緑谷出久「引き寄せる個性…?」   作:愛上

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2話目

 緑谷出久は朝目覚めた瞬間、今日が己の死期であることを理解した。

 

 見慣れた天井。そして朝の光がカーテンから零れ落ちて、外からは微かにくぐもった小鳥たちの鳴き声が聞こえてくる。

 

 その部屋は見る人が見たら多分異様だと思うような部屋だ。トップヒーローオールマイトのあらゆるグッズが大量に置かれていて、どの方向を向いてもオールマイト一色。

 

 そんなホの付く人なのかと誤解されそうな部屋だったが、出久にとっては見慣れたもの。逆に全く変わっていない自分の部屋を見て微かに頭が落ち着いてきた気がした。

 

 出久はごくりと喉を鳴らして、そしてベッドの中に意識を向ける。

 

 暖かいオフトゥン。しかしその温度は今や出久だけのものではなかった。具体的に言うととても柔らかくて気持ちのいい小ぶりな抱き枕が一つ、いつの間にか潜り込んでいた。

 

 抱き枕。否、髪がある。それととてもかわいらしい寝顔も付いている。体温まで実装されてるなんてすごいやハイテクだなぁ。出久は現実逃避した。

 

「すー…すー…んぅ…」

 

 抱き枕―――謎の少女はあどけない寝顔をふにゃりと気持ちよさげに崩して、そして出久の胸に頭を微かにこすらせた。

 

「…!」

 

 出久は、思考を停止させて、そして――――考える事をやめた。

 

 

 

 

 

 

 おっす、オラクロ!

 

 昨日ヒロアカの世界に引っ越してきて、主人公である緑谷出久と爆轟勝己を助けた後適当に街をうろついて遊びつくした後、眠たかったから魔力供給もかねて緑谷の布団の中に潜り込んで眠りについたんだが。

 

 朝起きたら、緑谷の目に生気がなかった。目を開いているのだから起きてはいるのだろうが、真っ白になって動いていない。指先を目の先で揺らしても全く反応なし。瞳孔も変わらないとか、どんな訓練したらそんな事できるんだよ。

 

 なんだなんだ?なんでこんな、宇宙に放り投げられた究極生命体のような顔つきで固まってるんだ?

 

「おい、起きろよお前。もう朝だぞ」

「…」

「おーい、少年?起きろって!」

「…はっ。こ、ここは誰!?僕は一体どこなんだ…!?」

「いや怖い事言ってないでとっとと起きろよ。朝だぞー」

 

 俺はベッドから浮かび上がって宙で止まって、緑谷の傍に寄った。

 

「…って、ああああああああ!き、きききききっき、君は一体、だだだっだっだだだだ…!」

「OK時に落ち着け少年よ。一から説明してやるから落ち着け」

「え!?あ、はい!!!」

 

 シャキーン、という音がしそうな動きで正座に移行した緑谷に、俺はとりあえず自己紹介をすることにした。

 

「昨日ぶりだな少年よ。俺の名前はクロ。お前の個性によって呼び出された召喚獣で、ドラゴンだ。よろしくな」

「…えっ?」

 

 目をぱちくりとさせた緑谷に対して、言葉を続ける。

 

「お前の個性、『異世界から者を引き寄せる個性』に召喚されたんだよ。そして俺はそのまま使い魔になったってこと。その右手の甲にある令呪がその証な」

「…え?あ、こ、これのこと…?」

「うん」

 

 緑谷はしばらく自分の手の甲を眺めていたが、すぐに驚愕を顔に浮かべた。

 

「え!?ええええ!じゃ、じゃあ…君が僕の個性って事!?」

「まあそうなるな!」

「…!」

 

 口を大きく開けて驚愕している緑谷。面白い顔芸だ。

 

 まあ仕方ない。色々と詳しく説明してやるか。

 

 

 

「なるほどつまり僕の個性はお母さんの物を引き寄せる個性が変質して異世界からモノ―――生き物を引き寄せて契約する個性に変わったんだ。でもそんな個性前例が無いしそもそも異世界なんて聞いたこともない。でも目の前にクロさんがいるってことはそれは本当の事で、えっと、でもそれって僕が無理やり引き寄せたんだからクロさんにも凄い迷惑がっていうか、お母さんの個性は出力が低い個性だったんだけど僕のは世界すらもまたいで効果を発揮してるこれは明らかに異常な事で―――」

 

 説明してやると、緑谷はぶつぶつと思案モードに入ってしまった。ちょっと気持ち悪いなおい!

 

 俺はそれを手をたたいて止めて、そして緑谷に手を差し出した。

 

「まあ、そういう訳だ。これからよろしくな」

「えっ、あ、うん!…って、えええ!?い、一緒に住むんですか!?」

「当たり前だろ。俺がこの世界にいる為にはお前の魔力が必要なんだからさ」

「で、でも!男女がそんなおおお同じ部屋とかダメなんじゃ…!」

「安心しろよ、俺はドラゴンだぞ。トカゲは両生類だ」

「そういう問題ですか!?」

 

 そういう問題だぞ。まあ、俺はメスだし。ドラゴンはトカゲじゃないんだけどな。

 

 まあだけど、心は男だしな。案外間違ってはいない。

 

「っていうか、もうお前は仮にも俺のマスターなんだからさ。敬語とか辞めろ。後、俺の事はクロな。さん付けとかむず痒い」

「…!」

「いや、そんな壮絶な顔すんなよ」

 

 大丈夫か、こいつ。まあ主人公だし大丈夫なんだろうが。

 

「とにかく、よろしくな!」

「あ、はははははい…!」

 

 俺は緑谷の手を取って、無理やり握手した。

 

「あ、そうそう、お前ヒーロー目指してるんだろ?」

「え、は、はい…」

「敬語…はあ、まあいい。とにかく、俺のマスターになったんだから、なよなよしたまんまは俺の沽券にもかかわる。色々と鍛えてやるから、一緒に最強のヒーローになるぞ、少年!」

 

 俺がそういうと、緑谷はぽかんとした顔をしていた。

 

「ひー…ろー…?僕、が…?」

「ん?お前以外に誰がいるんだよ」

「…僕が、ヒーロー…最強のヒーロー…そうだ、そうだよ。僕はこれからヒーローを目指すんだ。皆よりもずっと置いて行かれてる僕が追いつくためには、鍛錬あるのみ…!」

 

 俺はにやりと笑った。緑谷もそんな俺を見て握り拳を作った。

 

「鍛えてやるって…一体、どんな事…なんですか?」

「ああ、まあ、それはその時になってからのお楽しみってやつだ」

 

 その時になるのが楽しみだなぁ。何百年ぶりだろうか、人間を弟子に取るのは。その時は加減が分からなくてちょっとやりすぎて世界を一瞬で滅ぼせるレベルの賢者に育て上げてしまったが。

 

 まあ、主人公だし多少の無理は効くだろ。そうじゃなくても死にかけだったら俺で治せるし。

 

 ヘドロ事件が起きて10か月くらいで雄英入試なんだっけ?

 

 だったら、あの爆轟勝己の成績を抜かせるくらいには強くしてやらなきゃな!

 

「…!いま、なんだかすごい寒気が…!」

 

 後ろで緑谷がなんか言ってたが、俺の耳には届いていなかった。


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