第12話 「僕の平和な世界」
ハリー・ポッターの生活はごく普通な生活だった。小憎たらしい従兄弟のダドリーと毎日口喧嘩をしながら学校へ通い、どこか世間知らずな父親のテンションに振り回されながら、母親を見習い色々な常識を付けて行った。
「大変!ジェームズ!ジェームズ!ホグワーツから手紙が来たわ!」
「ッ、本当かいリリー!」
いつも落ち着いて行動する母親リリー・ポッターの稀な行動にハリーはメガネを直しながら部屋から降りて様子を伺う。
ただし父親のジェームズ・ポッターは普段通りに思えた。
「遂に隠れる必要が無いって事だね……!マグル生活はなかなかに快適だったけどやっぱり魔法が使えないとキツかったんだ!」
「今更掃除を手でやるのキツかったのよね…。でも心配だわ、向こうの情報は一切遮断していたからどうなっているか……」
祭りでも開きそうなテンションに困惑する。
するとジェームズは部屋の外から眺めていたハリーに気付きおいでとジェスチャーをした。
「うわっ!」
脇に手を入れられ持ち上げられるとハリーは驚きの声を漏らす。
「ハリー!君も魔法使いになったんだ!」
「……頭おかしくなったの父さん」
「ちょ、ハリーは僕に辛辣過ぎない!?」
その父と子のやり取りでリリーがクスクスと笑みを零す。
──幸せだなぁ…
よくある日常の風景。
たった少しの事で変わった幸せな時間。
「ハリー、愛してるよ」
「私も貴方の事を愛してるわ、ハリー」
「……いっつも言うね」
聞きなれた言葉を照れ隠しで誤魔化した。
極々一般的な、普通な生活だった。
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「すっっごい…!」
グリンゴッツ銀行でお金を引き落とす為にトロッコ列車に乗ったハリーは興奮した様子で声を上げた。
ロンドンにある漏れ鍋から、様々な店が点在するダイアゴン横丁に入ればそこは別世界。
魔法という物が存在すると知ってどれだけワクワクしたことか。
ハリーはすごいすごいと何度も繰り返した。
「うっ……何度乗っても慣れないわ……」
顔を青くするリリーだったが流石ジェームズの息子というか。
親子揃ってテンションを上げる様子に苦笑いを零す。
トロッコは右へ左へ左へ右へと、道順を覚えようとさせない程グネグネと曲がる。
トロッコは深く潜ると地下湖のそばを通る。鍾乳石や石筍が天井や地面からせり出していた。
「僕いつも分からなくなるんだけど……」
「ん?なんだい?」
ハリーはトロッコの音に負けないよう大声で呼びかける。するとジェームズは首を傾げた。
「鍾乳石と石筍って何が違うの?」
「上から垂れるのが鍾乳石、下から盛り上がるのが石筍だよ。ハリーは偉いね、疑問に思ったことを解明しようとするんだから。どこかのダーズリーとは違うね」
「ジェームズ……。ペチュニアの息子を悪く言わな……うっ…」
真っ青なリリーがそう注意をするとようやくトロッコは止まる。
グリンゴッツの小鬼─名はグリップフック─が金庫の鍵を開けた。
ハリーは思わず息を呑む。
中は金貨の山。銀貨の山。銅貨の山。
いつも節約ばかりと口にする両親、いや、主にリリーだが。まさか我が家にこんな財産があるとは想像もしてなかったのだ。
「父さん達……何者なの……」
「闇の帝王を退けた英雄一家。と、言われながらも危険から逃げる為にマグル社会に夜逃げした普通の家族さ」
「………それ、普通じゃないよ」
やはりハリーの父はどこか常識外れだ。
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おかえりなさいポッターさん。
自分が特に何かをした訳でもないのに父親の恩恵の様に道行く人々にそう言われる。
もちろん社交辞令だという事も分かっているしどうしようもない事は分かっていた。
