といっても、いわゆる整合性を取る為である為、話が変わる訳ではありません。
では、最新話をどうぞ。
翌朝、アインズ達は聞いた通りに城塞都市の冒険者組合へと来ていた。現在彼ら、当然の如くハムスケだけは外で待機させて、この組合の応接室、それも特に人の目を引くことに力を入れた所へと通されており、そして彼を中心に並んで座る前にその男も席についていた。
若くはない、しかしその体は引き締まっており、その男も昔は冒険者であったのだと無言ながら主張しているようであった。それも当然と言える。この人物の役職は冒険者組合長。つまり、この都市に所属する全ての冒険者達を束ねる役目にあるのであるから。これが、唯の人の良いおじさん、それも荒事が苦手な者だったりすれば、城塞都市の治安は一気に悪化する事であろう。
モモン達に、彼らと親睦を深めた「漆黒の剣」を見ていると勘違いされがちであるが、本来、冒険者とは荒くれ者の方が多いのである。「欲しいものはすべて、力で奪いとれ!」なんて言葉がこの職業の真理であると高らかに宣言した者も過去にいた程である。そんな彼らの頂点に立つ者が貧弱では話にならないのである。
(しかし、本当に
アインズが遠いところを見るようにそう思ってしまうのにも理由があっての事だ。彼とはこれまで何度も会って話をして、そして一連の評価でもあった。組合長が口を開く。
「よく来てくれた、モモン君、それにナーベ君にレヴィア君も」
「ええ」「はい」「……(コクリ)」
アインズ達もそれぞれに返答をする。レヴィアノールに至っては首を縦に振るだけであったが、そうしたい気持ちも分かるし、戦士としての彼女がそうでもあるという設定でもある為、特に何か言おうとは思わなかった。組合長も別にそれを問題だとは思わないようであり、その顔は笑みさえ浮かんでいた。
「では、早速だが、今日は大事な話があってね」
「帰るぞ、ナーベ、レヴィア」
その言葉を聞くや否や、アインズは立ち上がり、そして左右にいた彼女達もそれに倣った。そのまま、彼らはこの部屋を出ようと歩き出す。その足に、組合長は飛び込んだ。そこに冒険者達の頂点という威厳はまるでなかった。
「待つんだ! モモン君!」
掴まれた右足に尋常なる重み、もっと言えば執念めいたものを感じながらアインズは言葉を返す。それは、普段の彼らしからぬ冷たいものであった。
「何ですか?」
「今回は本当に大事な話なんだ!」
「そう言って、前回も娼館に連れていかれたのですが?」
そう、それこそ彼らの行動の理由であった。速い話がこの両者に信頼というものは既にない。過去に何度もあったのである。大事な話があると言い、そしてアインズを娼館へと連れて行く。そんな訳で彼らは組合長のこの話の持ち出し方を警戒していたのである。そして、予想通りでもあったのでそのまま帰る事にしたのだ。なんだったら今日は自分達で昼食を用意してもいいかもしれないと既に呼び出されたこと自体を無かった事にして。
しかし、組合長、プルトン・アインザックは引き下がる訳にはいかなかった。確かに、彼がこれまでやってきたことは許されるものではないと彼自身も分かっている。
(だが、ね)
それでも、彼はそれをやらざるを得ない。漆黒の英雄モモン。彼の存在は規格外すぎる。そんな彼は間違いなく伝説となりうる存在である。そして、そんな彼らはいずれ、この都市を離れてしまう。そんな予感が彼を始めとした城塞都市中心の者達の間であった。
それは、正しいとも言えた。実際、アインズにしたって一生この都市に留まるつもりはないのであるから。戦士モモンとはあくまで、アインズ・ウール・ゴウンとして動くことが難しい時に、使用するアンダーカバーの1つでしかないのであるから。
計画が進み、王国に対する働きかけが終了すれば、次は帝国であったり、はたまた都市国家連合へと、文字通り冒険者として向かうつもりであるのだから。
そして、彼の真実は知らずともその真意の一部を見抜いたアインザック達が取った行動は要はゴマすりとも言えるものであった。
何かある度に便宜を図ったり、アインズ達が現在泊まっている宿、その部屋にしたって、実は最高位のものだったりして、彼らが優先的にそこに入れるようにしたりしたのだ。
しかし、アインズにしてみればこれは有難迷惑以外のなにものでもなかった。そもそも、寝泊まりする場所にこだわり等なかったし、それこそ都市外にテントでも張ってそこを拠点にしてもよかったかもしれない。その方が、資金を稼ぐという点では効率が良いはずであるし、何より自分達の事情を鑑みればその方が情報の秘匿性だって高める事が出来たはずである。それをせずに、組合側からの要望に応えたのも彼なりに考えての事であった。
