3度目の人生は魔法世界で   作:恋音

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第10話 普通とか常識とか知らないので

 たまたま迷い込んだ牢屋に居たのは私の世話係と学生時代親友だったシリウス・ブラック。

 私は彼を『グリム』と。彼は私を狐の尻尾、という意味らしい『ヴォルペテイル』から略して『ティー』と呼び合い出した。……昨日から。

 ネーミングセンスはよく分からない。名前から略すんじゃダメですかね?

 

 

 その翌日である今日、私は一体何をしているかと言うと。

 

「ふぎゃあん……」

 

 ──結構死んでた。

 

 

 

 

「おいおいおいおい……なんだよこの状況……」

 

 私は布お化けと化した吸魂鬼に運ばれてグリムの部屋に来ていた。出会って2日目からもうクライマックス。

 

 何故吸魂鬼が布お化けかと言うと、私の視界に優しくないのとグリムの混乱を避ける為に薄汚れた布を被って貰ったのだ。

 

「おい、どうした」

「ねちゅ……」

 

 吸魂鬼が私をポイッとグリムに向けて投げると驚きながらもキャッチした。私はボールか。

 

「うわっ、熱っ………ッ!」

 

 無駄にひんやりとしたグリムの手が私の額に当たる。

 

 ……待って、不自然なレベルで体温低い。

 

「あうあ!らっき!らっき!ダメ!ぬの、ばいちゃんっ!」

 

 吸魂鬼って幸福的な奴吸い取るじゃないですかヤダもー!ハリネズミのジレンマー!

 グリムのなんか色んな物を吸い取っているというSAN値チェック入りそうな光景を目にしたので布お化けとなった吸魂鬼にサヨウナラを告げる!ここでグリムがロストするとやばい!私、頼れる人居ない!

 

「治セ、絶対ニ。アンタガ貴族ナラ出来ル筈」

 

 んもぉぉぉ!喋らないでぇぇえ!?

 

「ハッ!? なんだそれ…!?」

 

 動揺した様子のグリムは声を荒らげるが吸魂鬼は見向きもせずに消えていった。

 看守的に脱走しそうな人間を放っておいて大丈夫なのか……こちらとしてはありがたけど。

 

「グリム……」

「ティー、生きてるか?」

「ばいちゃんきん……」

「生きてるな」

 

 熱が異様に高くなるだけで今回のは風邪特有の症状がない。頭は不思議と冴えてるし今ならなんでも出来そうな感じがする。

 あっ、ダメなやつかコレ。

 

「これは……魔力の暴走か? まさか魔法が開花したとかか?」

「かいか…すてた」

「おい待てなんで動詞に過去形が付いた。既に開花してた後って言う事か!?」

「いぐざくとりー」

 

 元気良くサムズアップするが魔力の暴走って死ぬ危険性あるやつじゃ無かったかな?私が死ぬのかな?く、死なば諸共!巻き添えはしてやる!

 

「じばきゅ」

「怖いこと言うな。自爆は洒落にならねェ」

 

 間違えて自爆魔法開発した時はピーターの髪が全て犠牲になったから確かにお洒落では無い。

 生えてよかった。心無しか増えた気がするが。

 

「………………マジか」

 

 ピーターが昔循環を調べるか何かでした時と同じ様に、私を膝にのせたグリムは手を握って調べると呆然とした様子でポツリと呟いた。完璧無意識下だったんだろうな……やだな……聞きたくないな……。

 

大人(おれ)より魔力量があるとか化け物か?」

「んぱのえいきょ、でしゅからな」

「闇の帝王の血筋ヤベェ」

 

 私も思った。

 

 でもなぁ、魔力量の多さには血筋以外に心当たりは2つある。

 

 1つ、使用回数による成長。

 魔法が使えると分かってから1年間私は闇の魔法使い(エリート)達に扱かれていた。と言っても種類に偏りはあるが、守護呪文なら大得意だぜ!

