オーバーロード~遥かなる頂を目指して~   作:作倉延世

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 今回の話につきまして、作者の勝手な解釈が混じっていまして、読む方によっては不快に思われるかもしれないので、初めに謝罪しておきます。申し訳ございません。

 では、最新話どうぞ。


第12話 帝国の騎士達②

 始まった戦闘であったが、それは余りにも一方的なものであった。まともな戦闘すら出来ないとはこの事ではないだろうかと男は思う。

 「さあさあ、お次はどなたが相手をしてくれるのでしょうか?」

 手を広げて、謎の仮面の騎士は言う。その体格に、どこかドレスにも見えてしまう鎧から女のように感じてしまうが、それはあくまで自分の思い込みの類だと、男は絶望的な状況から逃避するように考える。

 剣を握る手は震えており、それは足も同様であり、立っているという感触すら怪しいものであった。

 何とかこれまであった事を脳内で再生して、現状を把握してみる。自分たちは残り5人であったはず、自分も含めてだ。

 隊長からの指示の後、血気盛んな奴らからぶつかりに行ったのであった。帝国軍と一口で言ってもそこにいる兵種ならぬ人種は様々であるのだ。

 合法的に人を斬る事が出来るからと来た者。

 頭を使う仕事がまるで出来ずに送られてきた者。

 仕事を探していたら、ここに来てしまった者。

 自分の場合であれば、3番目が一番近いかもしれない。彼の家は帝国では裕福な方であり、そこそこお金持ちであり、商人という事もあり、資金運用も格段に優れた両親の元に3男坊として生を受けた。そこで、豊富に与えられた本によって、少年期だった頃の男は歴史にのめり込んでいったのである。

 家業は長男である兄が次ぎ、次兄は他の商会へと就職した。両親の意向とは関係なく、彼自身が決めた事のようであった。そして、3男坊である彼はどうしたかというと特にそういった行動は起こさなかったのである。仕事よりも知識をため込む事の方が重要であると考えていたからかもしれない。

 それは、働きもせずに部屋にこもって本を読み漁る時期は彼が18になるまで続いた。そこまで行くと親の目は厳しい物となる。当然だ。この世界の常識では14、15を超えたら何かしらの形で労働に就くのが一般的である。学院等に入って、勉学を修めるのであれば、この限りではないけど、彼の場合、それすらしなかった為にどういった目で見られるかは明白というものであった。

 男はいわば独学で歴史学を修めるという若者特有の無謀でそれでいて滑稽な夢を抱いていたと言える。しかし、それでもそんな彼の生活を支えているのは彼の両親であり、父親に引っ張られる形で仕事を探したら、帝国軍(ここ)に来てしまった。

 それが男のそれまでである。

 「おい、どうするよ?」

 口にはするが、別に誰に向けて話しかけてという訳ではなかった。現に残りの4人は男の両端に2人ずついたのであるから。

 返事はなく、代わりに歯による合唱が返ってくる。この中では自分が一番勇気があるという事だろうか? だとしても全然嬉しくない。そんなもの、こんな状況では、あんな相手の前では犬の餌にもならない。

 「おや、誰も来ないのですか?」仮面の騎士は首を傾げて見せて続ける。「では、こちらから行くとしましょうか」

 そう言って、歩いて来る。騎士が一歩踏み込んでくる度に体中を悪寒が走る。間違いなく殺されるという確信が逃げろと脳に訴えて来る。それでも、動けない。脊髄が訴えている。そんなことしても無駄だ。ここで大人しく斬られる。その選択しか有り得ないのだと。

 騎士が迫ってくる。互いの間隔は3歩分といった所。

 初めに斬りかかった連中は最初こそ威勢が良かった。騎士を取り囲んでそれこそ、一方的に相手を斬りつけていたはずである。囲んでいた為に、その中がどうなっているのかは分からなかった。それでも音は聞こえてきていたのである。金属が金属を叩く硬質的なものであり、そこからきっと相手に集中砲火ならぬ集中斬撃を与えているのであろうと、きっと鎧の上からお構いなく叩いているのであろうと推測した。それだけ野蛮な者たちなのだ。

 そんな音が急に止んで、そして彼らが後ずさり、その中で剣を掲げてみせる騎士の姿を見て、自分の認識が間違ったものであると思い知った。

 そう、連中が放っていた攻撃の数々はどれ1つ、その鎧さえ捉えていなかったのである。すべての攻撃をその手に持った剣一本で受け切っていたのであり、騎士が自身へと向けられた無数の斬撃をさばいていた音であるとその時知ったのである。と、同時に体が動かなくなった。人間、余りにも非常識な、いや、自身の想像以上のものを見るとそうなってしまうらしい。それから更に自分の頭は混乱する事になった。騎士を取り囲んでいた者達、初めに攻撃を仕掛けた10人が倒れたのである。その意識もなく、何をされたか見当もつかなかった。それを見た隊長が声を上げ、その時のやり取りが鮮明に再生される。

