緑谷出久「引き寄せる個性…?」   作:愛上

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1話目

 よっす!

 

 俺の名前は『クロ』。

 

 いわゆる転生者ってやつで、元男子高校生。現ドラゴン。

 

 空き瓶で足滑らせて階段から落ちて死んだ後、神様に出くわして転生させてくれるっていうからありがたく転生させて貰ったのに、記憶は残ってるわそもそも人外だわで色々と台無しな始まりをしてしまった残念系ドラゴンさんさ!

 

 ちなみに年齢は千から先は数えてない。なので人化もあらゆる魔法もお手の物。なんだけど俺、実は雌だったみたいでさ。人化した時何故かFGOのお竜さんみたいな容姿になるんだよね。服装は限りなくセーラー服に近い。俺の容姿、一応正統派のこれぞドラゴン!って感じの容姿なのに、何故にお竜さんなのかはこれが分からない。っていうかドラゴンの重厚な鱗がセーラー服ってのも大概無理があるよな。とはいえ俺の知人に体毛がメイド服になる東方の咲夜さん似のチワワ(フェンリル)もいるし、この世界では常識なのかも。うーん、何とも言えん。

 

 まあこんだけ長生きすれば性別がどうとか容姿がどうとか今更過ぎるし。ドラゴンとか人間の男と番とか元男子高校生的に絶対に嫌だしで特に意識することもないんだけどさ。

 

 ああ、今更っていうと、俺が生まれた世界な。剣と魔法の所謂ド定番なファンタジー世界だった。妖精がいたり魔物がいたり、人間が魔法を使えたり剣使って海を割ったりっていうのができる完全なる正統派系異世界って奴だな。

 

 付け加えると、俺は魔法が得意な知的ドラゴンさんである。逆に肉弾戦とかは苦手な。魔法で強化付けれるんならまだマシになるけど、魔法が使えるんならぶっ放した方が早いしな。

 

 そんな俺は普段、『固有結界』を常時独立して発動する魔法を開発して作った自分だけの世界で暮らしている。外にいると『俺の嫁になれ!』だとか『素材寄越せ!』だとかうるさいんだもん。仕方ないね。

 

 今も固有結界の中で元気に引きこもり中。特に今日は何もすることがないのでごろごろだらだらと過ごしているのだ―。

 

 固有結界の中は、結構広大。東には森と湖が広がってて、中心には庭。そして家は俺が考えに考え抜いたデザインが施された、二階建ての小さな家だ。表には小さな畑があったりする。うんうん、家はこれくらいがやっぱりちょうどいいよな。

 

 あー、暇だなー。友達も今日は全員予定があるらしくて遊びに来れないようだし。本も読み飽きたしなー。パソコンとかあればまだ暇も潰せたんだろうけれど。

 

 ベッドの中でごろごろするのにも大概飽きたしな。俺を知ってる人間も全員死に絶えた頃合いだろうし、そろそろ外にでも遊びに行くかな。

 

 

「…ん?」

 

 

 その時だった。

 

「…何かに魂が引き寄せられてる…?」

 

 なんかこう、袖をくいっと引っ張られたような、そんな感覚。

 

 誰かが召喚しようとしているのだろうが…しかし、いつもは強引に檻の中に閉じ込めようとするような乱暴な術式なのに今回は自棄に優しいというかなんというか。

 

 しかも行先…この世界じゃないな?

 

 異世界からの召喚か。目にするのもずいぶん懐かしいし、まさか自分に来るとはなぁ。

 

 ふぅむ…とりあえず、召喚しようとしてる奴の心の中でも覗いてみるかな…。

 

 

 

 ほうほう。

 

 なるほどなるほど。

 

 ふーん…。

 

 

 

 名前は緑谷出久、か。そんでオールマイトっていうヒーローに憧れて夢がヒーロー、とな。今はヴィランにとらわれた幼馴染を助けるために走り出した瞬間。で、その時にたまらず俺の事を呼び出そうとしてしまった、と。

 

 そっかそっかー…って、えええええええ!?

 

 それって確か、前世で漫画に出てた主人公の名前じゃなかったっけ?

