3度目の人生は魔法世界で   作:恋音

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第18話 前世からの仲

 

 エクスペクトパトローナムの取得はまだまだ出来ていない。だが、私の取得具合を待ってくれるほど時間はゆっくり進んではくれなかった。

 

 ベッドがふかふかだったことと、教室の石の床が、アズカバンのより少しだけ温かかったこと、人の視線が多いこと等、いつもと違う日常に慣れない中で始まったのは『闇の魔術に対する防衛術』の授業。

 ハッフルパフ生だけがいるのか、他の寮生も混ざってるのか、私はあまり気にしていなかった。

 

 だって、誰が隣に座っていても先生の方がずっと気になる。具体的に言うと、頭。

 

「お……おはようござい、ます……!」

 

 教室の空気が震えた。

 ターバンを巻いたクィレル先生が、盛大に噛みながら教壇に立つ。

 

 一歩歩くたびに、ローブの裾が引っかかり、ターバンが左右にぐらり。

 

 ……思ったより、首の筋肉強いと思う。あんな重たそうなもの、ずっと頭に巻いてるなんて。

 

「きょ、今日は……え、えー……まず、き、基本の話を……」

 

先生は手元のノートを開こうとして落とした。

拾うときにターバンが机にぶつかり、教科書がずれる。

 

 ……大丈夫かな、この人。

 前世で強風に吹かれて飛ばされたカラスだったとか、海賊の雑用に潰されたネズミだったりとか、そういう生まれ変わりなのかもしれない。

 

「え、えー、闇の、ま、魔術とは……そ、そもそも……な、なんでしょうか……?」

 

 先生がそう言った瞬間、教室の空気が少し引き締まった。

 

「えっと……そ、それは、う……うんと……『た、他人を傷つけたり、た、魂をおかしたりする……ま、まほ、魔法です』」

 

 言葉がぽろぽろこぼれていくみたいだった。

 教科書の文字をそのまま読んでいるみたいけど、本人がその意味を理解しているのかどうかは、ちょっと怪しい。

 

「『で、でも……』」

 

 先生が続けた。

 

「『や、やみの魔術がこわいのは……あの、つ、使い手の意思が……と、とても強く、そして……そして、ふ、ふきそくで……ああ……』」

 

 脳内で階段を登っていたら途中で床が抜けたみたいな喋り方だ。

 

「……不規則、かぁ」

 

 クィレル先生の感想(?)以外は教科書をなぞるだけのようなので、文字の勉強をかねて聞いていた。

 

「リィン、授業大丈夫?」

「うん!ありがとうハンナ」

 

 隣でサポートしてくれたハンナにお礼を言って文字を写す。

 羊皮紙書きにくい。

 

 授業で一生懸命なクィレル先生を邪魔することはあるまい。

 

 私は文字の書き取りで時間を過ごしていた。

 

 

 

 

 

 みんながぞろぞろと席を立っていく中、私は教科書をゆっくり閉じて、教壇の方を見た。

 

 先生はほっとした顔をして荷物をまとめており、ターバンがさっきより斜めになってる。やっぱり重そうだな。

 

 私はハンナに『少し質問があるから先に行ってて』といい、ペットであるグリムと共に先生の机の前に立った。

 

「先生」

 

「ひゃっ……あっ、ミ、Ms.アズ、アズカバンで、でしたね……ど、どうかされましたか?」

「少しだけ、お話いいですか?」

 

 先生の顔から一瞬、なにかの色が抜けた気がした。

 でも、逃げるように断るわけでもなく、小さくうなずいた。

 

 私の血筋を知っているのだろうか、過剰すぎるほど怯えている。

 

 私は教科書を両手で抱えたまま、ゆっくりと質問する。

 

「先生、授業とはひとつかみほど関係ぞなきかもしれませんが……ひとつ、質問者良きですか?」

「は、はい……ど、どうぞ……」

 

 声が裏返りながらも、先生は頷いてみせた。

 ターバンが、その拍子に少し傾く。

 

「闇の魔法使いって、どの様なる人のことを言うですか?」

 

 先生が一瞬、言葉を失ったように固まる。

 

「闇の魔術を使用すたら誰でも闇の魔法使いになるんですか?それとも、何か……境界線のようなるものぞ存在すてるで、すか?」

 

