3度目の人生は魔法世界で   作:恋音

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第25話 虜

 

 私は、鏡に通い始めた。

 ハリーと待ち合わせをし、ハリーのマントにもぐりこみ、一緒にいってもらった。

 

 心配そうなグリムの様子はあったが、ハリーがいる手前連れて行けないため部屋に置いて行った。きっとダンブルドアへの報告は済ませているのだろう。

 

「あの、誘っておいてなんだけど」

「何、ハリー」

「……あまりのめり込むのは良くないと思うんだよね」

 

 警告もわかる。

 私はほぼ毎晩、あの夜から鏡に通っているから。

 

 付き合わされるハリーには申し訳ないけれど、私は魅了されていった。

 

「警告ぞありがとうですハリー。でも、自覚はしてるぞり」

 

 自覚があるからまだセーフ。自覚があるからまだセーフ。

 

「この鏡、僕いいことだと思っていたけど、悪い予感がするんだ。途中で先生に見つかったらどうする?それに僕、とっても寝不足だ」

「それは……あー、ごめん」

 

 送り迎えをしてくれているから、ハリーはスリザリンの寮までわざわざ来てくれている。

 毎晩グリフィンドールからスリザリンに来て、スリザリンから鏡にきて、スリザリンまで送り届けたあとグリフィンドールにもどる。

 

 私のために手間をかけさせて申し訳ない。

 

「女の子が一人で行くよりいいんだけど」

 

 グリムがいたらうるささに拍車がかかってたかな。私だけでよかった。

 

「……今日も海?」

「今日は、桜?」

「sakuraって何?」

「何って言われても、ピンクでふわふわした花が咲いた木、かな」

「ふぅん…?」

 

 鏡の中では今日も私が空を飛んでいた。

 崖から流れる滝、一面にチラチラ舞う桜の花びらに、遠くに見える海。

 視界いっぱいのピンクが、くすんだ鏡越しに見える。

 

「綺麗だなぁ」

 

 見てみたいなぁ。

 

「そんなに綺麗なんだ。僕には見えないよ」

「おそらく人によって見る物が違うと思うです。何に影響ぞすてるのか、と言うと。きっと心ですぞ」

 

「──然り」

 

 私がこの鏡の予想をすれば、部屋の隅から声が聞こえた。

 スっと肝が冷えていく。

 

 この声を、私は1人しか知らない。

 

「ハリー、いや、この場合はリィンかの。また来たのかい?」

 

 振り返れば壁際の机にダンブルドアガ腰掛けていた。入口から見れば気付いていたはずなのに、気付かず通り過ぎてしまっていた…?

 いや、そんなことはない。いくら鏡に行きたくても、私の性格上周囲に気を配って進むし、もちろん誰もいないことを確認してから部屋に入った。

 

「ダンブルドア先生!ぼ、僕、気が付きませんでした」

「透明になると、不思議に随分近眼になるんじゃのぉ」

 

 微笑むダンブルドアにハリーはほっとして居るようだった。

 

 ──そんなわけがあるか!

 

 絶対、ダンブルドアは気付かれない様に魔法を使っていた。私が気付かないわけがない。

 

 どうする、罠だ、これは私を嵌めるために仕組まれていた? ハリーは違う、でも利用された、ダンブルドアに証拠を何かしら握られて──。

 

「リィン」

「っ」

「そう、警戒するでないよ。わしは忠告をしに来ただけじゃ」

「忠告……」

 

 すっと頭が冷静になっていく。

 そうだよ。グリム──シリウスならダンブルドアに報告したはず。だから、私はダンブルドアなら来るはずと予測出来ているはずだったのに。

 

「あぁ……………」

 

 やっっっちゃった。

 完全に頭アッパラパーになってた!!!

 

「あ、リィンが頭抱えちゃった」

「うむ、見事なまでに抱えておるよ」

「うぎゅ………っ」

 

 胃が痛くなってきた。

 こっっっっわ、視野の狭さ。

 

「何百人も、お主らと同じようにこのみぞの鏡の虜になった」

「みぞの鏡って名前だったんですか」

「この鏡が何をしてくれるのか、それはリィンが言っていたことがほとんど正解なんじゃよ」

 

 私はうずくまっていた顔を上げ、ダンブルドアを見上げた。

 

「欲している、多分心の奥深き望みを、見せる鏡?」

「大正解じゃ。この世で1番幸せな人には普通の鏡になる。鏡は1番強い望みを見せるのでな、それが現実で可能か不可能かは関係ない。知識や真実を写すためのものでもない。この鏡に映る姿に魅入られ、発狂するものは、多い」

 

 現実で可能か不可能かは関係ない。

 その言葉にずきりと思わず胸が痛くなった。

 

 視線を地面に落として傷と埃だらけの床を見る。

 

「……そん、な」

 

 ただ海を、広い世界を見たい。

 自由に。

 

 …っ、自由になりたい。

 

 現実を見てしまえば見るほどにその望みが些細な癖にだいそれたことのように思えてくる。

 

「この鏡は明日よそに移す。もうこの鏡を探してはいかぬよ。夢に耽ったり、生きることを忘れてしまうのは良くない。それを覚えておきなさい。それから──」

「では! っ、では、ダンブルドア校長先生」

 

 私は彼の目を見た。アイスブルーの瞳を。

 

「私は夢を、見てはならぬですか!?」

 

 生まれてきたことが罪だというなら、夢を見るのすら烏滸がましいと。そう言いたいのだろうか。

 

 私はただ、自由に生きてみたいだけなのに。

 

「っ、私、私は、明るくって、それで、普通の」

「リィン……」

「普通の女の子に、なる、すたいのに」

 

 鏡の中に生きていた私みたいに、ただ自由に空を飛び回って海を見て色々なところに行ってみたい。

 悔しい、なんて私の手足には枷があるんだろう。なんで普通の家に生まれなかったんだろう。

 普通の家に生まれたとしても、生まれなかったとしても。私はなんの罪も犯していないのに。

 

 なんで世界は私を罪だと言うのだろう。

 

「──話を遮るでないよリィン」

「ダンブルドア先生!それは、あんまりじゃないですか!」

「良いか二人とも。忘れてはならぬことがある。今逆境に立っていて、苦しい人生を送り、為さねばならぬことがあるとしても。……夢は自らの手で掴み取り叶えるものじゃよ」

 

 え…?

 

 私が顔を上げれば、ダンブルドアは微笑んでいた。

 

「叶えるために夢はあるんじゃ。ゆめゆめ忘れるでないよ」

 

 私は、夢を、叶えてもいい……?

 

「さぁ、その素敵なマントで今日はお帰り。ハリー、手間をかけさせるが、女の子をきちんと送り届けるんじゃよ」

 

 ハリーは快く頷いて私の手を引こうとする。

 私は少し躊躇って、出ていく最中振り返った。

 

 

「ダンブルドア校長先生は、一体その鏡から何が見えるですか?」

「うむ?それはウールの靴下……いや」

 

 少し考えたあと、ダンブルドアは苦笑いを浮かべた。

 

「家族じゃよ」

 

 あぁ、この人も家族を失っているただの人だったんだ。

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