依頼主であった劇団と別れ、モモンとナーベの2人は、レヴィア達と合流していた。出演の依頼自体はモモン達2人にあったものであり、その間、残りの2人? には、別の仕事をしてもらっていたのである。
「そちらも問題なく済んだようだな」
「はい、特に何もなく」
簡素な返答であったが、彼女への信頼はある為、別に不快に感じる事はなかった。 「某も劇に出たかったでござる~」
文句を言うのはハムスケである。彼女もまた演劇というものに興味があったらしいが、アインズとしては勘弁して欲しいと思ってしまい、つい、冷たく言ってしまう。
「無理を言うな」
この珍獣にそこまで複雑な事は出来そうにないし、何よりその外見がよくない。
(うん、やっぱり)
森の賢王と呼ばれるのは、霊長類、あるいは狼とか、猪等が似合う。と、彼は思った。元の世界では、ユグドラシルしか生きがいは無かったが、ギルドメンバーには、映画等好む者もおり、聞いた話だと、山の神様が取る姿というのは猪か、あるいは鹿が多かったという。
(アニメーション映画って言ったな……)
彼が元いた世界は、環境汚染によりそう言った映像を取る場所1つ確保するのも大変であるのだ。よって、専門の人間が一から絵を描く2次元作品の方が普及していったのは必然とも言える。
別にそれ自体は関係ないのだろうけど、先ほど自分達が出た劇にしたってハムスケの代わりを務めたのは、変則ゴーレム使いである彼が用意したものであり、その外見はジャンガリアンハムスターではなく、イノシシを思わせる姿をしていた。そしてその声も、無論あてたのはあの男だ。
(凄いよな~)
思わず感心してしまった。あの劇団、所属しているのは現在6人であり、慢性的な人手不足でもある為、それぞれがいろんな役割を兼ねる事も多々あるという。例えば、ナーベラルが着用したドレスなど衣装を担当している彼女やナレーションを務めた、団長でもある彼が普段は役者として舞台に立つという。今回のように、冒険者を雇って、やってもらう事もあるらしく、そうなってしまうとと、彼は嘆息してしまう。
(そうなってくるとな~)
この世界では、冒険者とは体のいい何でも屋でもある様であり、ますます彼がその職業に抱いていた夢を砕くようであった。
(これじゃ、派遣と変わらんな……)
何で、こんな仕事をする者達をそう呼ぶようになったのか一度本気で調べてみようかとさえ思ってしまう。
考えが脱線してしまった。と彼は劇団の事を思い浮かべる。そんな中で彼は、1人でモンスター達の声あてをしているというのであるから。
先ほどの劇、ナーベが演じた王女を捉えたモンスター達、その1匹1匹がまるで生きている別個体だと思わせるように違うものであったから。ゴブリンであれば、やや甲高い声、オーがであれば常に相手を威圧するような声であったりとだ。
更に凄い事にそれをとおしてやっていたのであるから。かつて、ギルドメンバーである彼女からその手の話は聞いていた。普通であれば、その演技を音声として録音しておくのだという。そして、それを編集してアニメとするのだ。
しかし、劇となるとそうはいかないようで、というか、この世界ではまだそう言った技術、あるいは魔法さえ出来ていないようであった。その為、そうするしかないのである。
(役者というものだな)
そんな彼が演じた森、あるいは南の賢王もまた威厳に満ちており、始めは敵対しそうになったが、王女の国へと思いを訴えた事で理解してくれたのである。あのシーンを演じている時は思わず、これが劇である事を忘れかける程、良いものであり、それは観客にも伝わっていたようであったのだから。
最初は、金額でつられてしまい受けた依頼であったが自分も楽しんでいたらしいと彼は、その兜の中で笑みを浮かべる。
「それで、レヴィア達の方はどうだったか?」
「どう、と言いますと?」
どうにも冷たいとアインズは思ってしまう。あるいは、自分が浮かれてしまっているのかとも考える。彼女にやってもらっていたのはいわゆる護衛依頼。自分達が初めに受けた依頼。
(ははは)
思わず笑ってしまう。それは既に1月以上も前になると言うのに、ふとした時に思い出すのであった。それだけ印象に残った依頼、あるいは波乱だらけであった旅ともいえる。
(そう、そうだよな)
始めは貴族と吟遊詩人からの警護と取材に、そして襲われていた彼らとの出会い。それから、この世界で初めて人と、あの姉妹と出会った村に行き、ハムスケとの遭遇。
(…………)
そして、彼らとの戦いに彼との邂逅、これは依頼とは関係がない事ではあるが、それでもアインズ個人の記憶として強く残っていた。その後、都市での一件とわずか1週間足らずだと言うのにいろんな事がありすぎた。そのおかげでいろんな人とも知り合えた訳でもある。
(モークさん達は……街を出たって話だったな)
戦争の際、一度墳墓に戻る前にしたやり取りの後、彼らは王都へと向かったらしく、その事で組合長が愚痴を言っていた。というより聞かされた。
『モーク君達には、期待していたというのに……何がいけなかったんだと思う。モモン君?』
