オーバーロード~遥かなる頂を目指して~   作:作倉延世

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 更新遅くなり申し訳ございません。読んでくれている方々、お気に入り登録しれくれた方々ありがとうございます。励みになります。

 では、新章どうぞ。


第1章 降臨せし死の支配者
第1話 カルネ村襲撃


  

 

 

 エンリ・エモットという少女にとってそれはいつもの日常の一幕でしかなかったはずだ。

 いつものように早い時間帯に起床して、いつものように水を汲む為、桶をもって、井戸へと向かうはずだった。

 そこで聞こえたのは人の悲鳴、馬のいななき、遠目に見えた甲冑を着た者たちが襲撃であることを少女に知らせた。

 いくらカルネ村が王族直轄領たる辺境の村の娘であるエンリでも、その者たちが王国の隣国である帝国軍の装備であることは見てわかるものだった。気づけば、我が家に向かって走っていた。

 早くこの場から逃げ出したいという思うと同じくらいに自分の家族がこういう時どういう行動にでるか知っていたから。

 

 家について目に付くは、自分をまっていたであろう父母に妹だ。自分のことなど気にせず逃げてくればいいのにどこまでも優しい父達だ。

「エンリ! 無事だったか」

「ああ、エンリ、よかった」

 心から安堵した声と愛しみの眼差しを向けられ、非常事態だというのに、泣きたくなる。しかしその一瞬の気の緩みがよくなかった。

「痛い!」

 力任せにつかまれる左手首、反射手的に振り向いたその先に居たのは、先ほどから村の人たちをその手にもったロングソードで一方的に殺している騎士達の一人であった。

 その兜の先から、獲物を前に舌なめずりをする肉食獣のように、エンリのまだまだ途上だが、瑞々しい肉体を凝視しているのを防衛本能から感じて、恐怖のあまり一瞬体が完全に止まってしまう。

 

「娘から離れろ!!」

 叫び声と共に動いたのは父であった。まさか、防具を身に着けていない者が飛び込んでくると思わない。それは、エンリ自身久しく聞くことは、なかった。本気で怒った父の声、最後に聞いたのは、もう10年以上になる遠い過去、幼さゆえの好奇心を抑えきれず、いいつけをやぶって森に深く入ってしまった時だ。

 この付近は『森の賢王』なる魔獣のおかげで、危険はほかの地域より低いものの、子供一人が無邪気に遊べるほど温いところではない。当然帰り道が分からなくなり、迷って、迷って迷って、だんだん心細くなって、うずくまりそうになったとき、自分を探す村の大人たちの声が聞こえて、必死に走った。転んでも走って、うまく体制を保てず樹に激突しても走って、ようやく再開できた。母によれば、その時の自分はひじやひざは擦り傷だらけ、強打したからのか、額も切れ、血が穏やかにしかし止まることなく流れ続けていたという。

 ようやく、帰ることができた我が家、しかし始まりはむしろここからで、

 

『どうしていいつけを破ったんだ!!』

 

 いつもと違う父の姿に何も考えられずただひたすら早くその時が終わるの願って、泣きながら『ごめんなさい』を繰り返していた。母はそんな自分を抱きしめ、無事だったのだからもういいでしょうと、父に言っていた。そんな服に鼻水だらけ、涙だらけの顔を押し付け泣き続けた。その日から、エンリは親のいうことを絶対に守るようになり、すすんで畑仕事をやるようにした。やがて妹のネムも生まれその面倒もよく見るようになり、いつのまにか《理想の村娘》という称賛しているのか、馬鹿にしているのかよくわからない称号をもらってしまった。

 その頃になれば、森の件は、彼女にとって恥ずかしくも、笑うことができる過去になっていた。当時は父の怒声を恐れるだけだったが、あの時、父が本当に自分を大切にして。その身を案じての声だったと理解していた。だからこそエンリは父親の娘であったことに誇りを感じられるし、自分も家庭をもったら。絶対に子供を同じように愛そうとささやかな決意と願いをその胸に秘めて今日まで生きて来たのだ。

 

 その父が、自分を守るために騎士につかみかかる。もつれあうように転がる二人。

 

 どうして自分は今、あの時のことを思い出しているのか?

「エンリ! ネムを連れてはやく逃げなさい!」

「お母さんは!?」

「いいから、はやく!」

 それは、朝霜のようにうっすらとだが、自分が一番よく分かっているからではないか?もしここで両親と別れれば、もう二度と会えないと。しかし世界とは残酷だ。最後だというのに。そう、家族全員が顔を合わせる最後の時だというのにだ。

 

「く! 村人風情があぁ! 手が空いてる奴はこっちにはやくこい!」

 やっぱりともいうべきか、訓練を経て騎士になった男と生まれて20年以上、鍬をふることしかやってこなかった父の自力には僅かだが、明らかに差があるのだ。

 やがて父が組みふされていく、先ほど男が発したヒステリックな叫び声を聞いたほかの騎士達も近づいているのが足音で分かる。もう逡巡する間もない。妹の手をつかんで、母から引きはがすように強引にその場から連れ出す。妹は母から手を放そうとしなかったが、母自身が妹を突き放す。その行為に妹は泣きそうになるが、それはエンリだって同じだ。しかし、彼女が泣きたかったのは、別に母親が肉親に冷たくあたったからではない。これから母が何をしようとしているのか解ってしまったから。