「(まともに買い物も出来ないや)」
親が称えられる事は嬉しいし、他の人と違う特別感は高揚をもたらす。
だが両親の愛を一心に受けたハリーにとってそれは大事な事ではなく余分な事。
彼にとって1番大事な事は名声でも名誉でも栄光でも無く、辛い時も楽しい時も共感したい時にそばに居て愛してるを呟いてくれる親なのだ。
「ねェ、父さん母さん」
「ん?なんだい?」
「どうしたの?」
「……生きててくれてありがとう。僕、幸せ」
「僕はああああ!世界で1番んんんん!幸せだぁあああ!!」
「やめて父さん恥ずかしいよ」
ハリーは表情を戻して次に入る予定だった店に入った。
そこで、運命の出会いをする。
「(小さい……)」
キョロキョロと周囲を見回す金髪の小さな女の子を見つけた。
小動物の様な仕草に少し笑みが零れる。
その子に習いハリーも周りを見渡す。採寸している自分と同年代であろう子も訝しげに女の子を見ているようだった。
「ん?兄姉の付き添いか?」
盗み聞きしていたらどうやら違うらしい。
耐え兼ねてすぐさま近寄り持ち上げてみた。驚く程に軽い。従兄弟のダドリーの4分の1も無いかもしれない。
「僕ハリー、君達は?」
ハリーの魔法族の最初の友は、間違いなくこの2人だった。
運命は変えられるから運命なのだ。
偶然の巡り合わせにより出会えた奇跡にも等しい運命。しかしそれは日頃の行いや選択によって変わるもの。
「(よろしくね)」
お互いの保護者のドタバタ具合に、3人は結局耐えきれず笑いあった。
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キングス・クロス駅の9と3/4番線からホグワーツ特急が出る。
「えっ、じゃあもしかして傷……」
「うん、あるよ。これ?」
ハリーはこれから過ごす学び舎、イギリスが誇るホグワーツ魔法魔術学校へ向かう電車のコンパートメントの中。ロナルド・ウィーズリー──ロンと会話を楽しんでいた。
「わお……凄い……」
ハリーが前髪をかきあげるとイナズマの形の古傷が肌に刻まれていた。ロンは生き残った証に目を取られる。
「でも僕まだ自分の事がよく分かってないんだ」
「自分の事なのに?」
「うん。父さんも母さんもずっと魔法界の事分からなかったんだ」
「へー…」
純血貴族、つまりは生まれた頃から魔法界で過ごした者。ロンの知識は魔法界の常識と見て間違いなかった。
どうやら名前を言ってはいけない人、闇の帝王ヴォルデモートがポッター一家を襲った。死の呪いから唯一生き残ったハリー。そしてジェームズは撃退し、ヴォルデモートは姿を世から消した。
生存は不明であるが多くの者が死んだと言うのだ、いや、死んだと願っている。
「うー…ん、やっぱり僕、何もしてないよね」
「死の呪いから生き残っただけでも凄いんだよ」
「えぇ……でも僕普通にマグルで学校通ったくらいなんだけど……。あ、皆勤だよ!」
「キミ結構マイペースだね」
母親の逆境に耐える強い心と他人想いな所。父親のマイペースで悪戯好きな所。
従兄弟であるダドリーの現実主義な所。
親が生きていて、自分に余裕があるからこそ周りが自然と見える。
周りのいい所を吸収して育ったハリーは卑屈になる事も自信が無いという事も無鉄砲な所も、無くなっていた。
──コンコン…
「はい?」
コンパートメントの扉を叩く音に2人は視線をそちらに向けた。
「探した、ハリー……」
酷く疲れた様子のドラコ・マルフォイが居た。
「ゲェ、マルフォイじゃ…」
「あぁ。赤毛にそばかす…ウィーズリーか……ちょっと今お前に構ってる暇が無いくらい忙しい」
「はぁ!?どういう事だよ!?」
ロンとドラコは馬が合わないのか、それとも生まれ持った気質……グリフィンドール家系とスリザリン家系のせいなのか。