そんな言葉が再生される。彼としては、彼らにここに残って、そしてそのまま高位の冒険者を目指して欲しかったらしい。それでも、彼らの選択を尊重するあたり、この人物も人が良いのだろう。
(ま、せめて)
自分達はこの街で活動を続けていくつもりで行こうと彼は思った。それだって、いつまでもという保証は出来ないけど。
それからと彼はその依頼で知り合った人たちの事を頭に浮かべる。
(ビョルケンヘイムさん)
あの貴族の若者とはあの後も手紙などで交流をしているし、カルネ村で出来た作物を買ってもらったりしている。一度、エイトエッジアサシンに頼んで、彼の領地の様子を見に行って――ここで彼は内心で別にこれはやましい事ではないと内心で肯定――貰ったが、そこは確かに裕福ではないけど、領民と領主である彼の家が一丸となって日々を懸命に生きている素晴らしい所であったという。
(そう)
この世界に来て、否、戦士として活動を始めてそれなりに時間は立っていた。そうなれば嫌でもこの国の貴族がどういったものであるか見えてしまうから。
平民を見下す者。唯、自身の地位を威張り散らす者。
そう言った者達が殆んどであった。自分達はそう言った対象になることはなかったが、それはアダマンタイト級という地位に、例の噂が関係しているかもしれない。
(そういえば、シャルティア達の方)
現在、王都にいるであろう彼女達もある貴族の家と接触する為に行動をしているはずである。その家が計画を進める為の協力者になりうる可能性があるということであった。特に心配はなく、どういった結果が帰ってくるかという期待だけである。
(後は……)
あの騒動の後、丸っきり姿を見なくなってしまった彼を思い出す。
(…………)
彼と別れた後、もっと言えば自分達が離れた後、ンフィーレア達は襲撃にあったという。
(まさか、な)
きっと偶然であると彼は意識を会話へと戻した。
「そうだな、相手方に失礼などなかったか? まあ、心配はないが」
「当然、そう言った事などありえませんから」
「そうだよな」
(不味いな)
これ以上、話を繋げるすべを彼は知らなかった。これでは、余りにも事務的なやり取りである。かと言って、仕事終わりに「楽しかったか?」なんて聞くのは余りにも常識外れではないかと彼はしばし迷走するのであった。
(???)
主であり、現在は仲間と言う事になっている彼のその様子にレヴィアノールは頭に疑問符を浮かべた。この方は一体何を危惧しているというのであろうかと。
(特に問題なんて)
無かったはずだ。依頼はしっかりこなしたし、唯、それらしきものがあったとすればと彼女のこめかみが力む。
(悪かったわね!)
依頼主達が自分とハムスケが来たことに、もっと言えばモモンとナーベが来なかった事を露骨にがっかりしたという事位だろうか。確かにこの2人は、このチームでも人気が高い。比べて、自分とあの珍獣はどちらかと言えば恐れられているといった印象の方が強い。
(おかしいわね……)
別に変な事はしていないというのに、あのハムスケよりも自身が怖がられているようである事を彼女は疑問に感じる。
しかし、その理由は彼女の戦い方の、敵への一切の容赦のなさが原因であるのは言うまでもない。
一行はそのまま、宿へと向かう。時刻は既に夕刻であるし、この面子は食事をする必要がないからである。
「おや、モモンさん達じゃあないか」
「これは、カインさん、それにテンカ君も」
「こんばんは~モモンさま~」
鉢合わせたのは、ここで知り合った人達であった。かの戦士長にも負けない肉体美を誇る男性に、男の子にしては長い髪を後ろで三つ編みに――その様相まるで蠍の尾のようにした子供であった。
テンカと呼ばれた子供はアインズへと近づくと両手を上げ、更に彼へと期待を込めた眼差しを向けてくる。
「分かっているって」
それを受けた彼は子供の脇腹へと手を当て、そして持ち上げてやる。
「わ~い、たか~い、たか~い!」
「たく、すみませんね。甘えん坊で」
「いえいえ」
謝ってくる男性に特に気にしていないと返して、アインズはしばし子供を持ち上げ続ける。別に珍しい光景でもない。英雄モモン、彼にこうして持ち上げて貰えば、その子は強く育つと噂は立ってしまっているし、そうで無くとも穏やかな人柄である彼は子供達にも慕われており、テンカのようにねだる子は沢山いるのであり、そしてそれをアインズが拒む理由は無かった。
子供が見せる無邪気な笑顔と言うものは心を温かくしてくれるものであり、彼は自身の計画を何が何でも形にしなくてはと決意を新たにするのであった。
(アウラ達にもな)
アルベドがこっそりと教えてくれたのである。自分がこうしている事に双子の階層守護者を始めとした墳墓でも年少に当たる者達が不満げに思っている事を。それだって、支配者としての自分の前では一切そういった素振りを見せないことを。だからこそ、機会があれば彼女達も同様に存分に可愛がってやろうと彼は思うのであった。
(……アインズ様)
何も嬉しい思いをしているのは彼だけではない。ナーベラルもまた愛する主が心から平穏である事を、兜の下のその表情は微笑んでいるであろう事が分かるからであった。
(いつか……~~~!)