 

「2人とも()きなさい!!」

 

 その言葉を最後に足音が聞こえている方向に走り出す母、もう振り返ることもできない。エンリはネムを連れて逃げるしかなかった。やがて、後ろから聞こえるのは、人を剣で斬る音、それも2回。誰が斬られたのは確認するまでもない事だ。

 

(……お父さん、お母さん……)

 

 彼女は泣くことも叫ぶこともすべて許されぬまま走り続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガ、改めアインズは今日も(といっても異変よりまだ2日)楽園計画(思いつきで決めたばっかり)を進める為の準備として、そのとっかかりともいうべき候補地を探す必要に駆られ社長室ではなく、そのアイテムある部屋へとシモベ達を連れ、歩いていた。

 

(…………)

 今の彼が胸に抱くのは、緊張感に脱力感であった。

 先刻の自分にとってはまさに人生3本指に入るほどのイベントをこなして精神はまだすり減ったままだ。

 なんせ、絶世の美女に愛していると言われ、まるで恋人どうしのように抱き合い。そのままキスをしていたかもしれなかった、あの場の熱気。珍しく本音という本音、感情という感情を吐き出して終わった……のだが、今更になってその時に感じていたであろう羞恥心が彼のないはずの心臓に肺を襲ったのだ。もちろん彼の胃痛の原因はそれだけではない。

(何なんだこの行列は?)

 疑問がただでさえ、回復していない心をさらに痛めつける。それもそのはず、異変直後は自分の従者はプレアデス1名だったのが、現在はセバスを筆頭に《階層守護者》からシャルティアにコキュートス。《プレアデス》からユリ・アルファとルプスレギナ・ベータ。《七罪真徒》からグリム・ローズにガデレッサ。

 更に一般メイドが4名にナザリック・マスターガーターが6体、更に一見姿はないが、八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)影の悪魔(シャドウ・デーモン)が恐らくは10体ずつ、自身を取り囲むように配置されているのを支配者としての直感か、はたまたどこまでも抜けきらない一般人気質が嫌でも自覚させる恐怖心かは分からないが、把握できていた。

 とりあえず言えることはひとつ。あの感動的なやりとりはなんだったのか、

 

(もう自殺はしないって、言ったよね、俺?)

 だというのに、この厳重な警備はなんだろうか?自然に考えるならば傷心たる自分を気遣い、心配してのことであろうと。

 しかし素直にそう思えないのが、アインズである。無理やりにでもほかの理由を探そうとしてみる。そんなことを考えている時点で彼らを信じていないようなものだが、それは彼とて、似たような心境であった。つまり、自分は彼らに。

 

(絶対信用されていない)

 まるで、何かを懇願するような、期待しているような視線を向けられて抱く感情。彼らが何より恐れているのは、最後の主であり、支配者である、自分の喪失ではないかと。つまり少し目を話せば、くしゃみをする感覚で自分が自殺すると思っているのだろう。だってそうだろう。

 

 なんせ、人選がそう言っているようなものだ。

 

 それは筋力重視の顔ぶれ、セバスはもちろんだが、階層守護者たちにプレアデスもどちらかといえば前衛職を務めるような力自慢がそろい。《七罪》いちの腕力を誇るガデレッサに、束縛、拘束に長けた特殊技能(スキル)を持つグリム・ローズがいるとなれば、もう確定だろう。そのほかのメイドやガーターたちはそういった事情をこちらに悟らせない為の囮ということになるだろう。では、次に考えるのは、誰の発案かということだ。まずあの場にいた3人の内の誰かか?あの出来事を台無しにしかねない最低のことをアインズは考える。

 

 まずはアルベド、あの時はああいってくれたが、やはり自分がここを去ることに対する恐怖から抜け出せていないのかもしれない。だとしたら、完全に自分のせいであるが、

 (いや、アルベドはないな)

 あの時彼女が見せた涙はそんな軽いものではなくて、嘘偽りない彼女の言葉(ココロ)なんだと信じられる。というか、あれでもし演技であれば、もう一生他人を信用できなくなるだろう。つまりそれだけアインズにとって重みがあるやりとりであった。何よりあの時触れ合った時に見せた彼女の顔は本当に美しく、もしも異変後の世界(こんなところ)ではなくて《リアル》であれば、間違いなく結婚を申し込んでいたと思う。

 

 それに何より自分は結局あの告白の答えを返すことができていない。最低だという自覚はあるし、目をとじれば(瞼も眼球もないが)かつての友たちが、一斉に非難してくる光景が容易にうかぶ、特に女性陣の視線が痛い、鳥頭はなぜかほかの者とちがいくやしがっている様子で、彼女の創造主に至っては、なぜか受け入れないことに対して怒っているようでもあったが。

