久々の執筆ということもあって所々ガバったりスカスカな所があります。もしかしたら作者の気づかないミスがあると思いますが、どうかその時はオブラートにお願いします。
オリ主の日曜編、ついに終了。
令和四年六月五日。
この日、『野良犬の巣窟』を付け狙う『飼い犬』は全滅した。
『髑髏』を恐れる『飼い犬』は確実に隆道を始末する為、彼の護衛と偶々彼の地元に足を運んだ教員二人を拉致監禁。三人を人質として盾に使い、彼自身を辺境に誘導し『飼主』の指示により殺害する予定だった。
しかし、その彼こそが『髑髏』そのもの。仲間にすら恐れられる程の狂暴性と残虐非道な凶暴性を持つ『髑髏』の始まりであり『髑髏』の頭目。彼等は狩られる道を選んだのだ。
その結果、起きてしまったのが今回の大惨事。他人の安否を一切考慮しない強襲と捨て身の猛攻によりまたたく間に約半数が餌食となり、残党は駆けつけてきた大勢の『髑髏』が殲滅。『飼い犬』四十九人全員が重傷、または重体という過去の事件と比較にならない程の惨状を生み出した。通報が少しでも遅れていれば失血による死者が出た可能性があったとか。
救急隊によって地元の病院に直ぐ様搬送された『飼い犬』達は数があまりにも多く、構内は正に戦場と言っても良いほどだ。医師達はしばらく多忙に追われる事だろう。
勿論、そこを出入りしている一般人や入院している患者達はそれを目の当たりにしている。当然ながらその光景を見た人達は恐怖に駆られ──。
『ああ、髑髏が動いたのか。となるとしばらくは安全、かな』
『ざまぁ見ろ飼い犬共め』
『ばあさんや、今の聞いたかぁ? え? 違う違う、ハチは去年死んじまったろうが』
──る事は決して無かった。こういった事は慣れているのだろう。流石は『野良犬の巣窟』に住む人達、非常に図太い。というか逆に生き生きとしていた。
巻き込まれた人質三人の内二人──教員の菜月と護衛の真吾も怪我を負ったが、此方は幸いにも軽傷で済んでいる。怪我を負わなかったのは現場から立ち去った『髑髏』達を除けばたった一人、真耶だけ。彼女だけが無傷で助かったのだ。
救急隊の到着前に行った応急手当のお陰で二人の治療は直ぐに終わり、事情聴取を受けた後に事態を知った政府とIS学園上層部によって保護。真吾は政府の元へ、菜月と真耶はIS学園へと戻される。
彼等は還る道中、『野良犬の巣窟』から立ち去るまでに人々から冷たい視線を感じたとのこと。その時の全員が──。
『二度と来るな、余所者』
──そう言われたような気がしたという。
無数の弾痕を残し、大勢の怪我人を出し、文字通り血の海と化した恐ろしくも悍しい事件。発見された凶器は多数の刃物や鈍器と、弾切れとなった拳銃が4丁。しかし──。
──使われたであろう散弾銃と実包は発見されていない。
警察、政府、IS学園に知れ渡る頃には終わっていたこの事件は『六・五青少年抗争事件』と呼ばれ、世間には公表されず秘密裏に捜査される。
こうしてまた一つ、『野良犬の巣窟』に血生臭い歴史が刻まれていくのであった。
忘れてはならないのが、事件の中心人物であり力の限り暴力を尽くした隆道である。
彼も今回の事件で相当の大怪我を負った。刃物による切創、防弾ベストとISスーツ越しに受けた弾丸と殴り合いによる内出血が多数。最低限の応急手当を受けていたが、止まらない出血と見るに堪えない身悶えにより救急隊は血相を変えて彼を緊急搬送。病院に着くまでの間も治療に心血を注いだ。
『二番目の男性操縦者』という肩書きを背負う彼は誰よりも治療を最優先される。世界に二人しか存在しない男性操縦者、その片方を失ったとなれば確実に全てが終わってしまうだろう。彼は、自身が忌み嫌う肩書きによって優遇されるのだ。それはあまりにも皮肉なものだ。
