最新話どうぞ。
ヘッケランは駆ける。全身は痛むし、左腕に関しては感覚が既にないようなものであった。ポーションを浴びたとは言え簡単に治る物ではないらしく、体全体が訴えてきていて脳も悲鳴を上げている。早く楽になってしまいたいと、それでも彼は止まらない。己がなすべく事をなす為に一歩踏み込む。
「ぐ!」
「ヘッケラン!」
踏み出した右足、腓骨の辺りに衝撃が走り、思わず声を上げてしまう。痛みを堪え、そして力を入れる為に奥歯を食いしばる。後ろを走る彼女に自身の安全を示したくはあったが、その余裕もない。せめて、走力を上げようと上体を、体の重心を前に倒す。地面が近づいて、そうなる前に体が足を前に出す。いつもであれば、それだって無意識に行える動作であるはずなのに、意識して動かさなくてはならなかった。
(くそ、限界が近いか)
背中に受けた攻撃、転倒時に全身を打った衝撃、更に体を抉った浮遊板。それらが積み重なってヘッケランの体力を奪ってゆく。しかしと彼は自身を奮起させる。相手だって限界が来ているはずなのだと己に言い聞かせて走る足に力を入れる。
(そうだ。俺だけじゃない)
追撃戦の果てに転落したのは相手だって同じであるはずであるし、負ったダメージであれば向こうの方が大きいはずであるのだ。何よりこちらはボロボロと言え、まだ何とか走れる状態であるが相手は片腕片足が潰れていて、動くにしたって例のアイテムを使用した無理矢理めいたものであったから。
しかし彼の心に余裕は全くなかった。非常に嫌な事実にも気付いたからであった。
(今の攻撃……やっぱり)
音はしなかった。しかしこれまでの攻撃、最初に自分が背中に受けたもの等はその予兆があったのだ。何かが何かにぶつかる音と。それが全くしなくなった。否、相手がそうしたのであろう。
(嫌なもんだぜ)
つまり、この無音を相手は自由にできるらしい。その事実が何よりも嫌であった。相手が攻撃の手段を選べるという事が厄介であるのだ。
例えば、それを囮に使う事だって出来るのであるから。
(やめだ、やめ。不確定な事を考えても仕方がないってな)
非生産な事が頭を占めて行動に支障をきたすとなれば、それこそ愚か者である。と、彼は突撃を続行する。残り7歩分、集中して2歩進んだ所で耳に音が届く。背中を撃たれた時に聞こえたものと同じ音、始めは右側、次いで左側と彼の鼓膜を叩いて来て同時にヘッケランを脱力させる。
(たく、やめてくれよ)
つい先程までその事で頭を悩ませて、そして考えるのを止めた矢先にこれであるのだから。音にもある程度意識を向ける。此処までの戦闘である程度カラクリがどういったものであるか大体の推測はついている。この音は相手の男が放った弾丸が何かにぶつかっている音、それは間違いない。恐らくそれで弾道を変えているのであるから。
先に背中を撃った攻撃もそうであるはずだ。あの時男は自分の前方を飛行していたのだから。あの状態で己の背後から弾を打ち込むとなれば、方法はそれしかないはずであるから。
(くそ、本当に嫌になるな)
これは気にしても仕方ない。いくら警戒しようと躱せる確率の方が低い。ならば思考の片隅に追いやって、一刻も早く男に接近する事を優先するべきである。だと、言うのに……やはり身体機能の本能と言うべきか、聞こえてくる音に体が警戒してしまい、僅かであるが動きが鈍ってしまう。
響いてくる音は右側から聞こえたのを最後に途切れてしまい、そして次の瞬間には左足、その太ももの辺りに強烈な痛みが広がる。
(ぐぅううう!!)
