時間がかかるということで空いたばかりだという酒樽を席代わりにと進められたのだ。

 

 これが一流だと名乗る飲食店であれば、その瞬間に常連客等の信用を失う行為である。が、生憎とここはそう言った所ではなく、むしろそういった野暮もまた雰囲気の一つとしてたしなむところがあるようであった。勿論、ペテル達にしたって、ここまで来るのに野宿や、寝る為のベッドさえ軋んでいるような安宿に宿泊する機会が多かった為に。アングラウスと呼ばれた男にしたって、それまでの人生観から特にそこに拘る必要はなかった。

 

 現在、テーブルには彼らが頼んだ料理が並べられている。適度に焼かれた肉からは湯気が立ち、例え満腹であってもまた食欲をそそるであろう匂いを周囲にばらまいている。付け合わせのスープやパンにしてもそれは同様であり、先ほど弓を構えていた男が真っ先にかぶりつく。

 

 「久方ぶりにまともな食事にありつけたって、感じだな」

 「ルクルット、気持ちは分かるが。今は控えるべきである」

 

 よく言えば仕事に汗を流した人間の特権のようでもあるが、間違いなくその様は腹をすかせた動物のそれに見えてしまい。この集まりの中では最も年をとっているように見える男がその行動に軽く文句をつける。考えてみれば、これも自分たちにとってはいつもの光景であり、思わず笑いそうになる。が、今回ばかりは他にも人がいる為、そう言った行為はよくなく、直ちに話をするべきである。

 

 改めて丁度、自分の前に座った男を見る。彼は唯、黙々とスプーンでスープを口に運んだと思うと、傍らにあるパンを手にとり、一部を引きちぎり、それをスープに浸して口に放り込み、そして同じようにキャベツの葉も同様に食べ、咀嚼。それも10回程丹念に行ってだ。それを見てどこか安心している自分がいることをペテルは感じていた。

 

 最初に見かけた時は本当に死人だったよう――何かを諦めたような、それこそ生きる事に疲れた様子であったのが、今は目の前の食事に静かにであるが、それでも必死に食いついているようで僅かであるが生気が戻ったように思えるのだ。やはり、生きている限り、食とは無縁ではいられないと言った所であろうか。これなら何とか話は出来そうだと彼は判断して、言葉をかける。

 

 「では、改めて自己紹介を……」

 

 名を名乗り、次にチームのメンバー達の紹介。そして自分たちの目的を話して、本題に移る。

 

 「という訳で、詳しい話を聞かせてもらえないでしょうか?ブレイン・アングラウスさん」

 「…………」

 

 そう呼ばれた男、ブレインは考えていた。話すべきであるかどうか。それはこの場で御馳走になった食事の礼としても代金替わりにもなるはずである。それに彼らの話を聞けば、多少は協力するべきではないかと思うのだ。

 

 (…………)

 

 だと言うのに、何も話せない。いや、疑問を感じているのだ。果たして、ここで話をしてそれで自分はどうなるのだろうかと、考えてもみろ。今まで自分は自分が強くなることにしか興味がなく、それに準じて日々研鑽に明け暮れていたのだ。

 

 それが、たった一度の戦いで否定された。そして逃げ出して、走って、走った。少しでも止まると聞こえるのだ。あの時の女の声が、そして途端に手が震えだす。自分が磨いてきた技は子供の遊びでしかなく、苦労して手に入れた刀は単なる玩具(おもちゃ)であった。

 

 それを認識する度に何度これを手放そうとしたことか、しかしできなかったのだ。それ程までに愛着があった?いいや違うと断言できる。なんせこれだって強くなるための道具でしかなかったのだから。もしもこれ以上に優れた武器と、単に切れ味だとか、重量だけの話ではなく、自分の戦闘スタイルにあう物が見つかれば躊躇なく売り払ったであろう。では、何で捨てきれない?彼は少し考えて内心、自傷気味に笑う。

 

 (未練か)

 

 そう、かつて自分が手に入れて、入れたと思い込んでいた力に対するものからであろう。しかし、実際は自分の力なんて大したものではなかった。上には上がいる。あの男であれば、高みがあるのであれば、それを超えることを目指して頑張ればいいと言うに違いない。しかし、自分には。

