オーバーロード~遥かなる頂を目指して~   作:作倉延世

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 更新遅れて本当に申し訳ございません。複数作品の同時執筆もそうですが、ここ最近リアルが忙しくて、中々時間を取れないのもあります。
 言い訳ばかりでありますが、これからもよろしくお願いします。では、最新話どうぞ。


第9話 見つけたものは

 「…………そうなんですか」

 「はい…………以上になります」

 ニニャの話を聞き終えて、ラキュースの胸に生まれた感情は様々であり、彼女の心をかき乱す。燃えるような怒り。体中が火照ったように感じる羞恥心、それは「情けない」と思っているからであろう。そして、疑問を含んだ悲しみであった。それらが彼女を衝動的に動かそうとする。闇雲に背中の剣を振ろうとさせる。振ってしまえと頭の中で叫び続ける声が響く。それは、普段彼女が発症する病気の類ではない。

 (……)

 それを抑えるために右手で胸に手をあて、そのまま3秒時間を置く。目前の彼女は待ってくれている。その事に感謝する事を忘れないように次は目を閉じて深呼吸をする。霧の中にいる為、肺に入る空気は水分を多量に含んだものであり、その水分が、粒ほどではあるが、確かにある冷気が熱を冷まし彼女を落ち着かせる。

 (……)

 最初に彼女の脳裏に浮かぶのは両親たちの姿に治める領民の姿達。耳に聞こえて来るのは彼らの笑い声にそれが自らの幸福であると語る父の言葉。

 『よく聞きないラキュース。貴族とは、生まれついて恵まれている私たちには、それ相応の義務があるんだよ』

 その言葉と共に今度は別の熱が頬を熱くする。それは羞恥心からであろう。その言葉によれば、自分は正に義務を放棄した事になるのだから。

 (私だけじゃないわ! 叔父様だって)

 後ろめたい気持ちから逃れる為に、彼女は内心で責任転換という名の元に言い訳を募る。叔父であるあの人物にしたって、その義務を放棄して冒険者家業に移ったのだから。もっと言えば、自分がこの道に進むきっかけになったのはその冒険譚を聞いたからであり、今の自分がある最大の原因はあの人であると彼女は現在の年齢にそぐわない酷い言い逃れをする。

 そんな彼女が次に浮かべたのは友人である王国第3王女の姿。といっても彼女の姿が恋しくなったのではなく、彼女が行った政策を思い出しての事であった。

 奴隷売買の禁止。

 (違うわね)

 内心で頭を振り、考え直す。王国に置ける奴隷とはどういった経緯で生まれるものであるか? 彼女の政策によって既にないものを深く見ても仕方ないと思うが、それでもそうせずにはいられなかった。

 そもそも、奴隷という概念があったのは、それを専門に取り扱う商人がいたからであり、その商品の出所は様々であったという。犯罪を犯した者、身寄りのない子供、家族を養う為に自ら身を売る娘等。それで甘い汁を吸っていた連中にしても都合が良い者達が王国には溢れていた。そして、彼らは本当に紙くずのような金額でやり取りされる。安価で手に入る労働源に、性欲処理の道具等、それらの商品はお金だけは沢山持ち合わせている貴族たちには御用達であり、そしてそんないいお客様は商人たちにとっても素敵な顧客であったのだろう。

 そんな酷い制度があると、知ったのも家を出てからであった。

 本当に故郷にいた頃の自分は無知であったのだ。理由はそれだけではなく、母の顔を思い出す。

 (お母さまが話してくれた事ね)

 冒険者になって、仲間、主にガガーランの説得で謝りに帰って和解して、それから母に聞いた事がある話の1つであった。自分の家は、先々代、つまり自分にとっては曽祖父の代からその辺りに神経質であったらしく、間違ってもその手の商人が領地に入らないように注意していたという。具体的な方法はと言えば、やはり私設兵であるか。

 (あの人達がね)

 彼女の頭に浮かぶ幼少期の記憶。それは、昼間から仕事場である門の詰所で酒を飲んでいた当時から中年であった兵士たちの顔だ。確か今も現役だった気がする。

 当時は駄目な大人の代表だと子供心に馬鹿にしていたが、アインドラ領が他の領地に比べて比較的平和であったのは彼らの働きも大きかったからであった。信じられないが、彼らもまた相当な実力者、それも元冒険者として稼いで来た口であり、実戦慣れしていた者達であったのだ。

 そんな彼らがどうしてあそこに勤める事になったのかは分からない。なんにしてもはっきりしているのは、1つの事実。自分は恵まれていた存在であるという事であった。それも貴族として立派な両親の元に生まれたのであるから。

 それに引き換えて、今、話に聞いた貴族は何だ?