この光景を見ると、自分はいつもそうであった。つい、それを思い浮かべてしまい、悶えてしまう。それを主は勿論、他の者達に知られる訳にはいかないので、何とか抑える。
(ちょいちょい、ナーベ)
(?)
小声で呼びかけて来たのはレヴィアノールであり、手招きをしている。一体何であろうか? と彼女は半歩近づく。
(何かしら?)
その問いかけに彼女は思い出したような口ぶりで問い返した。
(モモンさんとはどうなの?)
(何が?)
(夜の寝室よ! あたしが気を使ってやっているんだから!)
(あ、ああ、その事ね)
言い淀むナーベラルにレヴィアノールはまさかと詰め寄る。
(何もないなんて言わないわよね?)
違うと否定して欲しくて、そう言ったのに彼女は頬を赤らめ、気まずげにしているだけであり、それが自身の落胆が本当であるとレヴィアノールに知らせた。
(ちょっと!)彼女は、ナーベラルの肩を掴み、可能な限りの声で叫ぶ。いや、それは叫ぶとも呼べない小さな声音であった。(あんた、何もしていない訳?!)
(出来る訳ないでしょ!)
同じく、小声でありながらそれでも無理だと訴えるナーベラル、彼女だって同僚が気を使ってくれている事は素直に有難いと思っている。現在、彼女達は宿屋にて3人部屋を取っている。これは、単にその方が都合が良いからであった。主に墳墓との連絡であったりと、打ち合わせであったりと、周囲の者達の中にはそれこそ、邪推する者もいたが、主は気にするなとおっしゃっているので極力考えないようにはしている。さて、その為、ここで過ごす内は3人同室で寝る事になる訳であるが、自身の恋心を知っている彼女が気を利かせてくれて、毎晩ハムスケと一緒に馬小屋で寝てくれているのである。
(確かに感謝しているわ、貴方は熱いのを苦手にしているのを知っているから)
そう、第7階層の所属でありながら彼女は熱気が苦手というのだ。その為、普段は冷気を纏う等の類の装備をしているのである。それが、彼女本来の物か、あるいは彼女を創った創造主がそうあれと定めた事なのかは本人さえ確かめようがない。
(ほんとよ! あいつ、熱いったらありゃしなんだから)開いた手を何かを握りつぶすように震わせながら、彼女の愚痴は更に続く。(この前も! いきなり寝返りをして来たんだから!)
(でも、貴方だったら特に問題もないと思うのだけど)
(ええ、そうよ! 別に潰される訳じゃないわよ! それでもね!)
大質量の物体が、いきなり体の上に乗る感触は不愉快であると彼女はナーベラルへと訴えた。
(本当に感謝はしているわ、でも)
だからと言って、ナーベラルだって彼女の期待通りに事を進めるなんてつもりは毛頭なかった。そう言った事であれば統括である彼女が優先されるべきであるし、愛する主と同じ部屋で2人だけ、という状況で、自分は十分満足しているのだから。
(あんたね~本当に欲が無いわね……)
(そういう問題じゃないわ)
(じゃあ、聞くけどさ、一緒に寝たりとかは?)
途端に顔が熱くなってくる。同じ部屋で寝るだけでも心臓が破裂しそうであるのに、そんな事になれば自分は原型を留める事が出来なくなり溶けてしまいそうな自信さえあった。
(出来る訳ないじゃない!)
それを聞いたレヴィアノールは心底がっかりしたと言いたげに頭を下げる。自身がやっている事が何の成果も生まないとあれば、それも無理はない話である。それを見せられたナーベラルだって、その胸に罪悪感が溢れてくるが、それは次の彼女の言葉で消えてしまった。
(別にね)彼女は愚痴るように言葉を続ける。(やれとか、子供を作れとか言っている訳じゃないのよ?)
それは、冗談抜きにしても最低な言葉であるとナーベラルは感じた。何を言いだしたんだ? この同僚はとその目は冷たいものになっていくが、彼女はその事に気付かずに話を続ける。
(同じベッドで寝るくらい簡単でしょ)
(貴方ね……)
言うだけであるなら確かに簡単であろう。それと、本当にそれだけが目的であってもだ。しかし、自分はそうはいかないのだから。
(例えば)そこで、彼女は自身ののど元に手を当てた。(こんな誘い方なんてどうかしら)そこで、彼女は声真似をしてみせる。スキルの関係で、他人の言葉を再生する機会が多い彼女ならではの提案の仕方であり。
(!!!)
