オーバーロード~遥かなる頂を目指して~   作:作倉延世

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第23話 集結 出発 襲撃

 アインズ達は現在、その場に唯一来ているであろう人物達へと歩を進める。向こうも気づいたらしく、一人の男がこちらへと歩き出し、彼の後に続くように残りの3人も続いた。それでアインズは確信した。

(彼が、向こうのリーダーと言った所か)

 こちらも自分が先頭に立ち、その後ろから2人が続き、最後尾に珍獣がついて来ている。それを軽く振り向き、1秒足らずで確認して再びアインズは正面を見据える。

 

 先頭をいるのは男性であった。金髪の一部は赤く、それが天然のものであるか、彼が意図的にそうしているのかは判別がつかない。しかし、後者の可能性の方が高いとアインズは考える。

(これは、少し意外ではあるな)

 この世界では、奇抜な外見にする事が多いらしい。それこそ以前の世界であれば、そこで培った常識に当てはめればあり得ないと思う事だが、それが事実だ。

 例えば、彼はその立場故に様々な冒険者とも、特に城塞都市所属の者が多いけれど――話をする機会が多いが、その時にも何人か見て来ているのである。髪を意図的に桃色に染めていたり、あるいは少々、露出した腕に色とりどりの花を描いている者等。

 これがアインズの元いた世界であれば、間違いなく即座に首が飛ぶ材料になり得たであろう。しかし、ここでは違う。それもそうだろうとアインズは思う。

 それはこの世界独自の価値観と言うべきか、処世術とも言うべきものかもしれない。

 冒険者にワーカーとは、基本的に安定しているとは言えない。組合の仲介があるかないかの違いではあるが、仕事を得るというのは、その第一歩さえ難しいものである。その為、目を引く要素を足しておくのは当然だ。それが、先に思い浮かべた者達にも当てはまるであるから。

 そして、その男の装いは軽装であり、両腰に一振りずつ収められた剣を見て、この人物は2刀流なのであろうかと思わせる。

(先入観、決めつけは危険だ)

 それで、致命的な間違いを起こす可能性もあれば、相手方に不愉快な思いをさせるかもしれない。それでこの先の仕事に支障をきたす為にはいかない為、それ以上アインズは彼に関して考える事をやめ、他の者達に視線を向ける。

 彼の右後ろに見えるのは、紫色の髪を左右別々にまとめた形、俗にいうツインテールという髪型にした女性であった。肩越しに矢筈が密集しているのが見えるので、彼女は矢筒を背中に担いでおり、同時に彼女の戦闘スタイルもおおよその見当がつくというものであった。

 他にも彼女には目がつく所と言えば、身体的特徴があげられる。ややとがった耳はアインズもよく見るあの子達と似た特徴であった。

(森妖精、エルフというものか……)

 この世界がいわゆる魔法とファンタジーの世界であるのは、既に何度も実感してはいるが、現地で実際に会うのはこれが初めてになる。

 それも当然と言えた。リ・エスティーゼ王国は基本的に人の国であり、そこに他の種族が入り込む余地などないから。それだって、別に王国が優れているからではない。この点で言えば、むしろ王国は守られているといっても良いだろう。

 この国は地形には恵まれているのであるから。東には帝国、竜王国等が広がり、亜人種と戦争をしていたり、あるいは一定の種族を力づくで隷属化していたり、この時のアインズが知るはずがないのであるが、帝国では亜人種、極端な言い方をすれば、人間種以外の種族の地位は低く、鉱石取引がある種族を除いて奴隷制度によって、人間に使われているという事実がある。

 これだけ聞けば、酷い話に見えるが同時に仕方ない話とも言える。形こそ違えど、それが帝国における人類守護の一つの形とも言えるからだ。

 鮮血帝の異名を持つ、皇帝は法国と密接に繋がりがある訳ではないけれど、それでもこの世界における人間の立ち位置というものを把握していた。そして、友好的に関係を築くという発想は彼にはない。彼に言わせるならば、そうした所が隙となり、亜人に国を乗っ取られる。そのきっかけにさえ、なりかねないのであるから。それでも、彼は人類守護者ではない。全ては帝国の繁栄を願っての事である。

 他にも、ビーストマンと戦争中である竜王国がある為に、東から王国領土に亜人が入りこむという事は滅多にない。あったとしても、法国が誇る「火滅聖典」暗殺、ゲリラ戦、カウンターテロを得意とする部隊に、「水明聖典」情報収集に、更にそれらの印象操作に、隠蔽工作を得意とする部隊等が人知れずに狩り殺しているのであるから。

 

