第6話 「死にたくない」「死なせない」
本名はトム・マールヴォロ・リドル
現在、闇の帝王ヴォルデモート。
マグルを異様に嫌い、英国魔法界を恐怖と混乱に陥れた男。目的の為ならなんでも利用し、他人の力を借りることを嫌う。異様なまでに力に飢え酷く差別的な思想を持っている。選民思想という考えが顕著に出ている者だっただろう。
愛を知らず、愛を恐れた、それが彼だった。
彼には妻がいる。いや、居たといった方が正しい。その妻というのは名ばかりだ、ただ血筋を残すためだけの道具。
マルフォイ家長女。かのルシウス・マルフォイの妹であり、深窓の令嬢と謳われる女性だ。
ヴォルデモートはそれでも興味を抱くことはなかった。
近親婚約もあって彼らには子供が生まれた。ただ、自分の血筋を残すためだけの道具が。
彼の妻は産後簡単に死を迎えた。
脆い、脆すぎる。自分以外の人間とはこんなにも脆いものだったのか。ヴォルデモートはそう考えた。
最後の望みということもあり、
たったそれだけた事で彼が変わるとは誰も知らなかったし分からなかっただろう。
「柔らかい」
ぽつりと呟いた言葉は誰にも聞こえなかった。
腕の中でゆっくりと眠っている子供にも聞こえてなかったようだ。
すやすやと小さな寝息を立て、眠る我が子。
彼の心の中にある温かいものに気づいた。
これはなんだ。分からない、知らない。
顔は自然と険しくなる。自分の知らない何かと葛藤していると、子供が目を覚ました。真っ黒な瞳がキラキラと輝いてヴォルデモートの目線と交わった。
……そして泣かれた。
小さな温もりに触れた時2人の間には微かな愛が生まれる。
予想外の日々が続いた。ヴォルデモートは小さな子供の虜になった
初めての子供というのは、こういうものなのだろう、親が患う典型的な病気。
『親バカ化』
側近であったベラトリックス・レストレンジはその豹変ぷりに頭を悩ませ1度倒れた。
子供の名前はリィン。
『生まれ変わっても思い出せるほど幸せな記憶と感情に溢れた人生になりますように』と願いを込めてつけられた幸せの名前だ。それが本人にとって呪いとも知らずに。
そこはいいだろう、どうせ本人が何とかする。
闇の帝王ヴォルデモートは口の中で飴玉を転がす子供のように何度も復唱する。ようやく名前を呼べた時、彼女はふわりと笑った。
『ぬぁ』
とくり、と心臓が音を鳴らす事に、その温もりに魅了されていく。どんどんどんどん深くまで。
その感情は親として至って当たり前の感情だったが、ヴォルデモートは知らなかった。酷く困惑した。
1度彼女と離れようとお世話係をつけた。嫉妬した。……これもまた初めての感情だった。
ヴォルデモートは生きたいと思い始めた。
離れたくない。離れがたい。死にこんなにも恐怖したのは初めてだった。
ヴォルデモートは日常を楽しんだ。パーセルタングを操れると知り自分第一な男は自分の事のように喜んだ。
子煩悩などではないと口で言いながらも子煩悩同士口論を繰り広げた。
部下とも言い難い奴らを相手に威厳を振り回すも子供部屋へ1歩入れば側近がまたかという顔をするほどの豹変っぷりだった。
……眠りから覚める瞬間に立ち会うと必ず泣き叫ばれることに酷いショックを受けていたが。
たった数ヶ月、されど数ヶ月。その多忙さ故時折顔を見せることが叶わなかったが、普段やることを削ってまで会う時間を作り出した。それは己の周りに与える恐怖がなしえた無茶だろう。
彼にとっては『異常』な日々であったが、普通の人間であれば『日常』の日々だ。
ある時親は初めて子の眠る時を眺めた。日中唐突に引き起こった魔法の開花、それにより魔力が暴走する危険性もあったからだ。それは非常に危険なもので、子供の、しかも赤ん坊の体にかかる負荷は想像を絶する。
そしてその感情が生まれたのは唐突なことだった。……気付いたという方が正しいか。
ベットの中で眠る我が子。涎を垂らして間抜けな顔で警戒心や畏怖や怯えなど欠片も見当たらない。父親という立場で手に入れた無条件の信頼。
「愛してる」
自然と言葉が零れ落ちた。
嗚呼そうだ、愛しているんだ。少し力を入れれば壊してしまうような、こんなか細い命が愛しくてたまらない。
愛を知らなかった、生まれてずっと愛を知らなかった。他人よりも優位に立とうと模索することしかしてこなかった。
ヴォルデモートはほんの少し眠りから覚めた子を抱きしめて何度も何度も同じ想いを呟く。
雨のような涙がポツリポツリと子供の顔を濡らす。感情が溢れてくる。知らない、知らなかった、やっと知れた。
望まれなかった存在は初めて他人を望む。
嫌われていた存在は初めて愛を知る。
大事な者を壊す存在は初めて守ると誓う。
───やっと
子供の1歳の誕生日を数ヶ月過ぎたハロウィンの日、リィンに魔法を教えだしてちょうど1年。
ヴォルデモートは忠実な部下であるセブルス・スネイプと娘の世話係であるピーター・ペティグリューの話を聞いてしまった。