 

 (無理なんだよ)

 

 そう、真の高みとは努力なんてものでは、いや、そもそも人では到達することすら不可能な領域であるのだ。現に自分はあの女に何もできなかったではないか、あの時は深く考えるなんて余裕はなかったが、今であれば間違いなく断言できる。彼女たちの正体は。

 

 (……化け物なんだ)

 

 そう、そう考えれば、納得できるのだ。女たちがどうして仮面を被っていたのか、顔だけに限らず体の露出を控えていた理由も、そして当時は気にならなかったが、女たちの声もおかしいものであった。あれは人が出せる音ではないとようやく気付いたのだ。

 

 これから自分はどうするべきであろうか?ここまで逃げるのに必死であったが、こうして落ち着いて誰かと話をした(厳密にはまだ会話は成立すらしていないけど)お陰で少しは冷静になれたらしい。そうなると次に自分がどうすべきか、どうしたいのか解って来るものだ。

 

 (死にたい)

 

 結局自分がやってきた事は何でもなく、そしてこれから何か別の事をやる気力もない。こうして誰かと話をする機会があるだけ(2度目であるが、まだ会話は成立していない)恵まれた方かもしれない。そして、そこまで考えて彼はようやく話に応じる。

 

 「人を探しているんだってな。……すまないが、俺では役に立てない。他をあたってくれ」

 それが、答えだ。そもそも自分と彼らの探し人に何の共通点があるというのであろうか?それすら自分は分かっていないのだ。それでは、協力以前に何も出来る事がないではないか。

 話はここまでだと立ち上がってそのまま去ろうとしたその腕を掴んだのは、それまで沈黙を守っていたこの中で最も若い人物であった。その職業では考えられない力にブレインも一瞬、不意を突かれた気分を味わう。その目はここでなんとしても何か掴もうと覚悟を決めたものであった。

 「何でもいいんです。何か知っている事を! 少しでもいいんです! 話しては頂けませんか?!」

 言葉遣い自体は丁寧であるものの拒絶は許さないという態度が出ていた。流石にまずいと感じたペテルは彼にしては珍しく、いや、しょっちゅうルクルットにかける声音で言葉を荒げる。

 「ニニャ!落ち着くんだ!」

 他の2人にしても彼のその行動に驚いているようであった。それだけの気迫があるということであるが、残念ながらブレインには通じないものでもある。

 「……俺が知っている事……なんて大したものじゃない」

 そういった事であれば、自分より優れた冒険者だったり、適した者達がいるであるはずだ、彼らに頼めばいい話である。

 

 しかし、ニニャは引き下がる事はなかった。

 「何でもいいんです。あなたは生き残りだという話ですよね?」

 「!!!」

 それは彼にとっても禁句であった。と同時に初情報でもある。彼はその言葉の意味合いを直ぐに理解した。

 (俺以外は……殺されたという事か)

 「その話であれば、俺が話せるのは……化け物の事だけだぞ?」

 「それでも構いませんので聞かせてください」

 「…………分かった」

 

 根負けしたようにブレインは再び席へと戻る。ちなみに彼らを見ている者たちは誰一人いなかった。重苦しい空気を察したという訳ではなく、この程度の騒ぎなど日常茶飯事なのだ。周囲を見回してみれば、他にも酒の飲み比べで騒いでいる者たち。若い店員を口説こうとして鉄拳制裁を食らっている男。何が可笑しいのかずっと笑っている陽気なおっさんと誰もが目の前の事に夢中で周りの様子に気付く様子はない。

 

 ようやくこの席も落ち着きを取り戻したようで、席についた5人、その内4人が1人へと注目する。その視線から逃げ出して楽になりたいという気持ちがあるが、何とかそれを抑えながら彼は語る。同時に彼らの事を考えてもいた。

 

 (元・銀級か)

 

 漆黒の剣、元は城塞都市にて冒険者チームをやっていたという。いや、この言い方では語弊を招く。別に彼らは冒険者家業をやめた訳ではないのだから。

 