例えばの話をしよう。年収2000億円、すこし極端すぎるがそれくらいを稼いでいる男がいたとしよう。それだけを聞けば、きっと有能であり、そして魅力的な人物であると誰もが言ってくれるだろう。否、世の中そんなに甘くはない。これで、普段は人里離れた山奥、その洞窟に住んでいるとなればその印象はマイナスになってしまう。その評価は「すごくお金は稼ぐんだけど、なんだか変な人物」と言った物になるであろう。
つまりそういう事であるのだ。アインズの考えは、彼が作ろうとしている英雄像は正に理想であるべきだ。その為に追求できる所はすべきであるし、僅かの隙も見せる訳にはいかない。よって、最高級の宿である「黄金の輝き亭」にて寝泊まりをしているのである。
彼の事情等知る由もないアインザック達は、それでも成果が出ないとすればと次の手段に出たのである。すなわち英雄の子を残してもらう事である。この世界では、子供が親の才能を引き継ぐという性質がそれこそアインズが元いた世界よりもよく出ていたのである。そして、モモンの子であれば間違いなくそれこそ、最低でもたやすくミスリル級まで登り詰める事が出来るであろうからと彼らは考えた。
その為に、一時期はこの都市に住む女性たちの内、誰かを彼にあてがって彼に永住してもらう方向性だってあった訳だ。しかし、件の騒動の後、都市に流れた噂にてその方法を断念せざるを得なくなってしまった。唯でさえ「美姫」の存在があり、娼婦にしたって、未婚の女性たちにしても話に乗せるのは大変であったというのに、その彼女と同等、あるいは以上の美貌を誇る婚約者がいるというではないか。これにより、彼がこの街で家庭を築くという可能性は完全に潰えてしまった。しかし、それで諦めるアインザック達ではない。この都市は王国にとって重要な意味合いを持つ。よって、少しでも戦力は必要なのである。次に彼らがとったのが、アインズがずっと辟易としていた娼館への誘いであった。何とか彼の子を得られないものかと必死であったのだ。しかし、それが原因でアインズ達の信頼を失ってしまったとあればどうしようもないけど。
それでも、彼はまだ最悪の事態まではいっていないと言えた。モモンにそこまでする理由が「子供を残して欲しい」というものであることを悟らせていないからであった。彼には予感があった。もしも、それを知られてしまえば、即座にモモンはこの都市を離れてしまうであろうと。やっている事の時点で人間性を疑われても仕方ないのであるが……実際、アインズがそれを知れば、直ぐに離れる事はしなくとも信頼はしなくなるであろうから、現在の彼にとって、子供とは自由に自身の人生を生きるべきであり、そしてそれを周りがそれを手助けする。そんなありふれた世界が彼にとって目指すべき場所であったから。それに対して、アインザック達がやろうとしているのは、下手をすれば子供を道具にしか思っていないとそうもとれる内容である。
いや、彼らにしたって、仮にモモンの子供が出来たとすれば、可能な限りの望みを叶えるつもりであるのだろう。それでも、そんな思惑ありきで子を作るつもり等はアインズにはないのである。
(ああ、彼は何で此処まで……)
高潔なのであろうかと、今なおモモンの足にしがみつきながらアインザックは内心でため息をつく。スケリトル・ドラゴンにネクロスオーム・ジャイアントを1分足らずで倒せる実力を、下手をすれば彼一人でこの都市だって壊滅状態にする事だって出来るであろう。それだけの力を持ちながら、それを鼻にかける事がなくむしろ穏やかな人柄であり、何より誠実であるのだ。ここまで完璧な人間を彼は今まで見た事がなかった。
そう、プルトン・アインザックはその立場上、これまで何人もの冒険者を見てきたのだ。現役だった頃を含めればもっと沢山の冒険者達を見てきた。
その経験で言うならば、力強い冒険者というものは少なからず野心であったり人1倍の欲望を持っていたりするものである。より旨い飯を、更なる知識を、ものすごい美人を妻にする為、あるいは娼館で遊び通すために、あるいは、それさえ関係なくひたすらに己の限界を伸ばしていたものもいる。
それから名声に権力を欲した者達もいた。最も後者に関しては貴族たちの働き掛けもあり、叶うものは自分の知る限りいない。前者に関しては得た者は数少ないけれど、いるにはいるし、同じように頑張っていた者達もたくさん見てきている。
(あいつもだったな……)