 「やはり、只者ではないか、……! ……! ……! ……! フォーメーション・イクス!」

 「「「「了解!」」」」

 隊長を始めとした5人が騎士を取り囲み、必殺の陣形とやらをしようとするが、結果は先の10人の二の舞であった。

 それがつい先程見た光景であった。

 騎士が迫ってくる。残り2歩。

 次に男の脳裏に浮かぶのは両親への謝罪であった。金も稼がずに好きな事にのめり込む。当時はそれがかっこいいものであると、自分は勘違いしていたらしい。

 (ごめん、父ちゃん、母ちゃん。2人の言う事が正しかったわ)

 もしも、生きて帰れるのであればあの頃の自分がどれだけ愚かであったかを詫びて、その上で親孝行をしたい。と、彼はそう願うが、もう叶わない願いであろう。もうそこまで死が迫っているのだから。

 騎士が迫ってくる。残り1歩。

 もう目の前まで来た騎士、特にその奇妙な仮面が男の心を更に追い詰める。その面に描かれている目がまた怖いのだ。眼球結膜にあたる部分は黒く、そして瞳孔に虹彩は赤く、闇の中にて光る獣の眼差しのようでもあった。

 「ひい」

 事ここに至っても男は決断が出来なかった。無謀に立ち向かう事も、無様に逃げ惑う事も。それでも、男の精神は追い詰められているのである。その精神的限界が達するのも時間の問題であり、その感覚が男に立ちくらみをさせ、吐き気を催す。

 相手の騎士は男がそんなに追い詰めれられているとは知らずに。呑気に、それこそ日課の散歩に繰り出す感覚で踏み出す。

 「うわあああああ!!」

 「!?」

 ついに限界を迎えた男は咆哮を上げる様に絶叫して、そのまま倒れた。その様はマネキンが倒れるように綺麗なものであった。全く受け身をとる様子は見られず、背中を盛大に強打したのに、倒れた男はうめき声1つ上げない。既に気を失っているのだ。

 「…………」

 ふと、左右を見てみれば男のそんな姿に触発されたのか、あるいは伝染したのか他の4人も気を失っているではないか。騎士はため息をついて見せる。何だろうこの者達はとその者は考える。

 「別に殺しはしませんのに、そんなに恐ろしかったのでしょうか?」

 そう、男たちはある勘違いを起こしていた。常時であれば、直ぐにその事に気付けたかもしれないが、事態は非常であった。騎士の後ろに倒れている者達、その者達は息をしている。もっと言えば、それは生命をつなぐ為に体が必死にやっているというものではなく、穏やかな吐息である。

 そう、彼らは別に死んだのではない。ただ、寝ているのだ。それでも男は殺されたと思い込んでいたのであろう。

 騎士もその考えに行き着いたらしく、再びため息をついて見せる。この世界でも強者であったり、逸脱した存在とはいる者である。今回は戦闘という事になったのでその方面の人材がないか、こうして回っていた訳であるけど、ここまで落胆の連続であった。

 (力任せに剣を振る者、子供がやるチャンバラの延長ね)

 これまで自分が相対した帝国の者達の4割程がそれであった。

 (後は、何というかね、ぱっとしない)

 彼らが弱いのか? いや、自分が強すぎるのである。そう認識を改めて、彼女はある人物の顔を思い出す。

 (!!!)

 自分の記憶だというのに、後ろにのけ反りそうになる。初めに出た映像が泣きながら走り去るものであったからだ。これが、例えば恋物語等で、想い人に一世一代の告白をしてそれでも断られてしまい、たまらず走り出す淑女であれば、きっと絵になるであろう。しかし、相手は無精髭を生やした外見年齢30代の男性だ。それが、鼻水まで垂らして泣きじゃくる姿は本人には悪いが、本当に酷い絵面だと、騎士は思う。

 (でも、腕は確かだったのよね)

 あれだけの醜態を晒した男であるが、それでもこの世界では上位に入る存在であったらしく、残念ながら彼を超える逸材というものには中々巡りあえない。現在、彼女たちが交戦しているであろう帝国4騎士ならば、少しは期待が出来るかもしれないが、彼らは既に帝国有数の人材であり、それをこちらの陣営に引き込むとなれば苦労する事であろう。ならばと騎士は考える。

 (もう一度あの男を見つけて)

 それで、首に縄でも縛りつけて引っ張ってしまった方が良いかもしれないと。確かに自分たちに比べれば弱くはあるが、鍛え方次第では十分に伸びしろがある。そして、成長させればかの計画の尖兵位にはなるであろう。

 (それが良いわね。でも、ひとまずは)

 この遺跡に集まっているであろう戦士達に、魔法詠唱者等、見て回る人材はまだまだ沢山いる。この機会を逃したら、次はないだろうと、タイムセールのチラシを片手にデパートの食品売り場を歩く主婦のような機敏ながらも軽い足取りで騎士は歩き出す。

 

 

