「束さん!さっきメールで送った感じの改造、白式にできますか!?」
一夏はISをこの世に作り上げた天災科学者『篠ノ之束』に電話をしていた。
『あ、あのねいっくん。流石にこのプランは無いんじゃないかな~って、束さんも思うんだよ』
割とフリーダムに生きて、現在も行方不明になっている束だが一夏は先日の臨海学校の際にいつの間にか自身のスマホに束のアドレスと携帯番号が登録されていた。
だが、今の彼にとっては正直ありがたかったので遠慮なく使っている。
「…じゃあ、ナイトメアのシステムと雪片、及び雪羅の改造だけでいいです。アンロックユニットは学園の整備課の人に協力してもらうので」
『いや、だからね―』
「協力してくれたら臨海学校での水着姿や神楽舞の巫女服、部屋着姿の箒の写真全て束さんにプレゼントします」
『オーケー!束さんに二言はない!』
周囲から『鈍感』『朴念仁』と揶揄されている一夏だが、年頃の少女達に囲まれて欲望を滾らせないはずがない。
仲のいい女子の写真を『とある理由』から数枚所持していたが、今回の件が理由で全て処分をすると決めていた。
どうせさっさと捨てようと思っていた箒の写真だが、思わぬ形で役に立った。
持つべきものは天災の妹だなと思いつつ一夏は通話を終了させて30秒後。
自室の窓が開き、メカメカしいウサ耳にエプロンドレス、とんでもない巨乳の美女が入ってくる。
「はーい!みんなのアイドル!束さんだよー!」
最近簪と一緒に見た特撮作品に登場するヒロインみたいなポーズを取る束を軽く流し、一夏は白式を渡す。
「あと、これは前金代わりです」
一夏は部屋着姿や制服姿の箒の写真を束に手渡す。
「おおう!いっけね、興奮しすぎて鼻から愛が…」
鼻から真っ赤な愛を垂れ流しシスコンをこじらせた天災は写真と白式を受け取ると窓から去っていく。
「遅くても明後日には返すから、楽しみにしててね!あと、ちーちゃんに面倒な手続きは任せてるから!」
あっという間に消えた束の後ろ姿を見て、一夏はふうっと息を吐く。
「…さて、次はジェイソンの命日だな。せめてジェイソンのメイン武器だけでも全部把握しなくては」
―――――――――――
次の朝、扉をノックされた一夏の前に現れたのは自身の担任でもあり姉の『織斑千冬』。
「…一夏。昨晩の束の奇行に関して話してもらおうか?」
どうやら束、キチンと千冬に連絡はしていたらしい。
一夏は仕方なく千冬を部屋に上げ、説明をする。
白式の改造計画を思いついたこと。
これまでより強力な改造を束に頼んだこと。
…そして束にさえ言っていなかったことを千冬に明かす。
「千冬姉…ずっと黙ってたんだけど………
俺、刀が怖くなったみたいだ」
「何…!?」
原因は言わずもがな、ファースト幼馴染による日本刀での攻撃。
彼女達に対してストレスを抱えていると自覚してから一夏は、箒と同じように刀の形をした近接ブレードである雪片を使っていることに僅かながら拒絶反応を示していた。
実際、ここ数週間の訓練で一夏の武器展開速度は僅かだが下がり続けていた。
しかし専用機持ち達による暴力が彼の成長を妨げていたとはさすがの千冬も気がつかなかった。
「だから、俺………!少しでもまともに…戦えるようにって…!」
その言葉で千冬は納得した。
一夏は少しでも早く戦えるようになるために改造を束に頼み込んだのだ。
「…わかった。一応今日の実習は見学ということにしておこう」
「…ありがとう、千冬姉…」
ここまで一夏が追い込まれていたことに気付かなかった千冬は自分を恥じるが、一夏は姉に対して素直に頭を下げた。
「気にするな。それと、さっさと着替えて朝食を食べろ。廊下で待っている女子もいることだしな」
すると、扉を開けて入ってきたのは…
「お、おはよう一夏。それと、おはようございます、織斑先生…」
「おはよ~ございま~す!」
簪と彼女の従者である『布仏本音』が顔を出した。
どうやら、中々部屋から出てこない一夏の様子を見に来たらしい。
「おはよう、2人とも」
一夏は制服の乱れがないか軽く確認し、二人とともに食堂に向かった。
「…一夏…色々と気づいてやれなくて、すまない」
千冬の謝罪の言葉は、一夏の耳には届かなかった。
――――――――――
食堂に来た一夏は昨晩何も食べずにずっと映画を見ていたことを思い出し、カツ丼と醤油ラーメン、追加にカツカレーをそれぞれ注文して両方平らげた。
その様子に驚く簪と本音、そして後から合流した楯無と本音の姉である布仏虚。
「一夏…随分朝から食べるんだね?」
「ああ。昨日は映画見続けて夕飯食べずじまいだったのすっかり忘れてたからさ」
その様子を遠目から見ているのは一夏と関わりの多かった専用機持ち5人。
未だに簪と組んだことに対して怒っているようだが、一夏としては自分から頭を下げるようなことはしないと決めており、半ば喧嘩したような状態が続いている。
「あれ?一夏君、白式はどうしたの?」
ふと楯無は一夏の手首に巻かれていたガントレットが無いことに気が付く。
「ああ。実は今、改造に出したんですよ。明日には戻ってくると思いますけど」
「か、改造!?」
やはり昨日見たあの光景は夢ではなかったのか。
「ええ。気づいたんですよ、俺。今のままじゃ白式の性能を半分も生かせないって」
「…だから、使いやすくなるように改造を頼んだってわけね」
「はい。あと…虚さん」
「え?」
一夏は虚に話しかける。
「白式が帰ってきたあと、整備課の人達にも特殊な改造を手伝って欲しいんですけど…いいですか?」
「え、ええ…」
「ありがとうございます」
まるでお気に入りの玩具を買ってもらえたかのような笑みを浮かべる一夏だが、楯無と簪には不安しかなかった。
(ね、ねえ簪ちゃん…一夏君、白式をどう改造すると思う?)