あの夜の騒動で全滅したチームとそのリーダーであった男を思い出し、そして思考を切り替える。冒険者とは良くも悪くも欲望に忠実であるのだ。だと、いうのに、モモンという人物にはそれが見られない。おまけにあれだけの美女を連れていながら、全く手を出してさえいないというのだから驚きものである。
実は、彼らには悪いと思いながらもアインザックは自らの施設兵、それも隠密行動に特化した者を派遣して、夜の彼らの様子を何日か見て貰った事だあるのであるが、本当に一緒に寝ているだけであったらしい。それらしき行為は一切されていないかっと言うし、宿の掃除婦に聞いても痕跡らしきものは一切なかったという。
無論、この隠密の行動を当然の如くレヴィアノールが察知し、戦士としての得物である鉈でその首をはね落とすべきであるとアインズに進言して、そして彼が「それ位は許してやれ」と返したというやり取りをアインザックは知らない。
アインズにしてみれば、それ位してくることはある程度警戒していた訳であるし、自分以外のぷれいやーが探りを入れてくる可能性だって考慮していた訳である。しかし、その実態が性行為の有無だったとは夢にも思わなかったであろうが。
(もしや、いや、そんな訳はないか)
もしかしたら、彼には性欲、食欲、下手をすれば睡眠欲だって無いのかもしれないと一瞬頭をよぎるが、馬鹿な考えであると直ぐに取り消す。彼が人であるのは確かである。その素顔にしたって、この街の者達が何度も確認しているし、食事をとる所だって見ている。性行為云々はデリケートな話でもあるのだ。
(これは、また別の方向性、そうだ!)
婚約者がいるというのであれば、何とかその彼女の方にこの都市に来てもらう方向でこれからはやっていくべきかもしれないと彼は考える。この都市には魅力だって沢山あるのであるから。先日、モモン達が依頼を受けた「劇団スバル」もその1つだ。そうと、決まれば早速、施設兵達に情報を集めさせようと決める彼であったが、今はまた別の話である。組合長という威厳なんてものは捨て去り、彼は英雄へと懇願した。
「本当に今回は大事な話なんだ! 頼む! 私を信じてくれ!」
「ですけどね……」
彼の言葉に英雄は未だに信じられないと言った様子であった。それは、それまでの自らの行いが招いた結果であるのだけど。
(く、こうなれば)
出来る事なら、しっかり話をすべき時に明かす事であったが、この状況が続くのは良くない。アインザック自身、自分がやっている事がみっともないものであると分かっているからだ。
「国王絡みの話なんだ!」
リ・エスティーゼ王国、国王、その名を王都から遠く離れたこの地で軽々しく口にするのは憚られることであろう。しかし、四の五の言っていられないのだ。
「…………それは、どういう事でしょうか?」
そして、彼の思惑通りと言うべきか英雄はその言葉に反応してみせる。彼の知る限り、この生きた伝説は力強い、紳士的、だけではなく、恐ろしく頭も回る人物であるのだ。そして、彼の事今の自分の単語で何か重要な事があると察してくれたらしい。いや、そうでなくては自分が困るのであるが。
(どうやら)
今回はいつもと違うらしいと組合長の言葉で判断したアインズは無言でナーベラル達を見やる。それを受けて、2人も頭を一回縦に振る。そして、帰りかけた足をもどして最初についていた席へと戻る。その様子にアインザックも安心して元の席へと戻った。その際に、服についた埃を落とすことを忘れずに。
もしも、これでまたも娼館へと連れていかれる事があれば、この人物は本格的に信用できない人物になるであろうと思うアインズを前に組合長は話を始める。
「本来であれば、順を追って話をするべきであるのだが……」
彼の話を要約するとこうであった。午後から、この組合に王都からある人物が来る予定であるという。そして、その人物の目的がアインズ達であるというのだ。
「それは、また唐突ですね」
それが、アインズの素直な感想であった。彼の常識、もっと言えば、元の世界のものであるけど、そういったアポイントメント等はもっと早く取り付けるべきである。それこそ1月等見積もって、現在自分が演じている「戦士モモン」はそれなりの地位にあると思う。冒険者として最高位は勿論であるが、普段から心がけているおかげで、その人望に人気もある。いうなれば、ハリウッド級のトップスターと言っても過言ではないかと。
(ん~自分で思っておいてなんだけど)
痛々しいと彼は思った。例えとしてそれを上げたけど、それだって、元の世界の歴史の中で見れる存在であり、少なくともあの世界にハリウッドなるものは存在していなかったはずである。と、ここで彼は思考を切り替えた。要は、それだけ自分達と話をしたいというのであれば、しっかりと前置きをするべきではないか? と、実際、貴族との面会は過去に何回かあったがいずれも最低でも三日前にそういう連絡があったはずである。
