IS~傷だらけの鋼~   作:F-N

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お待たせしました。
ここ最近のX、男女関連の闇が深過ぎる。


第六十三話

 隆道が超激無駄な漢の意地と食い意地を張った結果お馬鹿でど阿呆で間抜けな自爆をやらかして千冬がフルタイム看病(監視)&お説教実施中の一方。

 

 ──隆道。体調の方は如何でしょうか。

 

 ──……この女(千冬)と二人っきりの方がキツいわ。居心地わりいのなんの……。寝ろって言われても逆に寝れねーし退屈……。これ、夜まで続くとか嘘だろ……?

 

 ──私がいれば退屈などしなかったでしょう。やはり私。私は全てを解決する。

 

 ──いや退屈も何もお前ら絶対揉めるっつーかブリュンヒルデの方がブチギレるっつーか……。人の横でギャーギャー騒がれるのはキツ過ぎ──嘘だろマジか通信バレた。この前もそうだったが何で分かるんだコイツ? マジで何なん? 頭にアンテナか何か刺さってんの? サイボーグかよ人間じゃねえ。もう通信切るぞ。

 

 ──了解。今日は控えましょう。アウト。

 

 『WALKER』は特に変わらずであった。

 いつも通りアルバイトに勤しみ、空いた時間でささらと趣味に没頭。幾つもの戦利品(料理)を手にしたこの無人機は今、頭上に番重を乗せてキビキビと廊下を歩き隆道の元へ戻る最中。

 彼の容態については心配無し。安静にしてれば明日にでも復帰可能だろうという事なのでそこは安心──なのだが、彼があまりにも無鉄砲に加えリセット(自害)しかねない輩なので千冬は朝の宣言通り丸一日彼と共に過ごす事に。尚、この件において『WALKER』は我関せずでほったらかしである。昼食を届けた後は教室へ行ってそのまま居座るし部活にも顔を出す模様。彼女にぶん投げていた。

 

『……おや?』

 

 『WALKER』は急遽立ち止まり、上半身を反転し後ろを向く。しかし、向いた先に誰もいない。

 人っ子一人見当たりはしない。それもそうだ、生徒達はまだ授業中なのだから。

 

『……気のせいですか。やれやれ、無人機である私がまさか思い込みなどしてしまうとは』

 

 まるで独り言の様に呟く『WALKER』は反転、再び歩き始める──だけに終わらず。

 

 ──距離20m。弾道計算開始──。

 

 歩きつつ右腕のポーチから取り出すは合金製のスリングショットと直径二十ミリ程度の真っ黒なゴム製弾丸。低致死性兵器と呼ばれる武器だ。

 『WALKER』はソレを構えるなり、振り返らずモノアイだけ動かす。壁、天井、壁、床と隈無く見回し、ゴムを思い切り引いた。

 

 ──22、24、26、28──。

 

 ──弾道計算確立──。

 

 瞬間。『WALKER』は左前方へと向けて放つ。弾丸と大差無い速度で飛翔するゴム弾は消火栓の出っ張り部分に着弾。その後床、天井、壁と数回跳ねまくり、最後は真後ろへと風を切る音と共に一直線。その後、何故だか跳ねる音も無く忽然と消えてしまった。

 

 ──効果無し。警戒レベル5──。

 

 ──ゴースト起動──。

 

 振り返らずに『WALKER』は空間に姿を消す。僅かながらに聞こえた駆動音もすっぱりと消え、誰もいなくなった。

 

 

 

 

 

 否。

 

「…………」

 

 ゴム弾が飛んだ先──階段の踊り場から一人、廊下をじっと見詰める人影があった。

 

「明らかに攻撃、よねぇコレ。それとも警告?」

 

 人影──一人の少女はそう呟きながらゴム弾をマジマジと見詰め、手の平で転がしていく。

 

「明らかにこっちを認識してた、尾行は駄目ね。それにこの空間で正確な跳弾攻撃……射撃能力と空間認識能力も高め、戦闘力は間違いなく高い。ロボット三原則も聞いてた通り無さそう。あと、あのわざとらしい独り言……油断を誘ったの? うわっなんてやり辛い子……」