 彼女の話によれば、本当に気紛れで姉を連れ去ったのだという。その話が何年前になるか、それが彼女の政策の前後になるのか正確な所は分からない。

 いや、そこは関係ない。彼女が受けた仕打ちとはそれだけのものであり、しかもそれをしたのが、自分と同じ貴族と言うではないか、その事が物凄く情けない。

 再び深呼吸をして、ラキュースはニニャを確認すると頭を下げる。

 「本当に申し訳ございませんでした」

 彼女のその行動にニニャは驚く。どうして、彼女が頭を下げる必要がある? 悪いのは姉を奪った豚野郎であり、彼女に責任なんて1つもないはずである。

 ニニャは手を両手を振る形で取り乱して口を開く。

 「いえ、アインドラさんが謝る事ではありませんよ!」

 「ですけど」

 ラキュースにしたって、そう言って貰ったからと言って甘える訳にはいかない。彼女には、この依頼を終えた後の次の活動方針が既に固まっていたのであるから。

 先程浮かんだ王女の政策。それによって、確かに表立った奴隷のやり取りはなくなった。だが、それで全て解決した訳ではない。裏でその手の商いが続いているのは噂話で聞くし、あの組織の存在がある。

 (八本指)

 王国の影で非合法的な方法で富を得ている者たち、その中の1つにある娼館の話があり、奴隷売買の禁止に伴い、娼館というものの在り方も変わって来ている。

 以前までであれば、奴隷という事でそこで働く女性たちも道具という認識であり、それ以上の待遇なんてあり得ないという考え――改めて見ても反吐が出てしまうものであったが、それも徹底的に見直しが始まっている。しかし、それでも抜け穴というものを抜けている所はあるらしく、その事で友人も頭を悩ませていたはずである。それが、件の組織が運営していると噂のある娼館である。

 彼女の話を聞くまでは、その摘発も慎重にやるべきだと自分でも思っていた。理由を上げるのであれば、と彼女はこのやり取りが始まって3度目の羞恥を味わう。

 (本当に貴族って)

 必要がないのではないか? 皆が皆ああとは言わない。けれど、父のように誇り高い貴族と呼べる者と該当する者には2人しか会っていない。後は、有象無象の塊だ。奴らが大事なのは自らの名誉と財産であり、民などどうでも良いのかもしれない。件の娼館摘発に自分が足踏みしていたのも、その運営に一部の貴族が関わっていると知っていた事に件の組織も非常に厄介なものであり下手な事をすれば、友人や父に迷惑をかけてしまうとどこかで怯えていたのかもしれない。

 それを思うと本当に自分が情けなくなる。そこで行われている非道な事は自分もある程度知っている。ならば、脇目も振らずに乗り込めば良かったのだ。

 

 彼女が抱えた葛藤を責める事が出来る者がいたとすれば、それは彼女の両親だけであったろう。基本的に関わり合いになっていないのに、「何とかしろ!」というのは非常に無茶苦茶な話であるのだから。しかし、そんな事は彼女には関係なかった。

 ラキュースは決意する。この依頼を終えたら、然るべき準備を整えて、件の娼館をぶっ潰すと。

 「やはり、この問題は貴族の問題であり、私もまったく無関係とは言えません」一度頭を下げ、彼女は胸に右手を添えて続ける。「ニニャさんのお姉さんの件、私も全力で協力させてもらえませんか?」

 

 (アインドラさん)

 何も羞恥を味わっていたのは貴族である彼女だけではない。性別を偽り、姉を探していた彼女もまた自分の視野の狭さに己が無知を知った。

 貴族。

 それは、自分にとって憎むべき存在であった。しかし何もその全てがそうではなかった。目前の彼女のような貴族も確かにいるのだ。立場に血筋は関係ない、要はその人間の在り方であるのだ。

 (わたしも変わらなくちゃ)

 以前、モモン達と行動を共にした際、貴族という単語だけで嫌悪を出してしまった。もうああいった事もやめて行かなくてはならない。直ぐには難しいかもしれない、もう一種の生理反応のようなものだから。それでもと、彼女もまた決意をして、彼女の言葉に返す。

 「分かりました。でも、1つだけ条件を提示しても良いでしょうか?」

 「条件ですか?」

 ラキュースは身構える。どんな内容であってもそれは受け入れるべきである。しかし、彼女の心配は杞憂に終わる。

 「わたしと友達に、それからもっと話をしてくれますか? アインドラさんとは気が合いそうなんです」

 その言葉を受けた彼女は顔を輝かせる。彼女だってそれは同じであったから。

 「勿論です。でしたら、私の事は気軽にラキュースと呼んで頂けませんか?」

 「分かりました。……では、ラキュースさん……」

 微笑みあう2人、それから共通の話題。特に13英雄等の話でしばし盛り上がるのであった。その様子を遠目に見ていた貴族令嬢は静かに微笑んでいたのであった。

 

 「大変だぜラキュース!」

 その談笑に場に、もっと言えば見目麗しき花が咲き誇っているその場に最もそぐわない人物、「蒼の薔薇」所属戦士ガガーランの声が響いたのは、あれから10分後の事であった。来たのは彼女だけではなく、ティアも一緒であり、その事実がラキュース達の気持ちを切り替えさせた。

