なぜ人類はツンデレのおっさんが好きなのか…人生とは…存在とは…宇宙とは…
その映画の3作目のつまらない事と言ったら、1作目の最高だったところを全部抜き、空いた隙間に2作目の駄目だった所を目一杯詰め込んだような、要するに一面のクソまみれだった。
褒められる所と言えば取ってつけた女の裸があちこち飛び出す位で、まあとにかくひどいもんだった。
最後まで律儀に、スタッフロール――ネット漬けのオタクどもが俗に戦犯リストって呼んでるやつだ――を見終わった後、席に着いたまま脱力して黒いスクリーンを見る。特大のげっぷが出た。ポップコーンとコーラの間の子だ。
ショッピングモールの中の映画館の通路は、恐らくおれのように1作目の興奮が忘れられず、だからこそ様々な形で失望を表に出しエスカレーターに向かういい歳の男共と、不幸にも連れて来られた映画には興味なさげな女共や飽きた疲れたとわめくガキ共の波で埋め尽くされていて、おれはただ流されていく。
通路のホロ看板は別の映画のポスターを映し出している。無意識に見やると、視線を感知した看板が映画のタイトル、メインキャストやスタッフの名前を浮かび上がらせる。いいよ、別にそんなに興味はねえんだ。
……だがそのポスターの被写体、虚ろな横顔には少しひっかかるものがあった。何だ……
青い背景……きっとこれは水中……海だ。女の横顔。まるでこれから海に身を投げようとしているみたいに思いつめているようにもとれる。もう海の中にいるのにも関わらず。
いや、表情のことじゃあない。もっと気にかかる原因がある。少し考える。
「ああ、」と溜め息なのか得心が言ったのか判別の付かない声が口から漏れる。
この女はあいつに似ているのだ。
おそろしく顔が整っていて、そればかりか髪の色と髪型までそっくりだ。あいつの見た目を少しいじくって、人間で言えば大学を出る位までに育てればきっと瓜二つだ。
一気に現実に――「仕事」の事に引き戻される。
「奴ら」はおれを少し早い退役兵(おれの長年の望みだ!)にするには惜しいと太鼓判を押し、給料を少しばかり上げ、勲章をいくつも増やし、カウンセリングと薬もついでに追加した。ケツを叩いて働けと言わんばかりに。それに訳の分からない任務も増えた。
一番うんざりしたのがラボの連中が人工知能対人コミュニケーション(おれは密かにこれをままごと、と呼んでいる…他の連中もだろう)などと称して暇があれば押し付けてくる「対話形式学習」だ。
奴らにはやはりまっとうな人間の気持ちなんぞ理解出来る訳がない。ラボの白衣連中がだ。
あいつの「メンテ」を担当している女が嬉々としておれ宛に(本来必要が無いのにも関わらず)報告してくる内容は「どんどん仲良くなってるわね!」だとか「女の子にあれは無いわ」だとか、そういうとにかくクソッタレの大きなお世話だ。
おれはただのくたばり損ないの傷だらけの軍人で、勿体ないから騙し騙し使われてるおんぼろ飛行機乗りで、
あいつはただのロボットで、この世で一番ピカピカの金のかかった飛行機の部品だ。
おれとあいつとの関係はそれでいい。……あいつだってそう言った。それでいいと言った。
どんなにあいつに夢中になったところで、あいつには天使だとか女神だとかにはなれないし、俺だって神話の英雄やら騎士様にはなれねえんだ。映画の中のキラキラしたヒーローやらヒロインには。
それは他の奴がなればいい。
ポスターの女がこちらを見て少し微笑む。
何だお前、ちゃんと笑えるじゃねえか。美人さんよ、やっぱり笑った方が可愛いぜ。
別にこちらを見てるわけじゃないのに、なんとなく手を振って、立ち去った。もう外は夜だった。
帰りに行きつけのバーで一杯やり、「家」に戻る。シャワーを浴びてベッドに寝転がると今日の映画の良かった探しとガッカリさせられたシーンのダイジェスト版が脳裏に再生される。何だかんだで楽しめたらしい。
きっと……いや絶対、夢に出るだろう。突拍子もないあの迷シーンが。
そして後でおれの頭の中を覗き見しているであろう医者とラボの連中が頭を抱えるのだ。
悪夢とコメディの混じり合ったノイズを後生大事にライブラリに収める連中の顔はきっと見ものだろう。きっとあいつも見るだろうな。そうだ、きっとそうだ……
そうやってまた、もしかしたら二度と目の覚めないかもしれない眠りに落ちていく。