 「くそ! 俺の給料上昇の為にも、てめえら贄になりやがれ!」

 その言葉と共に、袈裟斬りに振るわれる剣を自らの魔剣で受け止めながらラキュースは仕事口調を忘れて叫ぶ。

 「お断りよ! そんなもの、あなたの努力で何とかしなさいよ!」

 押し返して、生じた空白、動くのが速かったのは彼女であった。すぐさまここまでに来るのに使用した武装を発動させて、黄金の金塊にも見える6本の剣、それを器用に操り、面の部分で相手の男の頬を力いっぱいにひっぱたく。

 「痛え!」男は階段上段へと吹き飛びながらも男は彼女へと皮肉を飛ばす。「そんな剣の使い方があるかよ! やっぱり野蛮な冒険者だな! そんなんじゃ、嫁の貰い手がねえぞ!」

 「五月蠅い! 黙りなさい!」

 手をかざすラキュース。その表情は少し憤怒に染まっており、その感情を表現するかのように剣の群れ達は男へと殺到して、鎧の上から連続でその体を叩きつける。1発目は男の脇腹を叩き、2発目は左足の向こう脛、いわゆる「弁慶の泣き所」を捉え、その衝撃に男は「うおっ!」と悲鳴を上げる。3発目、4発目はそれぞれ右肩、左肩を順番に襲い、左右からの揺さぶりによって男の重心を崩しにかかる。そして、とどめと言わんばかりにその顔面を――兜をかぶっている為、その表情は見えないけど――強打して、男をノックダウンさせる。そのまま彼が起きあがる事はなかった。鎧を着ているといってもそれにだって限界はあるし、受けた衝撃を流せるものでもないのだ。最後の一撃によって男は脳震盪を起こしたのである。

 「ふう、何とか終わったわね。みんなはどう?」

 3人目の相手を見下ろして、それから周囲の状況、耳に聞こえる音で決着はついたと判断した彼女はそこで周囲の様子を伺いつつ仲間達に問いかける。

 「問題なし」

 「時間は3分30秒、目標を大きくクリアしている」

 見れば、彼女たちの足元には倒された兵士が4人ほど倒れており、それは彼らの方も同様であった。

 「こちらも何とか、足を引っ張る事にならなくてひと安心ですよ」

 リーダーであるペテルがそう言う。その後ろでは他の3人も特に問題のない顔をしている。彼らもまた、ここまでたくさんの困難を乗り越えてきたのであり、今更自分たちと同人数程度の兵士ではどうにもならないだろう。

 (流石、ニニャさんが居て、そしてモークさんが率いるチームね)

 彼らは現在の自分たちのランクは分不相応だと思っているかもしれないが、自分はそう思わない。彼らは間違いなくミスリル級であると。

 「では、時間も惜しいですし、先に進むとしましょう」

 「了解」

 「ええ」 

 彼女の言葉にティナとペテルが言葉で返して、他の者たちは頷く形で答える。それを確認してラキュースは再び階段を上り始め、その後に彼らも続く。目指すは神祠、未だ第2層にもつかないけど、そんなものは障害でも何でもなかった。

 彼女達は進み続ける。

 

 

 彼女達が上り続ける余りにもの距離があり過ぎる階段、初めに双子忍者によって気を失った兵たちが見張っていた入り口から第1層までの中間地点、そこでは以前、刺突戦鎚を振り回す戦士とそれを2枚の盾で巧みにさばく防御戦特化の騎士の戦いは続いていた。

 (ち、本当に硬いぜ)

 その戦士ことガガーランは攻撃を加えながらも内心でそう舌打ちをする。彼女たちを見送ってから体感時間にして2分半、自身が使える限りの攻撃を、連撃の型を叩き込んでいるが、全く変化が見られないのだ。まるで、ずっと岩を1人で叩いている感覚さえ覚える。それ程までにこの騎士の防御に関する技術が高いという事であろう。

 彼女は思考を続けながらも攻撃の手を休める事はない。もしも、少しでも途切れさせてしまえば、反撃が来ることは分かりきっているからだ。それに、相手の戦力が未知数という事が不味いと彼女は考える。いくら英雄の端くれであるアダマンタイト級といっても、5人であるし、協力者である彼らを加えても頭数は9人、自分1人がここで倒れる訳にはいかないのだ。

 それでも、疲労は溜まり、徐々にその動きには粗が出始める。そして、それを見逃すほど4騎士の名は軽くない。彼女の連撃の合間、その僅かな隙を縫うように不動と呼ばれし騎士は攻撃に転じる。放たれるのは、右手に持った盾による何の変哲もない殴打。それが、丁度彼から見て、左へとその巨大な得物を振り切り、隙だらけの彼女の胴体を捉える。

 彼女の体を衝撃が襲い、その威力が彼女の左足を現在立っている段から落としかけ、それによって左足が崩れ、その揺らぎは彼女の全体を襲う。何とか持ちこたえる彼女であったが、ぐらついた際に出来た更なる隙を騎士が見逃すはずもない。