 

 千年以上も生きてきてここまでびっくりしたことはそうはないぞおい。なんで漫画の世界の住人が異世界の俺を、ドラゴンを呼び出そうとしてるんだよ。

 

 …いや待てよ。そういやあの主人公の母親は、確か引き寄せる個性を持ってたよな。

 

 そんで緑谷出久は無個性という、いわゆる普通の人間ポジだったわけだけれども。もしかして、母親の個性は特性を変えながらきちんと受け継がれていて、それに本人も周りも気づけなかっただけ、っていう感じなのか?

 

 マジかよ。いや、異世界の話だから漫画とは違うのかもしれないが、色々と衝撃的すぎるわ。

 

 まあ、個人的にはナイスタイミングなんだが。だって今凄い暇だし。それに千年越しにパソコンでネットサーフィンしたいしマックでジャンクフードの味に酔いしれたい。

 

 

――――よし、行くか。

 

 

 だって呼ばれてるんだしな!こりゃ行くしかないな!

 

 原作介入?バタフライエフェクト?何それ美味しいの?

 

 俺、ドラゴン。人間が作った物語なんて、ぶっ壊してなんぼですが何か?

 

 よし、それじゃ。ヒロアカの世界へれっつごー!

 

 

 

 次の瞬間、俺の視界は一瞬で暗転した。

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

「ぐおおおおおあああああああああ!!!!」

 

 少女のモノとは思えない咆哮が商店街に響き渡り、そして強烈な爆発音が連続で響き渡った。

 

「くそっ!凄い個性だ!」

「火ぃ消せる個性持ちのヒーローはまだこないのか!」

「早く助けねえと、あの子あのままだとヤバいぞ!」

 

 鬼のような形相で抵抗を続ける金髪の少女の体には、泥のような物体が巻き付いていた。泥は目をぎょろりとさせて、大きな口を開く。

 

「高レア級の個性…!こりゃ久しぶりの大当たり…!絶対逃がさねえ、この個性さえあればあのクソったれに一矢報いることができるかもしれねえからなぁ…!」

「っ!!!?」

 

 その言葉を聞いて、少女がまた暴れ始める。悲鳴と怒声、そして爆音が響き渡った。

 

 

 

(かっちゃん…!)

 

 その光景を、僕…緑谷出久は人込みの中から見守る事しかできなかった。

 

 僕の所為だ。僕がオールマイトの邪魔さえしなければ、こんなことにはならなかったのに…!

 

 後悔が僕の胸の中を重苦しく満たしていく。

 

(僕が、僕がどうにかしなきゃ…)

 

 ———でも、もうそんな資格、僕にはない。

 

 思い出すのは、さっきの言葉。憧れのヒーローから突き付けられた現実という名の枷。

 

 僕は、もうヒーローにはなれない…。

(かっちゃんの事だし…大丈夫、だよね…。他のヒーローが来るまで、頑張って。かっちゃん…)

 

頑張って…。

 

その時、僕はかっちゃんと目があった。その目は、苦しげで涙も浮かんでいて…助けてって言うような顔をしていて。

 

「ッッ!!!」

 

僕は、後のことすら考えずに走り出していた。

 

 

「なっ!?止まれ、少年!あれに突っ込んでいくとか正気か!?」

「おい、止まれ!バカヤロー!」

 

制止の声が遠く感じた。かっちゃんが僕を見つけて目を見開く。

 

「なんで…お前が…!デ…ク…!?」

「なんでって…!君が、助けてって顔してたから…!」

 

僕は強がって笑った。オールマイトが言っていた意味がわかった。ああ、確かに怖いや。でもーーー。

 

「必ず、助けるから!」

「あの時のガキ…!木っ端微塵だぁ!」

 

「やめろおおおおおお!」

 

かっちゃんの叫び声が聞こえて、同時に手のひらが僕に向けられる。

 

「うあああああ!」

 

次の瞬間。僕の左手が熱く燃え上がった。そして、手のひらに青白い紋章が浮かび上がる。

 

「え…!?」

「うおっ、まぶしっ…!」」

 

その紋章は一際大きく輝いて、僕らを包み込んだ。

 

人影を見た気がした。髪の長い、なんでかセーラー服を着た僕と同じくらいの少女。その子は僕に目もくれずにっと笑うと、掌をヴィランとかっちゃんへと向ける。

 

「…!」

 

 ぶわっと、僕を全身の身の毛がよだつような感覚が一瞬だけ襲った。

 

そして、次の瞬間不思議なことが起こった。ヴィランが千々になって吹っ飛んで、かっちゃんが解放されたんだ。

 