 私の言葉に、先生の手が机の端をぎゅっと握った。

 

「そ、それは……ええと……」

 

 そもそも闇の魔法という定義でさえ曖昧な気がする。本を読んでるわけでも無いから実際の厳密な線引きがどうなのか分からないけどね。私は闇の帝王の娘ってだけで闇の魔法を多分使ったことは無いと思う。

 

 沈黙。

 

 クィレル先生は、ただ目を伏せて黙っていた。

 

 教室の中にはもう誰もいなくて、外の廊下のざわめきも遠い。

 静かすぎるその空間の中で、先生の呼吸だけがかすかに聞こえていた。

 

「すみませぬ、困らせますたね」

「──人です!」

 

 クィレル先生は少し叫び気味に言った。

 

「ふつうの……わ、わるい人なら、ひっ、酷いって思える。でも……、『正義感を持った悪人』は、そっ、それを悪だと思わなくって、で、そ、それを使う人は……ま、まわりに気づかれずに……たくさんのものを、こわしていって……」

 

 吃りすぎていて上手く聞き取れない。

 方向性が違うけど私の言語みたいだね、クソッタレ。

 

「ひ、人の善悪を、気持ちで、はん、判断するのは難しい……!だっ、だから凶悪性の高い、ま、魔法の使用者を闇の魔法使いと、いいます!その、本人のえっと、そ、っ素質は」

 

 えーっと。つまり彼の言いたいことは。人の定義づけが難しいから魔法によって区別されていると。だから──例外もある。

 

 闇の魔法を使っても闇の魔法族だと認識されない者も、闇の魔法を使わずに闇の魔法族だと認識されることもありよりのありでありおりはべりいまそかりってわけね。つーんだ!

 

「例えばですけど、もし先生が授業のいっかんとすて使用すれば許すされると」

「そ、そう……です……」

 

 私は少しだけ考えてから、うなずいた。

 

「ありがとうございます、先生」

 

 そこには、皮肉でも試すような気持ちでもなく、ただ、素直な礼だった。抜け道に使えるかもしれないな……。

 いや、厳密なルールが無さすぎて『闇の帝王の娘』デバフで悪い方向に進みそう。

 

「先生は、闇の魔法使用すたことあるですか?」

「ッ……な、ないですッ!ななな、ないですとも!!」

 

 ふぅん。使ったことある、もしくは使われたことがある人の感想だと思ったんだけど。

 このビビリ具合は使えそうだ。

 

 

 

 

 

「お前とクィレルの会話、傍から聞いても暗号に聞こえる」

「何故」

 

 グリム談。

 

 

 

 ==========

 

 

 芝生がやたら広い。

 空がやたら青い。

 そしてほうきが、やたら並んでいる。

 

 日は変わって、今日の授業は飛行訓練。

 マダム・フーチ先生という厳しい見た目をした先生が『魔法よりも先に空を知れ!』みたいな顔で私たちを見回していた。

 さっきまで微笑んでいたのに、笛を吹いた瞬間、体育会系になった。変身魔法でも使ったのかと思ってびっくりしたよ。

 

 グリフィンドールとスリザリンの授業では色々トラブルがあったと聞いていたけど、私的には起こって欲しく無いな。

 

「箒の右に立ちなさい」

 

 言われたとおりに立つと、足元のほうきがじっと私を見ている気がした。

 目があるわけじゃないけど、『やぁ!君、飛べるタイプ?』聞かれている気がした。

 なんというか第一印象から期待されている。

 

 私とグリムは共依存で、離れた瞬間の不安感と焦燥感がすごい。

 私はそれと同じ気持ちを何故か箒に抱いていた。ダメだ、手から離れたら。

 

「いいですか、来いと言えば箒が飛んできます」

 

 フーチ先生の言葉に従うように私は手を伸ばした。

 

「……来──」

 

 バシュンッ!