どちらにせよ、ドラコの言葉通りなのは確かだった。
「リィンを知らないか?」
「リィンを?」
「あとアレの家名を知らないか? なんか、父上がリィンを丁重に扱えだとか目を離すなとか言ってきたんだ……」
「えっ、どういう事?あの時倒れた人だよね?」
「遠回しだから分かりにくいけど父上の言いたい事は多分『リィンを利用しろ』……だと思う」
「わっかんない。なんでだろ」
「マルフォイ、ハリーに何の用だよ」
「あぁもううるさいな!人探しだよ!家とか関係なく父上が尋常じゃなかったから問い詰めてみようと思ってるだけさ!」
マルフォイ家というのは闇側と光側の両陣営から見て現在微妙な立場にある。
闇側からは血縁関係がある以上地位が高い家。しかし処罰は受けず中立としてその地位を確立しており、扱いが難しい。光側からは闇陣営の家である筈なのに操られていたと証言され証拠も無ければ何も出来ない狡猾な家と。
中立派とも言えない、傍観派と言うには関わりが必ずある、そんな両板挟みの立場だった。
もちろん子供であるドラコがそんな細かい事を知る筈無いが。
「とりあえず僕も手伝うよ。入学前に会いたい」
「助かる……ほんと……」
マルフォイ家は純血貴族もあって知名度は非常に高い。好奇の視線に参っていたのだろう。
だいぶ弱っており悪態をつく暇もなさそうだ。
「(そんなに疲れるなら組み分け終わってから話しかければ良いのに………まぁ面白いから言わないけど)」
結局見つからなかった。
「あ、リィン」
「ホントか?」
「どこどこ?キミ達の探してる子って」
組み分けをする為に集まった大広間の人混みの中、ハリーはようやく目的の人物を見つけた。
その声につられてドラコ、ついでにロンも視線を向ける。
空からフワフワと浮いている蝋燭。幻想的な風景にも関わらずリィンは目の前を真っ直ぐ見ていた。新入生特有の浮かれた様子は全く見えない。
……まるで戦場に立っている様だ。
彼女の視線の先にあるのは組み分け帽子。
実は帽子を被る事で自分の所属する寮を決める事が出来るのだ。
寮は全てで4つ。ホグワーツ創設者4名の家名から取られている。
ゴドリックのグリフィンドール。
真紅に金が映える、勇敢な者が集う獅子の寮。
ロウェナのレイブンクロー。
青に銀の上品さが魅せる、機知と叡智に優れた者が集う鷲の寮。
ヘルガのハッフルパフ。
黄と黒が目を惹く、心優しく勤勉で真っ直ぐな者が集うアナグマの寮。
サラザールのスリザリン寮。
緑を銀で飾り付け、優れた才知を持つ者と狡猾な者が集う蛇の寮。
どうやら名前が呼ばれ始める様だ。
家名のアルファベット順なのでハリーは中盤になる。しかしマルフォイであるドラコはハリーより早いだろう。
「………」
ハンナ・アボットの組み分けが終わり次の名前を呼ぶ時、羊皮紙に目を通したマクゴナガル副校長がそっとその目を閉じた。
「(リィンの家名、結局なんだろう)」
重々しく口が開かれる。
ぼんやり蝋燭の揺れる火を見ながら新入生は耳を疑う名を聞いた。
いや、新入生だけでは無い。むしろ生徒全体だけでは無い。
厳粛な態度を崩さないが、微かに教師にも動揺が見て取れた。
当の本人は幻想的な風景にも関わらず目の前を真っ直ぐ見ていた。組み分け帽子の──更に奥。
世界で1番偉大な魔法使いを。
「アズカバン・リィンッ!」
周囲の人間が騒々しく反応する。
ハリーの初めて出来た友人は絡みつく様々な視線の中堂々と歩く。
………鼓動が早まった。
「(最っ高だよ……リィン……!)」
自分に流れる父親の血を確かに感じた。
リィンのフルネーム登場です。
原作と違い心理的に余裕のあるハリー。
死んでしまっていたかもしれない、と真実を知ったからこそ幸せを確かに感じてます。
それとドラコは余裕が無いのでロンに構ってる暇が無いから険悪さは半減。潜在意識はありますがね。