市ヶ谷有咲の朝はわりと早い。
午前七時頃。
「ありさ~! 朝だよ~!」
セットしていたアラームを携帯が鳴らす前に、友人の戸山香澄が市ヶ谷家に訪れるからだ。有咲の祖母は、朝食を市ヶ谷家でとる事が多い戸山香澄の為にこの時間には準備を終えている。何故香澄の生活リズムに合わせて朝食が用意させるのか、有咲には文句があったが、この生活は一年近く続いており最近はアラームのお世話になる事も減っていた。
洗面台にむかい顔を洗って意識を覚醒させていると、自室から【ぽっぴん’しゃっふる】が聞こえてくる。明るく、元気をくれるその曲は有咲が所属しているバンド【Poppin'Party】のオリジナル曲だ。バンドを始めて、各自の技術も上がっていることを確かめるために、つい先日録音したその曲をアラームにした。アラームとして流れたのは、ワンコーラスであったが、自分たちの上達を感じられ、朝から気分が上がった。
急ぎ部屋に戻り、繰り返す鳴ろうとしているアラームを止める。その後は制服に着替えリビングに向かい、ばあちゃんに挨拶をする。
「あはよう。有咲」
「おはよ、ばあちゃん」
遅れて、香澄がリビングにやって来た。
「おはよ~! おばあちゃん、ありさ!」
「……姉さん。香澄さんが元気だわ」
元気いっぱい! といった風な香澄とぼ~っとしている市ヶ谷有理が丁度対称的だ。
「諦めろ、香澄だからしょうがない」
私はもう諦めた。言外に有咲はそう伝えた。
「そう。それなら私がもう一度寝るのもしょうがないわ」
「えっ! 有理ちゃん寝ちゃうの⁉」
「有理だからしょうがな……しょうがなくあるか!」
「姉さん、うるさい」
「お前がもう一度寝ようとするからだろ!」
「一緒に学校行こう!」
「昨日眠れなかったの」
「なんだよ。何か悩みか? それなら相談してくれても」
「私たち力になるよ!」
「香澄が寝かせてくれなくて」
「私⁉」
「なんだよ。電話か? 私も混ぜてくれても……」
「隣の部屋から香澄の歌が聞こえたわ」
「私のせいじゃねーか!」
「時々有咲の笑い声が聞こえたわ」
「ちょままま!」
「有咲~‼」
「「香澄うるさい!(わ)」」
歓喜した香澄が有咲に抱き着こうとしたが、有咲と有理に叱られ、しゅんとしてしまった。
「あらあら、香澄ちゃんおはよう。何時もありがとうね」
食事の準備が済んだのだろう。ばあちゃんが声をかけてくる。香澄とばあちゃんは食卓に着くのを見、有咲は有理を洗顔に連れて行くため、今だふらふらとした足取りの有理の手を引いた。
有咲は、有理の洗顔を済ませた後自室の横。有理の部屋前で、有理の着替えを待っていた。有理が二度寝をしないためだ。
「姉さん。出来たわ」
戸を開けた有咲が見たのは、一糸纏わぬ有理の姿
「そうかって、まだ着替え終わって無いじゃあねぇか!」
「着替えは終わってないわ」
「あっちよ」
有理の指さした先にはパソコンがあり、絵が描いてあった。
Poppin`Partyの五人のイラスト。
戸山香澄、花園たえ、牛込りみ、山吹沙綾、市ヶ谷有咲と各自の楽器が描かれ、曲のイメージと次回のライブのテーマが細かにメモされていた。
”ご機嫌な姉さん”と書かれた部分は、昨晩書かれたメモだろう。いかに自分が浮かれていたか細かく書かれていて、気恥ずかしさを感じる。
「来週には完成するわ」
「だから眠れなかったのか。はぁ」
思わずため息が漏れた。
有咲は妹の集中力にはいつも驚かされていた。
「ありがたいけれど、ちゃんと眠らないと」
感謝を感じながらも、きちんと注意をしようとした有咲が見たのは、でたらめにボタンを留めたシャツだけを着て、ベットの上に寝転がった妹の姿だった。
女性にしては長身の体を猫の様に丸め、白のシャツと白いベットに掛かる様に広がった黒髪が窓から入る太陽の光を反射し、美しく光る。でたらめにボタンが留められ事によって出来た隙間から除く胸は、下着を付けていない。
「起きろ~‼」
叫びながら、もう少し自分の服装にも気を使ってくれ。と、有咲は思わずには言われなかった。
市ヶ谷有咲の朝はわりと早い。
しかし、彼女の朝はゆったりとしたものでは無く、自由な友人と妹に振り回されるものだ。
ありがとうございます