今回はさほど暴れませんが、また胸糞悪い展開がありますのでご注意を…
朝のIS学園。
食堂の窓際で、一夏は外を見ながらコーヒーを飲んでいた。
千冬の親族なだけあってイケメンと言える一夏が微笑を浮かべながらコーヒーを飲む姿は、多くの女子生徒達の目を引いた。
だが…
(ああ………コーヒーを胃が受け付けてくれるのがこんなに幸せとは…)
胃痛が収まったことでようやく解禁されたコーヒーに内心涙を流しながら飲んでいたとは、誰も気がつかなかった。
「おはよう、一夏」
「おりむー、おはよ~!」
すると、一夏に声をかけてくる2人の少女が姿を現す。
「簪、のほほんさん…おはよう」
飲み終えたコーヒーカップをテーブルに置き、笑顔で挨拶する一夏。
だが、その様子を面白くなさそうに見ている5人組がいた。
「一夏の奴…あんなに情けなく鼻の下を伸ばしおって…!」
「全くですわ。大体私というものがありながら、更識さん達と仲良くするなんて…」
箒とセシリアは面白くなさそうに言うが、彼女達のバックにいる存在からの忠告もあり手を出せずにいた。
箒の場合、自身の専用機を作ってくれた束から「これ以上いっくんの胃袋を傷つけるようなら、今後箒ちゃんの紅椿のメンテナンスは行わないからそのつもりで!」と電話で言い渡されてしまった。
何故このようなことになったかというと、全ては一夏が束の胃袋を掴んでいたからに他ならない。
今後もし箒の暴行を見逃すなどすれば、束に対して手料理を二度と振舞わないと言われ、束は二つ返事で一夏に従ったのだ。
「………こんなの、おかしいよ」
そんな中、ポツリと呟いた少女に残りの4人が反応する。
「しゃ、シャルロット…?」
「アンタ…どうかしたの?」
ラウラと鈴が思わずギョッとする。
「あの女……ボクの一夏をよくも…!」
シャルロットは怒りや怨みに満ちた目で簪と本音を睨んでおり、その鬼のような形相にはさすがの4人も驚くしかなかった。
「ねえ…ラウラ」
「な、何だ?シャルロット…」
ラウラは恐る恐るシャルロットに聞くと…
「少しだけ、手伝ってくれる?」
――――――――――
「テヤアアアアアア!!」
放課後のアリーナ。
その上空では白式・スプラッタを纏った一夏と専用機『ミステリアス・レイディ』を纏った楯無が戦いを繰り広げていた。
「ちっ!」
雪片の一撃を流され、舌打ちする一夏。
「やるじゃない一夏君。改造して殺傷力が前より増したんじゃない?」
鉈に変化した雪片の重さに内心脅威を感じながら楯無は軽口を叩く。
「そりゃあ当然!殺傷力重視の改造ですから、ね!」
一夏は左足に収納していた消防斧を取り出し、両手に武器を持って応戦。
さらに、右手に隠していたスピアをゼロ距離で放つ。
「そんな使い方もあるなんて…!」
消防斧を収納し、一夏は再び雪羅・悪夢を展開。
一気に詰め寄るが…
「甘いわよ、一夏君!」
楯無は切り札である『清き情熱』を発動させ、一夏と楯無は大爆発に巻き込まれた…
――――――――――
「今日こそは勝てると思ったんだけどなぁ…」
今日の模擬戦も楯無に黒星という結果に終わり、思わずため息をつく一夏。
楯無による訓練は、着実に彼自身の結果として出ていた。
訓練の内容がキチンと身についているのかと疑問に思えば、楯無は実際に一夏の技術が向上したのかを確かめてくれる。
そのため、わずかでもレベルアップしていることを実感していた一夏は無茶な特訓などもせず、順調に強くなっていた。
(………ホント、楯無さんには感謝感激だよ)
思えば一学期の訓練は、楯無の特訓と比べるまでもなかったかもしれない。
篠ノ之は擬音ばかりでまるで説明になってなく、オルコットはやたら専門的な数字を出してくるため、理解することが難しい。
凰は篠ノ之に近い感覚型なため説明には向かなかった。
ボーデヴィッヒとデュノアはまだ説明が上手だったが、いかんせん彼女達は自分とマンツーマンで訓練をしたがり、一人を選べば他のメンバーがいちゃもんをつけてきたり攻撃してくるため、まともな訓練など数える程しかしてない。
危機感を持った我が姉が楯無を紹介してくれなかったら、今頃テロ組織の絶好のカモだったことは想像に難くない。
…尤も、つい先日の学園祭でテロリストに白式をパクられそうになったのは一夏にとってかなりの黒歴史になっている。
「さて、簪もデータ収集に付き合ってくれたわけだし、久しぶりに千冬姉含めて特製フルコースでも振舞うか!」
自室の冷蔵庫にある食材を思い出し、スマホにダウンロードしている料理アプリを立ち上げて夕食のメニューを考えていると…
「キャアアアアアアアア!?」
突然、一夏にとって見知った人物の悲鳴が聞こえた。
「…簪!?」
一夏はすぐさま更衣室を飛び出し、簪達がいるはずの女子更衣室まで走る。
――――――――――
「簪!何があった!?」
全速力で走った一夏がたどり着くと、簪は更衣室の前で座り込んで泣いており、楯無が肩を摩っていた。
「一夏………あれ……」
簪が指差した方向を見ると…
簪が制服や鞄を仕舞っていたロッカーは無残にも破壊され、中の制服などがズタズタに引き裂かれていた。
鞄に入っていたノートなども鋭利な刃物で切り裂かれており、イタズラと呼ぶには余りにも悪質な惨状が広がっていたのだ。
「どうして……誰が、こんなことを…!」
肩を震わせ、泣きじゃくる簪。
それを見て、一夏は頭の中がスっと冷えていく感覚がした。
その時、物陰から誰かがこちらを見ていたことに気が付く。
「…!」
誰かは、一夏の視線に気がついて走り出した。
「…楯無さん。簪のことを頼みます」
「え?ちょっと、一夏君!」
楯無の声も聞かず、一夏は逃げ出した人物を追って走った。
――――――――――
「チッ!」
思った以上に逃亡者の足は速く、一夏は少しづつ距離を取られていった。
「…仕方ない、白式・スプラッタ!」
一夏は白式・スプラッタの脚部パーツを部分展開し、人間サイズとなった消防斧を握る。
「…死んでも恨むなよ!」
脚部パーツによって走行スピードを加速させ、一夏は勢いよく消防斧を逃亡者目掛けて投げつけた。
「っヒィッ!!」
幸いにも斧は逃亡者に当たらなかったが、刃の先端が足元の床を砕き、一瞬だがスピードが緩む。
「………確保だな、ボーデヴィッヒ」
「あ……あ……!」
雪片の刃を首筋に突きつけられ、怯えていた人物。
それはドイツ代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒだった。
第6話『その名はクルーガー』