「
彼女の声さえ小さく、それが己が限界を知らせているようであった。しかし、ここで倒れる訳にはいかない。この男は必ずここで仕留めなくてはならない。自分が倒れれば次に狙われるのは後ろを走る彼女だ。そして、彼女に穴を空けられるのは個人的にも許容出来ない。
(だけど、よ)
今の攻撃で明らかになった事だってある。厄介な事に消音に関しては本当に男が自由自在に出来るようであった。危惧していた事が現実だった訳であり、こちらが劣勢である事を再認識させられるようであった。更に悪い事に遂に足の力が切れたらしく、今度こそ前へと倒れる。
(く、っそ、が)
いくら力を入れようとしても足は言う事をきかず、地面が迫る。後ろから彼女の声が聞こえるが、それだってかろうじて女性の声と分かるだけであり、何を言っているかは聞き取れない。
彼は必死に頭を回して、考える。この状況で出来る事を少しでも。相手との距離は自らの歩幅4歩分と言った所。そして、次に見るは己が状況。左腕は使えないものと見ておいた方が良い、相手は右腕が使い物になっていないのでその部分で言えば、五分と言える。そして、足に関しては両方ともやられてしまっている。骨は折れていないはずであるが、治療をしないとまともに動けそうにはない。
(使えるのは、右腕だけか)
握られているのは、一振りのサーベル。彼は本来2刀流であるが、先の攻防で相手に一刀投げている為に手持ちはこの1本だけであった。武器の予備は用意していない。
これに関しては冒険者、ワーカー問わず難しい問題であった。武器を使う職種、魔法詠唱者であれば、杖等が該当すると思うが、戦闘中に紛失あるいは破損するなんて事になれば、依頼どころか命の危機である。故に手入れはかかさないのであるし、簡単に武器を手放すなんて選択はしない。
無論、対策の一つとして武器の予備を用意するというのもあるが、それは無謀でありそして愚か者の発想であるとの意見もあり、金銭にややうるさいフォーサイトもそれに倣っている。これにはメリットよりもデメリットの方が大きいのだ。
1つ、武器のかさばり。いくら鍛えていたとしても、各々が使う武器もそれなりに重量があり、十分な荷物となってしまう。例えば、ヘッケラン・ターマイトであれば、サーベルを4本常に持ち歩くという事になるが、単純に体にかかる負担が2倍になってしまう。それに、彼が得意とするのは平地における殴り合いもとい斬りあいよりは、剣士としての足さばきに跳躍等を加えた2次元よりも3次元的な戦いであり、それを可能にする為に自らの重量を軽くする必要があった為に彼は余計な荷物を持たない事にしている。
2つ目としてあるのは、これまた金銭的な事であった。予備を用意しても不要な重りにしかならないというのはあるが、更にそれを現地あるいはそれ以外の所で盗まれるといった心配もある。資金面であれば、十分過ぎるモモンに貴族にして最高位の冒険者であるラキュース等を見ていると忘れそうになるが、冒険者にワーカーと言うのは基本的に資金不足であり、慢性的な金欠であり、日々節制に努めざるを得ない。勿論、全ての者に該当する訳ではない。その日暮らしである事に開き直り、稼いだ分をその晩の飲みに費やす者だっている。フォーサイトは、ヘッケランはそうではない。
彼らは彼らで大金を稼ぐ理由があり、日々の出費に神経をすり減らしている。
そして、武器と言うのも高級品である事に変わりはない。もっとも、全くその手に関わる仕事をしない者にとってはまるで実感は湧かないものである。
よって、彼が使える武器というのは元から装備している2振りのサーベルだけである。その片方がないと言うのは戦士としては失格である。しかしそれだって仕方がないと言える。貴重な攻撃手段であるサーベルを投擲したのはその時はそれが最善だと思っていた訳であり、結果的に戦況をこの状況に持ち込む事が出来た。少なくともヘッケラン自身はそう考えている。それに手を離れたとは言え、別にどこかに飛んでいった訳ではない。
(やるしかねえか)
彼は出来る事を何とか見つけたように思う。しかし、それは賭けであるしどっちにしても最後の機会である。だが躊躇っている猶予もなければ、他にとれる選択肢もない。声すら出せそうにないが、どうにか振り絞る。
「〈斬撃〉!」
彼は迫る大地に向けて得物を振るう。その一撃は地面を抉り、手から腕へと、腕から全身へとその衝撃を伝える。それは、満身創痍であった彼には負担が大きく思わず手から武器が離れてしまう。
(何を……いや、そういう事ですか)
その様子を見せられていた男は彼の行動の意図を即座に理解する。両足ともに使えなくなってしまい、それでも自分へと歩を進める為に取った策と言った所だろう。地面を叩く事で、僅かであるが飛距離を延ばす。それによって、自身へとの距離を詰めてとどめを刺す算段であろう。
(ですけど)
