作者なりに「読みやすい」小説を目指して書いています。もしも読みにくいと思ったら遠慮なく言ってください。
では、最新話どうぞ。
人々が注目する中。馬車から降りて来たのは、正に絶世とも言える美少女であった。本来であれば、ある程度小麦色になっているはずの肌は白く。その色合いはこの街では金が掛かっているロ・レンテ城、その外壁のようであり、つまり人とは思えない程の輝きを放っているという事である。
その瞳も美しく、これが宝石であればきっとこの世のどの鉱石やその類の品よりも価値があるであろうと、その場の全員に錯覚させる程だ。
身に纏っているのは純白のドレス、それも単に布をその形にしたものではなく「ジョップ」にしたって布が4枚程が重なっており、その一層一層に丁寧に薔薇やその葉をあしらった刺繍がある。
それは一目見るだけで大小あわせて17くらいあるが、驚くことにその全てが全く違う形であるのだ。満開に開いたものが2つ並んでいるもの。つぼみの状態であるもの。それにしおらしく枯れてしまったものとその種類が豊富な事もあるが、それらを一つ一つ形作るにも相当な労力に時間がかかっているのは素人目でも明らかだ。
「ローブ」にしてもレースが所々にふんだんに使われていて、袖の部分は少女の腕よりも若干太く、ゆったりとしてその様相は羽衣を纏った天女のそれにも見える。頭には花と羽が3種類ずつ違う飾りがつけられたピクチュアハットとこれもドレス同様に作りこまれた品であることだろう。
そして、それは同時に少女の家の財力を十二分に示すものでもある。これだけの衣装だ、きっと貴族御用達の高級仕立屋に並んでいるものではなく、それ自体を単体で注文したものであるのだろう。そうなればきっと値段は馬鹿にならない訳であり、それが全てを物語っている。
しかしながら、それでも恐ろしくなる。それは驚愕というものだろう。何故なら、それだけで美術品とも言えるそれらの品々でさえ、少女の付属品にしかならない。それだけの美をこの少女が誇るという事である。
何よりこれ程の美麗さを誇りながらその年がまだ十代前半であるという事がさらに人々を驚かせる。この年でここまでであるのは、かの黄金の姫君と良い勝負ではないかと、そして人々は勝手に期待してしまう。きっとこの少女はいずれ、この国でも3本指に入る美女になると。
その反応も人によって様々だ。少年は叶う事のない初恋を胸に抱き、少女は憧れの視線を彼女に向ける。若者、男であれば思わず胸が高鳴り、女であればその境遇の差、もっと言えば持っているものの差に嫉妬が僅かに芽生えているようである。
成人、それに中年の男性であれば、人によってまちまちだ。欲情してしまい、肉体の変化を周囲に気付かれないようにする者。何故か涙を流している者。女性たちは揃って感嘆の声を上げ、中には自分も昔はああであったと見栄か、冗談か判断に困る事を言いだす者もいた。老人達に至っては、やたら色めき立っている一部を除き拝みだす始末。彼女を女神か何かと勘違いしているのかもしれない。
それは彼らにしたって例外ではない。遠目でもその美しさ、先に見かけたメイドと比べると難しいものであるが、そこは衣装の差などから少女の方に軍配が上がる。その現実離れした一種の芸術、端整という文字を具現化したらああなるのではないかという姿に流石のルクルットも口を閉ざししばらく見とれてしまっていた。
それはリーダーであるペテルもそうであるし、貴族という者を遺伝子レベルで嫌悪するニニャにしてもそうであった。
(これ程の人がこの世に存在するなんて)
そう、それしか頭にはなく。それ以外の事が一瞬消え去ってしまい。しまいには、自分の存在そのものも忘れそうれなり、何とかそうならないよう意識を取り戻す。
「すげえ、美人。いや、まだ子供か」
「すごいですね」
「美の結晶と言うべき存在であるか」
仲間たちにしてもそれぞれに少女へ対する印象を口にしていた。ダインは彼らしく言葉で飾り、ニニャは純粋な称賛を口にして、ルクルットの言葉は気にかかる。大人であれば彼女にも声をかけるつもりでいたのだろうか?
(本当)
その点であれば、たくましいと思う。みれば、令嬢はメイドと執事と何やら話し込んでいるようであった。周囲の視線は全く気にならないらしい。そこで、少女と目があったような気がした。
(???)
一体何であろうか?自分たちはどこにでもいるような冒険者のチーム、というのは少し無理があるか。ミスリル級となれば、その数も限られてくるのだから。いや、それよりも。
(見えている?)