 彼らには一つの目標があったという。それは伝説に語り継がれる4振りの剣「漆黒の剣」を集める為だったという。それを聞いて、気の毒に思った。彼は自分が強くなるための材料を常に欲していた。それこそ、永遠に潤いを得られずに乾ききったみたいに。そんな彼にとって、強者の情報とは訓練の時間を割いてでも手に入れる価値があるものであるから。

 

 そんな中で手にいれた情報でその剣の1振りを持っているある冒険者の事も当然彼は知っていた。それ自体は彼らも知っていたようで、特に深く考える必要もない。

 

 さて、そんな彼らであるが、ある事件を切っ掛けにそれまでの拠点を離れて、こうしてここまで来たというのだ。その内容を聞いて、流石の彼も驚いた。

 

 それは自分があいつ等に出会ってから2日後のことだったという。城塞都市を舞台にした大規模な襲撃にある冒険者の英雄譚、その序章であったという。だというのに、自分はその事を一切知らなかった。いや、知ることも知ろうとすることさえできなかったのだ。その時の自分は逃げることに必死であった為に。

 

 「……と、そいつは俺の剣を、小指で受けてみせた…………俺はそれだけの存在だったという事さ」

 

 (それが本当であれば)

 

 相当な事だとペテルは思う。そして、次に彼が考えるのは、自分達が出会って来た強者達のことであった。

 

 (モモンさん達に、ルプスレギナさん)

 

 もしも、彼らと目前の彼が言うその女性、戦ったら、どちらが強いであろうかと思わず考えてしまう。いや、それよりも考えなくてはいけないことは他にもある。

 

 (まさか)

 

 自分たちがカルネ村へと行っている裏でそのようなことがあったと言うのはどれだけ規格外の英雄たち、アダマンタイト級の活躍を聞いているはずの自分でも初めて聞くようなことであった。70人をたった3人で倒したという者達。発端は、目前の人物も所属していたある傭兵団である。彼らが性欲処理用にと何人かの女性を攫っているという事実と、何より戦時中以外は野盗をしているという点が問題視され、正式に討伐隊を組むことになり、その為の威力偵察で自分たちにこの話をしてくれた女性の冒険者。

 

 (ブリタさんて言ったな)

 

 彼女を含むチームが向かった際に彼女たちと邂逅したという。彼女たちの傍には救出対象の女性たち、そして件の傭兵団たちが役30人ほど縛られていたという。

 

 そして身元確認の後、彼女たちはそれぞれの居場所に戻ったという。その中にニニャの姉がいないか少し期待したが、残念ながらいなかった。更にその傭兵団のアジト跡を調べたところ、彼女たちが3人だけで事を成したという確証が得られたという。

 

 現場、というより戦場跡を見る限り、2人分の足跡が奥へとまるで、一本道を呑気に散歩するように歩いて、そして敵と接触する度、制圧したという事であるらしい。話を聞く限りでは、彼女たちは冒険者ではなく、かといってワーカーでもないというのが、偵察に赴いたチームの見解である。

 

 その時の本人たちから証言で1人逃げのびた人物がいるという話であり、組合長はそれは間違いなく今、目の前で話をしてくれている人物であると断言した。そして、それは実際正解であったのだ。そこは流石と言うべきところであるだろう。

 

 次に思い出すのはあれからの事であった。モモンとナーベの2人と話をした後、ルクルットからニニャの姉探しという新たな方針を提案され、その方向で動くことになった。そんな彼らがまず行ったのは、城塞都市での情報収集だ。あの町にも娼館というものはある訳であるし、そこに彼の姉がいる可能性も決してなくはないと必死に聞いて回った。が、それでも見つけることはできなかった。

 

 その時に例の人物たちに関わる事を聞き、そして詳細を知ったのだ。その後、組合長に街を出ていく旨を伝えた時は大変であった。どうして出ていくのかと、何が不満であるとしつこく聞いてきた。しかしながら、それも仕方のないことだと言える。

 

 未だエ・ランテルの復興は終わっておらず。冒険者にしても衛兵にしても非常時に動かせる戦力も心もとないという事で本当にしつこく食い下がって来た。それでも何とか誠心誠意自分たちの意思が曲がらないことを伝えると、彼は条件を出してきたのだ。その3人組を探してくれと。人探しをするのであれば、1人も2人も変わらないであろう。と、理由は聞くまでもなかった。何とかその人たちに城塞都市所属の冒険者になって貰いたいのだ。

 

 (欲深い……という事でしょうか?)