彼の目論見は外れたと見て良いはずである。その手から武器が消えており、それはあらぬ方向へと飛んで行ってしまっているから。勿論回収する時間を与えるはずがない。彼の後ろから続いている女性にしたって、問題はない。先に彼を完全に撃ち殺して、次に彼女を射殺する。左腕の装備の準備も出来ている。ここまで接近を許してしまった事もあり、余り無駄弾を撃つ余裕もない。装填にかかる時間と合わせて見れば、後1発が良い所だろう。
(今度こそ死んでもらいます)
いい加減、こちらも体が辛い。一刻も早くこの場を治めて、次の行動に移らないとならない。それに、これはまだ過程であるのだから。
男はヘッケランが無様に倒れた所に弾丸を打ち込むつもりで武器を構え、必要な準備を行う。しかし、彼の行動は男の予測を超える。
ヘッケランにとっては、別にアクシデントという訳ではなかった。彼にとっては、右手に武器があろうがなかろうが、別に関係はない。彼は前に倒れながらも、右手をある所へと向けて必死に伸ばす。
(とどけ……届いてくれ)
相手の男は自分の意図に気付いていないらしく、それがありがたい。自分が目地しているものまでの距離は後少しであるのだ。彼の執念とも言えるその意思が空に届いたのか、彼の手に臨んだ感触が広がる。
「そう、言う事でしたか」
「へ、俺は2刀流なんでな」
互いの顔が見える距離、ヘッケランが手にしたのは先に男の膝裏へと命中したもう一振りのサーベルであった。此処までの激闘の影響か、男の右足は完全に破壊されておりどういう理屈かは分からないが、男の右足は膝を含めた下が180度回っており、丁度サーベルのグリップが空を向いていたのである。男がその可能性に至らなかったのは、自身の装備を制御するのに、思考の大半を奪われていたからだとも言える。
男がヘッケランの行動驚いた一瞬、その時間を彼は最大限に生かす。握った右腕を一気に、残った体力を全て出す気合で振り上げる。
「〈斬撃〉!」
吹き飛ぶは、右足に大量の血が噴水を連想させるように噴き出す。それが男の体力を更に奪い、彼の意識を朦朧とさせるが、それで諦めるという選択肢等男にはない。男もまた直ぐに己が武器であるスリングショットを放とうとした所で、腕に矢が刺さる。
「させないわよ、あんたの好きには」
勿論、それが出来るのは彼女しかいない。イミーナだって此処まで唯黙って走ってきた訳ではない。そもそも、彼女が扱う弓という武器は一般的に広く知られている物と比べれば、扱いが繊細であり難しいのである。走りながらなんて、言うのは余り良くない。かと言って、不用意に放つことも出来なかった。次から次へと信じられない事をやってくる者が相手であったのであるし、恐怖だとかやけくそで矢を放つ事はやはり出来なかった。よって、彼女も最適な位置まで着くまでなんとか耐えていた訳である。
結果論になってしまうが、それも手伝い男は彼女を後回しにしていたのであるから、功を奏したとも言えよう。
そして、彼女は最適な位置を取ったと見て、容赦なく男へと攻撃を加える。
(仕方ないですね)
男は痛む左腕を酷使して、自らのペストマスクを乱暴に引きはがす。
(たく、今度は何をするつもりだ?)
本当にこの相手は次から次へと驚く事をしてくれる。ヘッケランは眼球を動かして周囲の様子を確認する。相変わらず霧は深く、視界は十分とは言えない。それでも得られる情報はある。浮遊版は男の後方に転がっている。それだって気をそらす訳にはいかない。あれが突然、飛んできてまたも体を切り裂かれてしまってはたまらない。本当に人生がそこで終わってしまうかもしれない。
そんなヘッケランの警戒と共に、男の口元が露わになる。出て来たのは特に変わりのない人の顔であった。男がそれをつけていたのは、別にその顔に酷い怪我を負っているからでも、体内器官に何か異常をきたしていたからでもなかったようであり、男の口に咥えられていたのは、一本の筒、それもストロー程しかない小さなものであり、それは目前に迫っているヘッケランへと向けられている。
(何だ? あれは?)
見た事がないものだった為に彼の思考も一瞬止まりかけるがそれよりも先に男の喉に矢が突き刺さり、男の口から筒が落ちる。
男の喉元からは血が流れ、苦し気な息遣いが周囲へと響き、それを確認した彼女は握りこぶしを作り力の限り叫ぶ。
「やっちゃいな、ヘッケラン‼」
男の口にあったものの正体は分からないが、それでもそれが呼吸を利用したものであることを直感で見抜いた彼女がとったのは、男の喉を射抜く事であった。鬼畜に思えるが、殺し合いの場ではそんな事は些細な事である。
そして、彼女の激励を受けた彼も最後の一撃を男へと放つ。
「〈斬撃〉!」
その一撃は男の胸部を袈裟に切り裂き、男の肺へと達した。今度こそ男の最後であった。
(まさか……私が……)
初めに脱落するとは思わなかったと男は冷えてゆく体に遠のく思考の中、考えていた。頭に広がる無数の景色はどれも見覚えがあるものであり、直に聞き覚えもある声も聞こえてくる。
――神様はしっかりと見てくれている。
(これですか、最後に見るのが)
その景色では、今よりもずっと幼い自分が老人に頭を撫でられていた。
――真面目に生きていれば、いつか幸せは来てくれるんだよ。