彼女たちがいる所から、ここまで相当な距離があるはずである。自分たちの首元のプレートはおろか、そもそもこの人込みの中、その装いだって見るのは困難である。
その少女は何を考えているのか、こちらの方向に完全に体を向けると歩いてくる。その先は人でできた壁であるが、そんなものはお構いなしといった様子である。いや、実際その通りであった。まるで、見えない腕がそうしているのか、はたまた少女の持つ独特な空気がそうするのか、人々が左右に分かれる。
やがて、自分たちのところまで歩くにはしっかりと間が出来上がり、そこを少女と彼女に仕えているであろう3人の人物達が歩いて来る。後ろから追いかけている――あくまで優雅に歩いて――人達、特に老執事の顔は心なしか慌てているようであった。
目前まで来た少女を見て、やはりこれは現実ではなくどこかで眠りこけた自分が見た夢ではないかと疑いたくなってしまう。至近距離で見た彼女、どこかの地方から来たであろう令嬢の規格外を通り越した美に呼吸さえ忘れそうに成程であった。
少女が口を開く。
約30分前
その部屋には羊皮紙が溢れていた。それは、現在ここにいるドレスを着た少女とその目前に座るスーツを着た青年の2人が散らかしたくてそうした訳でも、単に物の整理整頓ができない。という訳でもなさそうだ。
それは、それだけこの2人がそれらの整理に追われている。あるいは限界までとことん突き詰めているからであろう。少女が口を開く。
「後、何分ほどでありんしょうか?」
本来、それは貴族令嬢から出る言葉では決してないけど、現在は他に誰もいない為。階層守護者としての言葉遣いも許されてしかるべき、と主張しているようであった。
それを聞いた青年にしてもあまり咎めるつもりはない。目の前にいるのは親友から頼まれてもいるが、同時に今の自分が仕えるべき主人であるのだから。
「もう、25、6分と言った所ではないでしょうか?シャルティア様」
そう、ここが唯の部屋ではないことは常に揺れている事と窓から見える外の景色が変わり続けている事からここが馬車の中であると証明していた。
「あら、そうでありんすか」
それを聞いた少女は、というより女性と言うべきか。幼いのは見た目だけであり、純粋に生きた年月で言えば墳墓の中でも上位に入るのだから。
そんな女性ことシャルティアはそれだけ言葉を返す。しかしながら、何か不満を抱えているようであった。いや、それは彼女自身が分かっている事であった。
部屋に男女が2人だけ、そんなの嫌でもそういう事を期待してしまうし、客観的に見てもそう思う者がいるであろう。だからこそ、この場にいるのが自分とかの主ではないことがどうしようもなく嫌なのだと。そこで、目の前に座る青年を見やる。彼もまた多くの資料に目を通している所であった。
(この男)
以前、彼とのやり取りで彼は自分の味方だと言っていたのを思い出す。それは主の計画と同時進行で墳墓にて行われているもう一つの戦い。そう、正妃争いだ。自分は主の役に立てているし、信頼されてもいるというのは、現在自分がこの場に居ることが何よりの証拠であろう。
それにこれから行うのはいわば未知の領域への調査。もしかしなくても、主と同格の存在であるプレイヤーを警戒しなくてはいけないし、そうなると墳墓所属でも自分の実力は折り紙つきであると自惚れ抜きに言えることだ。その気になれば、この青年も10秒足らずで下せると簡単な事実のように言える。
(本当に?)