 そこで、騎士は畳みかけるように彼女に殴打を連続で打ち込む。それは、右を打てば、それを引っ込め、入れ替わりに左を放ち、直ぐに引っ込め、また入れ替わりで右を打ち込むといった単調なものであるが、現在の状況と合わさって、非常に優位な攻撃である事に変わりはなかった。

 余りの攻撃にとうとう、左足が階段を離れ、右足のみの棒立ち状態となってしまった彼女は何とか耐える。

 (くそ! このままじゃあよお)

 猛襲を何とか堪えながら、彼女は状況が限りなく悪い事を肌身に感じていた。立ち位置からして悪いのだ。こちらは下段から相手を見上げる形、相手はその逆、上段からこちらを見下ろす形。これが既に悪い方向へと舵をきっているのだ。この階段はやや急であり、もし転げ落ちるなんてなれば、常人であれば即、死につながるであろう。自分であれば、何とか堪える事は出来るかもしれないが、それでも相当の衝撃を体に浴びてしまうのは明白であった。

 これも相手の作戦の内であるのだろう。本当にその異名は伊達ではない。こうして、彼は自分にとって優位な立ち位置を保持し続け、こうして戦いを有利に進めているのだから。

 (不味いぜ、そろそろ右足が限界だぜ)

 何とか左足を段へと戻そうともしているが、それさえ許さない程に騎士が放つ攻撃は激しいのである。遂に体の重心が完全に後ろへ傾きかけ、そしてそれを戦士としての視覚で判断した騎士は最後のたむけだと言わんばかりに右手にもっと盾でとどめの一撃を放つ。別に命をとる必要はない、ひとまずはここから叩き落せば良いのであるから。そう、考えていた彼の思考を彼女は裏切って見せる。

 「!!!」

 彼女は得物から手を放し、その攻撃を受けると、外側から空いた左手で突き出された騎士の右腕を掴み、力の限り自分の方へと引き寄せる。

 彼女自身が後ろへと倒れかけていたこと、そしてとどめを刺さんと少々体重を前に傾けていた事も手伝い、騎士も前へと倒れかけ、すかさず彼女はその背に右腕を回し、騎士の胴体へと抱き着く、それは別に親愛の抱擁という訳ではなく、どちらかといえば、地獄への道連れと行った所。そして、少しでも動けば互いの唇がぶつかりそうになるその距離で、彼女は騎士に言う。

 「どうせならよ、一緒に落ちようぜ。‘不動’?」

 ここで、騎士も彼女の狙いを知るが、もう遅い。2人は抱き合った形で階段を横向きに転がり落ちる。互いに付けた鎧が石製の階段にぶつかる度に当の本人達さえ耳を塞ぎたくなる音が鳴り響く。

 そう、彼女は自身の勝利の可能性を捨て、それならせめてとこの形へと切り替えたのである。転がりながらも何とかその先の展開をどうするかと彼女は考え、それは無表情ながらも騎士も同様であったらしい。

 彼女たちの戦いは今しばらく続きそうである。

 

 

 (……? 今の音は)

 下の方から聞こえて来る硬質的な音に一瞬気を取られるが、それも一瞬である。その隙をついて、突撃を仕掛けてきた鷲馬騎兵に彼女は無言で魔法を放つ。水晶製の短剣が騎兵を騎獣ごと貫く。それでも、後ろに下がるだけでなんとか墜落はしないよう耐えているようであった。

 「ほう、ガッツはあるみたいだな」

 (畜生……簡単に言いやがって)

 今、こうして自分と相棒が飛んでいるだけでもとてつもない幸運であると、かなりの奇跡であると攻撃を受けた騎兵は思っていた。この相手は化け物だとも。

 単純に使える魔法が多く、その魔法が強いという次元ではない。それ以上に戦いなれているのである。今の自分が仕掛けた不意打ちを迎撃してみせた件と言い、まるで自分がそうすると分かっているようであった。それが表情に出たらしく、老人とも子供ともとれる奇妙な声が返って来る。

 「挙動からな、大体の性格は分かるんだよ。そして、お前の場合、せっかちと言った所か? 焦っているとも言えるな。だから、私が視線を外しただけで、馬鹿正直に突撃してくれたんだろ? 的の方が寄ってくれるんだ。これ以上にありがたい事なんてないさ」

 まるで、赤子の手をひねるように簡単であると言われた気がして、感情が爆発した。痛む体を押して、再度の攻撃に入る。隊長である‘激風’の呼び声は彼には届いてなかった。

 敵である魔法詠唱者へと無謀とも呼べる突撃、相手もそれに受けてたってくれているようで真っ直ぐに見据えてくれる。だが、自分は唯突撃を仕掛けているのではない。

 (見せてやる。これまでの俺の全てを)

 彼は帝国軍でも上位に入る鷲馬(ヒポグリフ)ライダーであった。相棒とも呼べる騎獣にもこっそり名前を付けていたりする。そんな彼は空を駆けるのが好きであった。色んな空を相棒と共に飛ぶのが好きであった。無論、訓練だって人1倍以上やっており、それは、この部隊のまとめ役であるニンブルも知っていた事である。そんな彼にとっては、先ほどの奇襲は単なる攻撃手段の1つではなく、彼にとっては、必殺とも呼べるものであった。それを大した事もないと言われてしまい、冷静さを欠いてしまった。

 しかし、彼は根っこの所では冷静に次の戦術を描き、そして実行していた。魔法詠唱者へと迫っていたかれは、後0.5メートルという所で突然姿勢を崩したように落下する。その光景にイビルアイもまた注目していた。

 (ほう、何をするつもりだ?)