(いませんよ。神だなんて)
記憶に残る言葉を否定しながら、男は覚める事のない眠りへと落ちてゆく。
男の絶命を確認するまでもなかった。まるで、図ったように霧が晴れていくのであるから。
「本当にこいつが操作していたんだな」
「そうね、それよりも大丈夫なの」
彼女の瞳には既に男は映っていない。それよりも気にかける相手がいるのであるから。その事が嬉しくて、彼女が愛おしくて、ヘッケランは少し笑う。それから、治療を行い、念の為という事で男の所持品等を調べる事にするのであった。
「これ、か。霧を発生させていたのは」
「ええ、それに本当に良い腕の持ち主だったのね」
狩人の家系であり、帝国でも上位に入る弓の腕の持ち主である彼女がそう言うのであれば、そう言う事なのであろう。周囲に転がっていたのは金属製の球体のようなものであり、それが見る限りでも6つ程転がっていたのであるから。
そして、男が使用していた弾丸の正体にも調べがついた。男が使用していた弾丸は一般的なものに比べて弾性があったのだ。つまり、良く跳ねるものであり、それと周囲に広がる球体と、それで全ての答えが出るというものであった。
曲がる弾道の正体は跳弾であった。男はこの球体を自由に動かせていたらしく、放った弾丸は空に浮いていたこれらにぶつかり、自分達を狙っていたらしい。
言葉にしてみれば、簡単に思えるが実際はかなり高度な技術が必要であると、これまで培ってきた経験で言える。
「まあ、何とかなったな」
「ええ、と、言っても」
ひとまずは安心だと言うヘッケランにイミーナは曇った表情で答える。彼だって分かっている。敵はこいつだけではないと、間違いなく仲間がいるはずなのでありもっと言えば今回の件、関係者しか知らない国王一行の旅路に現れたという事はこいつらに情報を流した奴が、王国の裏切り者がいるはずなのであるから。しかし、話を聞こうにも既に男はこと切れており、所持品を見ても、何の検討もつきそうにないのであるから。
「ああ、仕方ねえ、運べるものを持てるだけ持って、行くとするか」
「それしかないわね」
別に全く情報が手に入らなかった訳でもなかった。男の体を調べた際に少なくとも今回攻撃を仕掛けて来ている者達の正体は分かったのであるから。
「レエブン候、あの人すげえな」
「ええ、全くね」
こいつらの事は依頼主である貴族から教えられていた。帝国ではその情報は噂でも聞かなかったから。
「王国って、結構訳ありらしいな」
「そうね、アルシェの為とは言え、厄介な事になって来たわね」
今回の依頼を受ける事にしたのは、依頼料が破格であったから。彼らにとってはその1点が何よりも重要であり、話に出た少女の事情を考えれば最も賢い選択であったはずだ。
「そうだな……」
ワーカーとしての依頼として護衛は過去に何度か行っている。今回のように長距離移動の警護であったり、または物資運搬中の傭兵としてだ。その道中戦う相手というのはモンスターであったり盗賊だったりであり、並の相手であれば、特に問題はなかった。自分達のチームには第3位階を使用できる魔法詠唱者がいるのであるから。
それだけで、十分なアドバンテージとも言える。だからこそ、今回の依頼だって特に難しい事は無くむしろ美味しい仕事だと思って受けた訳である。更に今朝方、依頼主側の失敗で報酬が更に跳ね上がった。と、言ってもこれは追加の仕事を引き受けた彼女の分にするつもりであるのは、話し合うまでもなかった。当の本人には秘密であるが。
しかし、実際に仕事を引き受けてみれば、半日もしない内に襲撃にあってしまい。戦ってみれば、そこらの盗賊、傭兵崩れよりも質が悪い相手であったから。かと言って……
「まさか、やめるなんて言わないわよね?」
咎めるような彼女の言葉、その視線もまた憤りを含んだものであった。それに対して彼は笑って答える。陽気に呑気と言った様子で、その表情に先ほどまでの戦闘で受けた傷を全く気にならないようであった。
「それこそ、まさかだな。今回をこなせば、馬鹿にならない金が入る。向こう一カ月は遊んでいられるだけのな」
「それでも、あんたは依頼を受けそうね」
「当たり前だろ」
彼にとっては、お金とはいくらあっても足りないもの。故に受けられるだけの依頼を受け続けて蓄えを稼いでいるのだ。別に将来に対して不安があるからだとか、巨万の富が欲しいとかではない。単に金が沢山欲しいだけなのだ。このヘッケランという男は。
(本当に変な奴よね)
イミーナはそう思ってしまう。彼女としては、今回の依頼は最後まで参加するつもりである。と、いってもこれまでの依頼だって途中で止めた事などないけど。それも、この男の方針故であったが為に。
「受けた仕事は最後までこなせってな」
「あんたの親父さんの言葉だっけ?」
「そうそう」
社会的な立場で言えば、完全に終わっているであろうドロップアウト組とも言えるワーカーでは変わった考えに思えるが、別に変なことでもないしっかりと仕事をこなすのは信頼に繋がるのであるから。そうやった地道な働きもあり、彼らフォーサイトは帝国でも上位に入るワーカーチームとなった訳であり、今回の依頼の話もあった訳だ。