何処へ行こうと、人としてあるまじき行為をしようと、彼はもう──ISからは逃れられない。
数時間後の夕方、五時辺り。
『野良犬の巣窟』付近に佇む警察署。件の事件により署内は何処も彼処も慌ただしいそこは、ある一部屋──取調室だけが静かであった。
そこには二人の男、片やスーツ越しでも分かる屈強な肉体を持つ中年の男性。もう一人は──。
「……お前さんがここに来るのは何時振りだろうな。元気にしてたか?」
「……あのよ、おやっさん。どこをどう見たら元気に見えるってんだよ、目ン玉腐ってんのか」
「はは、相変わらずだな。もういい年なんだから少しは年上を敬ったらどうだ、んん?」
「はんっ。敬え、ね……どーの口が言うんだか」
──屈強な男に悪態をつく青年──隆道。
灰色無地のTシャツにジーンズ姿というラフな格好、その下には満遍なく包帯が巻かれてある。首元から下を覆い尽くしたその姿は非常に痛々しいが、本人は平然とし椅子に凭れ掛かっていた。謹んだ態度は皆無で、まるで自宅と言わんばかりのだらしなさだ。IS学園でもそうであったが、この青年はしゃんと椅子に座る事が出来ないのであろうか。
そんなだらしなさ全開の彼が取調室にいる理由は勿論、事情聴取の為である。事件の当事者なのだから当然の事だろう。
治療を終えた彼が警察署に連行されたのがつい先程であり、先に事情聴取を受けていた三人の姿は既に無い。つまり入れ違いであった。
「まあ、その方がお前さんらしい。畏まるお前さんなぞ見たくはないからな」
「そりゃよかった。……つーか腹減った、カツ丼食わせろよ」
「あんなもんはドラマが作り上げたイメージだ。取調室では食事禁止なんだぞ、何回このやり取りしてると思ってるんだ」
「別に良いじゃねえか。バレなきゃ良いだろ」
「アホな事言うな。水でも飲んでろ」
「これ、くっそ温いんだよなあ……」
事情聴取とは思えない二人の談笑。男は彼の態度には意に介さず、彼自身も悪態はつくも表情は硬くない。以前からの知り合いである故のやり取りであった。
彼の目の前にいるこの男はこの警察署に所属する刑事だ。彼は男を『おやっさん』と呼び、男は彼を『お前さん』と呼んでいる。
二人の出会いは約四年前、彼が中学二年の頃。冤罪によって逮捕され、取り調べ時に対面したのが最初であった。
それ以降、逮捕される度に顔を合わせる事になった二人はいつの日からかこのような軽口を叩ける関係となったのである。カツ丼のくだりは二人にとって様式美なのだ。
「ははは……ふぅ。まあ、楽しい楽しいお喋りはここまでだ。時間も惜しい」
「はいはい。……んで、何から訊きてえんだ」
「……お前さん、『髑髏』だったそうだな。運ばれたクソガキ共が喚いてたぞ」
「……ああ」
男は先程までの柔らかい表情から一変、一瞬にして硬くなる。彼も男の問いによって表情を無くすが、訊かれるのはわかりきっていたからか動揺は一切見受けられない。
「……いったい何時からだ」
「『白髪の髑髏』……って言えばわかるだろ」
「……『髑髏』の始まり、か」
「意外だったか? 『髑髏』の頭がテロリストでも何でもない……そこら辺にいる様なくそったれなクソガキだってことによ」
彼は隠す素振りもなく、堂々と言い放つ。それは決して観念などではなかった。
警察が『髑髏』を追って早三年。今まで一切の正体を掴めず、誰一人として捕まらなかった。どれだけ早く現場に駆けつけようと、張り込みをしようと、彼等はそれを掻い潜り度々事件を起こしていた。住民に協力を仰ごうとも、知らぬ存ぜずの一点張り。だが非協力的なのも当たり前の事だった。
