異世界で聖女様とか呼ばれる話   作:キサラギ職員

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初投稿です


21.拳で語れ

 魔術を使うと下手したら城ごと吹き飛ばしてしまうのはわかってるから、主に拳で制圧する。

 駆け寄ってくる男二人をまとめて蹴っ飛ばす。

 

「うわあああっ!?」

「このアマっぐあっ!?」

 

 二人はまとめて木に激突して動かなくなった。死んだかな。ま、まあ、正当防衛でしょ。

 

「囲め囲め!」

「袋叩きにしてきゃんきゃん泣かせてやる!」

「しゃぶってもらおうかなあ!? ああ!?」

 

 三下が揃いも揃って俺のことを囲ってきた。手には武器。ふうむ、ナイフやらはなくてほとんどが棍棒だとかなあたり、まだ俺のことを捕まえていいことしようという気があるらしい。まあ美人ですし?

 なんて考えてると、急に首に紐がかかってきた。きゅっと背後から締め上げられる。

 

「おとなしくぐあっ!? や、やめ……」

 

 紐を掴んで手繰り寄せる。ぴょーんと男が飛んできたので顔面捕まえて空中に放る。

 俺の異常性に今更ながら気がついたらしく、一斉に飛びかかってきた。

 

「………」

 

 拳を地面に叩きつける! 地面がめくれて岩が隆起して数人まとめて吹き飛ばす! ふぃー! 気持ちいい。超人染みた動きができるって本当に楽しい。格闘ゲームの動きもできるんだろうか?

 俺は、よろめている一人の額を小突いた。それだけで一回転しながら飛んでいく。二人目。腹パンでK.O!

 

「………!」

 

 あ、なんか飛んできた。とっさに空中で掴んでみると、それは矢だった。

 っっっぶね! 矢なんて受けた日には衛兵に就職させられてしまう。とりあえず、そんな悪いことをする人は、腹パンの刑に処する!

 また構えてきたので、空中キャッチ! おお、できるもんだな。一気に駆け寄ってみると、腰を抜かしたのか弓を取り落としてわたわたとしている。

 

「……」

 

 俺はにこっと笑って見せた。腹に一発! 空中で三回転しながら倒れ込む。

 ラストは親分だが、意外にも平然と椅子に座っていた。パチパチと拍手をしながらゆっくりと立ち上がる。おお、貫禄というものを感じてきたぞ。

 

「いい動きだ。とても人間業には見えない……一つ提案なんだが、その辺で伸びてる部下に加わって盗賊をでかくしねぇか? その腕前に免じて利益のはんぶべっ!?」

 

 なにいってんだこいつ。

 俺はおもむろに歩み寄ると顔面をビンタして気絶させた。歯が数本飛んでいったけど、その辺は容赦してくれ。

 

「あ、アルスティアさまぁっ!」

 

 物陰からメイド服の女の子(男だけど)が出てきた。後ろからぞろぞろと子供達が出てくる。中には傷だらけだったり、そもそも服を着ていない子までもいた。

 

「あ、あの、鍵ありがとうございました。奥に大勢閉じ込められていたみたいで……」

「………」

 

 おー、任務を果たしてくれたか、ごくろうごくろう。

 俺はライアン君の頭を撫でると、その後ろについてきている子供たちを見てみた。大きい子は大人、小さい子はライアン君よりもずっと若い。共通しているのは首輪や足環をつけていた痕跡があることか。

 ライアン君は裾の短さを気にしながら言った。

 

「みんな疲れきってます………連れて帰りますよね?」

 

 あたぼうよ、俺をなんだと思ってやがる。

 とはいっても、ひいふうみいのおー………十人か。丁度男女の数が合ってるな。全員疲れてる上に怪我してる。栄養状態もよくなかったんだろうな、痩せてガリガリの子もいる。

 俺は首を振ると、人差し指で盗賊連中が使っていたものを指差して、それから留めてあった馬車を指差した。

 

「………えっと、一晩泊まってから……ですか?」

「………」

 

 やっぱり君は最高だな。そういうことさ。

 