思わず、それを聞いた彼女は我が耳を疑った。声とは、2種類ある。他者が聞く己の声と、己自身が聞く己の声だ。これには明確な違いがあり、「君ってこんな声を出すんだ」と、必死に真似てみても、それが伝わるのは第3者であり、決して本人には伝わらず、むしろトラブルの種にさえなってしまいがちだ。
しかし、レヴィアノールが発したのは、正にナーベラル自身が普段聞いている己の声であった。一体、どうしてそんな声が出せるのか、あるいは彼女自身しか聞いていないであろうその声音を知ったのかは定かではないが、とにかくその声真似は優れており、ナーベラルに自分自身がそう言っているようにも錯覚させた。
(そう、こんな感じかしら)彼女は服をはだけるような仕草をしながら、甘い言葉を続ける。(モモンさん、私、寂しいのです。貴方様で暖めてくれ――!!!)
彼女がそれ以上何かを言う事は出来なかった。それより先に、ナーベラルの拳が飛び、覆面越しでも的確に彼女の顔面を捉えたからであった。
(貴方ね……なんて事言うの?!)
彼女にしてみれば、本当に自分が愛する主にそんな淫らな事をしながら、迫っているようにも感じてしまい、思わず手が動いてしまったのである。
(痛いわね、ユリにも負けないんじゃないの?)
(そう、それはありがとう)
(なんでそこで喜ぶのかしら)
ナーベラルにとって、長女は自慢であり、憧れでもあるので似ているといったニュアンスの事を言われて悪い気はしないのであった。これが次女であれば渋面しただろうが。
(ルプスレギナも)
彼女もどうして、こんなだろうとナーベラルは内心で嘆いていた。思い出すのは、先日の事であった。彼女達戦闘メイド姉妹は、仲が良く、少し特殊な環境下にいる末妹を除いた6人は定期的に集まり報告会という名の茶会を開くのである。それだって、それを理解してくれている主が取り計らってくれているものであるけど。
さて、そんな茶会で一番新しい記憶。そこで、久々にあった。次女が発した言葉が問題であった。
『ナーちゃん~避妊はしてるっすか~?』
その言葉は正にいきなり投下された爆弾であった。別にやましい事はないと言うのに、反射的に顔が火照ってしまい、それを見られたのよが更に良くなかった。
『う、嘘よねナーベラル……』
自分の事を信頼してくれている長女の顔に罪悪感を感じてしまい。
『あら、そうなの?』
そう聞いてくる、同じく三女の瞳は間違いなく殺意がこもっていた。その気持ちは分かるものでもあった。逆の立場であれば、自分だってそうなってしまっただろうから。
『…………ひにん?』『何ですか? それはぁ』
まだ、その手の知識が浅い妹たちの姿に心が痛むと同時に次女へと怒りがこみ上げてきた。子供の前でなんて事を言っているのであると。その時は必死に否定して、何とか場を収め、そして当然の如く長女の鉄拳が飛んだ。誰に向けてかは言うまでもないだろう。
(本当になんなの)
次女と言い、この同僚と言い、時折何を考えているか分からなくなる時がある。彼女達が以前やらかした事は忘れたくても中々忘れる事が出来ない。その件で、彼女達は必要以上に痛めつけられているはずであるのに。全く効いていないようにも見えるのであった。
(特にルプスよ)
またも、頬が熱くなる。褒賞として過ごした際に、彼女は妹へと入れ知恵をしてくれたのだ。それで、またも羞恥を味わう事になってしまったのであるから。その時の事は既に解決はしている。
それだと言うのに、彼女がその件で何か言ってくることをやめる事はない。本当に何なんであろうか? もしかすると、彼女には学習能力というものが欠如しているのではないか?
(別にその必要は無いわ)
(本当に、欲が無いわね)
そういう彼女の事もなんだか煩わしく思ってしまい、ナーベラルは機会があれば、死体を纏っている彼に告げ口をしてやろうと決めた。
(そうね、なら)
ナーベラルがそんな事を考えているとは知りもしないレヴィアノールは背負っていた鞄に手を入れる。
(確か、この辺りに)
それは、先の仕事の依頼主から貰った品であったはずだ。目当ての物を掴んだという感触を平に感じて、握る手に力を入れる。
(あったあった、これよこれよ)
それから彼女はそれをナーベラルへと放った。それを何の問題もなく彼女は受け取って見せる。それは、望遠鏡のようであった。
(これは?)
(先の依頼主がくれたわ)
彼女は説明をする。今回の依頼主が、別の人物から貰い受けた品であるらしい。
(どうやら、デミウルゴス様の推察通りみたいね)
(それに、ヴァイシオン様が教えてくれた通りでもあるという事ね)
ま、その事に関して今は別にどうでも良いと彼女は続けた。
(この世界でも、天体観測ってあるみたいだし、今夜辺り誘って見ればいいじゃない)
(レヴィア、あなた)
(そりゃ、計画を進める為にそれぞれの仕事を全力でやるのは大事よ。それは私も分かっているわ)それは彼女自身の考えであった。主が望む世界を作る為に努めるのは当たり前である。それでもと彼女は続けた。(でもさ、たまには良いんじゃないの? あんただって、アインズ様との時間はもっと欲しいでしょう?)