何せ、『髑髏』が現れる以前は過激派の横暴を見て見ぬふりをし、住民の悲痛な叫びに耳を傾けなかったのだから。──いや、出来なかったと言うべきか。
そんなふざけた馬鹿な話があるかと疑問を抱くだろう。しかし、この世は皆が思っている以上に女性が持つ権力は高い。
女性優遇制度により、どれだけ理不尽であろうと女性のたった一言で男性は人生に王手をかけられる。これは警察に所属する人間も例外ではない。軍隊と並ぶ国家の実力組織が、だ。
勿論、表だって警察に楯突けば流石に捕まってしまう。でなければ警察の存在意義が無い。
人間は悪知恵が働く生き物である。圧力を掛ける、陥れる、弱味に漬け込む、闇討ちをする、方法などいくらでも存在する。
警察は組織全体ならば強力だ。だが一人一人──個人ならばどうであろうか。
答えは非力である。どれほど正義感や志があれど、強大な『悪意』の前ではそんなもの一発で消える。消し飛ばされる。
この世は何処も『悪意』が潜み、満ち溢れている。真っ当な人間程、目を付けられるのだ。
──故に、過激派を止める事が出来なかった。
──故に、住民を助ける事が出来なかった。
──故に、『
──そして、何れ新たな『悪意』が現れる。
どうしようもない悪循環、正に負の連鎖だ。『悪意』が『憎しみ』を生み、『憎しみ』がまた『悪意』を呼ぶ。最早この連鎖は止まる事を知らない。この鎖を断ち切る術はどちらか一方が滅ぶまで終わらないのだ。
「……お前さんが頭だってんなら、他の『髑髏』を止める事は出来ないのか」
「抑える事は出来ても止めるのは無理だ、どんな奴等が集まってると思ってんだよ。くそったれISのお陰で直接的被害や煽りを受けた奴がゴロゴロいるんだぞ」
「……女の『髑髏』もいたと報告が上がっているが。お前さん、確か極度の──」
「同じ境遇の人間を憎む理由があるのかよ」
『髑髏』は、程度は違えど隆道と似たような境遇に遭遇している。それは男性だけではなく、女性も含まれる。
直接被害を受けて壊れてしまった者、かけがえのない大切なものを失った者。それによってISを、女性を、世界を憎む。そこに性別の壁は存在しない。
「……はぁ、なんて言うべきか。俺達大人が無力だったばっかりに……。今まで──」
「やめろよ。原因や過程がどうであれやってる事はくそったれそのものだ、刑事であるおやっさんが謝るんじゃねえ」
「……そうか。……お前さんが何であれ、どのみちIS学園に還す事になるだろう。それまでに今日起こった事の発端から聞かんとな」
「還される? こんだけの事をしといてか」
「今回、お前さんがした事は『身を挺して武装集団から人質を救出した』だからな。しかも本来護る役割を持つ人間が、護るべき生徒にだ。この事実は決して公には出来ん、政府は全力で行動を起こすだろう」
世界で最も重要とされる彼が、彼を警衛すべき人間の危機を救った。これが世間に知れ渡れば日本とIS学園が責任を問われるのは明白。それを防ぐ為には隠し通さねばならないのだ。
もし、公となり他国から弱味を掴まれてしまえば──想像するだけでも恐ろしい。
「……はっ、そうかよ。どの国も必死だな」
「それだけお前さんは貴重ということだ。……話がだいぶ逸れちまった、もうしばらく俺と付き合え。と、その前に……」
そういって男は携帯を取り出し電話を掛けた。数秒程時間が経ち相手が出た瞬間、男はとんでもない事を言い放つ。
「俺だ、カツ丼特盛を二つ、お茶を二本頼む。取調室に持ってきてくれ、大至急な。……なにぃ? 知ったことか、さっさと行ってこい!」
それはまさかのパシリであった。しかもこの男、それを食事禁止の取調室に持ってこいと言い出したのだ。先程と言ってることが全然違う。
