「うぎゃぁぁぁぁぁ!!」
良二は叫び声が辺りに響く。実際の所そこまで響いている訳でもないのだが、良二には普段の何倍も大きく聞こえた。
上空15000mからの紐なしバンジーである。将来スカイダイビングとかしてみたいなとか考えていた良二だったが、まさかこんな形ですることになるとは思っていなかった。
「落ちおちぃぃぃぃぃ!!」
良二達が地面に衝突する寸前、体に浮遊感を感じた。すると、落下スピードは急激に減速し、ゆっくりと地面へと着地した。
「……どう?」
良二を大空へと誘った少女は、あどけない表情でそう聞いてくる。恐らく先程のスカイダイビングの事を言っているのであろう。良二はスゥーと深呼吸をすると、少女に話かけた。
「殺す気かぁぁぁぁぁ!!」
少女がビクッと肩を揺らすが、良二は続ける。
「突然美少女が部屋に入ってきたと思ったら紐なしバンジーってどういうことだコラ! こちとら本気で死ぬと思ったんだぞ! 今回はなんか助かったけど一歩間違ったら死んでたからな! てかここ何処だよ!」
「……天宮市」
「天宮市? そんな地名あったか? ……今天宮市って言った?」
「うん……天宮市」
少女が何の迷いもなく言ってくる。その表情からは嘘を言っているようには見えない。少なくとも彼女は天宮市だと思っているようである。
「いや、日本に天宮市なんてないよね?」
「……ここはあなたの知ってる日本ではない」
「いや、じゃあここは何処なの? 中国?」
「いや、日本。ただ世界が違う」
天宮市はデアラの世界に登場する架空の都市である。普通であればそんな都市に来たなどと言われても信用出来ないのだが……
「スゲー見覚えのある学校がある」
落ちた場所はアニメやゲームで何度も見た場所、
道が通う高校『来禅高校』の校庭であった。
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良二達は近くのカフェへと移動した。どうやら来禅高校
は授業中のようだったため、校庭にいたままではすぐに見つかっていただろう。天宮市に来ていきなり警察に厄介になるなどまっぴらごめんである。
「ここがデアラの世界だってことは分かった。で、なんで俺をここに連れてきた?」
「……世界を救う為」
「省略しすぎじゃあ! もうちょっと詳しく説明してくれ」
すると、少女は少し考えこんだ後、口を開いた。
「……私は未来から来た」
「なるほど」
良二が返答すると、少女が不思議そうに聞いてきた。
「……信じるの?」
「いきなり部屋に入ってきて異世界まで連れてこれる奴が普通の人間だったらそっちの方が驚きなんだが」
良二が質問に返すと、特に気にする様子もなく続けた。
「……今から十年後、世界は滅びる」
良二はその言葉を聞くと、渋面を作った。世界滅亡、これまたスケールのデカイ出来事が起こったものである。確か今本気で戦争をやれば地球が崩壊する的なことを聞いたことがあった。その情報が真実かは分からないが、この十年の間に何かがあったのだろう。
「続けてくれ」
良二が返答すると、少女は続けた。
「……今から三週間後、世界に精霊が現れた」
「精霊!?」
精霊はデアラにおいての重要人物。五河士道が攻略すべきヒロインである。だが、精霊が世界を滅ぼそうとするなんて考えられる事ではない。確かに壊しかけたことはあったが、それは彼女達の意志ではないのである。
そんな精霊が世界を滅ぼしにやってくる。それはにわかに信じられる事ではなかった。
「……正確には精霊の力を持った別の何か。私達はカースと読んでいる」
「カース……」
良二には覚えがあった。九巻に写っていた黒の化身。恐らくあれがカースなのだろう。段々と話が見えてくる。何故デアラの内容が変わっていたのか、何故この世界に来たのか、良二はゆっくりと口を開いた。
「この世界が崩壊すれば、その力はカースって奴の所に行くのか」
「……そう」
少女が首肯する。どういう原理かは知らないが、黒い化身によって世界が滅ぼされると、その世界の力が黒い化身に集まるようである。つまり精霊の力を得た化身が十年後に世界を滅ぼす。それを阻止する為に良二はこの世界に連れてこられたということである。
恐らく元の世界でデアラの内容が変わっていたのはこの世界が滅びたのが原因だろう。ひとしきり思考を終えた後、良二は質問を投げ掛けた。