そう、ここまでの事を考えてしまうのは、彼を信用できていないという事であろう。実際、ここまで主からの信頼があると確信があるにも関わらず。正妃争いに関してはアルベド、あの統括に遅れてをとっている。所かさらに差をつけられているような気がするのだ。時折見かける主の視線が彼女に向けられているのを嫌でも解ってしまうのだ。
それは、彼女の身体能力の高さに愛する主への想いゆえに気づく些細なものであるが、それが彼女自身は気に食わないと思う。意中の異性が別の同性とそんな空気であるのは、見ていて辛いものであるし止まっているはずの心臓が締め付けられるようである。このままでは、いずれ彼女に完全敗北してしまうであろう。それだけは認める訳にいかない。
「どうすれば、彼女に勝てるでありんしょうか?」
創造主たるぺロロンチーノにそうあれとされた言葉遣いをしながらも墳墓の者の名前を出す事はしない。一見矛盾しているようであるが、これにもちゃんとした理由があるのである。喋り方であれば、最悪令嬢のおかしな癖であると言い訳が立つが、人名に関してはその限りではない。この事は特にデミウルゴスから五月蠅く言われていた気がする。
何でも、シナリオ――計画を潤滑に進める為に、各人が現地で振舞う役柄とそれに伴う偽りの過去に人生である――には、無数の展開が用意されており、例えばモモンとカーミラが敵対する展開。あるいはブラッドフォールン嬢とアインズ・ウール・ゴウンは親子であり、モモンが婿養子としてその家に入るもの。はたまた、その主自身と自分が演じているお嬢様は赤の他人であり、自分が主へと嫁ぐ展開もあるのだとか。
どこをどうすれば、そうなるのか分からないし、何よりそれらを用意しているのは主自身が創造した彼であると言う。それを踏まえた上で自分の希望を述べるならば、出来る事ならそんな展開にはなって欲しくないといった物だ。そんなまがい物めいた張りぼてのような関係ではない、心からあの方に自分を求めて欲しいと思う。その為にも、何とかアルベドに勝つ、今は追いつく方法を考えなくてはならない。
「そうですね。具体的な方針を示すよりも足元を確認することからしてみましょうか」
「確認?」
「はい、彼女とシャルティア様で最も違うのはまず、身体つき。つまりは体格でございますね……と、そんな目で睨まないでくれますか。身の危険を感じますので」
「それは失礼しんした」
殺意を抱いたのは本当である為、謝罪はする。だけどそうなるとやはりアルベドとのその差が酷く悩ましい。自分の外見は10代前半の少女であり、それは肉体にしてもそうであり、細くはあるが同時に女性としての凹凸はあまりにもない。しかしながら、だからと言ってまったく勝算がない訳でもない。かつて、ナザリック地下大墳墓とギルド、アインズ・ウール・ゴウンが全盛期であった頃の会話で聞いた事があるのだ。
(ロリコンって言いんしたね)
そう、かつての至高の方々にはそういった外見、あるいはその年の少女を妻としてめとる文化があるのだとか、ないのだとか。それに則れば、自分にも十分、女性としての魅力はあるはずであるし、何よりこのような姿に創造してもらったのが何よりの証ではないか。
結局の所それは、アインズが何よりも恥ずべきであると考えていることの一つでもある。確かにその界隈でその手の趣味があるのは彼も理解していたし、別に毛嫌いするつもりもなかった。実際ギルメンにも、明らかに2桁にもなっていない少女キャラ相手に「オレの嫁!」なんて高らかに恥ずかし気もなく叫んでいた奴がいたのだから。
しかし、ここに来て状況は変わってしまった。これらが許されていたのは、あくまで2次元上。つまりは、コンテンツであり、虚空であったから許されていたのだ。
それが現実のものになってしまった今ではそうもいってられない。もしも、そんな趣向を持つ。あるいは向こうからこっちに持ち込んでいる、それをやっているプレイヤーなんていれば、彼は惜しげもなく消費アイテムの数々に経験値を削る魔法を使って殺すことであるだろう。
それでも彼が迷う事があれば、そうなっていた2人の人物の関係性であろうか、仮に一方的に成人男性が幼女を性的に犯しているなんてなれば、分かりやすくその男を殺せばいい。しかし、もしもその少女が望んでその関係であれば?そもそもどうして年端もいかない少女がそんな感情を抱くのか?と、考えれば考える程、難しいものである。
常識的に考えれば、それ自体が異常であると言うのは簡単だ。しかし、世の中そんな単純なものではないと言うのは彼自身が知っていることであった。故に、彼女が危惧しているよりも案外かの支配者はシャルティアの事も気に掛かっているのだが、それに彼女は気付かない。
「かの方の好みを変える。というのは、流石にまずいでありんしょうしね」
「それもありますが、そうそう変わるものではないかと私は思います」
「そうでありんしょうね」
投げやりな返答が、彼女の心境を現れているようであった。生きている者。特に知性を有するもののその手の趣向が変わりにくいのは有名な話である。それは生まれつきの
「ひとまずは認めましょう。肉体的美であれば、貴方様は彼女に大きく差があり、それは埋めようのないものであると、……あの?どうして傍らの剣に手をかけているのでしょうか?」
彼が言うように、無意識的に傍に立てかけてある剣に手が伸びていた。彼が言葉をかけてくれなければ、そのまま衝動的に殺害していたのは明らかであり、無意識の動作であったという事だ。
それを認識した彼女は特に慌てるでもなく手を引っ込めると彼に答える。
「何でもありんせん。そうなると、後、出来る事は……」
「はい、他の所で何とか差を詰めるしかないかと」
そうであるならば、何ができるであろう?