「かっちゃん!?」

 

僕は慌ててかっちゃんをお姫様抱っこでキャッチした。

 

『ナイスキャッチ。ナヨナヨしてる癖に中々やるじゃねえか』

「うぇっ!?だだだだ誰ですか…!?」

『今は問答してる場合じゃねえぞ。はよ逃げろっ』

「へ?」

 

「クソガキがああああ!その女寄越せえええ!」

「ひいいいい!?」

 

僕は慌てて駆け出した。すると影が僕の上空を通り過ぎた。その影の正体はーー。

 

「オールマイト!?」

「君に諭しておいて!己が実践しないなど!」

 

オールマイトは血反吐を吐いてにかっと笑う。

 

「プロはいつだって命がけ!!!」

 

 

 

――――「DETROIT SMASH!!!」

 

 

 

次の瞬間、あまりに風圧に僕はかっちゃんと一緒に思いっきりぶっ飛び、ヒーローのシンリンカムイに助けられる事になったのだった。

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「君、なぜ飛び出して行ったんだ!オールマイトがいてくれたから良かったものの、下手をすれば死んでいたんだぞ!」

「ご、ごめんなさい…」

「それに個性も使ったな!許可なしの個性使用の処分がどうなってるか、知ってるよな!?」

「へ?こ、個性?」

「しらばっくれようとしたって無駄だ!君の手が光ったのをここにいる全員が見たんだからな!」

「え…?」

 

僕は恐る恐る自分の手の甲を見た。そこには、薄っすらとではあるが青白い紋章が残っていた。

 

「…!」

 

これって、もしかして…もしかしなくても…!

 

「個性!!!」

「うおっ!?」

「ぼ、ぼぼぼ僕、確かに個性を…!?夢じゃない!やった、やった!!!個性が発現したんだ!!!僕の個性が!」

 

僕は涙目になって喜んだ。だって、夢にまで見た自分の個性だ。これでヒーローになれる。やっとスタートラインに立てたんだ!!!

 

「落ち着け!」

「は、はい!すみません!」

 

ヒーローのデステゴロさんが、物凄い形相で僕を叱りつけた。一瞬でしゅんとなった。

 

「で、でも、僕今までずっと無個性で…!やっと個性が使えるようになったんです!」

「なに…?それじゃあ、今日初めて個性を使ったってことか!?」

「は、はい!」

 

僕の様子に嘘はないと感じたのか、デステゴロさんはため息を吐き出して言った。

 

「初めての個性での暴走じゃ、流石にこれ以上は叱れねえか。少年、浮かれるのはいいが、早い所親に報告して、個性登録もしておくんだぞ」

「はい!ありがとうございます!」

 

90度腰を折って頭を下げた。

 

「それにしても随分と遅い発現だったな。慣れない事もあるとは思うが、頑張れよ!」

「はい!頑張ります!」

「良い返事だ!…まあ、個性使用に関しては承知した。だがまだ飛び出して行ったことは叱らないとな!」

「はいっ!?」

 

沢山叱られたり次いでに個性の扱いやしちゃだめな事をヒーロー直々に口頭で教わったり、ヒーローになるためにしなきゃならない事をちょっと教えてもらったり連絡先を交換してもらったりした後僕はやっと釈放され、今は家路に着いていた。

 

 プロヒーロー、デステゴロの連絡先…!僕は久しぶりに増えた連絡先を眺めながら住宅街を歩く。

 

「…そういえば…」

 

それにしても、この個性ってなんなんだろう。

 

 僕のお父さんは火を噴く個性。そしてお母さんは物を引き寄せる個性だった。そして子供の個性は、どちらか一方か、それか複合型。はたまた突発型なんてものもある。

 

 僕のこの紋章や、光ったのはお父さんとお母さんどっちの個性でもない。

 

発光した後に現れたあの子は、結局あれから姿見えないし。

 

「発光するだけなら、かっちゃんを引き剥がすことなんて出来なかっただろうし…」

 

 首をひねっていつもの通り色々と考察しようとするけど、結局情報が少なすぎるしあれ以来手を振っても握ってもうんともすんとも言わない。

 

 結局謎は謎のまま。

 

 その日はお母さんと一緒に泣きながらお祝いをして、僕はとにかくやっと個性が発現したことを全力で喜んだ。


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