 「ガガーラン、何があったのかしら?」

 その質問は形式以外の何物でもないだろう。双子忍者の片割れ、それも彼らと行動を共にしていた側が一緒にいるのだ。その事は先ほど友人となった彼女も理解しており、その顔は不安に染まっている。仲間の言葉は続く。

 「デス・ナイトが出やがった」

 「!!!」

 余りの衝撃に言葉を出せずにいるニニャ、対照的にラキュースは冷静であり、両者のこの差はやはりくぐり抜けて来た修羅場の数といった所だろう。

 「そうなのね、モークさん達が相手をしているのね。相手は伝説級の存在、イビルアイ達を呼び戻して、それからセバスさん達にも戻って来て貰いましょう」

 その内心では第3者が知れば、苦笑しか出ない内容を人知れず垂れ流している彼女であるが、その判断は素早く的確であった。出し惜しみを出来る相手ではない。即座に全戦力を整え、依頼主である令嬢達へと向き直る。

 「シャルティア様、これより私たちはデス・ナイトを討伐しに行きます。時間は20分。それを超えて誰も戻ってこなければこの平野を脱出してくださることをここで約束して頂きたいのです」

 「それは……」

 言葉を受けた令嬢の顔は曇っていた。自分たちを見捨てて行けと言っているのに、もっと言えば、目的の物、あるいはそれに繋がる手掛かりすら見つかっていないと言うのに自分たちの心配をしてくれているのだ。本当に優しい少女である。だからこそ、ここは譲れないのだ。

 「もしも、安全を確保できれば、その時点で足の速い者。ティアかティナを送りますので、それも無く時間が立てば一刻も早くここを出て欲しいのです。シャルティア様の身の安全が第1ですから」

 「ラキュース様、分かりました。皆さまのご無事をここで祈っております」

 「はい、それと」彼女は令嬢の後ろに控えていた3人へと視線を移して続ける。「イプシロンさん、セバスさん、エドワード君。私が言えた事ではありませんけど、シャルティア様の事、よろしくお願いします」

 「はい、アインドラ様方もお気をつけて」

 言葉を返すのはメイドであった。その気遣いに感謝しながら、蒼の薔薇+1名の即席パーティーは問題が発生した地点へと向かう。意外な事にせの先頭を行くのは青色の忍者であり、その走りもいつも自分が見ているものより力が入ったものであった。

 (ティア、やっぱり責任を感じているのかしら?)

 走りながらラキュースはガガーランへと耳打ちをする。しかし、彼女はどこか笑った様子である。

 (いんや、これは面白い事になりそうだぜ)

 (ガガーラン?)

 ((わり)い、(わり)い。何でもねえよ)

 彼女には仲間のその言葉が少し許せなかった。今回共に依頼を受けた仲間でもある彼らの安否が不明な中で取るべき態度としては不適切ではないだろうか?

 何にしてもだ。急ぐべきであると一行は霧の中をひたすらに進む。

 

 

 

 死を覚悟した。確かにそのはずであったが、次の瞬間彼が聞いていたのは激しい金属音、それに顔面を打ち付ける強風。

 (え?)

 目を開けてみれば、のけ反った様子のデス・ナイトが移り、奴の視線は自分とは異なる方向へと向けられた。自らに向けられていたはずの殺意も散っているようであり、それにつられて自分もその方向に、右後ろの辺りに目を向ける。

 (あれは)

 そこにいたのは4足獣のような、どこか犬を思わせる姿を持ったモンスターであった。ただ、普通のモンスターと違い、その口に剣を咥えているようである。つまりは武装しているのであり、それで理解できた。先程自分が受けた現象はこいつが奴の武器をはじいたものであったと。

 (それに)

 視線を未だに気を失った状態の2人へと向ける。彼らから聞いている話、馬車の底に張り付いていたというモンスター。自分の視界にいるそれは、その特徴に当てはまるのであった。それもまるで、自分を助けたような気がするが、それはきっと気のせいに違いない。その理由がないのだ。むしろ、自分を殺したいとこのモンスターは思っているかもしれないと考えるべきである。攻撃をしたのはこちらであるから。

 デス・ナイトの方は今の一撃で完全に標的を変えたようで再び叫び声を上げる。邪魔が入った事に対する怒りであるのは火を見るよりも明らかであった。

 それに対して4足獣は剣を放ると、死の騎士に向かって駆けだす。互いの距離はそこまで離れておらず、むしろ近い、それに獣の足は速く、その動きはそれまで自分が見てきたどれよりも軽やかであり、瞬く間に両者の距離は縮まる。

 死の騎士はその様子に別段驚く様子もなく、無造作に剣を振るう。先程自分にしたものと同様、上段からの一撃であった。何とかその動きを自身の動体視力が捉えているが、それでもそこだけであり、もしも自分が再び狙われていたのであれば、何も出来ずに斬られていたであろう。

 「???!!!」

 動揺の声を上げるのは死の騎士であった。奴にとってはいつも通りに斬り捨てるつもりであったのだろう。しかし、相手はそれを簡単に、僅かに身を奴に向かって右側に傾ける形で躱してみせたのだ。その動きには一切の無駄がなく、つまり。

 (完全に見えている。という事ですか)

 自分のように目で追えるだけではなく、文字通り全身がその動きに対応できているという事であろう。そうなると、彼は先程まで死にかけていたという事を忘れ、1つの事を気にかける。

 (何なんでしょうか?)

