一週間。
それが昼夜問わず守護霊の取得にかけた時間だ。
エクスペクトパトローナムと、何度唱えてもうんともすんとも言わない。
その代わりにと試したインセンディオやエクスペリアームスといった攻撃性の高い魔法や決闘系の魔法などは比較的簡単に覚えることが出来た。
「うーーん」
「ティー、下手くそだな?」
スリザリンの部屋で、杖を振るいながら人間になったグリム、もといシリウスの元で練習する。
全然うんともすんとも言わない守護霊の呪文。
シリウスが呪文を使えたので私の杖を使ってお手本をしてくれたのだけど。
「ダメぞりぃ……」
思わず唸って布団に倒れ込んだ。あ〜〜ふかふかのお布団幸せ。美味しいご飯にあったかいお風呂にギスギスした視線が待ってるんだよなぁ。
「ティーは魔法使うの上手いだろ?」
「推定は……」
布団の上に寝転んだ私を慰めるようにシリウスが私の頭をポンポンと撫でた。
はー、落ち着く。
「やっぱ闇との親和性の高さのせいだろ」
「お前に宣言ぞされたくなきが?!」
おいブラック。
アズカバンで生活しててもそこまでピンピンしてる男はそうそう居ないからな?
私もどうして使えないんだが分からなくて唸っていると、ふとこのおじさんは顔を上げた。
「……?」
「ティー、この呪文って幸せな思い出を思い浮かべるんだけど、なんか浮かべてる?」
「…………誕生すてこの方、私がそんな思い出ぞ所有済みと思考するぞり?」
幸せな思い出とかいう重大項目が必要と言われましても。
急に縁遠い必須材料とか確保してないに決まってるじゃん。
「グリムぅ……」
「守護霊の呪文はティーにとって必須だから、伝言には間に合わなくても早く覚えような」
「はぁい」
幸せな思い出か。無いなぁ。
初めて魔法を使えた時くらいだろうか。私には縁のない思い出すぎて唸った。
「まぁ、正直俺がいれば迷子にはならないだろうけど」
「ぷんびゃる」
「はは、なんて悲鳴だよ。うりゃ」
「ぎゃ!」
私の鼻を摘んだ男。プリチーな鼻をなんてことすんだ。
シリウスの耳を引っ張り返して、じゃれついた。
「まぁ、今日はここまでだな。大丈夫、まだ時間はある」
「そう、ぞね。まだ。まだ開幕すたばかり」
舞台の幕は上がったばかりなのだ。
明日は何があったっけ……。
「おやすみティー。いっぱい食べてしっかり寝て大きくなれよ」
「……うみょん」
「なんだよその返事」
「言われずとも……」
ウトウトとまぶたが重たくなってくる。
私を誰と心得えるか、いっぱいご飯食べてグラマラスな爆美女になるに決まってるじゃん……。
「早く、あんぜん……」
「っ、あぁ、ティーが安全に暮らせる場所を、作ってやるから」
うん、よろしくね……。
慢性的な胃痛が、止まらないんだ。こんなに安心出来るはずの空間にいるのに、アズカバンの方が落ち着く時点で。
私は眠りに落ちた。
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「あー!お前、スキャバーズ食べた犬の飼い主!」
飛行術の授業を受けに行こうとしたら赤毛のそばかすの少年に絡まれた。
「えっと、グリフィンドールの」
「ロナルド・ウィーズリー!……えっと」
「リィン・アジュカバンですぞり」
「あ、そうだ。リィンだ。アズカバンだなんて変な名前にスリザリンで暮らしてるってやつ」
「どっちも私の望むことでは無きなのですが……」
ガチで望んでない。何が好き好んでアズカバンで暮らしたがるんだよ。病原菌と鬱とサイコパスたちしか居ない場所に。……まぁ名乗りは私が望んだんだけどね。
「この犬っころにスキャバーズは食べられる所だったんだぞ!?」
「それは本当にごめんです!」
うちの駄犬が申し訳ない。私に責任の所在は無いけど、喋れない犬の代わりに謝っておくよ。
「私も追いかける事ぞ難易度高きで。途中で力ぞ底見えすてグワーッとばたんすたです」
「……えっと、追いかける、事、ん?なんて?」
ロナルド君が私の言葉を読み解けなくて首を傾げている。うーん、どう言ったらいいかな?
