暗殺教室~28人の暗殺者と1人の戦争屋~ 作:BIGBOSS0514
五時間目の最中、職員室には、体操服から着替えたイリーナ、烏間先生、俺、そして千賀がいた。
・・・なんというか、空気が重い。
まぁ、面子が面子だからそれも仕方ないか。
なんせ現役の軍人三人(そのうち一人未成年)と殺し屋一人がいる状況なのだから。
「そうか、イリーナ先生と千賀先生は面識があったのか」
以外にも、自分のデスクで仕事をしていた烏間先生が口を開く。
「ああ、そうだ。イリーナと会ったのは東欧のスラム街だ。十年以上前だったかな・・・俺がまだ自衛隊に在籍していたころでなー」
千賀がそこまで言うと、イリーナの方をちらっと見る。
イリーナは千賀を少し睨みつけたが、少し間をおいて頷いた。
「当時、俺は自衛隊の立てた拠点で現地住民やスラム街の住民の診察や手当をしていた。その地域では政府軍と反政府軍による内戦の真っただ中でな。近くの街中で戦闘になることもしばしばあって、その度に住民達が巻き添えを食らってテントに運ばれてきたさ。その中の一人だったのが・・・イリーナだった」
ここまで聞いて俺は、イリーナ先生がとんでもなく壮絶な人生を歩んできたということを知り、さっきは強く言い過ぎたと後悔した。
今度は、イリーナ先生が自ら語りだす。
「私は・・・戦争孤児だったの。政府側だった両親は私の目の前で反政府軍の人間に・・・私も殺されそうになって・・・それで父親の銃を手にして・・・殺した。その後、どうしたかは私も覚えていない。気が付いたら、自衛隊のテントにいて・・・その時に千賀と会ったの・・・」
先程までパソコンに向かっていた烏間先生も手を止め、黙ってイリーナ先生の話に耳を傾けている。
「千賀は・・・身寄りのない私を自分の娘のように育ててくれた。けど、私の頭から・・・戦争の記憶が離れることはなかった・・・目を見開いて死んだ両親の死体と床に広がる血の池・・・私が撃った銃の冷たさ・・・私はずっと怯えていた」
そこまで話すと、イリーナ先生は一つ、大きなため息をついた。
「その事を見抜いていた千賀が、ある日、私をある人に会わせてくれたの。それが私の”暗殺者”としての師匠・・・ロヴロ先生だった。千賀とロヴロ先生は私に”死”に怯えて生きるのではなく、”死”を飼いならすという道を与えてくれた。だから、今の私がある・・・ロヴロ先生にも、千賀・・・アンタにも感謝してるわ。だから、この暗殺を成功させて、恩返しがしたかったの・・・まぁ、まさかその相手がここにいるとは思わなかったけどね」
イリーナ先生は自虐的な笑みを浮かべる。
「イリーナ先生」
俺の呼びかけにイリーナ先生が俺の方へ振り返る。
「先程は、先生の事も知らずに失礼な発言を・・・すいません」
俺はイリーナ先生に深々と頭を下げた。
「・・・いいわ。アンタなら」
イリーナ先生は俺を許してくれた。
「そういえばイリーナ、さっきこっちに来るときに隼人から聞いたが、他の生徒達と上手くいってないみたいだな~」
千賀はニヤニヤしながら言う。
「ゲホッ!?」
唐突の千賀の問いかけに、丁度お茶を口に含んだところだったイリーナ先生は咽せてしまった。
「何よ!?せっかくいいムードになりそうだったのに!」
(・・・イリーナ先生もこの重い空気苦手だよね)
「まぁ、ただ俺も隼人と言うことは一緒だ。暗殺を続けてあのタコにさっきの借りを返したいならまず謝ってこい。うちのクラスでは、お前が暗殺で色んな人間を演じるように、彼らも生徒と暗殺者をきちんと両立している。普通そんなことできるガキなんていないさ。俺も、教師と暗殺者としてここにいるからみんなに授業は教えているが、みんな良い生徒だ」
イリーナ先生は黙って千賀の話を聞いている。
「それにイリーナ、この仕事はお前にとっても学ぶことが多い」
「・・・何を学ぶっていうの?」
「それはやっていくうちに分かるさ。だから、彼らと仲直りした上で、お前が磨いてきた英語のスキルを彼らに教えてやってはくれないか?」
少し沈黙の後、