 そして南にはその法国があり、積極的に亜人が入り込む余地というものを排除している。法国自体は王国を嫌ってはいるが、それと人類守護はまた別なのである。よって、必死に亜人を討伐しているのであるから。南西には、その流れを強く含む聖王国があり、そして北西には評議国がある。この国自体は、別に人間に対して思うところなどないのであるが、それでも文化水準は高く、むやみやたらに人間に危害を加えようともしないのであり、それが国の方針でもあった。それでも、全ての国民がそれに従う訳ではなく、王国に密入国した上で人間の拉致等を企てた亜人の組織と王国のアダマンタイト級冒険者チームがぶつかったのはまた別の話である。

 

 そう言った事情も手伝い、王国というものは、その内情の酷さに比べれば恵まれている国なのであり、法国も当初はそこに期待をかけていたのである。その豊かな環境が人類を守護する勇者を育ててくれるであろうと。しかし、王国は腐ってしまった。それが法国の結論であり、彼らの行動指針である。

 

(それにしても、やっぱり)

 お約束なのかとアインズは思った。その女性の身体的特徴としては、凹凸が少ない体形をしているという事であった。モデル体型と言えば、通じるであろうか? それは、彼が元いた世界、エルフというものが伝承の存在でしかなかった時にも森妖精というものはそう言ったものであると資料を見た記憶があったから。

 彼が彼女にしばし視線を奪われたのは、初めて見るという種族もあれば、彼女の姿にある光景を思い浮かべてしまったからだ。

(アウラも成長すれば)

 いつか、彼女のようになるのであろうと。ゲームだった頃と違い、この世界は現実であるのだから。あの少女だって肉体的に成長するであろうと、娘の将来を案じる父親のような心境であった。

(と、いかん、次だ次だ)

 いい加減、未来への期待を振り払い、次の人物へと目を向ける。その男性は彼らの中では最も肩幅が広く、腰に吊るしたモーニングスターを見ても、このチーム一番の力の持ち主だという事が分かる。刈り上げられた髪に、もみあげから顎にかけて、顔の下半分を走るように生えた髭は清潔に整えられており、武骨な見た目とは裏腹に物腰が柔らかい人物のようだと印象を受ける。

(戦士、なのかな?)

 身に着けているのは鎧に、その上から法服を思わせるサーコートを被っており、そこには聖印らしきものが描かれており、同じ聖印を首から下げている所も見ても、聖職者では? とも思うが、それ以上に鈍器が目を引いてしまう。

 最後に、こちらからは他の者達の陰に遮られて、全身は見えない。それ程に身長が低いという事であるのだろう。手に持った杖にその装い、厚手の服にゆったりとしたローブ等から魔法詠唱者なのだろうと確信を持つ。以前、共に仕事をする機会があった彼らの仲間と言い、魔法詠唱者というものは似たような外見になりがちらしい。

(あ)

 思わず、声に出てしまったのは(正し、聞こえているのは本人だけである)いくつか理由があった。一つはその顔立ちがどこか浮いているように見えてしまったからだ。肩の辺りで切り揃えた髪はどこか端麗さを感じさせる。無教養である自分がそう思ってしまう位であるから、と彼は一つの仮説を建てる。

(貴族の出身、別に珍しい訳ではないだろう)

 自分達だって噂といえ、そういう事になっているのであるから。それよりも目を引くのは、その女性、いや彼の感性に従うのであれば、少女と呼びたくなりそうな程に彼女は若いのであった。それは、現在養子となっている姉妹の姉とそんなに変わらない年齢であろう。

 それだけの少女がワーカーをやっているという事実。

(事情があるのだろう……な)

 先日のやり取りで、組合長からワーカーというものを聞いている。そして、エンリと同じくらいの年齢の少女がそこにいるという事が、彼にこの世界の過酷さ、それこそ元の世界とそんなに変わらないものなのだろうと思わせた。

 互いに、腕2本分の距離まで歩きより、始めに口を開いたのはアインズであった。

「初めまして、あなた方も?」

 問いかけるように聞くのは、間違ってもこちらからレエブン候の名を出さない為である。彼らがたまたまここに来ていた無関係な一般人である可能性もゼロではないのだから。先頭を歩いて来た男は口角を上げ、返してくる。

「ええ、私どもは知人の誘いで、この辺りに出たと言われるモンスター討伐に来たのですよ」

(そうくるか、そうだよな……)

 アインズとしては、間違いなく目前の人物たちがレエブン候が別に依頼を出したワーカー達だと思っているし、それは向こうにしても同じであろう。彼の事だ。彼らにも自分達に教えてくれたようにある程度の情報を渡してくれているはずである。「君たちとは別に、冒険者にも声をかけている」最低限のこちらの情報、人数構成等も含めて教えてくれているはずである。

 だからこそ、このやり取りは不毛かもしれない。無駄かもしれない。それでも、不用意に情報を言う事があってはならないのだから。彼らが本当にレエブン候から依頼を受けた者達であるという確証をアインズは持っていないし、彼らにしたって、自分達を直ぐに信じるという訳にはいかない。ならば、やる事は一つしかない。