 彼女から見れば、目前まで迫った相手がいきなり消えたように感じていたのだ。しかし、それがいわゆる急降下によるものは直ぐに察しがつき、視線を下に落とす。

 (だよな、そう来るよな!)

 この世界には自分が乗っているモンスターに、現在相手にしている魔法詠唱者のように飛行の魔法の存在があり、それによって、ある程度の空中戦だってあるのだ。その為、それに関する定石というものもある。そして、この世界では、物体は下へと大地へと引っ張られる性質があるのだ。これを利用すれば、下方向のみであるが、その速度を急激に上げる事が出来るのである。それが、空中戦における1つの認識であれば視界から消えた相手を探して下方を向いてしまうのは必然とも言える行動である。

 (だからこそ、この技が生きるんだ!)

 騎兵はそこで、急上昇に入る。突然の逆行、それは生まれていた力の流れに逆らう事そのものであり、騎兵に騎獣と彼らに相当の負荷を、体を引きちぎるような感触を掛けるが、彼らには何ともない。それこそ彼らが何回もしてきたものであるからだ。急降下からの急上昇による旋回、その起動は空に三日月を描くようであった。

 別にそれ自体は珍しい技ではなく、帝国軍、それも彼がいる部隊であれば必須となる技術であるのだ。それでも、その事実を差し引いた上でも彼の見せた急速旋回が速い事に変わりはなく、そのまま騎兵は魔法詠唱者の背後を捉える。そこで、下を向いたまま相手は口を開く。

 「だから……」

 それさえ、お見通しであると、背後から伸びるように水晶製の槍を生成してみせる。が、それが肉を絶つ音は聞こえなかった。

 (???)

 初めて疑問を抱いた魔法詠唱者はそこで振り向いて見せる。その視線の先には槍が何もない空間に伸びているだけであり、空しい光景とも言えた。

 そう、それこそが、そこまでの過程こそ騎兵が狙っていた次の手であった。彼の旋回は敵の背後を取ることで終わっていなかったのである。

 そのまま相手の周りを縦に、惑星の周りを回る衛星のように、旋回を続けていたのである。そのまま彼は、相手の視界から外れ続ける。彼は確信した。この相手の正面をとって、その無防備な体に現在、手にしている槍で一撃を入れてやると、相手は自分が背後をとるものだとすっかり、その気であり、そして釣られて背後を確認した。

 まさに千載一遇の好機だと考えた彼の体に嫌な衝撃が走る。

 (? え? へ?)

 余りにも一瞬の出来事であった為に、もっと言えば、大技を出す為に極限まで摩耗していた彼の脳がその事実を認識するのに時間が掛かった。どういう訳か、自分の体は落下しており、そして視線の先には同じく墜落している相棒に、その傍らには何やら人の下半身らしきものがあって、それが彼が見た最後の光景であった。

 「……言っただろう。動きが見えていると」

 イビルアイは冷たく言い放つ。そして、その言葉は彼女が相手をしている部隊を率いているニンブルへと向けられていて、彼もその事は理解していた。

 そう、彼らの目には全てが映っていたのである。敵の魔法詠唱者がしたことは特に変哲もない事であった。ただ、自分の周囲に無数の剣、それも水晶製のものを出しただけであった。突撃を仕掛けた彼は、その内の一本に激突してしまったのであり、その結果が先の光景である。呆れた様な声が届いて来る。

 「ただ、速度で私の目を誤魔化すつもりだったらしいが、そんなものだって、ある程度の動きが読めていれば、意味はない。もっと言ってやろうか? 私に接近戦を挑もうと考えない方が良いぞ? まだ弓とか使って撃ってくれた方がまだお前たちにも勝機はあるんだが?」

 何処までもこちらを見下した言い方であるが、相手にはそれを言うだけの権利がある。実力は勿論、様々な戦法、もっと言えば、この世全ての生き物の動きを熟知したような立ち振る舞いであるのだ。

 (ですけど、それだっていつまでも続くわけではない)

 確かに自分たちが彼女? (全身ローブで身を覆っている為、正確な性別は定かではない)に比べて弱い存在である事はどうしようもない事実だ。この時点ではどうあがこうと勝ちの目はない。あれからも何とか食い下がっているが、1騎、また1騎と落とされてゆき、先に落とされた彼は24騎目の戦死者であった。つまり、自分を含めて残り6騎しかいない。 