 

 少女は苦虫を噛み潰したかの様な顔付きとなり溜め息を吐いた。ぶつぶつと独り言を呟くからに何か悩みでもあるのであろう。

 『WALKER』を尾行する少女。彼女の名は──今語るのは止めておく。どうせ近い内に分かる。

 

「どうしましょ? ただでさえ警戒されてるのにあのロボットにまで警戒されちゃうと幾ら私でも近づき辛いというか……」

 

「普通に堂々と接触すればいいじゃないですか。噂では男女問わず陥落させる『人たらし』だとか何とか聞きますが」

 

「流石に女嫌いとロボット相手は初めてよ……。変に絡んで余計警戒させたら本末転倒──」

 

 ──その刹那。

 

「おっと」

 

 突如その場で大きく屈む少女。次の瞬間、頭上に凄まじい勢いで何かが通り過ぎた。

 ちらりと見上げると、視界に映るのは日本刀に見立てた木製の棒。言うまでもなく木刀である。ソレを振るう者は──当然、同じ生徒。その者は木刀と変わらぬ長さのケースを背負っていた。

 

「迷い無い一文字斬り。良いわ──」

 

「ふっ!!」

 

「あんっ」

 

 間髪を入れず迫り来るソレに少女は壁を蹴って前に飛び込んで回避。紙一重故か、彼女の背中に小さく掠れる音が鳴る──からの。

 

「せぃっ!! ふっ!! はっ!!」

 

「もうっ。せっかちな子」

 

 怒涛の三段斬りが少女を襲う。呑気にしていた彼女は──別に焦る様子など無くひらりと躱し、受け流し、全て捌いていく。

 まるで達人のソレ。三段斬りを躱された生徒は絶え間無く連撃を放つもどれも当たりやしない。その攻撃は避けられる度に勢いは衰えず増すが、それでも少女は涼しい顔を崩さず最低限の動きで一定の距離を保ち躱し続ける。

 生徒の太刀筋にブレは無い。そんじょそこらの素人ではないだろう。だがしかし──。

 

「あまーい」

 

「!」

 

「没収ね」

 

 一変。躱し続けていた少女は急遽、今度は逆に生徒に急接近し瞬時に懐へ入った。相手の意識を意図的にずらし、予備動作が無い鮮やかが過ぎる摺り足移動、そして間を置かず木刀を両手の平で挟んで捻り上げて奪取、そのまま生徒の腹を柄で殴打して怯ませる。

 これだけでも充分な反撃だが、駄目押しとして少女は貫手で四肢の間接を軽く集中打突。最後に突き飛ばして距離を離す──が。

 

「……うん?」

 

 少女が指先に感じたのは違和感。生身を打ったというのに妙な硬さを感じた。

 生徒の方もそうだ。本気でなかったとはいえ、木刀での打撃も、間接への貫手も相当に痛い筈。それなのに倒れる処か膝も付きやしない。怯みはしたがその程度、痛がる様子も見られない。

 それに何処か不気味だ。顔面は絆創膏や湿布、両手は血が滲んだ包帯と、何かと怪我が目立つ。誰かと喧嘩したとしか思えなかった。

 何よりこの生徒、歳不相応の異様な目付きだ。据わっているというか死んでいるというか。

 

「……無拍子に無刀取り、流石は生徒会長です。正に文武両道ですね」

 

「軽めに打ったにしても全然平気そうね。制服に何か仕込んでたのかしら? 一年三組、剣道部の真島さん?」

 

「この制服はセラミック基複合材と炭化ケイ素、そしてスチールプレートと緩衝材を重ね合わせた特注品です。防刃防弾耐衝撃を兼ね備えた最新式ソフトボディアーマー」

 

「思ったより凄いの着てるわね……」

 

 しれっと答える生徒──真島は身体を軽く叩き自慢げに制服を見せ付ける。その程度の攻撃では効かないと言っているようであった。

 IS学園の制服は改造が認められてる。それ故に個性豊か溢れるデザインにする生徒はちらほらといるのだが、まさか実戦用全振りとは。一体何を目指しているんだ、この女は。

 