(と、いうことは)
今回、訪ねてくる人物はこれまで会ってきた貴族よりも位が高い人物。
(あるいは……)
先ほどの組合長の鬼気迫る表情。あれは自分達も中々見る事がない彼の顔であった。国王という単語が出てきたこともあり、何か緊急の案件なのかもしれない。それであるならば仕方ないとアインズは考えた。人間とは完璧ではない。いや、それは人に限らず生命と称されるもの全ての共通項目でもある。例えば、思いがけない事故だったりと、突然前触れもなく事件に巻き込まれるなんて事もありうる。ちなみに、あの世界にいたアインズ自身にそういった経験があるかと問われれば、ないと答えるしかないのであるけど。
「ああ、本当にすまないと思っている」そう思っているのは本当らしく、彼は一度アインズ達に頭を下げた。「しかし、重大な話でもあると、それだけは本当だ」
「ええ、そうでしょうね……分かりました」
何にしてもだとアインズは考えた。この国の中枢に近づけるのであれば好都合であるし、同時にそのような話を持ち掛けられるという事は、それなりに「モモン」に対する信頼も出来て来ているのであろうと。それは、非常に都合が良いとも言える。
現在、計画による王国の扱いであるが、その方向性は大きく2つある。
1つ、王国を楽園の支配下に置く。
(ああ、分かっているさ)
自分で自分に言い聞かせる。この言葉は余りにもおかしいとアインズ自身分かっているのだ。なんだその凶暴な楽園は? と、この言葉を聞いたものであればだれでもそう思うであろう。しかし、これが現実なのである。
(確かにな~)
可能な限り、臣下達の願いは聞き届けていきたいと思っている支配者であるが、こればかりはどうしようもないと思った。
(これの何が不味いって、俺がようやくあいつらを出し抜けたらと思ったら)
これだもんな~と頭を抱える。基本的にNPC達は無欲である。というのは、アインズの主観でしかない。彼らは至高の恩方である自分に仕えることこそ至上の褒美と考えているのである。が、それだって以前の話である。何とか意識改革を加えていって、その辺りを修正している所でもあった。
そのかいあってか、彼らが何を思い、何を望んでいるのかと調べる材料にもなっていった。それだけではなく、それこそデミウルゴスを始めとした者達の本当の望みを知るべく、ある時間を最大限に使用して、ありとあらゆる手段で調べてみた所。彼らの願いとは、「アインズ様が全ての頂点に立つ」という事を知ってしまったのである。
アインズ個人としては、別にその必要性はないようにも思える。しかし、デミウルゴスには以前「必要があれば神と名乗ろうと」と言ってしまっているのもまた事実。
(それが、あいつらの願いであれば、俺はそれを全力でこなすだけだ)
それでも、アインズとしては2つ目の方で何とか進めたいと思っている。
2つ、王国にて協力者を取り付けて、楽園と同盟を結んでもらう。
これだって、簡単な事ではない。王国の在り方を決める事が出来るのはそれこそ、上層部にいる者達だろう。それに、もう1つ問題があった。
(俺って、アンデッドなんだよな~)
この国では人間しか見かけない。もっと言えば、亜人種に居場所はないようであるのだ。それも当然と言えるかもしれない。この国の隣国であるスレイン法国は積極的に亜人を殺しているという話であるし、帝国にしても
(本当、よくやってくれているよ)
現在、その手の調査をしてくれているのは2つのグループ、いや、正確には1班に1人だ。元、ナザリック地下大墳墓の守護者にして、幻術によりありとあらゆる姿を作る事が出来るイブ・リムス。それと、デミウルゴス直属部隊「七罪真徒」3人からなる班。
彼女達の働きには本当に感謝しなくてはならない。出来る事であれば、もっと人員を増やしたい所でもあるが、慎重に事を進める事を考えた場合、やはりそう多くも出来ないのである。
(確か……)
イブ・リムスは現在、帝国に、そしてグリム・ローズ達はエルフの国で調査を続けているはずであった。デミウルゴスに言わせれば、「アインズ様のご命令とあらば、直ぐにでも動かすことが出来ます」という事であった。だからと言って、それをするつもりはアインズには毛頭ない。それをしてしまえば、それこそ最悪なトップであると思っているから。
(可能な限りは自分達でどうにかしないとな)