 

 そういった事情もあり彼女を疑うのはそもそも問題外であり、軽く謝罪をすませて犯人捜しの再開。

 

 次の容疑者はデミウルゴス、彼にとって自分とは、仕えるべきという自身の存在価値そのものであり、アインズ個人よりもナザリック全体を益を優先させるかもしれない。それでも、

 (デミウルゴスも違うだろう)

 彼は何よりも自分の意思を理解してくれている。その証拠というには少々弱いが、あのあと、会合より僅か10分足らずで『楽園計画』のプランを10通り以上用意してくれたのだ。何が嬉しいかというと、その計画書の中に武力をもちいた案も、策略をもちいたものも何一つないことであった。

 

 では、どういうものであったかというと、例えば、大規模な農園をつくり、職がないものを各地より集めて運営していくというものだったり、いっそ思い切って、国の代表成り、王様などの悩みを解決して一気に名をあげると同時にこの世界にてある程度の地位を得るというもの。まさかと思うが自作自演ではないかと、釘をさしたところそんなつもりは一切なく、紳士てきに事を進めるというものであった。ちなみにそれを疑ったのは、YGGDRASIL(ユグドラシル)時代に、似たようなことをやったことがあるからだ。といっても、その時にやったのは異業種キャラを選択して初心者を演じる囮役とそれにはまったプレイヤーたちをリンチにする襲撃役に分かれての作戦だったので全然違う話といってしまえばそれまでのものでもある。その時の彼とのやり取りを思い出す。

 

『安心したとはいえ、そう都合よく権力者の悩みなど見つかるものなのか?』

『心配せずとも、この世界の人間たちがアインズ様の元の世界同様の者たちであれば、ましてそれらをまとめあげる立場ともなれば何かしらのしがらみを抱えているものでございます』

 

 本人にその気はないだろうが、なんだか思い当たるふしがアインズ自身にもあり、思わずないはずの心臓を押さえたくなる。

『別に難しいことをする必要はないのです。相手が欲しているものを的確に見極め、その対象をアインズ様の慈悲として与える。それだけでよろしいのです。その際、我々のどのものにも気を遣う必要はありません。もとよりナザリックのすべてはアインズ様のものでございますから』

 

 その言葉と彼の提示したすべての計画が証明した。一見地味ではあるが、間違いなく見ず知らずの他人にもそして当人にも好意的な印象を与える、善行の数々と共に確実に自分がこの世界に求める理想郷につづくものだと感じることができる。そしてもう一つ彼を信じられる根拠があった。それは最後につづられていた言葉、

 

『もし、アインズ様が許可していただくのであれば、これらの計画の運用資金は宝物殿の品にて補填する予定でございます』

 

 という一文、もしも以前までの彼ならば、きっとこんな提案をするはずがない。何故なら、それは「ナザリックの維持」ということから最もかけ離れたことであり、こんな自分のワガママをよく理解してくれて、一番効率のいい方法を提示しくれている訳だから。もちろんリスクはある。

 

 例えば、かつてのギルドの仲間たちはいないと解っているが、ほかのプレイヤーの存在は、自分と似た境遇の者が皆無という根拠はどこにもない。もし彼らがいたとして、その上でYGGDRASIL(ユグドラシル)由来のアイテム類を流すことはこちらの存在を晒してしまうようなものだが、しかしこれからやることを考えれば、かなり甘い見積もりになることには違いないが、敵対することはないように思われる。むしろ否定するようであれば、一体なにがいけないのか、徹底的に話し合うつもりでいるし、その用意だってこちらにある。そうなれば、この提案をしてくれたデミウルゴスが相談にのってくれるのはほぼ間違いないことであることであり、それくらいの信頼はあると思う。よって今のこの状況は彼の提案でもないはずだ。となると、

 

 (パンドラズ・アクターは……………ないな)

 

 なんでだろうか?とても彼の発案ではないと全財産、自身の命すべて賭ける事ができるくらいに断言できている自分がいる。もしもアイツであれば、もっと、それこそアインズの精神が崩壊する様な対応をしてくるとはっきりしている。それは、自ら創造した存在に対する絶対の信頼?いや、違う。自らの黒歴史が世間に広まることを恐れての危機感からそういえる。現在アイツも自分のワガママを叶える為に働いており、時折その姿を見かけるが、オーバーアクションをはじめとした大げさすぎる言動にそれを相手がどんな顔で対応しているのか見るたびにないはずの胃が痛む気がする。それでは、

 

(それ以外の者達か………………いや、結局は俺のせいだな)

 

 さんざん子供ともいえるNPC達を疑った末の答え、彼らがどういうつもりであろうと、それはすべて、アインズを思ってのことであり、すべては彼らを信頼しなかった自分のせいでもある。ならば文句を言わないのが、真の支配者というものではないだろうか?確かに自分は元はただのいや、ブラック勤めのサラリーマンでとても組織のトップなんて務まるものではないが、それでも彼らの為に生きると決めたのだ。ならば、真の支配者となれるよう努めていくのが己がなすべきことではないだろうか?