「まだ授業中でしょう? サボってまで私を襲うなんて、貴女も生徒会長の座が欲しいのかな? それとも生徒会に入りたいとか?」

 

「試したい事がありまして」

 

「試したい事? 随分と見くびられたものねぇ。貴女も知っている筈よ? 生徒会長は生徒の長。IS学園最強の称号なの」

 

「……IS学園最強だと織斑先生も含んでる様にも聞こえますが?」

 

「世界最強はノーカンよ。人の揚げ足を取るのはメッだからね? おねーさんとの約束よ?」

 

 生徒会長と呼ばれる少女は静かにほくそ笑む。あれだけの運動量で息一つ上がってないのだから身体能力は間違いなくトップクラスなのだろう。IS学園最強は伊達ではない、そう見て取れる。

 だがしかし、真島は特に反応を示さなかった。まるで興味が無さそう。

 

「それはすみませんでした。……ですが、私には生徒会長が本当に最強なのかよく分かりません。戦った所なんて生身でしか見た事ありませんし」

 

「分からなくてもこれが事実なのよ。生徒会長は学園最強でなくてはならないの」

 

「そうですか、なるほど。生徒会長は学園最強でなくてはならないと。……どう思います?」

 

『どこが学園最強なんだろうねぇ? コソコソと逃げ回る奴が何をえっらそーにさぁ』

 

 空気が──凍った。

 

『強いのは確かだけど、ねぇ……? それよりもやれそう? (かなえ)ちゃん』

 

「日葵様と比べれば温いのですが難しいですね。軽くあしらわれて木刀を取られてしまいました」

 

『まったまたぁ。もう少しだけ頑張ってない? チョモランマプリン奢っちゃうよぉ?』

 

「アレを食べ切れる人は日葵様以外知りません。お気持ちだけ頂戴しましょう。……おやおや? どうかしました? 生徒会長」

 

 すっとぼける真島──もとい叶を余所に少女は戦慄していた。

 表情は崩さずだが、顔半分は真っ青で冷や汗はだらだら。堂々とした立ち振舞いは、既に逃げの体勢に移っていた。

 叶の方から聞こえた機械越しの不気味な音声。よく見ると──胸元には黒い物体、腰には長くて黒い棒状のものが飛び出していた。少女はソレが何か直ぐに分かった。

 そう、無線機だ。そして声の主は──日葵だ。

 

『結構美味しいのに……。欲しいのあるぅ?』

 

「いつもの様に指示して下さるだけで充分です。それだけでやる気が出ます」

 

『んんー、分かったぁ。……FG1、全力で戦え。AMブレードの使用を許可する』

 

「了解。……という訳で生徒会長、もう少しだけ私に付き合って貰います。今度は本気で行くのでそのつもりで」

 

 言うが早いか、叶は背中のハードケースを前に掲げ、キャリングハンドルにあるボタンを押す。するとケースの下側が開いて中身が露となった。出てきたのは鞘に収まった刀剣が一本。

 かなり近代的な代物であった。それに何故だか鞘部分にバッテリーに似た様なものが。

 

「……一応聞くけど……何ソレ?」

 

「対物高周波ブレード。日葵様から頂きました。実はこの制服も日葵様から頂いたものなんです。ああそう、試したい事とはコレ等の運用テスト。まだ試作型らしいので」

 

「あ、うん、なるほどね、よぉーく分かったわ。幾らなんでもソレはやり過ぎじゃないかしら?」

 

「何を言って。『最強である生徒会長はいつでも襲って良い』。良しとしたのはそちらの方です。刃物等の武器使用も容認してるのもそちらの方。こんなアホな規則を作ったIS学園が悪いですし、今まで全く見直さなかった生徒会長も悪いです。それとも今から変更します? 構いませんよ? その代わり生徒会長は保身に走る、学園最強とは名ばかりの腰抜け女だと評価されるでしょうが」

 

 理解した。変に目付きが怖いのも、制服が丸々ボディアーマーなのも、一般の生徒にしては謎に風格があるのも。

 叶はケースを捨て、ゆるりと高周波ブレードを引き抜く。抜かれたその刀身は鈍い紫電が走り、徐々に赤く発光していく。

 鞘を背負い、構えるは上段、霞の構え。少女に切っ先を向ける彼女は目付きが鋭くなった。

 