 それでも、全く状況が悪い訳でもない。確かにあの魔法詠唱者が使用する数々の魔法は脅威であろう。しかし、何事にも対価というものはある。言い方は不適切かもしれないが、剣にしたって永遠に使えるものはない、使用する度に摩耗していき、その切れ味は落ちる。それは、魔法にしたって、同じだ。魔法というものは使用者の魔力を食らうのであるから、その法則から外れるのがスクロールであるけれど、今の所そう言った物を使っている様子はない。つまり、自分たちの戦闘で間違いなく魔力は減っているはずなのである。このまま戦闘を続ければ、間違いなく自分たちは全滅するであろう。しかし、それは同時に相手の力を削ぐことにもつながる。

 (覚悟を決めるしかなさそうですね)

 ここで、激風の名を持つ騎士は何が自分たち、すなわち帝国にとって最も大切であるかを考える。それは、少しでも時間を稼ぐ事である。例え、自分たちの命がここで尽きようとも。

 「総員、覚悟を決めなさい。ここで私たちは死にます」

 「ほう……?」

 「アノック様!?」

 「少しでもあの化け物をここで引き留めます――大丈夫ですよ。きっと優しき陛下の事。必ずや、蘇生処置をしてくれますとも」

 それは、気休めの為の嘘でしかない。それは彼の後ろに控えていた生き残りの騎兵5人全員が察した。しかし、同時にそれぞれに覚悟を抱かせる決め手にもなった。本来であれば、あり得ない光景であろう。人間、誰しも我が身が可愛いものである。それでも、ニンブルの言葉に従うのは彼らにだって自分の命より大切な者達がいるという事。そして、かの「鮮血帝」に対する信頼でもあった。

 帝国にはその階級ごとに生活する場が分けられており、帝国軍でも虎の子と評されている彼らの家族は当然、一等地に住んでいるのである。

 もし、ここで自分たちが死んだとしても家族の生活は保障してくれるであろうと。いう信頼であった。

 実際、彼らの考えた通り、帝国の皇帝はその通りにするであろう。それは、彼の性格にその改革の爪痕等も影響している。今代の皇帝はその政策で結果的に多くの貴族を敵に回す事になった。いかに恐怖と武力で従わせるというのも限界があるのものである。よって、彼はそれから行う事でどうしても得なくてはならないものがあった。

 それこそ、「民からの信頼」である。貴族時代の考えを取り払い、仕事が出来るのであればそれ相応の地位や対価与え、そして国内のあらゆる問題、それも平民に関連する項目を優先して解決する事で平民たちの信頼を勝ち取ってきたのである。生き残りの兵達全員が全員、平民出身という訳ではない。

 それでも彼らは覚悟を決める事が出来た。それだけ、ここが、この案件が帝国にとっても重要な物であると判断出来るからであった。

 (それに、アノック様の言う事も全く期待薄という訳ではない)

 多くの者達がその運用に携わっているという点では組織運営も国家運営もその本質は変わらない。実際、ここで倒れていった者達とは帝国でもエリートの部類に入るのだ。そんな彼らが全滅したとして、1から新たな人材を育てる所から始めるのか、あるいは蘇生させて、再運用するのとどちらが効率が良いか? アインズがかつていた世界であれば、命という概念の軽視であると問題になるかもしれないが、生憎とこの世界ではそういった考え方はごく少数である。

 蘇生をすると、その者は力が衰えるという現象もあるが、それを差し引いたって、経験がある事には変わりない。よって、激風の言葉通り生き返る事が出来る可能性は多いにあるのだ。それ所か、名誉賞という事で特別な報酬だって期待できると彼らも腹を決める。

 「そっちはそっちなりに覚悟はあるんだろう。けどな、こっちだって簡単には引き下がる事は出来ないからな」

 そんな彼らの姿をイビルアイは自分なりに認めて、改めて戦闘態勢に入る。彼らにとっては、初めから負け戦、決して生きて帰るなんて選択肢はあり得ない。そんな悪あがきともとれる戦いは後しばらく続くのであった。

 

 

 ラキュース達は第2層へと続く分岐点を越えて、第3層へと向かっていた。

 「意外ね、あの分岐点で待ち伏せがないだなんて」

 彼女はそう走りながら後ろに続いているであろう者達に言う。現在、彼女たちは全力で階段を駆け上がっている訳であるけど、冒険者というものは一般人に比べてずっと体力があるのである。実戦に比べれば本当に何ともないのであり、実際彼女たちにはその事で疲れている様子は見られない。

 「確かに、でも」「おかしい事じゃない」

 双子忍者がそれに、先にティアが口を開き、ティナが引き継いで意見を述べる。それに同意する声も上がる。

 「そうですね、彼らにしてみれば私たちがここにいる事こそ、想定外だったかもしれませんから」

 「それは、そうですよね。モークさんの言う通りかと」

 返しながらも彼女は自身の胸で何か引っかかって感触を感じていた。この遺跡もそうであるし、ここを調べている帝国にしても何かがおかしいと、まるで照らし合わせたように自分たちは彼らと遭遇したのであるから。