(俺も変わらないとな)

 すぐに変わるのは簡単ではない。それでも、少しずつ彼女たち(NPC)と頑張っていけばいい。ひとまずは図書館で参考になる本を司書長あたりにでも聞いてみるか。

 

 

 その部屋では一人の男が一向を出迎えた。

 

「ああ、お前かウィリニタス」

「これはアインズ様、おはようございます。シャルティア様にコキュートス様、セバスにプレアデス、七罪にメイドたち、護衛のアンデッドたちも勤めに励んでいるようでなによりでございますれば、よき時をお過ごしで」

 

 独特の言い回しをする統括補佐を久しぶりに見たアインズは懐かしく感じる。彼とほか2名はいわばナザリック始まりの者たちなのだ。ギルド拠点を確保した際の特典たるNPC作成、記念すべきその最初はアインズも含めた《始まりの9人》で是非とも作ってくれと言われたものだ。

(にしても、確かあれだったよな)

 今、目の前にいる男は最初は違う名前だったはずだ。それをあのダブラ・スマラグディナがアルベドたち三姉妹を作った際に彼も含めて新規の設定を追加したいと言いだし、それをギルド恒例のルール、多数決をとったところ過半数以上の賛成を得て変更になった経緯がある。しかしそれも、ゲームだった頃の話だ。今となっては彼がそのことに対してどう感じているのか気になる。特に()()の事情を知っているだけになおさら

「ウィリニタスよ。お前は改名前のことを覚えているか?」

「ええ、もちろんでございます。デミウルゴス様、ヴィクティム様、セバスを始めとしたプレアデスらが至高の方々に創造される前、私が階層守護者として現役だった頃の話でございますね」

 そこまで覚えているのかと感心してしまう。そう、彼ら3人は第10階層を除いた9つの階層を3階層ずつ分担して、守護者として役割を勤めていた時代がある。まあ、ほんの3ヵ月ほどの期間であったが。

「それで、その時と今では、お前の立場もだいぶ変わってしまったが………その………不満はないのか?」

「不満? 一体何の話でございましょうか?」

 その言葉と表情には本当に何のことかわからないという表情が己をとりまく現状に満足しているということなのだろう。それでも聞かずにいられない。

「その、あの者と夫婦ということについては、」

 つい、アレといいそうになって内心慌てて言い直す。いくら恐ろしい思いをして、本気で攻撃をしかけた過去があり、名前を出すのもためらわれるとはいえ、この男の妻なのだ。

 

「ああ! 二グレドのことですか! 彼女は本当に素晴らしい女性です」

 

 突然明るくなる声、真夜中にフラッシュライトを突然浴びせられたような驚き、

 

「そ、そうか、彼女に不満はないのか?…………その……………顔のこととか」

 

 女性に対して最低なことを口走る支配者、しかし彼は彼女の顔に関するある事情を知っている為、どうしても気になってしまう。

 

「アインズ様が何を心配されているのかさっぱりでございますが、特に不満はありません。彼女の顔は美しい。瞳に口、()()()とその構成するものすべてが愛おしい。何より彼女の子を想う気持ちは何者にも、それこそ、ペストーニャやユリ、義理妹にも負けないと思っております。そんな彼女の夫であることに私は何よりも誇りを感じ、とても嬉しく幸福に思います」

 

 聞いているほうが恥ずかしくなるようなことをこともなげにいってみせる様に、後ろで聞いているもの達も興味深そうに聞いているもの、耳まで真っ赤にしているものとその反応は様々だ。もちろんアインズも、ないはずの心臓が早鐘を打ち続けている。

(この様子なら大丈夫かな、まあ本人は幸せそうだし)

 しかし何だろうか、今の言葉に引っ掛かりを感じる。もしすると、また自分は何か忘れているかもしれない。

(今は気にしてもしかたない)

 こうして、懸念事項を片付け(?)アインズは執務に取り掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 エンリはただ走る。妹の手を引いて、つぶれそうになる脚に鞭をうって。後ろを振り返るにはいかない。あのあと、誰の目にも映らないように走ってきたつもりだ。だというのうに、後ろから自分たちを追いかける新たな足音が聞こえる。それも、相手のほうがわずかにこちらより速い。徐々に迫っているのがいやでも彼女の脳にこの状況からの脱出が困難であると理解させていた。だからといって、諦める理由にならない。すでにこの命はエンリ達2人だけのものではない。

 

 しかし、このままでは追いつかれるのも時間の問題であることに変わりはない。

 

(勇気をください、神様!)