「IS使ってくれると好都合です。コレのデータが取れます」

 

「真島さん? 言っても無駄かなと思うけど……もうやめにしましょ? こんなのお互いの為にはならないと思うのよ」

 

「私や日葵様には有益なので問題はありません。それでもと言うなら生徒会を辞退してください」

 

「……それは嫌よ」

 

「ですよね」

 

 決裂。神速の突きが放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょちょ……さっきよりも動き良くない!? 何処で身に付け──あー待ってホントに待って。斬れちゃう。頭パッカンしちゃう」

 

「日葵様のお蔭です。……お恥ずかしながら私、入学初日で日葵様に楯突いて叩きのめされた事がありましてね。それ以降気に入られてほぼ毎日が訓練の日々を送っているのです。ちなみに昨日はルール無用バトルロイヤル式ラウェイ夜ご飯まで終われませんを──」

 

「だから顔とか手とかそんな怪我してるの!? ここ学校!! 貴女女子高生!!」

 

「だからなんです?」

 

「もうやだぁ今年の一年生……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の火曜。七月二十六日。

 千冬のありがたーい看病によって隆道は無事に完治し今日からまた学業に励む。教室に着くなりセシリアのスライディング土下座ならぬ土下寝が炸裂したり『WALKER』がそれに漬け込んで血も涙も無い罵詈雑言を浴びせたりそれを皆が揃って宥め始めたり隆道は一夏と箒に説教食らったり等またしても大騒ぎであったが割愛。どの様な光景だったのかは各自のご想像に任せしよう。強いて言うなら千冬はキレそうになったとだけ。

 と、朝から騒がしい日常が再び始まった訳だがその日の授業は特に何事もなくあっさり終わる。平凡な日常なんてそんなものなのだ。

 そして夕方──。

 

「──で、今じゃ毎回取り合いになるんですよ。凄く働き者ですし、一緒にやってて楽しいとか。あ、ここまだ少しだけ汚いかも? ウォーカー、足曲げてくれる?」

 

『了解。隆道、ここのセンサーにも油が付着してしまっているのでお願いします』

 

「目ぇ拭くから後回し。……そりゃ良いこった。その内教える立場になったりしてな。……おい、目ぇ拭くから瞬きすんなよ」

 

『それは振りですか?』

 

「ちっげーよバカタレ、俺の指飛ぶだろ」

 

 IS整備室。ISの訓練が全面禁止されている今、時間的に使われない若干鉄臭いこの場所で二人の男女──隆道とシャルロットは涼しげな薄着姿で『WALKER』を囲んでいた。

 何をしているかというと『WALKER』の清掃。といってもレンズを拭いたり細かい箇所の汚れを取り除いたりしている程度だ。

 今日のお題は揚げ物だったらしい。調理自体は部員の指導あってか何も問題は無かったが、油や食材等で所々汚れてしまったのだと。ある程度はその場で拭き取れたが一応見て貰おうかと隆道を呼び出し、どうせなら念入りにと整備室を借りて二人掛かりで掃除している訳なのである。

 いつも一緒の一夏はここにはいない。というか鈴音に連行された。新作スイーツ奢れとか何とか聞こえた気がするが隆道は知らぬ存ぜぬ。

 

「もごもごもご……♡」

 

 言うまでもないがシャルロットがいるなら当然ラウラもここに。出来た揚げ物の何個かは彼女のおやつになっていた。彼女は今、二人を眺めつつ部屋の隅っこで幸せそうに頬張っている最中だ。なんか最近食ってばっかりだなコイツ。

 

「その内というか、もう既に……。ウォーカーがセシリアにダメ出ししてたんですよね。あ、別にセシリアがどうのではなくて、ウォーカーの方が上達するの早過ぎですし、なんかセシリアの方はウォーカーに頭が上がらないって感じで……」

 

「もう序列まで出来てんのか……。今度は何? またやべーもん入れようとしたか?」

 

『油の温度管理が杜撰でしたので。そこで問題、揚げ物をする際に油の温度を確かめる方法は? 温度計は無いものとします』

 