「そうね、なら何がありんしょう?」
自分では思いつきそうにない為、ひとまず彼にその答えを任せてみる。曲がりなりにもあの悪魔と同等の知能を誇るのであれば、何か有効そうな手段を出してくれそうである、が。
「…………」
「何で急に黙るのでありんしょうか?そんなに私には女性的魅力がないと言いたいのでありんすか?」
今度こそ彼女は剣をとり、鞘から取り出す。ドレスを纏った少女が西洋風味の剣を手に持つその姿は現実ではない、どこか演劇めいたものであった。それだけ非常識とも非現実的とも言える。そしてその光景を前にして、ようやく青年も自分の対応が不味かったと遅まきながら気づき、慌てて言葉を紡ぐ。
「これは、失礼しました。余りにもシャルティア様の魅力が多すぎましてどれから言葉にするか、数秒程迷った次第でございます」
本当なのか?と疑いながらも彼女は質問を続ける。もしもそれが事実であれば、直ぐにでも答える事が出来るであろうと。
「なら、何から始めんしょうか?」
「それならば、茶会などいかがでしょうか」
「茶会?」
「はい、シャルティア様は紅茶に並々ならぬ拘りを持つお方でございます。ので、かの方をその場に何とか着いてもらい、存分にシャルティア様の腕を振るってはいかがでございましょうか」
確かにそれは、悪い考えではないように思える。と、同時にこの男をもっと試してみたくなる。ほかにどんな方法があるかと、先ほどの言葉は偽りではないと疑念から来るものであるのだろう。
「悪くありんせん。では、他にどんな方法があるのか、聞かせてくれるでありんしょう?」
「後は、……そうですね。芸術鑑賞などどうでしょうか?シャルティア様はその手の話にも造詣が深い方でございますので」
「一応、聞きんすけどその作品はどこから来るんかえ?」
まさか、あれを主に見せるなんてこいつは言わないであろうかと疑い半分で問いかける。が、それは杞憂に終わる。
「安心してください。以前のものでもなくても私に、それと彼の力を借りればそこそこの物ができるかと」
「それならいいでありんすが」
確かに、彼の持つ技術であればその方向に応用することもできそうである。実際、彼はあれから自分の作品に人間を使う事を一切辞めたのだから。代わりに彼が手をつけているのは、一般的な家具作りであったはずだ。かの悪魔に言わせれば丁寧でいて、使い心地も快適な品々であるとか。
(私も)
頼んでみようか?そう思うのは、彼女の趣味による所が大きい。先ほど2人が話していたようにシャルティアは紅茶に少々の思い入れがある。それは茶葉の扱いや入れ方に飲み方の作法もあるが、それらを入れる器、ティーカップであったりそれを載せるソーサーに出来た飲料をかき混ぜるスプーン等、食器の類だ。それだって気分で変える事はあるし、入れる紅茶の趣旨にあったものを使う。
そうなると、その数は必然と増え、いくら魔法があると言っても限度はあるし、それだけの品の数々である。しっかりとした棚を用意して、そこに美術品のように並べるのも見栄えがよくていいかもしれない。ともあれ、話を次に続けなくてはならない。
「ええ、それは良さそうね。では、どうやってかの方にその席について頂きましょうかえ?教えてくれんしょう?」
「…………」
「何で黙るのかしら?」
そう、彼が先ほどから上げているのは、催しの話であり、自分の魅力をいかに伝えるかではないではないか?こいつは話をそらそうとしているのでは?という疑念が彼女の中で固まりつつあった。つまりそれが意味合いすることは、
「やっぱり私では魅力が……あの御方に相応しくないという事なのね」
怒りよりも悲しさが勝っていた。この想いは本物であるし、その為であれば何でもできる。その覚悟もとうの昔に決めたている。ただ、その方法が分からないのだ。
(まずい、流石に適当言い過ぎたか)
別に全てが全て、その場の勢いで言った訳ではないがヴェルフガノンもその点に反省しながら、何とか策を講じようとする。しかし、難しいのだ。彼女には悪いが、少々分が悪い。その理由は分かっているが、それを言った所で彼女の宥めにならない。自分が思うにスタートがよくないのだ。アルベドの場合であれば、あの出来事が良くも悪くもいい効果を生んでいる。
(吊り橋効果)
とはまた違うかもしれないが、その時のやり取りが主と彼女が互いの認識を変えるのに一役かっているのもまた事実。
対して彼女はどうであろうか?親友から聞いた話では、夜空の会談の前、異変直後の事だ。第6階層にて、一部を除いた守護者召集の時のことだ。彼女は己が創造主が残した手紙の内容を引っ提げ、主に言い寄ったという。
(……)
どうすれば、良いものか。何というか。
(大分)
印象が変わるのは仕方のない事ではないだろうか? と思ってしまう。方や涙の告白、方や欲情顔で迫る。彼は、決して表に出さず頭を抱える。
(どうすりゃあ良いんだよ。マジで何も思いつかないぞ)
だからといって、何もしない訳にいかない。親友の頼みもあるし、自分だっていつか主の子供に仕えるのであれば、その人数は多い方が良いに決まっている。落ち着いて考えてみれば、何もまったく彼女に勝機がない訳である。
(あの話もあるしな)
アインズ・ウール・ゴウンは絶対の支配者であり、自分たちが生涯どころか己が存在すべてをかけて仕えるべき存在であり、同時にプレイヤーという存在がいなければ何者にもなれない不完全だった自分たちを最後まで見捨てなかった大恩ある人物でもある。
しかしながら、その御方は自分たちとの距離を縮めてくれてもいる。実に優しき御方だ。例えば時折、簡単なゲーム等は親友を始めとした数人が行っているし、自分もまたあの御方に指南していることがあるのだ。配下ごときが何かをあの方に教えるというのは、不敬であるかもしれない。それでも主は良しとしてくれるし、何より教えがいがある。
(アインズ様って、呑み込みが早いんだよな)
やはり、そこは至高の御方という事であろうか?