さて、彼女達の働きのおかげで知ることが出来た訳であるが、この国は完全に人間主体の国家であり、亜人が入り込む隙なんて微塵もない。そして、自分が作りたいと願っている楽園は全種族を統一したものである予定……
(その為には)
その辺りを理解してくれる人物か、もしくはそれこそデミウルゴスにアルベドと同じ位、頭が回る者を協力者として引き込むべきである。それも、この国での立場が高い者。出来ることなら、国王の立場に近い者……となればと浮かぶ。
(王子に、王女か)
その辺りの情報はある。誰誰がいるという情報は、しかしそれ以上は無いのが現状でもある。この国はある程度後に回しても問題がないと会議でも決まったことでもあったから。
(好機では、あるかもしれない)
「では、それまでこの部屋に居ればよろしいのでしょうか?」
「ああ、すまないが、しばらく外出は控えて欲しい」
組合長のその言葉に倣うのであれば、その会合自体を秘匿したいという事であろう。自分達はあくまで組合長に呼ばれていったと、周囲は、少なくともこの都市の人々はそう思うであろうから。
「分かりました。待機であれば、そこまで苦ではありませんから」
「本当に助かるよ、モモン君には感謝しぱなっしだな」
「なら、もう娼館へと連れて行くのはやめて頂きたのですが……」
「モモン君、遊べるのは若い時だけなんだよ?」
(これは、まだ続きそうだな)
それから、アインズとアインザックはたわいもない話を続けるのであった。
それから30分後。アインザックは他にも仕事があるという事で部屋を出て行った為に、ここにいるのはアインズに従者2人だけであった。
「さて、今回の話だが……2人はどう思う?」
ひとまずは、彼女達に意見を求める事にするのであった。いかなる時でも、考えを言い合う事は大事な事なのである。
「そうですね」
先に口を開いたのはナーベラルであった。というか、こういった時に先に意見を言うのは彼女であるのが常であった。
「
「レヴィア」
「はい、私も基本的にナーベと変わりません。唯……」
「唯?」
何か感じたらしく、彼女は言い淀み、そしてアインズもまたその先を促すのであった。
「先程の組合長の様子と言い、何か、厄介ごとの気配がします」
「そうか。そうだ、先の彼の様子はどうであった?」
ここで、アインズは組合長が自分達にどういった感情を向けていたのかとレヴィアノールへと尋ねる。彼女のスキルは本当に便利であり、それを活用してこなした依頼もいくつかあるのであるから。
「はい、懇願でございましたね」
「懇願か」
「彼にとっても、それ程大事な話だったのでしょう」しかしと、彼女は続ける。「モモンさんの意思を無視してやっている事は目に余ります。一度鉄槌を落とすべきでは?」
「いや、その必要はない」
アインズがそう言えば、彼女は短く「そうですか」と返すだけであり、一応は納得した模様でもある、が。何か不満を、それこそ本人も気づいていない内にたまっているのではアインズは危惧した。
「組合長にも事情があるのだろう。何、私が断り続ければ良いだけの話だ」
「しかし、それでは……」
「すまないな、お前が不快に思っているのは知っているし、それも私を思っての事であろう?」
「はい、それしかありませんので」
「それだけで、私は満足しているのだよ」
そう言葉を返してやる。感謝は大事であるから。アインズとしては彼女の気遣いは素直に嬉しいものであったから。
(それだけじゃ、ないんですけどね)
彼女は内心でごちた。確かに、主が望まないのにそれを進めてくる組合長には怒りの念だってある。しかし、それ以上にその度に悲しそうにする同僚の顔を見るのが辛いものであった。
(別に、ナーベラルだけじゃないわね)
主を愛する女全員が、この事には多少心を痛めているようであった。それでも、主が決めた事であると、何とか耐えているのもである。
(あの男)
主の方針から外れる事でもある為、今は見逃しているが、いつか絶対痛い目にあわせてやると彼女は心に誓うのであった。
「では、後はその人物が来るのを待つばかりか……暇だな」
思わずアインズはそう呟いてしまった。現在、時刻は午前10時前後、この事に関しても元の世界とそんなに変わらなかった。そう、時間に関する概念である。この世界にもそれらしきものはあるのであった。しかし、それは別に一般に普及しているという訳でもなく、エンリ達村の者達は太陽の位置で大体の時間を把握するという。この部屋には時計が置いてあり、それは少なくとも組合長はそれで時間を把握しているという事でもある。
(その基準はどうしているのか? あるいは?)