「その知人というのは、貴族の方でしょうか? 丁度、そこにいらっしゃるお嬢さんのような」

 アインズは、最後に視界に映った少女を手で指し示しながらそう言う。彼女がそうかどうかは分からないが、別にそこが問題ではない。彼に指定された少女は特にその表情は変わる事がなかった。

「ええ、そうですね。確かに貴族でしたよ」

(よし、次は)

「その方は、他にもモンスター討伐に誘われた方がいましたよね?」

 今度は、アインズが問いかける番であった。自分達をこの場に呼んだのは貴族という共通認識、次に確認すべきは依頼の中心である彼らの存在、もしも彼らがそうなのであれば、間違いなく返答してくれるはずであった。そして期待通りと言うべきか、男は言葉を返してくれる。

「ええ、私どももそう聞いています。確か、お偉い方だとか」

 この言葉でアインズは彼らで間違いないと確信を持つ。貴族よりも偉い存在となれば、数も限られてくる。貴族自体にも位はあるらしいけれど、そんなもの外部の人間には関係がないのであるから。そして、この男はその辺りには詳しくない。アインズは確信に触れる事にした。出来る事なら、彼の口からその名前を言って欲しかったが、その為にはもうしばらく問答を繰り返す事になりそうであり、それは時間の無駄である。それを言うなら、これまでのやり取りもそうかもしれないが、とアインズは言う。

「その方、というのは、王国でも数少ない貴族であらせられる」

「ええ、あなたが思い浮かべている通りの方かと」

 途中で男もアインズの言葉に重ねてくる。その目はこちらへと笑みを向けており、2人は示し合わせたように言葉を続けた。

「「エリアス・ブラント・デイル・レエブン候ですね」」

 そして、2人は少し笑った。余りにも阿保らしいと思ってしまったからだ。これまでの事が。その笑いを抑えて先に口を開いたのはアインズであった。

「いや、あなた方でしたか。レエブン候が言っていたワーカーというのは」

「いえ、こちらも聞いてはいたのですが、まさかアダマンタイト級とは思いもしませんでしたよ」

 そう言う彼に、後ろに控えている彼の仲間たちの視線はアインズの首元に向けられており、顔に出すことはなくとも驚いているというのは本当らしい。何にしても彼らが仕事仲間である事は分かったのであるから。と、アインズは自己紹介を行う。

「では、改めまして」アインズは、胸に手を当てて続ける。それは、余裕に溢れた社会人のものに見えれば、どこまでも謙虚な英雄のようも見えるものであった。「アダマンタイト級冒険者モモンと言います。見ての通りの戦士になります」次に彼は、後ろに控えていた彼女達に声をかける。こういう時は本人にさせるのが一番であるから。

 彼に挨拶を促された彼女達も前へと一歩踏み出して、それぞれに自己紹介を行う。

「私はアインズ様(モモンさん)と同じチームのナーベと言います。魔法詠唱者をしています」

「同じくレヴィア。モモンさんと同じく戦士を務めています」

「ハムスケでござる~。昔は『賢王』と呼ばれていたでござる~」

 少々微笑みを浮かべながら声をかけるナーベラル、そんな彼女とは対照的に感情がこもっていないような声で挨拶をするレヴィアノール。右前足を上げながら、朗らかに経歴まで教えてくれるハムスケと個性に溢れた挨拶であった。

 それを受けて男も後ろに控えている仲間達に目配せして、自らが口火を切る。

「ではこちらも、私は『フォーサイト』を率いています。ヘッケラン・タ―マイトと言います」そう名乗った男は以前、ツアーがアインズにして見せたように頭を下げて見せる。それを見ている仲間達、特に紫髪のエルフの女性に、神官とも戦士ともとれるたくましい体躯を持つ男性の顔が歪みそうになっているのを見た所、それだってアインズの視力があってこそ、僅かな筋肉の弛緩を見て取れたものであるけど。それを見れば、最初に名乗った人物がその言動通りの人物ではないらしい。続いて前に出てくるのはエルフの女性であった。

「次はあたしの番ね、イミーナ。野伏をしているわ」

 彼女は短く名前を言うだけであったが、それでアインズが不快に思うことはなかった。自分達は全員が名前しか言っていないのであるから。名を名乗った彼女は神官らしき男性に目配せをする。それを受けた男性が前に出る。

「私はロバ―デイク・ゴルトロン。はぐれ物の神官と言った所ですね」

 苦笑しながら挨拶を終えた彼と入れ替わる形で最後の少女が前に出てくる。

「――アルシェ・イーブ・リイル・フルト。魔法詠唱者をしている」

 短く簡素な言葉であり、他の者達に比べて、表情の変化が乏しい事から人形のような少女だとアインズは感じた。

 

 これが、アインズ達とフォーサイトと名乗ったワーカー達の初顔合わせであった。彼らの雇い主であるレエブン候がその場に来たのはそれから20分後であった。

 