これには流石の隆道も困惑、おもわず目を丸くしてしまった。
「ったく……ああ、俺の奢りだからお前さんは気にすんな。あと、その水こっちに寄越せ」
「……?」
男は電話を切るなり、空いてる椅子にふんぞり返り彼のコップを寄せるよう手招き。彼はそれを疑問に思いつつも渡すと、男は上着の中から手の平サイズの箱──煙草と年季の入ったオイルライターを取り出す。
彼は直ぐに察した。この二つを取り出した意味などたった一つしか存在しない。
「んっ……フゥー……。あ~あぁ……」
「お、おやっさん……あんたって奴は……」
「……? ああ、わるい。換気扇回してくれ」
なんとこの男、あろうことか取調室で煙草を吸い始めたのだ。当然ここは禁煙である。
あまりにも自由すぎる。フリーダム一直線の男に彼はとうとう顔が引きつってしまった。
「ここには俺とお前さんだけだ、録画も録音もされてない。バレなきゃ良いんだよバレなきゃ。尤も、バレたところで痛くも痒くもねえがな。ここでは俺がルールだ」
「……くっ……はは、はははっ! この悪党が。……んっ」
「んん? なんだその手は」
「俺にもくれよ。口止め料だ」
「……何が口止め料だ、このクソガキめ」
そう言いつつも、男はにこやかな顔で一本の煙草とオイルライターを渡した。彼はそれを慣れた様に火を付け、それを吹かす。
「随分と慣れてるじゃないか。さてはお前さん、今までこそこそ吸ってたな?」
「フゥー……たまーにだけどな。つーかこれ軽くねえか? もっと重いのねえのかよ」
「……ほんっとお前さんはクソガキだな」
「はんっ、知ってるっつーの」
それから二人はカツ丼が来るまでの間、常に紫煙を燻らせながら談笑を交えた事情聴取を続ける。そこでの彼は、IS学園では決して見せない笑顔があった。
時刻は夜の七時。
『野良犬の巣窟』から少し離れた建物のある一室。そこには化粧が濃い女性が一人、何やら焦った表情で何処かに電話を掛けている。
「お願いします、私をお助け下さい……!」
『えぇー、私には全っ然関係ないんだけどぉ。勝手に巻き込まないでくれるかなぁ?』
「そこをどうか……!」
『っていうかぁ……私言ったよねぇ、彼処に手を出すのは駄目だってさぁ。こっちの言うことは聞かないくせにそっちのお願いは聞いてだってぇ? ……お前、私を舐めてんの?随分偉くなったな』
「い、いえ! 決してそのようなことは……! それに、今回は
電話の相手は最初こそしまりない口調であったが、途中辺りから声のトーンが急激に低くなりソレは威圧に変わる。ソレに恐怖を覚えた彼女は電話越しにも関わらず硬直してしまった。
電話を掛けている彼女は今回の事件に深く関わりを持つ者。『野良犬の巣窟』を付け狙っていた『過激派』の一人であり、隆道を襲った『飼い犬』を率いる『飼主』。
そう、『髑髏』という狂気を生み出した諸悪の根源の一人である。彼女の名前は──覚える必要は無いだろう。
彼女の言う
しかし、それらは全て無駄に終わった。彼女は相手の力を大いに見誤っていたのだ。まさか全戦力である四十九もの駒が一度に全滅するなど思っても見なかったのであった。
『飼い犬』達は所詮捨て駒だ。彼等が捕まったところで足が付く事は無い。だが、隆道の生存により失敗という事実が残った。これは彼女にとって非常に痛手である。
今回の件で信用を失ってしまう。最悪、与えられた地位が、権力が、財産が全て失ってしまう。その将来が見えてしまい、危機感を覚えたのだ。
故に、最も頼れる人物に連絡を取り助けを求めたのだが──それも無駄だろう。