彼らが知る事などないし、レエブン候もまた彼らに言うつもりはなかったが、実の所彼が最終的に絞り込んでいたのは、彼らを含めた4つのワーカーチームであった。では、何が決め手になったのであろうか? 一番は女性メンバーの存在であった。先に頼んだ通り、姫君の世話を頼める人選という事であった。そうでなくとも、男だけのチームに頼むと言うのは、近衛隊との折り合いも考えればよろしくなかった。
要はプライドの話に直結する。近衛隊としては、レエブン候自身が独自に護衛を雇うのは心情的によろしくなかった。彼らは彼らで自身の剣の腕に自信を持っていた訳であり、他にも一緒に同行者がいるとなれば、やはり己がプライドが許さない。
ならば、とレエブン候が取ったのは少しでも彼らの不満を抑える事であった。その為に、比較的美人の部類に入る者達が所属するチームが選ばれたのである。無論、実力だって買っての事であるけれど。
完全に余談となるが、この時の4つのチームの中に王国戦士長と並ぶ腕の持ち主もいたが、性格的に問題があるという事で候補から外されることとなったのである。
「それに、イミーナだって止めるつもりはないだろ?」
「当然よ。意味が分からないわね」
彼女は心底理解が出来ないと言いたげに不満を漏らす。こいつらの発想があり得ないと、どこをどうしたら、姫を殺す事が国を崩壊させる事に繋がるのであると。それを聞かされた彼は、呆れながらも先に貴族から受けた説明に自分なりの推測を混ぜて話す。
「あれだろ、レエブン候も言っていたじゃねえか、この国の国民は貴族に対して不満を抱いているって」
そして、あの姫君はそんな立場が弱い市民の為に政策を行っており、その容姿も相まって人気があると。そんな人物が貴族たちの不手際で死んだとなれば、それだけで国民たちの不満は数百倍にも膨らむであろうと、それを聞いた彼女は納得したように首を縦に振りながらも、文句を言う。
「ま、確かに綺麗ではあるけど、アルシェの方が可愛いわよ」
「お前な、どこで張り合っているんだよ」
それは、彼女にとっては譲れない所であった。確かに黄金と呼ばれるだけの美貌を持っているのは分かるし、同等の精神を有しているというのも納得がいく。しかし、それであればあの少女だって負けてはいないのだ。それに彼女の事情を知れば、彼女がアルシェという少女がどれほど健気であるかは誰でも分かるというものだと思っている。
「話がそれたわね、とにかく頑張っている子を見捨てるなんてあたしには出来ない」
「ああ、お前だったらそう言うと思っていたさ」
それから2人は荷物として持っていけそうなもの。この先調べる機会があるかもしれないもの、男が使用していたマジックアイテム等を回収して騎獣へと向かうのであった。
2人が乗ってきたスレイプニール達は彼らの空気に当てられたらしく、身を寄せ合い互いの顔を愛おし気になめあっていた。どうやら雌雄であったらしい。
「あれからも色々な事があったわね、墳墓もこの村も」
雑草が生えに生えた大地であったが、優秀なメイドの働きで何の違和感もなく設置されたテーブル。囲むように座っているのは、3人であり純白のドレスを纏った悪魔の女性。やや黄色い髪を縛って片方に流している少女に彼女の妹であるメイドと似た色合いの髪を持つ少女だ。その周りを、特に姉妹を囲むように更に2人の人物が直立不動で構えている。否、この表現は正しくない。仮面を付けた女性はその通りであるが、もう一人の人物。この場を整えた彼女は前に手を重ねていたのであるから、その姿は誰が見ても、一流のメイドそのものである。
先の発言は目前に座るアルベドのものであり、それにエンリは答える。
「はい、驚きの連続でしたよ。急に亜人種の方が来られますし」
「毎度毎度、突然で申し訳ないわね。貴方には苦労を掛けてばかりだわ」
そう言って、彼女は頭を下げようとしてエンリは慌ててそれを両手で制する。
「止めてください! アルベド様が私に頭を下げる必要は微塵もないのですから」
「そう?」
「そうです」
ちなみにエンリの妹は会話を全く聞いていないが、別にその事を2人とも咎めるつもりはない。先程までやっていた仕事は大変であった訳であるし、疲れた体に、脳みそにメイドが用意してくれた御菓子はとてもきくのである。一心不乱に焼き菓子等を頬張っては、僅かな粉をこぼしてしまい。その度に控えているメイドが口元をぬぐったり、汚れが落ちた部分のゴミを掃除する。その手際も見事なものであり、会話を行っている2人が気を取られるなんて事もまるでないのだから。
「私は、本来であれば、あそこで死んでいたのです」
エンリは語る。アルベドが自分達に対する態度で謝ってくるのはこれで2回目であるが、始めはそこまで深い話はしていない。自分達だって気にはしていないのであったから。しかし、今回は違った。彼女自身戸惑ってはいた。別に話そうと思っていた訳でも、かといって胸にしまっておくべきとも思っていなかったと言うのに。
(何でだろう?)
