Inherit the story   作:琴本

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1章 良二プロテクト
Inherit the story


 美少女がいる。肩までかかる白銀の髪に、ダイヤモンドのように透き通った瞳。物憂げな表情は、彼女の魅力を一層引き立たせている。

 

 ……が。

 そんなことは些細なことである。良二は視線を下へと移し、叫び声を揚げた。

 「どうなってんだこれぇぇぇぇぇ!!」

 

上空15000m。パラシュート無しで降下する二人の少年少女が〈フラクシナス〉の自律カメラに捉えられた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 テストの終わりを知らせるチャイムが鳴り響く。今まで机とにらみ合いをしていた生徒達が、一人また一人と姿勢を元に戻していく。

 

 「今回のテスト難しすぎ」

 「全部埋まった? 私は全然埋まらなかったよ」

 「はい赤点。こんなの無理だろ」

 「まるで将棋のようだったよ」

 

 教室中のあちこちからテストの感想が聞こえてくる。……最後はテストの感想なのか分からないが

 

 「おーい良二。お前はどうだった?」

 

 後ろから声がかけられる。良二の親友にして生粋のプレイボーイ村河剛(むらかわつよし)である。

 

 「微妙だな。一応埋めたは埋めたが合ってるのか全然分からん」

 「だよなー。ったくあのハゲ島め! こんなテスト作るんじゃねえよ!」

 「ハハッ……」

 

 剛の言葉に苦笑すると、視線を担任教師の元へと向ける。確かにテストへの不満はあるが、今からホームルームである。テストも今日で終わり、明日は土曜日。このホームルームさえ乗り切れば、ゆっくりと溜めていた小説を読むことが出来る。

 

 「……ということで今日でテストは終わりだ。テストの答えは月曜日に返されるから問題用紙を持ってくるように。小林」

 「起立。礼」

 

 小林の号令と共に皆頭を下げる。まあ中には挨拶の途中で帰り出す奴もいたのだが、どうでも良い。良二は横に掛けてある鞄を取ると、教室を後にした。

 

 「で、なんでお前はついてきてんだよ!」

 「おいおい、俺ら親友じゃねぇか。せっかくテストが終わったんだ。お前ん家でゲームでもしようと思ってな」

 「今日は無理だ! 俺はテスト勉強のせいで溜まりに溜まったラノベを読まなきゃならない。お前のゲームに付き合ってる時間はない」

 

 「いいじゃねぇか今日ぐらい。バイトまで時間あるし、ぶっちゃけ今暇なんだわ」

 「ならテスト期間中にもかかわらずに最近付き合った彼女さんとデートでもしてきたらどうだ?」

 

 良二がそう発言した途端、少し剛の顔が暗くなる。

 

 「あー。そいつとならもう別れた」

 「はっ? まだ付き合って一週間も経ってねえだろ?」

 「まあ、なんつうか合わなかったって感じ? 付き合って三日ぐらいで冷めてきちゃって、昨日別れようって電話した。向こうも初めは嫌がってたけど最後は渋々オーケーしてくれたよ」

 

 「てめえはいっぺん刺されちまえ!」

 

 良二が叫び声を上げる。こんな最低な奴だが、顔がかなり良いため、女子に非常に人気がある。今まで付き合ってきた女子は二桁を越えているらしい。……因みに良二は0である。

 

 「てな訳でゲームしようぜ」

 「余計嫌だわ! ったく、なんでこんな奴がモテるんだよ」

 「嫉妬か? お前だって顔は悪くはないんだ。もうちょっと格好をしっかりすれば彼女なんてすぐ出来るぞ」

 「ちげーよ。俺は彼女なんていらない。可愛い女の子なんて二次元で間に合ってるよ」

 

 そんないつものやり取りを繰り返していると、頭の中に妙な違和感を感じた。まるで記憶を書き換えられているような、そんな感覚である。

 

 「なんだったんだ? 一体……」

 「どうかしたか?」

 「……いや、なんでもない」

 

 どうやら剛の方はなんともないようである。恐らくテスト勉強の疲れが出ただけなのだろう。良二は剛の言葉を聞き流しつつ、帰路へと就いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「やっと帰ったか……」

 

 結局、剛とのゲームに付き合わされてしまった。途中までは追い返そうとしていたのだが、途中で追い返すのが面倒になってしまい、一時間だけという条件で家に入れたのだが……