「いきなりかよ。……濡らした箸でも突っ込めば大体分かるさ。そん時に出る泡の具合でな」

 

『正解です。隆道も料理の知識はあるんですね。成る程、セシリアオルコットの知識は隆道以下』

 

「その言い方どっちにも失礼じゃない……?」

 

 雑談を交えても二人の手は止まらず。心なしか隆道の語調も柔らかく感じる。しょっちゅうある不機嫌さも無い処か何処か穏やかだ。相変わらず目は死んでるし授業中は未だに食い縛って顔芸を披露したりしているが以前までの敵意剥き出しな時と比べれば取るに足らない事だろう。話相手がシャルロットなのも大きいのかもしれない。

 にしてもここまでの変わり様は驚いたものだ。あの絶対に許すまじ対象であった千冬にも最近は憎しみ無しな態度なのだから心境の変化があったのは間違いないであろう。このまま疎遠になった人達とも和解出来れば大変喜ばしい事なのだが。

 

「ももも──!? あっちゅ、あっちゅ……!」

 

 コイツ(ラウラ)はいつまで食ってるんだよ。

 

「毒舌とか今更じゃね? あまり気にすんなよ。部員共と仲良いならそれでいいじゃねえか」

 

「……まぁ、いっか。……あ、そうそう柳さん、それで部長がですね~~──」

 

 シャルロットと『WALKER』は絶えずお喋り。隆道は二人を相手に嫌な顔一つせず受け答えし、そこから更に会話が弾んでいく。最早、それは留まる事を知らず延々と続いていくようだった。

 

「──という訳で明日は豪勢に行こうと──」

 

「……なあデュノア」

 

「はい?」

 

 楽しげな雑談は──突如として終わる。

 

「あるんだろ。相談事とか」

 

「……そんな事、ないですよ?」

 

「……近所にちっこい女の子がいるんだけどよ。その子、何か悩んでる時お喋りになるんだよな。んでずっとニコニコしてんの。でもこっちの顔をチラチラ見るし、すげえ苦しそうにするんだよ。誰かに聞いて欲しいけど、でも……って感じに。似てるなって、なんとなくそう思ってな」

 

「…………」

 

「勘違いだったらそれでいいさ。余計なお世話だこの野郎とでも思ってくれ」

 

 沈黙。隆道の言葉が図星故か、シャルロットはウエスを握り締め塞ぎ込んでしまった。

 『WALKER』もいつの間にか黙りだ。おやつに無我夢中だったラウラも、シャルロットの様子を察してその手を止めていた。

 数秒か、数分か。シャルロットは動きも止め、隆道は彼女の出方をじっと待ち続ける。先程まであんなにも楽しそうであった彼女は、今やどんと暗く。

 やってしまったかと彼は少しばかり後悔した。様子からして何かしらあるのは間違いないのだが一度聞くだけでも悪手だったか。らしくないなと彼は自念に駆られ、切り上げようとした。

 

「……なんか悪かった、話ぶった切っちまって。無しだ無し、今の忘れて──」

 

「あります。……相談したい事、あります」

 

「……おう」

 

 観念したのか、それか踏ん切りが付いたのか。シャルロットは自身の頬をパシパシ叩き深呼吸、顔をおもむろに上げてゆっくりを口を開いた。

 

「夏休みに、来るんですよ。……()()()()()が。僕とお父さん達の事、どこまで聞いてます?」

 

「……特に何もねえかな。国のせいで男装してたとしか聞いてねえし」

 

 勿論嘘。隆道は暗殺計画の件で千冬から大体は耳にしている。ただ、それに結び付く情報だけでシャルロットの家族関連は一切と聞いていない。

 ただ、『僕とお父さん達の事』というワードである程度の察しが付いた。彼女もまた──家族に苦悩する人間なのだと。

 

「そうですか。……実は、訳あってお父さん達と会話らしい会話、した事無いんですよね。会社の揉め事とか、男装のせいで余計に……。それで、その揉め事とかが粗方片付いたらしくて、だから夏休みにでも会おうってこの前電話来て、日本に来るって……」