 

 その条件を飲むという事で、幾らかの支援金を貰った立場でこんな事を思うのは大変失礼であるが、どうしてもそう思ってしまう。原因も理解している。()()の存在を知っているからこそ尚更。

 

 (実際、モモンさん達がいれば)

 

 それで、全てが解決しそうであると考えてしまい。直ぐにそれを取り消す。彼らにだって目的はあるだろうし、自分たちの時間というものがあるはずである。そうなれば、少しでも彼らの負担を減らす為にも、その謎の強者達は見つけるべきである。

 

 それだけではない。自分たちなりに仮説を立てているのだ。それはあまりにも希望的観測で更に都合が良いように考えてしまっている事でもあるが、決して可能性は低くなく、勝算もあると見ている。それは、彼女たちの目的だ。その時の行動として、女性を救出して、その謝礼は一切受け取らなかったという。では、ここから何が導きだせるだろう?

 

 まずは、彼女たちの目的だ。金銭的なものではないというのは、報酬の話にまったく耳を傾けなかったという所から推察できる。そして、彼女たちの格好にも注目すべきだ。何でも全員が仮面を身に付けていたという。もっと言えば、その声もどこか不自然であったという。それも後で考えてみればという話であるが、それでも何とか考察の材料に成り得る。つまり、あまり表に出たくないという事であろう。

 

 最後に今回の件だ。攫われた女性たち。実は彼女たちの目的もそこにあったのではないか?これは本当に自分たちにとって都合が良い想像になるが、向こうにもこちらと似た事情があるのではないか?というものだ。その為、各地を回っているのではないかという仮説だ。もしもこれが正しければ、彼女たちだって様々な情報を持っているはずである。が、それでも。

 

 (まずは)

 彼女たちを見つけることからしなくてはならない。

 

 「確か、カーミラと名乗ったそうですね」

 「ああ、……連れはベルゼブブと言ったな」

 もう一人の人物についてもある程度の情報は把握していた。そこで彼から問いかけられる。

 

 「……なあ、……俺を捉えに来たのか? あんた達は」

 

 確かにここまでの話であれば、そう受け取られるのも当たり前である。だからこそ、ニニャに視線を向けながら、答える。

 

 「いえ、私たちの目的はあくまでその人物達の捜索と、そうですね。彼の姉探しです。そもそもアングラウスさん相手に今の私たちではとても」

 

 そう、その件であれば傭兵団の頭目に中心人物たちが揃ってお縄についている為、単なる雇われであった彼まで罪に問いただすつもりは組合にないらしい。というか、下手に敵対して更なる面倒事を招くのを恐れてのようであった。納得していない様子の者もいたが、そこは追求するところではない。

 

 「どうかな、…………今の俺なら…………あんたらでも倒せるかもしれないぜ?」

 

 それは挑発でもなく、冗談でもなさそうである。彼は本当に自分たちに負けると思っているのかもしれない。

 

 そう、少なくともブレインは本気でそう思っていた。今の自分は何も出来ないのであるのだから。怯えて、逃げて、みっともなく彷徨う事しかできないのだから。そして一応、彼らにも警告をしておこうと言葉にしていた。

 

 「……その女たちに接触するつもりみたいだが、…………やめておいた方が良い。……あれは化け物だ」

 

 それは、彼なりに絞り出した思いやりというものであるのだろが、否定する人物がいた。

 

 「わたしはそうは思いません」

 「…………どうして、そう思う?」

 

 そう、あいつ等は人外、人などという種族なんか何でもない強者である。そんな奴らにとって、人間というのは文字通りの虫か何かでしかないのだろう。だが、次にかけられた言葉が彼のそんな認識を揺さぶる。