それはアインズ自身の適正と言うべきであろうか、彼は元の世界では営業マンであった訳であり、準備した上での事にはめっぽう強い。その一方で、突発的なことにはまだ弱いようであるが、それもいずれ克服することであろう。さて、そんな彼は自作したマジックアイテムの件からも分かる通り、込み入った作業であればこなれているということであり、ヴェルフガノンが支配者に教えているのもそう言ったものであるということである。
彼は記憶を掘り起こす。そうやって主と臣下たちの距離は近いものであり、その中にこんな話がある。自分は同僚であるあの少女から聞いたが、双子の階層守護者が主と一夜を共にしたというものである。
(と、駄目だな)
この言い方ではまるで、主が子供相手にそういった事をやる変質者ではないか。無論主が求めるのであれば、それもやむなしであるが、現在はむしろそう言った事を忌避している所があるのだ。要は、親子が一緒に同じベッドで眠るというよくある話だ。
本題はここからだ。主がそれを許容したのは相手がその2人であったからであり、もしも目前の女性が同じことを頼めば、おそらくは拒否されてしまうだろう。彼女は悲しむかもしれないが、これは喜ぶべきことである。
(つまり、あれだよな)
かの支配者は双子の事は自身の子供のように思っているのであろう。そしてこの女性は、外見こそ先の2人と変わらないが、大人の女性として見ているという事実であるのだ。
「大丈夫でございますシャルティア様。かの方は貴方様の事を大切に思っていますよ」
その言葉にいつの間にか俯いていた彼女は顔を上げる。そして向けられるのは、並の人間であれば、それだけで心臓が止まりそうになる程、悲憤に染まったものである。その瞳が自分に対して言っていることもすんなりと理解できた。
適当な事を言うな。
それであろう。ここで怯めば今度こそその手に持った剣で自分の首は飛ぶことであろう。だからこそ、慎重に言葉を続ける。
「かの方はあの時、貴方様を抱きしめたではありませんか」
「あ」
それを言われたシャルティアは思わず自分の頬を両手で覆っていた。その際に彼女の手から離れた武器は彼が素早く回収して、適当なところに放り込む。出来る事なら二度とその面見せるなと言いたげな動作であった。
その間も彼女は思い出して、そして涙を流していた。そう、あの時だ。何か嫌な予感がして、主の元へと戻った時だ。あの時の幸福感は忘れようがない。
「それに、シャルティア様が信頼されているのは現状を見ても十分に言えることでございます。もっと自信をもってください。今回の件だってお褒めの言葉を貰ったのでしょう?」
それも事実である。あの時掛けられた愛しの主の言葉ももう忘れる事はないであろう。
「そ、そうね。まだ、これからよね」
「ええ、その通りかと」
そうだ。まだまだ、決着はついた訳ではないしそもそも主が誰かを娶るとすれば、まだずっと先の話だ。ならば、今は目の前の事をやっていくだけである。今回、自分が達成すべきはある家との接触、それからあの場所の調査だ。
(そうよ。まだ勝負はついていないわ)
ひとまず何とか気を取り戻す吸血鬼である。
(どうにかなった)
その様子を見て、ヴェルフガノンもまた安堵していた。これから重大な仕事を控えているのに、そのプロジェクトリーダーがこれでは差し支える。自分にもある程度の原因があることは分かっているが、彼は都合よくそれから目を背けていた。
(この方が比較的単純な方で)
本当に思う。失礼を承知でだ。これが、例えば。
(マーレ様だったらな)
もっと大変であったろうと間違いなく言えるのだから。それだけではない。今の話では結局の所、シャルティア・ブラッドフォールンの魅力をアインズ・ウール・ゴウンに伝える具体的な方法は出来ていないのだから。自分ではそもそもそんな話は専門外と言える。
(俺に仲介人なんて、無理なんだよ)
そもそも自分の専門分野はあくまで情報収集に諜報活動としてのものだ。その為、持っている知識に自分の脳だってそういった事に特化していると言える。そこに感情なんてものは不要だ。邪魔にしかならない。思えば、彼女があたっていた件だって親友の目論見から外れていたというではないか。
(だったら)
何もせずに流れに任せるのが一番ではないだろうか?と彼は思う。しかし、親友が危惧していることも実際に起こる可能性はゼロではない。
(まさか)
正妃争いで、墳墓内での内戦なんてなれば、主は悲しまれるだろう。そうならないようにする為の策でもある。ひとまずは、あまり差が開き過ぎないように頭一つ飛び出た統括以外の面々にそれぞれついている訳である。それはこれから向かう所に一足早く戻った彼女も含まれている。
(ああ)
