あれだけ暴力受けてもキレない一夏は一体どんな精神しているのか、少し気になった。
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「はあ…」
盛大なため息をつきながら廊下を歩く少年、織斑一夏。
彼は現在、大きな悩みを抱えていた。
「ったく…何であいつらはすぐ怒るんだよ…」
彼はこの世界にとって少々特殊な存在である。
とある天災科学者が開発したパワードスーツ『インフィニット・ストラトス』。本来なら女性にしか反応しないというかなり特殊なものだったが、どういうわけか彼は男性であるにも関わらずこれを操縦できるという世界でも前例のない存在となった。
そのため、他が全員女子生徒となっているIS専用の教育機関『IS学園』に半ば無理やり放り込まれ、日々を過ごすこととなっていた。
一部の友人達は彼の境遇を羨ましいというが、本人からしてみれば非常にストレスの溜まる毎日である。
そんな中で彼のストレスの大きな要因となっているのが、彼とよく行動を共にする5人の女子生徒。
幼馴染であり、ISを完成させた天災の妹、篠ノ之箒。
イギリスの代表候補生であり、出会った直後は盛大なISバトルを繰り広げたお嬢様、セシリア・オルコット。
中国の代表候補生で、中学時代まで同じ学校だったもう一人の幼馴染、凰鈴音。
フランスの代表候補生で当初は男装して近づこうとした少女、シャルロット・デュノア。
ドイツの代表候補生で、最初は一夏に本気の敵意を向けてきたラウラ・ボーデヴィッヒ。
彼女たちとはそれなりに友好的な関係を築けていると思っている一夏だが、いかんせん彼女達は圧倒的に短気なのが大きな問題だった。
先日彼に戦いを教えてくれている師匠であり、IS学園生徒会長の更識楯無からとある相談を持ちかけられた一夏。
曰く、彼女の妹である更識簪がまもなく行われる専用IS所持者によるタッグトーナメントに出られるように協力して欲しいとのことだった。
彼女の機体は自身の専用機『白式』の開発を優先させられたために無期限で開発が延期されてしまい、それを知った一夏は地面を陥没させるかのごとく簪に対して頭を下げた。
そんな矢先に楯無からの相談を受けた一夏は乗りかかった船とばかりに簪とタッグを組むことを承諾。
だが、それを聞きつけた5人はここぞとばかりに一夏を糾弾した。
箒は怒りのあまり真剣で斬りつけてくるし、セシリアはまるでゴミを見るような目で睨みつけてはさっさとどこかへ行く。
鈴は顔を合わせるたびに脛を蹴ってくるし、ラウラはまるで一夏をいないものとして認識しているかのように無視。
シャルロットに至っては他人行儀に『織斑君』呼ばわりである。
流石にここまで邪険にされて笑って許せるほど一夏は聖人君子ではない。
――――――――――
どうやら一夏が色々溜め込んでいるのは楯無にも一発で気づかれたらしく、本来特訓を行うはずの日曜日に楯無は外出許可を取ってくれた。
「随分荒れてるみたいだし、一日くらい学園の外の友達と遊んできたら?」という楯無の心遣いに泣きそうになりながらも一夏は彼女に礼を言い、朝一の電車に乗って実家の近くに有る友人宅に上がり込んでいた。
「へー。で、わざわざ俺に相談に来たと」
一緒に格闘ゲームをしていた数少ない男友達の『五反田弾』は疲れきった顔の友人が朝早くから訪問してきたことにギョッとしたが、ただ事ではないと察して部屋に入れた。
そうしてゲームをしながら彼の悩みを聞いていたのだ。
「ああ…もう最悪だよ…大体なんで一生徒が本物の刀なんで持ち歩いてんだよ…校則無法地帯かっての」
日本刀で斬りつけられたことがよっぽどトラウマだったのか、光の消えた目でブツブツ文句を言う一夏。
相当病んでるなー、こいつ。と思いつつも口には出さない弾。
「なあ弾。お前はツンデレが羨ましいとか言ってたけど…お前は良いよなぁ…何も知らずにそんなことが言えて…」
ツンデレの闇の深さを味わい続け、地獄を這いずり回っているかのような声で話しかけてくる一夏。
「い、いや一夏君?ツンデレってのは愛情の裏返しであってね…」
「そのせいで俺は何度も死にかけてるんですが?箒はムカつくとすぐ日本刀で斬ってくるし、セシリアはたまに生身の俺にレーザービームぶち込んでくるし、鈴は人間サイズの青龍刀を二本ぶん投げてきたこともあったな。ラウラは朝寝ぼけて俺にサソリ固め決めてくるし最初の頃なんて軍人による本気ビンタで首痛めたし、シャルなんて生身の俺にアサルトライフルの一斉掃射…」