それもまた、と。アインズは彼とのやり取りを思い出していた。その可能性もありうると。次に彼は外で待機しているであろう珍獣がいる方向へと視線を向けた。
「
「いや、何でもないさナーベ」
そう、あの珍獣はその辺りが酷かったと思い出していたのだ。あの森に住んでいた頃。ハムスケは何となくとしか時間を把握していなかったのである。「明るい時と暗い時があるでござる!」その一言が珍獣が時間をどういう風に捉えていたか如実に示してくれた。
(やはり、あいつには過ぎた呼び名だったな)
「さて、その人物が来るのは午後2時頃だという話だ。そして、私達はこの部屋を出る事を叶わない。どうして、時間を過ごしたものだろうか?」
約4時間、何か仕事をしていれば、あるいは睡眠をとっていれば、それはあっという間に過ぎるものであろう。しかし、唯、待つとなるとそうでもない。なんだか長く感じるのであり、同時に仕事人間であったアインズにはそれがどこか無駄なようにも思えてしまうのだ。
その思考そのものが未だに彼があの世界に囚われているという事でもあるけど、それだっていずれ溶けてなくなるものでもある。
(そうだな)
「せっかく時間があるんだ。少し話をしよう」
「話? ですか」
今更何を話すというのであろうかという視線をナーベラルが向けてくる。それも当然であろう、今更する話もそんなにないと彼女は考えていた。
「何、簡単な事だよ。それぞれの事をもっと知りたいと思ってな」
「それは……」
アインズの提案は、もっと踏み込んだ話をしたいと言った物であった。決してやましい気持ちがある訳ではない。せっかく時間が出来たのである。
(それにな)
この2人は、ナザリックでもまた特殊なグループの所属である。片や、絶世の美女姉妹の1人、片や、あの悪魔直属部隊所属。アインズとしては、仕事だけではなく、普段の彼女達の事も知りたいと思ってのことであった。自分の前では見せない一面があるのは確実であろうから。
「そうだな、例えば、ナーベの方はどうだ? 何か不満があったりしないのか?」
あくまで、現在の立場に則って話を振る。盗聴の危険性は常に考えておかないといけないのである。
「不満など……」
その言葉を受けて、ナーベラルも言葉に気を付けながら姉妹たちの事を伝える。彼女が知る限りでは、姉妹で主に不満を抱いている者等いないのであるから。
「そうですね、あの人はそれこそ、
(ユリか)
確かに彼女であれば、それ位言ってのけそうだ。そして、もっと言うのであれば、彼女は手強いとアインズは考えた。
(妹達の前でも姿勢を崩すことはしないか)
流石、学校の先生を、とても責任ある立場についていた彼女が創ったNPCであると。ナーベラルの話は続いた。
「あの人も……いつも笑っております。彼女にはストレスだとか、苦痛という概念は無いと思います」
(ルプスレギナか)
先ほどは、その口ぶりに身内を語ることの喜びさえ感じたと言うのにそれが、一転して冷たくなったのであるから、直ぐに誰の事か理解出来た。
(あいつは)
「レヴィアも以前の事は反省しているんだよな?」
「はい、それは勿論でございます」
淡白な声。それだけ聞けば、反省等皆無のようにも思えてしまうが、彼女に関しては彼が徹底的に痛めつけたという話でもあるので、それ以上の追及はしないでおいた。
「ナーベもすまなかったな」
「いえ、
彼女と立ってしまった話を思い出して、済んだ事であると言うのに、思わず彼は謝ってしまう。いくら誤解とは言え、そんな噂が墳墓に立ってしまった事で少なからず彼女は嫌な思いをしているであろうと容易に想像が出来るからだ。
「そうです、悪いのは私でございますから」
(本当にそう思っているのか?)