 

 「だって、その人たちは捉えらえていた人たちを助けてくれたではないですか」

 「…………」

 

 思わず言葉が出ない。それ位衝撃的な事であったという事なのか?いや、恐らく自分は後ろめたいのであろう。確かに彼女たちの境遇は哀れに思ったりもしたが、それまでだ。それ以上に何かをしたという訳ではない。そしてあの時戦った。いや、遊ばれた女たちが彼女たちの救出をしたのは彼らの話からでも明らかではないか、そこで脳裏に声が響いた。それは過去に聞いたものである。

 

 『人とは、誰かの為に戦って力を発揮するといいます』

 

 あの時に女から言われた言葉である。それを何故今思い出すと言うのか?そして彼らの目的、貴族に無理やり連れ去られたという先ほど自分に反論してきた魔法詠唱者の姉を何とか見つけるというもの。常識で考えれば、それは絶対に不可能なことであり、その探し人が生きている可能性だってゼロに等しいはずである。それでも彼らの目は決して諦めるという選択肢がないようであり、あがき続ける覚悟を感じるものであった。

 

 「聞かせて欲しい」

 

 思わず口に出ていた。答えたのは、リーダーであるペテルだった。

 

 「何でしょうか?」

 「あんた達は、その……ニニャの姉さんを探すつもりなのか? それがどれだけ困難な事だと分かった上で?」

 「そのつもりですけど?」

 「どうして、そこまで出来るんだ? 教えてはくれないか?」

 思わず前のめりになっていた。それ程までに彼らの話を聞きたいと思っている自分がいるという事なのか?

 

 漆黒の剣達にしても突然の彼の変わりように少々驚くが、それでも返す言葉は変わらない。

 「仲間だからですよ」

 「そうそう、それ以外に理由はねえって」

 「うむ、それが真理である」

 「えっと、そういうことらしいです」

 照れくさそうに頬を掻くニニャの表情と変わらない様子の彼らの姿はブレインに一つの道しるべを示していた。

 

 (仲間、か)

 

 自分にはそんな存在はいないし、この先出来るかも怪しいものだ。いきなり志を変えたといったからって、急に世界が変わる訳ではないのだから。でも、それでも何か出来るのか探してみたいと思っている自分がいる。

 

 (俺は)

 

 一体どこで道を間違えたというのであろうか?元より自分だけの為に出来る事こそ、限界があったのだ。それをここに来て、ようやく認める事ができたようである。

 

 「ありがとう。俺から話せる事は以上だ。何か役に立ちそうか?」

 「はい、情報提供感謝します。お礼と言っては何ですが、この場の代金はこちらで払わせてもらいますので」

 「いや、それには及ばない」

 

 ブレインはそう言うなり、腰の袋から適当に硬貨を数枚テーブルに広げていく、それは手持ち分すべてだしたのではないかと一瞬思う程の量であり、料理の代金は勿論であるが、下手をすればお釣りが出そうである。その可能性に思い至ったペテルは慌てて彼を呼び留めようとする。

 

 「アングラウスさん!! これは余りにも多すぎます!」

 

 しかし男はそれに対して、軽く手を振ってみせるだけであった。そのまままるでまた明日会おうと友人に言うように軽やかにその店を後にするのであった。

 

 「おい、行っちまったぞ。どうするよペテル」

 「そうですね、しかし」

 

 今から追いかけていっても恐らく結果は変わらないであろう。彼はそう判断して、せめて貰ったお金をこの先有効に使うよう心掛けることにした。それよりも気になる事があった。

 

 (最後……笑っていた?)