 

 「くそーあの強さは理不尽だろ!」

 

 勝負して勝ったらもう一時間という勝負をした結果、見事全敗。結局アルバイトの時間まで付き合わされることになったのである。

 

 「まあ良い、今からはラノベ三昧。溜まっているラノベを読み尽くすぜ!」

 

 へこたれていても意味はない。良二はその場から立ち上がると、溜まっていた小説を取る為に二階へと向かった。

 

 良二の部屋はシンプルである。右側にはベットが置かれており、左端には勉強机、その横にはチェストが置かれており、その横に本棚があるという具合だ。

 

 本棚にはぎっしりと本が敷き詰められている。……筈なのだが、何故か十巻程すっぽりと空いていた。それだけではない。番外編ばかりを集めている本棚にも三巻分、スピンオフばかりを集めている本棚からも四巻程消えていた。

 

 「おかしいな。ここには十巻分の空きなんて無かったぞ?」

 

 一瞬誰かが持っていたという考えも浮かんだが、すぐに否定する。良二は両親の仕事の都合により、今家に住んでいるのは良二だけである。

 

 通帳等がしっかり残っている以上泥棒が入ったというのも考えずらい。ただ、本棚から本を取った覚えがない上、テスト期間前には本棚の整理もした筈である。

 

 「にしても何の小説が無くなったんだ? ってうん?」

 

 無くなった箇所のすぐ隣を見れば、『デート・ア・ライブ』と書かれた本がズラリと並べられている。『デート・ア・ライブ』通称デアラは良二の好きな作品の一つだ。しかし、9巻をもって終わってしまい……

 

 「9巻?」

 

 確かに9巻で終わった筈なのだが、9という数字に妙な違和感を覚える。何故だろうか? もっと続いていたような気がするのである。

 

 良二はデアラ9巻を手に取った。『七罪エンド』記憶通りの題名である。内容も記憶通り、七罪の攻略中に人工衛星が落下、一つは〈ラタトスク〉が破壊したものの、二つ目の衛星が落下し士道がピンチに。そこに現れた黒い化身により全滅するという話だ。

 

 何も変わっていない。だが、何なのだろうかこの違和感は……何か大事なことを忘れているようなそんな感覚。

 

 「忘れる?」

 

 そういえば学校からの帰り道にも何かを忘れているような……いや、何かを書き換えられる感覚があった。良二の頭をあり得ない可能性が過る。

 

 「いや、まさかな」

 

 良二はブンブンと首を振り否定する。ここはファンタジーではない。そんなことが起こりうる筈がないのだ。きっと勉強の疲れで頭がおかしくなっているのだろう。

 

 溜まっていた小説に手を着けようとするが、直前で手が止まる。やはり違和感が抜けない。あり得ない可能性を考えたくなる。心が気づけと訴えかけてくる。

 

 良二は再び読み始めた。何かおかしな所はないか、記憶と違う所、いや、記憶と同じでも違和感を覚える場所である。

 

 読み進めて行く内に違和感は疑問へと変わっていく。記憶にはあるが読んだ記憶のない場面。自分が読んだ時よりも格段に落ちている作品の質。デアラなのにデアラじゃないそんな感覚が良二を襲う。そして……

 

 「あぁぁぁぁぁ!!琴里のあのセリフがねー!」

 

 疑問は確信に変わった。つまり『デアラの作品とその記憶が書き換えられている』と

 

 その瞬間、辺りが白く光だす。それと同時に頭に複数のイメージが浮かび上がる。それは新たな……いや、書き換えられた本当のデアラのストーリーだ。

 

 「完全に思い出した」

 「そう……良かった」

 「……へ?」

 

 今人の声が聞こえたような気がする。まさか一人暮らしだったってことも書き換えられた記憶なのではなかろうか? 良二に新たな疑問が芽生え始めたが、その疑問は間違いだったと確信する。何故なら……

 

 「私と……来て」

 

 こんなに可愛らしい少女と一緒に住んでいるのなら、忘れる筈がないからである。

 

 「ってへ?」

 

 少女に見惚れていると、良二は不意に素っ頓狂な声を上げた。それもその筈である。家具に囲まれた部屋は一瞬にして空の上へと変わっていたのだから。

 

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