内容や文面などの批評等よろしくお願いします。
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少々の描写修正。
場面追加。
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和暦追加(現代基準)
開始時の西暦を2022年(令和四年)に設定。
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文章&誤字修正。
第一話
テクノロジーは倫理的には中立だろう。我々がそれを使うときにだけ、善悪が宿る。
──ウィリアム・ギブソン
令和四年、一月上旬。世間が新年を祝う中白い景色に囲まれた墓地に一人の青年がいた。
左頬に二本の古傷がありその目には光は無く、まるで感情を失ったかのように表情は硬い。
雪が降り積もる中、学生服だけを纏い持ち物は黒い傘一本のみである。
この時期にしてはあまりにも軽装であるが、寒さを感じていないかのように黙りしてある一点を見ていた。
その視線の先には一つの小さな墓石。かなり新しく建てられたその墓をじっと見つめるその姿は哀しみに満ちていた。
どれ程の時間が経ったか、しばらく佇んでいた彼はようやく言葉を発する。
「とうとう一人になっちまったな……」
その言葉には力がなく、消えてしまいそうなぐらいに小さい。周囲には誰もいないが、仮にいたとしても聞こえはしないだろう。
当然返事をする者はいない。それでも青年は言葉を続ける。
「くそったれ……」
現在、世界は女尊男卑という社会で成り立っていた。
女性は優遇され、男性は虐げられる社会。昔は男尊女卑という社会があったがそれとは比べ物にならないほどの格差社会。
女性は人権等を無視したような横暴も許され、男性は些細な事ですら最悪社会的に抹殺されてしまう。
いったいどれ程の男性が悲鳴を上げているのか定かではないが、多数が虐げられているのだろう。
「また近いうちに来るわ、次は良いもの持ってくるから……」
そう一言呟いて青年はその場を離れる。既に青年の心に希望という文字はなく、絶望に近い感情を抱えて墓場を後にした。
彼はまだ知らない、知るよしもない。
今後降りかかる自分の運命を。
今以上に絶望を知ることを。
この狂った世界の元凶に関わっていくことを。
『インフィニット・ストラトス』、通称『IS』と呼ばれるマルチフォームスーツにより世界の技術は飛躍的に上昇した。
本来は宇宙開発を想定した運用目的であったが、
その強大過ぎるISの運用を規制するために二十一ヵ国が参加し『
規制をかけてしまうほどの圧倒的な戦力となる代物であるが、ISには最大の欠点が存在する。
それは女性にしか反応しないというもの。それが原因となり世界は女尊男卑という世の中となった。
ISが出現して十年。女性が優遇され男性が虐げられる世界であったが、その世界にある希望が見え始める。
女性にしか反応しないはずのISが男性に、しかも二人に反応したのだ。世界中の男性は歓喜に満ちていた。
彼ら二人を研究し今後ISを扱える男性が増えれば今の社会も少しは良くなるはず、明るい未来がきっと来る、そう確信していた。
しかし、それは世間にとっての話だ。
「あ、ああ……」
「や、やった、反応したぞ……! これで二人目が……! ……どうかしたのかね、君?」
「あああああぁぁぁぁぁっ!!!」
誰も予想もしなかった。
「くそったれがあああぁぁぁっっっ!!!」
「落ち着いてくれ! 誰も君に危害を加えはしない!!」
「ざけんなぁ!! どうして……!! なんで……!!なんで反応してんだよっっっ!!!」
反応した二人の内一人は──。
「くそがっ……!! 外れねえ……!! 外れろ……!! 外れろって……!! 外れろってんだろうがあああぁぁぁっっっ!!!」
「まずいっ! 彼は錯乱している!! 機体の強制解除は出来ないのかっ!?」
「ダメです! エラーを起こして反応しません!! そんな……保護機能が働いてないだなんて!?」
女尊男卑の悪意によって心身共に傷つき──。
「………っ!?やめろっ!!来るなっ!!来るんじゃねえっっっ!!!」
「ぐあぁっ!!だ、誰か!!あ、IS警備隊に通報をっ!!」
「俺に近寄るんじゃねええええええぇぇぇ!!!」
重度の女性不信となった被害者であることを──。
「やめろおおおぉぉぉ!!! 離せえええぇぇぇ!!! 俺を殺せえええぇぇぇ!!!」
「ぐあっ! な、なんて力だ……やむを得ん! 総員、対象を鎮圧しろ! 絶対に怪我はさせるな! 機体が解除され次第、彼に鎮静剤を打つ!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」