 

 それこそ、初めに声をかけた時とさっき別れた時でその雰囲気は大きく違っていたのだ。自分たちとのやり取りで何か元気になる事でもあったのだろかと疑問を抱くが、何にしても今はそれどころではない。

 

 「今回は、彼に甘えておくとしましょう。では、食事を続けますか」

 

 リーダーのその言葉でひとまずこの件は片付いたという認識になり、再び賑やかな食事が再開されるのであった。

 

 

 店を出たブレインはこれからどうするか考えていた。無論、あの女達が自分を殺しに来る可能性だってまだゼロという訳ではない。それでも、その時はその時で腹を括れば良い。まずは、自分自身を見つめ直すことからしなくてはならない。しかし、いくらそうすると言っても自分だけでやってはそれこそ堂々巡りとなってしまうだろう。こういった時は客観的な意見が欲しいものだ。そして、ここは王都。で、あるならば。

 

 (……ガゼフ)

 

 正直、今の自分を生涯をかけて超えるつもりである男に見せるのは、恥を通り越して情けないものであるが、そうも言っていられない。彼は、古い記憶と、自らの勘に従って歩き出すのであった。

 

 

 

 それから、昼食を終えた漆黒の剣たちもまた歩き出していた。といっても特に目的地があるという訳ではない。

 

 「思ったよりも、難航しそうだな。ニニャの姉貴探し」

 「元より覚悟の上でしょう?」

 「そりゃ、そうだけどよ」

 

 文句を言うルクルットを窘めるペテル。しかし、確かに大変である。まず、情報が少ない、なんせその人物と直接会っていたニニャの証言であっても数年単位で過去であることであり、当時と比べて外見が変化している可能性だってある。勿論悪い意味である為、出来る事ならそうなって欲しくはない。次にその貴族を調べようにも、この国では到底不可能なことであり、もしもそれでもやる気であれば犯罪者になる必要がある。が、これは最後の手段にしたい。それまでは何とか他の方法を試していくしかない。

 

 (どうしたものでしょうか?)

 

 このままでは手詰まりであることも確かである。それを考えながらしばし、歩いていると、ルクルットが声を上げる。また美女でも見つけたのだろうか?

 

 「あれ、人が集まってんだけど、何かあったかよ?」

 

 見てみると確かにその通りであり、老若男女問わず見ただけでも30人以上が集まっているようであった。

 

 「王都ではこういった催しがあるもの何でしょうか?」

 「どうなのである? ルクルット」

 「何で俺に聞くんだよ! こっちも聞いた側だっていうのによ」

 

 本人はそう言うが、何となくこの男であればこういった事に詳しいとダインは勝手に思い込んでいたらしい。いや、それは自分もそうか。なんせ、この男。女性を口説く為の材料だと言わんばかりに、見晴らしの良い丘だとか、鉱石にアクセサリーといった物を扱っている店に雰囲気のある飲食店、それも高級所などその手の情報を集めていたのだ。

 

 「おいおい、ペテル。それはエ・ランテルでの話だぜ」

 

 何も言っていないのに、考えてことに対する返答。それが出来る程には自分たちの付き合いは長いものらしい。思わず笑ってしまう。それを見て、同じように笑う2人に更に納得がいかないという様子を見せるルクルットと大変な道のりの中、ほんの少しだけ和やかな時間を過ごすのであった。

 

 それから仲間内での軽口を終えた後、改めてその人だかりを調べる。というより、何の集まりであるか聞いてみることにした。純粋な好奇心もあれば、目的に近づく為に少しでも情報が欲しかったというのもある。

 

 「すみません。少しよろしいでしょうか?」

 

 適当に目についた老人に話しかける。出来るだけ不快感を与えないように気を付けたが、その必要はなかったらしい。気さくに返してくれた。

 

 「何じゃい?その装い、冒険者チーム。それもミスリル級とは中々の腕の様じゃのう。実を言えば、わしも昔はオリハルコンまで登り詰めた者でな……」

 「……はあ」

 

 後ろで、「本当かよ?」なんて言っている奴に軽く裏拳をくらわしてやって黙らせる。確かに老人の言葉が本当かどうか確かめる術はないし、ペテルが見た限り、目前の人物がそうであったかと問われれば微妙な所だ。根拠を上げるのであれば、その手のひらであろう。冒険者といっても色々な職業があるのは自分たちのチーム等も参考にすればよく分かる事だ。

 

 しかし、それでも共通点があるのだ。それは手の使い方。といってもそんな大仰なものではなく、単に使う頻度、あるいはその使い方だ。冒険者と言っても主な仕事はモンスター退治である。