 (それに、結局)

 彼らの狙いが分かっていない。初めこそ自分たちと同じようにこの霧の発生源を探しているものかと思ったが、それ以外にも可能性は考慮しておくべきである。

 (そうね、まず、分かりやすいのは)

 こういった遺跡、それも未発見の物となればそこにある物も様々である。まずは、財宝の類。それが、最も多い事例であるかと彼女は考える。

 (…………)

 どうもお金の事を考えると自分の気分は悪い方へと向かう。過去の依頼であった事が原因なのかもしれないなと――思考を切り替えて、検証する。それならば、目的は一目瞭然、帝国の資金稼ぎであろう。それであるならば、やはり妨害をしなくてはならない。

 この世の中、大体の事はお金で解決出来るようにできているものである。つまり、極端な話、沢山の金があれば、それだけ出来る事に幅が広がるのである。それによって、帝国が更に発展をするにしても軍事費に回して、軍隊を強化するにしても、王国にとっては良い話ではない。

 (だとしても、どうしたものかしら)

 ひとまず、その考えは頭の隅に追いやり、他の可能性も考慮してみる。

 (強力なマジックアイテム、あるいは魔法が付与された武器に防具があるとか)

 それだって、十分にあり得る話であるが、結局財宝とそんなに変わらない。出来る限り、帝国に強力な武器を渡してしまう訳にはいかない。と中々、答えを出せない彼女の耳にこの旅で新たに得た友人の声が響く。

 「あの、1つ、気になる事があるんですけど」

 「どうしました。ニニャさん?」

 「確か、ここって」そこで、彼女は余りの状況の変わりように全員が忘れていたある事実を口にした。「ペテルが、例のモンスターに案内される形で見つかった場所でしたよね」

 その言葉に全員が言葉を失う。確かにその通りであった。では、そのモンスターは一体何が目的であったのだろうかと。

 「確かにそうね、でも、そのモンスターが私たちに友好的な理由はないですし」

 「うん、全くない」「鬼ボスが虐待したせい」

 「……2人とも?」

 ここぞばかりに普段の鬱憤を晴らすように自分を責め立てて来る2人をやや怒気を上げた声で鎮めながら、彼女なりに推測してみる。あの時の状況を見れば、自分の判断は間違ったものではない。そう認識した上で、思考を続ける。

 (モンスターと言っても色々いるもの)

 モンスターの中にも知性を有しているものも少ないけれどいるのだ。これまでの得た情報を整理しれみれば、ここまでに来る途中の馬車で自分が攻撃を加え、そしてモークを助けたそのモンスターは間違いなく知性があるだろうと結論づける。彼を助けた際にスクロールを使用していたという話も説得力を固める要因だ。

 では、そんなモンスターが自分たちをここに招いた理由は? それ程までの知性を有しているモンスターが自らの行動で――彼にこの場所を教えてその先、どうなるか分からないはずがないのであるから。

 (本当に何が? ――‼‼)

 彼女は強引に意識を切り替え、叫んだ。

 「全員、後ろに飛びなさい!」

 その言葉にその場の全員が反射的に反応して、彼女の言葉通りにした正に1秒後、目の前の階段が砕けた。石製であろう、それは余りにもあっけなく砕け散り、その破片が彼女たちへと降り注ぎ、その衝撃も余程強かったものだったらしく、その1点を起点に煙が立ち込めた。

 「な、なんだ!?」

 その突然の事にルクルットが間抜けな声を上げる。下方へと飛び降りるのは危険であるが、そこは何とか身のこなしに優れた者達、忍者に野伏が中心となって、一気に数段降りた先に着地する。

 「こんな事が出来るのは、彼女しかいないわね」

 ラキュースの言葉を肯定するかのように、その正体も露わになる。開けた視界におさまるのは、完全に1段が無くなり、その部分だけ段の高さが倍になってしまった。そんな所に刺さっているのは穂先であった。そして、煙が飛散して、その振るった相手の姿も出て来る。

 「おお! マジで――ぐへ!」

 つい、いつもの調子で声を上げそうになったお調子者をいつもの様に鉄拳で黙らせるリーダー、幾ら何でも今はそれ所ではないのだから。それでも、相手は、女性の好みに五月蠅いと自称している彼――その割には大分判定が甘いとペテル達は思っているけど――が声を上げそうになる程には美人であるのであった。

 (ですけど、何でしょうか?)