 デス・ナイト。または、死の騎士とも呼ばれる存在。

 それは、強大な力を有しており、生者どころか、他のモンスターも奴にとっては蹂躙する対象でしかない。だからこそ、自分達は時間を稼ぐことに力を注いだ訳である。それも1分持ったかどうか怪しい所であるが。

 だというのに、この獣はそれ以上の力を持っているらしいと今の動きからでも読み取れそうであるのだ。その姿もよく見て見れば、それまで見た事が無いような姿であるではないか。

 全身を覆う鱗、鳥のような足に、何よりその目だ。無機質でありながら、どこか熱を持っているようであり、それがこの獣が唯のモンスターではないと自身の勘が訴えているようであった。

 (…………)

 この霧が蔓延る平野には自分が知らない事がまだまだあったらしい。いや、そもそも知っている事の方が少ないものであったけど。

 そんな彼の思考の横で、人外同士の戦いは続く。騎士の一撃を避けてみせた獣は大地に刺さったその剣を足場にするように騎士の肩へと乗ると、そこで一度真上へと飛んだ。騎士も慌てて剣を振るが、全ては獣の動きよりも遅れているものであった。翻弄されるように、まるで必死に蚊を叩き落そうと躍起になっているように上空へと剣を振り上げる。

 しかし、それこそ獣が騎士にとってはった罠であったのだ。ペテルがそれに気付いたのはその後の展開を見たからであったけど。

 真上に振り上げられ、天へと向けられた騎士の右腕、上腕骨に獣は噛みついた。

 「グガ!」

 慌てふためいた様子で獣を振り払おうとする騎士であるが、獣は離れない。そう、その獣が狙っていたのは、剣を振るう右手に噛みつく事であった。それによって、剣の間合いの外に逃れる事が出来る訳であるし、盾で叩き落そうにもそれをする為には自身の右腕をある程度傷つける必要に駆られる訳であるが、それは、騎士にとっては難しい問題であったらしく。腕を振るうだけであった。それでも、周囲には風が吹きすさび、その冷気がペテルから熱を奪っていき、生よりも死の方が近づいていると、彼の体が訴えるが、それよりも彼は目の前の戦いがどういった結末を迎えるかに興味を惹かれていた。

 「グオォ!」

 デス・ナイトは怒りを感じていた。何だ? このモンスターは? 自分は絶対的な強者であるはずなのだ。そうでなければならない。ひとまずは腕から払うのが先であると、騎士は腕を振り続けるが、次の瞬間にはそれまで感じた事のない衝撃を受けていた。噛みつかれた辺りから嫌な感触が広がって行くのだ。

 (???)

 見てみれば、自分の腕に亀裂が走っているではないか。それはつまり、と騎士は咆哮する。ありえない、絶対的な力を持つ自分の腕が、こんな訳の分からない下等生物にかみ砕かれるというのか?

 「グガァ!」

 断じて認めない。認められないと騎士は腕を振り続ける。それに対して、獣は更なる動きを見せる。自らの体を激しく動かせて、噛みついたデス・ナイトの腕を支点に回転を始める。

 

 それは、かつてアインズが過ごした世界における歴史、まだ外の世界でスポーツが出来た頃に大会種目にもなった事がある「大車輪」そのものであった。

 

 「グオオォォォォ!!!!」

 デス・ナイトは叫び続ける。ペテルも目を離すことが出来なかった。回転の中心、獣が噛みついている辺りからは硬質な音が鳴り続けた。それは、獣の牙が騎士の腕を、骨の身でもあるそれを削っている音であった。それを聞いているペテルは知らない事であるが、その音は高速切断機が鉄骨を切ろうとしているものに近く、火花も散り初めている。

 「グガアァァ!!」

 勢いこそ衰えているけど、騎士は叫び続ける。これから起こるであろうことを必死に否定しようとしているようであった。しかし、音は響き続け、その音質も初めは硬質的なものであったのが、だんだん柔らかくなっていく、その事に全く知識がないペテルでも分かった、その時が近いのであると。

 「グアァァ!」

 それは、死の騎士が始めて上げた怒りに憎しみ以外の感情による咆哮。そして、上空から降ってくるのは、その騎士がいたぶろうとしている四足獣にフランベルジュを持ったままの右腕、そう騎士の腕であり、それが体から離れている事実が起こった事を物語っていた。

