転生した。
その意識はじわじわと実感する。
そして目を覚ましたのだが、私の目の前に鼻のない『the悪役』って顔した男が私を見ていた。
………まぁ、叫ぶよね。
「ぴぎゃぁああああ!?」
赤ん坊特有の甲高い声の喉の焼けそうな痛みがあるので確実に私の声だった。一気に実感した。
目の前の男はぎょっと目を見開いてオロオロしだし、私を抱えたまま誰かの名前を呼び出す。
なるほど、自分より混乱している人間が身近にいると冷静になれるな。
そんなことを考えて周囲を確認して見る。
埃まみれの健康に悪そうな屋敷、湿度の高い空気、薄ぼんやりとした光、蛇。
「びいいいいッ!?」
大の大人でも丸呑みできそうな大きさの蛇が『待って、待って』と言いながら私を抱いた男の後ろを付いて…───ん?
冷静になれるとか言ったな、あれは嘘だ。
パニックになった。
「せ、せせ、セブルスーー!」
『待ってってば!』
は、鼻無しさんは何よりもまず先に蛇ーーッ!
==========
1週間。順番に次々訪れるヒキニートの様な人達に頭を下げられて鼻無しさんがドヤ顔をする日々が続く。私は限られた範囲の中で死ぬ気で言語を覚えるはめになった。
理由?何が何だか分からない上にこの世界があまりにもファンタジー過ぎると分かったからだ。
まず私の名前はリィン。家名は正直良く分からない。父親の家名が分からないんだから仕方ないかとは思うけどね。
そして鼻無しさん。やはりというかなんというか父親だった。
感覚的に名前は恐らく『ワガキミ』というらしいが、本当かどうか分からない。だってこの人『やみのていおう』とか『ごしゅじんさま』とか言われてるもん!名前どんだけあるんだ!畜生!
そして誰もいない事を確認すると毎日毎日『パパでちゅよ〜可愛いでちゅね〜』などと言ってくる。内容は知らない。他人の目を気にしてるということは普段の態度と違うという事だろう。
言葉に関しては少しずつ根気強く言葉を覚えていく他ないだろうな……。
死ぬ気で言語を学ぶ事になった最大の要因。
それは周囲の人間がそれぞれ杖を持ち出して振り回すのだ。なんか物浮くし、私浮くし、ご飯作れるし、なにそれやべぇ便利じゃん。
それを教えてもらいたい。時空の狭間で自称堕天使が言っていた事がこの事なのか良く分からないので。後、寝るのが暇すぎて苦痛。
興味を示して杖に向かって手を伸ばしてみたが蛇に止められた。蛇の言葉は何故か分かる。でも、父と私以外分からないらしい。
『だめよリィンちゃん。貴女にはまだ早いわ』
『ナギニ、魔法に興味があるのはいい事じゃないか。我が娘多分天才』
『そうね…──食べちゃいたいくらい』
親バカだなー、とか。魔法なのかー、とか。蛇話だと言葉が分かるなー、とか。そんな事を気にするより前に蛇のナギニさんの発言が怖くて堪らなかった。
冗談に聞こえないので勘弁してください。
まぁこの発言のお陰で何故か蛇語がわかるということが判明したので知識はナギニさんから得ることにした。
「なぁさ」
「ッ!喋った、我が子喋った!初めて喋った!」
『ハイハイ喋ったわね。聞こえているから主は落ち着きなさいよ』
「なぁさー」
「せ、セブルスーー!!」
『困ったらセブルス呼ぶの止めなさい』
父親の言葉の意味は分からなかったがナギニさんの返事で大体の意味が分かる。
とりあえずセブルスさんという方は大変だな。
そんなこんなでいつも通り勉強している今日このごろ。私は父の言っていた言葉の意味や世界の仕組みについて勉強していた。
「なぁさ」
『なぁにリィンちゃん』
「〝ハゲル〟の、いみは、何ぞ」
『…髪の毛が抜ける事よ』
なるほど、ハゲか。
「…もろもろぞ?」
『元々ね』
私の父親よく「可愛すぎて禿げる」と言いますが元から髪の毛は絶望的です。
「なぁさ、きょーじゅねー」
『きょーじゅねー?』
『…色々なこと教えてください』
『なるほど』
ナギニさんは色々なことを知っている。でも蛇だから人間の言葉は喋れない。でも人語は理解出来るみたいだ。
元々人間だったのに蛇になったみたいだ。感覚的にそう思うだけどから実際は有り得ないだろうけど……有り得ないよね、流石に。こんなファンタジーな世界でも流石に……有り得そう。
とにかく、私が疑問に思った単語やセリフを蛇語に訳して貰って意味を理解するという方法で言語を学んでいる。父親には内緒だ。
ナギニさんがお気に入りだ、と父親も周囲も思ってくれているので沢山お勉強出来る。
『闇の魔法使いや魔女の中でもヴォルデモート卿の我が主に賛同する人々を死喰い人というの』
「やにゅの、まおつかい」
『リィンちゃんは魔女ね』
「マヨ。さんどー、とは?」
『純血主義でマグル出身者を排除する、って思想の事ね。生粋の魔法使いしか認めないって事』
「まぐまぐ」
『マグル? 魔法が使えない人間の事よ』
ナギニさんまじで有能。舌っ足らずどころじゃない私の言葉を理解してくれる。
シューシュー言うだけの蛇語なら間違い無く喋れるんだけど、下手に自我がある分聞き取りが出来ても喋る事が苦手だ。
この世界には二種類の人間がいる。魔法が使える魔法族と使えないマグル。
生粋の魔法族やマグルとのハーフなどとその中でも様々に分かれているらしい。
生粋の魔法使いの家系を『純血』
純血とマグルのハーフを『半純血』
マグル出身の魔法使いを『穢れた血』
魔法の使えない魔法族を『スクイブ』
「うみゅん…」
差別社会だ。しかも父親は純血至上主義。
確定じゃないが恐らく私も純血だろう。純血主義を掲げる選民思考の人達にペコペコ頭を下げられていたら父がヤベーヤツって事は分かる。
まぁ生まれからヒエラルキーの頂点(属性:闇)ならある程度自由は効くのか?
