異世界で聖女様とか呼ばれる話   作:キサラギ職員

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ハヤレハヤレ……


主人公ちゃん

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ライアン君

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1.ケモショタほど重要なものはない

 眠気をこらえながら俺は、自分に顔を埋めながら寝ている獣人の男の子を撫でていた。寝ただろうか。寝ただろう。健やかな寝息が聞こえるから。

 

 俺は日課にしている日記を書いていた。木製作りの室内。質素な調度品が並んでいてカンテラの光が揺らめいている。日記に書いているのはなぜこの場所にいて獣人の男の子をあやしているかだ。

 

 ……この日記を君が読んでいるということは、俺は既に死んでいるからだろう。

 

 なーんて書いてみたかったなんて。

 

 

「ん……」

 

「………」

 

 

 現状を説明しておくと、目が覚めたら何故かファンタジックな世界に来ていた。来ていたのか元々世界のあり方は魔法が飛び交い妖精が悪戯をする世界だったのかは正直よくわからない。科学技術の発展した地球という場所で生まれた記憶がある以上前者だったと思いたい。後者だと不安で仕方がない。

 

 で、どこぞの森で目を覚ましたら既にこの世界だったらしい。最初は運転中居眠りしてガードレールを破って森に落ちたのかとばかり思った。森の中だけにファンタジックな世界とは思っていなかった。携帯電話を探してみたが見つからないどころか魔法使い的なローブを着ていておかしいぞと思った。

 

 次におかしいと思ったのは手乗りインコサイズの人が飛んでたあたりだ。なるほど頭まで打ったかと俺は大急ぎであたりをうろつき始めた。

 

 数時間後。方向がまったくわからず、うろ覚えの知識で空を見上げてみる。見知った星座が一つもない。これは完全に遭難してるわと、大木に寄りかかった。

 

 ……鳥がうるさいな。こう、森というのは静かというイメージのはずがやけに鳥が鳴いておられる。

 

 お腹まで空いてきた。腹を押さえているといい匂いが漂ってきた。

 

 お肉の香りだ……!

 

 俺がふらふらと草木を掻き分けて歩いて行くと焚き火があった。焚き火……? 焚き火って違法では……まあいい。俺は焚き火調理というワイルドな肉串に手を伸ばそうとした。

 

「誰……?」

 

 犬耳つけた褐色ショタがナイフ片手にやけに古風なテントからでてきた。くたびれた様子で、上半身は包帯で巻かれていて右足は折れているのか木の枝で固定してある。

 

 俺はまさかのコスプレ?に言葉を失った。

 でコソ泥を弁解しようと喋ろうとして声が出ないことに気がついた。カヒューッと息が漏れるだけで音にならない。

 褐色ショタは俺を見るなり震え始めた。俺の胸元を指差している。

 

「……?」

 

 なんかついてるのかな?

 目線を下ろした俺はそこでやっと違和感に気づいた。足元が見えない。なんか障害物がある。

 

「……」

 

 嫌な予感しかしない。俺はショタがいるのも構わず服を脱いでみた。暑くて前を開けていたから脱ぐのは楽だった。布をマントみたいに纏ってるだけだったしね。

 たわわだ。たわわがおられる。下もついてないし。やけに疲れるなと思ったがまさか筋肉がごっそりなくなっていたとはなあ。

 

「……!!??」

「ふ、ふ、服を着て! お姉さん服!」

 

 俺が声にならないシャウトをあげる横で目を手で隠したショタもシャウトした。

 

 

 で。俺はひとまずショタの下着の替えを貰って身につけてマントというか布をマントみたいに纏い直していた。

 

 森で目が覚めた時の違和感がはっきりした。体が女の子になっているらしい。たわわおっぱい金髪の美少女と言ったところか。なんか刺青的なアレがついてる気がする。あとで確認せねば。

 で会ったのがしかも犬耳褐色ショタである(重要事項)。ついてんのかついてないのかイマイチわからん幼い中性的な容姿。

 

 かわいいな。ティーンエイジャーくらいに見える。褐色肌。ふさふさの犬耳と尻尾。青い瞳。髪の毛を腰まで伸ばして結っているせいか、狼のような野生的な雰囲気を放っていた。

 

 上半身は血のにじんだ包帯。たぶん服は持ってるけど怪我のせいで着られないのだろう。足は折れてるわ傷だらけだわ獣のと取っ組み合いでもやっていたのかといいたくなる。

 

 しかし、獣耳の生えたショタだと? 状況が状況だけになんて都合のいい夢なんだといいたくなってくる。そろそろ覚めろ。

 