 すなわちデス・ナイトの右腕の切断。それ自体に対する肉体的な痛みはない。しかし、そのプライド、絶対的な強者という自尊心は十分に傷つけられた事であろう。

 その瞳こそ眼球もない眼窩、暗いものであるが、獣に対して憎悪を燃やしているのは誰の目から見ても明らかであった。そして、そんな騎士を、常人であれば、その視線だけで震え上がりそうなものを受けても獣は何ともないように鼻を鳴らして見せる。ペテルには、「こんなモノか」と言っているように感じた。

 それは、騎士も同じようであり、何度目にもなる咆哮をあげ、獣に迫ろうとする。左手にもった盾で殴り殺すつもりであるらしい。

 それに対して獣がとった行動はペテルを驚かせるものであった。

 (あれは)

 いつの間にか、獣の足元には見覚えのある羊皮紙の束が転がっているではないか。

 (スクロール?)

 初めに攻撃を受けた時もそうであったが、このモンスターは道具を使う事が出来るらしい。彼がそう思ったのはそれだけ、この生物の技量があるという事であるからだ。

 例えば、オーガも道具を、棍棒などを使うが、それは唯もって振っている。単に腕の延長でしかない。しかし、この獣はどこか違うように感じたのであるのだ。先程の防御にしたって、巧みな剣裁きであったのはデス・ナイトの一撃を防げた事からも読み取れる。それにスクロールも使えるとなれば、もう唯の獣ではないのだろう。

 (本当に、何なんでしょうか?)

 この平野は正直謎だらけであり、これもその1つかと考えるペテルには視線を向ける事もせずに獣は次の行動に出ていた。2つのスクロールを器用に咥えて宙へ、前方へと放り投げる。如何様にして、発動したのかは不明であるがスクロールは灰となり、六芒星を思わせる魔法陣が描かれ、そして、その中央から鎖が飛び出し、死の騎士へと襲い掛かる。

 先にダインが仕掛けた植物よりも頑丈に絡みつく2本の鎖、それを振り払おうともがく騎士の姿は既に強者と呼ぶには無理があるようであり、それでも何とかその状態から脱出しようと躍起である。

 間髪入れずに獣は次の行動に出る。スクロールを3つ、宙へ、自身の真上へと放るとその口を大きく開く。勢いよくその中に吸い込まれていくスクロール。全てを飲み込んだ後、その獣はその味を噛みしめるように咀嚼する。それが、何の為の行動かは不明であったが、獣が騎士に対して放った攻撃でその答えも出る。

 十分にその羊皮紙を堪能した獣は騎士へと向き直ると、その口を再び開く。その様はまるで竜がブレスを放つようであった。

 放たれたのはペテルも見たことがない物であり、何とか似たものを上げるとすれば、普段から自分たちも世話になっている火 球(ファイアーボール)が最も近く、違いを上げるとすれば普段から使うそれが火を思わせる赤色なのに対して、獣が放ったのは水色である点だ。

 1発目はデス・ナイトの右膝にあたった。球状であったそれは、その瞬間、床に叩きつけられた卵が割れるように爆散する。その瞬間、霧の為唯でさえ低い気温が更に下がったように肌で感じ、その魔法がどういったものか理解できた。

 (氷ですか)

 氷結系統の魔法は話だけでなら聞いた事もあった為、その答えに行く着く。正確な名称は不明慣れどひとまずは、氷 球(アイスボール)といった所だろうか? デス・ナイトも凍る事こそなくともその動きは鈍くなっているようであった。それを確認した獣は更に魔法を放つ。

 2発目は肋骨に命中する。その体に更に霜がかかり、その体表に少しずつであるが、氷が張り着いているようであった。

 続く3発目は頭に命中する。流石に自身の体を襲う違和感に気付いたのか死の騎士は咆哮を上げようとするが、その口が既に凍り付いていた為に、くぐもった音が響くだけであったが、まだ騎士は負けを認めようとせずにもがいている。しかし、そんなことは初めから承知していたと言わんばかりに獣は攻撃の為の動作を続ける。

 再び宙へと舞う3つのスクロール、それを飲み込み咀嚼した後に再度、氷による砲撃を死の騎士へと放つ。

 4発目、5発目、6発目と放たれた魔法は全てデス・ナイトへとあたりその都度騎士を中心に冷気が広がる。それらは膨れ上がり、生じる風も強いものとなり、それを受けたペテルは思わず左手で顔を覆う。周囲へと広がった冷気は煙のように視界も防いでしまい、デス・ナイトは勿論の事、獣さえも見失ってしまう。

 (ルクルット、ダインは)

 これだけの冷気だ。仲間は無事であろうかと、自身も危ないと言うのに仲間の心配をするペテルであった。

 

 やがてあける視界、その中央にあったのは、先ほどまで死を撒き散らしていたデス・ナイトに奴を覆うように広がった氷の塊でありそれは一種の芸術作品のようであった。つまり、勝負はついた訳であり、敗北したのだ。あの伝説級の存在が。

