衛兵詰め所。
衛兵ってなにかと思っていたがようは警察である。でかい国にいくつもの小さい国が入っていて、その小さい国の王が領主。という認識でいいのかな?
俺とライアン君は、朝食を食べてから宿を出た。で、衛兵詰め所とやらに来たのだ。領主の城にあるのかて思いきや普通に街中にあった。
衛兵に話を通して任務完了!
のはずだった。
「ダメだ帰れ帰れ!」
「で、でも!」
「俺たちはそこまで暇じゃないんだ出て行け!」
「そんな! 話を聞いて……うわっ!?」
相手にされずドアから外に押し出されるライアン君――を、俺が地面に叩きつけられる前に抱きとめた。
彼は必死に説明してくれたのだ。村がモンスターに襲われていること。死者が出ていること。村長は獣人ではなく、人間(つまり俺だ)になったこと。だから守ってほしいこと。衛兵をまとめている衛兵隊長とやらが出てきて話を聞くだけ聞いて裏に引っ込んでいくと、下っ端連中が出てきて俺らを建物から追い出したのだ。
抵抗しようと思えばできた。この体の怪力を使えば建物諸共全員生き埋めにだってできただろうが、そんなことをすればお尋ねものになってしまう。
ひどい話だ。村がなくなってしまうかもというのに、こいつらは手助けすらしようとしてくれない。獣人への差別が――というよりも、辺境の村などどうでもよいと思っているに違いない。
「お願いします! 僕の大切な故郷がなくなってしまうかもしれないんです!!」
俺の腕から抜け出して必死に衛兵の男にすがり付こうとするライアン君。俺も頭を下げてみたが、男はしっしと手を振るだけで相手にもしてくれない。
「まあそこのねーちゃんが服脱いで踊るってんなら考えてもいいがな!」
「おっいいねぇ!」
ゲスな笑いをしつつ指差してこられると、こう、頭にきちまうぜ! やんのか? あぁん?
俺が男たちを無表情で睨みつけていると、先頭の男が怯えたような表情を浮かべた。ケッ! チキンめ!
揉め事をしたらいけないと分かっていても、つい拳を構えたくなる。落ち着け。
「~~~!!」
ライアン君が声にならない怒りの吐息を吐く。なんだ、男らしい顔もできるんじゃないか。でもだめだ。手を出せば俺たちは公権力に逆らったお尋ねものだ。
俺は震えるライアン君を抱えるようにすると、衛兵詰め所を後にした。
「アルスティア様……どうすればいいんでしょう……? もっとおっきいお城に行って頼めば村を守ってくれるでしょうか……?」
途方に暮れるとはこのことだ。
俺たち二人は昨日休憩をとっていた広場へやってきていた。二人そろって噴水に腰掛けて、ぼーっと周囲を見回しながら時間を潰す。潰してる場合じゃないのは十分承知してるさ。
ライアン君の提案に、俺は首を振った。あの様子じゃまず門前払いを食らうことは間違いない。領主としての方針なのか組織が腐敗しているのかはわからないが……辺境の村なんでどうでもいい、ということなんだろうなあ。
金の力で買収。金がない。帰ってもエド村にそんな役人を買収できる大金があるとは思えん。
騙して派遣させる。どうやって? ライアン君がそこまで話術に長けているとは思えん。
俺が無双する。だからできるけどMP切れしたらどうするんだって話だろ!
村を移転する。現実的かもしれんな。問題はどうやって移転するのって話だな。俺がでかい台車か何かを引っ張るとか? それか俺がモンスター見張ってる間に村人総出で? で、別の土地代はどう工面する?
最大の問題がどうやってライアン君にそれを伝えるかだ。
「どうすればいいんでしょう?」
「……」
よし、ジェスチャーだ! 村! 村……? 村をジェスチャーで……?? よ、よーし! やってやるぜ!
俺がワタワタと手を動かしていると、ライアン君は熱心にこっちを見てきた。村を、移そう!