彼女の態度はどこか投げやりのようにも聞こえたのである。話題を変えようと、アインズは彼女へと同様に話を振ってみる。
「レヴィアの方はどうだ?」
「どうも、こうも、不満などあるはずがありませんから」
(やっぱり、あいつの部下だな~)
どうにも固いと感じた。これでは、何も情報が得られないではないかとアインズは別の方向性で行ってみる事にした。
「お前たちは普段はどんな風に過ごしているんだ?」
少し際どい言葉であるが、彼女もアインズの意図は読み取ってくれたみたいで、何とか話をする。
「まず、彼は私に厳しいです。何かある度に鞭を振るうように暴力を振るって来ます」
(グリム・ローズか)
訴えるように彼女はそう言った。その事だってアインズは知っている。あれから、デミウルゴスから彼女達がそれぞれどういった罰を受けたのか聞いていたから。そして、彼女の場合は――
(考えるのはよした方が良い)
「良く分かった。他の者達はどうだ?」
アインズのその言葉にレヴィアノールは心底困ったといった風に頭をかしげて見せる。どう話したら良い物かと考えているようであった。
「以前も話しましたけど、私どもはあまり仲がよろしくないので……」
「ああ、それは聞いている。お前の主観でも構わない、話してはくれないだろうか?」
「畏まりました」
(困ったわね)
彼女は本当に弱ったと思った。そう聞かれても彼らとは、それこそ全員がそろう事など滅多にないのであるから。
「まず、あいつは何を考えているかさっぱりです」
「そうか」
(ガデレッサか、確かにあれは、何を考えているのだろうな)
彼女の言葉にアインズは心の中で同意した。「七罪」の一人であるあの巨漢は、基本的に無口、否、声自体はしょっちゅう出しているが、どうにも聞き取れない為に、そういった印象を抱いても仕方ないものであるのだから。
「あいつらは、生意気ですし……」
「そうか、子供らしくて良いじゃないか」
「それは、そうですけど」
(フェリアネス、それにロドニウスか)
被害を訴える彼女には悪いけれど、アインズはそう思った。子供はわがままを言ってなんぼだ。少なくともその2人が自分の前でレヴィアノールが言うような態度を取った事はないのであるから。
(少し、寂しくもあるな)
それは、結局の所、自分とNPCの関係が主従だけであると思ってしまうものであった。
「でも」
彼女は続けた。そんな彼女達にしたって、本心ではもっと主に甘えたいのだという。本人達は決して認めはしないだろうとも。
「そうか」
「はい、ですから、機会があれば甘やかして欲しいと個人的にお願い申し上げます」
そう言って、彼女は頭を下げた。それで、気づいたようにナーベラルも頭を下げた。
「ナーベ?」
「
「ああ、分かっているさ」
そうして、彼らはしばらくの間を和やかに過ごすのであった。
約4時間後。
「やあ、待たせてしまって悪かったね、モモン君」
「いえ、そして、そちらが?」
「ああ、そうだよ」
戻ってきた組合長ともう1人がアインズ達の前に座っていた。その人物が貴族であるという事は身に着けている服から明らかであった。金髪をオールバックの形にしていて、切れ長の瞳は碧色であった。何より目を引くのはその肌の白さであった。それもどこか不健康に見えてしまい、実際の年齢はその外見よりも若いからかもしれない。
(なんというか)
何だか蛇を思わせるとアインズは感じた。その目付も鋭く、獲物を狙う爬虫類のものだと。
(ラスカレイドにも負けていないな)
レヴィアノールと同じ所属である彼女の瞳もまた、鋭いものである。しかし、彼女の場合はその中に艶美さが見てとれるものでもあるが。
そこで、男は一度立ち上がりアインズ達に頭を下げた。それに慌てて、下げ返す。その行動に虚を突かれたというのはあった。貴族というものはプライドが高く、対等に見えてその実、自分達が上であるとどこかしら態度に出るものであった。それも、全ての貴族がそうではないけれど、余りにもその手の者達が多かったのだ。
対して、この人物はいきなり頭を下げたのである。その行為は礼儀作法という点でみれば、当たり前の事であろう。しかし、それは互いが対等の立場こその話である。彼は貴族、それも王国では相当高い地位にいる者。対してアインズ達が演じているモモン達は噂で地方貴族では、とも言われているが、その確証はないし、何よりアインズ達自身がそれを肯定している訳でもない。
よって、アインズ達冒険者としては最高位のアダマンタイト級であったとしても、その階級は庶民となんら変わらないのである。
なのにこの男は頭を下げた。それは、この人物の徳というものであるか、あるいは、今回の話がそれだけ厄介なものであるかと思わず考えてしまうが、それよりも先にやるべき事は決まっている。礼儀には礼儀で返すべきである。
互いに頭を下げあい、そして男は名乗った。
「お初にお目にかかります。アダマンタイト級冒険者であるモモン殿に、そしてその御仲間の皆様方。私の名はエリアス・ブラント・デイル・レエブン。六大貴族が一人であります」
(六大貴族だと!)