 

「……ああ」

 

 かつて、己の父親によって無理矢理IS操縦者を命じられ、男子二人に接触するべくスパイ行為を強いられたシャルロットは両親と会う事にとても消極的であった。例え、それが自らの暗殺計画を阻止する為、そして国に脅されてしまったが故の致し方なかった事だとしても。

 会った回数は片手で数えられる程度しかない。会話だって同じく少なく、それも事務的な冷たいやり取りのみしか記憶にない。そんな親に対して今更どう接すればいいと彼女は悩んでいた。

 政治的な問題が綺麗さっぱりと消え去った今、残されたのは蟠りのみ。何れ解決しなければと、いつか向き合わなければと。そう何度心に決めて覚悟したつもりでも、いざその時が来たと思うとやはり憂鬱になってしまっていたのであった。

 そんなメランコリーな時に隆道からのコレだ。一夏から聞いてはいたが、相談に乗った時の彼はとても真面目で、とても親心になるのだと聞く。もしかしたら何かアドバイスをくれそうかもと、彼女はその親切心に甘える事にした。

 

「それで……その……。お父さん達とどんな顔で会えばいいのかなって、思いまして……」

 

「…………」

 

「……あっ、ごっ、ごめんなさい。変ですよね、会うだけって話なのにこんな……」

 

「……ん」

 

 隆道は今ので大体把握する。

 彼はシャルロットの身の上話なんて知らない。だがしかし、態々知る必要など無いしこの相談においてそこは重要ではなかった。

 彼女と両親にどんな隔たりがあろうと何も関係無い。幾つか聞くだけで良い。

 

「質問するぞ。親は嫌いか?」

 

「へ? ……よく、分かりません」

 

「男の格好する必要が無くなる前は?」

 

「……凄く、嫌でした」

 

「……そっか」

 

 "よく分からない"。"嫌だった"。

 これだけでも十分な収穫だがもう一声欲しいと隆道は再度質問を投げる事に。

 決まる、というか既に決まったようなものだ。シャルロットが欲しいのは──『きっかけ』だ。

 

「あの、この質問──」

 

「まあ聞けよ。……お前はどうしたい?」

 

「……多分……仲良くなりたい、と思います」

 

「うん。次で最後な。……自分がされた仕打ちを無かった事に出来るか?」

 

 

 

 

 

「それは……。……そんなの、嫌です」

 

 

 

 

 

「……なるほどな」

 

 確定。隆道の出す答えは決まった。

 だが、これを決行するのはシャルロット自身。彼女には()()が必要である。

 

「そうだな。簡単っつーか難しいっつーか……」

 

「……え? え? もしかして何か……?」

 

「…………。ま、ぶっちゃけると確実な解決とは言えねえぞ。下手すると余計悪化するっつーか。ただ、これが一番効くかもしれねえのも……」

 

「ぜ、是非! 出来る事なら何でもします!」

 

「女が男に何でもしますとか言うなよ。……結構キツいかもしれねえぞ? 飽くまで俺流だし」

 

「そ、そんなに……?」

 

 何か解決策を見出だしたようだが何だろうか。本人曰く我流で且つキツいとはどの様なものかとシャルロットは少し怖じ気付いてしまう。

 ──が、それでも。

 

「……いや、やります! 教えてください!」

 

「……ああ分かった。やる事は簡単だ。なるべく広い場所で会え」

 

「……僕は何を?」

 

「最初が肝心、後は全部勢い。……いいか、親と顔合わせたら一言言ってがん──」

 

 

 

 ──『猟犬』起動──。

 

 

 

「……がん?」

 

「…………」

 

 隆道はいきなり口を閉ざす。

 一体何だと彼の顔を覗けば目は見開いたまま。先程までの雰囲気がすっぱり消えた彼はそのまま後ろの方へ顔を向けた。

 彼の視線の先は、扉。人感センサーでのみ開くその自動ドアは──何故か開いたままだった。

 

「あの、アレ──」

 

「しっ。…………」

 

 隆道の目線は扉のまま。その表情は──硬い。

 シャルロットも馬鹿ではない。彼の様子からに扉の向こうは間違いなく『何か』がいる。そしてそれを感じ取れたのはもう一人。そう、揚げ物で幸せ真っ只中のラウラもそうだった。

 ラウラは彼の視線に気付くや否や、咥えていた揚げ物を一気に口へ押し込み直ぐ様臨戦態勢に。懐のナイフを抜き、扉を警戒しながら彼等の側へ近づいていった。切り替えの早さは流石軍人か。

 

 ──お前も見えるか?