「で、なんで俺なんだ?」
何よりの疑問、何故自分なのかである。良二には超能力もなければ天才的頭脳もない。正直言って戦力外である。だが、そんな如何にもな疑問は、次の一言で消えることとなる。
「……気づいたから」
「へ?」
「……世界を救うにはこの異変に気づける人物が必要だった。そして、あなたは真っ先に気づいた。それが理由」
意外と簡単であった。ただ気づくことが出来たから、それ以上でもそれ以下でもないようである。しかし、これだけで質問は終わらない。良二は質問を重ねる。
「俺が連れてこられた理由は分かった。だが、この世界を滅ぼすような奴相手にどうやって戦うんだ?」
世界を滅ぼすような大敵にどうやって立ち向かうのか、迎撃手段は気になる所である。だが、良二の元へ帰ってきたのは予想外の言葉であった。
「……ない」
「はっ?」
「……迎撃方法はない」
「ちょっと待て! 迎撃方法ないならなんで来たんだよ!」
少女は考え込むような動作をとると、話を続けた。
「……カースに世界を滅ぼす力はない。ただ、ストーリーの主要人物、例えば主人公なんかがカースに殺されたりすれば、ストーリーは崩壊し、二度と元には戻らない。ただ、カースに主要人物を殺させることなく撃退出来れば私達が世界から出ていくことで物語は元の形へと修正される」
「だが、迎撃手段がないんだろ? 俺らは何をすればいいんだ?」
いくらやることが分かっても力がなければ意味がない。カースという奴も疲労していたとはいえ精霊達を全滅させる程の力を持っている。正直良二達が戦いに加わった所でただのお荷物である。
「……確かに今はない。けど、迎撃手段を得ることは出来る。その為にあなたを連れてきた」
「どういうことだ?」
未来の技術か何かだろうか? だとしても何故自分が必要なのだろうか? 良二は首を傾げる。
「……あなたには力を継承してもらう」
「継承?」
良二は思わず聞き返した。話が全く見えない。継承とは一体どういうことだろうか? 次々と疑問が浮かんでくる。
「……あなたにはデアラの世界の誰かの力を継承してもらう。そしてその力でカースを倒してもらう」
「いや、全く分からん」
「……説明が難しい」
少女がうーんと考え込む。その表情がまた可愛らしい。
性格は少し変だが、かなりモテそうな顔立ちである。……
「……理解すること」
「理解?」
不意に発せられたその言葉に良二は思わず聞き返した。
「……そう。そのキャラクターの意志を、思いを、生き方を、理解することによって使うことが出来るようになる」
なんとも反応に困る答えである。理解ーー簡単そうに思えて凄く難しい話だ。人間の感情を理解するのは極めて難しい。キャラクターとなれば話は変わるかもしれないが、それでも容易ではないだろう。
「でもやらなきゃ世界は救えないんだろ?」
「……そう。これはあなたにしか出来ない。お願い世界を救って」
無表情で訴えかけてくる少女。お願いにしては感情が籠っていないが、その思いだけは伝わってきた。こんなことされれば、断る訳にも行かない。その上世界の危機までかかっているのである。尚更断る訳にも行かないだろう。
「分かった。やるだけやって見る」
「……ありがとう……あなた」
「いややめてその呼び方! なんか俺とお前がカップル見たいじゃん!」
良二は堪らず悲鳴じみた声を上げる。そこで、まだお互いが名乗っていないことに気がついた。道理であなたなんて恥ずかしい呼び名になるものである。良二は少女へと視線を戻し、口を開いた。
「俺は香山良二。よろしく」
「……私は月野辻三。よろしく」
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〈フラクシナス〉の艦橋、メインモニターに写し出された映像を見て
「うーん上空15000mに突如現れた男女ねー。令音、霊波は観測出来た?」
「いや、彼らから霊波は観測出来なかった。どうやら精霊ではないみたいだ」
琴里の確認に令音が答える。しかし、精霊でないのならば一体なんなのだろうか? 琴里は奇妙な光景を見ながら、ため息を吐いた。
「厄介なことが起こらなければ良いけど……」
次回予告
「俺、良二はとうとう五河士道と対面する。夢にまで見た〈フラクシナス〉の艦橋まで見られるなんて最高だぜ!次回、ラタトスクの兄妹