ハロウィンは私にとって運命が変わった日でもあった。
エクスペクトパトローナムの練習は、箒の『成功体験』のおかげか白いモヤだけが見え始めた。曰く、ほぼ魔法としては出来上がっているとの事。威力は無いけど。
セブさんに試しに使えるところを見せて欲しいとねだったところ、多分内心不服だったのかワンテンポ遅れて見せてくれた。こいつ、機嫌分かりやすいな。
彼のエクスペクトパトローナムはとても参考になり、白いモヤは動物の形を取るのが正解らしい。雌鹿が飛び跳ねた姿は幻想的で美しかった。
ちなみにグリムがすっごい微妙な顔をしていたので、後ほど理由を問うと『あれ、リリーと同じ守護霊。』素で『きっっっっしょ!』って声が出ました。きしょいよ。
純愛にも程があるけど、一途すぎて引いちゃった。あくまでもほら、リリー・エバンズって生きてるから。死んだ初恋の人を想う、ならまだ美談だったかもしれない。うーん、キツイかな。
そんなエクスペクトパトローナムの練習はさておき、ハロウィンだ。
「んうーーー!」
私は人の視線なんて気にせずほっぺたいっぱいにハロウィンスイーツたちを食べていた。
「やぁリィン」
「むっ、む、っ、り、っ!」
「ゆっくり食べてていいよ」
私の目の前にセドリックが現れた。ハンナもセドリックも世話焼きなので助かっている。
「この前、家から絵本を送ってもらったんだ。イラストと文字が書いてあるものだけど、文字と単語の練習にはちょうどいいだろう?」
「……!」
「あ、分かりやすいくらい目が輝いてるね」
ある程度読めるようになったら単語帳とか欲しいなって思ってるんだよね。まずは文字になれなきゃ、教科書丸暗記してそのまま書き写すだけじゃちょっとね。
「今日はなんの授業をしていたんだい?」
「っ!……んぐ、ぷはっ!うぃんがーであみゅ、れびおさー」
「おや、発音が上手く出来てないね」
「でもねセドリック、この子一発合格」
「…………ほんと?」
私、ドヤ顔である。
セドリックは神妙な顔をして顎に手を当てていた。
どうしたのかな?その気持ちを込めて首を傾げてみれば、無事伝わったのかセドリックが答えてくれた。
「いや、魔法って杖の動きや発音も入るんだよね。だから練習が必要だし、咄嗟に出来るように体に染み込ませるんだ」
「うん」
「でも、発音が上手くいかないリィンが一番最初に出来たってことは、発音自体に直接な関係は無いのかな」
「んー、否定」
私はその考えに否定をした。
「発音は、大事です。言葉に魔力ぞ籠る。言霊があるです。魔法使いの願いは、言葉のとおりになる。魔法使いでなくとも……」
多分。願いが魔法使いに取って1番大事になってくるのだろう。
「えっとですね、私、セドリックの言うこと、正解と思うです」
「僕の言うこと?」
「杖も、発音も。それは『型枠』なのです。故に、子供の頃の魔力暴走で魔法は使えるけれど──不安定」
セドリックの考え込む仕草を見ながら、私は拙いながらもさらに言葉を繋げた。
「魔法って、多分本来とってもあやふやで、破壊しやすくて、暴れやすいものと思考すてます。発音っていうのは、それをちゃんと『枠』に入れるためのものなのだと」
私は、私自身が『枠』だった。染み込んだように魔法が使える。でもきっと、熟練の魔法使いにしか出来ないのだろう。
それは進化であり、発展だ。
「故に、私の魔法は在り来りなことばで言うすれば『運』です。暴走ぞすなかった、崩れなかった偶然の一回」
ほんの少しの嘘を混ぜて説明をすればセドリックは納得したのか頷いた。
「曖昧な言葉で命令すれば、魔法も曖昧にしか動いてくれない。だから、正しく伝えるために、正しい発音が必要。……それが出来て初めて、安定した魔法になる。そういうことだね?」
「と、思うです!」
だから発音も杖も矯正具なのだ。
魔法族は魔法を学んでから『道具を手放す』という行動をしてないだけで。
「それにほら」
私はにっこり笑った。
「私の言葉、上手く伝わらぬでしょう?発音って、大事!」
少し茶化してみれば、ハッフルパフ生は笑った。アーニーやジャスティンなんかは真顔で頷いてて、なんか無性に腹立っちゃったな。
「……どうしよう」