 

 繋いだ手を放し先に行くよう促す。ただでさえ泣き出しそうな顔をしていたのが、ここにきて更に歪める妹。だがエンリとて、ここで死ぬつもりはない。そのままありったけの力を込めて握り締め、

 

「なめないでよねっ!!」

 

 勢いにのせて相手の顔向けて突き出す。途端に手に電気をながしたような痛みが走る。少し皮がむけたかもしれない。いくら彼女が毎日畑仕事をこなしていて、ある程度鍛えらえていたとしても兜を破るには至らない。できたら、できたで問題があるのだろうが。それでも相手が驚いているのが兜越しでも分かり多少は時間は稼げるはずだ。かくして、エンリは目を僅かながら輝かせたネムへ手を伸ばし、

 

              ………………………………ネムの表情が変わった。

 

 

 

   (!!!!!!!!!!)

 

 

 次の瞬間、エンリの背中が焼けた。正確には、そう錯覚するほどのなにかを背中にされた。まるで肺をつぶされたような感覚、本来自分の体にはないはずの違和感、そしてえぐられたような痛みがようやく、彼女に自分の背中に剣が刺さったのだと理解させた。

 

「馬鹿にするなぁぁぁ!」

 

 聞こえるのは、さっき殴った兵士の声。まさかあの状態で得物を投げるなんて、それは戦いとは生まれてこのかた無縁のエンリでも最悪で愚か者の選択だということがわかる。それは、命がつきかけているゆえに発揮された脳内物質の大量分泌が導き出した答え。おそらくは、戦士としてのプライドを傷つけられた上の行動。感情任せに投げたために比較的深くは刺さらなかったのだと。死を目前にして冷静に分析している自分がいる。どうしてそうできたのだろうか、父に助けられた時からか、左手をつかまれた時からか、いやもうそんなことはどうでもいい。どうせ自分はここで死ぬしかない。ならば、やることはただ一つ

 

「逃げなさい!!」

 

 ありったけの声で叫ぶ!少しでもあの子が生きていられる可能性にかけて!だというのに、

 

「いやだよぉ! お姉ちゃんまでいなくなるのやだぁ!」

 

 ああ、なんでこんな時まで我儘なの。お願いだからお姉ちゃんの最後の頼みを聞いてよ。そんな願いを知りもせずにまっすぐ、走って来る妹を抱きしめてやるしか選択肢がなくなっていた。そのまま押し倒すように2人してたおれる。もう立っているのも限界だった。こうなってしまってはもうここで死ぬ結末しかない。ならば、せめて一緒に逝こうと、寂しくないようにと。

 やがて足音が来て、背中が再び焼けるように痛み。剣が引き抜かれたのだと察して、

 

(!!!!!)

 

 三度背中を襲う衝撃と熱が刃ではなくてその表面で殴っているのだと理解した。

 

「村娘風情がぁ! この俺をぉ! 殴りやがって!」

 

 自分を襲った奴といい、村を襲っているのはこんなやつばかりなのかとどこか乾いた笑みを浮かべている自分がいた。もちろん顔に出すほどの余裕はないけど

 

 打撃音、打撃音、打撃音、打撃音、打撃音。

 

 背中を打ち続ける痛みがエンリの体から熱を徐々に奪っていく。視界がかすむ。今の自分にできるのは、この酷い光景を妹に知られないため、その胸で妹の視線をふさぎ(苦しそうにしているが我慢してもらう)、両手で頭を抱えるように両耳をふさいで音が聞こえないようにしてやる。そして、彼女は意識が遠のいていくなかでひたすらに願っていた。せめて、

 

(ネムは楽に死ねますように)

 

 自分は惨たらしい最後を迎えるが、妹は一思いに一気に殺してくれと、今まさにその酷い行いをしている兵士に願うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

「さて、これでどうだろうか?」

 アインズは目の前にあるテレビのようにも姿見にもみえる鏡に対して、不規則に手を振り続ける。

 

 遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)

 外の風景を容易く映してくれる道具であり、今の状況だからこそ使うべきアイテムだ。しかしながらながらくこの部屋に放置していたのとこの世界に転移してきた影響で少しばかりその操作方法も変わっていたらしく。思い通りに使えないのだ。先ほど合流したウィリニタスを始め、多数の者たちが見ている中、まるで新しく購入した家電の使い方を四苦八苦しながらいじる姿は支配者としては相当よろしくない光景だ。それでも耐えねばならない。その素質はなくとも彼は支配者なのだから。

 やがて、なんとか操作のコツをつかみ。少しずつであるが自由に景色を動かしたり、見たい箇所をさらに寄せたり離したりできるようになってきた。その都度配下一同で、「おめでとうございます!アインズ様!」とやってくれるのは止めてほしい。それから数分、ようやく人らしき生き物をみつけ喜びを感じようとして、

 

(!!!!!!!!)