父親は一体何者なんだよ。
「おるー…なにゅやつ…」
『我が主が何者か、って?』
ナギニさん。なんで分かるんや。
『主は闇の帝王。最も邪悪な魔法使いよ』
「じゃーきゅー」
『あと色々な魔法を開発する研究者でもあるわ』
ということは総合して父親はテロリストのボスって事で、周囲にいる人間は同じ様なヤベー考えを持っていて、テロリスト集団。
あっ、これ終わった。
間違いなく地獄の扉だ。自由は消えた。胃がとても痛いです。
「我が娘よ」
「ひぎゃぁあああ!?」
バチンッ、と突然出てきた父親に思わず恐怖を覚える。いきなり現れるのは心臓に悪い上に、顔面が見せちゃいけないレベルの有様だから少しこっちの事を考えて欲しい!
その瞬間移動はどうしたの!?魔法!?
「紹介したい男がいる」
「んぱぁ」
「ッ!!!ハァイパパですよ!」
「………何をしてらっしゃるんですか我が君」
扉を開けて呆然としているハゲ予備軍の貴族様が父に言葉をかけた。
それを聞いた父は私を抱き上げ睨みつけてた。
「極普通のことだ」
「……」
『何言ってんだこいつ』みたいな顔してるから父は喋らない方がいいと思う。
「リィン、こいつはルシウス・マルフォイだ」
「え、我が君怖くない…なんで…?」
ナギニさんに教わってない言葉の意味は分からないが、全部覚えておく。後で聞こう。
「……初めまして」
おーっと、その顔は『なんで赤ん坊に自己紹介なんかしなくちゃいけないんだ』的な顔だなー?
「あい」
「見たかルシウス、俺様の娘可愛すぎだろ」
「……………やみのていおうとは」
あっ、今の言葉は意味が分かったぞ。
帝王っぽくは無いよね。
ルシウスさん、という人が遠い目で明後日の方向を向く。
そうだね、入った瞬間ビクリと肩を震わせていたということはルシウスさんは父に恐怖心に似た感情を抱いていたのに。
威厳、どこいった。
『それで主、ルシウス呼んでどうしたの?』
『親族になるから教えておこうかとな』
『あぁ…』
ナギニさんがナイス過ぎる。片目でパチンとウィンクする蛇にキュンとするとは思わなかった。
「るぅーさ」
「えっ、わ、私の事か!?」
「るぅーさぁ」
『分かるのかしら、リィンちゃんの母親がルシウスの妹だって』
わぁお、伯父さんでしたか。
ジロジロ見てみると、ルシウスさんはドヤ顔した闇の帝王(笑)にチラチラ視線を寄越しながら後退した生え際付近にジワリと汗をかいている。
ブロンドの金髪はサラサラしていて、私も金髪なので血筋はこっちからかと思っている。だってほら、父はハゲじゃん?毛とか、分からないよ。
ルシウスさん、めちゃくちゃ困惑している。
私が生まれる前の帝王の姿を聞いてみたかったが仕方ない。
……意思疎通が出来ないの不便だな。
「るぅーさぁ」
「は、はい」
手を伸ばせば父に伺いを立て恐る恐る抱き上げた。ふむ、なかなか悪くない抱き心地だ。
ルシウスさんは父に聞こえない様な小さな声で呟いた。
「………息子の方が可愛いな」
私には聞こえてるんですけどなーーーー!?
一人称視点なので情報が正しく伝わらないという。
今作の主人公リィン
例のあの人の娘、つまりラスボスの娘、原作主人公の敵の娘。どっちみち立場がやばいので胃を痛める。
ナギニ
蛇。ヴォルデモートの…保護者的な立場に立ってしまっている。
ヴォルデモート
『我が君』とか『闇の帝王』とか言われている原作ラスボス。魂分けるて不老不死になろうとか思っている頭おかしい人。
ルシウス・マルフォイ
リィンの親戚でどうやらリィンと同じ年の息子がいる様子だフォイ。
母親(オリジナル)
ルシウスの妹。病弱で作者の中では早々にぽっくり逝った感じ。
評価お気に入り、そして感想。ありがとうございます予感はしてた畜生。
まだ物語全然始まってないのでしおりでもポチーと挟んでおいて下さいな。気に入ったら是非是非上記の3つを!