(それは……)
一瞬躊躇ってしまうが、それでも確かにそれは自身が望んでいる事でもあったために、彼女はその品を懐にしまい、そして彼女へと礼を言うのであった。
(ありがとう、レヴィア)
(別に、良いから)
自分の後ろで、彼女達がそんなやり取りをしているとは知らないアインズは子供を抱き上げながら、カインと話をしていた。
「本当に、モモンさんは子供に慕われているね」
「いえ、そんな事はありませんよ」
子供達にしてみれば、自分は単純に凄い存在に見えるであろうとアインズは思った。子供というのは、視野が狭いし、まだ世界観が小さい為に力強いという部分が目に映りやすいのであろうと。
「しかし、都市の復興は大分終わって来ましたね」
「ええ、本当ですね」
それは、素人目でも分かる事であった。壊された建物は修復が進み、泣いていた子供達の顔にも笑顔が浮かぶようになったのだから。
「やはり、子供には笑っていて欲しいものです」
「子は国の宝ってな、そんな所かい? モモンさん」
「ええ、そうだと私も思っています」
子供というのは育てば働き手となり、その国の経済を回す重要な立ち位置となるのであり、そう考えればその考えは最もであるとアインズは思う。
(あの世界はな)
元の世界では、子供は子供でも、富裕層の子供達だけがその対象であり、後は使い捨て上等、それこそ調子の崩れた機械時計パーツでしかなかったのだから。自分の母親に、彼の両親がそうであったように……
そこで、アインズは抱いた子供の頭に手をのせてやる。今の彼は、肉体を纏った人間である為、ガントレット越しに髪の感触がより鮮明に伝わってくる。彼に撫でられる形となった子供は笑った。
「モモンさま~♪」
「ああ、良い子だな。しっかりと、カインさんの手伝いをするんだぞ」
「うん!」
子供を可愛がりながらアインズは考えた。
(俺が、目指すべき楽園)
1つ、それは、努力が報われる世界でなければならない。彼が元いた世界では、どれだけ働いても給料が上がらないなんて会社が殆んどであったから。
(働きには相応の見返りがあるべきだ)
その世界では、例えば、会社の売り上げが上がったとしてもそれが社員にいきわたるなんて事はなく、給料だって据え置きというものであった。それでは、何をモチベーションに次の仕事に取り掛かれば良い?
彼らは言った。「働かせて貰えるだけで、有難いと思え」実際、一度会社を辞めるなんて、あれば、そういった経歴がついてしまえば、ほぼ再就職は難しい世界であったのだから。
(そんな、世界を実現する為には)
あの世界がああなってしまったのは、環境汚染に、資源の枯渇もその原因であった。ならば、それだって、それこそ数千年単位で見積もって行っていくべきであろう。この世界にはまだ資源が豊富にあるし、彼らの存在もある。
(つくづく)
この体に感謝すべきだなとアインズは再び笑う。肉体的疲労を感じないというのは、本当に有難い。目的の為にこの体は酷使するつもりであったから。
(教育、それも考えていかないとな)
あの世界では、教育費が高騰して、更に義務教育まで撤廃されてしまった為に、それこそ生まれた家庭でその子供の未来は決まってしまうようなものであった。それをあの男は「二極化されすぎている」と評していたのを思い出す。
(教育にだって、沢山のお金が掛かる)
その施設を用意するのは勿論であるが、人材だって確保しなければならない。何にしても、まだ先の話ではあるけど。
「カインさんは仕事の方は?」
「へへ、今日はもうおしまいですさ」
彼らは本当の親子ではない。別の村で暮らしていたらしいが、モンスターの襲撃にあい、少年の両親は殺されてしまい、村も半壊状態になってしまったという。
(にしても)
カルネ村の件と言い、この国は民というものを大切に出来ていないらしい。いや、これに関してはアインズにだって偉そうな事を言えた義理ではない。
初めにその光景を見たときに、どうすれば自分達の計画に利益を生むことが出来るかと考えてしまったのであるから。
(それにだ)
自分やシャルティア達、いわゆる表の「立場」を固めている班と違い、完全に裏で動いてもらっている彼らの働きで知った事であるが、この国の総人口は900万人位であると言う。そして、カルネ村の人口、それも件の襲撃を受ける前のもの、エンリから聞いた限りでは120人程であったと言う。そして、この国に存在するであろう他の村もその人数であれば、と彼は思考を続ける。
例えば、TVのニュースでどこぞで火事があったとして、それにより5人程の死者が出たとしよう。何人の人間がその事に興味を示すだろうか? それを知った彼らにしたって、生活を守る為に必死にその日の仕事をしている可能性がある訳であろうし、気に掛ける者等、その被害者の親族ではない限り、耳を傾ける事さえしないかもしれない。というか、アインズはそうしているだろうと自信さえあった。
(特に珍しい事ではない……という事か)
そう考えれば、この世界もあの世界もそんなに変わらないかもしれない。
「そうですか、では、この後飲みにでも行きませんか?」