小さく、近くで座っていたロンが真っ青になっていた。
「……ロン?どうしたです?」
「リィン。あの、僕、ハーマイオニーに酷いこと言っちゃったんだ」
「あ、喧嘩?中?」
「うん……」
そばにいたハリーに何があったのか聞いてみれば、呪文学の授業中ロンの発音を教えていたハーマイオニーにロンが怒って酷いことを言ってしまって、ハーマイオニーはそれから姿を見せてないんだとの事だった。
「ハーミー、多分ですけど。すっごく正しき人だと思うです」
「……知ってる」
「でも、彼女も発音を間違えるすてる人です」
「え?でもハーマイオニーは完璧にできてたけど」
「教える仕方が割と上方から来るしませぬ?言う内容が正しくとも、ロンみたいな愚直一直線のスポンジ吸収どストレート的存在には 柔らかくビブラートに包むすなければならぬというのに」
「??」
「……?」
ふぅ、やれやれ、と肩を竦めているとハリーが少し呆れた顔で言った。
「あのね、リィンが言ってるのは『発音』じゃなくて『言い方』だと思う。あと、君が言うな」
「なん、ですと……!?」
言い方を間違える人だって。
教え方が結構上から目線に聞こえちゃうから、ロンみたいに嫌味とかで遊べないお子ちゃま精神な人にはオブラートに包んだような物言いで言わないといけないじゃん。
そこんとこ、ハーミーがしくった場所だよね。
正論は力強い言葉だし正義になりうるけれど、強いだけじゃ弱い人はにとっては加害にもなりかねないんだから。
「……ハーマイオニーの言い方は腹立ったけど、理解できない言語よりはマシかな」
「ロンー!?」
ポコポコと殴った。
「ハーマイオニーに謝ってくる」
「頑張るすて!」
「ありがとう」
「ちなみにハーミー、何処?」
「え、トイレだったと思ってるけど」
「……ハーミーの性別は?」
「…………女子」
「……。」
「……リィンさん」
「はい、何事ですか」
「……一緒に着いてきてください」
うむ、よきにはからえ。
女子トイレは流石にハリーもロンも入れないよね。
「ハンナ、私、ハーミーのとこ、行ってく──」
ザワザワと楽しそうな雰囲気の中、大広間に乱入者があった。紫色のターバンの姿は遠目から見てもクィレル先生だと言うのが分かる。
ただ、ローブは乱れ、顔面は蒼白だった。
「ト、トロールが……校内に……!」
重苦しい沈黙。
数秒後、悲鳴が上がった。生徒たちのどよめきが、大広間を呑み込んだ。
ダンブルドアがすぐに動き、全校生徒を寮へ戻すよう命じる声が響く。教師たちも各々の持ち場へ散っていった。私たちも監督生に動かされ、大広間を後にする軍団に混ざろうとして。
「……ハーマイオニー!」
ハリーの声で、私は我に返る。
そうだ。ハーミーは、まだ大広間にいないから知らない。
「……まだ、女子トイレに……!」
ロンが顔を歪める。
えーん、トロールになんて会いたくないよォ。
と、言うわけで私は『先生に言おう!』と提案をしようとハリー達に口を開いた。
「リィン行こう!」
「なん、なにゆえ私も!?」
「さっき行くっていってたよね!?」
「それとこれとは話題が別名なのではなきですか!」
「シー!」
ハリーに手を引かれて強引に大広間を抜け出す方向になってしまった。クソッタレ、流石は英雄様だな。(嫌味)
大広間の入り口で倒れたクィレル先生の横を通り抜けようとした時。
──〝行くな〟
しわがれたような赤子のような、懐かしいような聞き覚えがないような。とにかく、声が聞こえた。
私は立ち止まる。振り返ったけれど、誰も私たちを見ていない。
「リィン?」
ハリーが不安そうに呼びかけた。
「……なんでもなきです」
首を振る。私の中で、声の意味が曖昧にぼやけていく。誰かが言ったのか、何かが響いたのか。ただの幻聴か。考える余裕はなかったし霧のように薄れて行った。
廊下を駆け抜け、目的のトイレが見えてきた頃、走り慣れていない体は疲労困憊だった。
くっそ、体力つけなきゃ。
「げほっ、グリム!」
グリムなら先に行ってくれるはず。その気持ちを込めて名前を叫べば、心得たとばかりに先行した。
「リィン、大丈夫!?」
「う、んっ!」
全然大丈夫じゃないです!