 ペテルは唯、茫然とそれを見ている事しか出来なかった。本当に驚きの連続である。突然現れた死の騎士もそうであるが、それをいとも簡単に完封して見せた存在。

 視線を彷徨わせてその姿を確認する。先程砲撃を行ったその位置から動いていない様子で、その視線は相変わらず自分には向けられておらず、今や氷の彫像と化した騎士へと向けられている。その相手が完全に動かないことを確認すると、スクロールを咥えてその上に放り投げる。

 発動した魔法はそれまでのものとまた違ったものであった。

 描かれる魔法陣は初めに見た鎖を出したものよりひと回りもふた回りも大きく、巨大な3角形が描かれていて、3方にある点を中心にまた別に複雑な、辛うじて円形であると識別できる模様が描かれており、その中心から鎖が、合計3本その彫像に向かって伸びる。先のものと異なり、その鎖の先端には鋭くとがった鋲が取り付けてあり、それが3方向から騎士を囲むように氷へと突き刺さる。

 時を忘れてその光景に見とれるペテル、それだけに幻想的であり、不思議な光景であったのだ。彫像へと刺さった鎖は再び、魔法陣へと引き込まれる、まるで水に沈むようであった。それに伴い、持ち上がられる彫像もまたやがてその魔法陣へと吸い込まれて行き、氷が溶けて水になるように魔法陣へと消えて行った。それから何事もなかったように魔法陣も消滅して、そこには何もない空が広がる。まるで、初めから戦いなどなかったかのような静けさが周囲を包む。

 一瞬、ペテルもそう思いそうになるが、体に残った痛みに疲労がそうではないと思考を現実へと引き戻し、そして思い出す。何も戦いは終わっていない。自分は見届ける形になったが、あの獣だって決して味方ではない。大方魔物同士の縄張り争いといった所であるだろう。先程の魔法に、騎士の行方は気になるがまずはこれから起きるであろう戦いからだ。

 (と、言っても)

 既に満身創痍、休めたと言ってもほんのわずかな時間であり、武技も使えて後1回であり、杖代わりにしている剣にしたって持ち上げるのがやっとであるのだ。その状態でデス・ナイト以上の相手をする事になるのは正直厳しい。それでもやるしかないと、彼は獣の方へと視線を移す。

 (!!!)

 体に衝撃が走る。既に獣はこちらへと視線を向けているのである。その目はやはりどこか普通ではなくて、何を考えているのかは何も読み取れそうにない。

 (時間を稼ぐ)

 後、1回武技を使えるのだ。「能力向上」を使用して、それで出来る限りの時間を稼ぐ。それが自分の出来る事であろう。そうやって、彼女たちが来るまでの時間を稼げれば良いのであるとそう、覚悟を決めた彼の予想を大きく裏切る事が起きた。獣は今度は瓶を咥えて持ち上げるとペテルへと放り投げた。突然の事に彼は反応が遅れ、その瓶は彼の額へと命中する。鈍器で殴ったような痛みが彼を襲う。

 割れた――人体にぶつかる程度でそうなる程脆いその容器の中身は紫色の液体であり、それを浴びた彼が次に感じるのは安らぎであった。

 (???)

 毒か、あるいはその類の攻撃だと思っていたのであるがどうにも違うらしい。その感覚の正体は自分の体の傷が無くなっていた事であった。

 つまり――

 (ポーション――?)

 どういう訳か、その獣は自分の治療をしてくれたのである。どうして? と思う。自分たちは恨まれて攻撃を受ける事こそあっても助けられる理由は無いはずである。それから獣は何事もなかったように歩き出す。しばらく、それに見とれる。獣はやがて霧の中へ消えそうになった所で、一度止まり、こちらを振り返る。その仕草に何を言いたいのか何となくであるが、口にする。

 「ついてこい? そう言っているのですか?」

 その言葉が通じたかは分からないが、獣はまた歩き出す。それを肯定と捉えてペテルも剣をつきながら、何とか追いかける。確かに傷は塞がったが、それでも体に残った疲労は相当なものであり、杖をついて歩く老人のような動きがやっとであったのだ。

 獣はそんな彼の事情を察しているかのように時折、立ち止まり後ろを振り返ってペテルの様子を確認してその後、再び歩き出すとその繰り返しであった。その事に感謝しながらも、彼も何とかその後についてゆく。

 そのまま何分歩いたであろうか、かなりの距離を歩いたように感じる。やがて、獣は立ち止まり動かなくなった。その顔は再び自分へと向けられており、「ここまで来い」と言っているようであった。いや、実際そうなのであろう。何とかそこまで、重い足を引きずるように進み、その傍に近寄る。

 (これは)

 その先は急な坂であった。ここに落ちる事を危惧してこの獣は足を止めたのか? いや、それはないはずだ。あの騎士を相手に振舞える獣がそんな簡単な間違いを起こすとは思えない。では、一体何だというのか? きっと何か意味があるはずであると、ペテルは周囲を見ましてみる。そして、気づいた。

 (ここは、それに……あれは?)