「これは、モモン殿、それにヘッケランさんも来ていましたか」

 レエブン候の第一声はそれであった。あれから、アインズ達は今回の依頼における簡単な打ち合わせ……といっても互いが持つ情報の精査ぐらいしかやる事がなかったけど。

「レエブン候、それに……」アインズの視線は彼よりもその後ろから来た者達へと向けられらる。「成程、あれがあなたの秘策ですか」

「ええ、その1つになります」

 その光景に、その場の7人と1匹はしばし目を奪われた。否、1匹はよく分かっていない様子であったが。

「――八足馬(スレイプニール)

 静かな魔法詠唱者の言葉が一同を代表したものであった。貴族が乗ってきたものに、ざっと見渡すだけでも20頭近くいるその魔獣の存在はアインズも墳墓に所属する彼らからの報告で知っていた。馬よりも大分優れた八本の足を持つ獣であれば、速やかに移動できるであろう。レエブン候もまた、それに乗って来たのであるから。

 そして――

 彼と同時に来たのは、同じくスレイプニールに乗った騎士たちに3台の馬車であった。

「モモン殿、ヘッケランさん」

 レエブン候はその場に先に集まっていた者達へ1台の馬車の前に行くよう促す。雇われの身であるアインズ達に断るという選択肢はなく、従うのであった。

(モモンさん、この流れですと)

(ええ、タ―マイトさん、そうなのでしょう)

 あれからのやり取りで、アインズはヘッケランと名乗った男と多少は打ち解けていた。話してみれば、この人物は気さくであったのだから。初めに彼の仲間達が必死に苦笑いを抑えていた理由が分かったように思える。

(話しやすい性格で助かったよ)

 レエブン候の後に続きながら、アインズはそう考え、そしてこれからの立ち振る舞いを改めて脳内で描いていく。

 周囲にいる騎士達、真新しい鎧を身に着けているのは貴族の話にあった近衛隊であろう。

「では、モモン殿、ヘッケランさん、それに皆さんも」

 彼の指示に従い、アインズ達は1台の馬車の前へと並ぶ。そして、レエブン候は一人の騎士を呼びつける。

「クライム君、用意は出来た。頼めるかな」

 出てくるのは純白の鎧を身に着けた少年とも青年ともみてとれる人物であった。三白眼に太く吊り上がった眉、見えているのは頭部だけであるけど、それでも日に焼けたのだと分かる肌、短く切り揃えられた金髪と、何より目を引くのは周囲の視線に、その騎士自体が浮いているようにアインズには見えたからだ。

(成程、彼が)

 色々と、訳アリの人物であり、上手くやればこちらに引き込む事が出来る人物であるのだから。そして、馬車へと片足をかけ、扉を開く。中から現れたのは、一人の老人であったが、その人物の登場と同時に周囲に広がっていた騎士たちが一斉に跪く。その事から、いや、それを抜きにしても現れた人物がいかに大物であるか、アインズに、フォーサイトも周囲に倣って膝をつく、ナーベラル達にしてみれば、主以外の人物にそうするのはあまり心情的に良くはないが、それでも主の邪魔になる訳にはいかず、そうするのである。

 杖をつくその手は枯れ木のようであり、どこか憂いを帯びたその表情に髪も髭も白く、それがその人物が高齢であると伝えてくる。何より、その頭に乗せた王冠が全てを物語っていた。そう、彼こそがこの国、リ・エスティーゼ王国現国王であるランポッサⅢ世その人である。

 彼は、目の前に控えた装備に統一性がない一団を見て、一度レエブン候へと視線を向ける。そして、彼も頷く。それを確認して、再び正面を見据えた王は口を開く。厳かな空気がその場を支配する。

「此度の件、私と共に城塞都市へと向かってくれるという。アダマンタイト級冒険者モモンとはそなたの事か」

「はい、その通りでございます」

「うむ、そなたの活躍は聞いている。道中、よろしくお願い申し上げよう」

「はい、必ずや貴方と第3王女様をお守りしましょう」

 そのやり取りは、正に王と仕える騎士のやり取りであり、ヘッケランもまたその光景に彼が、モモンがかなりの修羅場を潜り抜けてきた人物であると確信を持った。

(あたし達には何もないのかしらね?)