 

 もう1つ、私が転生者だということ。

 歳を重ねる毎に、とかの周期で成長するのなら前世分もしくは狭間での時間も含まれてあると思う。時間の概念無いみたいだし微妙だけど。

 

「ここまで魔力量があるなら、アレか……子供にまず使えるのかアレって……」

「にょ?」

 

 よく分からないので首を捻って見上げると顎に手を置き考え込んでいるグリムの姿。

 身なりが整っていてもう少し太って真下からのアングルじゃなかったらそれなりに美形だったと思うんだが台無しだ。

 

「………魔結晶を作る」

 

 魔結晶、ほう、あれね。

 …………分からん。全く分からん。

 

「まけ、けー」

「………魔結晶」

「まけんびょー」

「まけっしょう」

「まけっびょう」

「しょ」

「しょ」

「繰り返せ、魔結晶」

「ケヌュンビョッ」

「何語だ」

 

 言葉って難しいね。

 

 言語と格闘しているとグリムはとてもとても深く、それはもう海の底にまで辿り着きそうな程の深いため息を吐いて、説明をし始めた。

 そのため息が魔結晶についてなのか発音についてなのかは考えないでおいてやろう、私の為に。

 

「魔結晶は魔法族の貴族特有の伝統、って言ったらいいのか。親から受け継ぐ方法で、だ」

 

 私の目の前でグリムが自分の手を握りしめた。

 ん?何してるんだ?

 

「いくぜ…?」

 

 グッ、と力を込めた瞬間グリムの手に光が灯った。魔法使いなんでもありだな。

 

「わぁっ!」

 

 ぼんやりとした優しげな光が薄れていくとグリムは手を開いた。その手のひらには小指の爪サイズだが宝石の様なキラキラした石があった。

 すごく甘い匂いがする。

 

「こりぇは?」

「魔結晶だ。簡潔に言うと魔力の塊」

 

 不純物の混ざらない純粋な魔力程無色透明になっていうらしい。グリムの魔結晶は薄めの紫。

 うん、質がいいのか悪いのか分からない。

 

「これがなかなか難しいんだよなぁ。魔力を貯めるって事で高く売れるんだけど、純血貴族くらいしか伝承してねェし、見ての通り小さいから自然発生した魔結晶の方が使える」

「し、じぇん」

「人間じゃなくて魔法生物とか、そういうその他の要因から生まれるんだ」

 

 で、と前置きしてグリムは私を見る。

 

「これをお前もやれ」

「サヨウナラ」

「諦めるな」

 

 丁寧に頭を下げたが許可されなかった。

 

「むりゅ、むりゅぅ!」

「お前のその熱は魔力溜り、つって。魔力が体の規定量以上保持している状態で………着いてきてるか?」

「んぬん…」

「あ。分かってなさそう」

 

 言葉が難しすぎて頭蓋骨割れる。

 うんうん唸っているとグリムが仕方ないといった表情でハッキリ言った。

 

「お腹いっぱいで吐きそう」

「なっときゅ」

 

 となるとどうにかして魔力を消費しなければならないのか。その方法が魔結晶。

 ただし、くそ難しいという前提付き。

 

「魔法使って消費させてもいいんだけど杖無いと不安だしなぁ…。つーか魔力溜りって普通マグルにあるものであって魔法族は無いんだけど」

「ん、んぅ?」

 

 だからね、よく分からない。私貴族としてのアレコレどころか世界の常識すら身につける前の段階でここに入ったんだよね。

 

 名前から察するに魔力溜りって魔力が溜まりまくってる状態だよね。

 発散させないといけない、というわけか。

 魔法族は発散させる魔法(ほうほう)を知っているけど、魔法族になりきれない魔力量を持っているマグルは発散出来ないから私のような状態になる。

 

 ……魔法使えばいいだけじゃん?

 

 

 あっ、ああー!そうか!子供の魔法は安定しないからって理由で杖が必須なんですね!杖無しで使ったら暴走も否定出来ないと!

 

 体の規定量を超えている魔力は毎日使って発散していたからこんな状態にもならなかったし、幸か不幸か魔法のエリート共が周囲に居たから暴発等もしなかった、と。

 

 ……魔力消費に手っ取り早そうなのは攻撃力増し増しの魔法達だけど使ったこと無いものを杖無しの魔法族の近くで使いたくないんだよなぁ。

 暴発、暴走、ダメ絶対。

 

「ん? あ?」

 

 ベシベシと膝を叩いて思考中のグリムを現実に戻す。

 険しい顔して居たが視線が交差した。

 

「……放って…い…殺すのも…りか…」

 

 待て、なんか物騒なワード聞こえた。

 

「お前さ、本当に闇の帝王の子供なのか?」

 

 背筋がゾワゾワと嫌な警告を発する。

 

 あのさ、グリム。

 ひょっとしてなんだけど誰かに私を殺せとでも言われてるの?それとも親が誰ってだけで私も同じ存在だと思われるの?