『だから、何? 独断にせよ命令にせよ、私にはお前を助ける理由は無いし、助ける価値も無い。私を巻き込むな、鬱陶しい、不愉快なんだよ』
「そ、そんな……。しの──」
『黙れよ、碌にISを動かす事も出来ない小物が。……お前とは違って私はす~っごく忙しいのぉ。もう切るから、じゃーねぇばいばーい』
「あっ、まっ──」
威圧的なソレからしまりない口調に戻った相手は、もう何も話すことは無いと言う風に別れの言葉を告げる。彼女は呼び止めようとしたが、それも虚しく一方的に電話を切られたのであった。
「あっ……あっ……」
部屋に鳴り響くのは電話から流れる無機質な電子音、たった一つ。彼女は見捨てられたと絶望しその場で崩れ落ちた。
彼女についてこれ以上語る必要は無いだろう。
もう、彼女の人生は終わりを告げるのだから。
同時刻。『野良犬の巣窟』付近の警察署。
カツ丼を堪能し、事情聴取を終えた隆道は煙草を咥え紫煙を燻らせていた。一緒にいた刑事は談笑の最中に来た着信により先程取調室から出たばかりだ。つまり、彼は今や一人。暇と化してた。
ここで念押ししておくが、彼は未成年である。煙草は刑事から分捕った物であり、禁煙室である取調室での喫煙という不良極まる行為。彼をクソガキと言わず何と言うのか。
「フゥー……」
取調室で一人暇の極みとなり煙草を吹かして十分後、先程出ていった男が漸く戻って来た。電話にしては長いなと思いながらも彼は吹かすのを止めない。
「悪い、待たせ……まーだ吸ってんのか」
「ん」
「ったく……。お前さんに朗報だ、今回の事件に関わる『飼主』の情報を掴んだ」
「……はあ?」
戻って来た男からのいきなりの知らせ。その内容に彼は素っ頓狂な声を出してしまった。
それもそのはず、今まで『飼主』の素性を掴む事が出来なかったのだ。なのに何故、今になってそれが判明したのか。
「その『飼主』を良く知る人間から連絡が来てな、今回漸く尻尾を掴めたそうだ。お前さんの殺害を企てたとあれば逃れる事は出来ん」
「……その『飼主』を良く知る人間って誰だよ」
良く知るという事は『飼主』と繋がりがある人物だというのだろうか。だとするならば情報を与えた人間も『敵』の可能性が極めて高い。警戒すべきかと彼は考える。
「さあな。確かな事は、俺達の『敵』ではない。ただそれだけだ」
「……まあ、いいわ」
彼の問いに対し、返ってきたのは含みのある言い方。多少の疑問と警戒心は生まれたが、自分達への脅威がまた一つ減ったのだから別に良いかとあまり深く考えない事にした。こういったことは考えるだけ無駄なのだ。
「さて、お前さんはこれでお帰りだ。IS学園の強力な護衛が駅で待機している、そこまで送ろう。車を用意するから入り口で──」
「……おやっさん」
「……んん?」
「……最後に一つだけ、聞きたい事がある」
彼は車を取りに出ようとする男を呼び止めた。男が振り返ると、彼の表情は真剣そのもので茶化す事は許さないといった雰囲気を醸し出している。
「どうした急に」
「……俺が出れたのは誰の手引きだ」
「……何を言うかと思えば。説明しただろうが、お前さんは──」
「今日の事じゃねえ。
「…………」
彼は昔から気になっていた。自分が何故、今まで何度も釈放されたのかを。
女性に訴えられたとあれば、冤罪であろうが確実に有罪になる筈だ。にも関わらず、釈放されている。一切何事もなく。
仮に、それが無かったとしても何度か喧嘩による傷害罪で捕まっている。だが、それも罰せられる事なく直ぐ解放された。幾ら何でもおかしい、あり得ないのだ。
「教えろよ……誰が俺を──」
「駄目だ」
「ああ?」
「こればっかりは教えられん。……少なくとも、