仕事終わりに飲む酒というものは上手いものである。ナザリックの水準に比べてしまうと、どうしても劣ってしまうが、それでも体に染みるのは確かであり、そうやってコミュニケーションをとるというのもあの世界とそんなに大差はないように思われる。そんな訳で、飲みに誘ってみたが、男は申し訳ないと言った顔をして頭をかくのであった。
「すいませんね、明日も早いんで今日はもう、寝たい所なんですさ」
「そうですか、それは残念です」
「はい、そう言う事で、おい! 帰るぞ」
その言葉にアインズに抱き上げられていた子供は不満げに頬を膨らます。
「もっと、モモンさまといっしょにいたい」
「明日も仕事なんだ、お前の好物を作ってやるから」
その言葉に子供は目を輝かせ、それを確認したアインズはゆっくりと下ろしてやった。抵抗する事は全くなく、その子は父親代わりである男の後ろにくっつくのであった。
「それじゃ、俺たちはこれで」
「はい、また今度」
その言葉で彼らと別れを済まし、モモン達は宿への歩みを再開した。
「レヴィアは、またハムスケの所で寝るのか?」
「はい、あの毛並みは控えめに言って最高でございますので、モモンさんがお許しになれば」
(そんなに良いのか)
「いや、そういう事であれば、好きにしてくれていいさ」
「ありがとうございます」
「ええ~」2人のやり取りに此処まで無言でいた珍獣が不満の声を上げる。「レヴィア殿は寝相が悪いから嫌でござる~」
(そうなのか!?)
部下の意外な一面を知ったようで以外に感じる彼の後ろで、肉を蹴る鈍い音が響いた。
「どうかしたか?」
「いえ、何もありません」
振り向いて聞く彼に、レヴィアノールは何でもないと言ってみせる。そして、主の視線が前を向いたのを確認してハムスケへと詰め寄った。
(空気を読みなさいよ! この肉饅頭!)
(酷いでござる~)
なおも涙を流して、抗議をする獣に彼女は耳打ちをする。
(あんたの好きな果物をもらってきてあげるから)
その言葉にハムスケの髭がしっかりと伸びた。彼女の言葉に反応したようであった。先ほどとは180度違う態度で獣は己が希望を伝える。
(それならば、某、‘ふじりんご’それも、‘みついり’とやらが良いでござる!)
それを聞いたレヴィアノールは片手を顔に当てた、といっても覆面の上から手を当てる形になる。
(ああ、もう、舌だけは肥えちゃってさ!)
よりによって生産が難しい部類を頼まれてしまい、それによって、自分がする事が増えるからであった。
(駄目でござるか?)
(分かったわよ)彼女はそこで、視線をハムスケから夕刻で赤くなった空へと向ける。(また、借りが出来ちゃうじゃない……今度は何をさせられるのやら、はあ)
「ん? これは、モモンさん達ではないですか」
宿にて一行を迎えたのは、ここで働いている青年であった。
「はい、今日の依頼も終えた所です」
「モモンさん達であれば、失敗なんて事があり得ないのでしょうね」
「はは、そうかもしれませんね」
そう返しながらもアインズは不味いと思っていた。
(いやいや、それはないだろ~)
失敗が無いというのは最上の信頼であろう。しかし、それは成功し続けている内だ。もしも、いつかモモンとして大きな失態をやらかしてしまえばと、彼は現在は存在している胃が締め付けられる感触を味わった。
(いかん、失敗したかもしれない)
英雄像を作るという自分達の狙い、それは順調であるし、完成してきたと言ってもいいかもしれない。しかし、それは同時にこれからも完璧な仕事ぶりを求められる事であり、その重圧が彼を襲う。
(~~~、大丈夫だ。策はいくらでもあるのだから)
それこそ、英雄モモンに関するシナリオも沢山用意してあるのだから。脳裏に浮かぶのは、自身の息子とも呼べる存在であり、埴輪のような顔をしており、そして後ろにいる彼女と同じ種族でもある彼だ。
(ああ、あいつもなんだよな~)
確かに彼を創ったのは自分であるが、あの言動は心臓に痛む。それに何が辛いって、あのハイテンションぶりをを見た他の
「夕飯はどうされますか? いつものようにお部屋にお持ちしましょうか?」
「はい、それでお願いします」
食事1つにしたって、十分この世界を考察する材料になり得る。よって、可能な限り墳墓へと送っているのだ。現地と墳墓で生産しているものの違いは勿論であるが、他にも改善点が無いか調べて貰っている所でもあった。
単に、自分達の基準を広めれば良いという話ではない為、行っている事でもあった。
「あ、そう言えば、先ほどアインザック様がお見えになりまたよ」
「そうですか……」
「明日一に組合に来て欲しいという事でしたよ」
(またかよ)
「けっ」
そんな声を上げたのは、被り物をした彼女であり、心なしか殺気も溢れており、それを生存本能で感じ取った青年は短く悲鳴を上げる。
「ひい!!」
「レヴィア」
「失礼しました」
直ぐに咎めるアインズに、彼女も直ぐに抑えてくれたので何とかなったが、彼にも彼女の気持ちは分からないものでもなかった。他にもナーベラルは明らかに気落ちした表情をしていたりするのだから。
冒険者組合長、プルトン・アインザック。その名が出ること自体は別に問題ではない。彼が、アインズ達に接触を求めて来ることが問題であった。
別に意地悪をされているとか、口うるさい説教をされるとかではない。
(今度は何だ?)