「なんだって!?スニベルス、ご主人様が倒される予言の存在知ったの!?」
「声が大きいぞピーター・ペティグリュー!予言があったのは具体的に分からないが……姫君が生まれる前後だ」
「どこで手に入れたの!?な、な、内容は?」
「ええい、やかましいッ!吾輩はダンブルドアに対しスパイで教師をしていると言っただろう!」
セブルスが語る内容は要約すると『7月の終わりに闇の帝王を倒す男が、帝王に3度抗った両親の元に生まれてくる』ということ。
この予言が過去にされたということはもう生まれている。
そして、この2人にはその人物に心当たりがあった。
「ね、ねェセブルス…」
「……貴様に名前を呼ばれることは不愉快だが恐らく思っていることは同意する」
「やっぱりそれって……」
「ああ、ポッターの。いや、リリーの息子の事であろ──」
ガタンと扉が開く音がした。そこに立っていたのはヴォルデモート、話題の主だった。
セブルスとピーターは顔色を途端に変える。セブルスはリリーの事が大切で、ピーターはジェームズの親友だ。
聞かれるには余りにも不都合な話題。
「それは真か」
死にたくない。そう願ったヴォルデモートは過去の残虐な、人々に恐れられる闇の帝王の顔をしていた。
「……真かと聞いているッ!」
「ま、真の話です…!」
誤魔化すことなど出来やしない。
そうそう察したセブルスは慌てて答える。
まずい、このままでは非常にまずい。
それはヴォルデモートもセブルスもピーターも3人が思ったことだった。
姫君が悲しみます、などという説得が効くはずもない。いや、聞こえないだろう。
「そうか……。ピーターよ、貴様は確かポッターを知っていたな?」
ヴォルデモートが聞くとピーターはビクリと肩を震わせた。
魔力による無意識の威圧が彼を襲う。
ここに、リィンがいなくて良かった。恐怖で竦んで今後に影響を及ぼすかもしれなかった。
ピーターは現実逃避の一環としてそんなことを考える。昔なら自分の身の安全を優先して考えただろうにと心の中でため息を吐く。
「……ッ、知っています。けど、どこにいるか」
「〝
許されざる呪文であろうと、ヴォルデモートは恐れない。もっとも恐れるのは死ぬこと。娘を残して、死ぬことだ。
「言え、ポッターはどこにいる」
ヴォルデモートは少なくとも1年間ピーターを近くで見てきた。娘の世話係を任せなければきっと分からなかっただろう。
嘘をついている。
元々表情に出やすいピーターだからこそ簡単に分かってしまう。
「──……──…─」
「チッ、貴様が秘密の守人か。ならば自主的に話してもらう他あるまい」
秘密の守人と忠誠の術の力を用いて秘密を守ることになった者。守人に秘密を教えた者はその情報を口にすることは出来ず、守人のみが情報を口頭や筆記で他者に伝える事が出来る。
しかし魔法で口を割らせる事が出来ない。
だが秘密を手に入れる為に。その裏を返せば『秘密の守人の口さえ割ればいい』のだ。
魔法を使わなくても吐かせる方法はいくらでもある。
予言など知らない。
その存在など…──消してしまえば解決する。
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セブルス・スネイプは急いで話した。
相手はアルバス・ダンブルドア。ホグワーツ魔法魔術学校の校長であり、国際魔法使い連盟議長、ウィゼンガモット主席魔法戦士、マーリン勲章勲一等、最高大魔法使い。まぁなんにせよ色々凄い人間だ。
「このままではリリーが…!」
「落ち着くのじゃセブルス。第一秘密の守人でポッター夫妻の居場所は守られてお──」
「──ピーター・ペティグリューでしょう!」
吐き捨てるように言えば、ダンブルドアの瞳は大きく見開かれる。
「どこで、それを……」
──ゴドリックの谷。
ピーターの反応してしまった単語とダンブルドアの反応が全ての答えだった。
1981年10月31日。空に浮かぶ三日月がうっすらと光を放っている。
それは、これから先の未来を映し出したような月だった。
「セブルス、リリーを助けたいか」
「当然だとも……!」
「例え危険だとしても、どんな辛い孤独でも、どんなことでもやる気はあるか」
「何事であろうとも」
──間に合ってくれ、ペティグリュー
例え卑怯者だと罵られようとも。
なんでもしよう。
それがリリーを助けることに繋がるのなら。
……後にこの誓いがセブルスという男を苦しめる事態を招く事になるとは誰も分からなかった。
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ピーター・ペティグリューは走った。
予言があったのはハリーが産まれる前から知っていた。
秘密の守人を立てなくてはならない。その時に選ばれたのがピーター・ペティグリューだったので、姿くらましや姿現しができない結界を貼っている事を知っていた。
間に合え、間に合え。
ピーターにとってジェームズは親友で、闇陣営に屈した時から罪悪感は募っていた。