映ったのは、逃げ惑う人々にそれを馬に乗って追いまわし、その無防備な背中に手にもった剣を叩きつけるように斬って行く光景。

「これは?祭り、でありんしょうか?」

 その性格から本当にそう見えているであろうシャルティアの声に答えたのは、セバスの静かな、しかしその心を痛めているだろうとわかる声。よく見ればユリやガデレッサなどもそれに近い表情をしている。

「いえ、虐殺の模様です」

 

 それはアインズでも分かることであった。一瞬の迷い。この村を見捨てるべきか、助けるべきか。介入したことにより発生するメリットとデメリット。この事態をみなかったことにすることでおこる不都合とこの先に見出せる優位性。それらを転移前であれば、無理であろう処理速度で思案する支配者。この時、世界は止まったように彼は感じる。もしも助ければその恩からこの村人たちを計画に組み込むことができるかもしれない。でもその場合この騎士達と敵対するのは確実。もしかするとレベル100がこの世界の基準かもしれないのだ。見捨てれば、今後この騎士達が所属するであろう国、あるいは団体相手に対する切り札、脅しに使えるかもしれない。しかし、この村人たちは全滅確定。改めて情報をもらう相手を探さなくてはならない。そしてその相手は見つかるのか?そしてどれだけ時間がいるのか?それでもたついた方が、ナザリックを危険に晒し、計画も達成できなくなるかもしれない。

 

(グぅぅぅ!!!!!!??????)

その瞬間彼を襲うのはこれまで感じたことがないほどの激痛。ないはずの右眼球がまるで内側から風船のように無理やり膨らませようとしてうけているような圧迫感で思わず右手で眼窩をおさえる。

 

「アインズ様!」

「大丈夫でございますか!」

(お気を確かに!!)

「すぐにアルベド様にお知らせを!」

「私の存在を無視するなでありんす!」

 

 騒ぎ出す臣下たち。しかしそれに相手をするほどの余裕はない。そして、その痛みから逃れるように、誤魔化すように鏡を見た。

 

『娘から離れろ!!』

 

 それは我が子を守るために勝てるはずのない戦いを挑む男の姿。

 

『2人ともいきなさい!!』

 

 少しでも時間を稼ぐ為に自ら死地に飛び込んでいく女の姿。

 

そして斬られて倒れた夫婦と目があったような気がした。そんなことありえないのに

 

((娘たちを頼みます))

 

 死してなお自らの子を想い涙をながしながら死に絶える姿、脳裏にうかぶは「ごめんね」といったたった1人だった家族の声

 

(………………ああ、これは)

「オレのハハオヤとおナ辞出は、亡いカ」

 

 でたのは、かろうじて言葉になっているであろうふるえた声。そしてその一声で臣下一同は黙るしかできなかった。

 

(如何して? アノ子たちが傷つかナイといけないノ?)

(ふう、立派な鎧だことで、ソウトウの勝ち組という奴なのでしょう)

 脳に響くのは彼らの声、そう呼べるかも怪しい雑音であったが、なんとか聞き取る。そうか

(あなた方、でしたか)

 少しばかし心に余裕ができる。かつての世界で、教育者として多くの子供を守り、導いてきた《優しき鉄拳教師》、親の遺体すらかえってこなかっと社会のあり方を、格差を、下位者(負け組)をふみつける上位者(勝ち組)を、世界のすべてを憎んでいた。《最も悪であり続けることに執着した者》。彼女と彼の声、そしてなにより。

 

(あなたでしたら迷いなくとんでいくんでしょうね)

 かつて何度もPKされ続け、もうこのゲームをやめようと思っていた時に出会った騎士

 

 『誰かが困っていたら助けるのは当たり前』

と、初対面の自分に言ってみせた相手。そして、なによりもと彼は考える。

(俺の望む楽園は)

 そうだ。彼らのように理不尽なめにあっている人々に笑っていてほしい。そうあの世界と違い、人も世界もすべてが幸福に祝福されるべきために決心した計画。その上でナザリックの者たちの心からの笑顔をみれば、その時こそ、自分たちを許せるかもしれない。

 

「セバス、それに皆も取り乱してすまなかった。これより行動をおこす。私は先にこの村にいくので、アルベドに完全武装、真なる無(ギンヌンガガブ)は外した状態のうえ、来るよう伝えてくれ。それと念のため予備部隊をつくってくれ、そうだな、グリムを中心とした隠密部隊とルプスレギナを中心とした透明化部隊、あとはシャルティア、コキュートスを中心として正面戦闘を想定した部隊3つ頼む」

 

「御身一人ではいかす訳にいきんせん!私に護衛を!!」

「僭越ナガラ申シ上ゲマス、アインズ様。私モ護衛二加エテイタダキタク」

 もはや、条件反射ともいうべき速度で主に跪く吸血鬼に蟲の王。直前に言われた指示を無視したものだが、アインズは何も言うつもりはない。彼らが、自身を心配しているのは明らかであるからだ。だからこそ

 

「何が起こるかわからない以上、まずは私と防御に長けたアルベドがいくのが一番の最善手、いや私の望みだな。こうすればお前たちが傷つく心配がほとんどないからな」

 そうアインズは何よりも臣下(NPC)たちが大事なのである。これはほかの何をおいても優先しなくてはならない。

「しかしそれではアインズ様が!」

「御身二何カアレバト思ウト私ハ」

 それでも引き下がらない。彼らも本質はアインズと同じだ。大切な主に危ないことをしてほしくないのである。できることなら主には玉座に座ったまま自分たちに命令をくれるだけでいい。主がこれ以上何かに関わって結果的に傷つくのをみたくないし、そうなってほしくない。そんな彼らの声をアインズだって気づいていないわけではない。であるならば

「私のワガママを聞いてはくれないか?」

 結局は説得などできるはずはなく、そう言うしかなかった。

 

「ぐぅ、畏まりまでありんす」

「承知イタシマシタ」

 納得はしなくても理解はしてくれたらしい。そんな彼らに感謝をしながらも現状を確認するため鏡に視線を向けて、アインズが次に見たものは、

 

 

(!!!!! 何なんだこの感情は!!!!????)