 やや不満気にそう口にするのは、チームメイトであるエルフだ。今回の依頼、立場自体はモモン一行とフォーサイトは同じであると言える。しかし、というか、やはりアダマンタイト級ともなればどうしても自分達は見劣りしてしまうのであろう。

(ま、仕方ないって奴だろ)

 彼は別に気にする様子もなく、彼女にそう返す。依頼料さえもらえれば、それで良いのだから。

 

「まあ、この方があの有名な?」

 国王に続いて、馬車を降りて来たのは一人の少女であった。先にアインズが興味を示した騎士が身に纏っているのと色合いが似ている純白のドレスに、頭に乗ったティアラ、色素の薄い金髪はロングヘアーに整えてあり、宝石のような青い瞳とその美しさは確かに噂に聞いていた通りであるとアインズも認める。

(成程、確かに)

 かつてのギルメン達が作り上げたNPC。それにも匹敵するであろうと。

「ラナー様……」

 騎士が彼女の行動を諫めようと前に出てくるが、それよりも先に彼女は走り出す。ドレスを纏っていながら、その足取りは軽く、まるでダンスを踊るような軽やかさでアインズへと近づくと、興味深げに、好奇心旺盛な子供のような瞳を漆黒の戦士へと向ける。

「貴方がモモン様でしょうか?」

 問いかけに、アインズは失礼にならないようにそれでいて、英雄としての威厳が損なわれる事がないように注意しながら、返答を返す。

「はい、その通りです」

「まあ、本当にモモン様なのですね!」

 胸の前で手を合わせて、体を左右に振って、全体で喜びを示す王女に、騎士はどうすべきか戸惑っているようであるし、国王に貴族はやや気まずげにしている所から、彼女がどういった人物であるかアインズ達にフォーサイトは呆気にとられた。

「本当にあの英雄と会えるなんて、感激です! ラキュースにもいいお土産話が出来るわ! ねえクライムもそう思うわよね?」

「はい、アインドラ様も喜んでくれるかと」

 騎士は何とか彼女に合わせつつ、そしてアインズへと頭を下げる。

(苦労していそうだな)

 今まで得てきた情報を元にアインズなりに考えてみる。今回の行事、第3王女としては楽しみの方が勝っているのであろう。

 それも無理もない事である。話を聞けば、彼女は十代後半であり、そして滅多な事では王城を離れる事がないのだというのであるから。そして、城塞都市というのは、王都からの距離は離れており、彼女があの都市に行く機会というのは一生ないかもしれない。

(箱入り娘というやつかな)

 そんな彼女にとって、外に出れる機会というのは貴重であり、不謹慎だと分かっていても気持ちが舞い上がってしまうのであろう。

 次にそれとなく周囲を見てみれば、近衛隊と呼ばれた騎士達も苦笑していた。その様子は言いたげであった。「これだから世間知らずのお姫様は」と。それは、彼女の評判でもあった。第3王女はその容姿は美しく、国民想いで有名だという。しかし、(まつりごと)は苦手のようであると。世間の在り方というものを分かっていないからだという者もいる。

 アインズは何とか自分なりに王女へと友好的に接する為に、かといって、下手な事が出来ない為にしばらく膝をついたままであった。そんな彼に、純粋無垢という言葉が似合いそうな彼女は容赦なく言葉を投げかける。

「色々、お聞きしたい事がありますの! 婚約者というのは? 普段使われている武器のお手入れはどうなさっているのでしょうか? ナーベ様と禁断の関係があるという噂もお聞きになりましたわ。その辺りも詳しく!」

(ぶううぅぅ!!!)

 アインズは思わず、声を上げそうになるのを何とか抑える。その後ろではナーベラルもまた、誰が見ても明らかな位に顔を赤く染めている。

「ラナー、いい加減になさい。あまり人の詮索をするものではない」

 初対面の相手に踏み込みすぎる娘をたしなめるのは国王であった。唯でさえ弱弱しい立ち姿が更に震えているようであった。

「ですが、お父様だって気にはなりますでしょう? この国の防衛に関わることですから」

「ラナー――」

「ラナー様、その辺りに」

 娘の返答に呆れて何も言えない様子の国王に、そして困った顔を浮かべながら彼女をモモンから引き離そうとするレエブン候とクライムの姿に彼女はやや頬を膨らませ、文句を言う。

「せっかく、会えましたのに……」

「いえ、姫様、お話をする機会でしたらこの先もありますから」

 この先、城塞都市につくまでは行動を共にするのであるから。そう提案する戦士に王女でもある少女、その立場故に様々なしがらみを持ちながらも明るい少女は目を輝かせて彼へと詰め寄る。

「ええ、そうですわね! では、その時に先ほどの話を聞かせてくださいね!」

「いえ、それは……」

「駄目、でしょうか?」

 うるんだ瞳を向けられて、アインズは無い心臓が痛みを訴えて鼓動するのを感じた。別に悪い事はしていなし、間違った事もしていない。

(だと言うのに、何だろうな……)

 とてつもない罪悪感に襲われるのは何故だろうか? 目前の少女は今にも泣きそうな顔をしている。別に自分が何かした訳ではない。それでも譲れないものだってある。彼女はなんて言った? 