少女自身理解はしていなかった。だからと言って、始めた話は止まりそうにない。少女の話にメイドに仮面の戦士も聞き入る。彼女達も彼女達で気になるのだ。重要な話である事に変わりはないのであるから。
「それを助けて頂いた。それだけでもとてつもない恩義であるのです。なのに私ときたら……」
「エンリ、その事であれば気にする必要は無いわ」
アルベドは今にも泣きだしそうな少女を何とか宥め、そしてこれだけ空気が重くなってしまった事に気まずさを覚え、これだけの話をしているというのに。全く聞こえていない様子のネムを微笑ましく思い、そして彼女の気を引く程の菓子を用意してくれたルプスレギナに感謝の念を抱く。
彼女としては、少女がそこまで思う必要はないと思っている。これは、主の事になるので勝手に言うわけにはいかないのであるが、何もアインズだって、全てが全て善意で動いている訳ではない。この世界における自分達の目的の為の打算だっていくらか含まれているし、あの時かの方が動いたのは、何より「自分がそうしたい」からであったから。
「余り暗い話ばかりしても仕方ないわね」これ以上空気が重くなる前にアルベドは無理やり話を変えていくことにした。「そうね、面白い者達だって来ているでしょ。例えば、あのドライアードとか」
「ああ、ピ二スンさんですか」
そう言って苦笑するエンリを見て、アルベドは心底安堵した。その者達は少女の事を「姫様」と呼んでおり、彼女を困惑させているから。この事に関しては墳墓所属の者達は当然だと思っている。どころか、嬉しく思っている部分もあるのであるから。
「そうですね。ピニスンさん達が作る果物はとても美味しいですし……アルベド様も」
「ええ、頂いた事はあるけど、とても甘いわよね。あれ」
「はい! そうですよね!」
先程までの曇った感情は何処かへ行ってしまったらしく、ドライアード産のフルーツを語る彼女の顔は生き生きとそれこそ年頃の娘がする顔であったから……?
(あら? 少しおかしいわよね。まあ、一般論だし、いわゆる世間のお話ですものね)
彼女が墳墓で学んで人間の特徴としてはこの年頃の娘というのは多感な時期であり、彼女達が最も好むのは色恋の話題であり気になる人物を、自らの運命の相手を探し求めているものであると。
(まあ、一つ分かったわ。この娘、言うなれば「花より団子」といった所ね)
「それから、ゼンベルと言ったわね。あの雄」
「あ、ゼンベルさんですか」
2人の会話でその人物の名が出た時、お菓子を食べるのに夢中であったネムの体が一度雷にうたれたように震え、ルプスレギナが声をかけ、ヤルダバオトは武器に手をかける。
「ネム様、いかがしましたか?」
「だ、大丈夫だよ! 何でもないよ」
ネムは自らがおかしな行動をとってしまった為に従者達に余計な心配をかけてしまったと手を振って問題ないと訴える。メイドは主君である幼い少女の言葉にひとまずは己が心を納得させるが、それでもこの機会に統括に訴えておきたいと口を開く。
「ご歓談中の所、失礼致しますアルベド様」
「何かしらルプスレギナ? 大切な事なのでしょうね」
「勿論でございます。そのゼンベルと言うもの振る舞いはやや不適切かと、ネム様を始め、村のお子様方も怯えておりますし、彼は何かと問題を起こしがちであります。人質という話であれば、もっと適任な者がいるかと愚考する次第であります」
「成程、貴方の言いたい事は良く分かったわ。それでも、彼には関してはこの村に残ってもらうつもりよ」
「何故でしょうか? いくらアルベド様と言えど、納得がいく説明を求めたくあります」
メイドのその姿に、アルベドは嬉しく思うと同時にやや鬱陶しいとも思ってしまう。以前であれば、自身の言う事であれば、誰も彼もが疑いもせずに実行していたのであるから。
(ま、良い傾向ではあるわね)
主が求めている墳墓の形と言うのは、こういったものであるから。彼女の事だ。別に疑問に対して思考放棄した訳ではあるまい、彼女なりに考えての上であろう。確かにルプスレギナの意見だって分かる。少しでも不穏な要素は排除しておきたいと思うのは当然の事だろう。
「そうね、一番は彼の力を見込んでの事よ。貴方だって例の映像は見ているわよね」
「それは、はい。確かに確認していますが」
暴れん坊にして、秩序の破壊者であるリザードマンであるが、彼がこの世界において強靭な戦士であるの確かであるから。
(確かに、それは納得出来るっすよ~)
自分の意見が通らないと言うのは意外とストレスになるものであり、荒みそうになる己の思考を落ち着かせる為に普段わざとやっている態度を心がけながら彼女は暴れん坊について考える。
以前の戦争の件、確かに彼の働きは大きいものであり彼が敵方の陣営にいなければ、もっと楽に武人は勝てたはずであるから。
「ですが、やはり許容し難くあります。ヤルダバオトも迷惑していると言いますし」
(ちょっとルプスちゃん!?)
名を上げられた彼女は心で悲鳴を上げる。メイドは自らの意見を通す為に恐ろしい悪魔とのやり取りで自分をまきこんでくれたのであるから。
そんな彼女にルプスレギナは一度ウインクを送って見せる。それは初対面の男であれば間違いなく心臓を撃ち抜く恋という名の弾丸であるが、彼女をよく知るヤルダバオトにとっては、悪魔の微笑み以外のなにものでもなかった。
(頼むっすヤーちゃん~)
(勘弁してよ~)
「そうなのヤルダバオト? 貴方の意見も聞かせてもらおうかしら」
(ひいいい!!)
