入学前。いつも通りアズカバンでゴロゴロしていたら、看守の中で唯一人間の看守長─名前不明─と共にセブさんがやって来た。
「……入学だ。荷物はもうまとめ終わった。我々は直接ホグワーツに向かう」
刑期終えた気分になった。
アズカバンのスローライフ楽しいです。
……ところで私って終身刑?
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「改めましてお久しぶりです姫君」
姿くらましという瞬間移動を使ってホグワーツ付近に飛んだ後、セブさんの私室兼準備室である地下室で彼は恭しく頭を垂れた。
「荷物、ありがとう」
「……勿体なきお言葉」
セブさんは賢い事に私が赤ん坊の頃の記憶があると悟った様で、忠義の態度を見せる。
ううーん……父の被害者をまた苦労させるわけか。そう考えたらちょっとだけ反省する。
ちょっとだけ。本当にちょっとだけ。
「申し訳ありませんが私は現在我が君のお言葉でホグワーツに潜入しております」
「つまり、父側だとバレるしない様に。私の味方行動は難易度…高、高山?激しい?と?」
「…………はい」
顔を上げさせて向かい合わせで椅子に座る。
セブさんは死喰い人。つまり闇側。
ただし世間には闇側だという事がバレない様に光側だと偽っている。
「あー……分かるした、分かるした故」
「ご理解感謝致します」
「しかしながら、影では私の味方、と?」
「もちろんでございます。私の忠誠は、我が君と姫君へ……」
わーいやったー!
セブさんは昔と変わらず味方だーー!
「ふぅん」
……とでも言うと思ったか。
何も知らない子供なら騙せるだろうね。
頭の弱い、教育もままならない子供なら。
一言言わせてもらうと凄く胡散臭い。
私は彼の事で知っている事がある。
『リリー・ポッターを愛した』
ハリーの母親の事。
当時の事をよく知るシリウス・ブラック……私の味方であるグリムに2人の関係性を聞いた。
2人はマグル生まれでリリーさんは両親共にマグル。セブさんは彼女を愛した、ハリーの父親であるジェームズさんも彼女を愛した。
結論で言うと失恋したんだけど。
それでもセブさんは今のリリーさんに会えば動揺を見せる。多分想いは完全に昇華されてない。
そして父であるヴォルデモートはポッター一家を殺しそびれた。
……父を放っておけばリリーさんを殺すかもしれないのに、何故忠誠を捧げられる?
それらを統合した結果、私の下した結論。
「そう受け取るですよ…──今は」
「……。」
「私の扱う方法に、困難多大であると思考中ですが、精々頑張るしてください。スパイさん」
地頭は良い。だから遠回しでも伝わる筈。
『今は、闇側の味方だと分かったよ。今はだけどね。未来で、例えばヴォルデモートが倒される時、闇側に居るかどうか分からないからね』
『私の扱いに困るよね、だって己の立場がどうなるか分からないんだから。一生懸命考えてるよね、まぁ頑張ってね。もしも私の予想があっていたら私の一言でキミの命運決まるもんね、ダブルスパイさん』
セブさんはこちらを真っ直ぐ見ながら表面上の返事をした。
「えぇ、全ては我が君と姫君の為に」
『闇側からのスパイ』と言う解釈。腹の中では何考えているか分からないけど。
「すまないセブルス・スネイプ、渡し忘れた物があった……」
扉の外から聞こえたのは看守長の声。
セブさんが入室を許可すると不機嫌そうに私を睨みつけながら袋を渡した。私に。
「……?」
「お前の、唯一の、荷物だった物だ」
受け取って紙袋をガサゴソ開く。その中にあったのは数少ない記憶の中で唯一の所有物。
「……魔法省は渡す必要無いと言っていたが闇の魔術の形跡も無かったし、私からの入学祝い代わりだ」
看守長は変わらず不機嫌面。
中に鎮座していたのはペンダントだった。
父がくれた物。
「……ッ!?」
「あり、ありが、と、ありがと……ッ」
「ど、どうすれば……」
涙が零れる。
看守長は私の態度に調子を崩してオロオロし始め挙句、見るからに子守りが苦手そうなセブさんにまで助けを求める視線を向けた。
「良かった、良かったぁ……」
安心してボロボロ目から涙が出てくる。
「良かった……!」
──これでいつでもセブさんを呼び出せる!