 そこは言うなれば、すり鉢状の地形であり、自分はその淵に立っているのであった。そしてその中心、つまり最もその地で最も低い場所にあるそれを見つけて、彼は今日何度目かになる驚きを胸に抱く。今まで見た事もない物がそこにあったのである。そして、獣が此処まで自分を導いたのはあれを自分に見せる為だったのかと再びその姿を見ようとしたペテルであったが。

 (??? どこに行ったのでしょうか?)

 既に獣の姿はどこにもなかったのであった。

 

 

 

 デス・ナイトとの闘いで傷を負い、気を失ったルクルットであったが、彼はその間、何やら素敵な夢を見ていたようであり、気絶したと言うのに夢心地のように呟く。

 「ん~ラキュースちゃ~ん、ルプスレギナちゃ~ん」

 そんな彼の目を覚ましたのは頬を叩いた痛みであった。目覚めた彼は眠気眼で口を開く。

 「何だよ~ペテル? 今、良い所なのに~て、あれ? ティアちゃん?」

 目の前にいたのは、いつも自分を殴ってくる石頭のリーダーではなく、双子忍者の片割れであった。その目は何だか殺意が籠っているようであった。

 「あいつはどこ?」

 「へ?」

 「ティア、やめなさいったら」

 まるで、要領を得ていないと言った顔をした彼の首を絞めよとした彼女を止めたのはラキュースであった。

 (それにしても)

 彼女の知らせを受けて、今回の依頼に参加している残りの冒険者全員でこの場に来た訳であるが、少し状況が変であったのだ。確かに争った形跡はあったし、倒れている彼らも発見した。しかし、デス・ナイトとペテルの姿がないのであった。自分たちがここに来るまでに彼らが敗北、そして全滅したのであれば、死の騎士は自分たちの方へと向かってくるはずである。奴には生者をかぎ分ける能力があるのであるから。

 (だったら)

 今も戦闘が続いている?

 「それは……ないはずです」

 自分の思考を読んだようにそう答えるのはニニャであった。その顔は当然のように曇っていた。行方不明の彼とは自分よりも彼女の方が付き合いはある為、その言葉の通りであるのだろう。

 「ニニャさん」

 次に思いつくのは最悪の可能性。今も彼が死の騎士にいたぶられているという可能性。

 (十分あり得るわね)

 これは、王都の冒険者組合長から聞いた話である。かの騎士は気に入らない相手を殺さずに何時間でもいたぶった事があるというのだ。そして、彼の性格を考えれば目を付けられる可能性は十分ある訳である。

 「リーダー、急ごう」

 焦ったようにそう言うのはやはりティアであった。というか、彼女の様子はどこかおかしい。決して嬉しくもないが、彼女はいつも自分を呼ぶときは「鬼」をつけるのに、今はそれがない事が何よりの証拠であった。

 (やっぱり)

 責任を感じているのであろう。ペテル達の班で最も索敵に長けていたのは彼女である為、デス・ナイトの襲撃、もっと言えば、その前のゾンビウォリアーの攻撃を察知出来ずに後手に回ってしまった事に対しての罪悪感であろう。

 (おいおい、マジでそう思ってんのか? ラキュース)

 (どういう意味よ、ガガーラン?)

 またも自分の思考を読んだように耳打ちをしてくる仲間の戦士。その顔はどこか楽し気であるのだ。

 (いい機会だ。あいつも男の味を知るべきだぜ)

 彼女が何を言っているのかはいまいち理解に苦しむ所であったが、それよりもやる事がある。

 「ひとまず、ボルブさんとウッドワンダーさんの治療をしましょうか。話はそれから聞くとしましょう」

 手持ちのポーション等でそれを済まして、彼らからの話を聞き、ここで何があったか調べなくてはならない。

 「ルクルット、ダイン大丈夫ですか?」

 「いや、ラキュースちゃんが膝枕をな――ブベ!」

 阿保な事を言う仲間を杖でぶん殴ってニニャは比較的話が出来る方へと視線を向ける。

 「ダイン、一体何があったのですか?」

 「あいつは? あいつは無事なの?」

 彼らと途中まで行動を共にしていた彼女は余裕がない様子でダインへと迫っている。

 (何があったんでしょうか?)

 仲間の目から見て、ペテルはどちらかと言えば、女性受けが良い人物であった。そこまで悪くない顔立ちに剣の腕もあり、そしてあの人柄である。誰もが振り返るとは言わないけど、それでも、少なくともいつもナンパ等しているルクルットよりは評判がいい人物である。

 しかし、今仲間へとリーダーの安否を問いかけている人物は少し違ったはずである。

 (おい、ティアはどうしたんだ?)