彼からの呼び出し、それで一番あったのが、高級娼館への誘いであった。彼曰く「これも大人の嗜み」であると、確かにその考えは理解は出来る。かといって、自分が喜んでやるかと言われれば、また別問題である。彼女達の反応だって当然である。
(でも、あれだな)
レヴィアノールはその辺りに関してかなり潔癖らしい。と、彼は部下の一面が見えた事を嬉しく思う。実際は、主関係であること限定で彼女はそう言った態度をとっているのであるが、そこに気付くことはなかった。
ナーベラルにしてもそうだ。仮に親代わりである人物のそう言った話は聞きたくないに違いない、あのエロゲーマーでさえ、肉親に関する事では神経質になったのであるから。これだって、単に彼女が愛する方に他の女性が近づくのが悲しいと言った事であるのだが、対人経験がほぼゲーム内でしかなかったアインズには知りようもない事である。
「分かりました。明日の朝一ですね」
「はい、そうなります」
例え、どんな話であってもそれを蹴るという選択肢は社会人であったアインズには出来ない選択肢であった。相手はこの都市の冒険者組合の長であるし、その繋がりが今後の計画に利用できる可能性がほんの僅かでもあるし、それを抜きにしたって、今の自分は「英雄」であるのだから、それも気分屋ではなく、誠実に人と向き合う理想的な人物であるのだから。彼から呼び出しを受けた時点で決まっている事でもあった。
「では、部屋に戻るとしようか、レヴィア、ハムスケ、明日もまた頼むぞ」
「畏まりました」
「お休みでござる~」
獣と被り物をした彼女はそこで馬小屋へと向かう為、モモン達と別れた。ちなみに、ハムスケはこの建物自体に入ることが叶わない為、先ほどの彼らのやり取りを開けたドアを通して外から覗いていた訳であり、その体に酔っ払いがぶつかり、「なんだ? 突然壁が現れたぜ~」なんて、事を言って去っていた訳であるが、獣がその事を気にする事はなかった。
「では、ナーベ、私たちも部屋に戻るとしようか」
「はい、
そう言って、階段を上る2人をここで食事をとっていた者達はうらやまし気に見ていて、男性陣はモモンへと、女性陣はナーベへと嫉妬の視線を送るのであった。
「今日も問題なく進んだな」
「はい、劇の方はお客様にも喜んで頂けたみたいで良かったです」
「ああ」
仮部屋に戻った2人は、本日の事を軽く見直し、そして反省会をしていた。これは、アインズの提案であった。こうする事で1つ1つの仕事にメリハリが生まれるものであると彼の経験論から来たものでもあった。
それから、余剰分の金貨に夕食として持ってきて貰ったものを墳墓へと送り、同時に定期連絡も済ませる。それが終わった頃にはすっかり時刻は遅くなっていた。
「さて、もう寝るとするか」
そう言うなり、彼は指を鳴らす。瞬時に鎧は消え去り、調べて貰っていたこの世界でもそこそこ水準が高い服を纏った人間である彼の姿があらわになる。ナーベラルも同様に服を変える。茶色いローブに、その下に着ていた服。どちらかと言えば機能性を重視して、冒険者として活動する為に選んだ革ズボンにシャツも瞬時に変わる。
(ふう、落ち着け、別にやましい事ではない)
そうして、彼女を纏ったのはワンピース型の寝巻であった。上半身は長袖であり、下半身は足首まですっぽりと覆うスカートになっていると作業着にも似た服装であり、出ているのはその端整な顔立ちと文字通り手と足だけであるというのに、どこか艶麗にも感じるのであった。
(はあ……)
今更に彼はため息を付く。この状況を彼女の創造主でもある彼に知られれば、自分の命はないかもしれない。
(しかしな~1人部屋を3つ用意してもらうより、この部屋1部屋の方が安いって、どういう事だよ! いや、仕組みは分かるけどさ~)待てよ、と彼は新たな可能性を模索する。(ん? 今、レヴィアは馬小屋で寝泊まりしているわけだから2人部屋にしてもらえば費用だって今よりは安く済むのでは? ……待て! それは駄目だアインズ!)