そして、ISを誰よりも憎むようになった人間であることを──。
「ぐ……。は、離し……やがれ……! 殺してくれぇ……!」
「許してくれ……。だがこれも君のためだ、今は我慢してくれ……すまない」
「あ゛あ゛……」
世界は、彼に明るい未来など与えなかった。
世界は、彼にとってこんなにも残酷だった。
日本列島本州から少し離れた島に設立されている特殊国立高等学校『IS学園』。
アラスカ条約に基づいて建てられたこの施設はISを扱う操縦者や整備士など、将来ISに関わっていく人材を育成するために存在する。
学園の特性からして九割以上が女性となる学園はISに直に触れることが出来る、就職に大きく有利になるなどして入学希望者は世界中からやって来る。
来月の四月には新入生が入学するため教師や関係者は多忙の日々を送っているが、今年に限っては今まで以上に慌ただしかった。
「お疲れ様です、織斑先生」
緑髪の女性は両手にコーヒーを持ち机で書類整理をしている黒のスーツが似合う女性に声を掛ける。
彼女の名は山田真耶。IS学園教師の一人でありIS操縦者としても優秀である。
普段から眼鏡をかけてあり、
「ああ、すまないな」
書類整理を一旦やめ、コーヒーを受け取る彼女の名前は織斑千冬。ISを扱う世界大会『モンドグロッソ』の初代優勝者であり、世界最強『ブリュンヒルデ』の称号を持つ元日本代表のIS操縦者。
知らない人はいないとされる彼女は現在IS学園の教師をしており、生徒達に限らず他の教師も指導することがある。
「今年は忙しくなるな……」
「はい、男性操縦者の発見ですものね。弟さんは今………?」
「あいつは今ホテルにいる。屈強な男達に囲まれながらな」
「あ、あはははは………」
IS学園が今まで以上に多忙の理由。それはISを扱える男性の処遇についてだった。
十年間女性にしか反応しないはずのISが、二人という極少数の男性に反応を示したのだ。前例など当然無く、世界中が欲しがっている。
世の中には目的の為に手段を選ばない人間も存在する。そんな輩から護るために、彼らの今後を決める為に保護という名目でIS学園に入学させることを決定したのもつい最近であった。
世界初の男性操縦者の名前は織斑一夏。藍越学園の受験の為試験会場に向かったのだが、何かしらの手違いによってISに触れてしまい、動かすことが出来ると判明した。ニュースで全面に放送された事もあって今や彼を知らない人間はほとんどいなく、世界最強の弟ということもあり今後に期待されている。
現在彼は入学までの警護として、選りすぐりの護衛に囲まれた生活を送っている最中だ。窮屈で仕方のない事だろう。
「それじゃあ、二人目の彼は………?」
実のところ、真耶は現時点で二人目についての詳細は全く知らされていない。
一人目が発見された翌日、世界は男性に向けて一斉に適性検査を行った。一人目がいるならまだ反応を示す男性が存在するはずだと。適性検査を始めて一ヶ月、三月の中旬辺りに差し掛かってきた所で遂に二人目が発見された。
彼もまた一人目と同じ理由でIS学園に入学させることになるのだが──。
「…………」
──二人目について問い掛けた途端、千冬の顔が曇る。非常に言いにくいのか、彼女は口を開けただけで言葉を発しない。
「織斑先生……?」
「これを見てくれ」
そう言って千冬は一枚の書類を真耶に渡す。いったいなんだこれはと、彼女は表情に出るほどの疑問を浮かべた。
「なんですこれ?」
「二人目に関する物だ。正直、弟より二人目の方が苦労するかもしれん。」
「はぁ……」
千冬の言っている意味がよく分からず、疑問に思いながらも目を通す。
そして、読めば読むほど真耶の表情は悲痛な顔に変わっていく。
「織斑先生……。これ……って……」
「ああ……この書類によると四月から就職するはずの彼は今まで検査を渋ってたらしい。近所の人達に聞くところによると女性とISが嫌いとして有名だそうだ。それ以外の情報は出なかったがな……。徹底的に検査を拒否する彼を政府が強行手段に出て、とうとう観念して検査を行ったのだが……」
その話だけでもとんでもない事だが、話を折る事はせず彼女は黙って訊く。
「ISの起動に成功した途端錯乱し、暴れまわった後自傷行為に陥っていったとのことだ。最終的に通報を受けたIS警備隊が鎮圧し、今は拘束中だ。検査スタッフの何人かは怪我を負ったらしい」
渡された書類には、二人目の適性検査を行った際の詳細と彼の家族構成が書かれていた。
その書類をまじまじと見ている彼女に向けて千冬は真剣な表情で語る。
「彼には親はいない。八年前に離婚し母親と三つ年下の妹が離れ、去年の十二月の初めに父親が亡くなっている。過労と精神的ストレスによる衰弱死、だそうだ」
「そんな……じゃあ彼は……」