 (分からない。でも、あんなティア、初めて見る)

 イビルアイ達もまた、彼女の変わりように戸惑っていた。戻ってきた彼女は残った3人の内、現在行方不明の彼を気にかけているようであった。

 それから、現場検証が始まる。話は初めにゾンビウォリアーの所から始まり、そこからデス・ナイトとの戦闘になったいきさつと、そこで不満気に声を上げたのはルクルットであった。彼は特にニニャへと力をいれるように愚痴る。

 「酷いんだぜ、ペテルの奴。ティアちゃんは優しく助けたって言うのに。俺の事は殴りやがったんだぜ」

 「それは、普段の行いが悪いからでは……」

 呆れたように声を上げる彼女と違って、ティアは少し頬を赤くさせて、それが他の「蒼の薔薇」の面々に興味を抱かせる。

 「その話詳しく聞かせてもらっていいか?」

 「ガガーラン……今はそれ所じゃ」

 「いや、詳細な情報は必要だろ。私もガガーランに賛成だ」

 「私も」

 こんな事をしている間にも彼は地獄を見ている可能性が高い訳であり、無駄な事をする時間などないはずであるが、他の者達はそこを聞かないと先に進むつもりはないらしい。

 (まったく)

 我が仲間ながら、何て奴らであると呆れたラキュースであったが、それよりも先に動いた者がいた。そう、何気に話題の中心となっているティア本人であった。彼女は突然あらぬ方向へと走り出したのであった。

 「ちょっとティア! どこに行くのよ!」

 そして彼女が向かう方向を見れば、そこには霧が立ち込めているだけである。否、人影が出てきたのであった。それは、今にも倒れそうに弱々しい歩きであった。

 「ペテル!」

 声を上げたのはニニャであった。剣を杖代わりにした状態で歩いて来たのは捜索予定の彼であったのだから、その驚きはラキュースにもよく理解出来るものだ。そして、彼が来ている事にいち早く気づいたのは仲間である「漆黒の剣」の面々ではなく、ティアであったのだ。その事実と最も付き合いが長い戦士の様子がようやくその可能性へとラキュースを導く。

 (え、そういう事なの?)

 こちらの姿を確認した事に体の力が抜けたのか、前に崩れ落ちた彼を受け止めたのは彼女であった。身長は彼女の方が低いため、その額に彼の胸が当たる形となって、そして彼女はそんな彼の背に腕を回し、彼も彼女へと体重を預けるのであった。

 「馬鹿、死んだらどうするつもりだった?」

 「すみません…………でも、何とか返してもらえそうです」

 その様は、まるで戦場から帰って来た夫を出迎える妻の様でもあり、その様子が他の面々に何があったのか知らせた。

 (ひゅ~う~! やっぱり面白い事になってやがるぜ)

 (助けて貰ったと言っていたが? いや、まさかな、だとしたらティアの奴、軽すぎだろ)

 (本当に意外、ティアが女以外にああするのは)

 面白がる戦士に呆れる魔法詠唱者(マジックキャスター)、珍しいと感嘆の声を上げる忍者と彼女たちの反応は様々であったが、何も驚いているのは彼女たちだけではない。

 (あんな顔)

 そう思ったのはニニャである。初めて見るのだ、あんなにも安堵した顔をするリーダーは、彼女は仲間たちへと意見を求める。

 (もしかすると、そうなのかもしれないであるな)

 ダインなりの予想だ。彼の事だ。きっと義務感であるのだろうけど、その感情だっていつかは変化するかもしれない。そう答える。

 (本当にいつもいつもよ~……でも、ま、いい加減あいつもそう言った相手を作るべきだな)

 文句を言いながらもこの変化は喜ばしいものだというルクルット、しかしそれを素直に信じる事はニニャには出来なかった。

 (本音は?)

 (とっとと既婚者になってくれれば、俺の勝率が上がる)

 (だと思いましたよ)

 そんないつも通りのやり取りをする彼らを傍目にラキュースもまた驚いていた。

 (え、嘘でしょ。あのティアよ?)

 あの女遊びが酷い仲間が、いつの間にか恋する乙女の様な仕草をするではないか。しかしと彼女は考える。

 (良い事じゃないの)

 そう、経緯はどうあれ仲間の幸せは祝福すべきである。と同時に彼女は次にこう考えた。

 (もしも、モークさんがティアを貰ってくれれば)

 そうなってくれれば、彼女のそう言った事もなりを潜めるかもしれない。いや、間違いなくそうなるだろうと確信があった。そうなれば、問題児が1人減るのだ。

 (違うわ、ラキュース。これは仲間を祝福しているのよ)

 自分で自分に言い訳をするラキュース。決してお荷物を押し付けようとしているのではない。彼女の幸福の為だと。そんな彼女の様子に気付いたのはそんな彼女を一番良く分かっている戦士であった。

 (何だ? 珍しくラキュースが悪い顔をしてるぜ)

 それから数分程彼らを見守った後、彼から詳しい話を聞く事になる冒険者達であった。

 

 

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