(ここまで、広がっているとはな)

 彼が作った(うた)は王城内でさえ、広まっているようであった。それだけ彼の腕がいいのであるのか、自分達という存在――モモンがこの国の話題であるか、という事は分からない。彼としては恥ずかしい事ではあるけど、後者である事を望んでいる。それだけ、計画が進むのであるから。

(その上な)

 今度は自分から、女性関係について話をしなくてはならないというのであるから。それは勘弁願いたい。

 しかし――

 周囲を見れば、彼女の付きである騎士に国王、その2人の瞳は申し訳なさと同時にどこか懇願していた。

 ――出来る事なら、この少女の願いを聞き届けて欲しい。

(大切にされているという事か)

 国王となれば、その責任は重大であり、自分の事を優先するなんて事は出来ない。彼の子供達、つまり目前の少女の兄に姉たちの内、結婚している者もいる事は既にレエブン候から聞いている。それだって、本人達が望んでそうなったとは限らない。いわゆる政略結婚というものならば、この世界にあるだろうとアインズは思っている。

(ああ)

 再び、無いはずの心臓が痛みだすようであった。余り、その辺りの話はしたくはない。それをしようとすると、どうしても頭に浮かんでしまうのだ。彼女の姿が……それでもと彼はしぶしぶと言った様子で王女の願いに答える。

「はい、王女様がお望みとあれば、何でもお話しましょう」

「ありがとうございます。その時を楽しみにしていますわ♪」

 戦士の言葉に王女は満足げに笑い、馬車へと戻った。そして、同じように国王も一度、彼の方へと向き、感謝を口にする。「モモン殿、感謝する。娘の願いを聞き届けてくれて」

 少々大袈裟ではないかとアインズは思った。自分が了承したのは少女の質問に答えるという事だけであるのだから。

(でも、何を聞かれるんだろうな?)

 背中が冷えるのを感じながら、アインズは何とか上手い話を考えなくてはと頭を回す。

 

 それから、出立の準備、最後の打ち合わせを行う事となった。レエブン候の説明によれば、先日、王都では陣中見舞い、そのオープニングパレードとも言うべきイベントは終了しているという。

「良いんですか? そんな事をしてしまって」

「ええ、ですが……」

 レエブン候は苦渋の顔を浮かべる。アインズもこれは間違った質問であったと反省した。国王が関わる行事となれば、完全に国民に秘密という訳にはいくまい。国民に税金の使い方を問われる政治家みたいなものだろう。

「すみません、おかしな事を聞いてしまって」

「良いんです。モモン殿のご指摘ももっともですから」

 そしてレエブン候は説明を続ける。先にアインズ達に見せた八足馬、戦士であるアインズ、レヴィアノール、ヘッケラン、そして野伏であるイミーナ等は、それに乗って一行の警護について欲しいとの事であった。

「タ―マイトさん達は乗れるのですか? その、スレイプニールに」

「はい、私……」ヘッケランは言いかけて阿保らしくなったのか頭をかく。「俺は問題ないですよ。仕事柄、御者をやる事もありますから」

「あたしも同じく問題ないわよ」

 イミーナが続く、彼女はワーカーになる前はよく馬に乗って、狩りをしていたという。「馬とスレイプニールは違うのではないか?」というアインズの言葉に「どっちも一緒でしょ」とそれこそ、軽く返してきて、それを見たヘッケランが頭を下げる。

「すみません、モモンさん、こいつ大雑把なんですよ」

「何よ、別にあたしは間違ってはいないでしょ」

「ええ、そうみたいですね」

「ちょっと、モモンさんもそう思っているの?」

 彼女本人は心外だと抗議をしてくるが、それでも先ほどの発言を聞けば、と戦士2人は苦笑しあう。

「私はハムスケに乗るとして、レヴィア、お前は大丈夫か?」

「問題などあるはずがありません。モモンさん」

「そうか」

 気になり聞いてみれば、いつものように声が返ってくる。彼女はNPCであり、基本的なスペックであればアインズよりずっと上だ。そして、そのやり取りを聞いたレエブン候は次の説明に移る。魔法詠唱者であるナーベラル、アルシェ、そして神官であるロバ―デイクには馬車に乗ってもらうという事であった。

「当然ですね」

「はい、こちらも問題ないですよ」

 基本的に魔法行使が主である彼女達に、回復系統の魔法が使える彼を温存するのは正しい判断である。

(ナーベ、大丈夫か?)

 アインズは彼女へと耳打ちをする。彼女は1人で見知らぬ者達と長時間過ごすのであるから。ある程度、話をしたとはいえ、まだ初対面も同然であるのだから。

(何を危惧しているのでしょうか?)