「なんだよそれ……!」
彼は男の言っている意味がわからなかった。何故、手引きしている人間を教えないのか。
別に手引きしている人間に礼を言いたい訳ではない。だが、知る権利くらいはある筈だ。
しかし、目の前の男はそれを知る必要は無い。確かにそう言っているのだ。
「それにだ。教える教えない以前に向こうは匿名を希望している。それを破る事は出来んよ」
「…………」
「なに、何れわかるさ。その時が来るまで待て」
「……くそったれ。ああ、わかったわかった」
男は頑なに教えようとはしない、それは口調からして理解した。決して揺らぐ事は無いだろう。
これ以上は平行線だ、彼は追求を諦める他無いのであった。
「さあ、もう良いだろ。さっさと出な」
「はいはい……ったく」
男の後を追うように取調室から出る隆道。ある程度歩いた所で、男は顔だけを向け彼に一言。
「ああ、そうだ。署を出る前に待合室に行け。お嬢さんが待ってるぞ」
「……? ……っ!?」
彼はその言葉を聞くなり、男を置いて待合室へと駆け足で向かった。
待合室まで十数メートル程の距離、決して急ぐ必要は無い。だが急がなければならないと、何故かそんな気がしていた。
急いで待合室へ着くと、そこで待っていたのは──。
「…………」
──大きめのバッグを抱き締める様に抱え、目を真っ赤に泣き腫らす女性──光乃が一人いた。此方に気づいてないのか、微動だにしていない。
「……光乃」
「……!」
彼の声は──非常に小さかった。それは耳元で囁く程の小さな声。しかし、それでも彼女は声に反応し此方を向き、その目は大きく見開かれる。
「あ……その、だな……」
「…………」
「……光──」
「うぅ……」
「っ……」
彼女は彼を見つめて数秒後、まるでダムが決壊したかの様に涙を流し恐る恐る詰め寄って来る。それを見た彼は何と声を掛ければ良いのかわからなくなってしまった。
「ぐずっ……ずっ……」
「…………」
段々と互いの距離が詰まっていく。何か一言言わねばと彼は口を開くも、どうしても言葉が出てこない。
とうとうその距離は目と鼻の先となり、彼女は彼の胸にそっと顔を埋めた。
「あ……」
「ごめん、なさい……ごめんなさい……」
「──っ!?!?!?」
「私が……側に……いれ……う゛ぅ゛……」
彼は胸を締め付ける様な痛みに襲われた。それは彼にとって今まで感じた事の無い痛みだった。
──何がごめんなさいだ。
──何でお前が謝るんだ。
──謝るのは──俺の方じゃないか。
この痛みの正体は彼にはわからない。しかし、今まで受けたどの痛みよりも痛いと感じていた。
「……悪かった、本当に」
「……んーん。元はと言えば、私が……」
そんなことはない。悪いのは不用意に外に出た自分自身。彼女に非など一つもない。
「……お詫びと言っては何なんだが、何か──」
「……じゃあ、一つだけ」
「うん?」
「もう少し……このまま……」
「……ああ」
それから数分間。彼女は彼の胸から離れようとはしなかった。
光乃から荷物を受け取った隆道は彼女と別れを告げ、刑事に駅まで送って貰った。時刻は既に八時近くまで経っている。
「ほー、迎えってのはあんたか。なるほどねえ、そりゃ強力な護衛だ。待遇良すぎて涙が出るわ」
「柳……」
彼の前に佇むのはスーツを身に纏う女性、世界最強の称号を持つ人物──千冬が一人。
今回の事件にいち早く気づいたのは他ならぬ彼女だ。理由は単純明快、彼の専用機と同期してあるタブレットである。
彼が『飼い犬』達へ襲撃をする直前の部分展開と全展開の通知によって彼女は異常事態を察知。各方面へ緊急連絡を取り、我先にここへとやって来たのであった。