思わずため息が出そうだ。彼女に関しては現在、計画の中枢たるあの村にいる姉からも強く言われている。
『ヴェルフガノンなら心配ないっす!下手したり、ソーちゃんが泣いたらぶっ殺すっすよ!』
(簡単に言いやがって)
どうして悪魔の眷属とでも言うべき自分が、んな恋のキューピッドみたいな事をしなくてはならないのだ。と彼は珍しく苛立ちを募らせていた。それだけ、この任務が大変なものであるという事であろう。
「あら、そろそろみたいね」
すっかり調子を取り戻して最早守護者ではなく、令嬢としての姿となった彼女の言葉だ。
実際、馬車は間もなく目的地である屋敷前へと到着しそうである。そこで彼女たちは一度周囲を確認する。馬車が行き交うなんてさほど珍しい光景ではないらしく特に自分たちの事を見ている者はほとんどいない様子であった。
(プレイヤーの影もなさそうね)
こんな街中に潜むという考えはないのか、あるいはとっくに調べる事は済んだのか、それとも別の大陸に渡っているか、それは墳墓にて共有している情報からの推察だ。
(海上都市、浮遊都市)
主はいつかはそこにも行くつもりの様であるし、その時は何が何でも同行すべきだ。その為には一定の信頼は必要である。だからこそ、注意深く周囲を見回し、問題がないと判断する。
「では、ベル」
「畏まりました」
彼女に声をかけられた彼は返事を返すと、次の瞬間には、扉を開き、この時になるとそこまで馬車は速く走れるためではなく、精々時速20キロメートルと言った所か、特に室内に変化はなく、そんな場所を見送りながら彼は躊躇いなく仰向けに倒れるように身を投げ出す。そのまま彼女の視線から消えた。
次の瞬間には、扉だけが何事もなかったように閉まる。表向き、令嬢一行は、その本人と老執事にメイドに少年執事の4人という事になっているのだ。彼には存在しない存在として動いて貰っている。そういった人材がこちらは必要であるとの判断であるし、何より彼にはその方向が向いているし、何よりの理由はあれだ。
(あの傷跡はね)
流石に彼の顔の傷跡は理想的な貴族令嬢のイメージを傷つけかねないという判断からこうなったのだ。やろうと思えば、魔法なり、メイクでなんとか出来そうであるが、そんな事をするよりは裏方と動いてもらう方が有益であると会議で決まったことだ。
(そろそろね)
一応、現地には先にセバスとソリュシャンが居るはずである。ここでは一般的な、それも少々戦闘の心得があるメイドとなっている彼女だけが先に戻ることになったのは、念の為現地の様子を確認する為であった。それはどちらかと言うと、現地での自分たちの認識を確かめるといったところ結果、その存在がそれなりに話題になっているとあり、ならば少しばかし、盛大にしてやろうと今回のような形で王都に戻る事になったのだ。そしてその目論見は見事果たされたと言えるだろう。それから彼女は周囲に広がっている羊皮紙を丁寧に纏めるなどして時間を過ごすのであった。
やがて、馬車がその場で停止したのを感じた彼女はそれこそどこにでもいるような令嬢のようにその場に降り立つ。周りからの視線は感じるが、その中に彼女が期待していたものはなかった。
(これだけの騒ぎだから)
今回の目的たる人物たち、あるいはその知り合いでも良かったのだが、その気配を感じることはできなかった。いや、そもそもその相手の特徴を知らないのにどうやって探すかと言う話であるが、その点に関しては心配はない。
以前、野盗たち、そして期待外れで終わってしまったが、この世界ではかなりの水準にある男との戦いから得た経験からある程度の気配から自分の周囲に居る者たちの実力を測る術、究極的に言ってしまえば、一つの勘を獲得しており、それで見てみるとこの場に彼基準の者はいないようである。その事に少し肩を落としながらも彼女は歩き出す。
「お待ちしておりました。シャルティア様」
「お嬢様、お変わりないようで、セバスは嬉しく思います」
この場での役柄に従って自分に頭を下げる2人に彼女もまた言葉を返す。間違っても素が出てはいけないと、気をつけながら。
「ええ、出迎えありがとうソリュシャン。それにセバスもごめんなさい。長らく任せてしまって」
「何を仰いますか、旦那様からのご要望に答えようとするお嬢様のお姿を見れば、私などがやっていることは些細なことでございますので」
「そういうものなの?あら、そう言えばエドワードはどうしたのかしら?」
ふと気になったことだ。彼は御者としてここまで自分と来たはずである。そして、馬車の役割は終わったのだから。一刻も早く馬車を既定の場所に返して、セバス達が借りた屋敷には馬小屋があるらしく、その場所も予め丁寧に見取り図を送って貰ったはずであるが、自分が馬車から降りて5分弱、少し遅すぎるではないだろうか?