「分かったわ、アンタが言うなら・・・」
「じゃあ、イリーナ先生行きましょうか」
「え!?ちょっと待って隼人!まだ心の準備が・・・」
「はいはいそういうのイイですから、みんな待ってますよ~」
子供みたいに抵抗するイリーナを俺は親のように引きずって教室へと向かった。
教室の前に来たと同時にチャイムが鳴った。殺せんせーが出てきた。
俺らを見て、何をするかは察したらしい。
俺はイリーナを教室に放り込んで、教室の扉を閉めた。
「なっ!?私一人で!?アンタいてくれないの?」
「お前のしたことになんでおれもいなきゃいけねぇんだよ、一人でやれ」
そう突き放してやると、隣で殺せんせーがそれでよかったとでも言いたげに僕に頷いた。
すると、イリーナも諦めたのか、教壇に立って・・・黒板に何か書き始めた。
みんなも、イリーナ先生に注目する。
「You are incredible in bed.Repeat!」
みんな突然の事に困惑するが、イリーナ先生の有無を言わさぬ口調にみんなも繰り返す。
(・・・中坊に何てこと教えてんだ)
英語がわかる俺は頭を抱えた。
「アメリカでとあるVIPを暗殺した時、まずそいつのボディーガードに色仕掛けで接近したわ。その時彼が私に言った言葉よ。意味は・・・『ベッドでの君は・・・凄いよ』」
何人かが顔を赤くするのが見えたが、イリーナ先生は構わず続ける。
「外国語を短い時間で習得するには、その国の恋人を手っ取り早いとよく言われるわ。相手の気持ちをよく知りたいから、必死で言葉を理解しようとするのね。私は仕事上必要な時、そのやり方で新たな言語を身につけてきた。だから、私の授業では外国人の口説き方を教えてあげる。プロの暗殺者直伝の仲良くなる会話のコツ。身につければ実際に外国人と会った時に必ず役に立つわ。受験に必要な勉強なんてあのタコに教わりなさい。私が教えてあげられるのはあくまで実践的な会話術だけ。もし、それでもアンタ達が私を先生と思えなかったら、その時は暗殺を諦めて出ていくわ。・・・それなら文句ないでしょ?あと、悪かったわよ・・・色々」
一時の沈黙の後、みんなは笑いだした。
「何ビクビクしてんのさ~さっきまで殺すとか言ってたくせに」
「なんか、普通に先生になっちゃったな」
「もうビッチ姉さんなんて呼べないね~」
「考えてみれば先生に失礼な呼び方だったよね!」
「うん、呼び方変えないとね!」
どうやら、みんな受け入れてくれたようだ。
イリーナ先生も嬉しかったのか若干涙目になっている。
「じゃあビッチ先生で」
前原の一言にイリーナが凍り付く。
教室の外で俺は思わず吹いてしまった。
「えっと・・・折角だからビッチから離れてみない?ほら、気安くファーストネームで呼んでくれて構わないー」
「でもな~すっかりビッチで固定されちゃったし」
「え゛!?」
「うん!イリーナ先生よりビッチ先生の方がしっくりくるよー!」
「そんなわけで、よろしく~ビッチ先生!」
「よろしくな~ビッチ先生!」
「キーッ!!!!やっぱり嫌いよアンタ達!!!!!」
なんだかんだで上手く馴染めたようだ。
「すっかり馴染んでますねぇ」
殺せんせーが俺に言う。
「ま、まぁ、一応な」
「やはり皆さんには生の外国人と会話させてあげたい。差し詰め、世界中を渡り歩いた殺し屋などは最適でしょう?」
「!?・・・まさか殺せんせーはそこまで見越して?」
「もちろんですよ、まさかイリーナ先生と千賀先生がお知り合いだとは知りませんでしたが」
そう言うと、殺せんせーは職員室へと戻っていった。
(・・・殺せんせーはどこまでも先生だな)
かくして、イリーナ先生はE組の先生になった。
「イリーナ、泊まるところないって?」
「え?ええ・・・まぁ」
「どうだ?ウチに来ないか?」
「はぁ!?なんでアンタんところに「嫌ならいいが」いや!お願いします!!」
「というわけで、イリーナは俺んところで生活することになったから」
「よろしくねぇ、隼人ぉ」
「・・・」
何とか終わりました。前回のカルマ渚の首傾げは次回回収します。