「もしかして聖女様……?」

 

 捕まっていたエルフ耳の女の子がそんなことを言ってきた。あちゃー、有名人ってのもつれぇな。

 

「そうだよ! ぼく聞いてたもん! 助けてくれたし!」

「うわぁぁぁ……」

「きれー」

「ありがとうございます!」

「ねー」

 

 ちっこい女の子がよたよたと歩いてくると、俺のお腹に顔を摺り寄せてきた。上目遣いに聞いてくる。

 

「おかあさんとおとうさんどこにいるのー?」

 

 事情が分からん。すまんな。俺はその子の頭を撫でてやると、まずは伸びてる盗賊連中をなんとかしようと辺りを見回した。

 

 

 

 

 

 じゃがいもーざっくりー。リーキを加えてー。塩ぱっぱと。よし上手にできました!

 

「ふう。やっと服見つけました……」

 

 俺は盗賊連中がせしめてきたであろう荷物の中から大なべを見つけると、早速連中の備蓄食糧を見繕って料理を作っていた。料理といっても野菜と干し肉を塩で煮込んでるだけなので、俺じゃなくても誰でも作れる簡単料理である。

 煮込んでる間に治療をする手はずになっていた。盗賊連中は俺が閉じ込められていた牢にしばってまとめて突っ込んである。ざまあみろ。然るべき裁きを受けさせてやる。縛り首にでもなればいいと思う。

 俺はライアン君を見た。なんだよ着替えたのか。

 

「なんでしょうか……? 服ですか? ……燃やしました! あ、あんな裾の短いひらひらスカートなんて……!」

 

 俺がじーっと見ていると、ライアン君がぷんすか怒り始めた。燃やしちゃったのか、そうか……。

 

「とりあえず、みんなに事情を説明しておきました。治療、しますよね……?」

 

 俺は頷くと、大鍋用のでかいオタマをライアン君に握らせた。

 

「焦げないようにですね! 任してください」

 

 任せたぞーっと。

 俺は焚き火の周囲に集まっているであろう子供たちの元に歩いていった。みんなぐったりとしていた。最年長の男の子は外傷もなく体力的に余力があるのか、他の子供達の間を行ったりきたりして声をかけていた。

 その子は、俺がやってくるとぱっと笑顔を浮かべた。

 

「あっ、なああんたにまだ礼を言ってなかったな。ありがとう。わりい、つい……アルスティアっていったな」

 

 おう、なんとでも呼んでくれ。

 しかし参ったな。喋れないんだから意思疎通も難しいわけで。俺がどうしようかと黙っていると、その子は頭を掻きながら言った。

 

「口が聞けないってのはライアンって子に教えてもらった。頷くか首を振るかで返事してくれればいい。俺らは帰れるんだろ?」

 

 うむ。

 

「よかった。じゃ、メシ食って明日出発ってわけか」

 

 そうさ。

 

「治療をしてくれるっていうけど…………どうするんだ?」

 

 まあ、見ておいてくれ。口の聞けない俺だが、これだけは得意なんだ。

 俺はぐったりと疲れ切っている一人の男の子に近づいた。ふむ……目に包帯か。その子の無事なほうの目がこっちを見た。

 

「目を……殴られて………見えないの……」

 

 はー………あの盗賊連中こっち連れてきて釜茹でにしたろかな……。いかんいかん、そんなことしたら聖女じゃなくて魔王になっちゃう。

 俺は、とりあえず包帯を取ってみた。目が大きく腫れていて、膿塗れだった。殴られた時に内出血でもしたのか。病気を貰ったのかも。意識を集中して治療の光を当ててみると、ものの十秒足らずで目が正常な状態に戻った。

 

「………嘘だろ……」

「見える……凄い! こんな術使えるなんて……!」

 

 俺の背後で年長の子が驚愕している。ふふん、もっと驚け。

 俺は抱きついてくる男の子を抱きとめると、次の子に取り掛かることにした。

 

 その後、全員分の怪我を治療した俺は、料理を振舞った。そして翌日馬車に全員を乗せて帰路についたのだった。


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