「……ごめんなさい……わからないです……」
「……」
わからなかったらしい。悲しそうに首を振るライアン君。ごめんね……お姉さんの技術じゃ伝わらなかったよ……。お姉さんじゃねーやお兄さんだ。
俺がじゃあ紙にでも書くか、あ紙もペンもねーや地面にってここ石畳じゃん、などと時間を浪費していると、サッと影が差した。
「失礼ながらお嬢さん方。もしかして衛兵がらみで何か問題がおありかな?」
俺たちが視線を上げてみると、軽量甲冑を着込んだ旅人らしい姿が覗き込んできていた。金色の髪の毛を短く切りそろえた青い瞳の美形の男だった。ふ、ふーん。前世の俺のほうがかっこいいもんね。
しっかし、なんて胡散臭い声なんだ。いい声なんだけど途中で裏切りそうな声をしている。
その男はライアン君を女の子と思ったらしい。ライアン君がもそもそと違いますと呟いたが小さすぎて男には届かなかったみたいだった。
「そうですけど……」
「あの衛兵たちは金がかかることはしたがらない。領主からのお達しでね、君たちのような地方出身者の声で動くことはないだろう。申し遅れたがアルト=アルムというものだ。以後お見知りおきを」
俺は握手をするつもりで腰を上げて、手を出した。手をとったアルト――伊達男は俺の手をとると身をかがめて口づけをする。
「!?」
驚いた俺は手を引いてのけぞった。
「ああ、失敬。私の故郷では女性に対してこう挨拶をするもので。お気に障ったようなら謝罪します」
バカかよてめーはよ! 何笑ってんの!!
ビンタかましたろうかな? ドキドキさせやがる。まあいいさ。
ゴホンとライアン君が咳払いをしながら間に入る。腕を組み、胸を精一杯張って壁になってくれる。おお、男の子男の子してるな。
「失礼ですが! せい……アルスティア村長は言葉が話せませんので代わりに僕が! ライアン=ティールズが話しますから!」
聖女様といいかけてやめた。えらいぞ。初対面の他人に聖女様ですと説明してもわからんからな。
そういやファミリーネーム聞いてなかったけどティールズっていうのか。覚えておこう。
「随分と可愛い騎士ちゃんだね」
「ちゃんじゃありません君です!」
「……これは失礼を。それで君たちはなにをしたいのかな。もし衛兵の手助けが必要なら、金を握らせるのが一番だ。もし金がないなら稼がなくてはならない。あてはあるのかね?」
「ないですけど………あなたの手助けはいらないです!」
ん? 何で怒ってるんだろうライアン君。せっかく声をかけてきてくれたんだから助けてもらったほうがよくないか。
俺は妙に食って掛かるライアン君の肩に手を置くと、引き寄せて口を塞ぎがてら腕で包み込む。
「元気が良くて結構。稼ぐならば日雇いの護衛任務がお勧めかな。と言ってもあなたのような麗しい女性には似合わない血と泥塗れの仕事になるが………」
あ、そういうの得意です。
俺が何か言いたそうにしていると、伊達男は軽く一礼をした。
「ほかに人を待たせているので失礼するよ。また機会があったら是非お茶でも」
伊達男がにこやかな笑みとともに去っていく。よくもまあ、あんな歯の浮くようなセリフをスラスラと出せるもんだ。
金で買収ね。いくら渡せばいいのか分からんが仕事をするしかないというのか。
「アルスティア様、仕事を探す前に手紙を村に送りましょう。もう少しかかるって、みんなに教えてあげないと」
俺はこくんと頷くと、ライアン君が歩き始めたのについていくことにした。郵便局みたいな施設でもあるんだろうな。俺にはさっぱりわからんが。元の世界の郵便局マークがあるとは思えんし。
早いところ連絡して、それから行動開始だ。手をこまねいていたらモンスター襲撃しに来るかもわからんし。
仕事ってどこで探すんだろうね。まずはそこからだな。俺は話を聞けそうな人がいないか辺りを探すところからはじめたのだった。
おまけ
Q.ライアン君の見た目はどんな感じ?
A.話題のカスタムキャストで作ってみた
https://twitter.com/DSnohito/status/1062380037326823424
みんなも男の娘っぽいのを作って(はーと)
作れ(豹変)