彼女の声を聞くだけで心臓が止まりそうである。赤毛のメイドとはあれから共に過ごす時間が増えていた為に、何とか慣れつつあり、同時に恐怖も薄れつつあった。それだけ、彼女は、ルプスレギナ・ベータという人物は身内と認定した者にはとことん友好的なのである。しかし、この人物は違う。下手に逆らうなんて事はできない。
「わ、たし、は、特に問題に思っておりません。ニグン等が庇ってくれますから」
「ああ、あの男ね」
そう言う彼女の顔は冷たいものであり、その姿が更にヤルダバオトの心臓を締め付け、肺を圧迫する。が、それも一瞬であった。
「ふふ、聞いたルプスレギナ? 彼女は私の意見に賛成ですって」
「はい、そのようで」
(ヤーちゃんの裏切り者~)
(マジで勘弁して~)
(いけないわね、もう済んだ事であると言うのに)
視線をぶつけて不満をぶつけまくる従者2人の横で彼女もまた反省する。この仮面の戦士にしたって、話に上がった神官にしたってかつて愛する主に刃を向けた者達であるから。主はその事を許したし、自分だってその時で納得している。それでも、油断をすると殺気が湧いてくるのだ。それを抑えるのはやはり苦労する。
「あの、アルベド様? 顔色が悪いですけど、どうかしましたか?」
自身を心配してくれる少女の心遣いが有難い。同時に思う。この娘は本当に立派であると。
(くふふ、こうなって来ると)
何が何でも、彼女に母と呼んで貰いたいと贅沢に願ってしまう。しかしそれは当人たちの問題に、それも繊細な部類になるのでじっくりと時間をかけて行っていくべきであると。環境を思えば、自分の方が彼女よりもずっと有利な立場であるのだから。
「別に何でもないわよ。エンリは、ゼンベルについてはどう思っている?」
「え、私ですか?」話題を振られたエンリは少し考える。その間、彼女の手に握られたカップからは湯気がゆるやかに伸びている。「そう、ですね。確かに問題人物ではありますけど、村の人達。特に男の人達に、ジュゲムさん達とも気が合っているみたいですから、出来るなら村にいて欲しいと思っています」
姉の言葉にネムは一瞬拒絶反応を顔に出すが、それでも姉の言葉に従うべきであると口をつぐんで唸る。その様子にルプスレギナは心を浄化されたように感じる。
「くふふ、聞いたルプスレギナ? エンリも私の意見に賛成ですって」アルベドは勝ち誇ったように、一度手を口元に当て、メイドに挑発的な笑いを送り続ける。「それに、ゼンベルが本当に問題だけという訳でもないでしょ。子供達は仕方ないとしても、村人にゴブリン達とは友好的な関係を築けているみたいじゃない。無理にカルネ村を追いだす必要もないでしょ」
「分かりました。アルベド様がそこまで言うのであれば」そう言って、納得仕掛けるメイドであったが、まだ何かあるらしい。「で、あれば彼の問題行動に関しては、いえ、彼の管理に関しましては私に一任してはくれませんでしょうか?」
自分の意見が通らないとなれば、せめてその権利だけは勝ち取らなくてはならない。もしも、あの雄がまた姉妹に手を出す、いや迷惑をかける事があれば、自らの手で制裁を加える為に。
「そうね、それ位は貴方に任せても良いかもしれないわね」
アルベドもルプスレギナであれば、間違っても個人的な感情で動く事はないだろうと承諾する。
「ありがとうございますアルベド様。ご歓談を邪魔して申し訳ございませんでした。引き続き、至福の時間をお過ごしくださいませ」
「ええ、そうするわ。それで、エンリ。どこまで話したかしら」
「はい、この村に新しく来て下さった人達の事ですね」
「そうだったわね」
「あの、アルベド様」
続いて誰の話題を出した者かと思案するアルベドへとエンリは声をかける。勿論、愛する主の養子である少女の言葉に彼女が嫌な顔をするはずがなく、笑顔で応える。望まれれば、何でもすると言わんばかりに。
「何かしら? エンリ」
そう言って、自分に微笑みかけてくれるアルベドを見て、エンリはどこか気が楽になっていると間違いなく確信を持っていた。
(やっぱり、この方は)
ゴウンとはまた違うが、この人物にもどこか親近感を覚えているらしい? いや、あるいは親愛の情が湧いて来ているのだろか? それがどういったものであるかは分からないが、急いで結論を出す必要もないように思える。それよりも、折角の機会。彼女と話が出来るのは本当に貴重であるのだから。この際に色々と話を聞いておきたい。主に彼女達を知りたいと。
「カルネ村の話も良いですが、墳墓の事も教えてはくれませんでしょうか? もっと、皆さんのことを知りたいと思いますので」
「そうね、それもそうね。折角なのだからね」
少女の何気ない疑問がとても嬉しい。墳墓の事を知りたいと言うのは、かつて至高の方々が懸命にお作りになったナザリックを知りたいと言っているのと同義であるのだから。この少女であれば、ある程度の事を話しても問題にはならないはずである。本当に大事な事というのは分かっているし、間違っても口にするつもりはないから。