私も首を傾げたら気まずい沈黙がその場を支配した。
「んー。頑張って追いかけた?」
「……!うん!」
「それで、どうなったって?」
「不可能。えっと、行き先不明?足ぞ遅延?」
「………………追い付けなかった?」
「それ!」
「頑張って追いかけたけど、追い付けられなくて、どこに行ったか分からなかったんだね」
「その通り!で、えっと、私、力尽きるすた」
「うん、力尽きたんだね」
ロナルド君が根気よく私の言語を解読しようと頑張ってくれている。ごめん、おしゃべり自体はするから滑舌は問題ないはずなんだけど、喋っていた相手がグリムしかいなかったから語彙訂正をしてくれなかったんだよ。
「起床、夜!」
「おお、起きたのが夜だったと。きみ、文法めちゃくちゃだから単語の方が伝わりやすいよ」
「おぉ……なるほど……」
「まあ……スキャバーズ無事だったし……別にいいよ。大変そうだし」
ぶっきらぼうにロナルド君が呟いた。私の脳天気な言語に誤魔化されてしまったようだ。何より何より。
それにしても……。
「なるほど、ツンデレ?」
「ツン、何って?」
「何事も無きです!」
にこー!笑って誤魔化した。
「ありがとうですロナルド君!」
「ロンでいいよ」
「んう?ロン?別名?」
「もしかして短縮形呼び知らない?ロナルドって名前は略されてロンとかロニーとか呼べるんだ。愛称とかあだ名とかとはちょっと違う」
「へぇ!リィンだと何事になるですかね?」
「えぇ……どう書くの?」
「R、E、I、N?推定?」
「うーん。レイ、とか?頑張って捻ったらレイリ?多分、短縮形は無いと思う」
「しょんな……」
ガッカリだ。
まぁもとより本名が短ければそうなるか。
「リィンってハッフルパフなんだよね?」
「うん!」
「なのにスリザリンに暮らしてるのって大変じゃない?部屋とかどうなってるの?」
「1人とペット!私、布団のふかふか好物ぞり。えっと、スリザリンではドラコ、お目付け役!」
お世話してくれるのは彼なんだよ。ルシウスさんから言いつけられてるから、いい子のドラコは嫌でも私の世話をしなければならないという。
「マルフォイにかぁ……。この場合、リィンに同情すべきかマルフォイに同情すべきか悩むなぁ」
「不敬!」
酷い。私とドラコ仲良しなのに。初めてのお友達だし。
初めてのお友達といえばハリーもなんだけどね。
「ロン、は、えっと」
「ゆっくりでいいよ」
「ハリーと友達?」
「うん!同室」
「あそこでハリー、監察、閲覧?中ぞり」
はい。実はロンの後ろでこちらを邪魔しないように見てるハリーの姿。私からはバッチリ見えているのだ。
ハリーは私とロンの視線が向かったのに気付いて手を振った。
「ハリー!なんで何も言ってくれないんだよ」
「いや、だってリィンの言葉頑張って解読してるのを邪魔するのは悪いじゃん。ねぇハーマイオニー」
「そうね。ロンがそこまで面倒見がいいとは思ってなかったわ」
「もー、苦労してたんだけど」
くるくるの髪の毛の女の子もハリーの横にいたみたい。女の子は私を見て、挨拶をしてくれた。
「こんにちは。私はハーマイオニー・グレンジャーって言うの」
「リィン・あじゅ、あず、カバンです。はーみゃいおにー……グレンジャーさん」
「呼びにくい?ならハーミーでいいわ。親によく呼ばれてるの」
「それなれば可能です!ハーミー!」
ハーミーはよく出来ましたと言いたげに頭を撫でてくれた。うずうずと何か聞きたそうな顔をしているけれど、一呼吸置いてハリーの方を確認した。ハリーが首を横に振ったのを見て、ガッカリしたように肩を落とすハーミー。
「……何が気になるですか?」
「あ、いや、……色々。でもほら、私たち初対面じゃない?初対面の人にあんまり家庭や過去やプライバシーなところはズケズケ聞かない方がいいよって、ハリーに注意されたことがあって」
「なるほどぉ」
いい子だな、三人とも。
「じゃあ、仲良くなるすれば良き、ですぞね?」
「うん。でも私同性の女の子と全然仲良くなったことなくって」
「ふふふー、私もです。ハンナ位しか会話ぞすた事無きです!」
スリザリンに居てもドラコカバーが入るから皆遠巻きなんだよね。チラチラ見られてるのは分かってるけど、誰も構ってくれない。
文字を教えて欲しいから、今度ドラコがおデブちゃん二人に教えてる所に突撃しようかなと思ってる。
「チュウ!」
「あ、スキャバーズ。出てくるなよ」
袖の中から出てきたのはピーターだった。
「すぴゃぱーず」
「スキャバーズ」
「……スキャブ?」
無理です。発音できません。
「ボフッ!?」
「ヂュッ!?」
スキャバーズとグリムがほぼ同時に噎せ返った。
ちなみに後ほど何故吹き出したのか聞くと、『スキャブ』は俗語で『人間のクズ』って意味らしい。純粋無垢な子供達は何も知らなかったので動物もどきだけが反応した感じだそうだ。名付けピッタリじゃん。ピーター割とクズだし。
「リィンのペットは大分痩せてるけど、なんて名前なの?」
「グリム!」
「グリ、えぇ……。センス悪いよ。しかもよりにもよって黒い犬に名付けるだなんて」
いいんだよ。動物もどきの名前なんて適当で。
私はいい年したおっさんを飼ってる仲間だと思ってるからロンの肩を叩いた。
「なっ、なんだよ」
「私、ロン、同類仲良し予感」
「え、不名誉かも」
失敬すぎる。