 

「……」

 

 

 とりあえず服を着なおした俺だったが、相変わらず喉とついでに表情筋が仕事をしてくれない。しゃべれないし、笑えないし、端から見ると無表情の女が喋らずに焚き火に当たってるだけの図である。

 

「お姉さんはどっからきたの?」

 

「……」

 

 喋れないんですという意思を伝えるため喉を押さえて首を振ってみると、あぁと納得してくれた。そしておもむろに木の枝を渡そうとしてくる。

 

「じゃあ筆談で……」

「……」

 

 なんとなくだが日本語を書いても通じない気がする。今俺が聞いているのは英語っぽいけど違う言語だが、まるで最初から習得していたように理解できている。が、文字を書こうとしても日本語しか出てこない。まず間違いなく相手には通じないだろう。俺は首を振った。

 

「……」

 

 俺は無言で自分が来た方角を指差してみた。

 

「えっ……そっちは……いや、うん……わかった」

 

 なぜか驚かれたが、そんなにヤバイものがある方角だったのだろうか。聞くに聞けないのでとりあえず頷いておく。

 

「ッ……う、ぅ」

 

 ショタッ子がうめき声を上げて屈みこんだ。そのままぶっ倒れかけたので抱きとめる。

 

「……」

 

 そのままゆっくりと地面に横たえる。頭が痛くないように腿に頭を乗せながらだ。額に手をあててみるとびっくりするくらい熱かった。

 

「はぁっ……はぁ……」

 

 ショタの意識がない。息が荒い。ショタ呼ばわりもあんまりなのでこの子と呼んでおく。

 俺は取り合えず傷口の様子を見てみることにした。包帯の結び目を解いてみると、ギザギザに皮膚が引き裂かれていて、化膿していた。次に足を見る。添え木を固定している布の隙間から見ると、赤く腫れていた。化膿と高熱。知識が素人の俺でもわかる。なんらかの感染症にやられているらしい。

 

「……」

 

 男の子を抱えて藁の上に布をおいた簡素なベッドの上に横たえてやる。

 それから緊急事態ということでショタの荷物を漁ってみた。干し肉。ナイフ。水筒。火打ち石。カンテラ。地図らしきもの。以上だ!

 薬がない。薬がないよ! こうポーション的な何かを期待した俺が馬鹿だったのか?

 ナイフを熱して傷口をって火傷までさせてどうするんだ!

 俺は途方にくれて男の子の傍に屈んで額の汗を拭ってやりつつ様子を見ていた。

 ほっとけば死ぬだろうが、この森の中あてもなく助けを求めに行けば遭難待ったなし。薬もないし、薬草もわからないし、妙な力もない。と俺が祈るような気持ちで傷口に手をかざした瞬間、淡い緑色の光が手に宿った。

 

「……?」

 

 見間違いかと思ったが違った。手が光っている。驚くことに傷口が逆再生でもするように治っていく。

 ついに俺は超能力を手に入れたというのか……ま、まあいい。治せるならなんだっていいさ。

 治すのにかかった時間はものの数分だった。骨折も同じように治してみた。

 

「……」

 

 少しだけ疲れたかもしれない。ちょっとだけ一息ついていると、男の子が目を覚ました。

 俺はその時ちょうど男の服を剥いであっちこっち拭きながら確認していた。妙に女の子っぽいなとか思ってたけど、ちゃんとついてたとか思いつつ。

 ほぼ全裸の男の子は声にならない悲鳴をあげながらベッドから転げ落ちた。

 

「いだっ!? いだだ……痛くない? 治ってる……」

 

 骨折していた足から行ったもんだから激痛が走ると思っていたらしく、びくびくしながら自分の体を確認している。いや俺もビックリだよ傷跡もねえんだもん。

 俺はお湯をついだマグカップを差し出した。男の子はカップを受け取るより前に枕元に畳んであった服を取ってベッドの影に隠れて着てから受け取った。

 

「やっぱり……そうに違いない……森の奥から出てきたし……呪文も使わずに癒しの力を……」

「??」

 

 なにがやっぱりなのかわからん。だって魔術とかある世界なんでしょここ。無詠唱的な呪文とかあるでしょ。

 何はともあれ治ってよかった。そろそろ俺も現実を認めなくてはならないようだ。これは夢じゃないってことを。

 男の子は俺の顔をじっと見つめて言った。

 

「も、もしよければ僕の村に来て……村に来て頂けませんか? 僕のお母さんを治して欲しくて……お金もないし、お返しもできないけど……」

 

 急に敬語になる男の子に俺はうんと頷いた。

 

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