「六大貴族だと!」
心で留めておくつもりであったと言うのに彼のその言葉を聞いてアインズは思わず驚きを口にしていた。それを聞いて、最も嬉しそうな顔を見せたのはアインザックであったのだ。彼にしてみれば、始めてであるのだ。欠点がない完璧な英雄が見せる動揺というものを。
「流石のモモン君も驚くか」
「ええ、それは勿論ですよ」
すでにやってしまった事でもある為、アインズは素直に認める。下手に言い訳をすれば、それこそ自分達の品位を下げかねない。
六大貴族。
それは、王国における最高位の貴族の呼び名でもある。王国とは、基本的に貴族社会であり、その土地は基本的にどこかの貴族の持ち物であったりするのだ。
(確か)
彼らが集めてくれた情報を何とか整理する。王国の土地、その3割を国王が統治しており、次に3割をその大貴族たちが、最後に残りの4割を他の貴族たちが所有しているという話であったはずだ。それだけではない。彼らは財力であったり、軍事力等、何かしらの分野で王を凌ぐ者達もいる。そんな、彼らは間違いなく王国において、国王に次いで権力を持っていると言っても過言ではないのであるから。
「そうですか、かの英雄に知って頂いているとは、光栄ですよ」
「いえ、こちらこそ……失礼、それで話とは何でしょうか?」
一度自身を落ち着けるように息を吐いて、アインズは目前の人物を見据える。間違いなく好機であるのだから。この人物を起点に、この国のもっと深い所を知る好機であると。
(彼が、確かに)
そして、モモンを前にしてレエブン候もこの人物であればと希望を胸に抱く。噂に、事前調査である程度、彼の事は調べてはいたが、実物を目の前にすると、本当に違うと感じた。
(しかし、彼には)
申し訳ないとも思ってしまう。自分がこれからする提案とはいわば、王国の恥をさらすことでもあり、彼らをこの国の醜い権力争いに巻き込んでしまうのであるから。
「ええ、では、順番に話すとしましょう」
そうして、レエブン候は語る。今回、アインズ達に頼みたいという事を。
「成程、陣中見舞いですか」
「はい、この都市は王国にとって大切な場所ですから」
彼のいう事も最もであるとアインズは考えた。城塞都市エ・ランテル。この都市は、いわば王国、帝国、法国の3国の国境を結んだ辺りにあり、それは同時に此処が王国にとっては、防衛拠点でもあり、戦争の際に、ここで敵を引き留めないと国内を荒らされてしまうであろうから。
だからこそ、この都市には力が入れられている。軍事にしたって、物流にしたってだ。しかし、それが揺らいでしまう事件が起きた。アインズ達も解決に協力した件の襲撃である。その復興自体は終わっているが、しかし住民達の、被害者の心の傷は治りきっていないとも言えた。そして、最悪なのが、帝国に法国がそういった部分に付け込んでこないとも言えない事である。
(確かに、その可能性だって)
実際、その2国からこの街に入り込んでいた者はいた訳であるらしく、そう言った戦いも水面下で行われているらしい。つまり、この都市は揺れているのだ。住民と言えど、人である事に変わりない。人々は不安であるのだ。このまま王国にいて良いのか? と。
「だからこそ、国王自らがこの地に赴く必要があるという事ですか」
「そうだ、モモン君は理解が早くて助かるよ」
「そうです、そしてその行事には第3王女様も参加する予定なのです」
「成程、かの有名な『黄金』の姫君ですか」
それも有効的な手段と言える。話に出てきた王女は美しく、そして聡明で優しく、それでいて年相応の愛らしさも備えた人物であり、庶民にも人気があったはずである。そんな彼女と国王がそろって、この都市に来れば住民達は安心する事が出来るであろう。「王様たちは自分達の事を見てくれているんだ」と。
そこで、組合長が冗談交じりに言葉にする。少しでもこの場の空気を和ませようと思ったらしい。
「モモン君であれば、王女殿下を娶る、なんて事も出来るかもしれないな」
しかし、それは間違った選択であり、尚且つ最悪の一手でもあった。返ってくるのは、普段の彼らしからぬ冷たい、それも静かな声であった。まるで、事務的なものであり、感情というものが抜け落ちたような声音にアインザックは自身の心臓を掴まれる感触さえ味わう。
「冗談でもそう言った言葉は控えて欲しいものです」
「す、すまないね」
「確か、王女殿下は10代後半だったはずでしたよね?」
「はい、その通りです」
すっかり、言葉を出せない様子である組合長に変わり、大貴族が答える。
(冗談じゃない)
そうだとすれば、やはりふざけた考えであるとアインズは感じた。その年であれば、まだ子供と言っても変わりはない。自分は少女に手を出す趣味は無いのは勿論であるが、その手の考えに嫌悪感を抱いてもいたのであった。
この世界では、どうにも成人男性が若い少女を愛人にしたりだとか、娶るというのは別に珍しい話ではないらしい。別に両者が合意しているのであれば、問題はないのであろうが。絶対そうではないと何故か確信出来ている部分もあった。
(にしても、国王に第3王女か)
色々と思う所はあれど、これが絶対的な好機である事に違いはないと彼は結論付けた。