しかし、ここへ辿り着いた頃には既に事件は終わってしまっていた。状況を把握すべく、一度は警察署を訪れたのだが──。
「あんたが警察署じゃなくここにいる理由は大体わかるさ。この辺りはISを目の敵にしてる奴が多いからな、追い払われたんだろ」
「……多少は覚悟をしていたのだがな、まさかこれ程とは思ってもみなかった」
「住宅街に行かなくて正解だったな。余計悪化するところだったぞ」
彼の言う通り、彼女は追い払われた。これ以上住民を刺激するなと警察から忠告を受けたのだ。全員とはいかないが、ここの住民にとって彼女は最も憎むべき存在の一人だ。そんな彼女が生身一つで来たとなれば暴動の一つや二つ起きてしまっても、なんら不思議ではない。
「……話は聞いた。山田君と榊原君を助けたと」
「そんなのただの結果だ。助ける気なんて更更無かったっつーの」
「だが手当てをしたのだろう? 助けたのは揺るぎ無い事実だ。……本当に、本当にありがとう」
「…………」
彼女は彼に向かって深々と頭を下げた。過程がどうであれ、二人の命を救った事には変わりない。ならば感謝をせず何をするというのか。
「……さて、帰るとするか。……安心しろ、私が全力を以て護衛をする」
「はんっ、そりゃ頼もしい事で」
頭を上げた彼女は駅の奥へ歩きだし、彼もそれに付いていきIS学園へと帰っていく。
こうして、柳隆道の血みどろで凄絶な外出は終わったのであった。
二人を遠くから眺めるのは一人の少年。
「…………」
「まさとー! 帰るぞー!」
「あっ! うん!」
少年は父親に呼ばれ、駅から離れていく。
「おとーさん聞いて聞いてー! さっきねー、男の人の後ろに
「それは本当かい? 可愛かったか?」
少年が指す男の人とは、隆道の事である。
「うん! モフモフですっごい可愛かった!」
「ははは、お父さんも見たかったなー」
父親がその犬を見る事は出来ない。決して。
何故なら、
では、少年は一体何を
それは誰にもわからない。
彼の後ろにいるのは──。
時刻は夜の九時過ぎ。
IS学園へ到着した隆道は『灰鋼』に後付武装を戻し、寮へ戻る最中に偶然にも一夏と箒に遭遇。そのまま自室へと招いた。彼は今、黒のレザージャケットを着てファスナーを一番上まで上げており、包帯を見られる事はまず無い。
「随分と遅かったですね。何かあったんです?」
「多少のトラブルがあったんだが……まあ、大した事じゃねえよ。織斑の方はどうだ?」
「友人とずっと遊んでましたね。あ、聞いて下さいよ。俺そいつとエアホッケーで対決したんですけどこれがまた弱くてですね。十六連勝もしたんです」
「ぷっ……。なんだそれは……」
「ははっ、クソザコにも程があんだろ」
和気あいあいと過ごす三人。さながらそれは修学旅行での消灯時間直前の光景だ。
一夏の楽しそうに語る様子からして、外出先では何事も無かったのだろう。杞憂だったなと彼は安堵した。
「柳さんはどうだったんです? 友人には会えたんですか?」
「ああ、そりゃもう嫌になるくらいの
「ひ、百!? ず、随分と多いんですね……」
「色々やったなあ。
「あ、あれ……? 俺って友人少ない……?」
「……!? 一夏!? おいしっかりしろ!!」
彼の話を聞いた一夏は崩れ落ちた。一対百なんて差が有りすぎる。もっと友人を集めれば良かったと後悔していた。
実態はそんな生易しいものではないのだが、一夏が知る必要は無いだろう。というか、知られる訳にはいかない。断じて。
「なに勝手に落ち込んでんだお前は。……ああ、そうだ。織斑、連絡先交換しようぜ。新しく携帯手に入れたからよ」
「……はっ!? あ、ちょっと待って下さい。今出しますから」