2人は、菓子を口に運びお茶を楽しむ。いずれもこの世界で新たに作られたものであり、ナザリック産の物に比べれば、質はまだまだ遠く及ばないが、それでも美味しいものである。
「なら、何から。いえ、誰の事から話したものかしら」
楽し気に思案するアルベドを前にエンリは片手で指を折りながら名前を挙げていく。
「えっと、ルプスレギナさんに、ユリさん、シズさん、エントマさん。それにアウラ様に、マーレ様、デミウルゴス様。後、ペストーニャさんに、イブ・リムス様とラスカレイドさんですね。私が会った事があるのは」次いで、少女は「あ」と短く声を上げる。忘れていたと思い出したらしい。「あとウィリニタス様、アルベド様のお兄様とも会っていた、みたいです?」
疑問形なのは仕方がないと言えるだろう。当時、義兄は常時鳥の姿をとっていた訳であり、直接姉妹と言葉を交わした訳でもないから。唯、互いに顔を見ているのも確かなのでありそれを考えると思わず笑ってしまいそうになる。
「ふふ、そうね。シズにエントマとは仲良くして頂戴」
先に名前を挙げた2人は、年齢で言えばこの少女とそんなに変わらないのであるから。彼女達には従者もあるが、同時に対等な友人として彼女と接して欲しいと思っていたから。
「はい、凄いですよね。あんなに若いのにしっかりして」
「うん! シズお姉ちゃんもエントマお姉ちゃんも凄くかっこいいんだよ!」
突然、話に入って来たのはネムであり、その口はクリームで汚れている。余りにも彼女がお菓子を食べる為に、始めに用意していた分はとっくに消えてしまったらしく、ルプスレギナが新しく用意した物。主にケーキ等が原因であり、メイドは慣れた手つきでハンカチを取り出してネムの口元を拭いてやる。妹の醜態にエンリはやや顔を赤くして、アルベドは笑顔で語りかける。
「あらあらネムったら、余程彼女達の事が気にいったのね」
「うん!」
「そうね、貴方達姉妹と関りが深いのはプレアデスの面々ね。なら、そこから話をするとしましょうか」彼女はそこで、再び待機状態に戻ったメイドへと視線を向ける。「ルプスレギナ。誰から話すべきかしら」
「そうですね」統括から意見を求められて彼女は少し考え、やがて口を開く。「ならば、ナーベラル・ガンマがよろしいかと。現在、アインズ様の補佐を務めている2人の内、1人でもありますから」
メイドの言葉にエンリは首を傾げる。自分達の養父が何かしているらしい事は知っているが、自分達は詳しい事を聞かされてはいないから。
「そうね、そうしましょうか。彼女はとっても優秀よ。私の見立てでは、そこにいるルプスレギナよりもずっとね」
「アルベド様……」
やや嫌味がこもった評価にルプスレギナは微妙な表情を浮かべ、またエンリも苦笑しながらアルベドの話へと耳を傾けるのであった。
ナーベラル・ガンマ及び、国王一行は荒れ地を進んでいた。一時は襲撃によって、止まらざるを得なかったが、何とか馬車の修理も終わり。再び、城塞都市への道を進むことが出来ていたから。
そして、現在彼女もまたスレイプニールに跨っていた。それは彼女だけではなく、始めは馬車の中で待機となっていたフォーサイト所属の神官に魔法詠唱者も同様であった。
(こんなにも早いとは)
騎獣を操りながら、彼女は呆れ気味にそう思う。この状態だって仕方ないと言える。当初、周りを固める予定であった主を含む4人中、3人が離れてしまっているから。そして、近衛隊の者達は頼りにならないとレエブン候の判断と懇願により、自分達もこうして外に出る事になってしまったのであるから。別にそれ自体は特に思う事はない。
(ふん、あのボンボン共に比べりゃ、まだゴルトロン達の方が頼りになりそうってね)
(レヴィア……貴方の言いたい事も分かるけど)
彼女は先の攻撃の際に、何も出来ずに茫然としていた近衛隊の者達に対して不満を抱えているらしい。彼らのせいで致命的な事になりかねないと危惧して。
そんな彼女達の後方を近衛隊所属である貴族としても剣士としても端くれである若者は続いていた。その胸を占めるは前方を走る彼女同様不満であった。
(くそ、こんなはずでは)
彼自身の見立てでは、今回の件は楽に進むものであったはずだ。少なくとも父がそう言っていたのであるから。
(話が違う)
だと言うのに、いきなりの襲撃。誰があんな事を予想できようか。あんな状況今までの人生で初めての事であった。初めての事であれば、多少動きが悪くても仕方ないはずだ。自分が動けなかったのは、理由があるのであり、どこの出身か怪しい冒険者に、犯罪者紛いのワーカー共が自分達に指図する事がどうしようもなく耐え難い。
(くそ、くそ、くそが!)
そんな悪態をつく彼の後ろには2頭のスレイプニールが続いていて更にその後方、地面が不自然に波打っている事には未だ誰も気づいていない様子であった。