 ナーベラルのその言葉を聞いて、アインズは安心した。彼女は別に分かっていない訳ではない。今の彼女にしてみれば、何も問題などないのであろう。思い出してみれば、彼女一人で依頼をこなす時もあるのであるから。

 

 こうして形が決まりつつあるという時に、レエブン候は気まずげに2人の魔法詠唱者へと声をかける。

「ナーベ君、アルシェ君、少し良いかな?」

「何でしょうか?」

「――」

 営業スマイル全開で返答する従者と、無言で彼へと向き直る少女は対照的であった。そんな彼女達に貴族は白い肌に汗をかきながら続ける。

「いえ、すこしお願いしたい事がありまして」

 その場にいる全員が彼の言葉に耳を傾ける。片や、純粋な疑問から。片や、新たな金の出所を見つけたと言いたげに。

「そうですか」

「それは、また大変ですね」

 貴族の説明を聞いた各チームのリーダー達の感想であった。レエブン候がナーベラル達へと新たに依頼したいというのは、王女の世話係であるというのだ。

(確かに)

 言われてみればとアインズは思い出す。先ほどの顔合わせの場で、女性の姿が1つもなかったと。そして、1週間ばかりの旅で、王女の世話をする人物がいないというのは問題である。だからと言って、男にさせるのはもっと問題である。

「成程、成程、話は分かりましたよ」ヘッケランは理解出来ていると頷きながら、レエブン候へと歩み寄ると、その肩に腕を回し、彼に顔を寄せる――かつての仲間。彼女であれば、歓喜したであろう光景だ――そして耳打ちをするように語りかける。「レエブン候、あんたは良い目を持っていますよ。アルシェは美人だ。きっとメイド服だって似合うだろうさ」

「は?」

「レエブン候……」

 アインズの言葉に墳墓所属の者達の貴族を見る目が明らかに冷めてゆく、最もそれが見えているのは顔が出ているナーベラルだけであるが。

「いや、待て違うんだ!」

 レエブン候は即座に理解した。いきなり訳の分からない事を言い出したワーカーのリーダーの発言、それによって自分があらぬ疑いをかけられているのであると。そんな彼の胸元に人差し指をあて、字を書くようになぞりながらヘッケランは続けた。

「ですが、今回俺達が受けたのはあくまであなたに国王様方の護衛のみ、この上の仕事の追加でしたら」指を離して、その手の親指と人差し指で輪っかを作る。何を示しているかは一目瞭然であった。「報酬の上乗せをお願いしたいんですけどね」

「ぐ、それは」

 レエブン候としては、これ以上の出費は正直痛い。八足馬の事もあるが、この先にも用意してある物等の準備で蓄えというのは減って来ているのだ。この上更にお金が出るようなこととなれば、間違いなくこれからに影響を及ぼす。

(く、これだから)

 彼らに頼むのは嫌であった。しかし、他に選択肢がなかったのも大きい。当初、ワーカーを雇うと言ってもいくつかの候補があったのだ。その上で、彼らに頼んだのは実力もそうであるが、先ほど追加依頼をする事になった少女の存在もあった。独自の情報網で彼は、彼女が元貴族であるという事を知っていた。つまり、ある程度の教養があるという事であり、同時に保険をかける事にしたのであった。

 今回の行事、当初は当然王女の世話をするメイドを調達しようとした。しかし、集まらなかったのだ。王城勤めのメイドというのは普通は貴族の家の出であり、やはり多かれ少なかれプライドというものを持っている。と、同時に彼女達の実家だって、娘は大切であるらしい。

(くそ、どこまでも糞だな)

 2大派閥の争いは、王城でさえ時に戦場となるのであり、今回の裏側で起きている事を知っているのだ。近衛隊だってそうだ。実際に派遣されているの3男に4男とどう見ても、いざという時の保険子ばかりではないか。よって、王女の世話一つでも彼は苦労させられるのであった。

(やむを得ないな)

 それでも、何とかならないだろうかと思わずその中心である少女に視線を向ける。彼女はレエブン候のどこか乞うような視線を受けて、そして言った。

「――頂けるのであれば、欲しいです」

(ああ、神よ)そんなもの、この世界にはないと彼は諦めたように彼の要望を叶えるしかなかった。「分かりました。上乗せさせてもらいますとも」

「ありがとうございます」

 心地いい返事をもらう事ができ、彼は仲間へと目配せをする。そして、仲間達も微笑んで答えるのであった。

(そう言う事か)

 アインズは此処に来て理解した。全ては彼の戦術であったのだ。彼が初めに貴族に変な事を言ったのは、自分のペースに乗せる為であったのだ。

「何と鮮やかな手口、見事なものですね」

 レヴィアノールもまた自分と同じように今理解したのだろう。彼女にしては珍しく、現地の者を褒め称えのであった。しかし――

「ああ、確かにな。ところで、レヴィア、その鉈で何をする気だ?」

 いつの間にか、その手に、戦士としての彼女の得物が握られている事に多少の危機感を抱きながらそう聞く。彼女から返ってくるのは疑問を孕んだ口調であった。

「いえ、唯、私も交渉をと」

「その必要はない」

「かしこまりました」

 彼女としては、善意でそうしようとしてくれているのであるが、アインズとしてはやるつもりはなかった。英雄像としての事もあるが、レエブン候がどこか気の毒に思えてしまったからであった。