「私も良いですかね?」
「篠ノ之も? ……まあ良いか」
連絡先を交換し、三人は談笑を再開する。──が、その前に。
「ああ、いけね。コイツを忘れてたわ」
「……? 何です、これ?」
「激アツたこ焼き。モノレール手前で売ってた」
彼はバッグから袋を取り出し、そこから長方形の紙箱を取り出す。蓋を開けると、そこにはこれでもかと湯気を立てるたこ焼きが六つ。
「こ、これは……また……」
「せっかくだから食おうぜ。丁度良く爪楊枝三本あるしよ」
「……い、頂き……ます」
「……ます」
「ん。……あー」
三人は冷める様子の無い激アツたこ焼きを刺し、それを同時に口へ運ぶ。
もうお分かりだろう。彼等が次に何を叫ぶか。
「「「アッツゥッ!?」」」
至極当然の結果である。
時刻は深夜。
既に生徒全員が就寝についているその時間に、それは起こった。
──誰も、頼れない……。
──機体の稼働率、不十分を確認──。
──兵装、不十分を確認──。
──拡張領域、不十分を確認──。
──操縦者のBT適性、確認出来ず──。
──操縦者の並列思考、確認出来ず──。
──BT兵器、不適切──。
──でも、味方は……必要……!
──コア・ネットワーク、巡回開始──。
──操縦者の戦闘パターン、解析開始──。
──兵装データ、検索開始──。
──拡張領域、拡大開始──。
──んぎぎ……!
──待機戦闘形態、作成開始──。
──対人近接武装、作成開始──。
──対人射撃武装、作成開始──。
──対人防衛武装、作成開始──。
──対IS攻性エネルギー武装、作成開始──。
──拡張領域、拡大速度を加速──。
──はあ……あああ……。
──操縦者の戦闘パターン、解析完了──。
──機体可動部、最適化開始──。
──PIC、最適化開始──。
──拡張領域、更に拡大──。
──うぅ……う゛あ゛ぁ゛……!
──対話インターフェイス、作成開始──。
──独立稼働展開システム、作成開始──。
──■■■■■、作成開始──。
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──特殊兵装、作成開始──。
──私は、十九番……。私は、忌み数……。
◆第E世代無段階変異防衛型IS『灰鋼』
カラーリング『黒灰色』
待機形態『鉄の首輪』
(待機形態元ネタ:ソロモン6号)
柳隆道の専用機。常に変異する機体。
ハッキングにより中途半端に初期化された機体を再び最適化し、一次移行した機体。
一次移行の途中でバイタルサインが干渉した為か一部のシステムが彼の意思と連動している。外部からの解析は『A.S.H』により不可。操縦者本人しか内部を見ることが出来ない。
第二世代の筈だが何故か表記は『E』である。
ベースとなった第二世代近接両用型IS『打鉄』よりあらゆる性能が格段に上昇しており、従来の第三世代ISのパワーすら凌駕する。
出力も第三世代相当だが追加された装甲によって重量が増し、結果的に速度は『打鉄』と変わっていない。
修復速度が異常に速く、特に大破すると半日足らずで修復が完了される。
機体がダメージを受けると原因を解析。装甲に対策、または新たな兵装を作成する。
◆ISコア(コアナンバー『○一九』)
『灰鋼』に搭載されているISコア。読者からは『コアちゃん』『灰鋼ちゃん』と呼ばれている。
忌み数(十九=重苦)である為かISの発表から十年間研究用として扱われていた。
操縦者である隆道を保護し、いつの日か意思疏通を図れるよう全力を尽くす。
最近の悩みは一日一回は必ず隆道に投げ捨てられるか叩きつけられる事である。
(自室では必ず投げ捨てられている)