 

 よって、一般の人々よりも常に持っているものがあった。そう武器だ、剣にしたって、弓に打撃武器、魔法を使う為のスタッフにしたってそうだ。戦闘中にうっかり滑らしてしまい。それで殺されたとなれば、死んだ後もしばらく笑いものになる事は決まりである。死者に対してあまりにも失礼ではないかと思われるかもしれないが、それは同時に間違ってもそんな事でくたばるなという教訓なのだろう。

 

 だからこそ、自分だって今まで一度も戦闘中に武器を落としたなんて事はい…………というのは、見栄になってしまうが、それでもそんな事にならないように常日頃注意をしているのは、確かである。さて、そこまでしていれば、利き手のひらというものは多少なりとも変質してしまうものである。マメができたり、少しばかし形が歪になったりとだ。

 

 そして、老人のそれをみれば、とてもそう言った痕跡は見られずむしろ綺麗なほうであり、この人物の正体にもある程度の目途はつきそうである。が、それでも例外はいる。モンクと言った格闘家に、それに魔法詠唱者にしたって、あのナーベのように無手である人物も珍しくない。

 

 (確か)

 

 この王都最強と名高いチームにもそっちのタイプの魔法詠唱者が居たはずである。ともあれ、どれだけ考えても答えは出ないし。今は話を聞くほうが優先である。その為にはたとえ、見栄から生まれた戯言であろうと聞き流す必要がある。

 

 「…………あの時の激闘と言ったらの~……と、ついつい自慢話が長引いてしまったわい。して、何の用かの?」

 

 とっくに聞き流していたらしい。「今、自慢て思いっきり言ったぜ」なんて言っている奴に再び裏拳をお見舞いする。ここでこの人物の機嫌を損ねるのはよくない。他の人に声をかけるのだって二度手間であるし、何とかお年寄り特有の長話を聞いてここまで来たのだ。何とかここで聞いておきたい。

 

 「あの、これは何の集まりでしょうか?」

 「ん? ああ、これか。これはの……」

 

 そして老人は語ってくれた。何でもこの集まりの先に一つの屋敷があるという。それ自体は別に何ともない普通の話であろうが、つまり普通ではない何かがあると言う。その屋敷はいわゆる賃貸式であり、当然借りるとすれば、どこかの貴族であろう。その話になって、ニニャの顔が曇ったので、ここで聞くのをやめる事も選択肢にいれるが、直ぐに首を振ってその必要はないと態度で示してくれたので、そのまま話を聞くことになった。

 

 普通であれば、貴族本人が借りているだろうと誰もが思うだろう。しかし、その屋敷に滞在しているのは老齢の執事に年若いメイドの2人だけであると言う。

 

 (確かに)

 変な話だと思う。

 

 どうして使用人だけで借りているのか?噂だと、何でも仕えている主人からの使いでこの街に来ているという事であった。というか、実際に本人達がそう言っているのだと言う。

 「それは、分かりましたが。それとこの集まりに何の関係があるのでしょうか?」

 「そうじゃそうじゃ、そこを言わんと何も分からんはなぁ」

 「大丈夫かよ。この爺さん?」

 3度目の裏拳が入った感触が利き手に少しばかしの痛みを訴える。流石に3回はやりすぎであったろうか。ともあれ、話の続きに耳を傾ける。

 

 「その主人の娘、つまりは貴族令嬢じゃな。それがその屋敷に来るという事で」

 「一目見ようと集まった野次馬ということですか」

 「そうじゃ」

 たかが、令嬢一人にこれだけの人物が集まると言うのは変な話である。が、それだけの理由があるのであろう。そこまで金をかけて何かをしている貴族の娘がどんなものであるかという興味、本来であれば平民が貴族に興味を持つだなんて、滅多にない事であり、むしろ関わりたくないというものであるが、それにも理由があるそうだ。

 

 「お! すげえ美人だぜ、あのメイド」

 