そして、目の前の老執事を見れば、何やら気まずそうにしている。その視線は自分の後方、馬車がある方向に向けられている。見れば、ソリュシャンも同様で、こちらはどこか呆れている様子だ。
(???)
好奇心と不思議に思って、振り向いてみれば、何故かその少年は馬と格闘しているではないか、その変わった色合いの髪に食いつく動物を何とか振りほどこうと、しかしあまり力を出し過ぎれば殺してしまうので、その辺りの加減に苦労している様子であった。
「な、何で自分の髪を貪るんですか?!やめてください!」
「~~~!」
「やる気ですか?!しかし、あなたを殺すのは……運のいい奴です!」
(あれはしばらく時間が掛かりそうね)
同時に疑問が湧く、執事見習いである少年は確かにその手の能力は低い。それでも何とか日々切磋琢磨して、彼も成長しているのだ。これは別に場を和ませる為の芝居でもなければ、令嬢一行のイメージの一端のつもりでもない。
(これもまた)
どうしようもないことなのだろうか?と諦めるべきかもしれない。何も完全無欠な人物像を作る訳ではないのだから。そして再び、正面を向こうとして気づいた。
(あら?あれは、確か)
見えたのは、街中だというのに鎧を身に付け、武器を帯剣している者たち。彼らの事も情報共有で聞いていた。何より、主が気に入った人物たちである事もあり、彼女は衝動的に特に後先考えることなく歩き始めていた。
(シャルティア?)
執事見習いに気をとられたのが、セバスが彼女の行動に気付くことを遅らせた。そして、次に彼が胸に抱くのはどうしようもない不安であった。一体どこから来るのか分からない。しかし、ここで彼女を放置するのは危険だと彼は慌ててそれを追いかける。
しかし、走ることは許されない。今の自分は一流たる家に長年仕える元アダマンタイト級冒険者だった執事という設定だ。そんな人物が慌てふためく様子を大衆に見せるのは先の事を考えればよくはない。
そう言った彼の生真面目さがこの先起こることを止める事ができない最大の原因であったのは言うまでもない。
(シャルティア様?セバス様?それに、あれは…………ああ、そういう事ね)
ソリュシャンもまたそれに気付くが、その時には彼女は彼らの前に行ってしまっているし、今から止めるのはほぼ不可能であろうと彼女は判断する。かといって、何もしないのは問題であるし、ひとまず馬と格闘している少年は放置して、2人の元へと歩くのであった。
「あなた方は確か、『漆黒の剣』の皆さまでしたね」
シャルティアがその者達に声をかけたのは、興味からであった。最愛の主が気にいったのが、どういった人なのであるかという知的好奇心。話に聞く限り、あの男よりも弱いらしいが、それでもその連携は練度が高く。4人がかりでオーガを数匹狩っているという話であった。やがて、リーダーだと聞いていた男が自分に対して口を開く、少し動きがぎこちないようであるが、あるが何かあったのだろうか?