「ありがと、ございまひゅうううう……」
歓喜あまって抱きつけば、看守長は慌てて自分から私を引き剥がした。
「あー、えっと。……10年もよく耐えたな」
「うわぁぁあんっっ!辛いですたああ!」
看守長を10年目にしてようやく絆せた。
子供が全員無垢で純粋だと思うなよ、こちとら堕天使産の闇の帝王の娘だ。
演技って地味に難しいなぁ。練習しよ。
「し、失礼した!」
看守長は私が泣き止めば正気を取り戻して部屋から出て行った。新手のツンデレかな。
「姫君……」
「何?」
「……いえ、お元気そうで何よりです」
セブさんひょっとして喧嘩売ってる?
畜生、この人にバレない演技力身に付けないと私にとってのラスボス、アルバス・ダンブルドア校長に敵わない。
状況確認は、グリムと合流してからの方がいいかな。
とりあえず、時間が来るまで文字教えて。
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「アズカバン・リィン……ッ!」
ミネルバ・マクゴナガル副校長に名前を呼ばれ組み分け帽子の元へ歩く。
ビビるな、前を向け。
決して視線を逸らすな。
『……姫君、本当に家名はこれでよろしいのですか?』
家名:アズカバン。
私が自由に決めていいという事でこうした。
隠すという事はやましい事があると言っているようなものだ。これから7年家を誤魔化すよりは堂々と明言していた方がいい。
大人にはどうせ闇の帝王の娘だという事はバレている。
もしも未来で『リィンの親はヴォルデモートなのだ!鉄槌を下せ!』的なこと言われたら。その言葉に動揺した無知であった者は何を思うか。
もしその時に私が何かを企んでいたら。
その計画はあらかた潰れる事になる。
気にしてませんスタイルで隠さない。
何度でも言うけど元は知られている事。なら知らない人に自ら教えておく。
……と言っても『父親を知らない子供』としてダンブルドアを騙せるのなら使う。
「無駄と、推定する」
セブさんはダンブルドアと繋がっている、と予想している身として情報共有の危険性も視野に入れておく必要がある。これに関してはグリムだってそう。監視役だと本人から言われないにしてもそうだと確信しているから向こうに渡す情報の選出はする。
なら赤ん坊の記憶を持っている事も共有する可能性が高い。
私の目的は、中間派として生き延びる事。
闇側にも光側にも私の存在を使わせてたまるもんですか、って事だ。
椅子に座るとハリーやドラコと目が合い笑みが零れる。ドラコは心配そうな顔をしてハリーは笑顔を返してくれた。
友達という感情は少し嬉しい。親から何かしら教えられていたり、そうでなくてもアズカバンという名前に嫌悪を覚えても良いのに。
変わらない感情は私にとってとても尊い事。
大切な事。
大丈夫、私にも味方はいる。
「そうだな、キミは…──」
私より前に居たハンナ・アボットの出番で帽子が喋る事は分かっていたから驚きはしないけどビックリはした。
「寮って……」
組み分け帽子が結論を下すより先に私は周囲に聞こえるほどの音量で語り掛けた。
「ん?」
「皆がその可能性を所持すている故、本人が心どこかで望むした場所が選ばれるのでは」
「………ほう、キミは組み分けをそう取るか」
勇敢、機知、勤勉、狡猾。
人間それで分けきれる程簡単に造られて無い。
神様がどう思って人間に感情を付属させたのか分からないし、そんな真理的なこと分かりたくもないが、少なくとも『分けられない』と言える。
私は次世代の悪役。
……そんな事、望んでないんだよ。
「キミが、望む寮はそこか」
私は真っ直ぐ望む。
私の命運は私が決めるもので、何者にも奪われない。絶対に思い通りの人形になってたまるか。
「運命は変化するもの、故に」
自分の性格を考えれば、血筋を考えれば妥当な寮はある。むしろそこに入るのが理想的なシナリオ通りだろう。……私を悪役に仕立てあげたい者にとって。
そう予想通りに行くと思うなよダンブルドア。
「…───ハッフルパフッ!」
私と知恵比べと行こうじゃないか、世界。
……でも口調のせいで締まらなかったからか生徒は苦虫を噛み潰したような顔だった。解せぬ。
寮はなんと驚きハッフルパフ。
去年のハロウィン、Twitterでアンケートをとっていました。
3度目のリィンが入る寮は──(全38票)
グリフィンドール…24%
レイブンクロー…18%
ハッフルパフ…3%
スリザリン…55%
分かってた、知ってた。このスリザリン票の多さよな。
ここで恒例の煽りを(恒例にするな)
い つ 票 数 の 多 い 寮 に 入 れ る と 言 っ た ?
どの寮でも基本の展開的に問題は無かったんです。どっちみち災厄まみれですし。
でも、私にとって1番楽しい展開を望める寮が票数1番小さかったんで、私、とっても嬉しい♡
自称皆様の予想を斜め上に行く恋音でした。