彼女がいつこの部屋に戻りたいと言っても良いように此処は確保しておくべきである。もしも此処で、部屋を変える事があれば、暗に彼女に戻ってくるなと言っているようなものではないか、それはアインズが考える理想の上司像からかけ離れたものであった。
(ああ、もう、とっとと寝よう)
確かに肉体的疲労はないのであるが、精神的な疲労は存在するのである。それを解消する為にも睡眠は必要であるとベッドに入ろうとした彼を呼び止めたのは彼女であった。
「
「どうした? 珍しいなナーベ」
アインズの知る限り、黒髪の従者が何かを言ってくるという事は珍しいことであった。基本的に彼女は自分の指示に従い、あるいは自身からも意見を言ってくれるのである。しかし、それだって仕事時の話であり、こうした場面、プライベートとも言える時に彼女が何かを言うという事はなかったのである。その為、彼としては、珍しく思いながらも、理想の上司と部下の関係を築く為、あるいは親子の親睦を深める為にもと彼女に先を言うよう促すのであった。
「その、良ければなんですが、星見などしませんか?」
「星見?」
「はい、このせ、空に
「ああ、あの時の事か」
思わず、無い、否、現在は動いている心臓が高鳴る。自分が自殺しようとした事、彼女が涙を流して説得をしてくれたこと、それからと彼はそこで思考を一旦放棄した。それ以上思い出すと、床を転げそうになってしまったからだ。
「そうだな、この世界の星空はとても綺麗だ」
「はい、ですので」
そう言いつつ彼女が取り出したのは筒のようなものであった。
「それは、どうした?」
「はい……」
彼女の説明を聞いて、その出所を聞いたアインズは少し呆れると同時にそれを渡したというレヴィアノールへと、あの時以来にほんの、本当にほんの少しであるが怒気を抱くのであった。
(まったく、報連相も出来ないのか……)
しかし、その手の事は既に分かっていた事であるし、彼女自身が特に報告をすべきことではないと判断したのも別に間違ったものでもない。これに似た物を以前も使った事があったからだ。
「成程な、そうなるとすれば、この世界にも」
天文学等が広がる時代も来るかもしれないと彼は新たな可能性を発見すると共に、彼女の申し出を受け入れる事にするのであった。
念のため、宿屋主に屋根に上ることの許可をもらい、アインズとナーベラルの2人は、そこに腰を下ろしていた。
「やはり、何度見てもこの空は綺麗だな、ブルー・プラネットさんにも見せてあげたかったよ」
「きっとお喜びになるかと」
「ああ」
喜んでいる様子の主の姿が何よりも彼女にとっては心地いいものであった。
「あの、こちらは使わないのでしょうか?」
ナーベラルが差し出したそれを見て、アインズは首を軽く振った。
「いいさ、私は星にそこまで詳しくはない。この満天の星空を見れるだけで充分だ」
「そうですか」
何だか、これを渡してくれた彼女に悪い気はするが、主がそう言うのであればと彼女はそれを懐にしまう。と、そこで彼女は鼻に違和感を感じた。
(???)
そして、気づけばくしゃみをしていた。
「大丈夫か? ナーベ、冷えるからな」
「いえ、失礼しました」
これは、おかしい話であると彼女は頬を赤くしながら、考えた。本来であれば、自分がそういった不随意運動をするはずがないのである。
(やっぱり)
この世界に来て、自分達も変わっているようであると、そんな彼女をぬくもりが包んだ。
「アインズ様? あ」
「今は、良いさ。周囲に人もいないようであるし」
思わず本名を呼んでしまい、慌てて口を塞ぐ彼女を可愛らしく感じながらアインズは笑った。この近辺に人が潜んでいる可能性はなく、もし聞かれたとしても完璧な言い訳を用意していたのであるから。
「しかし、
「何、唯のブランケットだ」
彼はそう言うが、彼女にとっては、愛する方からかけて貰えたという事実と合わせて身も心も暖まるのであった。そして、彼女は脳裏にこの状況を進めてくれた彼女の言葉を思い出し。
「あの、少し体を寄せても良いでしょうか?」
そう、主へと己が望みを伝えるのであった。それを聞いたアインズは少し不思議に思いながらも承諾する。余りにもおかしなことを言わない限り、彼は臣下達の願いを聞くつもりであるのだから。
「別に構わないぞ」
返答を貰い、ナーベラルは少し逡巡した後、意を決したように彼へと体を傾けるのであった。
「……では」
そうして、アインズの右肩へとナーベラルは頭をのせる。
(少し、距離が近いかな? いや、これ位は普通なのか?)
そう、彼女の行動の理由を図りかねている彼の隣で、彼女は今日何度目になるか分からない幸福を感じて、同じ立場である彼女達に謝罪をして、触れた所から感じる熱を愛おしく思うのであった。
(私、アインズ様が好きです。愛しております)
こうして、城塞都市の夜は過ぎていくのであった。