「わかった、もういい。これ以上自分を傷つけるな!」
目から完全に光が消えて無機質な喋り方になる一夏に危機感を覚えた弾は慌てて親友の暴走を止める。
「最近あったいいことといえば、ボロボロになった俺にカップケーキの差し入れくれた簪の笑顔と楯無さんの膝枕、のほほんさんがお菓子とジュース渡してくれたくらいだよ。簪と楯無さんは専用機や凶器で俺に攻撃してこないし、あの人達は天使か何かかな…」
もうこの男の中で専用機持ちの少女達を区切るポイントは攻撃するかしないかの二択らしい。
「弾…助けてくれよ!俺もうあの学校に帰りたくないよ!」
ボロボロと涙を流しながら訴えてくる一夏。
「いや、流石に俺でもそこまではできそうに…」
「何か案を出してくれたら虚さんとのデートをできる限り多くの知り合いの協力のもと確実なプランをセッティングするぞ」
「任せておきたまえ一夏君!俺達ずっと苦楽をともに過ごしてきた友達だろう!」
硬派な男を主張する弾も、せっかく知り合えた年上の眼鏡美人(しかもガッツリ脈アリ)とのデートを餌にされては断らなかった。
―――――――――――
一夏は弾のオススメDVDの入ったレンタルショップの袋を持ちながらIS学園に戻ってきた。
「あら?一夏君、リフレッシュは終わったの?」
寮へ向かう途中、仕事の休憩がてら飲み物を買っていた楯無が一夏に気づく。
「はい!おかげさまで何とかなりそうです」
ふと、楯無は一夏の持つ袋に目が行く。
「おやおや~?一夏君は何のDVDを借りたのかな?ちょっとお姉さんにも見せて欲しいな~」
あまり嗜好品などを置かない一夏にしては珍しいDVDの持ち込みに興味を持った楯無。そんな彼女に対して一夏は…
「あ、いいですよ。何なら一緒に観ます?簪も誘って」
「え?」
一夏が袋から取り出したDVDのタイトルは…
「じゅ、『十三日の金曜日』!?」
世界的に人気のあるホラー映画だった。
「いや~、弾から勧められたんですよね。これなら他の女子が部屋に乗り込まなくなると思って」
込まなくなると思って」
確かに、普通ホラー映画なぞ見ている男の部屋に自分から入る女子がいるのなら、そいつはよほどホラー映画が好きな人間くらいかも知れない。
「あと、『エルム街の悪夢』とか『チャイルドプレイ』も借りたんですよ!弾が言うには魔除けにもなるって言ってたんですけど、楯無さんも観ます?」
その『魔』とは一体誰のことを指しているのか?と口にしたくなった楯無だがグッと堪える。
「え?え~っと…私はいいかな?ほら、生徒会の仕事もあるし!じゃね!」
素早く走り去っていく楯無の様子に首を傾げる一夏だが、すぐに気分は手元のDVDを向いた。
「さて、せっかく休養日にしてもらったからじっくり見るかな?」
――――――――――
「い、一夏がホラー映画に興味を持ったの!?」
生徒会室で、楯無は簪を呼び出して緊急会議を始める。
「ええ…正直、何故そうなったのかはわからないけど、何か嫌な予感がするの」
すでに一夏が部屋に篭ってから5時間ほど経過している。
その間ずっとホラー映画を見続けているのだとしたら…
「お姉ちゃん…一応、様子を見に行く?」
「そうね…」
猛烈に嫌な予感がする。
暗部の長としての直感が騒ぎながらも楯無は覚悟を決めて一夏の部屋まで向かう。
「一夏く~ん?そろそろ夕食の時間だけど、良かったらおねーさん達と一緒に食べない?」
楯無がノックをするが、一夏からの返事はない。
「一夏君…あれ?鍵が空いてる…」
ドアノブが回ることに気づく楯無だが、ドアの向こうから異様な雰囲気を感じて思わず背筋が震える。
それでも意を決してゆっくりとドアを開けると…
カーテンを閉め切った真っ暗な部屋。
壁の大きなテレビではホッケーマスクを被った大男による惨劇が流れている。
「「ひっ!?」」
だが、楯無と簪がビビったのはその映像を見て笑っている部屋の主の姿を見たからだ。
「クックックック…そうだ…これだよ…!」
一夏はベッドの上であぐらをかきながら持っていた手のひらサイズのノートに何かを記している。
「これなら…あいつらをぶっ潰せる!」
ノートには『白式・スプラッタ改造計画』とタイトルが手書きで書かれていた。
「白式超強化改造計画…始動!」
というわけで勢いのままに始まった『スプラッタ一夏の逆襲』ですが、これからも応援よろしくお願いします。
第2話 白は血により赤黒く染まる