 

「──い?」

 

 

 手に、ピタリと吸い付くほうき。完璧すぎて、逆に怖い。

 

 は、早かったなぁ。来るの。

 

 私の命令が言いきらない内に動くあたり、たぶん前世で知り合いだった気がする。私の馬だったとか、ベッドだったとか。

 

 

「え、見た?あの反応速度」

「選ばれし……なんとかの子?」

「箒の神に愛された少女だ……」

 

 謎の称号がついている。

 ふふん、良きにはからえ。

 

「いやむしろ解き放たれたアズカバンの亡霊だろ」

「確かに」

「そこぉ!」

 

 悪口に敏感に反応したら噂していたレイブンクローの男子2人が飛び上がった。

 

「では、またがって地面から軽く浮きなさい!」

 

 フーチ先生の言葉に私はすとんとほうきに乗り、ちょっとだけ蹴ってみた。

 すると、ふわっと身体が浮いた。

 

 まるで、空に吸い込まれるようだった。

 

 軽い。

 重力って何だっけ、と一瞬本気で考える。

 あ、これ、私このまま火星に行けるんじゃない? ってちょっと思った。火星がどこか知らないけど。

 

「フーチ先生、少しだけ低空飛行すても良きですか?」

「…………まぁ、良いでしょう。あくまでも低空飛行ですよ?」

「はーい!」

 

 たしかグリフィンドールの生徒が間違えて高く飛んで落ちちゃったんだっけ?

 噂で聞いた感じだけど。後でハリーかドラコに確認しよ。

 

「ちょ、リィン、もう飛んでる!」

「早い早い! まだ説明終わってないのに飛んじゃだめって書いてないけど!?」

「すごいっていうか……なんかズルくない!?」

「私、まだ心の準備ができてない……!」

「私はお尻の準備ができてない……!」

「ほら見ろよ、箒が地面と離れたがらないんだ。俺は浮かんでるのに」

「立ってるだけだろ」

 

 下ではにぎやかな叫び声が飛び交っていたけど、私は気持ちよく空をひと回りしていた。

 風がローブの下をくすぐって、髪がふわりと舞い上がる。

 

「やっぱ君、前世からの仲ぞり?」

 

 地上より、自分にフィットしてる。

 私、たぶん空の方が地元だと思う。というか箒とマブダチがすぎる。

 

 視界の端で、マダム・フーチ先生がじっと私を見ていた。

 ちょっとだけ口元が『おぉ』って動いてた。先生、あなた、今、感動してましたよね。

 

 私はお礼も兼ねて空中で小さく一礼してみた。

 

「うわ、今の見た?礼した!」

「誰に!?空に!?風に!?」

「もう、あの子は……ほうきの貴族だ……」

 

 神から貴族まで下げられたな。

 

 すれすれ低空滑走。少しスピードを上げて飛んだ。右回り、左回り。回転。

 

 ほうきが風を切るたびに、心臓がトクン、と軽く跳ねる。

 風が冷たい?アズカバンではなぁ!今日は風と友達です。明日は敵かもしれないけど。

 

「アズカバン、そろそろ戻ってきなさい!」

 

 地上に着地するとグリムはキラキラと目を輝かせていた。

 私の足元に擦り寄って、尻尾で丸を描いていた。よくできた犬です(仮)。クィディッチの選手だったんだっけ?

 

 

「アズカバン、貴女に言うことはありません。他の生徒の補助に入ってもらえますか?」

「はーい」

 

 今日は飛び上がりと着地を繰り返すのだろう。みな震えた足で箒に跨り、1センチ程度浮かんでいる。

 

「プリチーガールリィンちゃんの助けほしき人ー!」

「はいはいはいはい!」

「アズカバンなんて物騒な名前だなんて思ってごめん!めっちゃ助けて!」

 

 やだ、私って人気者。

 箒歴1分だけどコツは掴めたから教えていこうと思う。

 

「うわわっ!」

 

 ある程度様子をみていると、ふいにレイブンクローの男子がバランスを崩し、盛大にくるくると回転した。

 

「着陸っ、着陸しろ〜〜!!」

「た、たすけて、僕は大地を求めてる!地上が恋しくなってる!あわわ!」

「誰か! フーチ先生呼んで来て!!」

 

 そんな叫びの中、私はふわりと回り込み、滑らかに彼の箒を掴んで軌道修正した。

 

「大丈夫ぞり?」

「うっっっっ、掴まれたのは箒じゃなくて心臓で舌をこれ、僕の推し箒用研磨剤です、よければ……」

「いらぬです」

「いらぬって言われた……好き……崇めよ」

 

 なんか新興宗教始まった?

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