 

 騎士が少女の背中を何度も剣で叩きつける光景。それを見た時に彼の胸を襲ったのは悲しみか、怒りか、それとも虚無かアインズ自身にもよくわからない。それでも、

 

(殺すだけでは飽き足りないということか)

 

 少女の命がかかっているというのにどこか冷静な自分がいることも事実で、おそらくこれはアンデッドとしての精神性ゆえか。そのこと自体どういうことか今は考えている暇はない。あの姉妹は助けたい、でも別に間に合わなくても仕方ないじゃないか、まるで現在進行形で言い争っているように彼の中で感情と思惑が交差する。ここに至って自分におこった異変の一端を垣間見たようなきがする。

 

(本当に最低だな、俺)

 支配者として足りなすぎる己の才、かといって静かに暮らせばいいのに世界と仲間たちの宝を巻き込む形で始めた無謀すぎる計画。

 さっきだって本当は震えているくせに臣下たちの言葉を受け入れず自ら先頭にたとうとして、そのくせこの土壇場で失敗しても仕方ないと自分で自分に言い訳をして、異変前から自分はこうだったろうかとどこまでも中途半端な自分に嫌気がさしてくる。

 最早、人とも化け物とも区別がつかず最高の支配者になることも、最低の平民として己を正しく認識することもできないどこまでも愚かだと一瞬目の前が暗くなりかけるが、

 

『わたしはあなた様を愛しております!』

 

 聞こえるのは、そんなどうしようもない自分を好きだと言ってくれた守護者統括の姿。あの時のことにその時の彼女の笑顔が彼の中で津波を思わせるよう揺れ続けていた意識を、目的を、一本の芯に固まっていく。

(せめて、あいつには俺がやったことを誇れるようなことをしなくてはな)

 

 彼にとっては悠久に等しき、世界にとっては5秒ほどの時の中、アインズは行動を起こす。

 

 

 

 発動するは<転移門>(ゲート)。成功率10割、移動距離の制限特になしというまさに神に等しき力、ゲーム内のシステムといった理不尽すぎる力の一端(魔法の力)をもちいて、改めて未知の世界へととびだす。

 

 

 

  

  

 

 

 その行為はグリスにとって先ほどうけた屈辱をはらす為に必要なことであった。許せるはずがない。自分は誇り高き、スレイン法国特殊部隊の一員であり、いわばエリートなのだ。

 今回の作戦だって、あの愚かな男を討ち取るための作戦だと立ち聞きであるものの知っていた。それだって、先を見通せば、人類すべてを守るためだ。

 その為には、あのクソッタレな国とそこに住まう人の姿をした愚物どもをすべて殺さねばならないし、それが自分の使命だ。悪いのは決して自分ではない。こんな腐りきった国に依存するのではなく、早々に法国に移住をすればよかったのだ。その決して難しくない努力を怠った時点でこいつらも大罪人だ。

 せめて、楽に一刺しで終わらせるつもりだったのに、先ほどのこの娘の行為はなんだ?まさか、まだ生きて逃げれると錯覚しているのか?だからこれは絶対に私怨ではない。この愚かすぎる娘の死後の罪がすこしでも減るように手伝ってやっているのだ。

 

 そうなかば、否、完全に身勝手すぎる自己完結を行ったグリスは再び剣を振り上げる。もうこの娘は死ぬだろう。その下にいる妹らしきほうはすぐにすましてやると、その行為に対する罪悪感はなく、むしろ義務感さえ抱いて最後の一撃を入れようとして、

 

 目の前の景色が変わった。空間がゆがんだような気がすると円形状に広がる。まるで洞窟の入り口みたいだと思った瞬間、

 

 死そのものがやってきた。

 

 現れたのはおそらく死者の大魔法使い(エルダーリッチ)であろう。それをすぐに察することができるくらいには、教養をうけてきた彼である。それよりもまずいのは、自分と今後ろにいる2人では対処は困難。すぐに後退しなければ、姉妹の命をこの世から解き放つという義務を達成できないは神に申し訳がたたないが、今は逃げるのが先決だ。一歩さがろうとして、急に意識が遠くなる。まるで突然電池が切れたように彼はその場に倒れる。

 

(??????????!!!!!!!!)