 

 

 グッ、と私の喉にグリムの手が伸びる。軽くだけど絞められる。

 

 

「違って、欲しいんだけどなァ」

 

 

 そい呟いた数秒後、グリムは項垂れた。

 

「俺に依存しろ……俺の思い通りに動け……そうしたら…生きれる筈だから……ダンブルドアがきっとお前を助けてくれる……」

 

 あ、コレ色々吸い取られて精神参ってる絶対。

 

「にょー」

 

 グッと手を握りしめて魔力を掻き集める。魔法を使うようにすればいいのかよく分からないけど色々詰め込んだ塊を作り出す…!

 

 視界がチカチカ揺れる。

 

「んみゅ!」

 

 手のひらの中に何かの石が出来た。上手くいったと思う。

 それをグリムに、シリウスに差し出した。

 

「ん、あー、あー!」

「……何言ってんだ」

 

 よし、喉の調子は良好!

 

「び」

「び?」

「びぎゃぁああああああっ!」

 

「……は!?」

 

 私の最大限の音量で泣き叫ぶと、グリムはギョッとした表情で手を離した。

 ちらりと見えたがグリムの手は私の異様に高かった熱で赤くなっている。

 

「何事ダ、リィン!」

 

 布を被って無い吸魂鬼が喋りながら現れてさぞかし驚いただろう。私に近寄っても何の影響が無い事が不思議だろう。

 

「わたしは!この、せかいにょ!あく、やみのていおーにょ、むしゅめ!」

 

 私はこの世を脅かす悪の頂点に立つ男が溺愛する一人娘で。

 

「せかいにょ、きょーきぃ!」

 

 次世代の悪役だろう。

 

「ねりゃう、ことあまた!てきは、せかい!」

 

 私を利用しようと企む者はこれからも現れる。

 私の敵はこの世界そのものであり、味方でさえ敵である。

 

「でみょ、わたしは、いしぞある!」

 

 だけど私は敵に歯向かう言葉があって、護る術があって、知恵がある。

 

「おまえが、いじょんしろ!」

 

 私は帝王の娘。

 下から見上げられる存在であり、世界の畏怖する存在であり、請われ、機嫌を取られ、受動的な存在だ。

 

 私ね、自分から動かずに何もしないまま世の不条理を嘆く悲劇のヒロインが大っ嫌いなんだよ。

 

「ふ、ははっ、なんだそれ……。自分からきっちり認めた上に俺の言葉隅から隅まで把握しやがって。普通じゃねェ…!」

「ふつうにゃど、クソくらえッ!」

「だな!」

 

 吸魂鬼が状況を把握出来ないまま距離を離す。

 グリムの平和とか幸福とか吸い取らない様にという配慮なのかもしれない。

 

「俺はシリウス・ブラック。純血主義で魔法界の王族と言われているブラック家の──異端児だ」

 

 そこで『ブラック家』と言ったら闇の魔法族としてのスパイでもなんでも出来ただろうに、グリムは御丁寧に『異端児』と言ってくれた。

 私はこの寒い牢獄で唯一の味方を作れた様だ。

 

 

 

「とりあえずこの真っ黒な魔結晶は不純物が多すぎるからこれから特訓な」

 

 

 努力は嫌でござる。




私を利用しようと企む者はこれから『も』現れる

ヴォルペテイル(リィン)
…ネーミングセンスが無いのであだ名の由来がよく分からない理解出来ない。努力は嫌でござる(2回目)

グリム(シリウス)
…自虐じみていたが、この度『ダンブルドアのスパイ』ではなく『リィンの味方』になった。ダンブルドア側ではある。

物語はリィンのせいで複雑化。
とりあえず不思議語(ひらがなの小文字)はこれにておしまい。次回から進展。

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