「バウ!バウ!」
目的の女子トイレに入ったグリムが、中にいるであろうハーマイオニーに向かって大きな声で吠えている。
「ぜぇ……ぜぇ……」
子供の体力ってこわぁ。
息を整え、ロン達が『ハーマイオニー!トロールが来てるんだ!ごめん、僕、君に酷いことを』って警告と謝罪をしている。あの、先に逃げませんか。
私なんだかとっても嫌な予感がしてるんですよ。
「ギャンッ!」
グリムが鼻を押えて悲鳴のように鳴いた。
「ハリー、ロン、それにリィンも!ごめんなさい、私意地張って……」
「──来た!!」
彼女の様子を確認するより先に、私にも鼻につく悪臭がわかった為大声を出す。
ずるずる引き摺る音。灰色の肌に、ヨダレまみれの顔は十悪で、まかり間違っても『可愛い』なんて感想が出てこない。
「逃げろ!」
切羽詰まった悲鳴に近い言葉が背後から聞こえる。
そうなんです、私、トイレには最後尾でたどり着いたんです。
つまり、トイレにたどり着いたトロールに一番近いのが誰かと言うと──。
「リィン!避けて」
「〝プロテゴ!〟」
既に覚えていた魔法を使って咄嗟に防ぐ。杖は、持ってないけど誤魔化す!
集中を切らしたらこん棒で殴られる。それが分かっているから、緊迫して汗が流れた。どうしよう、どうしよう。
アバダ?クルーシオ?インペリオ?ダメだ、そんな1発アウトを使ったら私の『生き延びる』って生涯目標から遠ざかる。いやでも、今ここで死んだら意味が無い。
かと言って後ろの彼らはまだまともに実践的な魔法を使えないだろうから、守るなら、やるなら私しかない。私が守らなきゃいけない。
グリムに杖を渡して人になってもらう?
だめだ、『私がグリムがシリウスだと知ってる』ことがバレてしまう。
「あぐ、あぐあめ!〝アグアメンティ〟!」
水がトロールに降り注ぐけれど、ブレブレのせいなのか耐性があるのか効いてるように思えない。
どうしたらいい。
トロールは横殴りの攻撃に入ろうとした。
「っ、プロテ……しゃがむすて!」
「きゃあ!!!」
発動が間に合わなくて咄嗟にしゃがんだ。延長線上にあったトイレがバキバキと砕けていく。
うえーーん!ハードモードすぎよォ!
助けて。助けてよ。パパ。
「リィン、これを」
父は私の首にペンダントをかけた。そして蛇語で語りかけてくる。
『何かあれば蛇語でセブルスと叫ぶんだ。一瞬にしてやって来る。俺様は表に出にくいからな』
走馬燈のようなものだったかもしれないけど、思い出した。
「私には──奴隷ぞ存在するんだった!」
「ごめんなんて?」
『セブルス!!!!』
蛇語でシャーと泣きわめけば、私の目の前に真っ黒なコウモリみたいな男が突如現れた。
「!!???」
「セブー!!」
私はその背中に思いっきりしがみついた。
「トロール!トロール!後ろハリー!」
状況が理解出来ておらず、白黒していたがセブさんは簡単に攻撃を防いだあと、呪文を振るった。
「〝
血飛沫。
見えない鎌のような攻撃がトロールを襲った。
涙でぼやけていたけれど、倒れる異形を前になんて事ない顔をしたセブさんの余裕の表情が見えた。
「たす、かった?」
「スネイプ先生……どこから……」
「うっうっ、うわぁぁぁぁあ!死ぬすたかと思うすたー!」
ガチ泣きのギャン泣きでセブさんに引っ掴みに行けば、セブさんは立場上私を払い除けられずに固まった。
怖かった。まじで怖かった。
セブさん呼び出せる道具持ってて本当に良かった。
「ひ、リ……Ms.アズカバン」
「怖、怖か、た!怖かった!怖き、うええぇえぇん!ありがとう、ありがとうごじゃります、ううう、怖きで、必死で、悪意も存在せぬで、怖っ、ええぇぇん!!」
涙腺壊れちゃったのか、味方が現れたことに安心したのか。私は思いっきりぐちゃぐちゃに穴という穴から液体を垂れ流して真っ黒い服にしがみついた。
バランスを崩したセブさんが尻もちをついたが、そんなこと知ったことか。めちゃくちゃに張り付いて鼻水つけてやる。
「ぼ、僕……」
ハリーの震えた声が聞こえる。
「僕も、リィンが、防いでくれなきゃ、なんも出来なくて、見てるだけしか」
「うっ、ううう……」
「スネイプ先生……っ、きて、くれ、て、ありがとうございます」
私の泣き声に引っ張られたのか、グリフィンドールの三人組も喉がぎゅっと狭まった声を出し始めた。
「ま、待て。我輩は」
「「「うわぁぁぁぁあん!怖かったぁあ!」」」
「うぐっ!」
3人追加入ります。
子供とはいえ、合計4人に張り付かれたセブさんは他の先生が来るまで動けなくなっていたのだった。トロールの屍のそばで。