 

 最後に<心臓掌握>(グラスプ・ハート)と、聞こえ………………気が………………した。

 

 

 

 罰があたったかもしれない。それがロッドのグリスの最期を見届けた感想。かれもまたエンリ達をおって、ここまできて彼の行為に内心辟易しながらも傍観することにした。だって仕方ない。この男は人のいうことをあまり聞かないのだから、特に今みたいに頭に血が上っていると特に。無理に止めようとして不要なトラブルを起こすのはよくない。仕方ないじゃないか、俺にだって、故郷で帰りをまつ妹たちがいるのだ。それも何の偶然か2人、いつも笑顔で父直伝の料理をテーブルに並べ、母譲りの暖かな視線をむけてくれる上の妹。まだ幼さが抜けきらず、夜の用足しも一人で行けずにその都度泣きついてくる下の妹。ちょうど目の前でグリスが殺さんとしている姉妹と近い年だ。生活していくには金がいる。今、あの家がやれているのは、自分がこの部隊にいるからだ。ロッドはスレイン法国が立派な国とは思わない。人類守護なんてかかげ、個人個人のことには目も向けない。これは光栄なことなのだと、どこかへと連れていかれた者たちもたくさん見てきている。だからこそ近々あの国を出るつもりだ。その為には資金がいる。だからこそ、今回の任務に参加することも決めた。これで最後だ。これが終わったら妹たちをつれて、帝国に行くつもりであった。剣の腕はそこそこあるし、向こうで兵士として働くつもりだ。途中、エ・ランテルあたりによって、観光をするのもいいかもしれない。そう考え目の前のことから目をそらしていれば、これだ。

 

「まさか、これで死ぬとはな。次はあれを試してみるか?」

 

 グリスをやったのはローブをまとったアンデッドであった。その存在は自分が殺した相手には全く興味も示さずに1人何かを考えているようだ。いや、それは自分にもいえることかとこんな時だというのに、内心苦笑してしまう。ただわかるのは絶対に勝てないこと、それでも家族のため、諦めるという選択肢はない。足にでも抱きついてすこしでも時間を稼ぐ。それしかあるまい。

 

「ミラン!」

 残った仲間に指示をだそうとして、青白い閃光が一瞬で自分の身を貫いた。妹たちの顔を思い出す間もなかった。

 

 ミランはただただ恐怖していた。突然現れた化け物、何もできずに殺された先輩、聞いていない。それが彼の本音だ。今回の仕事は村を襲い、適当に人を殺していくというだけの簡単な仕事だったはずだ。もし運がよければ、女を抱く機会もあるかもと隊長が言っていて、それで参加を決めたのだ。先ほど目の前に飛び込んできて、思わず斬ってしまったこの姉妹の母親らしき女性などは、その体つきからも自分好みの抱き心地に違いなく軽く後悔していた。なんとかとらえて、1時間、いや、せめて30分ほど腰を振ってから殺せばよかったと。頼めば、あの隊長は許可してくれるの知っているから。今までだって、似たようなことがあり、その都度自分も混ざり楽しんだもの。とくに()()()女性の口内に無理やり舌や自分のモノをねじ込み。なめまわしたり、そのまま溜まったものをだすのはとても快楽を感じられ、最大限の幸福を得られる。頑張れば、複数の女性やそれこそ少女だって、妻にできる可能性がある国、それが法国だ。だからこそ、そこそこ真面目に仕事に取組み、時々楽しんで、己なりの人生を満喫するつもりだったのだ。だというのに、

 彼は走り出す。一目散に走りだす。真面目臭いもう一人の先輩は何か言おうとしていたが、知ったことか!ここで死ぬわけにはいかない。まだ抱き足りないし、遊び足りない。まだまだやりたいこと、いや抱きたい女性はたくさんいる。特にたまたま見かける機会があった、自分より上の部隊で刺突武器を振り回していたあの女性などは、絶対に床に引きずり込むつもりでいる。殺されるのがオチだとその時はいわれたが方法は皆無ではないはず。間違いなくこの場の誰よりも自分に正直であった。色情魔を次の瞬間、竜の姿をした雷が襲う。ロッドを襲った閃光がそのまま流れてきたのだ。

 

 

 たとえ、末端の兵士でも思うことは様々。しかし、アインズにはどうでもいい話であった。

 

 

(第5位階魔法である<龍   雷>(ドラゴン・ライトニング)で2人貫いた、か。もしかしたら、いやまだ油断はできない)

 

 こいつらが特別弱い存在であるかもしれない。ほかの騎士たちはレベル100かもしれないのだ。まだ油断はできない。

 

(さて、それでは)

 

 振り向けば自分の存在に気付いていないように姉にすがりつき、泣き続ける妹の姿。声にならない涙声をあげ、一生分の水分をすべて流すつもりなのかといいたくなるくらいの体の様々な液体でぐちゃぐちゃになった顔。

 

(頼むぞ、生きていてくれよ)

 

 それは、生を忌避とするアンデッドであるアインズでも必死にその命が尽きぬことを願う。人としての情だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




  
 当初1章は3話構成のはずが、4話以上になることが確定してしまいました。何故でしょう?…………頑張るしかないですよね。お付き合いお願いします。
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