(わ、私もわからないけど…あれを見たあとだから嫌な予感しかしないよ…)
昨晩、殺人鬼による大虐殺を楽しそうに見ていた一夏を見て安心しろというのが無理な話だったが…
幸か不幸か、その予想は的中することとなる。
――――――――――
翌朝のIS実習。
流石に入学半年ともなると一年生の殆どがそれなりに乗りこなせるようになっている。
すると、突然未確認飛行物体の接近を知らせるアラートが鳴り響いた。
「っ!山田先生!一般生徒を下がらせろ!」
「はい!」
千冬の指示に従い、副担任の山田先生が生徒たちを下がらせると…
空からデフォルメされたニンジン型ロケットが降ってきた。
「やっほー!IS学園の諸君、おっひさー!」
突如現れた大天災に頭を抱える千冬。
「…で、貴様は何をしにわざわざアリーナに突っ込んできた?」
「扱い雑じゃないのちーちゃん!?せっかく白式を返しに来たのに…」
束は一夏に駆け寄り、改造の完了した白式を取り出す。
「束さん…さすが、仕事が早いですね」
「ふっふーん!報酬の豪華さを考えればこのくらい当然だよ!でも…」
束は自分の握る白式の待機形態を見て、若干不安になる。
「本当に、『これ』を使うつもり…?」
「勿論!」
爽やかないい笑顔で答える一夏に、束も若干寒気がした。
「い、一夏…お前、そのガントレットは本当に白式なのか?」
千冬が疑うのも無理はなかった。
今の一夏が装着した白式の待機形態は以前と違い赤黒い染みのような模様が付いている。
「まあ、カッコイイからいいじゃないですか、織斑先生」
―――――――――――
「じゃあ早速、改造した白式の力を試してみない?」
一夏が白式を受け取った直後、束の一言から白式の試運転を目的とした模擬戦が行われることとなる。
その相手は…
「………」
鋭い目でこちらを睨みつけている鈴が試運転の相手に決定した。
「鈴か…なら、こいつがどこまでやれるのか楽しみだ」
「ふん!白式の弱点は知り尽くしてんだから、サッサと叩き潰してやるわよ!」
どうやらまだ簪と組んだことを根に持っているらしい。
「言っておくけどな、鈴。俺は今回のことは謝らないし、ある人との約束もあるから詳しくは話せない。そう何度も説明したよな?」
「ハァ!?そんなに後ろめたいことでもあるわけ!?」
やっぱりこいつは話が通じないと内心ため息をついた一夏。
「ふぅ………もうメンドくさい。さっさと始めようか」
「あったま来た!さっさとISを展開しなさいよ!」
すると一夏はガントレットをそっと撫で、小さく呟いた。
「…白式・スプラッタ」
刹那、銀と赤、黒の光が一夏を包み…
その姿を大きく変える。
「なっ…!?」
白式の面影はあるものの、その外見は以前とはまるで異なる。
全体的にくすんだ白に、所々が鋭利になった装甲。
パワーアップしたことで追加された武装『雪羅』は、まるで指の一本一本がナイフのような、小さい形に変化していた。
「…雪片弐型・改」
一夏の言葉に反応して、雪片が出現。
しかしそのデザインも日本刀の形から鉈に変化している。
「…ここまで俺をキレさせたんだ…どうなるか、わかってるのか?」
一夏は雪羅の刃をこすりつけるような動きを見せる。
「さあ………お前はどうやって殺されたい?」
次回、恐怖の権化と化した白式は…
第3話 目覚める怪物