 出てきたのは流れるよう川を連想させるように長い金髪で顔を半分隠した女性であった。身に付けているのはこれまで2度も見てきた物と非常に似ており、それが女性の正体をペテル達に教えてくれる。その予想が正しいものであると証明するようにラキュースの言葉がその場に響いた。

 「帝国4騎士が御一人、‘重爆’レイナース・ロックブルズ殿とお見受けする」

 「そうですか、私の名は王国にも広く知られているみたいですわね」

 言葉をかけられた女性は平淡に答えてみせる。彼女自身にとって、その立場というものは特に大切なものではないらしい。そう、ペテルもそれを感じていたのである。それまで自分たちの前に立ちふさがった4騎士達、‘不動’にしても‘激風’にしても自分たちに対してある程度の敵意を向けてきていたのである。あの無表情な騎士でさえ、なのに彼女からはそういったものが感じられなかったのである。

 「あなた方が此処で何かをされているのは既に分かっています。そこを通してはもらえないでしょうか?」

 「出来る事なら、そうしたい所ですが。……――はあ、これも仕事の内ですわ……」

 やる気なさげに彼女は槍を構える。その姿勢もこれまでの4騎士達とは異なり、どこか嫌々やっているよう見えた。対するラキュースも魔剣を手に取り、再び口を開く。 

 「重ねて問おう。通してはくださらないか?」

 「では、こちらも重ねて返しましょう。あなた方を通さないのが私の仕事ですから、難しい話でございますわね」

 「そうか、ならば……」彼女は剣を構――柄を持った両手を自身の頭よりも上にあげ、刀身を下に向ける形――えて続ける。「何が何でも通してもらうとしよう。推して参る‼」

 最後の言葉を言い終えると同時に彼女は走り出す。初めに彼女が狙ったのは刺突であった。それをレイナースは後方へと飛び上がる形で躱し、直ぐさま槍を構えて、彼女へと突き出す。彼女はその突きを身を倒す形で躱し、そして剣を攻撃の為に近づいていた相手めがけて横なぎに振り払う。その攻撃は当たるはずであった――が。

 (な!)

 ペテルは思わず内心でそう叫ぶ。重爆と呼ばれし騎士はそこで後ろへと飛んで見せた。言葉にしてみると単純なことであるが、彼の目に映ったのは全く違っていたのである。

 上手く説明は出来ない。本来、あの騎士は自身の攻撃、槍の突き出しに引っ張られる形でラキュースが放った返しの横なぎに自らつっこむはずであったはずなのだ。しかし、その直前で肉体全体の動きを一度静止したように見えたのだ。

 (やはり)

 可憐な女性であっても帝国が誇る最強の騎士の1人であると、彼もまた気を引き締め直す。

 

 (成程、噂に聞いた通りなのね)

 ラキュースもまた、攻防を続けながら、彼女についての情報を洗い出していた。彼女は、その異名が示す通りというか4人いる騎士たちの中では最強の攻撃力を誇るという。それは、先ほどの攻撃で半ば証明されている。此処まで散々自分の足裏で叩いてきたのだ、この階段だってそれなりの強度を持つのは確かである。それを彼女は一撃であそこまで破壊してみせた。女性でありながら、此処までの力を出せる理由はどこにあるか? それは自分の攻撃、彼女の攻撃さえ利用した一撃を簡単に躱してみせた事である程度理解出来た。

 彼女はいわば、常人よりも()()()()()()()が強いのであろう。

 この世界にだってその手の医療がある訳であるし、何でも中央大陸の方でその研究が進んでいるとかいないとか、ラキュース個人としては非常に興味がある話であったが、なんせ場所が場所であり、その話があったのは亜人、それもミノタウロスの国からという事もあり、現状では難しいと諦めていたのである。故に、そこまで詳しい話は分からず。目前で槍を振るう彼女の事もそのように表現するのが精一杯であったのだ。

 要は、文字通り医療の分野の話になる訳である。

 この世界では魔法が発達したために、余りそういった技術がのびる事はなかった。それ所かアインズの元居た世界では当たり前であった事さえ、「野蛮な物である」と忌避されているのであった。しかし、ラキュースの思った通り、件の国にて突如現れた、おかしな人物の働きでその辺りの事も改善が静かに、しかし確実に進みだしており、ラキュースが聞いたのはその上で出てきた話の1つであった。

 その話になぞらえるのであれば、帝国4騎士の紅一点にして、最強の攻撃力を誇る彼女の強さの1つはその肉体構造にあった。

 人とは体を動かす際、脳より脊髄、神経を通り筋肉へと命令が届き、その体を動かしている。そして彼女の場合、それが常人よりも速いのである。

 極端な例を上げるとすれば、常人が「こう動く」と決めて、それを実行するまでに0.5秒かかるとしよう。実際はそんな適当な数字ではないはずであるが、今はそう言う事であると思って頂きたい。それに対して彼女は0.3秒で動けるのである。その差0.2秒、たかが、その程度と思われるかもしれないが、その僅かな差は全身運動をする際に、大きな差を生み出すのである。

 そして、速度とは威力に直結するのであり、彼女が振るう槍の重さが、正に重爆と呼ばれる程の威力を出せているのは正にそういった理由なのであるが、その事を現在戦っているラキュースは勿論の事、本人さえ正しく認識してはいない。

 

 言える事があるとすれば、1つだけ、正に肉体的スペックではラキュースが劣っている事はどうしようもない事実であり、そんな彼女を何とかしなければ、彼女たちの目的は達成できないというもの。

 

 霧の中、彼女たちの戦いは続く。 

 

 

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