ふぃー! こんなもんか。俺は専用のでっかいシャベル(のようなもの)で土木工事の真っ最中だった。何をしているかというと、ブルドーザーの真似事である。魔王様パワーの平和的活用ってやつだ。思ったことはないか? 例えばスーパーパワーを持ったヒーローがその力で土木工事をしたらどうなるかって。答えはこうだ。治水工事だってお手の物だってな!
エド村近くに川があるんだが、毎年増水で氾濫するらしい。ので、周りに土手を作ってみようと思ったのだ。できたよ。岩を並べて上から土をどん! を片手までやれるくらいには腕力があるからな。これから後数日で完成だ。
「うぅ……このような肉体労働を……魔王様はいつ目を覚ましていただけるのでしょう……」
マリカちゃんは岩と岩が離れないように魔術をかけてくれていた。上手いこと言いくるめたお陰か、こうして手伝ってくれるようになったのだ。悪いけど中身が違うので魔王になったりはしないです。
「できた?」
「固定化の魔術をかけましたので、余程のことがない限りは岩の位置がずれることはないかと」
「うんうん、上出来だね」
流石に一日中土木工事だと疲れるなあ。ここにクソデカ岩があるじゃろ。これをな、こうじゃ。って感じで掴んで置くだけの作業なんだけど、一日は疲れるわ。
俺はとりあえず最後の一個と思って、岩を持ち上げた。サイズはそうだな馬車くらいはあると思う。2トンはあるんじゃないかな。軽く感じるけど。で、この岩を土手に置く、と。よし。
「村にやってくる人間どもの治療に土木工事に………まるで聖人かなにかのような振る舞いです……」
「まるでというか、まあ、その、聖人になってからのほうがギャップがすごくて人間さんたちがぎゃふんというかもしれない」
という嘘を付く。マリカちゃん頭が固いわりに人を信じやすい性質らしく、疑おうともしないから助かる。
「それじゃ帰ろうか、マリカちゃん」
「わかりました………」
どこかがっくりした様子のマリカちゃん。俺は隣に並んで歩き始めた。
でも俺は知ってるぞ。ライアンママお手製のパンを目を輝かせながらモグモグしているということを。
「あっ、アルスティアさま~~! 迎えに来ましたよ~!」
私服姿のライアン君が手を振りながら走ってきた。
おしおし、みんなで帰って夕飯だね!
俺は二人を両脇に、中央に立って村に帰り始めた。
『人間や獣人どもと一緒に暮らすなんてとんでもない!!』
なんてマリカちゃんは最初大反対だったけど、生活していくうちに慣れてきて文句を言わなくなってきた。ダークエルフ的な種族だったのかは知らんけど、種族とか性別とか姿かたちとかでヒトは変わらないと思う。肝心なのは何をするかだと俺は思ってる。だからマリカちゃんもみんなと仲良くして欲しいなと思ってるんだ。
『こ、このパンは……!』
まあライアンママお手製のさくさくふかふかパン食ったらころっと落ちたけどな! 小柄などこにその量入るんだよって数食い始めたのは流石にびびったね。
ちなみにライアン君は最初マリカちゃんのことを不審そうに距離感置いてた。いきなり現れて御付きですなんて嫌だったんだろうな。俺が諭したらすぐわかってくれたけどね。
で、村だ。元凶のマリカちゃんが魔獣を召喚しなくなってるので、マダムの私兵の守りはいらなくなってるわけなんだけど、私兵さん達相手に村の人達が商売を始めたんだよね。宿とか、飯とか。俺の噂を聞きつけて人が毎日やってくるのも合わさってか、徐々に人が増えてきた。こじんまりとした村だったのが町になったのは、そんなにかからなかったかな。俺の診療所は教会からやってきたアイルが立て直してくれた。診療所じゃなくて教会になってたけど。
『どうせなら我が神の名を広めながら治療をしてください』
「えー」
『……はぁ。まあ、結構。好きにするといいです』
俺の一日はこうだ。朝起きて洗濯とお掃除。診療所で準備。病人とけが人きたら治す。時間余ったら工事とかの雑用。って感じだ。それを毎日毎日やっていたら、ある日村長さんがこんなことを言い始めた。
『村の名前を変えてみませんか』ってね。なんでも、アルスティアって名前を貰ってアルステッドにするらしい。俺が頷くとみんな喜んでくれた。以後、エド村はアルステッドって呼ばれるようになった。
で、ある日。俺が毎日毎日病人をチート治療魔術で治してることを聞きつけた国の偉い役人がやってきた。
『その力を国の為に使ってみるべきです』
「え? やだ、いきたくない」
……まあ断ったけどな! 何回も何回も役人が来るのを追い返してたら、なんか俺があくまで立場の弱い市民に献身するために違いないとか言われてて、なんか罪悪感を覚えたね。いや、この村が居心地良くてってだけだったんだけどね。
他にも、呼んでもいないのにアルトが村をうろうろしてるのを見てしまって、あっこいつの手引きだな感を察してしまったというのもある。甘いよ伊達男。聖女様はそんなことでは釣られないのだ。
そうそう、ライアン君について話そう。
彼、ことあるごとに聖女様を守るんだって言って憚らなくなってきた。もっと鍛えなくちゃって筋トレ張り切ってやってて、体つきもがっちり―――しないみたいね。そういう血の元に生まれて来たとしかいいようがないみたい。筋肉は付くけど、細マッチョより大きくならないのね。ますます女騎士っぽさ出てきたけど、そこは言わないで上げてる。
俺の日課の工事(じゃないときも有るよ)が終わると、彼が迎えに来てくれる。
「アルスティアさま~~!!」
とびっきりの笑顔と、大声で。
「じゃ、いこっか。ライアン君」
「はい!」
「………なななななんですか、手は繋ぎませんよ!」
「え~繋ごうよ~」
「……くっ! 今回だけですからね!」
マリカちゃんが恥ずかしがって手を繋いでくれないので、ちょっと意地悪しちゃった。頬真っ赤にしながら手を繋いでくれた。
俺は、ライアン君とマリカちゃんと手を繋いで、家路についた。
「遅い!」
ミミに怒られた。
これが、俺のここ最近の出来事、日課なんだ。
この体は聖女様どころか、魔王様だったけど、ライアン君がそう呼んでくれるなら、いつまでも聖女様であろうと思ってる。
異世界で聖女様とか呼ばれてる、そういう話さ。
完結?
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もうちょっと続けるんじゃ
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R18版を書くんじゃ
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私が書くんじゃ
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乙!