「ええ、そうですけど?あなたは一体?」
そこで、彼女は右腕を真っ直ぐ空に伸ばしてその場で優雅に一回転してみせる。その様は舞い散る桜吹雪のようにも、月夜に照らされた湖を泳ぐ白鳥のようにも見え、周囲の人々はそれに見とれた。本当に可憐な少女であると、それはシャルティアなりの演出でもあるが、同時に彼女本来の性格から来た行動でもあった。
何かとエロゲキャラがベースになっている彼女であるけど、こういった大衆の場での振舞を心得ている所もあるらしい。そして、彼女の狙い通りというべきか、貴族令嬢の名は王都を中心に王国中へと広まる事となるが、今すべき話ではない。
それを見せられた彼らもまたそれぞれに感想を抱いていた。
(本当に、これは現実なのでしょうか?)
ペテルはここが夢と現実の狭間であろうかと錯覚した。彼の人生観において、目の前の少女の美しさはそれ程であった。彼が過去にあった中にも彼女級の女性はいたが、それでもだ。それは身に付けているものの差もあったかもしれない。
(マジで、女神以上。くそ、あと数年ありゃあよお)
ルクルットは内心、心底悔しがっていた。本当に惜しいと思う。もしも、彼女があと4、5程年をとっていれば、どれだけ困難な道であろうと求愛をするつもりであったから。相手が貴族でも関係ない。いや、仮に彼女が実は化け物であっても自分は求愛の道を選んだであろう。
しかし、この少女はまだ子供だ。であるならば、手を出すのは流石に不味いと諦めるしかないのである。普段仲間達からあれ程、窘められ、時には殴られる彼であるけど、最低限の良識と常識は持ち合わせているらしい。
(これが、本物のお嬢様)
ニニャは彼女の姿に目を奪われたのもあるが、それ以上に自分の胸に広がる感情に気付いていた。それは嫉妬、生まれが違うだけでこうも違うのかと、そしてこの少女は生まれてこの方苦労したことはあるのだろうかと疑ってしまう。
それも無理はないことと言えるだろう。彼女が貴族にされた仕打ちいうものはそれだけのことであり、同時に思わずにいられない。自分と姉もその立場であれば、あんな不幸には合わずにすんだのではないかと。
(違う)
そこで、首を振る。あくまで周囲に気付かれないよに静かにだ。今の自分があるのは、拾ってくれたあの人もいるが、何より周りにいる仲間たちがいるからではないか。それを忘れてはいけないと、改めてその魔法詠唱者は気持ちを固める。
(絶対見つけて見せる)
生きているなんて確証はない。それでも諦める理由にはならない。何が何でも姉と再会してみせると。
(何と、美しき少女であるか)
ダインにはその言葉しか出なかった。単に少女の見た目だけではない。その振舞にひとつの神聖さを感じてしまったのだ。仕事柄、自分たちも貴族を見かける事はあったが、彼女はそのどれにも当てはまらないように感じた。
彼は自身の持つ職業柄か、何かこれから大きい事がこの王都を中心に起こるのではないかと予感を覚えた。
観衆向けのパフォーマンスを終えた少女は改めて、彼らに名乗る。
「改めまして、初めまして、私はシャルティア・ブラッドフォールン。あなた方の事はお父様から伺っています」
「そうなんですか?」
何とかペテルはその紹介に疑問交じりに返すのがやっとだ。そのやり取りに周囲の者達は騒ぎだす。気づけば、一緒にいた老人も何かと喚いていた。
「何じゃ?!知り合いだったのか!だったら、それを早く言わんかい?!」
いや、自己紹介をしてきたという事は、自分たちも初対面であるのだが、それにしても。
(彼女の御父上?)
さて、そんな人物と自分たちは会っただろうか?そもそも自分たちはこの間まで銀級であり、冒険者の定番通り、モンスター退治しかしてこなかった者達だ。そんな者達を気にかける貴族は彼の経験上存在しない。
それでも忘れている可能性も捨てきれない為、何とか思い出そうとするもやはりその記憶はない。思い当たるふしがあるとすれば、例の村での事だが、それでも当てずっぽうというのは失礼だと彼は考え、正直に少女に謝罪する。覚えてなくて申し訳ないと。
「失礼ながら、貴方様の御父上とは、どなたの事でしょうか?」
「へ?」
一瞬、少女から間抜けな声が聞こえたような気がした。きっと空耳に違いない。
その質問をされ、そして後ろを振り返るシャルティア。彼女が見たのは、顔を青ざめているセバスにどこか苦笑いしている様子のソリュシャンと、そして改めて、目前の彼らを見て、ようやく自らの失態を自覚した。
(ぬわああ~~~!!やってしまったでありんすうううう~~~~!!)
この時、貴族令嬢一行と彼ら冒険者チームには何も接点はないはずである。なのにこの有様だ。この瞬間、宝物殿の領域守護者でもある彼が用意した無数のシナリオ、その一部が確実に廃棄となった瞬間でもあった。