 

 ──はい。不審者が一名。IS反応が有ります。動きはありません。

 

 ──コソコソと気に入らねえな。追い払え。

 

 ──了解。

 

『二人とも御安心を。私が対処しましょう』

 

「え? 何──わ゛ぁっっっ!?!?!?」

 

『おっと失礼』

 

 突如、シャルロットの目と鼻の先に飛び出すは銀色の長い何か。彼女は顔面スレスレを通過したソレに吃驚仰天しひっくり返った。

 ソレは軍用ナイフかの様な刃渡り三十センチの刃物。『WALKER』の前腕から展開されたソレは一気に赤熱していった。

 これは『WALKER』に搭載された数ある武器の一つ、格納型のアームブレードなのである。

 

「ぶった斬るなよ?」

 

『相手次第ですね』

 

 言うが早いか、『WALKER』は扉へと全速力で突撃。そのまま廊下へ飛び出していった。

 

「きゃあ!? なになになになに!?!?!?」

 

『何してんだテメーこの豚野郎。殺すぞ』

 

「あぁぁごめんなさいごめんなさいぃぃぃ!!」

 

『不審者逃亡。追跡する』

 

「ひゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ──」

 

 残念。『WALKER』からは逃れられない。

 誰かの絶叫が木霊。それは次第に離れていき、ものの数秒で聞こえなくなって再び静寂と化す。

 あまりに急展開過ぎてシャルロットとラウラは放心状態に陥り、開いたままの扉を眺める事しか出来なかった。一方で隆道は心底面倒そうな面で身支度。既に帰る準備をしていた。

 

「……一体誰だったんだろう」

 

「知らね。逃げたっつー事はそういう事だろ」

 

「警戒するに越したことはないな。ああシャル、ご馳走さまでした。美味かったぞ」

 

「……あああっ!? 全部食べちゃったの!? もうっ、明日はおやつ抜きだからね!!」

 

「何ぃ!?」

 

 誰なのか定かではないが、『WALKER』相手に逃げたという事はそこまで大した者ではない筈。後は任せて帰ろうと、彼等は逃げた不審者を秒で忘れる事にしたのであった。

 

「……ところでさっきの話の続きなんですけど。がん……なんです?」

 

「? ああ、顔面をグーパンしてやれ」

 

「……えぇ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃の校舎外。

 

「ひ、ひ……ひぃ……。ゲホッ、ゲッホォ……」

 

『私からは逃げられません。残念でした』

 

 『WALKER』に追い掛けられた例の不審者──もとい少女は、今や壁際まで追い詰められしまい身動きが取れないでいた。

 具体的に説明すると、少女の顔両側に赤熱したアームブレードがスレスレでぶっ刺さっていた。ロボットによるドキドキな壁ドンならぬ壁グサ。最早トラウマになりそうだ。

 

「ごご、ごめんなさい……。ただ……気になって覗いちゃって──あー本当です、本当です!! 何も疚しい事考えてないです!!」

 

『何故逃げたのです?』

 

「だ、だって、びっくりして……怖くて……」

 

『成る程。それで、貴女は誰ですか?』

 

「あ、あの……その前にこの剣──」

 

『あ、な、た、は、だ、れ、で、す、か?』

 

「ひぃぃぃ……。わ、私、は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、更識、(かんざし)といいますぅ……」




◆真島叶
三組の女子で日葵の側近。コールサインはFG1。入学当初に日葵に噛み付いた最初の犠牲者であり最初の崇拝者。日葵に気に入られてからほぼ毎日教育を受けており屈指の戦闘力を誇る。無改造の制服に見えるボディアーマーを装備している。

~ここから後書き~
あと1~3話で今章は終わります。なげえ。
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