「そうだ……恐らく彼も、その父親も女尊男卑社会の被害者だろう」
女尊男卑思考の女性の悪意によって被害を被った青年が、今後その元凶となるISに関わり、九割以上女性しかいないIS学園に身を置く。
その上彼は新入生と一人目の男性操縦者よりも三つ歳が離れてる。周りに馴染めないであろう光景を思い浮かべるのは簡単であった。
これがどれ程の苦痛なのか、真耶には想像も出来ない。
「山田君」
「はい……」
真耶の返事には先程まで仕事をこなしていた時のような元気はない。彼に対してどのように接すればいいのか、現状分からなくなっているからだ。
「彼は入学式当日に政府が送るそうだ、彼の対応は私がする。他の教師や従業員にも伝えておくが……、決して刺激するな」
「分かりました……失礼します」
そう言って真耶はその場を離れ覇気のない足取りで職員室から出ていく。その姿を見送った後千冬は、周囲を目だけで見渡し誰もいないことを確認すると卓上で手を組んでため息を吐き独り言を呟く。
「……すまない」
それは誰に対しての言葉なのか、それを知るのは千冬ただ一人。世界最強が決して誰にも見せない姿がそこにあった。
夕日が沈む頃まで懺悔をしていた彼女は、ようやく腰を上げて職員室を出ていく。
もぬけの殻となった職員室の中、彼女の卓上には二人目の名前と顔写真が載った書類が残されている。
顔写真に写る青年は左頬に二本の古傷があり、目に光は無く、そして暗かった。
そこに記されていた彼の名は──。
IS学園の入学式まであと数日の夜。とあるホテルで男達はある人物を鎮静させるのに手子摺っていた。
「何を考えてるんだ君はっ!! いい加減に大人しくしろっ!!」
「離しやがれっ!! 誰があんなところ行くかっ!! あんなところに缶詰にされる位なら、それならいっそ……!!」
「そんなこと黙って見ていられる訳ないだろう!! 君は世界で二人しかいない男性操縦者なんだぞ!?」
「知ったことかあああぁぁぁ!!!」
その人物は、ISが反応を示した世界で二人目となる青年。彼も一人目と同様に入学式に合わせて向かわせる予定なのだが、本人はそれを強く拒絶していた。
適性検査した際暴れ狂う彼に鎮静剤で無理矢理大人しくさせ、ホテルに拘束した時から数日間ずっとこの調子だ。男達の目を盗み逃走を繰り返し、失敗すれば自殺を図ろうとする。そのおかげで彼を閉じ込めてる部屋にあるはずの物は全て撤去しており、二十四時間体制で監視しなくてはならなかった。
それでも彼は男達の僅かな隙を見つけ、暴れだし逃げ出そうとするか自殺しようとしている。男達はそんな事を黙って見過ごすわけにはいかなかった。
「どきやがれこの野郎っ!!」
「ぐあぁっ! こ、このガキ……!」
「応援を呼べ!! それとテーザーガンと鎮静剤を用意しろと伝えろ!! 早く!!」
狭い一部屋で繰り広げられる青年と男達の乱闘。誰がどう見ても青年に勝ち目は無いはずだが、状況は彼の方が押していた。
「う゛らぁっっっ!!!」
「ぎゃああっ!! こ、このガキ……!! 俺の……!! 俺の腕をっ……!!!」
「邪魔をすんじゃねえええぇぇぇ!!!」
数人の男達を前にしても彼は怯む処か狂暴さを増すばかり。既に数人は大怪我を負っており、このままだと全滅は免れない。
しかし、それも終わりを告げる。
「があああぁぁぁっっっ!!!」
彼は応援に駆けつけた男のテーザーガンにより地面に倒れる。その隙を逃さずに軽傷で済んだ男達総出で彼を押さえつけ鎮静剤を打ち込んだ。
「が………あ………く………そ………」
「許してくれ………許してくれ………」
「ぐ………う………」
彼の狂暴さは次第に無くなり、数分経ってやっとの事で大人しくなる。しかし、それでも眼力だけは凄まじく男達を睨んでいた。
「っ……。これ以上暴れられても困る、縛っておけ。舌を噛み切らないように口もだ」
「──っ!?────っ!?」
男達は彼の手を、足を、口を縛り部屋の中央に転がす。端から見れば貴重な人間を保護する者達には見えない。しかしその保護する人間が暴れるようであれば致し方ない事だ。
「……怪我人を運べ。軽傷で済んでる者は引き続き監視をしろ、後に交代要員を向かわせる」
男の指示により大怪我を負った数人は部屋から運ばれていく。怪我人を見送り、唯一怪我をしてない男は部屋を出ていく前に彼に向かう。
「君の気持ちは良く分かる、だがこれは決まったことだ。我々では君を助けられない……」
「…………」
「すまない……」
その一言を最後に男は部屋から出ていった。
青年は、今後IS学園でどのように過ごすかは想像出来ない。少なくともそれは辛く苦しいものであろう。
女尊男卑の悪意によって心身共に消えない傷を負ってしまった彼の名は『
彼が遭遇する地獄が始まるまで、残り僅か──。