(にしても)

 どうして、ナーベラルに目を付けたのであろうか? 彼は不思議に思った。彼女の本職がメイドというのは自分達側しか知らない事実である。

(やはり、この人物)

 侮れないと警戒を高める。実際は、普段の彼らの様子からそうではないかと勝手な推測を言い出した者がおり、それを起点として広まった噂の産物をレエブン候が耳にしたという事であるのだけど。それでも、わりかし真実に到達しかけている辺り、人間とは侮れない生き物だ。

 

 そうして、話はまとまり一行は城塞都市へと向けて出発するのであった。

 

 

 その一団は3台の馬車とそれを取り囲むように走る騎兵達で構成されている。全て、スレイプニールで構成された王国の歴史でも類を見ない豪華な一団であった。

 そんな一団の中央に、アインズはいる。

 体が上下に揺れる感覚、それも当然だ。高速で移動している獣に乗っているのであるから。前にあるのは一台の馬車、それには近衛隊の中でも魔法行使に長けた者達が待機しているという。後ろに意識を向けてみれば、また別の馬車があり、その御者を務めているのは、先ほど見かけた若き騎士である。

「早いですね、スレイプニールというものは」

「そりゃそうでしょう。なんたって足が8本ありますから」

 アインズの言葉に近くを走っていたヘッケランがそう返し、同意だとアインズを乗せて疾走しているハムスケも魔獣たちに称賛を送る。

「こやつら、中々やるでござる~」

「ああ、そうだな」

 言葉を返しながら、アインズは確かにと思う。(これなら、ある程度の時間を短縮出来るというのも納得だな)一行が、進んでいるのは街道ではない。その道の北寄りの地帯を走っているのであり、地図で言うなれば王都と城塞都市、その2つを結んだ直線を進んでいるといった感じである。これも、レエブン候の計画の内であった。

「スレイプニールって、唯、速いだけじゃなく、様々な地形を進めるという利点もあるんですよ」

「ええ、そうみたいですね」

 親切に教えてくれるヘッケランにそう返答する。この魔獣は、足が多いだけではなく、その足さばきも見事であり、岩場であったり、泥であっても問題なく進めるというのであるから。更に、そんな魔獣たちが引く馬車も特別製であるらしく、荒れた地であっても問題なく車輪は回るのだという。

 その全てがレエブン候の準備であるというのであるから驚きである。

(これ、かなりお金かかっているよね)

 それを思い出すと。今度は自分がその痛みに襲われそうになり、話題を変える為にそばを走るヘッケランへと気になった事を聞く。

「それにしても、霧が濃いですね」

「ああ、言われてみれば確かにそうですね」

 そう、現在一行が走っている地帯はどういう訳か霧が深いのである。前を行く馬車も後ろに続く馬車も気を抜けばあっという間に見失いそうになる程であるのだから。

(この感触……どこかで)

 ヘッケランは記憶の片隅を掘り起こそうとしてみるが、どうしても出てこなかった。しかし、それでも覚えがあるのだ。この霧を知っていると。同時に、ここではありえないものでもあると。

(困ったもんだぜ)

 今回の依頼を受ける事にしたのは、報酬が法外だった事もあるが、割にあった仕事であると思ったのが一番であった。国王、王女と数日共に過ごして、城塞都市に向かうだけで得られる多額の報酬。しかし、どうやら自分達が思っているよりもこの依頼は厄介であるらしい。

「どうしますか? 一度レエブン候に聞いてみますか」

 ヘッケランの提案にアインズはそうするべきか一瞬迷う、が。

「いえ、その必要はないと思います」

 そして、彼はハムスケを促し、中央を走る馬車へと近づき、騎士へと声をかけた。

「クライム君、少し良いかな?」

「これは、モモン様、どうされましたか?」

 英雄とも評されているモモンの呼びかけにクライムは内心、緊張しながらも失礼がないようにと丁寧な言葉を意識しながら返答する。

「この辺りは霧が深いものなのか?」

「いえ、そんなはずは」

 彼も王城勤めの兵士である事に変わりはなく、地形について知ることはあまりない。それでも、これだけの深い霧があれば、何らかの噂を聞くものであるはずであるのだから。

(私が聞く訳ではないが)

 彼はその立場故に王城にて付き合いのある者はいない。よって、その手の話を聞くのは主君である王女だ。

「そうで――」

 彼はそれ以上言葉を口にする事は出来なかった。激しく馬車が揺れたからだ。

「な!」

 アインズも驚愕の声を上げる。一瞬であった。どこからか、空気を切る音が聞こえたと思えば、次の瞬間には中央の馬車を引くスレイプニール。2頭いる内の1頭、その片方の目に深々と矢が刺さっていたのであるから。

 

 出発して、3時間が経過しての事であった。

 

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