だからといって、死んで欲しいわけじゃ無い。
「お?ピーター?お前もジェームズの所に悪戯しに行くのか?」
声をかけられてビクリと焦る。ビビり癖は治ってない様だ。
彼が振り返るとその場に立っていたのはシリウス・ブラック。学生時代、共に学舎で過ごしていた仲間だった。
「ッ、シリウス…!」
「どうしたんだよそんなに焦って、あ、日付か」
アイツは多少遅れてもやらない方が拗ねるから焦るなよ、などとシリウスは笑う。
ピーターは愛想笑いも返せなかった。
「ごめん急ぐから」
言い訳など考えている暇さえもったいない。
そう思い背を向けるとその手をシリウスが心配そうな顔をして掴む。
「お前倒れそうな感じなんだけど…」
「──離してッ!」
自分でも思っていたより大きな声が出たことに驚いてか、お互い目を白黒させる。
「どうしたんだよワームテール、お前変だぞ」
「早く行かないと…! ジェームズが!」
口走った言葉にハッとなって口を塞ぐ。
シリウスは異常な様子と『ジェームズ』という単語に眉を顰める。
「どういう事だよ…ジェームズに何があ──」
その時だった。女性特有の甲高い叫び声が2人の耳に入った。叫んだ言葉は親友の名前。
聞き覚えのある声だ。
「リリーの声!?」
スッ、と走った光。その色は普通に過ごしていたら見ることの無い魔法の色、緑。
魔法族の中で『緑の光』と言えば十中八九『死の呪い』の認識だろう。
「あ、ああ……あぁ……ジェームズ…リリー…」
脱力感に襲われピーターは膝から崩れ落ちる。
シリウスは状況が掴めないながらもピーターの胸ぐらを掴んで問い詰めた。
「どういう事だよ! 一体何があったんだ!」
「なんで…邪魔したんだよ……」
「おいピーター!」
「……ここに居たら殺される…ご主人様に…」
「ご? 何言ってんだ! 答えろよ!」
その場には大きな光が生み出された。
『自爆呪文』
肉を切らせて骨を断つ戦法で、ピーターがリィンに付き合って居たら生み出された失敗作だ。
身体の1部を犠牲に、周囲にいる生き物を例外なく破壊する。
死の呪いよりリスクが高いのに、殺傷力は比べるまでもなく低い。だがこの場では『痛み分け』としてちょうど良かった。
三日月が照らしたその場には、気を失ったシリウスとピーターの小指だけが残されていた。
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「殺せない」
男は呟いた。
母親と子供を目の前にして呟いた。
「無理だ、無理だ、無理だ!」
自分の子と同じくらいの子。子を想う親。
その
「貴方…、今なんて」
「──そこまでだ」
男の背後で杖を突きつけた父親が居た。
「……気絶したのでは無かったのか」
「残念だけど防がせて貰った。杖無しって結構難しいね、死の呪文じゃなくて心から良かったよ」
「フッ、流石はポッターの血筋、か」
ハシバミ色の視線と緑色の視線が男を見る。
母親も男に杖を突きつけた。
「引いて」
「リリー!?」
「ここから引いて」
男は目を見開く。
「無理だ、俺様は、子供を殺さねばならん」
「引いて、私は貴方を殺せない。そして貴方も私達を殺せない」
「……侮辱したつもりか」
「したつもりなんてないわ。多分貴方、私達と同じね」
死と同じ色の瞳は臆すること無く男に注がれる。母親という存在とはこんなにも強いものだったのか。
「…………殺さなければならない」
「避けてリリー。僕が殺る」
「〝アバダ・ケタブラ〟」
「──ジェームズッ!」
どちらが発した言葉か。
少なくとも世界から男が姿を消した。
男が与える事になる『自らに比肩する証』を
真っ黒な男の下に轢かれていたのは気を失った父親だと言うことに気付かないまま。
本来、男の子に与える筈だった魂の欠片は一体どこに行ったのか。──それは災厄だけが知っている。
魔法界は混乱と喜びに満ち溢れた。闇の魔法使いの一斉投獄、闇の帝王の滅亡。闇の帝王を打ち破った『生き残った一家』は混乱が収まるまで、子供が成長するまで隠れ住むと決めたらしいが、親友であったシリウス・ブラックの裏切りが堪えたのだろうと言う話だ。
それでも賑わう。
だが、誰一人として闇の帝王の名は言わなかった。
日刊新聞に常に乗るニュースに一部の人間はため息を吐く。やつはまだ死んでいない。そして一斉投獄に含まれていた闇の帝王の娘がどのような混乱を巻き起こすのか。──魔法界の未来はまだ見えない。
ヴォルデモート…(世界の認識的には)死んだ。死の呪いを浴びても元々魂分けてるから死なないし実は
セブルス・スネイプ…ダブルスパイの始まりです。
ピーター・ペティグリュー…動物生活の始まりです。
シリウス・ブラック…目撃証言でポッター夫妻を助けようとするピーターを阻止し、殺した事から投獄生活の始まりです。
ポッター夫妻…マグル生活の始まりです。
ハリー・ポッター…物語の始まりです。
一応主人公「遺憾の意」