 真っ先に食らいついたのはやはりこの男であった。美女にはとことん目がないようである。それと同時に感心する。女性に対する一種の執念とあわせて二重の意味でだ。確かに遠目でも件の屋敷の前に2人の人物が立っているのだ。そこまで馬車が通る最低限の道は空いており、というよりその道を人で作っているのではないかというほど野次馬が集まっているのだ。

 

 そしてそれだけ集まった人々の外側に自分たちはいる。つまり、その2人まで相当距離があり、目視する限りでは自分には彼らの身に付けている服からそれぞれの役職を察することしかできないのだ。流石、チームの目に耳は伊達ではない。

 

 「本当美人、いや、女神だ! ナーベちゃんや、ルプスレギナちゃんに匹敵するぜ!」

 興奮したように声を上げる彼に、自分を含めた残りの者達は呆れたように、あるいは諦めたようにため息をつく。これに慣れていないと彼と付き合っていくのは難しいのである。ルクルットはそこで思い出したように微妙な顔をした仲間たちに声をかける。

 「ニニャの姉貴探しが終わったらよ、またカルネ村に行かねえ?」

 「ルプスレギナさんですか」

 「そうだよ。ルプスレギナちゃんだったらワンチャンありそうなんだよな」

 「無理ですって」

 「断られるのがオチである」

 辛辣な言葉を投げかけられたと言うのに彼はめげる事を知らないようである。さらに先ほどの老人も話に加わってくる。

 

 「ほう、そんなに美人なのか? その村に居るという娘も」

 「ああ、マジ美人。そういや、ルプスレギナちゃんもメイドだって話だったな」

 「そうですね」

 

 ふと、ペテルの中で少し違和感が働く。今、大衆の中心に立つ女性も、あの時出会った人物も。そして、今や英雄となった人物の仲間、いや、厳密には彼女も使用人であるらしい。確証はないが、その可能性は高いということであった。

 

 それらの人物全てに共通するもの。

 

 1つ、余りにも現実離れした美貌を持つ女性たち。

 

 2つ、彼女たちはいずれもある人物に仕えている。目前の女性であれば、どこかの貴族に。ナーベであれば、モモンに、そしてルプスレギナであれば、あの村に住む少女に、もっと言えば少し込み入った事情があるようであったが。流石に詮索することはできなかった。それには少女の両親がいなかった事が関係している。

 

 (不思議なものです)

 

 彼女たちのその美しさであれば、使用人よりもむしろそれに仕えられている立場、それこそ令嬢の方が似合いそうである。それ程なのだ。そしてそれだけではない。辛うじて金髪だと分かるあの女性はどうか分からないが、他の2人は、その実力もかなりの部類に入るのだ。天は2物も与えるとは、正に彼女たちのことではないだろうか?

 

 「いやー羨ましいぜ、あの美人メイドの主人」

 「まったくじゃ」

 ルクルットと老人はまだ盛り上がっているようである。

 「だって、そうだろ? 主人であれば」

 「あの美人を抱き放題という訳じゃな」

 

 確かにその認識は間違ってはいないだろう。お金を払っているのだ。それ位は雇い主の特権であろう。しかしそれは、男ならではの夢だ。生憎とこの場ではあまりそれは好ましくない。

 

 「ルクルット! ご老人もそこそこに」

 「たく、ペテルは固いなー」

 「こういう奴に限って、頭の中は煩悩まみれなんじゃ」

 

 何だか偉い風評被害を受けている気がする。と、そこで周囲の空気が変わる。見れば、誰も彼もがある一点に目を向けていた。それは王国ではよくみる馬車である。木製の車輪にまるで家が乗っているような型。それは買うにしても一時的に借りるにしてもそれなりに金額が掛かるものであり、財力がある家の者が乗っているという事であろう。

 

 御者を務めているのは、変わった色合いの髪を持つ少年であり、身に纏っている服が先ほど見た老人と同じものであることを見ると彼も使用人の一人であるのだろう。そうなれば、誰が乗っているのか予想もつく。

 「あれに乗っているって訳か」

 「そのようじゃの」

 すっかり意気投合した様子の2人が続ける。ここまで来れば、見ていくのも悪くはないかもしれないとペテルは考えるのであった。やがて、馬車は屋敷の前に到着する。

 

 

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